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内部通報制度を実効性のあるものとするために ~担当部長インタビュー 第2弾~

2021.04.22

前回は、リスクホットライン®(以下、RHL)の特徴や役割、今後の展望や通報内容のトレンドなどについてインタビューしました。(前回の記事はこちら

第2回目となる今回は、内部通報を巡る最新の動向と内部通報窓口を受付内容によって分けることの是非、公益通報者保護法の改正で担当者にも守秘義務に対する刑事罰が科せられる件について聞いてみました。

Q.まず、内部通報を巡って最近気になる動きはありましたか?

A.ありました、ありました。4月5日に(内部通報制度認証の指定登録機関である)商事法務研究会さんが担当部長久富 インタビューの様子内部通報制度認証(WCMS)申請・審査の実態概況報告 - 登録事業者100社の概況と審査の概要 - 」を公表されました。

この報告は、申請各社が内部通報制度の運用においてどの部分に難しさを感じているのかがわかるなど、とても参考になりますので、まだチェックされていない方はぜひご一読ください。

なお、個人的には、審査項目21の社内の運用担当者の方々の貢献が適切に評価される仕組みの構築が進めばいいと思っています。担当者の方々の大変さは良く分かっていますので。

Q.なるほど。確かに「内部通報として扱う必要があるのか?」という通報に担当者が疲弊している状況はかなり前から報告されていますね。それにも関係するのかもしれませんが、内部通報の窓口を「不正の告発」と「不満」に分けることを推奨する声もあります。これについてはどのように考えていますか?

A.「内部通報として扱う必要があるのか?」という通報が多い件は一旦置いておくとして、当社としては、「不正」と「それ以外」などと分けずにできるだけ一元化することをお勧めしています。

Q.窓口の一元化をお勧めするのはなぜでしょうか?

A.理由としては、大きく3つあります。

1つ目の理由は、受け付ける内容によって窓口を分けたり、受付内容を不正や法令違反に限定したりすると、利用する側に迷いが生じ「実は高リスクだった」という情報が見落とされたり、申告されなかったりする可能性が高くなると考えるためです。どういうことかと言うと、通報者自身がリスクをリスクだと認識していないことって結構あって、例えば、単なる上司の愚痴とも思える通報の中に、実は取引先との癒着や経費の不正利用の疑い、サービス残業の横行などの情報が含まれているというケースは少なくないんです。つまり、このような通報は受付範囲を「不正」に限定していたら上がって来ない可能性が高いので、当社RHLでは、利用の敷居を下げて「とりあえず話を聞いてみる」ということを重視しているのです。様々な通報を一旦RHLで一元的に吸い上げて会社側に報告し、会社側のご担当者に対応や振り分けをお願いする(内容に応じて然るべき方を選任し情報共有していただく)運用をお勧めしており、この流れは悪くないと思っています。

2つ目の理由は、窓口を一元化し、情報を一カ所に集約して管理しておくことにメリットがあると考えるからです。例えば、不正に関する通報の被通報者が、過去にパワハラやセクハラ、残業問題などで通報に上がった人物だったりすることもあり、その場合、過去の情報や対応経緯と照らし合わせると、注意すべき点などが見えてきて、対応がしやすくなります。過剰なノルマを課せられている部署では、パワハラと不正と労務問題が並行して発生していることも少なくありませんので、どこかの部門が一元的に情報を把握・管理している体制の方が早く適切な対応が検討されやすくなります。なお、複数の窓口で受けた内容を一つのデータベース(DB)にまとめて共有することも一つの方法ですが、自分の担当でない案件でもリアルタイムで対応状況を見られる環境の方が担当者間での協議もしやすく、いい案が生まれやすいと言えます。ちなみに、RHLから通報の初回レポートをお送りする際には、過去にその拠点から上がった通報の番号とカテゴリー、過去3年間のデータに照らして被通報者に合致する名前があればその情報も一緒に提供しています。

3つ目の理由は、結局のところ、通報は、調べてみないと、不正なのかそうではないのか、公益通報事実に該当するのかしないのか、パワハラなのか指導なのか単なる愚痴なのかが分からないためです。つまり、公益通報者保護法や消費者庁のガイドライン(※)の主旨(不正や公益通報事実の早期発見)を実現するためには、一旦は幅広い内容を受け付けざるを得ないことから、やはり、まずは敷居を下げた窓口で一元的に受けて、振り分けていく流れが現実的には一番いいのではないかと思うのです。また、めったに来ない不正通報だけを受け付ける窓口を設けておくより、一定数の通報が上がっている方が、担当者が経験を積むことができてスキルアップにも繋がりますので、これもメリットの一つと考えています。
(※)正式名称:「公益通報者保護法を踏まえた内部通報制度の整備・運用に関する民間事業者向けガイドライン」

いずれにしても、組織の規模や体力、統制環境などによって適している体制やとれる体制は違ってきますので、各社様が現状において最善と思う体制を模索・確立していただければと思います。
担当部長久富 インタビューの様子

ただ、メンタルヘルス不調の相談窓口は別途あったほうがいい。メンタルヘルス不調は早い段階で専門家に関与していただいて回復を目指していくことが望ましいからです。

なお、1点、企業の経営陣の方々にお願いしたいことがあります。内部通報が適切に機能している会社は、トップがその重要性を認識し、適正な人数を内部通報担当に充てている実態がありますので、現在のご担当者の生の声に耳を傾け、組織的なサポートが不十分とご判断された場合には改善に向けて前向きにご検討いただけましたら幸いです。

Q.次に、公益通報者保護法の改正により、調査等に従事する違反者に対する刑事罰(30万円以下の罰金)が導入されることになりますが、担当者はどのようなことに気をつければよいのでしょうか。

A.まず、自分自身が守秘義務を守ることが大前提ですが、それさえ守っていれば、あまり恐れる必要はないとお伝えしたいです。よくあるのが、通報者自身が通報内容を同僚にも相談していて、そこから噂が広まったり、誰かの憶測がまことしやかに広まったりするケースでして、結果、担当者が「情報を漏らした」などと疑われることもあるのですが、自身がしっかりと守秘義務を守ってさえいれば、訴えた側が違反行為を立証することは困難なので「大丈夫」と言いたい(RHLメンバーも無関係でないのでそう思いたい)のです。刑事罰を恐れて担当者が対応に消極的になってしまったら内部通報制度の健全な運用を大きく妨げることになりますので、それは法やガイドラインの趣旨とも違ってきます。

なお、RHLでは、「情報を漏らされた!」というトラブルを避けるために、調査時に情報共有していい範囲を通報者本人に念入りに確認しているほか、会社側の調査担当者には、できるだけ通報者と面談をしていただき、本人の意向を確認しながら慎重に対応を進めることをお勧めしています。また、周辺のヒアリング調査に協力していただいた方々にも守秘義務に関する誓約書への署名を依頼する会社が増えてきており、これは一定の効果はあると思っています。

Q.RHL契約社の中で、先進的な取り組みをしている企業の例などがあったら教えてください。

A.最近の好事例を1つご紹介すると、その会社さんでは、定期の内部監査で内部通報制度の運用状況を監査しているのですが、監査部門の方々はWCMSの自己適合宣言登録制度の審査項目や関連法、ガイドラインの要請事項をしっかりと理解したうえで監査を行い、それに照らした指摘事項を明記した監査報告書を作成したうえで、報告会で担当部門に改善を促すという動きをされていました。

なぜ事情を知っているかと言うと、その内部通報担当部門が当社に、指摘事項への改善案が適切かどうかの意見書を求めてこられたからです。内部監査と担当部門両方の徹底した姿勢に脱帽でした。

Q.最後に、3月にリリースした新サービスについて教えてください。

A.内部通報制度の診断に関するサービスをリリースしました。

「内部通報制度簡易診断」というもので、会員企業様であれば無料で実施させていただいています。このサービスは、社内窓口の担当者様にヒアリングし、内部通報制度がどの適度のレベル感で整備・運用できているかを診断するものです。

診断項目は、消費者庁のガイドラインと自己適合宣言(WCMS)の審査基準をベースに作成しています。報告書はA3一枚の簡易なものですが、ヒアリングや報告会を通じて最新の情報を提供させていただくほか、今後、実施件数が増えれば他社比較による分析も加えられますので、より充実したものになっていくと思います。

そして、さらに充実した報告書をご提供するサービスとして、「内部通報制度実効性レベル診断」があります。こちらは有料(10万円~)のサービスではありますが、ヒアリング診断に留まらず、既存の規程やマニュアル類、社内周知資料なども確認した上で、不足している点や是正策についてのアドバイスを明記した報告書を提出します。こちらは、自己適合宣言の申請を目指されている企業様や、IPOを目指す企業様、自社の内部通報制度が「東証プライム市場」の上場要件を満たしているか確認したい企業様、通報制度の運用に行き詰まりを感じている企業様などにもお勧めです。

今回も聞きごたえのあるご回答をありがとうございました。
今回お伺いした内容については、悩まれている担当者様も多いのではないかと思います。このインタビューが、お悩みを抱えるご担当者様のお役に立てることを私たちSPN JOURNAL編集部も願っております。

RHLの実績

  • 2003年7月サービス開始:今年で18年目
  • グループ会社を含め約1000社の通報を受付
  • 2020年の年間通報件数は1863件

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