2021年08月30日号
【もくじ】―――――――――――――――――――
工藤会トップへの死刑判決が意味するもの
画期的な判決だ。民事での特殊詐欺被害等に対する暴力団対策法上の使用者責任が最高裁で認められたばかりでもあり、暴力団に対する抑止効果が期待される。一方、本件は、「当時の工藤会」の「強固な組織性」が際立っていたことが大きな要因の一つであり、他の暴力団にも一律に適用できるかどうか、さらに議論を深める必要があろう。さらに、半グレ等の周辺者の活動が活発化する中、その論理を周辺者にまで適用することは困難であり、結果的に暴力団のマフィア化を助長する可能性がある。周辺者との関係性を立証する困難さとあわせ、判決が暴力団の弱体化に直結するかはいまだ不透明だ。企業の実務においては、周辺者をいかに捕捉していくか、より広範かつ厳格な見極めが求められるようになる。現行の反社チェックはもはや通用しなくなる。対策が急務だ。(芳賀)
企業不祥事を防ぐには、性悪説は必要か
三菱電機、日産、スバル、神戸製鋼など名門製造企業の不正が発覚した。手口は会社ごとに異なるが、共通項もある。品質への「自信」が、検査を怠るという「過信」へと変わった。そして、検査データを恣意的に扱える、たとえば「検査データを紙に記録してPC等でデータ入力する」など不正の「機会」が後押しした。さらに、「強い現場」が聖域化して不正を見抜けなくした。現場の不正に対する感覚の「鈍麻」と本社の「まさか不正はないだろう」という根拠のない先入観・安心感のもたれ合いだ。性善説に基づく監査には限界があろう。かといって、性悪説では人の心が荒廃する。不正が起きる前提で、早く発見して必ず処罰される仕組みにするのが重要だ。発見には第三者の視点を入れることが欠かせない。内部者は不正に気づき難いというバイアスがあるからだ。(伊藤)
私たちはなぜうまく避難できないのだろう
「何十年も生きてきて、こんなことはなかった」「土砂災害に縁のある場所だと思っていなかった」と、避難が遅れる人は後を絶たない。専門家はそれを「正常性バイアス」と呼ぶ。正常性バイアスとは自分にとって都合の悪い情報を無視したり、過小評価したりしてしまう人間の特性のことだ。それに対し、広島県が「私たちはなぜうまく避難できないのだろう~平成30年7月豪雨を体験した住民たちの証言」と題した小冊子を発行した。実際の体験を丁寧につづる本冊子は、私たちに避難行動の難しさを訴えかける。冊子では、なかでも「周りの人が逃げなかったから」とする人が非常に多かったことを挙げ、「率先避難」の重要性を説く。「正常性バイアス」と一言で現象を説明してしまうのではなく、この冊子のように丁寧にコミュニケーションすることが必要なのだ。(大越)
みずほ銀行のシステム障害に見る、「命令」や「処分」の限界
8月20日、みずほ銀行で今年5回目のシステム障害が発生した。金融庁は度重なるトラブルを重く見て、経緯や原因などを月内に報告するよう命じていると聞く。合併による統合を経て、改修を繰り返してきたシステムは、どこに地雷が埋まっていてもおかしくない。容易に解決できない技術上の問題は、企業文化と同じく、一朝一夕には改善できない。大規模で複雑なシステムを日々使い続けながら根本から改善するのは、専門家にとっても至難の業だろう。無理を強いる命令は、論点を責任の所在に向かわせ、企業文化をさらに悪化させかねない。必要なのは処分や命令ばかりでなく、技術的な支援と時間ではないか。何度叱られても同じミスを繰り返す社員に必要なのが、さらなる叱責や処分ではなく、その社員の特性に合わせた根気強い支援であるのと同じように。(吉原)