2025年01月27日号
内部通報制度の果たすべき役割は内部通報制度だけでは完結しない
三菱電機のガバナンスレビュー委員会報告書に「事案が長期間にわたり発覚しなかった経緯から、単純に内部通報制度を整備し、周知徹底するだけで現場の声が経営陣に届くとは理解すべきではなかった」との辛辣な指摘がある。企業不祥事の再発防止策として内部通報制度を機能させることが重要と指摘されることが多いが、それは内部通報制度に対する「過度な期待」だろう。内部通報制度が果たすべき役割は内部通報制度のみで完結しない。匿名アンケート調査や1on1ミーティングの継続的な実施、管理職層の質的な底上げに向けた戦略的な育成、経営トップの健全性に対する強い意志を伝え続けるなどコンプライアンス・リスク管理の持続的かつ多角的な取組みがそもそも重要であり、一連の取組みにより平時から従業員の信頼を獲得できていなれば機能するはずがない。(芳賀)
問われる日本の本気度
政府は3月に米ニューヨークで開かれる核兵器禁止条約第3回締結国会議へのオブザーバー参加を今回も見送り、与党議員の派遣に留める方向だ。同条約への批准は署名:94か国・地域、批准:73か国・地域となっており、唯一の被爆国である我が国は未批准。国際政治の現実から考えて、現在の核保有国が核兵器を放棄することは、今後も含めて考えられない。しかし日本原水爆被害者団体協議会(被団協)のノーベル平和賞受賞のタイミングでもあり、現実的に如何に困難であれ、核廃絶に向けた日本政府の消極的姿勢は大いに疑問だ。広島原爆死没者慰霊碑には、かの有名な「安らかに眠って下さい 過ちは繰返しませぬから」との碑文が刻まれている。しかし“誰の何の過ち”で、“誰が繰り返さない”のか、行為主体が曖昧なままだ。この曖昧さがこの国の現状を物語る。(石原)
移民問題・接待文化ともに底流にあるのは人権無視
トランプ大統領の移民の強制解除に対しては賛否両論があるが、対象はあくまでも“不法移民”であることを忘れてはならない。トランプは昨年次のような発言をしている。「バイデン政権下では、32万5000人の移民の子供達が行方不明になった。行方不明になった子供達の多くは死亡、または性的あるいは労働搾取の奴隷だった」(Real Clear Politics、2024/9/13)。この裏には「身元引受人」を装った人身売買業者の暗躍がある。一方日本で問題とされている“接待文化”はテレビ局に限った話ではない。女性アナウンサーが性的な対象やアイドル的に扱われてきた特異性もある。各局とも近年“コンプライアンスが厳しくなったため従来の番組制作ができない“との声が聞かれた。“過剰コンプライアンス”は問題の本質を突かず、小手先のガバナンス整備や再発防止策の無効化を齎すだけだ。(石原)
記者会見の重要性は今後ますます高まる
阪神淡路大震災から30年にあたる2025年1月17日。本来であれば厳かであるべきその日が、テレビ史上初めての事態を引き起こす、歴史に残るような惨憺たる記者会見を行った日として記憶に残る日となった。TV会社社長による一連の騒動に対する記者発表は、報道機関としてあるまじきクローズドな形で行われ、その内容も到底社会が納得できるものではなかった。この閉鎖的な体質に、報道や視聴者に先駆けて経済界がNGを出した。会見当日の夜からトヨタはじめ多くのスポンサーが即時に出稿を停止。その後多くの企業が追随した。特筆すべきは、これまではメディアが報道してからその報道内容を受けて周辺企業の対応が始まったが、今回は記者会見のありかたに不満を抱いたスポンサーが即時に反応したことだ。今後、記者会見の重要性はますます高まっていくだろう。(大越)
他社の不祥事は「自社ならどうする?」を考える機会
あくまでも仮定の話。従業員が取引先の人物から深刻な被害を受けたことを、内部通報担当者が察知したとする。もし被害者が「徹底的なプライバシー保護」を求めており、当事者間で守秘義務を含めた示談を進めていると聞いたならば、内部通報担当者はどこまで踏み込んで、そこに疑われる社内体制の問題を調査できるだろう?特にセクハラの通報は、事実確認さえままならないほど、調査に対して及び腰になる企業は案外多い。被害が深刻であればますます配慮も厳重になり、「詳しい状況を思い出すのも辛かろう」「名前を出せばフラッシュバックが起きるのでは」と、できる調査が限定されていく。某局の肩を持つつもりはない。だが様々な制約や配慮によって、出せる情報もできる調査も限られた場合に、「自社ならどうする?」を考える意義はあるのではないか。(吉原)
フジテレビは内部通報あるいは公益通報を受けたのでは?~通報対応の視点から~
会社の取引相手である中居正広氏からフジテレビの社員が深刻な被害を受けたのなら、被害者から上司に報告された時点で、フジテレビは内部通報(一定の法令違反行為なら公益通報)を受けたことになる。消費者庁は「職制上のレポーティングライン(いわゆる上司等)においても部下等から内部公益通報を受ける可能性がある」との見解を示しているからだ。そうすると、フジテレビが再発防止までやり切ったのか、情報の範囲外共有や不利益取り扱いをしていないのかも問われるはずだ。中居氏が出演する番組を継続すれば、会社の廊下に番組のポスターが貼られ、それを見た被害者がフラッシュバックを起こすこともあり得るため、被害者の気持ちを確認したのか、番組を打ち切るカモフラージュの理由を考えたのかも含め、今後の第三者委員会の調査を注視したい。(安藤(未))