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テロリスクへの対応~「IS後」を見据えて
2017.11.15取締役副社長 首席研究員 芳賀恒人
【もくじ】―――――――――――――――――――――――――
(1) 暴力団情勢
(2) 厳格な顧客管理のあり方
(3) 特殊詐欺を巡る動向
(4) AML/CTFを巡る動向
(5) 仮想通貨を巡る動向
(6) パラダイス文書
(7) 犯罪インフラを巡る動向
・サイバー空間
・地面師(登記手続き)
・民泊
・座間市の事件を巡って(賃貸物件とSNSの犯罪インフラ化)
(8) その他のトピックス
・金の密輸
・専門家リスク
・訓練の重要性
・薬物を巡る動向
・北朝鮮リスクを巡る動向
(1) 愛知県の逮捕事例
(2) 兵庫県の勧告事例
(3) 神奈川県暴排条例の改正
(4) 福岡県等の指名停止等措置
1.テロリスクへの対応~「IS後」を見据えて
イスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」(IS)のリアルな実効支配地域の奪還が最終段階にきています。10月にシリア政権軍が、ISが「首都」と称してきたシリア北部のラッカを奪還したのに続き、11月に入って、ラッカや隣国イラクから逃れたIS戦闘員が抵抗を続けていた最後の拠点都市である東部アブカマルを完全に制圧しました。これにより、シリア国内でISが依然占拠するのはイラク国境沿いなどのわずかな地域だけとなり、同国内からほぼ一掃されたことになります(ただし、直近の報道では、敗走していたISが反撃を仕掛け、市全域の40%以上を再び占拠したと在英のシリア人権監視団が明らかにしています。真の完全制圧にはまだ時間がかかるかもしれません)。いずれにせよ、リアルな実効支配地域(実態)は限りなく消滅していく流れは確定的となりましたが、一方で、「思想」をキーにその実体を維持している状況にあることがより鮮明となってきています。各国は、今後、この「IS後」の世界とどう向き合うかが問われることになります。
IS後の世界について、まず実態面については、「過激派やテロ組織は、シリアやイエメン、ソマリア(先日も、アルカイダ系のテロ組織による死傷者700人を超える世界的に見ても大規模なテロが発生しています)、東南アジアの一部など、政府が全土を掌握できない国に入り込み、巣窟を作ることから、破綻国家を生み出さないよう、国際社会が粘り強く関与していくことが、中長期的なテロ対策として欠かせない」(平成29年10月20日付読売新聞)との指摘があり、正にその通りだと言えます。特に、米露の思惑からシリアに介入し内戦の混乱を拡大させ、ISの跋扈を許した反省のうえに立ち、(復興の混乱期は人心の荒廃から過激思想が浸透しやすく、テロ組織等があらためて力を持つおそれが高まる時期でもあり)一刻も早く、国際社会という枠組みによる復興を支援していくことが必要です(間違っても、米露の主導権争いで再び混乱を招く事態はあってはなりません)。また、あまり表だって問題化していませんが、ISの有する数百億円にも上ると言われる資金の移動に対する監視も重要な局面を迎えています。世界中のIS同調者に対してテロ資金が供与される可能性が高まっており(実際に、パリやブリュッセル、マンチェスターなどのテロで使用された破壊力の高い過酸化アセトンを使った爆弾製造などの資金に充てられたとの報道もあります)、海外送金業者や伝統的な「ハワラ送金」関係者の摘発が急がれています。
一方、思想面においても、「テロが起きるたびに、イスラム系移民への敵対感情が社会で広がり、移民の側も反感を高める。この悪循環に歯止めをかけて融和の道を探らなければ、過激思想の浸透を防ぐのは難しいだろう」(同)との指摘もまたその通りです。同様に、IS戦闘員が世界中に拡散(帰還)することによって、ロンリーウルフ型のテロの危険に世界中が晒されることにもなります。特に、欧州各国はIS戦闘員の帰国に警戒を強めており、入国の阻止や訴追等(殺害も含む)の強硬措置により無力化することを検討しているようです(報道によれば、イラク、シリアで戦闘員となった欧州出身者は約5,000人いるとのことであり、欧州出身の約2,500人がISに残っているということです)。一方で、デンマークなどは、過激化の兆候がある対象者を1人の「メンター(助言者)」が支える過激化抑止・脱過激化プログラムが機能しており、定期的な面談や私的な交流を通じて「1対1の関係」を築くことで社会復帰を果たすなど注目が集まっています。昨年の伊勢志摩サミットにおけるG7首脳宣言(テロ及び暴力的過激主義対策に関するG7行動計画)でも明記された「社会における(暴力的過激主義に代わる)他の意見を表明させる力と寛容の促進」、具体的には、「教育等を通じた異文化間、異宗教間の対話や理解を通して多元的共存、寛容、ジェンダー間の平等を促進」、「市民社会やコミュニティ(特に女性、若者)との連携」などの行動指針が挙げられましたが、デンマークの事例は、正に、その趣旨をふまえた取り組みであると言えます。以前からテロリストの更生には地域(コミュニティ)による見守りが有効であるとも言われていることから、日本をはじめ多くの国でも参考にとしてくべきではないかと思われます。
なお、帰還したIS戦闘員が、あらたに東南アジアで拠点をつくろうとしているとの動き(現に、マレーシアやバングラディシュでISに触発されたテロが発生しています)や、エジプト東部シナイ半島で10月以降、ISの影響下にあるとみられる武装組織によるテロが頻発している状況(既に一定の勢力はシナイに流入しているとの見方も)があります。加えて、今後は、迫害を受けているとされる、世界中のロヒンギャ(ミャンマー西部ラカイン州で少数民族のイスラム教徒)難民が過激化してテロを起こす可能性も指摘されています(既にイスラム過激派などの支援を得る組織化が進み、一方でテロ組織への要員の供給源となっているとも言われています)。やはり、「多元的共存」「寛容」「平等」といった行動指針のもと、宗派や民族に関係なく、公平・公正な政治が行われる土壌が育たない限りは、テロは、いつでも、どこででも発生するとの危機感は持っておく必要があると言えます。
一方、テロリスクがいまだ衰えていない欧米では、既にIS後のテロ対策へとフェーが移行した感があります。
仏では、2年前のパリ同時テロ以降、はじめて非常事態宣言が解除され、11月から新たにテロ対策法が施行されています。この法律では、過激派の温床と疑われる宗教施設の閉鎖やテロ容疑者の自宅軟禁、家宅捜索の要件を緩和することが柱で、平時でも非常事態に準じた権限を治安当局に付与することが狙いだとされます。ただ、個人の監視は厳しくなっており、本人の同意のもと、テロとの関係が疑われる人物に発信器付きのブレスレットを付けるか、付けない場合は1日1回警察に出頭させるなどの規定が設けられています(非常事態宣言下では3日に1回の出頭)。
また、米では、直近でも、ニューヨークでトラックを暴走させ8人が死亡するテロが発生しました。容疑者は中央アジアのウズベキスタン出身でISの影響下にあったようです(以前から米情報機関が容疑者の存在を把握していたとも言われています)。なお、報道(平成29年11月1日付産経新聞)によれば、ウズベキスタンなど旧ソ連・中央アジア出身者によるテロは各国で発生しており、その背景には労働移民として移住した先で過激思想に感化されるケースの増大や、ソ連崩壊後の自国でのイスラム過激派の浸透などがあるとみられているとの分析があります。その米国では、米国防総省が自らの情報収集活動における管轄手続きのマニュアルを昨年改訂し、物理的もしくは電子的な監視対象となり得る市民の解釈を拡大して、「国内出身の暴力的過激主義者」を含めたということです(平成29年10月28日付ロイター)。新しいマニュアルでは「外国のテロリストとの特別な関係が確認できない場合」でも、防諜目的で米国民に関する情報を収集することが認められたと報道されています。米仏ともに、テロ対策の一環として、個人の監視を強化する方向にある点が注目されます。
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また、日本のテロ対策という点では、(後述するように)各地で官民連携のもと訓練が実施されているほか、例えば、米政府がテロ対策で求める米国到着便の搭乗前検査の強化策として、日本の主要航空会社が全ての乗客を対象に、機内持ち込み手荷物の管理状況を確認する項目を新たに追加したことを受けて、搭乗ゲート付近で、空港で手荷物から目を離さなかったかなどと問い掛け、必要があれば爆発物検査などを受けてもらう対策が始められています。それ以外で、注目すべき点としては、日本経済団体連合会(経団連)が、企業行動憲章を7年ぶりに改定し、テロやサイバー攻撃などへの組織的な危機管理を新たに企業に求めている点が注目されます。
▼日本経済団体連合会 企業行動憲章の改定にあたって~Society 5.0の実現を通じたSDGs(持続可能な開発目標)の達成~
それによれば、企業行動憲章に新たに「危機管理の徹底」として「市民生活や企業活動に脅威を与える反社会的勢力の行動やテロ、サイバー攻撃、自然災害等に備え、組織的な危機管理を徹底する」との文言が追加されました。また、(反社リスク対応については特段目新しい部分はありませんが)新たに設けられた「テロの脅威に対する危機管理と対策に取り組む」とした改定版の手引きにおいては、まずは「テロや犯罪リスクを洗い出し、それぞれのリスクを評価し、優先的に対策を講じるリスクを決定する」とされています。続いて、「テロ対策に向けた体制構築や危機管理マニュアルの策定や既存マニュアルの見直しなどを行う」こと、「海外危機管理において最も困難な判断を迫られる海外拠点からの緊急退避に関して、現地駐在員や帯同家族を急ぎ避難させる事態を念頭に、緊急退避計画を事前に作成することに努める」ことなどが求められています。さらに、「教育・訓練」の重要性を指摘し、「テロを想定したシナリオに基づいた訓練(本社および現地の対策本部が情報収集、緊急対策の実施、業務継続のための施策の検討などを模擬体験する訓練)を実施する」ことや、「訓練を通じ顕在化した問題点を改善し、いざという時に機能する危機管理体制を構築する」ことを求めています。
これらは、正に企業危機管理の中にテロ対策を位置付けたという意味では画期的なこととなります。本コラムの立場としては、以前から、「従業員の生命を守る」ことは企業の責務であるとして、テロ対策を企業の取り組みの中に位置づけるべきだと指摘してきましたので、今後、多くの企業がテロリスクに真摯に向き合うことを期待したいと思います。ただし、今回の企業行動憲章の内容については、まだ「従業員の生命を守る」といったより具体的・実践的な視点が前面に出ていない点がやや気になります。この点については、報道(平成29年11月10日付産経新聞)も参照いただきたいのですが、具体的には、「テロから身を守る方法」「テロから逃れる方法」などのほか、「被害に遭った駐在員の家族への状況説明や相談・メンタルヘルス対応」、「補償」、「メディア対応」、「政府や関係機関等との連携」、あるいは「法的対応・訴訟対応」などといった実務面の示唆が明らかに不足していると指摘できます。テロ発生時だけでなく、事前の準備や事後対応も適切に行ってこそ、企業としてのテロ対策は有効に機能するものです。いずれにせよ、新たな企業行動憲章を契機に、「企業としてのテロ対策」が浸透し、進化・深化していって欲しいと切に願います。
2、最近のトピックス
(1) 暴力団情勢
前回の本コラム(暴排トピックス2017年10月号)では、組事務所の使用制限等を巡る動向についても取り上げました。そのひとつは、兵庫県警が暴力団対策法に基づく組事務所の使用制限命令に向けて検討を始めたというものです。暴力団対策法に基づく組事務所の使用制限命令は、指定暴力団同士やその内部で対立抗争が発生した際、住民の生活の平穏が害される恐れがあると判断されれば、関与した組の事務所に集まったり会合を開いたりすることを一定期間禁止できるというもので、早期の実現を期待したいところです。さらに、もうひとつが、民間(地域住民)による組事務所の使用差し止めの仮処分申請の動きについてです。指定暴力団神戸山口組の本部事務所のある兵庫県淡路島では、抗争勃発のおそれが高まり、付近の住民の生活が脅かされているとして、改正暴力団対策法の代理訴訟制度に基づき、近隣住民約20人の委託を受けた公益財団法人暴力団追放兵庫県民センターが、事務所の使用差し止めを求める仮処分を、10月2日に神戸地裁に申し立てました。既に事例はいくつかあるものの、指定暴力団の本部を対象にしたのは全国初であり、抗争の危険性の高まりや暴排の機運の高まりをふまえて、司法がどのように判断するのか注目されると指摘しました。
その後、10月末に、神戸地裁は、この本部事務所の使用差し止めの仮処分を決定しています。決定の中で、神戸地裁は、実際に抗争事件が起きていることから、「(住民は)いつ事件に巻き込まれるとも限らない危険と不安の中で生活をしている」と判断したということです。そして、神戸地裁は、この仮処分決定に基づき、11月9日に事務所に公示書を掲示し、仮処分を執行しています。報道によれば、公示書には暴力団が事務所として使用することや、組を示す「代紋」や表札の掲示を禁止することなどが明記されているということです。一方、神戸山口組は、神戸地裁の決定がなされる直前に、同本部事務所について閉鎖する意向を兵庫県警に伝えていたことも明らかとなっています。神戸地裁の決定が出る前に閉鎖方針を固めたとみられ、実際、11月の定例会(直系組長を集めて月1回のペースで開いている会合)の開催を中止しています。今後、どこを定例会の場所とするのか、注目されるところです(なお、直近の報道によれば、新本部として有力視されているのが、指定暴力団六代目山口組から300メートルほどしか離れていない神戸市の繁華街・三宮に近いビルで、過去にも会合等が行われてきた場所だということです。県内の商業地では改正暴排条例で事務所新設が禁止されたものの、当該ビルは改正施行前に同組側に所有権が移され、規制の網から漏れてしまったもので、拠点化すれば周辺住民の生活に影響が出かねません。あらためて地域住民による使用差し止めの仮処分申請などが望まれるところです)。
さて、暴力団事務所の仮処分申請の事案としては、直近でも他に福井地裁が決定した事例もありました。それは、福井県敦賀市にある指定暴力団神戸山口組系正木組の事務所と、福井市にある山口組系宮原組の事務所の使用を禁止するもので、周辺住民に代わり、福井県暴力追放センターが8月、福井地裁に使用差し止めを申し立てていたものです。報道によれば、同時に複数の事務所の使用差し止めが認められたのは初めてだということです。このように、本部事務所の使用差し止めをはじめ、各地で同様のケースもこれまですべて認められていることから、今後、全国で同様の動きが拡がり、それにより暴力団の活動を、相当程度抑え込むことにつながるものと期待されます。
また、暴力団の典型的な資金源のひとつである「みかじめ料」を巡る動きも、東京・銀座での活動にメスが入って以降、活発化しています。以下、直近の報道を列記してみます。
- 神戸・三宮の歓楽街で暴力団組員らが飲食店経営者3人からみかじめ料を恐喝していた事件で、神戸山口組山健組系幹部ら4人が恐喝容疑で既に逮捕されていますが、飲食店経営の男性に「また集金に来る」などと現金を要求、計約200万円のみかじめ料を脅し取ったとして、恐喝の疑いで無職の男(当時は山健組傘下組織の組員)を新たに逮捕しています。
- 名古屋市の繁華街にある飲食店などからみかじめ料を受け取ったとして指定暴力団六代目山口組弘道会幹部らが逮捕された事件で、愛知県警は、別の店からも用心棒代を受け取ったとして弘道会会長ら7人を愛知県暴排条例違反容疑で再逮捕し、新たに弘道会の実質的ナンバー2ら傘下組織組長3人を逮捕しています。報道によれば、4店はそれぞれ月3万円の用心棒代を支払い、約8年前からこれまでに計約990万円を弘道会側に渡したとみられるということです。
- 暴力団の資金源となっているみかじめ料を根絶しようと、愛知県警は、名古屋市中区の栄交番など県内3カ所に「みかじめ相談所」を設置しています。みかじめ料の実態把握に向け、繁華街を巡回する「ローラー作戦」を実施しているものの、相談や情報提供は数件にとどまっていることから、暴力団を担当する捜査員らが主に平日午後に相談に応じる取り組みをはじめたものです。
- 大阪・ミナミの飲食店でみかじめ料を脅し取ろうとしたとして、大阪府警は、山口組系組幹部と、半グレメンバーら男4人を恐喝未遂の疑いで逮捕しています。格闘技団体「強者(つわもの)」(既に解散)の元メンバーで、組幹部が半グレらを使ってみかじめ料を徴収しようとしたとみられます。大阪府警は、暴力団が半グレを使ってみかじめ料を徴収している実態があるとみて、9月にミナミの約4,500店を対象に情報提供を呼びかけるなど、取り締まりを強化しているところです。
とりわけ、神戸・三宮のみかじめ料の実態については、報道(平成29年11月2日付産経新聞)に詳しいのですが、キャバクラやスナックなどの飲食店から少なくとも2億円がみかじめ料として暴力団側に流れていたことが判明し、兵庫県警がついに摘発に乗り出したとされていますが、その発端は、もともと三宮が神戸山口組直系山健組のシマ(縄張り)とされていたところ、やはり山健組出身のトップが率いる任侠山口組の誕生でシノギ(資金獲得活動)の均衡が崩れたことで、抗争の勃発や治安悪化への対応を兵庫県警が迫られたという背景事情があります。さらに、同報道では、2億円という被害額も「氷山の一角に過ぎない。実際に暴力団へ流れた額は数十億円に上る」との捜査関係者の話や、「暴力団同士の抗争にはカネがかかる。資金源を断つことが今回のような銃撃事件の抑止にもつながる」との指摘がなされています。これらの指摘をふまえれば、飲食店側がみかじめ料の支払いをやめることが極めて重要であり、そのためには、暴力団との付き合いがもはや何のプラスにもならないことを認識してもらう、地道な活動(パトロールや相談、調査等による見回り)こそ有効ではないかと考えます。ただ一方で、六代目山口組の本部事務所で毎年恒例となっているハロウィーンに、今年は約800人が行列を作ったとの報道(平成29年11月9日付神戸新聞)もありました。報道によれば、イベントに訪れた多くは抗争を知らない世代で、30代女性は「物心が付いた時から身近にあるので怖い印象はない」とコメントしており、暴力団のイベントに多数の市民が参加することで暴力団に寛容な雰囲気が醸成され暴排の気運がそがれる懸念とあわせ、やはり失望と危機感を覚えずにはいられません。犯罪収益に支えられた犯罪集団の便宜供与を受けて良いかどうか、善良な市民であれば分かるものと考えていましたが、それは幻想に過ぎず、市民に対しての地道な啓蒙活動をもっと強力に推進していくことが求められていると言えます。その意味では、企業における社員教育の中に反社会的勢力排除を適切に盛り込んでいくことも大変重要なことだとあらためて感じています。
また、大阪・ミナミで暴力団とともにみかじめ料を徴収しているとされる「半グレ」については、警察庁の「平成26年の暴力団情勢」において、「近年、繁華街・歓楽街等において、暴走族の元構成員等を中心とする集団に属する者が、集団的又は常習的に暴行、傷害等の暴力的不法行為等を行っている例がみられる。こうした集団は、暴力団と同程度の明確な組織性は有しないものの、暴力団等の犯罪組織との密接な関係がうかがわれるものも存在しており、様々な資金獲得犯罪や各種の事業活動を行うことにより、効率的又は大規模に資金を獲得している状況がうかがわれる。平成26年末現在、警察では8集団(公表は、「関東連合OBグループ」「チャイニーズドラゴン」「打越スペクターOBグループ」「大田連合OBグループ」の4集団)を準暴力団と位置付け、実態解明の徹底及び違法行為の取締りの強化等に努めている」と記載されています。つまり、半グレ自体、そもそも「暴力団等の犯罪組織との密接な関係がうかがわれる」ものでもあり、みかじめ料徴収スキームも、特殊詐欺の組織的構造(半グレが特殊詐欺グループを率いており、その背後に暴力団はいるという構図)と同様、その一つの形態であると言えます。しかしながら、これだけ暴力団等と密接に関わりながら、看過できない犯罪を繰り返す状況をふまえれば、準暴力団についても、その規制を暴力団並みに厳しくすることで、その活動を抑え込んでいくといった検討も急がれる状況ではないでしょうか。
さて、本コラムでは、暴力団離脱者の支援についても社会的な重要課題であると捉え、たびたび取り上げています。前述のテロリスクへの対応のところでも触れましたが、ISからの帰還者の更生において、デンマークで実施され成果を上げているような「過激化抑止・脱過激化プログラム」を応用していくことも考えられるところです。この離脱者支援がなかなか上手くいかない理由のひとつに、事業者や地域社会が暴力団離脱者を「迫害し排除しようとする空気がある」ことが挙げられます。離脱者支援が、暴排を積極的に推進していることの裏返しの取り組みであるにもかかわらず、そこに矛盾を感じてしまう空気感を払しょくすることができないのも事実です。その結果、せっかく離脱しようとした決意も、事業者や地域社会に受け容れられない現実を前に容易に崩れてしまうのだと推測されます。暴力団離脱における官民および地域社会の三位一体となった社会復帰支援実現のためには、デンマークの「メンター(助言者)」が、とにかく対象者に寄り添って話を聞いてあげる(1対1の関係を築く)ことを徹底していることを参考として、まず、私たちが無知、無関心という態度を改め、更正し、社会復帰を希求する離脱者を新たな隣人として受け入れるための意識改革が何よりも求められていると言えます。暴力団が、歴史的に社会に馴染めない者や犯罪経験者などを受け入れて来た「セーフティネット」(受け皿)機能を果たしていたことは否定できず、暴排活動は、一面ではそのような機能をなくそうとしているわけですから、社会全体がその代替のセーフティネットを構築しない限りは、結局、離脱者支援は機能せず、暴力団はなくなっても反社会的勢力はいつまでも存在し続けることになります。理想論としてはこのような形となりますが、少なくとも「1対1の関係を築き」ながら現実に増加し続ける離脱者を支えている方々の取り組みを阻害しない暴排のあり方(企業が無関心のままでいることや、更生しようとする者の受け容れを無自覚・無批判・無制限に拒絶し続けている状況を、社会的に少しずつ変えていくこと)を模索すべき状況にあると言えます。
その他、直近の暴力団情勢について、報道されているものの中からいくつか列記しておきます。
- 暴力団特有の上納金を巡る脱税事件で所得税法違反に問われた特定危険指定暴力団工藤会総裁の野村悟被告(70)が、福岡県警に逮捕された平成26年9月以降初めて公開の法廷に姿を見せました。福岡地裁で開かれた初公判では、検察側は「上納金は野村被告に帰属する」とした一方、弁護側は「工藤会に帰属する」として無罪を主張、上納金が課税対象となる野村被告個人の所得に当たるかを巡って両者が全面対決する構図となっています。また、公判では、工藤会に平成17年5月以降、北九州地区で工事を受注した建設会社や新規開店したパチンコ店などから継続的に資金が渡っていたといった事実などが明かされており、今後の公判でどのような新たな事実が明るみになるのかという点も注目されます。
- 工藤会を巡っては、北九州市小倉南区で平成22年3月、暴力団追放運動に取り組む同区自治総連合会長の男性(故人、当時75歳)宅が銃撃された事件で、福岡県警が、工藤会幹部ら組員6人を殺人未遂と銃刀法違反(加重所持)容疑で逮捕しています。福岡県警は、工藤会が暴追運動に対する報復のため組織的に事件を起こしたとみて、全容解明を進めています。
- 交通事故による休業損害を装い損害保険会社から保険金をだまし取ったとして詐欺の疑いで、福岡県警が元暴力団組員や元会社社長の男ら7人を逮捕しています。元組員が整骨院と結託して、事故被害を偽装した保険金詐取を繰り返した疑いもあるとして捜査を続けています。報道によれば、十数年で被害は1億円を超え、一部は暴力団の資金源になっていたとみられています。
- 和歌山県漁連が同県内沿岸での暴力団による被害防止に取り組もうと、「県漁協系統暴力団等排除対策協議会」を設立しています。和歌山県や同県警などのほか、全国で初めて海上保安部や税関も参加し、銃器や薬物の密売に対する水際対策などを連携して進めていくことにしています。
- 東京都は暴力団排除に向けた都民退会を開催、東京都暴排条例の基本理念である「暴力団と交際しない、恐れない、金を出さない、利用しない」を浸透させ、暴排活動を推進することを改めて確認しています。都知事は、「2020年東京五輪・パラリンピックの準備事業に、万が一でも暴力団関係企業の参入を許してはならない」と強調し、「阻止するためには官民の綿密な情報交換と連携による隙のないチェックが必要だ」と呼びかけました。
- 東証マザーズ上場のインターネット通販業「ストリーム」をめぐる相場操縦事件では、「最後のフィクサー」と呼ばれる人物ら6人の男が警視庁に逮捕されていますが、通常は”食い物にされた側”となる同社元会長の中国人の男らの逮捕状も出るなど、単純な株価操縦事件とは異なる様相を呈しています。相場操縦で得られた資金が闇社会に流れた可能性も指摘されており、警視庁による一刻も早い全容解明が待たれます。なお、仕手筋などいわゆる「反市場勢力」は、10年以上前のIPOバブルの頃に暗躍していましたが、最近も、同様の手口や、太陽光など新エネルギー事業や仮想通貨周辺など新たな手口を使って表舞台に再登場しつつあり、注意が必要な状況です。
- 各金融機関においては、振り込め詐欺等の犯罪被害の拡大防止の観点から、警察庁から提供される「凍結口座名義人リスト」(以下、凍結リスト)も活用し、新規口座開設の謝絶や既存口座の凍結を行っている。こうした中、氏名等が凍結リストに掲載されたことで、別口座の利用もできず、生活に支障をきたしている等の指摘がある
- 全国銀行協会では、本年6月に凍結リストの運用に係る「事務取扱要領」を改正し、名義人が凍結リストに合致した場合には、直ちに新規口座開設の謝絶等を行うという従前の取扱いを改め、こうした措置を行うか否かは各行の判断に委ねることとなった
- 実際の凍結リストの運用において、営業店等の現場がどのような点を確認すれば良いのか、業界として具体的な判断基準や事例等を示すことが必要であり、全銀協に対し、凍結リストの運用について、更なる対応の検討を要請しており、各行の御協力をお願いしたい
- インターネット技術を使うIP電話の転送機能を悪用した振り込め詐欺などの特殊詐欺が増えています。転送機能を使えば携帯電話などから固定電話を装う番号で発信でき、調達コストも安いことから詐欺グループが目を付けているもので、現在は犯罪に使われた回線を強制的に停止する法令もなく、国や警察は不正利用対策の強化を検討しているということです
- 電子マネーのギフトカードをだまし取る特殊詐欺をめぐり、大阪市内のコンビニで警察の対策訓練が行われた翌日、想定とまったく同じ事態が起き、店員が被害を防いだという事案がありました。報道によれば、店員は「指導がなければ何の疑いもなく販売していた」とのことで、訓練の重要性がよく分かる事例となりました
- これまでも本コラムでは取り上げてきましたが、振り込め詐欺など特殊詐欺の被害を防ごうと高齢者のATMの利用を制限する銀行、信用金庫、信用組合が昨年7月から1年あまりで全国の過半数の270機関に広がったということです。利用制限によって被害を阻止したケースも75件確認されています。比較的規模が小さい地方の金融機関が中心の取り組みだったものが、その効果の大きさから大手銀行も検討を始めています
- 仏の教えを説く「法話」で、特殊詐欺の実情を伝えながら被害防止につなげる取り組みを宮城県内の浄土宗の住職たちが続けているとのことです。高齢者が被害にあいやすい特性にマッチした取り組みだと言えますが、被害件数は高止まりの状態で、1宗派では活動に限界もあることから、11月には様々な宗派の代表者が集まる会合で啓発の輪を広げていきたい考えだということです
- 大阪府警黒山署は、「特殊詐欺に注意!自分だけは大丈夫と思っていませんか?」などと書かれている「特殊詐欺被害防止プレート」をタクシー車内に掲示するため、大阪第一交通に交付しています。特殊詐欺にねらわれることが多い高齢者はマイカーなどではなく、タクシーを使うことが多いとの特性をふまえ、被害の未然防止が狙いだということです
- 大阪地検が、東日本大震災支援をかたった特殊詐欺事件の被害者に、犯人グループから押収した現金約3億5,000万円を返還する手続きに入るということです。詐欺事件などの犯罪収益を被害回復に充てる制度に基づき返還されるもので、大阪府警が隠されていた現金を見つけ出していたものです。特殊詐欺事件の返還額としては、過去最高だということです
- 還付金名目の特殊詐欺の手口を周知するため、大阪府警天王寺署は、犯人が電話で高齢者をだまそうとする実際の音声を同署HPで公開しています。電話を受けた男性は不審に思って同署に相談、詐欺にはあわなかったが「被害防止に役立ててほしい」と録音していた音声を提供したものだということです。リアルなやり取りですので、是非、一度聞いてみていただきたいと思います
- 昨年施行された改正犯収法においては、FATF 勧告の内容を踏まえ、「リスクベース・アプローチ」の考え方が採用された。これは、各金融機関がそれぞれの業務の特性等を踏まえたリスク評価を行い、リスク評価結果に応じた対応策を採ることを求めるものである。
- マネロン等は、ひとたび顕在化すれば、国際的な非難や制裁の対象となり得る大きな問題である。海外業務を行っていない金融機関であっても、テロ資金の供与やマネー・ローンダリングは外国為替に限定されるものではなく、業界全体としてAML/CFT 態勢の強化を進める中、態勢整備の遅れた金融機関ほどマネロン等のターゲットにされる可能性が高まる。また、2019 年には、AML/CFT 対応の実効性等について、FATF 第4次審査が予定されている
- 経営陣の皆様には、AML/CFT 対応を経営管理上の重点課題として再認識していただき、自金融機関の態勢整備の状況について、今一度、点検するとともに、実効性の向上に向けた継続的な取組みをお願いしたい
- 幻覚作用のある「マジックマッシュルーム」約30グラムや、危険ドラッグの原料となる指定薬物約3グラムを、航空郵便でオランダから関西空港に輸入した疑いで、麻薬及び向精神薬取締法違反(輸入)などの疑いで女性が逮捕されています。海外インターネットサイトで注文し、1万5,000円相当の仮想通貨「ビットコイン」で支払ったとされます
- インターネット上で個人情報をだまし取る「フィッシング詐欺」を監視するフィッシング対策協議会は、ビットコインなどを扱う国内大手の仮想通貨取引所「ビットフライヤー」を装った偽メールが出回っているとの緊急情報を出しています。メール内のリンクをクリックすると、偽サイトに誘導されるもので、IDやパスワードなどを入力しないよう注意を呼び掛けています
- 「仮想通貨に投資すれば儲かる」という甘い誘いに引っかかる人が急増しており、仮想通貨をめぐって国民生活センターに寄せられた相談はすでに昨年を上回り、1000件を突破する勢いだということです。仮想通貨は700種類以上あるとされ、なかにはその実在すら怪しいものもあることから、メリットだけではなく、事例等もふまえ慎重に判断する必要があります
- 消費者庁は、仮想通貨をうたい「クローバーコイン」の価値が上がると言って連鎖販売取引(マルチ商法)をしたのは特定商取引法違反(不実告知など)に当たるとして、札幌の事業者に連鎖販売取引の契約など3カ月の一部取引停止を命じています。消費者庁が仮想通貨絡みで取引停止命令を出すのは初めてですが、コインは社内で管理され、一般に流通しておらず取引もされていないようです
- 滋賀県の山林で今年7月、名古屋市の女性の他殺体が見つかった事件で、女性の仮想通貨「ビットコイン」をだまし取ったとして、電子計算機使用詐欺の疑いで、(既に強盗殺人罪で逮捕・起訴されている)無職の男(21)が再逮捕されています。4月に仮想通貨に財産価値を認める改正資金決済法(資金決済に関する法律)が施行されてから、仮想通貨 を不正に入手した疑いでの立件は全国的に珍しいということです
- 価格下落の可能性
- トークンは、価格が急落したり、突然無価値になってしまう可能性がある
- 詐欺の可能性
- 一般に、ICOでは、ホワイトペーパー(注)が作成される。しかし、ホワイトペーパーに掲げたプロジェクトが実施されなかったり、約束されていた商品やサービスが実際には提供されないリスクがある。また、ICOに便乗した詐欺の事例も報道されている
(注)ICOにより調達した資金の使い道(実施するプロジェクトの内容等)やトークンの販売方法などをまとめた文書 - 北朝鮮による相次ぐ弾道ミサイルの発射を受け、万一の飛来に備える訓練が全国各地で行われています
- 山梨県内初の住民避難訓練が山梨市で行われています。国と県、市が協力し、児童・生徒を含む計約1,200人の住民が参加、訓練は全国の自治体で実施され、今回で19回目、参加人数は過去最多とのことです/li>
- 内閣官房や静岡県などは、ミサイル飛来時に運行中の大井川鉄道の電車に乗った客を避難させる訓練を実施しています。静岡県によると、電車の乗客を対象にミサイル飛来を想定した訓練を行うのは全国初だということです
- 年間800万人以上が訪れる日本有数の観光地、長野県軽井沢町で、北朝鮮による弾道ミサイル発射を想定した住民の避難訓練が行われています。国や県、町が共同で実施し、住民50人が参加したということです
- 兵庫県と神戸市は、弾道ミサイルの一部が神戸市内に落下したと想定した初めての図上訓練を実施しています。県や市、県警、自衛隊から約80人が参加し、情報収集など初動対応の手順を確認しています。国民保護法に基づく定期的な訓練で、従来はテロに備えた訓練などを行っているところ、最近の北朝鮮情勢を受け、ミサイル発射を初めて対象としたということです
- 2020年東京五輪を見据えたテロ対策の一環としての訓練も首都圏で行われています
- 横浜港の危機管理体制を強化してテロを未然に防ごうと、関係機関による「横浜港水際危機管理対応合同訓練」が、横浜市中区の大さん橋ふ頭周辺で行われています。合同訓練には、県警や横浜海上保安部など計13機関から約250人が参加したということです
- 政府と神奈川県、同県藤沢市は、2020年東京五輪のセーリング会場となる江の島で、自衛隊や県警、医療機関などが参加するテロ対策訓練を実施しています。最寄りの小田急片瀬江ノ島駅に到着した電車内で爆発が起き、江の島のヨットハーバーの建物に猛毒のサリンが散布されたとの想定で、地域住民らも参加して被災者の救出や搬送などの手順を確認、海上では小型船で逃走するテロ犯を海上保安庁が捕まえる訓練も行われました
- 兵庫県警明石署などは、山陽電鉄東二見車庫で、実際の車両を使ったテロ対処訓練を実施しています。明石署が市内の企業・団体などと連携してテロ防止に取り組もうと、10月に発足させた「テロ対策パートナーシップ」による初の訓練で、同署や市消防本部、市立市民病院など4団体から総勢約110人が参加、踏切内にトラックが突入して3両編成の電車に衝突、多数の負傷者が出たとの想定で実施されたということです
- 総務省消防庁は外国人に配慮した避難訓練プログラムの開発に取り組んでいます。訪日外国人客らが災害に見舞われた際の避難誘導に活かそうと、今年度中に東京都内や川崎市内など6カ所で訓練を試行し、外国人参加者から意見を聴き、外国人に伝わりやすい誘導方法などのノウハウを構築し、自治体や民間企業を通じて普及を目指すということです
- 国連が創設した11月5日「世界津波の日」をふまえ、国内各地で津波を想定した避難訓練が行われています
- 南海トラフ巨大地震に備え、徳島県は、全国で初めて民間航空機の定期便を使った支援物資の輸送訓練を行っています。高松空港に到着した全日空機から物資を流通大手や陸上自衛隊のトラックに載せ、徳島県内の指定避難所などの施設に運び込むもので、都道府県などの要請を待たず、国が水や食料などを送り込む「プッシュ型支援」を想定してのものということです
- 宮崎県や国土交通省などは、南海トラフ巨大地震を想定した大規模防災訓練を宮崎市で実施しています。警察、消防、自衛隊など145機関や地域住民ら約3,000人が参加し、津波からの避難や負傷者の救助活動に取り組んだということです
- 「世界津波の日」の由来となった逸話「稲むらの火」で知られる和歌山県広川町では、安政南海地震の犠牲者を追悼する「津浪祭」や避難訓練などが行われ、住民らが災害への備えや防災意識の向上を確認、また、内閣府は、準天頂衛星システム「みちびき3号機」を活用し、避難者の安否情報を収集する実証実験を町内で実施しています
- 浜松自転車協会は、大規模地震が起きた際、津波からの避難を想定した自転車走行会を浜松市内で行っています。東日本大震災では車で避難しようとして渋滞に巻き込まれ、大勢の犠牲者が出ましたが、自転車を用いた津波避難訓練は全国でも例が少ないということです
- 神奈川県と同県箱根町は、富士山と箱根山の噴火警戒レベルが5(避難)に引き上げられたとの想定で、地域住民や警察などが参加して防災訓練を同町で実施しています
- 滑走路上での航空機事故を想定した大規模訓練が羽田空港で行われ、消防や警察、医師会など62の関係機関から約300人が参加しています。消火活動と並行し、機内から次々と乗客を救助、けがの程度に応じて治療の優先順位を決める「トリアージ」を行い、重症者から搬送する態勢を確認するといった内容です
- 政府は、新型インフルエンザの流行を想定した訓練を首相官邸で開き、安倍首相や閣僚らが対応の手順を確認しています。訓練の骨子、対応要領等については、内閣官房のサイトで公表されており、これも事業者の訓練等にも役立つのではないかと思われます
- 金融庁は、サイバーセキュリティ対策の合同演習を行っています。地銀や保険、証券のほか労働金庫や貸金業者など計101の金融機関が参加、ウイルスに感染した際の対処法や報告手順を共有し、世界に広がるサイバーテロに対応する目的があるということです
- トマト銀行は、特殊詐欺被害の撲滅に向け、「声かけ訓練」を行っています。区役所職員を名乗る「特殊詐欺犯人」から「医療費還付が35,000円あります」との電話があり、被害者が来店する設定で行われたということです。訓練後には、店内・ATMコーナーで特殊詐欺被害防止の啓発活動も行われています
- 中止命令の対象となる禁止行為を追加(例:少年に対する有害行為目的での面会の要求、電話やファックス、つきまとい及び待ち伏せなどを追加)
- 中止命令の実効性を確保するために命ずることのできる事項を拡大(例:暴力団事務所に少年を立ち入らせてはならないと命ずるほか、暴力団事務所に少年を立ち入らせる目的で、呼び出しの電話をしてはならないことを命ずるなど)
- 再発防止命令を創設(禁止行為が反復されるおそれがある場合、期間を定めて不特定の少年に対して同種違反をしてはならないことを命ずる規定を追加)
- 早期に中止命令を発出するために手続を変更(これまで公安委員会が行ってきた中止命令の発出を、警察署長に委任することで早期に中止命令を発出できるように変更。また、中止命令という不利益処分に対する異議申し立ての聴取に割いていた時間を短縮し、行政手続条例適用除外へ変更)
(2) 厳格な顧客管理のあり方
反社会的勢力の巧妙化や不透明化の深化に伴い、これまでも指摘してきた通り、「真の受益者」の特定の困難さが深刻化しています。企業は「目に見えない相手」との戦いを強いられていますが、反面、それは事業者に「どこまでやるか」という本気度を迫るものだとも言えます。顧客の利便性を追求するあまり、表面的なチェックで「見つからない」ことをよしとすることで本当によいのか、あらためて事業者に問いたいと思います。技術革新の恩恵は犯罪者にも等しくもたらされる中、そのような考えは、悪意ある者を軽視し過ぎであって、不十分な取り組みは、むしろ犯罪組織を助長することにつながりかねないことに注意が必要です。
反社会的勢力自体も、準暴力団や特殊詐欺グループが台頭することで、その様相をますます多様化させており、そのような状況の変化に対して、自社の取組みが暴排(反社会的勢力排除)という社会の要請を充足するだけの「厳格な顧客管理」と呼べるレベルにあるのか、今後、あらためて問われるようになると言えます。例えば、特殊詐欺という犯罪を助長する「犯罪インフラ」事業者である悪質な不動産事業者やレンタル携帯事業者などと取引することは、自社が間接的に特殊詐欺に加担していることになる「分かりやすい構図」です。それでもなお、そのような者と取引をすべきかと問われれば、結論は自明ですが、ではそのような事業者でないかどうかを見極めるだけのチェック態勢が整っているのかと問われれば、十分な取り組みができているとは言えない事業者も少なくないのではないでしょうか。つまり、反社会的勢力の変化に対して、「どこまでやるか」「どこまで本気で取り組むか」が、社会全体からの暴排においても重要な意味をもつことになるのです。
また、「厳格な顧客管理」は、今後ますます、実務として暴排の枠を大きく超えていくことになります。前述のような「取引NG形態の多様化」が企業実務に大きな影響を及ぼし始めていると言えます。具体的に考えてみると、今や反社会的勢力をはじめとする犯罪組織、マネー・ローンダリングやテロ組織に対する資金供与のみならず、北朝鮮等への経済制裁、特殊詐欺等を支える犯罪インフラなど、「取引NG」の範囲は拡大する一方です。一方で、贈収賄やカルテル、タックスヘイブン経由の不透明な取引、不公正取引への関与といったコンプライアンスの要請の拡大、さらには、「倫理的(エシカル)消費」や「持続可能な開発目標(SDGs)」「ESG投資」などに代表される「健全性」の意味の拡大・多様化も視野に入れる必要があります。例えば、少年の強制労働により収穫されたコーヒー豆の取引はフェアではない、あるいは、環境破壊を行っている企業への融資は金融機関として行うべきではないというのが現在の世界的な潮流となっており、そのような観点もまた「厳格な顧客管理」のひとつの要素となるのです。
加えて、自らの商流の健全性を確保するための「サプライチェーン・マネジメント」(KYCからKYCCへ)、「モニタリング」も重要なキーワードだと言えます。既に、暴排やAML(アンチ・マネー・ローンダリング)/CTF(テロ資金供与対策)の実務において、相手先と「点」でつながるところだけを確認するのでなく、相手を取り巻く状況を可能な限り「面」で確認することで、取引の健全性を確保するという発想が、犯罪組織の手口の巧妙化への対応策として求められていくことになります(例えば、平成27年版警察白書に紹介されている「今の時代、暴力団構成員自らがシノギ(資金獲得活動)を行うことは難しいので、不良グループや破門者(元暴力団構成員)を利用し、堅気(かたぎ)の者を会社の代表者にして経営させている」との事例が、正にその必要性を示しています)。また、暴排実務では、「入口」と「出口」だけでなく、継続的に取引先の健全性等をモニタリングする「中間管理」が定着しつつあり、犯罪の手口の高度化や反社会的勢力(一般的に犯罪組織と置き換えてもよいでしょう)の不透明化の実態から「入口」で完璧に排除することが困難であることをふまえ、既に取引してしまっている反社会的勢力をモニタリングによって抽出し排除していくといった、新たな顧客管理のあり方に変化しています。これもまた「厳格な顧客管理」のひとつであり、その実務においては、取引NG形態や健全性の意味の多様化もふまえ、「今の社会の目線から見て取引してよいか」を常に検証する「ジャッジメント・モニタリング」が、コンプライアンス・リスク管理に不可欠なものとなっています。例えば、以前は、中国の工場で北朝鮮の労働力を使った生産が行われていても特段問題がなかったものが、今では制裁対象になりうるといった事例がそれに当たると言えます。また、座間市の事件のように、悪意を持って物件を借りにきた者を見極めることができなかったのかといった社会からの批判の高まりから、今まで以上に厳格に顧客の端緒を見極める「現場の目」の精度の向上(目利き力の向上)が要請されるようになるだろうというのも同様の考え方だと言えます。
このように、今後、入口のチェックの限界をモニタリングの強化で乗り越える構図はますます強まると言えますが、実務的には、モニタリングの重要性が増すということは、属性だけなく「行為(ふるまい)」検知の強化、端緒情報収集=従業員の目利き力の強化が求められることになります。そのためには、AIやロボットなどシステムの高度化とともに高いリスクセンスとコンプライアンス意識を持った人材を育成するという両面からの取り組みが必要であり、高度化する犯罪への対応として「厳格な顧客管理」に多様な視点が求められる中、事業者の本気度が問われることになります。
(3) 特殊詐欺を巡る動向
警視庁が平成29年上半期の特殊詐欺の状況についてまとめています。毎月の警察庁による特殊詐欺の状況統計からは見えてこないものの、興味深い状況もありましたので、まずは紹介します。
警視庁管内における平成29年上半期の被害については、認知件数1,513件、被害額約34億5,846万円で、前年と比べ、認知件数は648件(+75%)、被害額は約9億2,560万円(+37%)増加しています。うち、オレオレ詐欺が、認知件数の56%を占め、被害額の67%を占め、被害者の74%(1,127人)が70代以上、男女別では、79%(1,194人)が女性となっています。さらに、200万円未満の被害が72%を占める一方、1,000万円以上の高額被害も依然として多発している状況にあります。また、現金手交及び送付による被害が減少し、振込、カード手交及び電子マネー等による被害が増加している点(平成28年上半期28件から、平成29年上半期380件(+352件、+1257%)へと急増しています)は、全国的な傾向と同じです。なお、オレオレ詐欺(現金詐取)では、被害者の91%(424人)が70代以上、男女別では、83%(387人)が女性であり、いずれも、特殊詐欺全体の数値と比べ高くなっている点が特徴的です。また、オレオレ詐欺(現金詐取)では「鞄を置き忘れた」を口実としたものが76%を占めること、オレオレ詐欺(キャッシュカード等詐取)では「警察官騙り」及び「百貨店騙り」を口実としたものが82%を占めること、さらに架空請求詐欺では、特に「有料サイト利用料名目」が増加していること、「医療費等の還付金名目」でキャッシュカードを手交する被害が発生していることなどの指摘は大変興味深いものだと言えます。
一方、「受け子」の検挙人員は、全体の62%を占めており、犯行拠点(アジト)の摘発は18箇所・61人と、前年と比べ3箇所増加するも4人減少の結果となっています。また、検挙人員のうち、121人(42%)が暴力団構成員等であり、その割合が高いことが注目されます。さらに、検挙被疑者は、10代から30代で全体の88%を占め、60代以上の被疑者も5人(2%)となっていることも興味深い点です。また、前年に比べ、未然防止件数は増加するも防止金額は減少しており、金融機関職員による未然防止が、全体の67%を占めている点は、全国的な傾向に同じだと言えます。また、金融機関における被害金の方法別調達状況では、前年と比べ窓口での調達割合が減少し、ATMでの調達の割合が増加している点は、金融機関の取り組みや詐欺事案の状況からみてその通りだと思われる状況です。
続いて、例月に同じく、警察庁の統計資料から、平成29年1月~9月の状況を確認します。
平成29年1月~9月の特殊詐欺全体の認知件数は13,172件(前年同期 10,092件、前年同期比 +30.5%)、被害総額は243.9億円(同285.5億円、同▲14.6%)となり、ここ最近と同様、件数の大幅な増加と被害総額の大幅な減少傾向が続いています。件数の増加については、(前年比で)還付金等詐欺の猛威が衰えつつあるにもかかわらず、代わって架空請求詐欺の増加が激しいことがその主な要因と思われます。
類型別では、特殊詐欺のうち、振り込め詐欺(オレオレ詐欺、架空請求詐欺、融資保証金詐欺及び還付金等詐欺を総称)の認知件数は12,964件(9,685件、+33.9%)、被害総額は230.1億円(261.6億円、▲11.9%)と、特殊詐欺全体および前月と全く同様の傾向を示しています。また、振り込め詐欺のうち、オレオレ詐欺の認知件数は5,835件(4,261件、+36.9%)、被害総額は113.8億円(115.1億円、▲1.1%)と高止まりの状況にあるほか、架空請求詐欺の認知件数は4,105件(2,424件、+69.3%)、被害総額は82.1億円(109.7億円、▲25.1%)、融資保証金詐欺の認知件数は449件(311件、44.3%)、被害総額は5.4億円(5.3億円、+1.9%)、還付金等詐欺の認知件数は2,575件(2,689件、▲4.2%)、被害総額は29.4億円(31.5億円、▲6.7%)などとなっています。融資保証金詐欺の被害総額が前月までの減少傾向から一転して増加に転じたこと、何よりも還付金等詐欺の認知件数、被害総額ともに減少に転じたという大きな変化が見られたことは大きな特徴だと言えます。
なお、参考までに、口座詐欺の検挙検数は1,154件(1,086件、▲2.7%)、検挙人員は658人(697人、5.6%)、犯罪収益移転防止法違反の検挙件数は1,764件(1,229件、+43.5%)、検挙人員は1,426人(922人、+54.7%)と、総じて犯罪インフラ型の犯罪の検挙が伸びている状況がうかがえます。また、特殊詐欺全体の被害者について、性別別では、男性28.0%に対して女性72.0%となっているほか、年齢別では、70歳以上が61.9%を占めています。特に、オレオレ詐欺の被害者の年齢構成では60歳以上で97.9%、還付金詐欺についても97.9%を占めていますが、オレオレ詐欺を例に前述の警視庁管内のデータ(70歳以上が74%)と比較すると、警察庁のデータ(70歳以上だけで88.9%を占める)の方が全体的に高齢者の被害に集中している傾向がある点は興味深いと言えますが、結論的には、高齢者対策の重要性が示唆されているという点に変わりはありません。
また、以前の本コラム(暴排トピックス2017年9月号)で取り上げた振り込み詐欺対策に係る口座凍結等の取り扱いについては、その後、金融庁から業界団体に対して以下のような要請がなされています。
▼金融庁 「業界団体との意見交換会において金融庁が提起した主な論点」を更新しました
これを受けて、全国銀行協会(全銀協)は、10月中にも凍結口座名義人リストの運用に関する実務指針を示すことが報道されていますが、現時点(原稿執筆時点)で公表が確認できていませんので、公表され次第あらためて紹介したいと思います。
また、オレオレ詐欺で詐欺未遂罪に問われた男(21)の上告審で、最高裁第1小法廷は、来年3月1日に弁論を開くと決めました。「人を欺く行為がない」として、逆転無罪とした2審東京高裁判決が見直される可能性があり、大変注目されるところです。報道によれば、被告の男は受け子役で、詐欺グループのメンバーから指示を受け、女性宅に現金を受け取りに向かう途中、警察官に逮捕されたものですが、東京高裁は今年2月、女性に現金を渡すよう求めた明確な発言はなく、罪が成立するための「人を欺く行為がない」として、逆転無罪としていたものです。
さて、ここからは、例月に同じく、特殊詐欺対策として有効と思われる対策や実際に効果のあった対策などについて、最近報道されたものを紹介します。
(4) AML/CTFを巡る動向
AML/CTFの実務においては、本人確認の精度が極めて重要であることは、本コラムでもたびたび指摘してきました。最近では、非対面取引等が増加する中、犯罪対策の一環として、犯罪収益移転防止法(犯収法)上の特定事業者以外でも本人確認を導入したり、その精度を高めようとする取り組みが見られるようになりました。例えば、アプリを使ったフリーマーケット・ビジネスを展開するメルカリでは、盗品やコンピューターウイルスの入手方法などが売買されるケースが続いたことから、出品時の個人情報登録で悪質な出品への警戒を強化する必要に迫られ、アプリを使った初回の出品時に住所や氏名、生年月日の登録について、年内をめどに義務化されることになりました。さらに、振り込み時に口座の名義などと一致しない場合は、売上金の振り込みを受けられなくなることや、窃盗事件の被害品と似た出品があった場合は、警察に情報提供するなどの対応も検討しているということです。また、同様のビジネスを展開する楽天のグループ会社でも、メルカリと同様に初出品時の住所、氏名、生年月日の登録を義務化する方針を示しています。
つまりは、ネットによるフリマというビジネスモデルを維持していく(犯罪インフラ化を阻止する)ためには、正に、「入口・中間管理・出口における厳格な顧客管理」が必須であることが示されたと言えると思います。毛色は異なりますが、似たような構図のものとしては、米フェイスブック社が、同社のSNSに掲載される政治広告について広告主に身元や資金源の開示を求めると発表したことが挙げられます。同社に対しては、2016年の米大統領選で有権者を惑わす広告の掲載を許したとの指摘が(最近では、タックスヘイブン経由でロシアから資金提供がされていたとの指摘も)出ており、米議会に法規制を求める声もくすぶるなか自主規制で対応する形となりますが、これなども、「真の受益者」の特定と本人確認の精度向上がビジネスモデル維持(犯罪インフラ化の阻止による公益の実現)という観点から不可欠となった事例だと言えます。
また、AML/CTFの実務においては、特に犯収法上の「疑わしい取引」の届出に苦労しているとの話をよく耳にします。その点について、最近では、人工知能(AI)やRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)を活用したリスク情報の収集と報告手続きの効率化が進められているようです。報道(平成29年9月29日付日本経済新聞)によれば、三井住友FGでは、4月からの半年間で、年約40万時間分の銀行業務を自動化したということです。数年前までは、メガバンク等では、疑わしい取引を検知するためのシステムを導入し、機械的に抽出された相当数の情報を精査したうえで金融庁に届出を行っていましたが、一方で、現場の行員が「疑わしい」として届け出た情報の方が、圧倒的に精度が高かったとの報告を聞いたことがあります。それだけ、現場の目が重要であることの証左ではありますが、AIやRPAが導入されてもその重要性に変わりはなく(例えば、AI等は繰り返しの学習によりその精度を高めていきますが、全く新しい発想の犯罪や手口を「怪しい」と最初に判断できるのは、正に「プロの目」に他ならないはずです)、システム化による業務の質・量の劇的な向上と、プロという人材の育成を両輪で進めていくことが必要だと言えます。
また、前回の本コラム(暴排トピックス2017年10月号)などでも紹介していますが、AML/CTFの国際基準を策定しているFATF(金融作業部会)から受ける第4次相互審査について、これまでの態勢整備状況中心の審査から、対策の「実効性」も評価されることになり、金融機関等特定事業者を中心とした取り組み状況が審査対象になること、実効性に不備があることが判明すれば、国内の地域金融間であっても、海外の金融機関等から厳格な対応をされる可能性があることから、金融庁が強い危機感を抱いています。金融庁と業界団体との意見交換会においても、金融庁からそのあたりの問題提起がなされていますので、ご紹介します。
▼金融庁 「業界団体との意見交換会において金融庁が提起した主な論点」を更新しました
そこでは、大きな論点の1つとして、「AML/CFTの重要性」が掲げられており、その具体的な内容は以下の通りです。本コラムでこれまで指摘してきた懸念点が端的に示されていますので、参考になります。
このような金融庁の強い意向もふまえ、10月末には、全国地方銀行協会(地銀協)は、会員行のAML/CTFを支援するため、「マネロン等対応ワーキンググループ」を設置しています。FATFの第4次審査に関して会員行の実務支援や情報提供、金融庁との連携強化を目的としており、具体的には、「会員行がリスクベース・アプローチに基づき、自行の弱点や狙われやすい点についてマネロンリスクを評価し、リスクに応じた防止措置を組み立てていく取り組み」を支援するもので、好事例の共有やFATF審査目線の態勢整備支援を進めていくということです。前回の本コラム(暴排トピックス2017年10月号)で紹介した通り、金融庁の直近の地銀28行に対する検査の結果、AML/CTFに十分に取り組めていない現状が明らかとなっています。とりわけ国際的に緊張の高まる北朝鮮関連の制裁対応やテロ資金供与対策において、これまで以上に資金の流れに十分注意する必要がある(厳格な顧客管理を講ずべき)ところ、このままでは、日本の金融システムに対する国際的な信頼が大きく毀損される状況になりそうです(犯罪者や悪意は脆弱な部分を悪用することから、国際金融システムの中に抜け穴があってはならないとする考え方が一般的であり、日本も例外ではありません)。金融庁による公助、地銀協による共助だけでなく、地銀自らがリスクべース・アプローチによるリスク評価・リスク対策に着手し、PDCAサイクルを回して実効性を高めていく強い覚悟(自助)が求められていると言えます。
(5) 仮想通貨を巡る動向
仮想通貨やそれを支える技術であるブロックチェーンを巡っては、その技術革新や応用技術の進歩のスピードに驚かされているところですが、一方の「悪用リスク」「犯罪インフラ化」に関する報道も増えてきているように思われます。
直近では、仮想通貨「リップル」の取引を巡り、全国の顧客40人以上から約1,700万円をだまし取ったとして、警視庁サイバー犯罪対策課が、仮想通貨取引所「リップルトレードジャパン(RTJ)」代表を詐欺容疑で逮捕するという事件がありました。仮想通貨の犯罪インフラ化が懸念される脆弱ポイントのひとつが「取引所」であることは、以前の本コラム(暴排トピックス2017年8月号など)でも指摘してきたところですが、RTJは、代表1人で運営されていたほか、客からの預かり金を外国為替証拠金取引(FX)への投資に流用するなど、すさんな実態が明らかとなっており、その懸念がまたひとつ現実のものとなったと言えます。仮想通貨そのものについても、ハッキングによる不正送金や信用度の低い取引所の倒産で、資産が消失するリスクの高さは相変わらず解消されておらず、利用者はリスクを十分に認識したうえで、こまめな取引履歴や残高の確認、秘密鍵の厳重な管理など、慎重に取り扱うことが求められます。また、仮想通貨を巡っては、他にも以下のような事件に登場しており、危険性がさらに拡がっている(犯罪インフラ化が進行している)点が懸念されます。
▼フィッシング対策協議会 bitFlyer をかたるフィッシング (2017/11/06)
▼消費者庁 連鎖販売業者【48ホールディングス(株)】に対する業務停止命令及び指示について
なお、仮想通貨の法律上の位置づけについては、資金決済に関する法律の第二条の5第一項において、「仮想通貨」とは、「物品を購入し、若しくは借り受け、又は役務の提供を受ける場合に、これらの代価の弁済のために不特定の者に対して使用することができ、かつ、不特定の者を相手方として購入及び売却を行うことができる財産的価値(電子機器その他の物に電子的方法により記録されているものに限り、本邦通貨及び外国通貨並びに通貨建資産を除く。次号において同じ。)であって、電子情報処理組織を用いて移転することができるもの」と定義されています。
つまり、(1)代価の弁済のために不特定の者を相手に利用でき、(2)不特定の者を相手型として購入及び売却ができ、(3)電子情報処理組織を用いて移転することができるもの、という3つの要件を満たすものということとされています。
仮想通貨の持つ危険性という意味では、金融庁も、仮想通貨技術を使った資金調達(ICO=イニシャル・コイン・オファリング)の利用者や事業者向けに注意喚起を促す文書を公表しています。
当該文書では、ICOを、「企業等が電子的にトークン(証票)を発行して、公衆から資金調達を行う行為の総称。トークンセールと呼ばれることもある」と定義したうえで、以下の高いリスクがあると警告しています。
さらに、事業者に対して、ICOの仕組みによっては、資金決済法や金融商品取引法等の規制対象となると指摘し、ICO事業に関係する事業者においては、自らのサービスが資金決済法や金融商品取引法等の規制対象となる場合には、登録など、関係法令において求められる義務を適切に履行する必要があり、登録なしにこうした事業を行った場合には刑事罰の対象となると注意喚起しています。
【注(金融庁)】 ICO において発行される一定のトークンは資金決済法上の仮想通貨に該当し、その交換等を業として行う事業者は内閣総理大臣(各財務局)への登録が必要になる。また、ICO が投資としての性格を持つ場合、仮想通貨による購入であっても、実質的に法定通貨での購入と同視されるスキームについては、金融商品取引法の規制対象となると考えられる。
確かに、世界的には、従来の株式上場などに比べて素早い資金調達が可能となるという利便性からICOが拡がりを見せています。日本でも、仮想通貨取引所「Zaif」を運営するテックビューロは、ICOによる調達額が円建て換算で100億円を超えたと公表していますが、一方で、金融庁の指摘する通り、詐欺など犯罪のリスクも大きくなっています。この点については、本コラムでも既に紹介した通り、株式上場のような情報開示の義務が無いことから、ウェブサイトに簡単な計画書しか提示していないケースも多く、最初から事業を実現する気がない詐欺案件も存在すると言われる状況にあります。
なお、報道(平成29年11月7日付日本経済新聞)によれば、改正資金決済法の法案作成時点で、金融庁は、ICOという概念を想定しておらず、今は「数十社から問い合わせがあり、一つずつ話し合って違法性の有無を確認している」(金融庁)という状況にあるということです。資金決済法、金融商品取引法など既存の法律に照らし合わせることしかできず、対応に苦慮しているようです。
では、世界的に規制のあり方がどうなっているかと言えば、(以前もご紹介した通り)中国や韓国は9月にICOによる資金調達を全面禁止すると発表したほか、米国商品先物取引委員会(CFTC)も10月にICOを監視対象にする考えを表明しています。さらに、仮想通貨に投資する(富裕層向けの)ファンド等も登場するなど金融派生商品への展開も早まっているほか、ICOに限らず仮想通貨に対する規制という意味では、仮想通貨自体の評価は世界中で真っ二つに分かれているという混沌とした状況にあります。例えば、米金融界では、関連する新商品開発に乗り出すところがある一方で、慎重な金融機関も多いようです。なお、米の金融規制当局の発言として、「ノンバンクはテクノロジーを利用し、P2P融資(ソーシャルレンディング)やクラウドファンディング、AIを駆使した投資助言(ロボット・アドバイザー=ロボアド)などのサービスを提供して従来の銀行業務に進出しているが、当局が活動の監視をできないことにより、金融危機が引き起こされるリスクがある」(平成29年10月13日付ロイター)として、Fintech規制を急ぐべきだとする考え方も説得力があります。同様に、欧州中央銀行(ECB)専務理事は、「我々は、これ(ビットコイン)が私的な通貨であることを懸念している。
通貨というものは信頼と結びついていると考えられる」と指摘し、「世間一般の人々は、私的な通貨よりも公的な通貨に信頼を置いている。私的な通貨は、誰が本当の発行者で、どこまで保証してくれるのか誰もわからない」として仮想通貨の利用に懸念を示しています(平成29年10月13日付ロイター)。また、中国では、ビットコインの取引所が11月1日までに全面的に売買を停止していますが、規制の及ばない個人間の取引が活発化しているようです。ロシアもビットコインの規制法の原案を年内に策定する方針を明らかにしています。プーチン大統領は「マネー・ローンダリングや税収取り逃し、テロ組織への資金支援などに利用されるリスクがある」と指摘しているようですが、規制下で取引を認める方針ではないかと考えられます。さらには、北朝鮮もビットコイン獲得に関心を持っているとも言われています。
ICOや仮想通貨、さらにはFintechを巡るこれらの混沌とした状況は、見方を変えれば、大手金融機関など既存勢力と仮想通貨をベースとした新興勢力との対立構造とも言え、既存勢力や規制当局、あるいは日本として、技術革新を進めながら新たなルールの策定を進めるという、利便性と規制のバランスをどう取っていくのか、ICOや仮想通貨、Fintechとの向き合い方が問われています。
(6) パラダイス文書
ドイツの地方紙「南ドイツ新聞」が、匿名の情報提供者から、2.6テラバイトのモサック・フォンセカ法律事務所関連文書=「パナマ文書」を入手して2年が経過し、世界の富裕層によるタックスヘイブン(租税回避地)の利用実態などを明らかにして世界に衝撃を与えた「パナマ文書」は、その膨大な文書量の解析に時間がかかっていたものの、ここにきて、期待される本来の役割を果たしつつあることは以前の本コラム(暴排トピックス2017年9月号)で指摘しました。
つまり、欧州や米州の大部分の国々、韓国、インド、豪州を含む約80カ国で少なくとも150件の捜査・検査・訴追・逮捕がパナマ文書をきっかけに行われ、法人を含め6,500の納税者が当局の調査の対象となり、コロンビアやメキシコ、スロベニアなどの当局がパナマ文書の情報を使って少なくとも約1億1,000万ドル(約120億円)相当の資産を差し押さえたほか、数十億ドル(数千億円)が脱税の疑いで現在も追跡の対象となっていると言うことです。パナマ文書によって、世界的にタックスヘイブンやBEPS(税源浸食と利益移転)、課税逃れの問題がクローズアップされたことにより、国際的な包囲網として、約100の国・地域が参加する「非居住者に係る金融口座情報の自動的交換のための報告制度(CRS)」が来年までに本格稼働することとなるなど、多方面に大きな影響を及ぼしてきました。
そのような中、その解析に参加したマルタの女性記者が、同国北部で車を運転中に爆弾が爆発し死亡した事件は大きな衝撃をもって受け止められました。同記者は、マルタ首相夫妻の不正資金疑惑を報じるなど、同国随一の調査報道記者として知られており、その疑惑を首相夫妻が否定していた最中であり、最近では、脅迫を受けているとして警察に相談していたとも言われています。明らかな他殺であることからも、パナマ文書の報道によって不利益を被る者と事件との関係が疑われるところですが、それだけ「表に出ては困る」事実が同文書に語られている証左でもあり、やはり、タックスヘイブンを巡る問題の本質は、租税回避行為にとどまらず、マネー・ローンダリングやテロ資金供与、金融制裁逃れなどの犯罪を助長する「犯罪インフラ」機能にあると言えます。国際安全保障の脅威となる北朝鮮等やテロリスト、反社会的勢力などにつながる資金の流れを断ち、犯罪や脅威を抑えこむという視点から、「真の受益者」にかかる資金の流れを解明することこそ急務であり、正にその視点からパナマ文書の解析、モサック・フォンセカを経由地点として、流入と流出の両面からの資金の流れを解明することは、ますます重要になっていると言えます。
そのパナマ文書に加えて、直近では、「パラダイス文書」と呼ばれる同様の情報が明るみに出ています。パラダイス文書は、データ量こそパナマ文書に及ばないものの、1,340万通にも上る英領バミューダ諸島発祥の法律事務所「アップルビー」とシンガポールの信託業者「アジアシティー」の内部文書や、タックスヘイブンなど経済情報の透明性が低い19の国・地域の登記書類を含むもので、早速、各国の記者(67の国と地域、90以上の報道機関から記者約380人が参加)の分析結果が日々公表されています。報道によれば、1950年~2016年の66年間にわたる各国の現旧首脳を含む政治家や王族ら有力者127人の名前、法人など事業体が24,996件含まれている(うち、日本関係の個人・企業は1,056件、元国会議員3人を含む)ということであり、米商務長官と関係が深い海運会社が、米国の経済制裁の対象となっているベネズエラの国営石油企業と取引をしているという米政権を揺るがしかねない事実や、日本の大手通信会社の海外子会社での架空取引という内部不正事案(300億円超の特別損失につながる規模で、関与した元役員らの隠ぺい工作なども含め)の発覚、インドネシアの熱帯林をめぐって環境破壊を指摘されている同国の大手製紙会社がタックスヘイブンに迂回させる仕組みで、欧州の大手銀行などから多額の融資を受けてきたというESG投資や持続的な開発目標(SDGs)の理念に反する行為の発覚、(ロシアによる米大統領選への情報工作介入が問題となっている中)ロシア政府系の銀行や企業の資金が、プーチン氏に近い著名投資家が創設したファンドを通じて、米ツイッター社と米フェイスブック社に流れていたという論議を呼びそうな事実などが早速明らかとなっており、パナマ文書同様、多方面に大きな影響を及ぼしています。
さて、パラダイス文書では、個人や企業の投資先に英領バミューダ諸島や英王室属領ジャージー島などタックスヘイブンとして知られる英領の地域がよく登場しています。世界有数の金融センターであるロンドンを抱える英国は、海外領土と金融取引で強く結びついています。端的に言えば、これら英国圏のタックスヘイブンに世界のブラックマネーが流れ込み、洗浄されて、不動産市場などを通じてロンドンに還流させる構図を英が確立していたということがよく言われています。そして、最近では、米国がその資金に目を付けて、米国内に還流させようと、秘密主義で知られたスイスやルクセンブルク、英領ケイマン諸島、英領バミューダ諸島などタックスヘイブンについても、租税情報の交換や情報開示に応じるよう圧力をかけ、名指しで「改善」を求められる、高額の制裁金を課される(と突きつけられる)、といった形でその優位性や機能を失うこととなり、その結果、「米国内のタックスヘイブン」に資金の逆流が始まることとなりました(現在では、英領バージン諸島(BVI)はじめタックスヘイブン自体、手法として古くなっているとも言われており、パナマ文書やパラダイス文書がサイバー攻撃により漏えいされたと言われること、それをふまえた国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ)の調査などは、過去の悪用の痕跡を発見する(発見させる)イメージなのかもしれません)。
いずれにせよ、タックスヘイブンの問題の本質をあらためて確認する必要があろうかと思います。かつて、金融庁関係者から、BVIのファンド等を引受先にしているファイナンスは「不公正ファイナンス」である可能性が高い(さらには、「P.O BOX 957 Tortola BVI」とする私書箱を住所に使っている場合はよりその可能性が高い)との指摘がなされていましたが、そのような不公正ファイナンスの引受け手である海外のファンドの「真の所有者(beneficial owner)」は、実際は日本にいて、反社会的勢力とつながっていることも多い(いわゆる「黒目の外人」と呼ばれている人たち)とも言われており、国際的な口座情報交換制度や、パナマ文書・パラダイス文書等の分析、その他新たなリーク等により、タックスヘイブンに設立された夥しい数のペーパーカンパニーの「真の所有者」や「複雑な送金経路と資金移動の実態」が解明すること、そして、そこに関わる怪しい人脈の解明がすすむこと(過去の事案・悪用の痕跡であったとしても、そこに登場した人物や団体・組織の関連を知ることは極めて有用な情報となります)を期待したいところです。
(7) 犯罪インフラを巡る動向
サイバー空間
本コラムでもたびたび指摘している通り、「陸・海・空・宇宙」に続く第5の空間として、今や「サイバー空間」では、ネット空間を利用して政府機関やインフラの機能を麻痺させる「サイバー戦争」の危機が現実のものになりつつあります。また、このサイバー空間は、高い利便性や革新性を生み出すという「表の側面」だけでなく、企業や個人に対する攻撃の舞台として、また、ダークウェブ(闇サイト)のような様々な犯罪の交流の場(隠れ蓑)として、あるいは、高い匿名性や悪意による詐欺等の犯罪インフラとして悪用されているという「裏の側面」もあります。そのような中、とりわけ生活インフラにも犯罪インフラになりうるという意味で、サイバー攻撃への備えとして強固なセキュリティが求められる金融機関において、日銀が調査した結果が公表されています。
▼日本銀行 サイバーセキュリティに関する金融機関の取り組みと改善に向けたポイント
本調査によれば、業務・経営に何らかの影響のある事案が発生した先(1 割強)、事案が発生し、影響はなかったものの、事後対応にあたったことのある先(約2 割)、事案は発生しなかったものの、攻撃が試みられたことがあることを認識している先(約2 割)が、少なからず存在しており、これらを合計すると、全体の半数を超える金融機関が、実際にサイバー攻撃を受けている可能性があると指摘されています。また、規模の大きな先ほど攻撃を受けた経験があるとの回答割合が高い傾向にあるものの、サイバー攻撃は信用金庫などの地域金融機関にも広がっていることが確認されたという点も興味深いと言えます。その一方で、サイバー攻撃対策にかかる企画要員については、全体の6 割を超える先で、「十分に確保できていない」との回答があり、サイバー攻撃対策を整備・推進するうえでの課題をみても、「人材確保・育成」を挙げる先が非常に多い結果となっています。また、標的型攻撃やDDoS 攻撃を想定したコンティンジェンシープラン(緊急時対応計画)を整備する動き自体は進んでいるものの、「システム障害のコンティンジェンシープランを整備しているにとどまっており、さらに対応を一歩進めて、サイバー攻撃に特化した計画を整備するには至っていない先が少なくない」との指摘も、今後のリスク管理のあり方をふまえれば、極めて正鵠を得たものと言えます。
AML/CTFでも同様のことが指摘できますが、マネー・ローンダリングやサイバー攻撃は、「脆弱な部分」が狙われること、1つの脆弱性が突破されることによって金融ネットワーク全体に影響が及びかねない(悪意がネットワークに侵入する、ネットワーク全体が無力化されかねない)こと、ビジネスのグローバル化の進展で脆弱性を有する中小金融機関を中心に、金融ネットワークから排除されていく可能性が高まっていることなど多くの点で共通項があります。もはや自行の存続のためだけを考える「独りよがりのリスク管理」のあり方が、自らの存続基盤を危ういものにするとの認識のもと、グローバルスタンダードへの対応を念頭に取り組むべき状況にあります。好むと好まざるにかかわらず、それが存続していくための要件となっているのであり、さらには、このような動きは、金融機関だけでなくすべての事業領域にも共通の脅威となっていくことが予想されます。なぜなら、今後、すべての事業領域において、少子高齢化や技術革新を契機として、サプライチェーン・マネジメントの深化・グローバル化が進展することが予想されますが、それに伴って、AML/CTFやサイバー攻撃対策だけでなく、リスクそのものがサプライチェーン・グローバル化という形の「つながり」や「拡がり」を見せるからであり、「自社はローカル企業で限られたマーケットだからグローバルスタンダードに対応しなくてよい」というわけにはいかなくなるのです。既にその端緒が、AML/CTFや北朝鮮に対する経済制裁、サイバー攻撃などの分野で見られている以上、すべての事業者は、サプライチェーン・グローバル化という形の「つながり」や「拡がり」をもつ今後のリスク管理の深化に向けた検討を始める必要があると言えます。
地面師(登記手続き)
以前の本コラム(暴排トピックス2017年8月号)でも取り上げましたが、東証一部上場の大手住宅メーカーの積水ハウス社が、「当社が分譲マンション用地として購入した東京都内の不動産について、購入代金を支払ったにもかかわらず、所有権移転登記を受けることができない事態が発生」したとのリリースを公表しましたが、戦後の混乱期やバブル期に暗躍した、所有者になりすまして不動産を売り飛ばして巨額の現金をだまし取る「地面師」と呼ばれる詐欺グループが最近またその活動し始めている点にあらためて注意が必要だと指摘しました(なお、地面師については、暴排トピックス2017年6月号でも事例を取り上げています)。
同様に、直近では、アパグループが12億円の被害にあう事件が表面化しています。こちらは、所有者を装って不正に登記申請をしたとして会社役員や司法書士ら9人が偽造有印公文書行使などの容疑で逮捕されています。報道(平成29年11月8日付毎日新聞)によれば、同社の関連会社が、所有者の親族を装う「なりすまし役」と契約を締結、土地の購入代金を支払ったものの、登記の審査中に印鑑登録証明書などの偽造が発覚し、申請が却下されたというものです。これを受けて、契約を仲介した業者を相手取り、購入代金の返還を求める損害賠償請求訴訟を起こし、東京地裁は平成25年12月、土地の購入代金約12億6,000万円の全額を支払うよう命じているということですが、今後は詐欺事件として立件できるか捜査が続くということです。
「地面師」の問題は、登記上の手続きにおいて偽造書類等を使って土地が勝手に転売される詐欺犯罪という意味で、登記手続きの脆弱性、あるいは、司法書士や弁護士などがその専門性(肩書き)を悪用する(される)「専門家リスク」などがその根底にあります。また、東京五輪を控え、地価が上がり続ける首都圏などで、所有者が高齢で放置されたままの空き地が狙われやすい傾向にあるようです。さらには、「いい土地を早く押さえたい」と考える買い手側の弱みを上手く突いてくる手口の巧妙さが犯罪の成功率を高めているという側面もあります。ただ、様々な地面師の案件の手口を追っていくと、やはりどこかに怪しさがあるとのことです(所有者本人になかなか会えない、代理人が登場する、手続き等に通常と異なる部分があるなど)。とはいえ、それらは騙された後に気付くことが多く、未然にリスクを察知するのは困難なほど用意周到に準備されており、プロでも騙されてしまうというのが実情です。すべてを巧妙に偽造してくる地面師相手では、現時点では、取引においては、相手の言うことを鵜呑みにせず、慎重に裏取りをしながら、また偽造でないことを確認しながら、進めるくらいしか防止する手立てがないようです(例えば、不動産の権利証は印鑑証明書のような透かしに偽造防止技術が施されていることはなく、一見して明らかなものを除いて偽造を見抜くのはまず無理だと言われています。また、登記識別情報であっても、パスワードさえわかればよいため盗品であることを見抜くことは不可能ということになります)。
民泊
民泊が犯罪インフラ化する懸念があることは、以前から本コラムでは指摘してきました。今年に入ってから、偽造カードでATMから現金を不正に出金したとされる台湾出身の男3人の「滞在先(アジト)」として、あるいは、覚せい剤取締法違反容疑で逮捕した男女らの場合、米国から覚せい剤約1キロを無許可とみられる都内の民泊施設に発送、別の住宅に転送させて受け取る手口で発覚を逃れようとした「経由地」として、それぞれ悪用された事例がありました。その背景には、宿泊者と面会しないまま部屋を提供するなど本人確認の不十分な物件が多いこと、そもそも無許可で営業する家主が多いこと、たとえ本人確認を実施したとしても、現在の管理状況では、本人確認時に偽造パスポートを使われたり、部屋を犯罪者に無断で転貸されたりするケースには無力であること、などが挙げられます。最近では、犯罪者が「民泊」というインフラを悪用するこのような事例だけなく、そもそも犯罪のために「民泊」を運営する事例も出てきました。例えば、福岡では、無許可の違法営業物件に宿泊した女性を乱暴したとして家主の男が逮捕される事件が発生しましたし、大阪では、やはり無許可の違法営業物件に宿泊した客を盗撮していた男が旅館業法違反、軽犯罪法違反の両容疑で逮捕されるという事件も発生しています。報道によれば、「盗撮のため営業を続けていた」などと供述したということであり、かなり悪質な事例だと言えます。いよいよ「民泊」が構造的に有している「犯罪親和性」の問題が大きくクローズアップされてきており、国や自治体は、違法営業などの実態把握や摘発の強化とともに、民泊事業者や仲介事業者の健全性の確認、犯罪インフラ化の防止のための本人確認手続きの厳格化といった各種手続きや規制の強化を検討すべき状況にあると言えます。
座間市の事件を巡って(賃貸物件とSNSの犯罪インフラ化)
座間市の事件では、容疑者が当初から被害者と接触することを目的に部屋を借りた疑いがあると言われています。また、振り込め詐欺のアジトなど(悪徳事業者が詐欺グループと連携するケースは別として)もそうですが、申込人が何らかの犯罪等に悪用する目的があったとしても、それを事前に把握することには相当の困難が伴います。ただ、一方で、賃貸事業者も、入居審査を保証会社に任せているケースが多く、保証会社にて経歴や金融資産の状況、暴力団関係者でないかなどを厳しくみているものの、あくまで書面上の審査が中心であり、結局、せっかくの「現場の目」が審査に活かされていない実態があります(報道によれば、容疑者は「とにかく早く入りたい」と伝えていたとのことですので、結果論ですが、通常とは異なる何らかの端緒があったかもしれません)。賃貸物件の犯罪利用(賃貸物件の犯罪インフラ化)を防ぐためには、やはり、取引の最前線にいる社員のリスクセンスと意識が重要であって、その点に着目し、それを高め、審査に厳格に反映していくなど、「困難だ」として思考停止に陥るのではなく、まだまだ取り組むべきことが十分あるとの認識が必要ではないかと強く感じます。
また、容疑者は、SNSを使って自殺願望のある方をおびき寄せており、SNSが凶悪犯罪の温床になったと言えます(SNSの犯罪インフラ化)。以前は、インターネット上の「自殺サイト」がその場となっていましたが、事業者側や警察等のサイバーパトロールの実施や迅速な削除対応などが機能し始めた結果、SNSに移行している現状にありますが、SNS事業者等による削除対応等が全く機能せず、事実上野放しになっていた点が問題視されています。事件を受けて、政府も、関係閣僚会議を開催し、自殺に関する不適切なインターネットサイトや書き込みへの対策に取り組むことを明確にしたほか、Twitter社も、ルールを大幅に改正し、、「自殺や自傷行為の助長や扇動を禁じます」との項目をツイッターのルールに追加しました。遅きに失したとはいえ、SNSの犯罪インフラ化を阻止していくためには、今後、プライバシー保護との関係という難しいハードルはあるものの、警察と民間の監視団体などが連携して、チェックを強化する必要があると言え、SNS事業者等にも、不適切な書き込みを制限する仕組み(AIやロボットによる監視態勢など)の構築も必須になると思われます。また、自殺志願の書き込みを見つけたなら、心のケアに取り組む専門機関に速やかに連絡する取り組みを本格化させることも重要です。SNSの犯罪インフラ化を阻止するために、まだまだできることは、やはりあると言えます。
(8) その他のトピックス
金の密輸
本コラムでもたびたび取り上げているように、金の密輸が組織的に行われている実態が明らかになってきていますが、財務省の統計によれば、今年6月までの1年間(2016事務年度)での金塊密輸による脱税額が過去最高の約8億7,000万円に上ったということです。ご存知の通り、金の密輸は持ち込み時に求められる消費税(8%)の納付を免れた上で、国内業者に消費税分を上乗せして転売することで(構造的に)利益が得られることから、平成26年4月の消費税引き上げを契機に急増しています。
▼財務省 平成28事務年度における関税等脱税事件に係る犯則調査の結果
今年4月に韓国から金塊約6キロ(約2,700万円相当)を密輸しようとしたほか、現金約7億3,000万円を無申告で香港へ持ち出そうとしたとして、関税法違反の罪などに問われた韓国籍の男4人の公判が福岡地裁で始まっていますが、検察側は論告で「国際的犯罪組織による常習的犯行」と指摘しており、国内外の犯罪組織が暗躍していることがうかがわれます。さらに、大阪市で今年4月、会社経営者らが襲われ、金塊を換金した現金7,000万円を奪われそうになった事件で、大阪府警と岡山県警の合同捜査本部が、実行役の男に襲撃を指示したとして強盗致傷容疑で指定暴力団山口組弘道会傘下の野内組組員を逮捕しており、暴力団の組織的な関与も疑われています。また、関連して、今年4月に福岡県で発生した貴金属会社の会社員男性が現金3億8,400万円を奪われた事件で、強盗傷害容疑で逮捕された容疑者7人の多くが定職を持たない不良グループで、中には元暴力団組員もいたことが明らかになっています。「確実に儲かる」金の密輸に、暴力団だけでなく、不良グループや国際犯罪組織までが群がっている点で共通している点が興味深く、今後予定されている消費税の再引き上げに向けて、税関の水際対策の強化や罰則の強化などに速やかに取り組む必要があると言えます。
専門家リスク
前回の本コラム(暴排トピックス2017年10月号)でも取り上げましたが、指定暴力団山口組淡海一家の総長の高山受刑者が平成25年6月に京都地裁で恐喝罪などにより懲役8年の判決を受け、平成27年7月に判決が確定したにもかかわらず、京都府立医大病院からの回答書の提出により刑の執行が停止され、今年2月14日まで収監されなかったことについて、京都府が設置した調査委員会が、検察への回答書の根拠となる記載がカルテになく、信ぴょう性を確認できなかったことを「大変残念」と指摘し、医療行為の内容を正確に記載するよう改善を指示したほか、関係者らへの聞き取り調査を行ったうえで、医療行為は「適切な判断の下、必要な医療は提供された」という結論付けています。一方、前学長(70)が、暴力団関係者であることを承知の上で組長と面会したことについて、「社会通念上、許されるものではない」と指摘しており、報道によれば、同委員会は、学長室で面会したり、組長の診療を指示して設定したりしたことを「道義上の責任を指摘せざるを得ない」と述べているということです。
本件は、専門家でも収監の判断が分かれる可能性がある「専門家リスク」 の観点から言えば、結論があいまいなまま幕引きされた感は否めませんが、本件の問題の本質は、大病院の組織トップと暴力団トップとの密接交際、診断書偽造による暴力団の活動助長といった「暴排条例に抵触しかねない問題」、さらには、これらの問題を組織自体が黙認していた(誰も抵抗できなかった)という「組織統制上の問題」と、医療行為の専門性の悪用という「専門家リスク」、それらを招いた「構造上の問題」が炙り出されたという点にあるといえ、同委員会が一部、その点を言及した点は評価できると思います。ただ、本件に限らず、様々な不祥事例を通して、専門性の高い壁の中で社会常識から乖離した病院・医療関係者の脇の甘さが目立つ中、その問題を厳しく追求し、専門性の上に胡坐をかいている医療業界に、最新の社会情勢・社会常識をふまえた暴排の徹底や健全経営への取組み、医師や職員に対するコンプライアンスの浸透を強く促すことがやはり重要だと言えると思います。
訓練の重要性
これまでもたびたび指摘してきた通り、訓練の意義は、危機的な状況に直面した際の心理的メカニズム(正常性バイアス・確証バイアス・多数派同調バイアス・凍り付き症候群等)から正しく逃れ、適切な対応を迅速に取れるようになるために、日頃から訓練を積み重ねておくべきであること、訓練は、本番に向けて危機管理上の課題を抽出する良い機会であること、などが挙げられます。弊社のSPNの眼2017年10月号(災害BCP強化に向けた考察)では、「通常のオペレーションが機能しないこと」を前提に考えておくこと、企業の規模や事業の特性に応じて可能な限りの準備は行いつつ、「それが使えない場合があること」「想定外のことが起こること」を常に念頭に置く重要性や、全てを事前に想定することは難しく、発生事態を踏まえて、対応していかざるを得ないことを踏まえた訓練のあり方を模索していくことの重要性を指摘していますが、本番での適切な対応や判断を支えるのは、日頃の訓練を予定調和的に行うだけでは得られない、常に「考える」「想定する」ことで培われた「経験」だと言えます。
今回も、直近で報道された様々な訓練について、以下、列記しておきたいと思います。最近は、北朝鮮リスクやテロリスク、サイバー攻撃リスク等に日常的に晒される状況にあることから、世の中全体がより実践的な訓練・トレーニングを積極的に行うようになっていると実感しています(当社に対してもそのような実践的なトレーニング・研修ニーズが高くなっています)。事業者は、これまでの座学中心の研修・セミナーという受け身のもの(知識を得ることも極めて重要です)に加え、訓練という能動的かつ積極的に参加せざるを得ない形や、よりリアルな実践的な事態想定など、その実効性を高める工夫をしていただきたいと思います。以下の事例も、その想定事例や設定状況などに工夫が見られ、以前に比べ、実施規模の大きさや実効性を追求したものとなっており、参考になると思われます。
▼内閣官房 平成29年度新型インフルエンザ等対策訓練について
薬物を巡る動向
以前の本コラム(暴排トピックス2017年9月号)でも取り上げましたが、米国で25~54歳の働き盛り世代の男性の労働参加率が落ち込み、主要国で最低水準に沈んでいる要因のひとつに「オピオイド中毒」が指摘されており、その被害が深刻化していることを受け、米トランプ大統領は、非常事態宣言を発しています。
オピオイドはアヘンと同じケシ由来の成分やその化合物からつくる麻薬などを指し、モルヒネやヘロインを含むもので、脳への痛みの伝達を遮断するものの中毒性が強いとされており、米では90年代に医療用鎮痛剤として普及したものです。報道によれば、米国では、オピオイド系鎮痛剤の乱用による死者が急増しており、2015年には約33,000人が命を落としているということです。米国では、オピオイドのほか、ヘロインや、モルヒネの50~100倍強力なフェンタニルを中心とする薬物によって薬物過剰摂取の問題も拡大しており、非常事態を宣言することで、連邦予算を使った支援策の策定や対策予算の計上がしやすくなり、患者側もさまざまな治療へのアクセスが容易になるということです。しかしながら、そもそも莫大な予算を投入する一方で、「働かない中毒患者」の増加は政府や州の財政の悪化に直結することになります。また、それだけではなく、オピオイド中毒の広がりは経済的に苦境に陥った白人層に目立ち、この層の不満は台頭する白人至上主義の温床にもなっているなど、薬物問題が米の存在基盤を大きく揺るがしかねないレベルまで大きなリスクとなっていることを感じさせます。
また、海外の薬物を巡る情勢としては、ペルー国会が、医療目的での使用に限り、大麻(マリファナ)を解禁する法案を68-5の賛成多数で可決したことも注目されます。南米ではウルグアイが嗜好用の大麻を解禁しているほか、ペルーの隣国コロンビアとチリが医療用の使用を認めており、大麻の合法化が急速に進んでいます。合法化の背景には、当地の麻薬組織(国際犯罪組織)の資金源にダメージを与える目的があるとされ、必ずしも、「大麻はたばこよりリスクが低い」といった主張が明確な根拠をもって認められている状況にあるわけではありません。
なお、中南米では麻薬組織との戦いも激しさを増していることも知られていますが、直近では、コロンビアにおいて、北西部アンティオキア州で行われた麻薬摘発作戦で組織の関係者4人を逮捕するとともに、12トン以上のコカインを押収したということです。同国はコカインの主要生産・流通拠点として知られていますが、1度の押収量としては同国史上最大規模となりました(日本での摘発規模からみれば桁違いの事件と言えます)。報道によれば、今回押収したコカインは、コロンビア最大の麻薬カルテル「クラン・デル・ゴルフォ」に関係するものとみられ、末端価格で3億6,000万ドル(約410億円)相当に上るということです。
一方、日本においても、危険ドラッグを販売したなどとして、厚生労働省関東信越厚生局麻薬取締部が、危険ドラッグ販売サイトの運営者ら男女6人を医薬品医療機器法違反容疑で逮捕しましたが、グループの拠点から危険ドラッグ約180キロと原料約1.6トンが押収されています(末端価格にして約30億円分に相当し、押収量としては過去最大規模ということです)。グループのサイトを通じて指定薬物を含む危険ドラッグをレターパックで販売するなどしていたということです。危険ドラッグについては、数年前に急激にまん延したのち、徹底的な封じ込め作戦が展開されたことでリアル店舗が消滅し、以後、沈静化したいイメージがありましたが、警察庁の発表した「平成28年の組織犯罪情勢」によれば、平成28年の危険ドラッグ事犯の検挙人員は920人(前年比▲276人、▲23.1%)と5年ぶりに減少した一方で、危険ドラッグ乱用者の検挙人員のうち、インターネットを利用して危険ドラッグを入手した者の割合が42.1%を占めており、引き続き、水際対策、インターネット販売対策が重要と指摘されています。このような大型の摘発から、危険ドラッグ対策も力を抜けない状況にあることを痛感します。
また、日本における薬物を巡る動向のうち、気になるところとしては、刑の一部執行猶予の実効性があります。薬物使用事件などの再犯防止を目的に「刑の一部執行猶予制度」が導入されて1年余り経ちましたが、法務省によると、9月末現在で既に約100人が服役を終え、「一部猶予」の期間に入っていると言われています。報道(平成29年10月24日付毎日新聞)によると、これまで制度の適用対象者の再犯は確認されていないとのことですが、公判時に「出所後は民間リハビリ施設に入所する」と約束しながら、結局入所しないケースも多いという実態があるようです。公判を有利にするための方便にされ、再犯することになってしまわないか、刑の一部猶予制度の実効性がこれから問われるところだと言えそうです。
もう1点、気になるところとして、大阪府内で薬局が狙われる窃盗事件が今夏以降、約30件相次いでいるといったものがあります。報道(平成29年11月2日付産経新聞)によれば、被害総額は400万円以上に上り、現金のほか医療用麻薬が盗まれるケースもあるということです。医療用麻薬は、大量に服用すると死に至ることもあり、販売には免許が必要となっており、大阪府薬剤師会が防犯態勢を強化するよう呼びかけているとのことですが、これはむしろ「狙われている」と捉えるのが自然であり、犯罪組織等による転売や販売など、組織的な資金獲得活動の可能性も考えられるところです。医薬品業界の脇の甘さについては、これまでも本コラムでたびたび指摘してきていますが、オプシーボ問題やさい帯血問題、薬品の大型紛失事案の多発など、犯罪組織からみれば、その脇の甘さを悪用するのは容易い状況にあると言えます。厳格なリスク管理を求められるべきところ一般的なリスク管理すら十分にできていない現状、さらには「世間一般からあまりにも乖離したリスク感性」を正していく必要があると思われます。なお、厚生労働省は、このような状況をふまえ、薬局に対して、内部管理態勢を強化するよう通達を発出しています。
▼厚生労働省 薬局における適正な業務の確保等について徹底します
なお、薬物乱用防止に向けての取り組みについて、福岡県が、薬物乱用防止啓発としては全国初のバーチャルリアリティー動画を作り、インターネットで公開を始めています(福岡県薬物乱用防止啓発サイトで視聴できます)。出演者の頭に取り付けた特殊なカメラで撮影したもので、薬物を摂取した人の視点で幻覚など恐ろしい症状を疑似体験できるということです。覚せい剤や大麻、危険ドラッグの各ストーリーが用意されています。
北朝鮮リスクを巡る動向
北朝鮮による弾道ミサイルの発射こそ9月15日以降途絶えているものの、北朝鮮有事リスクは相変わらず高止ったままであり、国際社会による経済制裁等による包囲網が形成されています。各国の制裁の状況は前回の本コラム(暴排トピックス2017年10月号)に列記していますが、その後も、日本政府は、核・ミサイル開発を進める北朝鮮への独自制裁として、金融機関など9団体・26個人を新たに資産凍結の対象に指定しています。なお、今回の追加指定で、日本政府の資産凍結対象は、計84団体と108個人になったということです(なお、今回の指定については、米の制裁対象の追加であり、米トランプ大統領来日にあわせた形でやや形式的なものと評価されます)。
▼外務省 外国為替及び外国貿易法に基づく資産凍結等の措置の対象者の拡大について
また、米では、北朝鮮を支援する米国外の金融機関(中国やマレーシアなどの金融機関を制裁の対象に想定)への制裁を米政府に求めることなどを含む北朝鮮の制裁を強化する法案が、上院銀行委員会で、全会一致で可決されています。さらに、EUでは、EU域内の北朝鮮労働者に対し労働許可更新を原則認めないなど新たな独自制裁について外相理事会で合意、国連安全保障理事会(安保理)の制裁決議に基づき新規雇用の禁止に加え、北朝鮮の有力な外貨獲得源である労働者を最終的に締め出す狙いがあります。それ以外にも、EUからの投資を全面禁止し、石油製品や原油輸出も禁止されることになります。さらに、北朝鮮との距離感が注目され、その「抜け道」が批判される中国も、国連安保理の対北朝鮮制裁決議を履行する形で、石油精製品の対北輸出制限を10月1日から始めていますが、米トランプ大統領が「石油ルートを遮断した」と履行されていることを評価しています。
また、「厳格な顧客管理」の視点から注目されるものとして、出稼ぎ労働者の就労や繊維製品の輸出が禁止されたことに伴い、北朝鮮からの輸入を全面禁止している日本に、中国など第三国を経由して輸出するという制裁逃れもできなくなったことで、大手総合スーパーなどが、北朝鮮労働者が働く中国の工場製の衣料品の輸入・販売を既に停止する措置を取らざるを得なくなった(サプライチェーンからの北朝鮮リスクの排除)点が挙げられますが、同様の構図として、直近では、クレーンメーカー大手の加藤製作所製のクレーンが、北朝鮮のミサイル施設で使用されているとして問題視した報道もありました。それに対し、同社は、自社製の可能性が高いとの見解とともに、「どのような経緯で入手された機械かはわからないが、軍事兵器に関連した作業に使用されていることは、誠に遺憾」とし、「日頃から法令を遵守し、製品の製造販売を行っている。今回の報道のクレーン車が当社製であったとしても、日本の外国為替及び外国貿易管理法等に基づいて販売を行っている」とのコメントを発表しています。
▼加藤製作所 本日のFNN系列の報道について(20171107)
サプライチェーン・マネジメントの観点から犯罪組織との関係が疑われた事例としては、過去、トヨタ製の自動車(ハイラックスやランドクルーザーなど)がISの宣伝動画において多数使用されているとして、米財務省が販売経路などに関して同社に情報提供を求めたといったものもありました。それに対して、当時の報道によれば、同社米国法人幹部は、「トヨタは厳格な規定に基づき、武装勢力やテロリストの活動に利用される可能性がある場合は車を販売していない、各国や地域の販売店・代理店にも法令を順守するよう求めている」と説明しています。一方で、車の悪用や盗難、第三者による転売を自動車メーカーが完全に統制することは不可能だとも指摘しており、前述の加藤製作所の事例とあわせ、「厳格な顧客管理」やサプライチェーン・マネジメントの観点からは、日頃から厳格な管理を行っていることを説明できるだけの取り組みを行っておくことの重要性をあらためて認識すべきであること、一方、その上での「限界」があることも厳しく受け止める必要があると思います。
なお、これらの厳格な顧客管理の真逆の事例として、直近では、ニュージーランド(NZ)の航空機製造会社「パシフィック・エアロスペース」が北朝鮮に航空機部品を間接的に輸出したことを裁判で認めたということです。NZの税関が今年8月、同社が国連安保理の制裁決議に違反して航空機部品を北朝鮮に輸出したと告発していたもので、報道によれば、同社の首脳は以前、北朝鮮で行われた航空ショーで使用された航空機は中国の会社に売却したと主張、北朝鮮とのつながりを否定したものの、実際には、同社の飛行機が北朝鮮に渡ったことを認識した上で、北朝鮮のため中国での訓練実施を調整しようとしたことが中国の会社とのメールのやりとりから分かったということであり、企業としては、国連安保理制裁決議違反と不祥事の隠ぺいを行った最悪の対応であると指摘できます。
さらに、北朝鮮リスクとして事業者に直接的に影響を及ぼしかねないリスクとして、「サイバー攻撃」があります。10月24日に、大規模なサイバー攻撃が、ロシアや欧州、日本などで確認されましたが、特に攻撃が集中したロシアとウクライナでは空港や地下鉄などインフラ施設でも被害が生じています。報道によれば、ロシアのインタファクス通信で一時的にシステムが停止したほか、ウクライナのオデッサ国際空港では航空便に遅延が発生、同国の首都キエフの地下鉄の決済システムにも被害があったということです。この攻撃には、身代金要求型ウイルス(ランサムウエア)のひとつ「バッドラビット(悪いうさぎ)」が使われ、過去の手口から北朝鮮の関与を疑う見方が優勢です。実際のところ、北朝鮮とみられるハッカー集団は、5月以降、韓国の3カ所以上の仮想通貨取引所をサイバー攻撃したほか、10月には台湾の遠東国際商業銀行から約6,000万ドル(約68億円)を盗もうと画策していたことも判明するなど、報道(平成29年10月26日付産経新聞ほか)によれば、「経済制裁に直面する中、北が外貨獲得のためにサイバー攻撃を活用している」との見方を専門家が指摘しています(一方で早急な断定はできないとの専門家の見解もあります)。なお、北朝鮮は、通信インフラが発達していないため攻撃は主に海外の拠点で行われ、実施班の拠点が中国、マレーシア、インドネシアなどに設置され、普段はIT企業の社員などに成りすまして外貨を稼ぎながら、本国の頭脳班から指令がきたら突如、サイバー部隊としての任務を開始するという驚くべき実態もあるようです。サイバー攻撃は、国家の安全に対する脅威であるという点では戦争有事リスクにも直結しますが、事業者にとっても「事業継続」の観点から、極めて大きなリスクと言えます。
このように、北朝鮮リスクには、ミサイルなどから「社員の生命を守る」という視点から、サプライチェーンからの(商品・サービスのみならず労働力まで含む)北朝鮮の関与(北朝鮮との関係)排除の視点、サイバー攻撃への対処、事業継続の問題の視点など、幅広く存在することをあらためて認識いただきたいと思います。
3.最近の暴排条例による勧告事例ほか
(1) 愛知県の逮捕事例
指定暴力団山口組弘道会会長らによるみかじめ料徴収事件で、愛知県警は、共謀して暴排条例が暴力団排除特別区域に指定する名古屋市中区錦三丁目のスポーツバーの実質経営者から、現金2万円を受け取ったとして、愛知県暴排条例違反の疑いで、弘道会傘下組織の組長ら2人を再逮捕しています(同組長の逮捕は4回目)。愛知県暴排条例は、暴力団排除特別地域(暴力団の排除を徹底することにより、住民及び来訪者にとって一層安心で安全なまちづくりを特に強力に推進する区域)を定め、暴力団員を用心棒として利用したり、暴力団員に用心棒代を払うことなどの行為が禁止されています(罰則有)。平成24年6月1日の改正で、この特別区域が拡大されましたが、今回の「錦三丁目」については、本条例制定当初より特別区域に指定されていた場所となります。
(2) 兵庫県の勧告事例
以前の本コラム(暴排トピックス2017年9月号)でも取り上げましたが、神戸市中央区内のビルを指定暴力団神戸山口組に期限付きで譲渡したとして、兵庫県公安委員会が、兵庫県暴排条例に基づき、市内の60代男性に期限の延長や別の建物の提供など暴力団と不動産取引を継続しないよう求める勧告を出しています。
神戸山口組の施設を巡っては、前述の通り、本部事務所については、暴力団追放兵庫県民センターが使用差し止めを求める仮処分を請求し認められたばかりですが、その代替拠点とも目されている神戸市内にある関連施設について、虚偽の不動産登記をしたとして、神戸山口組の若頭と政治団体代表が電磁的公正証書原本不実記録・同供用の疑いで逮捕されています。報道によれば、組事務所の土地・建物の所有権を移転した際、「信託」を行ったとする虚偽登記を申請した疑いがあるということであり、信託された不動産が差し押さえなど強制執行の対象外であることを悪用し、抗争事件などで組長の使用者責任が問われた際に、賠償の一環で強制執行されることを免れるための対策だった可能性が指摘されています。
(3) 神奈川県暴排条例の改正
神奈川県暴排条例について、改正に向けてパブリックコメント募集中です。改正の内容については、概ね以下の通りですが、他の自治体の改正動向や社会情勢、暴力団情勢等をふまえつつ、先進的な取り組み内容を含むものとなっていると評価でき、他の自治体にも同様の取組みが拡がることを期待したいと思います。
▼神奈川県警察 神奈川県暴力団排除条例の改正に関する意見募集について
まず、少年の健全な育成を図るため、条例で規制する暴力団事務所開設及び運営の禁止区域の拡大が図られます。具体的には、禁止区域(周囲200メートル)の基点となる施設として、「家庭裁判所、児童相談所、重要文化財(建造物が存在する施設)、保護観察所、少年院、少年鑑別所、スポーツ施設など」が追加されるということです。さらに、都市計画法に基づくいわゆる「住居系用途地域」を追加するとともに、事務所の使用禁止命令を発出・命令に従わない場合の罰則が追加されることになります。関連して、兵庫県暴排条例の今年の改正においては、「学校、児童福祉施設等の用に供するものと決定した土地の周囲200 メートル以内の区域」(建設工事等を経て当該施設として供用が開始されるまでには相当な期間を要することを考慮)や「都市計画法に規定する近隣商業地域及び商業地域の区域」(暴力団事務所等の運営が新たに確認されており、住居系の用途地域以外の区域を通園、通学等のために通行する青少年に悪影響を与えていることを考慮)を新たに禁止区域の基点に追加されています。今回の神奈川県暴排条例はそこまでは踏み込めていませんが、とりわけ住民の不安も大きくなる「住宅系用途地域」においても新たな拠点の設置を制限することにつながる点は評価できると思います。さらに、少年に対する悪影響を排除するために、以下のような改正も行われています。特に、中止命令の発出手続きの見直し、行政手続条例適用除外への変更など、他の暴排条例にはない、スピーディかつ実効性を高める工夫が施されている点はなかなか画期的であり、今後の運用に注目したいと思います。
また、新たに共生者対策が明確に盛り込まれている点も画期的なものとなります。神奈川県警による説明では、「暴力団は共生者等を利用し、契約手続を行うなどしていることから、こうした規制逃れを防止する措置を創設」するとされており、具体的には、「共生者等による暴力団員への自己又は他人の名義貸し行為を禁止することを創設」(違反した場合には、勧告・公表の対象)、「暴力団員による隠蔽目的での他人の名義利用行為を禁止することを創設」(違反した場合には、勧告・公表の対象)といった内容になるようです。現状、共生者に関する警察からの情報提供は、相当慎重な運用がなされていると理解していますが、本条項の適用には、暴力団と共生者の関係が明確になることが前提となることもあり、共生者の排除に向けて事業者側の取組みが加速することを期待したいと思います。さらに、これらに該当した場合、「違反した場合には、勧告・公表の対象」となることから、共生者側の活動の抑止につながることも期待できると思います。
さらに、暴排を継続していくうえでの、大きな社会問題化しつつある「離脱者支援」について踏み込んでいる点にも注目したいと思います。神奈川県警による説明では、「暴力団組織からの離脱希望者をいかに支援し、社会復帰させていくかという問題は取締りと並んで重要な問題である」との基本認識がしめされており、「暴力団からの離脱を促進するため、県が必要な措置を講ずるよう努める旨の規定を創設」するということです。現段階では、神奈川県に対する努力義務規定となる旨の説明のみで、具体的な内容は不明ですが、先行する福岡県暴排条例においては、元組員を雇用した企業に1人当たり年間最大72万円を助成する制度や、雇い入れた元組員が業務上の損害を与えたり、売上金を持ち逃げしたりした場合は200万円を上限とした見舞金制度が注目されましたが、離脱者支援の重要性を明記することは大きな意義のあることだと思います。
(4) 福岡県等の指名停止等措置
福岡県、北九州市、福岡市において、同一の企業が指名停止等の措置が講じられ、公表されていますので、紹介します。
▼福岡県 暴力団関係事業者に対する指名停止措置等一覧表(排除措置)
本件は、「役員等(経営に事実上参画している者)が、暴力的組織の構成員となっている」(福岡県)あるいは「『暴力団員が実質的に運営している』ことに該当する事実があることを確認した」(北九州市)といった形で、暴力団員が経営に関与していると指摘されている点が最近では珍しいところです。これまでのほとんどの事例が、「役員等又は使用人が、暴力的組織又は構成員等と密接な交際を有し、又は社会的に非難される関係を有している」といったものであり、排除期間も18か月程度のものが多いのですが、今回は、「36月を経過し、かつ、暴力団又は暴力団関係者との関係がないことが明らかな状態になるまで」(北九州市)あるいは「36か月間」(福岡県、福岡市)となっており、相当厳しい措置が講じられていることが分かります。福岡県警や公安委員会との連携のもと、福岡県の3自体の公表がコンスタントに継続している点は素晴らしいことであり、一方で、他の自治体の事例がほとんどない点が気になるところです(以前は多かった大阪府でも、現在は「公表期間中の業者はない」状況です)。