30秒で読める危機管理コラム

危機管理のプロの観点から時事ニュースを考察しました。

経営者にその自覚はあるか

データを暗号化し身代金を要求する「ランサムウエア攻撃」の脅威が認知されて久しい。だが、いまだに被害を受けた多くの組織がVPNなどのシステムの脆弱性を放置し続けたことが攻撃を許す原因となっている実態がある。専門家によれば、脆弱性を修正すれば攻撃の9割は防げるという。これだけ被害事例が積み上がっているのに対策を講じないのは経営者の怠慢ではないか。さらに、サイバー攻撃においては、被害者という側面だけでなく「加害者」の側面もある。自社の不作為によって、他の事業者に対する攻撃の「踏み台」とされる(加害者となる)可能性があることを認識しているか。考えたくはないが、そもそも侵入されていることすら気付いていないことはないか。自らの不作為が他の事業者を脅威に晒している「反社会性」をこそ、経営者は自覚すべきだろう。(芳賀)

現実を理解せよ。罰則規定なくして、カスハラ被害は防げない。

飲食店での出来事。閉店間際に男性が入店し商品を注文。オーダーストップの時間を過ぎていたため、注文をお断りしたが、男性が激怒。店長が説明しても、自身の主張を繰り返し、閉店まで時間があると大声で叫びながら商品を作るように迫った。店舗側は止むなく警察通報。警察官臨場後も自身の主張を繰り返し、結局2時間以上、店長や統括責任者まで対応を強いられた。挙げ句に警察官から店舗側に対し謝罪するように要請され、謝罪。完全なカスハラ事例だ。全く非はない店舗側に謝罪させる警察官の対応も問題だが、罰則がなければ警察官の対処にも限界があり、結局こうなるのも仕方ない。これが現実だ。罰則がなければ、カスハラ被害は、絶対に防げない。カスハラの現実を理解し、罰則を伴う条例等の制定は必須であることを改めて認識しなければならない。(西尾)

CSRの取り組みとして「水害対応マニュアル」公開

ポンプやタービンなどで国内シェアトップ、石油・ガスプラント向けコンプレッサでは世界トップシェアを誇る荏原製作所。同社は工場が千葉県富津市や神奈川県藤沢市といった沿岸部にあるため、BCPはもとより従業員の避難訓練にも力を注いでいるほか、2021年には社内横断プロジェクト「荏原レスキュー」を発足。特に水害復旧時に貢献できる製品や技術、ノウハウを活用した新しいビジネスモデルの構築をめざしている。そのプロジェクトが10月9日、「住宅における水害対応マニュアル(概要版)」を作成し公開した。建物浸水被害を研究する信州大学中谷教授監修のもと、日常の備えや被災直前の準備から、被災後の応急処置や復旧工事に向けた作業フローとポイントを、分かりやすいイラストとともに解説している。企業のCSRに対する良い取り組みとして紹介したい。(大越)

▼荏原製作所が「住宅における水害対応マニュアル」を制作・公開(ニュースリリース)

震災が「自分事」となるきっかけ

大災害等の報道によって、直接的な被害を受けていなくても不安で落ち着かなくなる人がいる。一方で、全く動じない人もいる。客観的に捉え、冷静な対応ができる面は良いが、どこか他人事で、「次は我が身」という危機感が薄く、災害への備えにも関心がわかない…A氏もそんなタイプの一人だ。3.11の際も平然としていたA氏だが、能登の震災の報道を見て急に「地震が怖い」と言い始めた。A氏を動かしたのは、家族を目の前で全て亡くし、一人生き残った男性の話。震災による被害、家族の死、そしてこれから一人で生きる未来。泣きながら話す男性の姿を見て、A氏も震災を自分事と捉えたのではなかろうか。傷付いた被災者へマイクを向けることに対し、意見は様々あるだろう。せめて話してくださった方の気持ちをしかと受け止め、未来に活かせたらよいと思う。(吉原)

会社と従業員はあくまで雇用契約関係

タイトルをご覧になって「何を当たり前のことを…」と思われた方も多いだろう。では、「従業員が私生活の犯罪行為で逮捕されたからと言って、簡単に懲戒解雇はできない」と具体化するといかがだろうか。かつて筆者が企業のコンプライアンス担当者向けのセミナーにおいて、「住居侵入罪で処罰されたことが懲戒解雇事由にあたらないとされた事例(横浜ゴム事件)」をベースにしたケーススタディで、受講者に「このケースで懲戒解雇は有効か」を問うたところ、賛否が真っ二つに分かれたことをよく覚えている。このケースでは、本人の職務上の地位、行為の態様、刑の程度等から、懲戒規程の「会社の体面を著しく汚した者」に該当しないとされた。会社と従業員はあくまで雇用契約関係であり、会社が安易に従業員の私生活にまで介入できないということだ。(安藤(未))

▼最高裁判所判例集「昭和44(オ)204 雇傭関係存続確認請求 昭和45年7月28日最高裁判所第三小法廷判決」(横浜ゴム事件)

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