リスク・フォーカスレポート

内部通報制度に関するアンケート(2016.11)

2016.11.30
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【もくじ】―――――――――――――――――――――――――

1.はじめに

2.調査概要

3.調査結果

(1) 内部通報制度の導入の状況

(2) 内部通報制度の概要

(3) 内部通報制度の運用の状況

(4) 課題

(5) 通報担当者の「思い」

4.最後に

1.はじめに

 当社は、内部通報の第三者受付窓口「リスクホットライン®」を運営しています。内部通報の受付から、案件が真に収束するまで、企業危機管理の観点からお手伝いをしていますが、各社の内部通報担当者とのやり取りの中で、内部通報制度の運用を支えているのは、実際に通報に対応する「担当者」であるという点に着目するようになりました。今般、担当者が実際の対応現場で感じる苦労や課題に焦点を当てたアンケート調査を、当社の運営する「SPクラブ」会員向けに実施することといたしました。

 本アンケート調査結果(以下「本調査」)については、既に、当社HPにて公表しているところではありますが、今回のリスクフォーカスレポートは、あらためて本調査結果を取り上げていきたいと思います。すでに内部通報制度を導入している企業においては、自社の内部通報制度の実効性を高めるために、また、これから内部通報制度を導入しようとする企業においては、形式的な制度設計とならないために、本レポートがそれぞれの指標になれば幸いです。

SPNレポート2016(内部通報制度に関するアンケート調査結果)

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2.調査概要

調査期間 : 平成28年6月9日~同7月8日

調査対象 : SPクラブ会員(全国463社、調査日現在)

調査方法 : Webアンケートシステムによる無記名式調査

有効回答 : 74社(回答率16.0%)

3.調査結果

(1) 内部通報制度の導入の状況

1) 内部通報制度の導入率

 内部通報制度を導入している企業は、回答企業全体(74社)の86.4%(64社)となり、消費者庁調査(2013年に消費者庁から公表された「公益通報者保護制度に関する実態調査報告書」をいう)の46.3%を大きく上回る結果となりました。また、そのうち57.6%は内部通報制度を導入してから5年以上経過しているなど、内部通報制度がある程度浸透し、定着しつつある状況であることも分かりました。

 さらに、内部通報制度を導入する理由としては、「違法行為、その他の問題の未然防止・早期発見のため」が77.0%と最も高く、次いで「従業員が安心して働ける環境の整備」が54.1%と続く結果となりました。一方で、導入しない理由としては「必要だと思うが、優先度が低い」が50.0%となり、「人手が足りない」、「コストがかかる」がそれぞれ20.0%ずつの回答がありました。

2) 内部通報制度の設置場所

 内部通報窓口を「社内にのみ設置」する企業は全体の27.9%となり「社外のみ設置」する企業は21.3%、「社内と社外に設置」する企業50.8%を合わせて、72.2%の企業において、社外の内部通報窓口を利用していることが分かりました。さらに、具体的な社外窓口としては、「内部通報の専任会社」が50.0%、「顧問等の弁護士事務所」が45.0%を占める結果となっています。

 また、外部の通報窓口を利用するメリットとしては、窓口の独立性や中立性があげられており、とりわけ、社内外の両方に窓口を設置する企業においては、「広くリスク情報を収集すること」や「通報者の選択肢を増やす」ことを理由としていることが分かりました。

3) 通報窓口の体制(社内にのみ設置している場合)

 内部通報の受付窓口を社内にのみ設置している企業(25社)について、専任部門を置いている企業は、2社(8.0%)のみであり、コンプライアンス部門(40.0%)、総務部門(24.0%)、人事部門(20.0%)、内部監査部門(20.0%)と、多くの企業で社内の特定の部門が兼務している実態が浮かび上がりました。

(2) 内部通報制度の概要

1) 規程の整備状況

 内部通報制度に関する規程やガイドラインが、明文化されて規定されるとする割合は79.3%となり、17.5%の企業においては、「規程等はないが、社内周知文やチラシ等」により内部通報制度の案内がなされていることが分かりました。

2) 通報内容の制限

 通報できる内容を「限定しない」とする企業は、全体の75.8%を占めており、多くの企業が、法令違反や規程違反に限らず、職場環境や人間関係に至る諸問題に関してリスクとなり得る情報の収集に努めていると言えます。

3) 通報者の範囲

 内部通報を利用できる人の範囲については、組織内での拡大がみられました。社員以外の契約社員、嘱託社員ならびにパート・アルバイトまで拡大している企業が9割前後あり、7割以上の企業では派遣社員まで含めているという結果となりました。一方、「退職者」や「家族」まで拡大する企業は、それぞれ14.8%、8.2%にとどまる結果となり、この点については、今後の課題だと言えます。通報者のメンタル不調を身近に感じることのできる「家族」や、通報に対する報復の心配のない「退職者」にまで通報利用者を含めるかどうかは、今後の重要な検討課題であると言えます。
 また、通報を利用できる範囲を、自社に限らず、子会社やグループ会社、関連企業まで拡げている企業の割合は59.0%あるなど、組織外への拡大も進んでいることも分かりました。

4) 内部通報制度の周知の状況と周知方法

 社内への内部通報制度の周知状況については「十分周知されている」が33.9%、「ほぼ周知されている」が51.6%となり、あわせて85.5%の企業において、内部通報制度の社内周知ができていると認識していることが分かりました。

 一方、その周知方法をみると、最も多いのは「入社時の説明」でしたが、その割合は46.8%と半数にも満たない状況でした。さらに、「イントラネットへの掲示」、「定期的な研修」、「ポスターの掲示」と続くが、いずれも4割に満たない状況となりました。また、先の「十分社内周知されている」、「あまり周知されていない」と回答した企業について「入社時の説明」の実施状況を見てみると、前者が81.0%と高い割合を示したのに対し、後者では22.5%にとどまったことから、内部通報制度の周知方法として「入社時の説明」が重要であると言えるかもしれません。

(3) 内部通報制度の運用の状況

1) 内部通報制度の利用の状況

 直近5年間の平均の通報受付件数について、「通報がなかった」とする企業は21.9%に上りましたが、消費者庁調査において「調査対象企業の45.9%が年間で通報がなかった」ことと比較すると、本調査結果の方が、より機能していると評価できます。ただし、79.3%の企業において、年間の通報受付件数が10件未満にとどまっている点から言えば、有効に機能していると評価できるところまで至っていないと指摘できます。

 一般的に、通報件数(通報件数割合)には適正な水準というものはなく、企業規模をはじめ業種・業態など企業の置かれた状況によって大きく異なると考えられます。また、各企業の自浄作用が働いている場合と、それとは逆に制度の周知が不十分であったり、通報しづらい企業風土があるなどの個別の事情によっても通報件数は変わると考えられますので、内部通報制度を導入している企業においては、現在の通報件数が、自社の現状を反映しているものかどうかを常に検証していく必要があるとも言えるでしょう。

2) 通報された内容

 内部通報制度を導入している企業に、実際にあがってきた通報のうち「多い」もしくは「比較的多い」とされた通報カテゴリーでは、「上司への不満・パワハラ」と回答した企業が38.2%と最も多い結果となりました。続いて、「セクハラ・マタハラ等」が20.0%、「同僚の勤務態度」が14.5%と続いています。

 この点については、当社が運営する「リスクホットライン®」が2003年から受け付けた3,000件を超える通報実績においても、「上司への不満・パワハラ」が最も高く43.0%を占めていることから、一般的に、職場内での人間関係に起因する通報が多いのが実態であると言えます。

3) 通報手段

 通報手段として「メール」および「電話」を利用する企業は、それぞれ93.5%、88.7%を占め、「ファクシミリ」や「手紙」を利用する企業は、それぞれ51.8%、27.4%との結果となりました。後者2つの手段は、自社の情報管理体制はもちろん必須ですが、通報内容の漏えいや紛失等の危険性などがあることから、その採用は慎重に検討する必要がありますが、一般的には不正の根拠資料を添付するなど重大な通報も少なくないことから、情報管理体制の整備を大前提として、通報者には「ファクシミリ」や「手紙」も加えた、幅広い通報手段を用意することは望ましいと言えます。

4) 「匿名」通報の取扱い

 「匿名」による通報を「受け付けない」とする企業は4.8%にとどまり、ほとんどの企業は、「調査には限界がある」としながらも、匿名通報を受ける体制をとっていることが分かりました。当社の運営する「リスクホットライン®」による実際の通報の受付においても、通報者の多くは、「通報者探し」や「対象者らによる報復行為」を恐れ、「匿名」による通報を望む声は少なくありませんが、通報者保護の体制等を丁寧に説明することで、途中から開示に応じるケースも意外と多いと言えます。通報事実の確認ができ、企業が適切な対応をとるためには、通報の受付段階で、できる限りの情報を収集すべく、通報者の心配や懸念を払しょくできるようなコミュニケーション能力やヒアリング能力が、通報受付担当者には求められると言えます。

(4) 課題

1) 内部通報制度の運営上の課題

 通報担当者が、自社の内部通報制度の運営上の課題としてとらえるものとしては、「管理職等の教育」が40.0%と最も高い割合を占めました。続いて、「通報しやすい社内風土の醸成」が38.3%となります。いずれも、内部通報制度自体の課題というよりは、「内部通報に至る原因」や「内部通報の機能を阻害する要因」について問題意識を持っていることから、実効性を高めようとする姿勢がうかがわれるものと考えられます。なお、内部通報制度の運用に限って言えば、「担当者の人員確保」や「担当者の知識の向上」が課題とされています。

2) 通報担当者の「通報受付時」の苦労

 通報担当者が、通報の受付時に最も苦労する点について質問したところ、匿名通報における「匿名事項の確認」や「通報の事実確認」が上位となりました。「匿名」であるがゆえに事実確認が難しく、また、通報担当者のレベルが低く事実確認が不十分である場合、適正な通報内容への対応ができなくなるおそれがあります。通報担当者のレベルアップは、内部通報制度を適切に運用していくための不可欠な要素と言えますが、同時に、通報者に対して安心感・信頼感を与えられる制度の運用と、それを支える職場風土の改善もまた重要であることは既に指摘した通りです。

3) 担当者の「通報対応時」の苦労

 通報担当者が、通報内容に対応する際「とても苦労している」もしくは「多少苦労している」としている点は、通報された内容について「指導とパワハラの違いの整理」をすることと、いかにして事実を確認するかという「方法」の選択に関するものとなりました(それぞれ「とても苦労している(8.9%)」、「多少苦労している(28.6%)」との結果です)。また、「通報者探しの禁止」、「報復行為の禁止」など、通報者への不利益な取扱を防止することにも苦労している様子がうかがえました。なお、最近の傾向として、「通報者にメンタル不調の傾向」がうかがえる通報が増えており、本調査においても16.1%の企業が「とても苦労している」と回答しています。

(5) 通報担当者の「思い」

 本調査は、内部通報制度の運営に実際携わる担当者を対象としたものです。本調査においては、担当者の「本音」をうかがうために、最後に、実際の運営の中で苦労する点や、改善すべき課題などについて、自由記述で記載いただきました。その結果、多くの担当者の偽らざる本音を収集することができました。

 内部通報制度は、会社を良くしていくための重要な機能であるとの認識のもと、担当者のレベルアップを図りつつ、会社や関係者の協力(調査協力だけでなく、通報者保護など)により成り立っています。しかしながら、担当者によれば、通報の多くが、そもそも「職場内におけるコミュニケーションの不足」に起因していると感じているほか、「職制を通じて改善の対応」すべきではないかと、的確に問題の本質を突いた内容が多く見受けられました。また、通報の中には「匿名で、単なる不満や中傷」を撒き散らすだけで「正直うんざり」するケースも多く、内部通報制度が会社にとって必要なのはわかるが「多くの件数があがってくることは望まない」と、正に「本音」の部分も吐露されている点も興味深いと言えます。

 一方で、通報者に対して「最低限聞くことは出来、一人で悩む必要がなくなるので利用していただきたい」と望む声や「まずは通報者の気持ちを理解してあげたい」、「どうにもならない時に駆け込めるところでありたい」、「通報をもっと活用して会社を良くする意見が増えればよい」など、通報担当者として必要な資質(やさしさ)を示すコメントもあり、内部通報制度がこのような担当者の「真摯な思い」によって成り立っているという点も、よく伝わってきました。

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4.最後に

 日々、通報を受け付ける担当者においては、業務として通報対応を担当しているとは知りつつも、通報者の悲痛な、または激高した叫びに耳を傾ける中で、少なからず精神的なダメージを受けています。内部通報制度が有効に機能させていくためにも、通報部門の責任者におかれましては、担当者の精神面でのフォローなどにも十分に気を配っていただきたいと思います。

 以上、本調査結果の概要につきご紹介いたしましたが、是非、「コンプリート版」をご確認いただき、今後の皆さまの業務に役立てていただきたいと思います。

以上

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