SPNレポート
当社が2023年に行った、改正公益通報者保護法の指針に対する各社の整備状況の結果レポート(概要版)を公開いたします。
2004年の公益通報者保護法制定以来の抜本的な改革となった昨年の法改正では、内部通報に適切に対応するために必要な体制整備が義務付けられたほか、300人を超える従業員を雇用する事業者に対して「公益通報対応業務従事者」(以下、「従事者」)を指定することが義務化され、さらに従事者が正当な理由なく守秘義務に違反した場合、刑事罰(30万円以下の罰金)が科されることになり、その継続的な教育・研修の実施も求められています。今回の調査では従業員数が300人を超える企業323社を対象に、改正公益通報者保護法の指針に対する整備状況を調査しました。
主な調査結果・ポイント
- 2.5%の企業で内部通報窓口が未設置
- 約半数の企業が、退職1年以内の従業員(派遣社員含む)の内部通報窓口が未設置
- 約9%の企業で従事者指定が未実施
- 現在指定されている従事者の全体平均値は1000人当たり1.8人
- 約6%の企業が、内部通報窓口では代表取締役の不正は防げないと懸念
調査概要
- 調査期間:2023年2月2日~2月19日
- 調査方法:Webアンケート調査
- 調査対象:
- 当社SPクラブ会員企業及びメルマガ登録企業
- 当社リスクホットライン®導入企業担当者
- 東証上場企業&従業員1500人以上、企業純利益プラスの上位500社
- Web調査アンケートサービス(調査協力会社:株式会社マクロミル)
- 有効回答数:323サンプル
(※上記回答者から、従業員数300名以上の企業323社)
以下、調査結果主要項目を抜粋し紹介します。
調査結果
①2.5%の企業で内部通報窓口が未設置
2022年の法改正で、従業員数300人を超える事業者には、内部通報に適切に対応するための必要な体制の整備が義務付けられています。違反した場合は行政が助言・指導し、勧告に従わなければ公表される場合もあります。今回の調査では、2.5%の企業で内部通報窓口が未設置であることが分かりました。
②約半数の企業が、退職1年以内の従業員(派遣社員含む)と役員の内部通報窓口が未設置
2022年6月の法改正により、通報の実効性をあげるために現職の労働者のみならず、退職者(退職後1年以内)や役員が追加され、保護される者の範囲が拡大されました。しかし、内部通報窓口を設置していると回答した企業のうち、退職者(退職後1年以内)と役員を内部通報窓口の利用対象にしている企業は約半数に留まりました。
③約9%の企業で従事者指定が未実施
改正法では、300人を超える従業員を雇用する事業者に対して「公益通報対応業務従事者」を指定することが義務化され、さらに従事者が正当な理由なく守秘義務に違反した場合、刑事罰(30万円以下の罰金)が科されることになりました。義務付けられたにもかかわらず、従事者を指定していないとの回答が8.8%ありました。
④現在指定されている従事者の全体平均値は1000人当たり1.8人
改正法により、300人を超える従業員を雇用する事業者に対して「公益通報対応業務従事者」を指定することが義務化されましたが、具体的に何人程度の従事者を確保するかは、企業の判断に委ねられています。今回の調査で初めて一定の目安が示されたことになります。
⑤約6%の企業が、内部通報窓口では代表取締役の不正は防げないと懸念
全体で約6%の企業で、内部通報窓口では代表取締役の不正は防げないと懸念していることが分かります。
「正しく機能できている」と回答した企業に対してどのような仕組みであるかを質問したところ、以下のようなコメントが寄せられました。
- 一次通報窓口は社外弁護士であり、代表取締役が対象者の内部通報の場合は社外役員に連絡されることとなっている
- 監査役への報告、親会社法務部との連携という仕組みがある
- 担当取締役を委員長とする企業倫理委員会を設置しており、必要に応じて外部専門家を委員とする倫理調査委員会を設置する体制になっている
- コンプライアンス推進委員会で違反の有無を判断し、取締役会で再発防止策を審議する。(当該審議には代表取締役は参加できない。)また、審議結果に基づく対応策の実行指示も取締役会が行う
- 代表取締役を特別扱いする規定が存在しない
調査を踏まえた当社の概評
今回の調査で、法的義務が課されたにもかかわらず、いまだに従事者を指定していないなど、まだまだ対応が不十分な企業が少なくないことがわかりました。自由記述欄に寄せられた多くのコメントや質問からは、改正法への関心が高いこと、改正法の要請に対し、悩みながら対応している企業担当者様が多いことも分かりました。社外に相談できる相手がいない、いたとしても改正法の知識・知見が足りておらず、適切なアドバイスを受けられていないご担当者が多いということかもしれません。
なお、今回の調査は形式面の確認に留まっています。「代表取締役に対しての通報があった場合にも内部通報制度が正しく機能できるようなしくみになっているか」との問いに対し、「はい」との回答が57.3%ありましたが、実際にトップに対する通報に適切に対応するのは容易ではありませんし、そもそも通報が上がるかは、普段から信頼される窓口運営ができているかどうかにかかっています。実効性を高める工夫や努力を継続的に行っていただきたいと思っています。
本調査について、今回紹介した内容はごく一部です。今後、企業規模別の分析を加えた正式な報告書を作成予定ですので、固まりましたら改めて公表させていただきます。
『リスクホットライン®』とは
リスクホットライン®は、危機管理会社が運営する初のサービスとして当社が2003年にスタートした内部通報の第三者窓口です。現在、様々な業種の企業様(累計約125社)と契約しており、これまでに13,000件以上の通報に対応しています。