SPNレポート
当社が2021年に行った「内部通報制度」についての現状調査の結果レポートを公開いたします。
公益通報者保護法改正により、2022年から通報受付体制の整備が義務化されます(従業員数300名以下の企業は努力義務)。消費者庁による「公益通報者保護法に基づく指針」の発表を今月末に控えるなか、各社で運用体制の見直しが急務となっています。
今回の調査では、1年間で受け付ける通報の件数が従業員100人当たり1.3件という結果になりました。2018年に当社で実施した同調査と比較すると通報が増えており、通報担当者の負担が重くなっていることが明らかになりました。
今後企業には人的リソースの強化や中立性が保たれた社外窓口の導入等、一歩すすんだ対応が必要になります。このような取組みには経営トップによる制度への理解が欠かせません。
(1)直近1年間の通報件数は増加傾向。従業員100人あたり約1.3件。
従業員100人あたりの通報件数を統計的に処理し算出した結果、1.3件/年で、2018年調査結果の0.5件/年と比較すると明らかに通報が増えているという結果になりました。
(2)窓口の周知は複数方法で実施されるなど活性化。通報増加に影響している可能性も。
当社が2018年に実施したアンケートと比較すると、すべての周知方法において前回を上回る取組みがなされていました。複数の媒体で周知をしている企業がほとんどで、平均すると4つの媒体を用いて周知しています。
(3)コンプライアンス違反の発見の効果は、「社外と社内に併置」が「社内窓口のみ」と比較して25.7ポイント高い。
窓口の設置場所別にみると、「社内と社外の両方に設置」している事業者は、「社内のみに設置」している事業者よりも、すべての項目で窓口導入の効果を実感している傾向にある結果となりました。
(4)窓口担当者の約半数がスキルや人的リソースに課題を感じている。
全ての項目について「課題はない」と回答をしたのは1社にとどまり、どの企業も内部通報窓口になんらかの課題を抱えている結果となりました。
(課題がある/あまり課題はない/まったく課題はない/該当なし) (n=287)
(5)経営トップの関与度が高いほど内部通報制度の導入効果が向上。トップが関与していない企業の約3.2倍。
「特に発信はしていない」と回答した層では、内部通報制度の実効性を感じにくいことが明らかになりました。一方で、あらゆる媒体でトップメッセージを発信している企業では、発信していない企業の約3.2倍の窓口導入効果を感じている結果となりました。
※Q3(内部通報窓口導入の効果)の選択肢1つを1点として換算した場合の平均値(満点12点、「効果は特に実感していない」を除く)
当社の分析と見解
通報件数増加は活性化の証。ただし周知方法に改善の余地あり
内部通報件数が増加傾向にあります(1)が、件数の増加自体は必ずしもネガティブなものとは言い切れません。通報件数増加の背景のひとつとして、各社における窓口周知活動が活発化した(2)ことが影響していると考えられるためです。制度を形骸化させないためには、まず窓口の存在を知ってもらうことが重要です。
他方で、通報制度が職制で解決できない場合のバイパスルートであることなど、制度趣旨への理解がないまま通報窓口が利用される場合も少なくありません((4)「従業員全体の通報制度に対する理解」39.0%)。これにより件数が増加している場合は、窓口周知の際に窓口の利用上の注意点もあわせて伝えることも検討すべきでしょう。
窓口担当者の負担は増加傾向。メンタルケアが重要に
窓口担当者が課題に感じる項目をみると、通報件数の増加により窓口担当者の業務量も増加し、負担が重くなっていることが窺えます((4)「通報者とのやり取りに係る時間・手間」47.7%)。それに伴い、担当者のメンタルケアが不足していると感じている担当者も多くなっています(48.4%)。
特に内部通報担当者は、業務の性質による精神的負荷だけでなく、守秘義務があるため相談できる範囲も限られており、ストレスのかかりやすい環境下にあります。窓口担当者の離職防止としてもメンタルケアは重要な事項として検討すべきです。
窓口の実効性向上には経営トップの理解が不可欠
内部通報制度の導入による効果をみると、社外窓口も併置している企業においては制度導入の効果が顕著にあらわれています(3)。また、経営トップが積極的に通報制度に関して発信することで、多くの項目で制度導入の効果が発揮されます(5)。機能する内部通報窓口の実現のためには、経営トップが内部通報制度の重要性を認識することが不可欠だということが調査により裏付けられたといえます。
今後、コンプライアンス経営に向けたトップの本気度が試されることになります。