SPNレポート

当社が2021年にインターネット上で行った、反社リスク対策に関する実態調査の結果レポートを公開いたします。

2021年5月、福岡県の暴力団関係事業者に対する指名停止措置等において、代表者が密接交際者であるとして社名公表された九州の事業者が、2週間後に倒産に追い込まれるという事例が発生しました。代表者の認識の甘さによるものですが、あらためて反社リスクの重大さを認識させられる事例だといえます。

調査では、反社排除に向けた内部統制システムの整備状況がまだ不十分であること、「反社会的勢力の定義」自体が明文化されていない企業が3割を占めること、反社チェックの対象を対象企業の現任役員まで広げている事業者は5割程度、主要株主や主要取引先まで拡大している事業者も3割程度に過ぎないことなど、企業の反社チェックの実態がいまだ不十分である実態が浮き彫りになりました。

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(1)反社会的勢力排除に向けた内部統制システムの整備状況はいまだ不十分

金融業では8割以上の企業が反社チェックに関する規程/マニュアル類の作成ができていますが、一般的に反社リスクが高いとされる建設業(60%)や不動産業(60%)、卸売り/小売業(61.4%)でおよそ6割、飲食業では44.5%程度でした。さらには従業員300人未満の中小企業では51.5%、100人未満の企業では42.9%と、取組みの遅れが顕著となっており、総じて、反社会的勢力排除に向けた内部統制システムの整備状況はいまだ不十分といえます。

反社チェックに関する規程/マニュアル類は策定していますか。(業種別)(n=612)

反社チェックに関する規程/マニュアル類は策定していますか。(企業特性別)(n=612)

反社チェックに関する規程/マニュアル類は策定していますか。(従業員数別)(n=612)

(2)反社会的勢力の定義を明文化していない企業が3割を占める

反社会的勢力の定義を明文化していない企業が3割を占めています。社内の認識が不統一であれば、その綻びから反社会的勢力が侵入するリスクは増大します。また、元暴力団員や「半グレ」の取扱いについても多様な状況が確認できました。反社リスク対策において、事業者の自立的・自律的な取組みが望ましいといえますが、一部の銀行を含めて反社会的勢力を限定的に捉えることは、反社リスク対策の実効性を著しく阻害することを厳しく認識する必要があります。

反社会的勢力の属性要件の範囲を会社としてどこまでと定めていますか。(複数回答可)(n=612)

(3)反社チェックに活用する情報については、「公助」「共助」「自助」を取り入れて工夫している状況を確認。業種によって活用する情報の選択が異なる傾向にあることも浮き彫りに

反社チェックに活用する情報については、「加盟している業界団体等から情報提供を受ける」53.4%、「警察から情報提供を受ける」45.3%、「暴力追放運動推進センターから情報提供を受ける」31.4%と、「公助」「共助」の活用が上位を占めている点が特徴的です。

一方で、「民間の調査会社(反社データベース提供会社)を利用する」31.2%、「無料のインターネット検索を利用する」30.2%、「民間の調査会社(上記以外の企業情報等提供会社)を利用する」21.4%、「自社のデータベースを利用する」22.4%、「有料のインターネット検索(新聞記事検索)を利用する」13.6%など、「共助」~「自助」の活用も一定数存在しており、情報入手経路が多様化している実態や、複数の手法を用いて情報を収集している実態もうかがえる状況です。

反社チェックはどのような情報を利用して行っていますか。(複数回答可)(n=612)

(4)反社チェックの対象範囲について、現任役員すべてにまで拡げている事業者は5割、主要株主や主要取引先まで拡大している事業者は3割程度。存在の不透明化が進む反社会的勢力の実態とのミスマッチが発生

反社チェックの対象範囲として、「会社名」「役員名」までは多くの企業が含めていることが確認できます。一方で、現任役員まで対象としているのは5割、主要株主や主要取引先まで対象としているのは3割弱となっていることも分かりました。反社会的勢力が不透明化の度合いを深める中、現行の反社チェックの対象範囲との間でミスマッチが発生しており、今のままでは反社会的勢力を捕捉することは難しいという厳しい現実が浮き彫りになったともいえます。

反社チェックの対象としてどのような範囲まで拡げて行っていますか。(複数回答可)(n=612)

業種別でも大きな傾向は同じですが、業種によってさまざまな特徴が見られます。例えば、銀行業においては、「現任役員すべて」まで含める事業者の割合は68.8%と他の業種よりも高いとはいえ、3分の1はそこまで調べていない実態があるといえます。また、不動産業では、「退任した役員」を含める割合がすべての業種の中で最も高い結果となりました(反社会的勢力の実態を知る現場の経験からチェック対象に含める実務が定着している可能性が示唆されます)。さらに、製造業では、「主要株主」を含める割合が、飲食業では「主要取引先」を含める割合が、それぞれすべての業種の中でも相対的に高くなっています。これらの特徴は、反社チェックの導入より前から実施していたと考えられる与信管理などを含む「取引先管理」のあり方が色濃く反映されているのではないかと推測されます。

反社チェックの対象としてどのような範囲まで拡げて行っていますか。(複数回答可)(業種別)(n=612)

従業員数別でみると、他の項目同様、300人以上と300人未満とで大きく異なる点が注目されます。300人未満の事業者では、すべてについて割合が相対的に低く、その数字の状況から「会社名」のみ、「代表者名」のみで反社チェックが実施されている事業者が多いことが推測されます。300人以上では逆のことがいえますが、企業規模により反社チェックの手法が異なること、中小規模の実務に課題があることが明確です。

反社チェックの対象としてどのような範囲まで拡げて行っていますか。(複数回答可)(従業員数別)(n=612)

(5)既存取引先の定期チェックについては、概ね7割程度はすでに実施している状況。一方で、疑わしい取引等を認知した際に速やかにチェックを行う仕組み等は十分に整っておらず、反社会的勢力のアプローチに対する認知や初動対応の遅れが懸念される

反社チェックの実施のタイミングについては、既存取引先に対するチェックのあり方がさまざまであることが確認できます。「概ね1年に1回」の定期チェックを実施している事業者が4割弱という点は心強く、「概ね2~3年に1回」とあわせれば、7割弱が何らかの形で定期チェックを実施しているといえ、新規取引開始時だけではない実務が定着しつつあることがうかがえます。一方で、端緒情報入手時などの不定期の実施については、それほど高くないことが明らかとなりました。定期チェックで後日認知することもできるとはいえ、端緒情報入手時などに速やかにチェックできる態勢を構築しておくことは、初動対応を速やかに行うためにも重要であり、今後の課題といえます。

反社チェックをどのようなタイミングで実施していますか。(複数回答可)(n=612)

(6)これまでに新規取引見合わせや既存取引先との関係解消など何らかの取引謝絶を行った企業は6割弱に及ぶ。ただし、金融事業者が8割に上る一方で飲食業は3割程度と、業種によってその水準にはバラつきがある

これまでに新規取引見合わせや既存取引先との関係解消など何らかの取引謝絶を行った企業は6割弱に及びました。ただし、金融事業者が8割に上る一方で飲食業は3割程度と、業種によってその水準にバラつきがあります。中小企業における取引謝絶の実務の遅れも明らかとなりました。全体としては、反社チェックの実効性が高い属性ほど取引謝絶を行った割合は高い傾向にあります。一方で、例えば、反社チェックにしっかり取り組めていない傾向が見てとれる不動産業においては、取引謝絶の経験の割合は75%にも上り、それだけ反社リスクの高い業種であることが推察される結果となりました。

これまで反社チェックで取引を見合わせた(取引を解消した)ことはありますか。(複数回答可)(n=612)

取引謝絶を経験したことがある割合(業種別)(n=612)

これまで反社チェックで取引を見合わせた(取引を解消した)ことはありますか。(複数回答可)(従業員数別)(n=612)

(7)反社リスク対策の全体的な課題としては、「社内で反社会的勢力排除の重要性や必要性に関する理解を得るのが難しい」、「反社会的勢力排除の意識の浸透やリスクセンスの醸成を図ることが難しい」、「実務に手間やコストがかかりすぎる」、反社会的勢力の範囲の不明確さ(どこまでが排除対象かが不明確)」、「反社会的勢力に関する情報収集(どこまで情報を収集すればよいかわからない)」などが上位となった。

上位5つについてはほとんど同じ割合で回答がありました。それ以外もやや割合は下がりますが、一定程度の割合で問題意識が指摘されています。

反社会的勢力排除の取組みにおける問題点としてどのようなことが挙げられますか。(複数回答可)(n=612)

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