リスク・フォーカスレポート
店舗のロスと実態把握編(第1回)
みなさん、こんにちは。毎月第4週のリスクフォーカスレポートは、今回から「店舗のロスと実態把握編」をお届けしてまいります。
さて、小売り店舗と一言でいっても、ドラッグストア、家電量販店、スーパー、アパレル等、様々な業種や業態があり、どのような店舗でも、業績を上げるために、商品の売り上げを伸ばす努力をしています。しかし、売り上げを伸ばす努力をしても、一方でロスが発生していれば、思うように利益はあがりません。ましてや、原因が不明なロスであれば尚更でしょう。
一般的にいう「ロス」とは、帳簿上の在庫と実在庫の差であり、こうした差が発生する原因として、万引き、内部不正、商品減耗、オペレーションミス、旧態化したシステムや統一性のないシステムによる仕入れや返品のミス、等によって引き起こされています。
この一般的な定義に加え、本レポートでは、店舗内の運用体制や労務管理の問題もロスを誘発させる要因とし、実際の事象面と目には見えない問題から総合的にみた原因により、商品と人に係る経営上の損失を「ロス」と幅広く捉えます。さらに、こうしたロスの中には、ロスの原因がはっきりと分からない場合もあり、それを「不明ロス」と言いますが、ロスの原因について追及が甘く、原因を裏付ける理由がないまま、何かの原因に当てはめていたり、もしくは曖昧なままにしたりすることもあるのが現実です。
そのためロスが発生する原因には、金銭・現物・時間・人的・エネルギー・資源・スペース・環境・管理・ルール・効率等々、目に見える事象から、目に見えない運用上まで様々な要因があり、各種の原因によるロスを減少させるには、多角的な視点からロスの原因を抽出し、原因に沿った効果的な対策を講じる必要があります。
そこで、初回である今回は、小売り店舗で発生しているロスの損害状況について確認するとともに、万引きや盗難を中心としたロスの原因や、ロスの発生しやすい店舗の状況などを概観し、それらをふまえた店舗内のロス対策として「監査」(ここでは、社内・社外を問わず、業務実態を把握するための監査や実態調査・意識調査等を総称して「監査」と言います)を実施する重要性等について解説していきたいと思います。
そして第2回目以降は、ケーススタディとして、実際に監査を実施した店舗の事例をもとに、ロスが発生した原因解明から改善まで、実務に基づいた一連の流れについて検証したいと思います。
1. 店舗で発生しているロスの現状
小売業におけるロス対策および商品管理に関する世界的な調査の報告書『GRTB(Global Retail Theft Barometer)2013‐2014日本語版』では、万引き、従業員による盗難、サプライヤーによる不正、管理上のミス・犯罪以外の原因に帳簿上の在庫と実在庫の差が発生することをロスとし、世界24か国のロス率とロス総額を示している。
この報告書では、日本のロス率は世界で2番目に低く0.97%であったものの、ロスの総額は約9,984億円であり、アメリカ、中国に次いで世界で3番目に高い結果であった。また日本のロス率は、前年(1.00%)よりも低下はしているものの、世界的にもロスが低下しており、その要因として、ロス対策に重点が置かれた点が挙げられている。
本報告によれば、ロス率の改善がみられた国の多くは、ロス対策費用が増加していることがあわせて示されている。なお、日本の場合、ロスの原因は、多いものから万引き(47%)、管理上のミス/犯罪以外のロス(35.2%)、従業員による盗難(9.2%)といった順になっている。
こうした調査結果をみると、多くは、ロスの原因を万引きと認識し店舗の万引き対策として、商品への防犯タグ、出入り口の防犯ゲートの設置にコストをかける傾向にあることが推測される。しかし、注意しなければならない点として、店舗でロスが生じた際、原因が明確でないと万引きによる被害だと一律に認識されてしまう(誤って認識されている)ことが多い点が挙げられる。実際のところ、従業員による盗難(いわゆる「内引き」「内部不正」)の被害はもう少し多いのではないだろうか。あるいは、業種・業態によって、ロスの発生原因、構造は異なることも考えられるのではないだろうか。
また同報告書によると、ロス対策費用を含めた、犯罪対策に要するコストについて、日本では1兆5,199億円で、売上高に対する割合は1.47%となっている。これは、国民一人当たりの負担額に換算すると11,954円にもなる。こうしたコストは、一次的には店舗や企業にとっての負担となるものの、そのコストは値上げなど商品価格に転嫁され、最終的には一般消費者が負担していることになると考えられる。したがって、今後店舗においては、ロス対策の費用が消費者の負担となっていることをふまえ、価格競争力を維持しながらもコストの妥当性について説明責任を果たしていくために、犯罪対策についても出来るだけムダを排したコストのかけ方を検討しなければならないという難題を突き付けられていると言えよう。
▼株式会社チェックポイントシステムジャパン GRTB(Global Retail Theft Barometer)2013‐2014日本語版
2.店舗における万引きの現状とその被害
小売業におけるロスの原因としては、各種統計・データによれば、その大半は万引きが影響していると認められることから、万引き事犯の現状について確認しておきたい。
『犯罪統計資料(平成26年1~12月分【推定値】)』によると、平成26年の万引きの認知件数は、前年度よりも4.1%減の121,143件、検挙件数は3.5%減の86,784件であり、過去の統計資料をみても、万引きの認知件数は年々減少傾向にある。しかし、統計上に現れている件数は事件として把握されている件数だけであり、実際にはもっと多くの事件化されていない万引き事案が発生しているものと考えられる。
店舗における万引き被害件数を考えるならば、万引きが発生する1回の被害で発生する店舗にとってのロス金額も、店舗の業態、環境等によって大きな違いがあり、(少額のものを中心に)事件化されていないものも多く存在することが容易に推測できる。そのため、万引きの認知件数が減少傾向であるとしても、実際の被害件数また被害額は不明慮であり、また、万引きの被害単価が小さくても、頻度が高いのであれば、当然ロス対策は待ったなしである。
▼犯罪統計資料 警察庁刑事局捜査支援分析管理官 2015年2月5日公表
また、全国万引犯罪防止機構の『第10回 全国小売業万引被害実態調査』によると、平成26年に万引被害の多かった小売店を業種別にみると、有効回答441社の内、小売業界の平均件数が56件のところ、ホームセンター・カー用品(232件)、コンビニ・ミニスーパー(163件)、スーパー(112件)、ドラッグストア(60件)、などの業種が平均を上回る目立つ結果となっている。
店舗における不明ロス金額については、年間総売り上げに対する構成比(有効回答242社)から見てみると、多い順に、生鮮(3.57%)、ドラッグストア(0.98%)、服飾・服飾雑貨(0.93%)、書籍・文具(0.9%)、その他専門店(0.52%)、ホームセンター・カー用品(0.49%)などとなっている。また、不明ロス金額を、原因別の推定割合(有効回答274社の内)で見みると、万引き(56.5%)、管理誤り(29.7%)、不明(8.3%)、従業員窃盗(4.0%)、業者不正(0.7%)などの順であった(上位2つで86.2%を占めている)。
これらの実態調査の結果から、生鮮食品の鮮度という特殊要因は別にして、ホームセンターやカー用品店、またドラッグストアにおいては、他の業種よりも万引きよる被害件数が多いこと、また不明ロスの金額も高い(売上高に対する比率が高い)傾向にあることからみて、店舗のロスの原因として万引きが大きく影響している可能性が考えられる。ホームセンターやカー用品、ドラッグストアの一般的な特徴として、他業種よりも店舗の敷地が広い、商品の品数が多い、なかでも簡単に鞄や懐に入れてしまえるサイズの商品が多いことなどが挙げられる。
こうした特徴を持つ店舗において、実際に多額のロスが発生しており、直ちに対策を講じる必要があるが、その一つとして保安警備員の導入は有効な対策であると考えられる。本実態調査によると、万引き犯を確保した者は、業界全体では、保安警備員(82.9%)、従業員(15.1%)、その他(1.0%)、お客様(0.9%)、不明(0.1%)の順となっており、特にこの傾向は、ホームセンター・カー用品、スーパー、ドラッグストアの小売店舗で顕著になっている(もちろん、これらの業種・業態においては大規模な多店舗展開を行っているような企業が多く、ある程度、保安警備の導入が進んでいることも影響しているとも言える)。
店舗の敷地が広い、また商品の品数が多い店舗では、商品の陳列が複雑になる傾向もあり、眼が届きにくい部分があることから、従業員が業務中にそうした部分に意識を向け続けることは難しい。
その点、訓練の行き届いた保安警備員であれば、万引き犯の確保が専門であることとあわせ、万引きが生じやすい店内の状況、狙われやすい商品、さらに盗犯の行動パターン等を熟知している。そのため、店舗内における改善点を確認してもらい、万引き対策を講じるためのアドバイスを受けることもできる。なお、万引き等の盗難が発生しやすい店舗の環境としては、一般的に、店舗内の見通しが良くない、従業員等が店舗内を巡回してない、防犯カメラがない、といった特徴が挙げられ、こうした環境は、万引きだけでなく、従業員による内部不正や取引業者による不正等、他の犯罪を誘引する要因にもなり得る。また、店舗内の見通しが良くないことと関連して、商品の陳列状況が乱雑な環境は、商品の管理不備やお客様からのクレーム等にも繋がりやすく、管理上問題ある環境を放置したままの状況もまた、店舗で発生するロスに繋がっているともいえる。
▼特定非営利活動法人全国万引犯罪防止機構 第10回全国小売業万引被害実態調査分析報告書 2015年6月
3.店舗内で発生する盗難
これまでの実態調査の分析から、店舗で発生する不明ロスの原因として、万引き被害がかなり影響しているということがご理解いただけたと思う。しかし、店舗によって万引き被害と認識されているロスのなかには、実は従業員による不正が含まれている可能性があることにも注意が必要である。例えば、従業員が商品をレジへ通した様に見せかけておいて、実際にお客さんには商品を渡して、レジ金の着服を行ったとする。この場合、代金をレジ登録しないか、もしくはレジ登録をしても取り消す等して、現金を着服している可能性がある(現金を着服しても、理論上のレジ内金額と、実際のレジ内金額との差異や誤差は発生しない)。店舗責任者が従業員による不正の実態を確認(認識)しない限り、これらの不明ロスは万引きの被害によるロス額として計上されてしまうことになる。この場合、店舗責任者が従業員の不正に気付かない(気付くことが難しい)ことが問題であることから、万引きへの実務的な防止対策だけでなく、店舗の管理体制全般に目を向けないと、ロスの原因は全て万引きによる被害だと認識(誤認)してしまうのである。
店舗には、店舗責任者(社員)と、従業員(その多くはパートやアルバイトの非正規雇用者)がおり、多額の金銭を扱うのは店舗責任者であることから、「売上金」に絡む不正については店舗責任者の関与が多い傾向にある。一方、店舗従業員による不正は、金銭・物品の横領・着服など、いわゆる「使い込み」が多いと考えられる。レジ金の着服や、人気のない所での商品の盗難等、会社の資産の不正流用は、店舗内での金・モノの管理・運用の流れを把握して、そこに潜む抜け道を見つけ出せば、簡単にそれらの不正を実行できるのであり、そのような状況が放置されれば、アルバイトやパートでも雇用形態に関係なく「使い込み」が出来てしまうのである。
このような不正行為を放置する抜け道(メカニズム)の存在を正確に把握しないまま、万引きの対策をしたとしても、万引きを原因とするロスは減少するであろうが、他の原因によるロスを減らすのは難しいと思われる。また、従業員の不正によるロスの場合、店舗における商品仕入れの業務フローや売上金の動き・管理状況等を、従業員に正確に把握されてしまった上で、管理上の何らかの脆弱性(不備)を突かれた犯行となることが多いことから、ロス対策の一環として店舗内の業務運用体制全般の整備(その前提となる脆弱性の把握)にも意識を向ける必要がある。
(1)不正の兆候
店舗内の環境(店舗内の業務運用体制)を見直すに当たっては、まずは店舗で不正が発生しているのかどうか現状を確認すること、不正に繋がる原因や不正の手口を把握すること、それをふまえた対策(整備)を行うといった、順を追った対策(適切な実態把握に基づく対策の実施)が大切である。
そこでまず、一般的に、従業員による被害が発生しやすい店舗には、どのような特徴があるのか確認しておきたい。公表されている企業経営情報レポート「内部統制システムの確立で社内不正防止の仕組み作り」によれば、例えば、組織で不正が発生しているとき、典型的に目に見える事象として以下のような兆候や行為が表れる傾向にあるとされる。
- 従業員の入れ替わりが激しい
- 従業員のモラルが低い
- 修正仕訳を裏付ける書類がすぐに用意できない
- 顧客のクレームが増加する
- 産業全体の景気や会社の全体業績はよいのに利益は悪化傾向にある
- 重要な監査上の問題点が多数ある
- 棚卸資産の減耗について原因を確かめずに処理する
- サプライヤーに対する支払い裏付けに請求書の複製を用いる
- 単独の業者から調達している
こうした兆候は、店舗で不正が発生した場合にも、同様に見かけられる。例えば、モラルの低い従業員が、業務上、棚卸資産の減耗(不明ロス)について、その原因を深くは確認していないことを知り、商品の盗難や金銭の着服を行ったとする。不正を働いた従業員はその悪事がバレる前に退職することで、真相は闇の中に葬り去られ、店舗の側も真相を真剣に追求しないまま新しく従業員を雇うことになり、その結果として、「従業員の入れ替わりが激しい」という兆候が見られることになるのである。
上記の兆候が発生する共通項として、商品の仕入れや請求書類関係の管理を、店舗責任者が詳細に把握しておらず、他の従業員(場合によってはパートやアルバイト)に任せっきりにしている傾向があるという点もあげられる。この場合、責任者の怠慢により従業員の不正行為を放置している可能性や、管理自体を意図的に緩くすることで店舗責任者自身が不正行為を行っている可能性も考えられる。この点は店舗を管理すべき本部側の認識にも甘さがあるところであり、店舗内の実態については注意深く観察できておらず、管理状況を把握しきれていないのが実情ではないだろうか。いずれにせよ、本部側の管理体制のあり方や実際の教育内容、ロス防止の観点からの店舗内の業務運用体制が十分に整備されていないことが伺える。
(2)不正が発生しやすい店舗
ニュースで報道されている企業内の不正を見る限り、その多くは特別な犯罪傾向を持っている訳ではなく、ごく「普通の人」によって引き起こされていると言ってよいだろう。この「普通の人」によって引き起こされる不正の場合、本人に特別な犯罪特性があるというよりも、業務をする上での、職場で不正を働きやすい環境や、そうした環境が不正を働きやすい心理的な作用を働かせていると考えた方が妥当ではないだろうか。
公表されている企業経営情報レポート「健全な企業経営を確立する 社内不正防止体制の構築」では、不正行為を生みやすい業務特性について説明されている。まず、不正を生み出してしまう「着服しやすい」モノには、①簡単に懐に入れてしまえる、②金額が比較的少ない、③持ち主が不明(被害が見えにくい)、という共通項がある。また、人間が不正を働きやすい心理メカニズムとしては、従業員が不正行為をすることを容易に正当化できてしまう環境であり、外部からの抑止力が弱い状態だと指摘されている。つまり具体的には、④ルールが曖昧である、⑤見ている人がいない(という状況)、⑥後で発覚する可能性が低い(という状況)、⑦当事者に業務上で営業利益やノルマの達成など高い負荷がある(という状況)を挙げている。
このように、不正が発生するには、もちろん不正を働く従業員のモラルの低さ、また犯罪特性など個人的特性の問題を指摘できるが、それだけではなく、業務上での環境やそれに順じた心理的な働きによる影響もあるといえる。こうした業務特性をもとに、従業員による不正が発生しやすい店舗の状況を考察してみると、例として、以下のような場面が想定できる。
- バックヤードに置かれている商品が整理されていない、また段ボール箱に商品が乱雑に入れられている場合、商品がなくなっても気付かれ難いことから、軽い気持ちで商品を盗むことができる。
- 24時間営業の店舗では、必ず店舗責任者が不在になる時間があることから、その時間帯は監視者の眼が行き届かなくなる。
- 商品の棚卸を実施しても、その結果を従業員に伝えなかったり、もしくは棚卸の実施自体を従業員に伝えたりしないと、商品がなくなるということへの抵抗感が少なくなる、等。
こうした場面は、業種・業態や会社や店舗ごとのルールや社風、教育状況等によって異なると思うが、商品がなくなることへの抵抗感が少ないと、不正の誘発に繋がりやすいと考えられる。こうした問題を生じさせないためにも、従業員に対しては、定期的に教育を実施しておくことが必要である。商品がなくなるのは会社や店舗にとって深刻な事態であって、万引きや使い込みなど内部不正は犯罪であることを十分理解させ、会社や店舗は商品がなくなった原因や、原因が判明すればその被害回復を常に追及している姿勢を示すことが求められる。したがって、従業員による不正を防ぐためには、マニュアルやルールの策定とその周知徹底、不正対策に係る従業員の教育など、業務上における運用体制を強化させる取り組みを重視することが必要といえる。
(3)不正が発生しにくい体制作りのポイント
不正が発生している兆候、また不正が発生しやすい店舗には特徴があることから、不正が原因によるロスを発生させないためには、以下が重要なポイントとなる。
- 倉庫(外部倉庫含む)を定期的に視察する
- 実地棚卸を実施する
- 担当者を定期的に変更する
- 在庫集計手続きの担当者の業務を分担する
- 管理者による照合と承認を行う
- 棚卸品現物と棚卸表との直接的な連動性の確認手続を確立する
- 上司が確認し、承認する体制を作る
- 発注・研修の権限をきちんと分離する
- 単価のマスターの改訂にあたってはダブルチェックが行われる体制になっている 等
従業員による不正が発生した場合、持ち出しやすい商品や(失われたことが)バレ難い額の金銭を、少しずつ盗むことから、一回の犯行で生じる被害額は安価である(したがって、棚卸しのカウントミスなど何らかの誤差と認識しがちである)とも考えられる。しかし、犯行が繰り返し行われたり、また複数名の従業員が働きかけたりすることにより、不明なロス額は増加することになる。
また、犯行に及んだ従業員はバレる前に退職してしまう可能性があり、従業員の入れ替わりが早くなってしまうと従業員への教育も疎かになることから、店舗内の統制がより難しく、会社ルールに沿った業務運営体制作りもまた難しくなるともいえる。適切な業務運営体制作りやその運用が出来ていない店舗では、大なり小なり不正が発生しやすくなり、そうした店舗内の状況がロスに影響していくと考えられる。
≪参考文献≫
▼日本ビズアップ株式会社 企業経営情報レポート『 内部統制システムの確立で社内不正防止の仕組み作り』
4.店舗におけるリスク抽出の重要性
本レポートでは、ここまで店舗におけるロスの原因として、外部犯行者による万引きと、従業員による内部不正について説明してきた。こうした商品や金銭が奪われる被害が、ロスの一因ではあるが、ロスに繋がる要素はこれだけではない。その一例として、以下のような要因も挙げられる。
- 商品検査・商品管理
- 規程やルールの順守
- 店舗内の販売環境
- サービスの質
- 従業員の教育
消費期限や賞味期限切れの商品陳列、破損商品や汚損商品の取扱、メンテナンスの不備、等
企業全体の規程やルールの有無、店舗ルールの順守状況、等
商品の状況、商品の陳列や品出し、店舗内の危険箇所や禁止事項の掲示、等
接客態度、お客様への挨拶、クレームへの対応、等
レジ操作の教育、接客態度、社内ルールについての教育の未実施・不徹底、等
このように、店舗で発生するロスには、様々な要因が影響している。そのため、ロスを防ぐためには、既に指摘した通り、まず店舗内にある問題を知り、その原因を解明した上で対応策を速やかに打ち出すことが求められる。そして、店舗内にある問題を把握するためには、店舗内の状況を総合的にくまなくチェックするような「監査」を適宜実施していくことが望ましいと言える。
また、監査の後には、あらためて整備された店舗内の状況を高いレベルで維持していくため、再び店舗内の状況に不正を誘発するような問題が発生しないような抜本的な再発防止策についても検討すること、その再発防止策が適切に実施されているか、機能しているかなどを定期的に監査していくことも必要である。
広い店舗内や複雑なオペレーション等に潜む脆弱性をあぶり出すこと、また店舗がルール通りに運用されているか、問題が発生していないか等について継続的に管理していくことが必要になるため、店舗内の人員が自ら時間や労力をかけて実施することは難しいし、そもそもそれだけでは実効性を確保できないとも言える。監査を行うには、第三者である社内の専門部署や外部の第三者機関が実施することで、より客観的かつ効果的な監査が行えると言える。
いずれにせよ、これまで十分な成果をあげることができなかった店舗のロスを減らす取組みの第一歩としては、実態を正確に把握するための適切な監査を実施してみるのが効果的である。しかも、店舗内や社内という内部の眼ではなく、「外部の眼」を通した客観的な監査を実施することで、これまで目(眼)に見えなかったロスの原因が明らかになることが期待できるし、その結果、ムダのない、より効果的な対策が行える(それが、ロス対策にかけるコストについて説明責任を果たすことにもつながる)。また、監査を通じて、店舗側が認識していなかった構造的な脆弱性などの発見に繋がることも十分考えられ、問題が顕在化する前に、早期発見・未然防止といった潜在化しているリスクの抽出(あるいは、ミドルクライシスの抽出)にも繋がることが期待できる。
なお、当社では、11月から新しい監査サービス「ロス・マイニング・サービス」をリリースする。本サービスは、不正の手口を知り尽くした当社専門スタッフが、ロスの原因に係る要因について総合的な視点でリスク抽出・分析を行い、改善方法について提案していく。また、単なる監査だけにとどまらず、脆弱性を有する施設・構造上の課題の解決やルール等の策定の支援、従業員向けの教育、Webアンケート等を駆使した継続的なモニタリング、保安警備の実施など、監査結果に合わせたフォローアップも充実しているのが特徴だ。
次回は、実際に監査を実施した店舗の事例をもとに、ロス発生の原因から改善方法まで、実務的な視点から一連の流れをより具体的に検証したい。