内部通報 関連レポート

内部通報制度の運営状況アンケート調査(2024年)

2024.10.15

当社が2024年に行った「内部通報制度」についての現状調査の結果レポートを公開いたします。

企業や組織の不祥事の多くが内部通報をきっかけとして明らかになっていることをはじめ、組織における不正等の早期発見の手段として内部通報制度の重要性は増しています。今回の調査によって、企業担当者が本来の制度の趣旨とは異なる不平・不満の通報対応に追われていることや、4割弱の企業が対応結果に納得いかない通報者によるしつこい通報やSNS投稿などの対応に苦慮した経験があることなど、内部通報制度上の課題が浮き彫りになりました。

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主な調査結果・ポイント

  1. 年間通報件数は従業員100人あたり約0.5件
  2. 13.1%の企業で、通報者に対する不利益行為(嫌がらせや報復人事など)が確認されたことがある
  3. パワハラの疑いの通報のうち、調査の結果パワハラだと認定されるのは約半数の企業で10%以下
  4. 内部通報窓口が不満のはけ口として利用されることに苦慮する担当者の声も
  5. 約4割の企業が会社の対応結果に納得が行かない通報者の対応 (通報の繰り返し、調査内容のSNS掲載、騒ぐなど)に苦慮した経験あり
  6. 窓口担当者(従事者)の人員不足や属人化・ノウハウ蓄積に課題あり
  7. 約半数の企業で内部通報に関するマニュアルがない
  8. 約半数の企業で内部通報体制を定期的に評価・点検していない

調査概要

  • 調査期間:2024年7月19~8月18日
  • 調査方法:Webアンケート調査
  • 調査対象:当社クライアント及びメルマガ登録企業、国内売上上位1000社、ハイテクノロジーコミュニケーションズ株式会社 顧客、Web調査アンケートサービス(調査協力会社:株式会社マクロミル)
  • サンプル総数:365社

以下、調査結果主要項目を抜粋し紹介します。

調査結果

1. 年間通報件数は従業員100人あたり約0.5件

従業員100人あたりの通報件数を算出(総通報件数/総従業員数)した結果、0.54件/年でした。

当社が実施した2018年調査結果の約0.5件/年、2021年調査結果の約1.3件/年(※1)と比較すると、2021年調査からは通報が減少しています。調査対象の企業が異なるため、一概に比較はできませんが、今回の調査では小規模の企業からの回答も多かったことから、小規模企業の通報件数が少なく、全体の通報件数を押し下げていることも考えられます。

Q.貴社の昨年度(2023年度)の通報件数は (n=228)

※1:株式会社エス・ピー・ネットワーク「内部通報制度の現状調査(2021年)」

2. 13.1%の企業で、通報者に対する不利益行為(嫌がらせや報復人事など)が確認されたことがある

今回の調査において、不利益行為が確認されたことが「ある」という回答が13.1%も確認されています。通報者への不利益行為は法令違反であり、本来であれば0%でなければなりません。

不利益行為を恐れた労働者が通報を躊躇すればリスク情報を早期収集できず、企業の自浄作用が損なわれます。不利益行為の抑止には体制整備のほか、通報者保護の企業姿勢を社内周知することも必要です。

Q.過去に、通報者に対する不利益行為が確認されたことはありますか(n=268)※不明の97社を除く
Q. 不利益行為の具体的な内容をお教えください(自由記述)
※一部抜粋 下線は当社にて加筆
  • 通報者を捜し出したうえ、嫌がらせをした
  • 報復的な人事異動を行った
  • 通報者の名前を会社が公表してしまった
  • 通報者に対する誹謗・中傷が行われた

消費者庁の「公益通報者保護制度検討会 中間論点整理」(令和6年9月2日)(※2)においては、不利益取扱い抑止の効果が不十分であり、刑事罰が必要との意見も出ています。

※2:消費者庁「公益通報者保護制度検討会 中間論点整理」(令和6年9月2日)

3. パワハラの疑いの通報のうち、調査の結果パワハラだと認定されるのは約半数の企業で10%以下

「パワハラではないか?として通報が入るのは全体の何%か」という設問に51%以上であるとの回答を選択した企業は全体の約3割(32.6%)でした。その中で、「パワハラではないか?という通報のうち、調査の結果パワハラと認定されるのは何%か」との設問に10%以下であるとの回答を選択した企業は約半数(52.1%)に上りました。

このことから、パワハラの認定は難しいものであることがわかります。また、内部通報担当者の課題を問う設問の自由記述に「通報者自身が優位に進むよう、言葉やシーンを切り取って通報し「これはパワハラですよね?」と承認してもらいたいようなケースが急増している。」等の回答も確認されたほか、パワハラ未満の内容までもパワハラとして通報するケースが増加しているとも考えられます。

Q.貴社の通報のうち、パワハラではないか?として通報が入るのは全体の何%か(n=208)
※前年度通報0件および不明の157社を除く
Q.パワハラではないか?の通報のうち、調査の結果パワハラと認定されるのは何%か(n=190)
※前年度通報0件および不明の175社を除く
4. 内部通報窓口が不満のはけ口として利用されることに苦慮する担当者の声も

内部通報の課題として、内部通報窓口が不満のはけ口として利用されたり、部門で解決すべき問題までもが窓口に寄せられたりしているという回答が確認されました。

2.において、8割を超える企業においては通報者への不利益行為が確認されなかったことから、内部通報や公益通報における通報者保護の意識は浸透していると考えられる一方で、本来の内部通報制度の目的とは異なる、不平や不満の通報や、本来であれば職制上のラインで解決すべき内容の通報が寄せられ、その対応に窓口担当者が疲弊してしまうという現実も浮き彫りになりました。

Q.貴社の内部通報に関する課題として、どのようなことがありますか(自由記述)
※一部抜粋 下線は当社にて加筆
  • 個人的な不満と対応すべき通報の選別
  • 公益通報者保護法に則り、法令違反や不正に関するものには真摯に対応したいが、通報案件のほとんどが不平や不満であり、本来、職制を通じて解決すべきものが多いと思うし、自分の思い通りに行かないことが全て上司のパワハラでは無い。通報制度は愚痴を聞いてくれる場所だと勘違いしていると思うし、匿名で一方的に通報されて、解決できるようなものではないことを、通報者側にも周知することが必要だと思う。
  • 上司への意見、退職代行など「本来は自組織で解決すべき案件」を内部通報を通じて自身は安全圏に身を置きながら自己の希望を成し遂げようとする案件が多数あり、組織の機能不全を招く恐れのあること。
  • 内部通報以前の事業所内のコミュニケーションがしっかりとれていないことで通報につながってしまっているケースが大多数のため、事業所内のコミュニケーション対策が必要だと考えていますが、具体的に動いている訳ではありません。
5. 約4割の企業が会社の対応結果に納得が行かない通報者の対応(通報の繰り返し、調査内容のSNS掲載、騒ぐなど)に苦慮した経験あり

今回の調査においては37.6%の企業で、会社の対応結果に納得がいかない通報者の対応に苦慮したことがあるという回答が確認されました。

内部通報は通報された後、通報内容を調査したうえで、加害者への指導や処分などの対応がなされますが、必ずしも通報者の望む通りの結果になるとは限りません。こうした会社の調査結果に納得せず、調査のやり直しを求めたり、しつこく通報を続けたり、調査内容をSNSに掲載したりする通報者もいる事実が明らかになりました。

Q. 会社の対応結果に納得がいかない通報者の対応に苦慮したことがありますか(n=348)
※不明の17社を除く
Q.具体的な内容を教えてください(自由記述) ※一部抜粋 下線は当社にて加筆
  • ハラスメントを受けたという通報者に対して、調査の結果、ハラスメントはなかったという結論になったが、それを受け入れない。
  • 損害賠償訴訟を提起された/通報に基づく調査内容・やりとりをSNSに上げられた
  • 社外メディアに通報
  • 被通報者に人事上の処分がなかったことに対して納得せずに、しつこく通報を続ける
  • 調査や事実確認をした結果を回答しても、自分の要求が通らないと、何度も同じ通報をしてくる
  • 会社としてはできる範囲の対応はしたつもりでも、状況が改善されないとして退職してしまう事例があった
  • 説諭をしても理解してもらえず、大声で喚き散らしたり、親が出てきて納得がいかないと大騒ぎした
  • 誰かを貶める目的で通報し、それが達成できないとなると大騒ぎをする
  • 調査の結果、通報者自身の虚偽申告の疑いが強い
6.窓口担当者(従事者)の人員不足や属人化・ノウハウ蓄積に課題あり

2022年の改正公益通報者保護法施行により、従業員数が301人以上の事業者には公益通報対応業務従事者(以下「従事者」)を指定することが義務づけられ、従事者への研修も義務化されました。そうした中、企業担当者の悩みとしては担当者の不足や対応の属人化、ノウハウの蓄積に課題を感じる声が寄せられました。

Q.貴社の内部通報に関する課題として、どのようなことがありますか(自由記述)
※一部抜粋 下線は当社にて加筆
  • 従事者として不慣れであり、都度、専門の方に相談しながら進めている
  • 社内通報先が一人のみの為、これ以上件数が増えると対応できない
  • 対応従事者の疲弊
  • 通報に対しての従事する社員数がすくなく体制が脆弱であること
  • 属人的にならないような体制の整備が不十分。担当者の人員リソース不足。
  • 職員のトレーニング(人間関係やチームワーク・チームマネジメントを良好に維持するためのスキル・ノウハウ)従事者の調査・是正処置のスキルアップ対応人員の充実(含む直接事案対応にあたれる従事者の確保)
  • 対応ノウハウの蓄積と、後任者の育成
  • 通報対応業務従事者のレベルアップ、など。
7. 約半数の企業で内部通報に関するマニュアルがない

今回の調査においては、49.7%の企業において内部通報に関するマニュアルがないとの回答が得られました。

内部通報対応は、担当者間で口頭だけで対応方法が引き継がれたり、OJTのみで指導したりするケースや対応が属人化している場合が少なくありません。対応が属人的になれば、慣れている担当者が外れるたびに調査のクオリティーが下がったり、処分の方針が変わったりということにもなりかねません。そのため、マニュアルの整備が重要であり、また、マニュアルがあれば良いわけではなく、各社の方針に合った実効性のあるマニュアルを整備することが重要です。

Q.内部通報に関するマニュアルがありますか(n=321)
※不明の44社を除く
8. 約半数の企業で内部通報体制を定期的に評価・点検していない

公益通報者保護法では、「内部公益通報対応体制の定期的な評価・点検を実施し、必要に応じて内部公益通報対応体制の改善を行う」ことが義務付けられています。しかし、今回の調査においては、48.9%の企業において内部通報体制を定期的に評価・点検していないことが分かりました。

Q.内部通報体制を定期的に評価・点検していますか(n=282)
※不明の83社を除く

調査を踏まえた当社の概評

今回の調査を通して、内部通報制度上の課題がいくつか明らかになりました。

通報者への不利益取扱い行為の禁止をはじめとした法的義務の履行は最低限の取り組み

今回の調査で、通報者への不利益行為が約1割の企業で確認されました。そのほか、内部通報制度の評価・点検も約半数の企業が実施していないことが明らかになりました。窓口を運用する中で、法の趣旨を理解し、最低限、法律の求める内容をクリアする必要があります。そのうえで、窓口の実効性向上に関する取り組みを進めていくこととなります。

取り組みの進行に応じた課題あり。不平不満の通報対応に疲弊する担当者も多い

2022年の改正公益通報者保護法の施行を契機として、特に従業員数301人を超える企業を中心に内部通報窓口自体の設置は進みましたが、通報が少ない企業、通報が多い企業それぞれにおいて、内部通報担当者が課題を抱えながら運用している状況にあるようです。

例えば今回、窓口担当者の悩みを問う設問において、「通報件数が少ない」という悩みもある一方、「通報案件のほとんどが不平や不満であり…」や「…「本来は自組織で解決すべき案件」を内部通報を通じて自身は安全圏に身を置きながら自己の希望を成し遂げようとする案件が多数あり」など、本来の趣旨と異なる利用をされていることに疑義を抱く回答が目立ちました。しかし、人間関係の悩みや、職場に上手く馴染めない従業員からの相談も組織のどこかでは受ける必要があります。また、通報が多い拠点は管理職のマネジメント力に不備・不足があったり、過剰なノルマや人員不足で組織が疲弊していたりする状況が確認されることもあります。ウェルビーイングや健康経営の重要性が増している中、今後、より効果的かつ実効性の高い内部通報窓口を運用するための継続的な工夫や努力が望まれます。

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