2019年11月18日号
顧客本位と顧客満足~特殊詐欺被害防止に必要なこと
特殊詐欺の未然防止に成果を上げている金融機関によれば、「大きな額を下ろす顧客に話を聞く地道な積み重ね」が秘訣だという。詮索を嫌う顧客が多く、怒り出す人もいるというが「それでも苦情覚悟で続けている」点が肝だ。だが、これこそまさに「顧客本位の業務運営」ではないか。似たような言葉に「顧客満足」があるが、残念ながら客が「詮索を嫌い、怒り出す」ような対応を避けることと勘違いしてはいまいか。真の「顧客本位」の実現には、「顧客満足」とは別次元で顧客にも一定の理解を得る必要があり、「対話」を通じて価値観を共鳴させることが重要だ。特殊詐欺被害防止の文脈では「被害にあわないこと」を共通の価値観として、苦情を厭わず、理解いただくために最善の努力をすること。厳格な対応を貫徹すること。それが「顧客本位の業務運営」だ。(芳賀)
現場におけるカスハラ対策~法制化やガイドライン化以前に適切な対処・運用を
ここ最近、電凸やカスタマーハラスメント(以下、カスハラ)対応に関し、メディアの取材を通じて、対策の重要性を強調してきた。社会的な関心は高まっているが、電凸もカスハラも今に始まったことではない。カスハラもモンスタークレーマーも電凸も一方的な価値観のごり押しが共通項で、様々な手段でその実現を図るに過ぎない。したがって、対応要領の標準化は可能だ。企業は、理不尽な行為に対する拒絶の意思表示や禁止行為を明示し、「意思に反して」理不尽な行為を無理強いされた外形を作ることが肝要だ。一方で、従来民事不介入を口実に警察はクレームへの介入に消極的であったが、現行法でも相当程度対応はできるため適切な取締りも重要だ。異説排除やその為の一方的な手法容認の世相もカスハラ助長の背景にあるが、カスハラは社会的損失でしかない。(西尾)
内定辞退率提供問題でプライバシーマーク取り消し措置
リクルートキャリアは2019年11月14日、日本情報経済社会推進協会(JIPDEC)からプライバシーマークの取り消し措置を受けたと公表した。「リクナビDMPフォロー」での学生の内定辞退率など個人情報の取り扱いや提供に関する不備が要因だったとしている。現在1万6300の事業者がプライバシーマークを付与されているが、取り消し措置は3例目だ。企業が保有する個人データは無制限に利用できるものではなく、内定辞退率のような個人の不利益につながりかねないセンシティブな情報の取り扱いには、特に配慮が必要だ。リクナビに限らず、個人のどのようなデータが何に使われているかを開示する透明性の確保と、個人が自らデータの使われ方を選べる仕組みや、利用者も納得したうえで真に同意していると評価できる個人情報の取扱いを行うことが今まさに求められている。(佐藤)
「スマートワーク経営調査」日本経済新聞社 人材活用など組織のパフォーマンス 格付け
同調査は人材活用力を中心に革新力、市場開拓力、経営体制を得点により格付けする。筆者は女性や外国人の登用による活性化に賛成だ。ただし、ビジネスに必要な多様性は単に「違う」ことではなく「能力や経験の多様性」だ。性別や国籍などを多様化することはマイナスの影響もある。ダイバーシティーには、多様な教育の背景や職歴、経験という「タスク型の多様性」と国籍、性別、年齢という「デモグラフィー型の多様性」がある。タスク型の効果は明らかだが、デモグラフィー型はメンバー間に分類する心理作用が働き、その軋轢から組織のパフォーマンスが停滞する。ブームは単に女性や外国人が加わることが組織に活性化につながると安直に考えるリスクがある。軋轢が生む組織の断層を減らすため多次元で多様化することが真のダイバーシティー経営に必要だ。(伊藤)
公的行事と国民負担
首相主催による「桜を見る会」が実質的な選挙運動であり、私物化されているとの批判が高まっている。地元の後援会の人々を大勢招待した上に、一流ホテルでの前夜祭の領収書にも疑義が呈されている。また政教分離原則が曖昧にされたままで大嘗祭には24億円の税金が使われた。これについては、昨年秋篠宮殿下が自ら会見で疑義を呈されている。この数ヶ月間、日本列島は台風や大雨に襲われ、被災地では多くの方々が避難所生活を余儀なくされている。血税の使われ方は、本当に正当なのか。この間、衆院外務委員会では、十分な審議を経ずに日米貿易協定の承認案を採決した。タイミングの良すぎる有名人の麻薬関連事件の発覚で、ニュース枠を埋めるのは勘弁してほしい。政治家の説明責任は企業のトップ以上であることを国民も忘れてはならない。(石原)
今、組織罰を考える
11月23日、大阪梅田で「今、組織罰を考える」と題したシンポジウムが開催される。今年9月の東電役員の無罪判決を受けたもので、講師は同志社大学法学部教授で法人罰をめぐる刑事法制の第一人者である川崎友巳氏。現行の日本における法制度では、企業に対する刑事罰を問うことはできない。しかし2005年の福知山脱線事故を契機に、事故を防ぐ努力を怠った企業を処罰対象にする「組織罰」導入の議論が熱を帯びている。英国では2007年に組織罰を導入。企業を1つの人格とみなし、企業上層部全体の罪を問うことが可能になった。企業の責任は飛躍的に重くなり、結果として船舶会社やバス会社などが最大限の安全確保策を実施。事故が3割減ったとの統計もあるという。刑事罰を要望する署名は1万人を超え、先日法務大臣に手渡された。国民全体での議論が望まれる。(大越)