はじめに
2019年、吉本興業などの芸人らが会社に無届けで反社会的勢力のイベントに出席・報酬を得ていたとして処分を受け、各所で大きく取り上げられました。
同時に、「反社チェック」という言葉も世の中に浸透しました。
同社では、過去の反省をふまえ継続的にコンプライアンス研修を繰り返し実施してきたといいます。
その取組みは一定程度評価できるものではありますが、一部綻びがあったと認めざるを得ません。
研修を通じて反社チェックの「知識」を伝えることだけでは、
彼らのビジネスのリスクの高さに見合ったルール・制度上としては脆弱であったということです。
コンプライアンス・リスク管理が真に機能するためには、「知識」だけでなく「常識」や「良識」レベルにまで落とし込み、
一人ひとりのリスクセンスを磨いて底上げを図ることが求められます。
しかしながら、どれだけの取り組みを行っても、一部の綻びによって
極めて大きな「レピュテーション・リスク」に晒されてしまう反社リスクの恐ろしさを目の当たりにしたことは、
多くの事業者にとって厳しい自省につなげるよい機会にすべきだと思われます。
社会全体が反社リスク・反社チェックに敏感となっている今こそ、反社チェックの重要性・必要性を社内で啓蒙するのに最適なタイミングだといえます。
反社勢力の変遷、取り巻く状況
反社勢力の変遷と、反社勢力を取り巻く状況について簡単にご紹介します。反社チェックの実務・方法を考えるにあたってのポイントとなります。暴力団構成員は減っている
≫平成30年末には30,500人、構成員は1963年の1/6になっています。
暴力団の活動が著しく制限されるようになった
≫組事務所の使用差し止め請求や立ち退き請求などが増加しました。
暴排条例の厳格化、また東京都暴排条例改正によって、みかじめ料摘発も厳格化しました。
使用者責任の厳格化
組織の減少・スリム化が進んだ
≫外部環境として、「暴排」の力強さが増したこと、内部環境として、暴力団員の少子高齢化が進んだことが主な要因です。
準暴力団(半グレ集団)や周辺者の勢力が拡がっている
≫暴力団の関与がますますわかりにくくなっています。またこれにより、反社チェック実務の困難性が増しています。
組織実態・活動様態の潜在化
≫組織の実態事態が潜在化しており、組事務所で代紋を掲げないなど。
組織削除・関連会社の役員などから組員の名前を削除
- 代紋や組織名入りの名刺を使用しない
- 偽装解散・脱退
活動態様の偽装
- 組織実態を営利企業はNPO法人に偽装
- 活動実態を各種経済活動に偽装
- 活動様態を政治活動・社会運動を標榜
このように反社会的勢力を取り巻く状況は年々変化しており、
現在では暴力団という「属性」のみに着目するだけでは、暴力団自体を取り締まることすら困難な状況です。
「暴力団」に限られない、組織犯罪対策における新たな枠組みが急務となります。
暴力団以外の反社勢力とは
「準暴力団」(平成26年の暴力団情勢より)
近年、繁華街・歓楽街などにおいて、暴走族の元構成員などを中心とする集団に属する者が、集団的または常習的に暴行、傷害などの暴力的不法行為などを行っている例がみられる。
こうした集団は、暴力団路同程度の明確な組織性は有しないものの、暴力団などの犯罪組織との密接な関係がうかがわれるものも存在しており、様々な資金獲得犯罪や各種の事業活動を行うことにより、効率的または大規模に資金を獲得している状況がうかがわれる。
平成26年末現在、警察では8集団を準暴力団と位置づけ、実態解明の徹底及び違法行為の取り締まりの強化などに努めている。
主要な集団
- 関東連合OBグループ(活動地域:首都圏を中心)
- チャイニーズドラゴン(活動地域:首都圏中心)
- 打越スペクターOBグループ(活動地域:東京都八王子市周辺)
- 大田連合OBグループ(活動地域:東京都大田区周辺)
「共生者」
表面的には暴力団との関係を隠しながら、その裏で暴力団の資金獲得活動に乗じ、又は暴力団の威力、情報力、資金力などを利用することによって自らの利益拡大を図る者
共生者の5類型 ※全銀協「銀行取引約定書における暴力団排除条項参考例」より
- 暴力団員などが経営を支配していると認められる関係を有すること
- 暴力団員などが経営に実質的に関与していると認められる関係を有すること
- 事故、自社もしくは第三者の不正の利益を図る目的または第三者に損害を加える目的をもってするなど、不正に暴力団員等を利用していると認められる関係を有すること
- 暴力団員などに対して資金などを提供し、または便宜を供与するなどの関与をしていると認められる関係を有すること
- 役員または経営に実質的に関与している者が暴力団員等と社会的に非難されるべき関係(※)を有すること
(※)「社会的に非難されるべき関係」とは具体的には、暴力団が関与する賭博や無尽等、暴力団員やその家族に関する行事への参加(大阪地裁)、ゴルフコンペ、飲食、旅行、贈答等(広島県暴力団排除条例)の例示があります。
反社チェック、反社リスク対策の在り方
反社チェック、反社リスク対策の在り方としては、「これまでの反社チェックの限界を乗り越える」ことへの意識を持つことが一番のポイントです。
「顧客をよく知る」だけでなく、「顧客の関係者までよく知る」ところまで留意すること
(KYC(Know Your Customer)を超えた、KYCC(Know Your Customer’s Customer)へ)
たとえば、下記のような視点でのチェックを行います。
- 反社+AML/CFT+北朝鮮リスク+…(リスクの多様性・厳格化に対応するため、様々なリスクベースでチェック)
- 社会の要請への対応(SDGs、ESG投資、倫理的消費…)
- 「サプライチェーン・マネジメント」の厳格化への対応(KYCCへの対応)
例えば賃貸事業では、賃貸契約からの暴排と入居者からの暴排は異なります。 また、高級自動車販売において、納品した翌日に名義変更された事例もあります。
真の受益者の特定のためには、下記のような姿勢が肝要です。
- データベース依存からの脱却(多面的な調査・現場のリスクセンス重視)
- 本人確認の精度向上(なりすましなどの排除)
- 社会の要請の変化への対応
- 手口の高度化、存在の潜在化の対応
- 「真の受益者」特定の精度向上(排除すべき相手の明確化)
- スキーム全体を見抜く「リスクセンス」の重要性
- 入口の限界を「中間管理(モニタリング)」で乗り越える
(参考)国連安保理北朝鮮制裁委員会専門家パネル報告書より
「無意識のうちに加担している貿易会社や石油会社によって、数百万ドルの違法なビジネスが生み出されている」
→日本の事業者も正に違法なビジネスに「無意識」のうちに取り込まれ、犯罪を助長している可能性が示されている。
改めて、北朝鮮制裁の実効性を確保する観点からも、KYCCチェック、サプライチェーン・マネジメントの視点を十分に取り込んだ「厳格な顧客管理」が必須となっている
反社チェックの限界とデータベースの限界は違うと認識すること
「手を尽くす」ことでDBの限界を乗り越える。※それでも100パーセントの排除は難しい
- 反社リスクの大きさは取り組みレベルに左右される
- 社会の要請レベルを満たさなければ深刻なレピュテーション・リスクになりうる
反社リスク対策において重要なもの
- 最前線の役職員の「意識」と「リスクセンス」
- 特定の時点のチェックのみでは不十分→「モニタリング」の実効性
- 最新の犯罪の手口、海外の規制強化の動向などの情報収集と分析
- 「リスクベース・アプローチ」に基づく持続的かつ効果的なリスク管理
反社チェック実務のポイント
反社チェックに必要な情報
反社チェックにおいては、可能な限り広く情報を収集することが重要ですが、民間企業が入手できる反社チェック対象の公知情報ソースには、主に以下のようなものがあります。
- 対象会社の会社案内、対象会社ウェブサイトの会社概要
- 商業・法人登記情報
- インターネット情報
- 経済情報
- SNSのプロフィール・友達リスト等
- 民間信用調査会社の信用調査情報
- 有価証券報告書などの開示文書
- 宅地建物取引業者登録申請書・建設業者許可申請書
- 新聞の原典情報
反社チェックの対象範囲
反社チェックを行う際には、
- 時系列上の関係者を過去にさかのぼって調査・分析すること = 「縦」に掘り下げての調査
- 当該企業の周辺の関係者、人的・資本的繋がりを調査・分析すること= 「縦」に拡げての調査 が重要になります。
時系列上の関係者
これまでの主な調査事項は「現在の商号・代表者」「現任取締役・監査役」ですが、これからは「退任した取締役・監査役」「過去の商号」といった、過去の情報まで確認する必要があります。
現在事項証明書ではなく、少なくとも5年以上過去に遡って、履歴事項全部証明書、閉鎖事項証明書などにより退任した人物や時系列上の変遷を確認することが望ましいと言えます。
当該企業の周辺の関係者(人的・資本的繋がりを調査・分析:横に拡げて調査)
例えば、下記のような情報の確認が有効といえます。
- 子会社・関係会社
- 主要な株主
- 主要な取引先
- 顧問・相談役・コンサルタント・アドバイザー
- 外部から招聘した取締役・監査役の経歴先
- 主要な従業員(登記されない執行役員など)
- 上記以外の特別利害関係者(2親等以内の血族など)
もっと詳しく知りたい方は(当社のサービス)
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