反社会的勢力対応 関連コラム

取締役副社長 首席研究員 芳賀恒人

暴力団のイメージ画像

1. 平成30年上半期における組織犯罪の情勢

(1) 暴力団情勢

「3つの山口組」が水面下で離合集散の動きがあったようです。指定暴力団任侠山口組の織田代表襲撃事件(ボディーガード役の組員が死亡)から9月12日で1年を迎え、この前後から3者の思惑が交錯した駆け引きが行われたとされます。様々な情報を総合すると、指定暴力団六代目山口組が、今年4月に「復帰者の受け入れ期限は8月」という内部通達を出したことが始まりとなります。これ以降、指定暴力団神戸山口組は、六代目山口組の切り崩しにあい、有力幹部が相次いで離脱していく厳しい状況に追い込まれていきます。いつしか任侠山口組と合流して六代目山口組に統合するという流れが強く出来あがっていきます。実際、任侠山口組の織田代表も「任侠山口組を引き連れて神戸山口組に戻る」とも話していたとされますが、結局そのようなことにはならず、代わって、8月中旬から浮上してきたのが、「任侠山口組が単独で六代目山口組に戻る」という情報でした。しかしながら、任侠山口組との合流で注目された8月20日の六代目山口組の定例会は何事もなく終了します。実は、「3つの山口組」の中で最も追い詰められているのは、この任侠山口組と言われています。シノギが細って組織が疲弊し、10人もの直参組長をはじめ離脱者が相次いで、存続も厳しい状況にあります。織田代表は、六代目山口組合流の話の前には、神戸陣営の最高幹部に仲介を頼んだとされます。しかし、当然のことながら神戸山口組の井上組長らの強烈な反対により実現することはありませんでした。ところが、つい最近になって、神戸山口組の定例会(10月9日開催)で任侠山口組系組員らの迎え入れを今後は認めるという方針(要するに、この機会に任侠山口組を切り崩しにかかるということ)が打ち出されたようです。つまり、ここにきて、六代目山口組だけでなく神戸山口組からの切り崩しにあう任侠山口組の窮状と今後の織田打表の判断・行動がキーポイントとなりそうな状況です。貧困暴力団と言われるほど貧窮化した組員、半グレの台頭、社会的な暴排の気運の高まり、次第に狭まる警察の包囲網など暴力団情勢が厳しさを増す中で、「3つの山口組」がどのような結論を出すのか、今後の動向に注視していきたいと思います。


さて、報道(平成30年9月25日付朝日新聞)によれば、特殊詐欺の深刻な被害が続く中、警察庁は事件の背後にいるとみられる暴力団や外国人犯罪組織などに対する取り締まりを強化することを決めたということです。こうした集団の弱体化が特殊詐欺の抑止につながると判断、あらゆる法令を駆使した多角的な摘発の方針を初めて示し、都道府県警に指示したということです。取り締まりと情報収集の重点対象にしたのはほかに常習的に違法行為を行う準暴力団(なお、準暴力団については、昨年11月に、「準暴力団等による特殊詐欺等に対する取締りの強化について」という内部通達が出されており、摘発が強化されています)や暴走族、非行少年で、個々の特殊詐欺事件の摘発を進めるだけでなく、暴力団などについては暴行や傷害、窃盗や強盗、薬物犯罪など可能な限りの法令を適用して取り締まるよう求めているということです。本通達を受けてか、六代目山口組2次団体の二代目中島組幹部がグループ統括役だったとされる特殊詐欺事件をめぐり、詐取金の一部が六代目山口組に渡っていた疑いがあるとして、警視庁などは、電子計算機使用詐欺の疑いで、六代目山口組総本部を家宅捜索しました。特殊詐欺に絡み警察当局が六代目山口組総本部を家宅捜索するのは初めてだということですが、暴力団のピラミッド型の統制の構図を考えれば、傘下組織からの上納金の一部になっていたことは容易に想像できるところです。これまでそこまで切り込んでこなかったことはむしろ驚きであり、金の流れを立証することが困難な作業であることが予想されるものの、何とか全容解明に努め、今後の類似の事案の捜査、暴力団の資金源の枯渇化と組織の弱体化つながることを期待したいと思います。

さて、金融庁は、スルガ銀行に対し、投資用不動産向けの新規融資業務を対象に6カ月間の停止命令を出しました。シェアハウスを含む投資用不動産で、改ざんされた審査書類などに基づく不適切な融資が横行、経営陣も見過ごすなど企業統治に重大な不備があると判断しています。なお、銀行への業務停止命令は平成25年12月に反社会的勢力への融資を放置していたみずほ銀行に出して以来ということです。実は、今回の金融庁の指摘には、反社会的勢力排除の実務にも問題があったことが指摘されています。以下に該当部分を紹介しますが、総じて、現状の「入口」「中間管理(モニタリング)」「出口」のいずれの実務からみても、残念な取り組み実態となっています。例えば、「既存のカードローンの与信枠の閉鎖を行っていないため、枠内でローン残高が増加している事例」については、既存の顧客が反社会的勢力であると認定した場合、まずは契約解除(期限の利益の喪失と残債の一括請求)を検討しますが、それが難しい場合は与信枠を減額して、現行以上の与信取引が行われないようにするのが最低限の措置(与信枠の減額については、返済状況が芳しくない場合に取られる措置でもあり、反社会的勢力排除の実務として特別困難であるとは言えないと思われます)であって、「出口」対応の拙さはかなり酷い状況だったと指摘できると思います。また、「反社会的勢力に対する新規預金口座開設をブロックするシステムの整備が不十分」との指摘の具体的な内容までは分かりませんが、反社会的勢力と認定してもなお預金口座開設をブロックできないというのは、チェック内容(判断)と口座開設実務とのリンクが機能不全に陥っている、「内部統制の欠陥の放置」としか言いようがありません。さらに、「入口」の脆弱性があれば、「中間管理(モニタリング)」でその限界を乗り越えるべきところ、「既存顧客を新たに反社会的勢力と認定しても、警察への照会件数が少なく、照会する顧客(反社会的勢力)についても取引解消が相対的に容易な先を優先するなど、取引解消に向けた取組みを十分に行っていない」と指摘されており、社会的要請を背景に他の金融機関が推進してきた「反社会的勢力と正しく認定して排除していく」とする金融機関としての基本がそもそも徹底されていない状況です。このように、「入口」「中間管理」「出口」のいずれのプロセスについても管理態勢の不備がみられたことは大変残念です。

▼金融庁 スルガ銀行株式会社に対する行政処分について

(5)反社会的勢力との取引の管理態勢、マネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策に係る管理態勢の不備

  • 当行では、既存顧客を新たに反社会的勢力と認定しても、(1)既存のカードローンの与信枠の閉鎖を行っていないため、枠内でローン残高が増加している事例、(2)反社会的勢力に対する新規の預金口座の開設をブロックするシステムの整備が不十分であるため、預金口座を新規開設している事例が多数存在する。
  • 当行では、既存顧客を新たに反社会的勢力と認定しても、警察への照会件数が少なく、照会する顧客(反社会的勢力)についても取引解消が相対的に容易な先を優先するなど、取引解消に向けた取組みを十分に行っていない。
  • 当行では、疑わしい取引のチェックを行うシステムにおいて、法人取引を検知対象に含めておらず、管理帳票の出力・確認などの代替の対応策も講じていないなど、法人取引における疑わしい取引の検知態勢を整備していない。また、法人取引時の実質的支配者の確認・記録を営業現場に徹底していないため、実質的支配者の情報を確認しないまま、取引を実行している(犯罪による収益の移転防止に関する法律第4条第1項第4号違反)。

その他、最近の暴力団情勢についての報道からいくつか取り上げます。

  • 建設会社に労働者を無許可で派遣したとして、警視庁組織犯罪対策4課は、職業安定法違反(労働者供給事業の禁止)の疑いで、指定暴力団極東会系会長と組員の男3人ら男女計6人を逮捕しています。なお、同課は近く、同法違反の疑いで労働者を受け入れていた都内の建設会社2社の代表と法人としての同社を書類送検するということです。東京五輪・パラリンピック関連工事などに伴う人手不足を背景に、労働者派遣が有力な資金源になっている可能性があります。この件については、日本のヤクザが五輪施設の建設現場にホームレスを不法に投じ、彼らの日当まで取り上げている事実が明るみになったと香港紙が報じているとの報道がありました(平成30年10月12日付中央日報)。日本現地では「建設業界とヤクザの蜜月関係は相変わらず」という見方も提起されていると指摘しています。残念ながら、暴力団と関係のある無許可の業者を使う建設会社の企業姿勢、反社チェック等の不備といった問題は大きく、客観的に「蜜月関係」と言われても仕方ない取り組みレベルではないかと思われます。
  • 東京五輪・パラリンピックに関する報道では、例えば、「警察はテロ対策で手いっぱいであり、全国から警察官が動員されて国内主要の空港、港湾、駅に配置され、ずっと警備しないといけないことから、五輪期間中は違法ビジネスを取り締まっている暇がなく、裏社会の人間もそれをよくわかっている」、「五輪記念硬貨をめぐる犯罪を計画する連中」の存在や、「裏社会がもっとも注目しているのは闇民泊」といった指摘、「薬物組織も五輪を商機ととらえていること」、「違法な便乗ビジネスの主体はヤクザではなく半グレ。高齢化するヤクザに最新IT技術は理解できない。半グレが金主となってアイデアを出し、実行もしくは手伝いとしてヤクザが入る構図」だといった正にリアルな現実と裏社会の構図を喝破したものもあります。いずれにせよ、五輪は暴力団等にとってはシノギにしか映っていないことがわかります。
  • 暴力団の資金源としての「密漁ビジネス」のリアルを描いた書籍「サカナとヤクザ」(鈴木智彦氏著、小学館)が発売されています。アワビもウナギもカニも、日本人の口にしている大多数が実は密漁品であり、その密漁ビジネスは、暴力団の巨大な資金源となっていることが描かれています。密漁品と知りながら正規品のように売りさばく、この行為こそが黒から白へとロンダリングされる決定的瞬間であること、海産物を取り巻く日本地図もまた、どちらが主役だか分からぬほど裏社会が大きな存在感を放っていること、多くの人にとって、サカナとは健康的なものであるはずだがその健康的なものが入手されるまでの経緯はどこまでも不健全であることなどがリアルに描かれています。
  • 報道(平成30年9月26日付毎日新聞)によれば、指定暴力団会津小鉄会の傘下組織心誠会の事務所を巡り、京都地裁は、事務所を使った場合に1日100万円を組側に支払わせる間接強制を決定しています。昨年9月の使用差し止め仮処分決定が守られていないとして、京都府暴力追放運動推進センターが今年5月に申し立てていたもので、暴力団事務所の使用禁止の間接強制は京都府内では初めてとなります。組側は組員の住居で事務所ではないと主張するも地裁は認めなかったもので、間接強制を守らない場合は差し押さえの対象となります。なお、会津小鉄会では、引退を表明した会長の後継を巡って六代目山口組と神戸山口組それぞれに近い組員が対立し乱闘事件まで発生しました。住民の委託を受けた同センターが事務所の使用禁止を求める仮処分を地裁に申し立て、昨年9月に認められたものの、新たに組員が住むなどしていたことから、今回の間接強制に至ったものです。
  • 指定暴力団神戸山口組の(旧)本部事務所(兵庫県淡路市)を仮処分に違反して使用した場合、組側に1日100万円の制裁金を支払わせる間接強制を認めた神戸地裁決定について、大阪高裁は組側の執行抗告を棄却しています。一方、高裁は今回、本部事務所として使う前から住民票があった神戸山口組の男性幹部の居住は認める判断をしています。しかしながら、組員が生活していることにより、いつ抗争等の対象となるか分からず、住民の不安の完全な解消にはつながらないことも事実であり、今後の展開を注視したいと思います。
  • 暴力団事務所の差し押さえを免れるため、東京地裁の執行官にうその説明をしたなどとして、警視庁浅草署は民事保全法違反などの疑いで、指定暴力団住吉会会長代行ら男女3人を逮捕しています。組事務所として使用していた台東区千束のマンションの部屋について差し押さえを免れるため、地裁執行官に対し、実際には1人しか住んでいないのに、「3人が住んでいる」と虚偽の説明をするなどした疑いがもたれています。先の間接強制の2つの事例とともに、暴排条例により、組事務所の新設が極めて難しくなっているほか、不動産競売からの暴排も実現する流れの中で、暴力団側が活動拠点をいかに確保していくか、大変苦労している実態を示しているものと思われます。
  • 指定暴力団工藤會の本部がある北九州市の繁華街で、暴力団組員の入店を禁じた「暴排標章」を掲げる飲食店が増えているということです(平成30年9月11日付西日本新聞)。福岡県警が工藤会壊滅作戦に着手して4年を迎え、組員数は610人とピーク時から半減するまでの成果を挙げています。その結果、工藤会による飲食店関係者の襲撃事件後に一度は外した標章を再掲する店も出始めているということです。今も掲示をためらう店は多いものの、北九州市内の昨年末の暴排標章掲示率は56%にまで回復し女性経営者が街のイメージ回復へ動きだすなど変化の兆しが見えるということです。
(2) 平成30年上半期における組織犯罪の情勢

警察庁から「平成30年上半期における組織犯罪の情勢」が公表されています。

▼警察庁 平成30年上半期における組織犯罪の情勢
▼平成30年上半期における組織犯罪の情勢

本レポートによると、暴力団構成員等(暴力団構成員及び準構成員その他の周辺者をいう。以下同じ)の検挙人員は減少傾向にあり、平成30年上半期(以下「当期」)においては、7,825人となりました。主な罪種別では、傷害が913人、窃盗が767人、詐欺が829人、恐喝が376人、覚醒剤取締法違反(麻薬特例法違反は含まない。以下同じ)が2,091人で、前年同期に比べ恐喝は横ばい、それ以外は減少しています。さらに、暴力団構成員等の検挙人員のうち、構成員は1,685人、準構成員その他の周辺者は6,140人で前年同期に比べいずれも減少しています。暴力団構成員等の詐欺の検挙人員については、平成26年以降、3年連続で窃盗の検挙人員を上回り、平成29年はわずかに窃盗の検挙人員を下回ったものの、当期は再び窃盗の検挙人員を上回る結果となりました。なお、暴力団構成員等の検挙人員のうち、主要団体の暴力団構成員等が占める割合は約8割で推移しているところ、当期においては、5,956人で76.1%と前年に比べ減少しています。ただし、六代目山口組の暴力団構成員等の検挙人員は、2,428人と約3割を占めている状況です。また、当期においては、六代目山口組直系組長等9人、弘道会直系組長等5人、弘道会直系組織幹部(弘道会直系組長等を除く)10人を検挙しています。それに加え、工藤会総裁、同会長等を含む主要幹部を波状的に検挙し、これらの者を長期的に隔離したことにより、工藤会の組織基盤及び指揮命令系統に打撃を与えていることが明らかとなったほか、福岡県における当期中の離脱支援による工藤会離脱者数は21人となっており、「今後とも、未解決事件の捜査を徹底するなど取締りの更なる強化を図るとともに、資金源対策や離脱者の社会復帰対策を更に推進していく」としています。
 また、覚醒剤取締法違反、恐喝、賭博及びノミ行為等(以下「伝統的資金獲得犯罪」)は、依然として、暴力団等の有力な資金源になっていることがうかがえ、これらのうち、近年、暴力団構成員等の伝統的資金獲得犯罪の検挙人員に占める覚醒剤取締法違反の割合は約8割で推移しており、当期においても同様の傾向となっています。さらに、暴力団構成員等の検挙状況を主要罪種別にみると、暴力団構成員等の総検挙人員に占める詐欺の検挙人員は、近年、増加傾向にあったところ、ここ数年で高止まりしており、「暴力団の威力を必ずしも必要としない詐欺による資金獲得活動が定着化している状況がうかがえる」と指摘しています。
 それ以外にも、当期における暴力団構成員等に係る組織的犯罪処罰法のマネー・ローンダリング関係の規定の適用状況については、犯罪収益等隠匿について規定した第10条違反事件数が16件であり、犯罪収益等収受について規定した第11条違反事件数が14件、第23条に規定する起訴前没収保全命令の適用事件数は15件となっています。なお、伝統的資金獲得犯罪の全体の検挙人員のうち暴力団構成員等が占める割合は、50%前後で推移していますが、この割合については、刑法犯・特別法犯の総検挙人員のうち暴力団構成員等の占める割合が6~7%台で推移していることからすると極めて高い割合であるといえるほか、当期の伝統的資金獲得犯罪に係る暴力団構成員等の検挙人員は、2,609人と、暴力団構成員等の総検挙人員の33.3%を占めており、依然として、伝統的資金獲得犯罪が有力な資金源となっていることがうかがえます。
 また、当期における暴力団構成員等、総会屋等及び社会運動等標ぼうゴロによる企業対象暴力及び行政対象暴力事犯の検挙件数は220件となっており、このうち、企業対象暴力事犯は181件、行政対象暴力事犯は39件となっています。また、総会屋等及び社会運動等標ぼうゴロの検挙人員は41人、検挙件数は30件であり、「依然として暴力団構成員等の反社会的勢力が、企業や行政に対して威力を示すなどして、不当な要求を行っている実態がうかがえる」と指摘しています。また、暴力団対策法に基づく中止命令の発出については、資金獲得活動である暴力的要求行為(9条)に対するものが584件と全体の75.1%を、加入強要・脱退妨害(16条)に対するものが69件と全体の8.9%を、それぞれ占めています。さらに、暴力的要求行為(9条)に対する中止命令の発出件数を条項別にみると、不当贈与要求(2号)に対するものが263件、みかじめ料要求(4号)に対するものが57件、用心棒料等要求(5号)に対するものが207件となっています。また、各都道府県においては、暴排条例に基づいた勧告等を実施しており、当期にける実施件数は、勧告18件、指導2件、中止命令10件、再発防止命令7件、検挙6件となっています。
 一方、暴排の動向としては、平成30年1月には、本コラムでも紹介した、警察庁と預金保険機構との間において、銀行が扱う個人向け融資取引を申請する者等の暴力団員等該当性について照会に応じるシステムを構築して、銀行取引からの暴力団等反社会的勢力の排除に向けた取組を積極的に推進しているほか、購入したビルを暴力団事務所として使用していた神戸山口組傘下組織組長らに対し、平成29年4月、同ビルの売り主が警察、都道府県センター、仙台民暴委員会等と連携して、同ビルの建物明け渡し等を求める訴訟を提起したところ、平成30年3月に売買契約を解除する旨の和解が成立し、事務所が撤去された事例(3月、宮城)があるなど、官民連携した暴排活動の深化が見られています。また、都道府県センターの平成29年中の暴力団関係相談の受理件数は47,978件であり、このうち警察で19,930件、都道府県センターで28,048件を受理しています。また、平成29年度中に実施された不当要求防止責任者講習の開催回数は1,605回、同講習の受講人数は延べ79,236人となっています。

薬物事犯(覚醒剤事犯、大麻事犯、麻薬及び向精神薬事犯及びあへん事犯をいう。以下同じ)についてみると、当期の検挙人員は6,588人と近年横ばいで推移していることが分かります。このうち覚醒剤事犯検挙人員は4,664人と減少が続いている一方で、大麻事犯検挙人員は1,700人と平成26年以降増加が続いており、薬物事犯別検挙人員で大麻事犯の占める比率が上昇している点が特徴的です。また、覚醒剤事犯について年齢層別でみると、人口10万人当たりの検挙人員は、20歳未満が0.6人、20歳代が4.7人、30歳代が8.3人、40歳代が8.3人、50歳以上が2.5人であり、最も多い年齢層は30歳代、40歳代となっている一方で、大麻事犯について年齢層別でみると、人口10万人当たりの検挙人員は、20歳未満が2.8人、20歳代が5.7人、30歳代が3.6人、40歳代が0.9人、50歳以上が0.2人であり、最も多い年齢層は20歳代、次いで30歳代となっている結果から、大麻の若年層への蔓延の状況が明確に表れています。また、薬物密輸入事犯の検挙状況は148件133人であり、このうち、覚醒剤事犯が51件60人、大麻事犯が35件35人となっています。なお、密輸入事犯における覚醒剤の押収量は315.7kg、乾燥大麻は102.8kgであり、大麻密輸入事犯について仕出国・地域別でみると、アメリカが16件と最も多く、次いでカナダが4件、以下、オランダが3件、ベルギーが3件となっています。また、危険ドラッグについて薬物経験別でみると、薬物犯罪の初犯者が127人(構成比率53.1%)、薬物犯罪の再犯者が112人(構成比率46.9%)、入手先別でみると、インターネットを利用して危険ドラッグを入手した者が101人(構成比率42.3%)と最も多くなっているようです。

当期における来日外国人犯罪情勢については、総検挙状況をみると、近年はほぼ横ばい状態で推移しているところ、当期は、前年同期と比べ、検挙件数・人員ともわずかな増減はあるものの、近年の傾向が継続していることが分かります。また、総検挙状況を国籍等別にみると、ベトナム及び中国の2か国で全体の50%以上を占めており、平成29年上半期に引き続き、総検挙件数ではベトナムが、総検挙人員では中国が最多となっています。さらに、総検挙人員5,315人の国籍等別の内訳は、中国1,441人(構成比27.1%)、ベトナム1,359人(25.6%)、フィリピン366人(6.9%)、韓国274人(5.2%)、ブラジル222人(4.2%)等となっています。一方、総検挙人員5,315人について、主な在留資格別の内訳で見てみると、「留学」1,101人(構成比20.7%)、「短期滞在」1,006人(18.9%)、「技能実習」818人(15.4%)、「定住者」671人(12.6%)、「日本人の配偶者等」476人(9.0%)、「技術・人文知識・国際業務」227人(4.3%)、「技能」138人(2.6%)等となりました。なお、罪種等別・国籍等別刑法犯検挙件数についてみると、それぞれ、「強盗」は中国・ベトナム・ブラジル、「窃盗」はベトナム・中国・韓国、「侵入窃盗」はベトナム・韓国・ブラジル、「自動車盗」はウガンダ・ブラジル・ロシア、「万引き」はベトナム・中国・韓国、「詐欺」はマレーシア・中国・ベトナム、「支払用カード偽造」はマレーシア・中国・台湾の順となり、大変興味深い結果となっています。また、犯罪インフラの状況をみると、地下銀行事犯の検挙状況について、近年は減少傾向にあるところ、当期も、前年同期と比べ、検挙件数・人員とも減少しているほか、検挙人員を国籍等別にみると、中国1人、ベトナム1人となっています。偽装結婚事犯の検挙状況については、近年は減少傾向にあるところ、当期も、前年同期と比べ、検挙件数・人員とも減少しており、検挙人員を国籍等別にみると、フィリピン12人、中国9人、韓国7人等となっています(なお、日本人の検挙は45人)。旅券・在留カード等偽造事犯の検挙状況については、平成28年に一旦減少した後、再び増加しているところ、当期も、前年同期と比べ、検挙件数・人員とも増加しているほか、検挙人員を国籍等別にみると、ベトナム54人、中国44人、インドネシア5人等となっています(なお、日本人の検挙は2人)。不法就労助長事犯の検挙状況については、近年、検挙件数はほぼ横ばい状態で、検挙人員はわずかながら増加傾向で推移しているところ、当期は、前年同期と比べ、検挙件数・人員ともわずかに減少しているほか、検挙人員を国籍等別にみると、中国25人、韓国10人等となっています(なお、日本人の検挙は157人)。なお、仮想通貨絡みでは、以下のような事例が紹介されています。

ベトナム人の男らは、平成29年7月、仮想通貨取引口座の開設に関して、仮想通貨の売買等のサービスを受けるために必要な情報を中国人の男に有償で提供した。中国人の男は、その情報等を利用してベトナム人になりすまして、仮想通貨取引口座を開設した。平成30年3月までに、ベトナム人の男4人(不法残留、留学、技能実習)を犯罪収益移転防止法違反(仮想通貨交換用情報の有償提供)及び中国人の男1人(経営・管理)を、私電磁的記録不正作出・同供用罪で逮捕した

(3) 犯罪統計資料
▼警察庁 犯罪統計資料(平成30年1~9月)

平成30年1月~9月の刑法犯全体の認知件数は608,630件(前年同689,630件、前年同期比▲11.8%)、検挙件数は221,965件(235,523件、▲5.8%)、検挙率は36.5%(34.2%、+2.3ポイント)となりました。うち窃盗犯全体の認知件数は433,744件(493,373件、▲12.1%)、検挙件数は136,587件(146,872件、▲7.0%)であり、認知件数の比率で7割を占める窃盗犯の動向が大きく影響していることがわかります。なお、このうち万引きの認知件数は74,546件(80,716件、▲7.6%)、検挙件数は52,641件(55,805件、▲3.2%)となっています。また、知能犯全体の認知件数は31,219件(34,840件、▲10.4%)、検挙件数は14,061件(14,750件、▲4.7%)、うち詐欺の認知件数は28,216件(31,645件、▲10.8%)、検挙件数は11,726件(12,229件、▲4.1%)といった動向となっています。いずれも、検挙件数の減少率の方が認知件数の減少率より小さくなっていることから、摘発が進んでいることが推測されます。また、特別法犯全体の検挙件数は52,187件(52,330件、▲0.3%)、検挙人員は44,606人(44,877人、▲0.6%)であり、うち犯罪収益移転防止法違反の検挙件数は1,835件(1,836件、▲0.1%)、検挙人員は1,543人(1,511人、+2.1%)などとなっています。
 また、蔓延が懸念されている大麻取締法違反の検挙件数は3,230件(2,633件、+22.7%)、検挙人員は2,436人(1,988人、+22.5%)と、こちらも検挙が増えている一方、覚せい剤取締法違反の検挙件数は9,732件(9,985件、▲2.5%)、検挙人員は6,735人(6,959人、▲3.2%)などであり、大麻の蔓延の状況が顕著となっています。さらに、来日外国人による重要窃盗犯の検挙人員について、総数は171件(186件)、国籍別では、中国30件、ベトナム22件、ブラジル22件、韓国・朝鮮20件などとなっているほか、類型別・国籍別では、侵入盗は中国53件・ベトナム35件・ブラジル21件、自動車盗はパキスタン6件・ロシア4件、すりは中国12件などのなどとなっており、類型別の特徴のほかベトナムの伸びが注目されるところです。
 さらに、暴力団犯罪(刑法犯)については、刑法犯全体の検挙件数は13,427件(14,721件、▲8.8%)、検挙人員は6,810人(7,383人、▲7.8%)であり、暴力団構成員等の昨年からの減少率▲11・8%より小さくなっていることから、暴力団構成員等が犯罪に関与する割合が高まっていることが推測されます。このうち窃盗の検挙件数は7,347件(8,043件、▲8.7%)、詐欺の検挙件数は1,599件(1,701件、▲6.0%)などとなっています。また、暴力団犯罪(特別法犯)について、特別法犯全体の検挙件数は6,765件(7,404件、▲13.3%)、検挙人員は4,937人(5,371人、▲8.1%)となっており、特別法犯については、暴力団構成員等の減少率を上回っていることから、その関与の割合が低くなっていることが推測されます。また、暴力団構成員等による大麻取締法違反の検挙件数は789件(757件、+4.2%)、覚醒剤取締法違反の検挙件数は4,664件(4,925件、▲5.3%)、暴力団排除条例違反の検挙件数は14件(7件、+100.0%)などとなっており、暴力団においても大麻事犯の増加傾向が顕著であることが指摘できます。

2. 最近のトピックス

(1) AML/CFTを巡る動向

金融庁は、平成30事務年度の金融行政方針を発表しています。

▼金融庁 変革期における金融サービスの向上にむけて~金融行政のこれまでの実践と今後の方針(平成30事務年度)~について
▼変革期における金融サービスの向上にむけて~金融行政のこれまでの実践と今後の方針(平成30事務年度)~主なポイント

この方針の中で、金融庁は、重点施策として「世界共通の課題の解決への貢献」の文脈で、AML/CFT(アンチ・マネー・ローンダリング/テロ資金供与対策)を挙げ、「我が国が規制で先行する仮想通貨(暗号資産)に関し、G20やFATFの議論を引き続き主導。本邦金融機関のリスクベース・アプローチでの管理態勢について、モニタリングを通じて高度化を促進する」として、金融機関への立ち入りも含めた検査を厳しく進めていく方針を示しています。北朝鮮など地政学リスクの高まりを受けて、マネー・ローンダリング/テロ資金供与に対する国際社会の目は厳しさを増しているほか、日本の金融機関が犯罪組織やテロ資金につながる不正送金を見逃せば「国際的な信頼を揺るがしかねない問題に発展する可能性がある」と指摘しています。さらに、日本固有の状況として、来年に控えるFATF(金融活動作業部会)の対日審査をにらみ、体制整備を急ぐ必要があります。その一方で、本コラムでも紹介したとおり、四国地方の地銀や埼玉県信金のように不正な海外送金を見過ごしてきた実務の脆弱性も顕在化しており、金融庁は、送金受付時などに確認する検証項目を具体化するよう促しています。報道(平成30年9月21日付ニッキン)によれば、実態調査によって、「なりすましの疑いがないか」「不合理な点はないか」といった抽象的な表現でルール化する事例が多く、一方で、深いリスク分析を実施する金融機関の検証項目が具体的になる傾向があることをふまえ、営業店が判断しやすいルール設定にすることでAML/CFTの実効性を高める狙いがあるといいます。高額な現金の海外送金でも本人確認書類を再徴求する対応にとどまるなど、各行・各現場が主体的にふみこんだ実効性の高い確認が行えていない状況があり、リスク管理の実効性を高める方策としても、「現場がわかりやすいルール」「現場が使いやすいルール」「現場の判断に依存しないルール」「解釈の幅が狭く誤解されないルール」などの策定と徹底は重要だと思われます。なお、全国銀行協会は、窓口での業務をサポートするため、AML/CFTで金融機関が対応を求められていることを顧客に案内するチラシを作成しています。具体的には、特定の国に移住・所在している先と取引する場合は、資産・収入の状況等の確認、質問への回答がない場合は新規取引を断る、取引を制限するといったケースがあるなど、6項目を「お客さまへのお願い事項」として示しています。
 さて、とりわけ地域金融機関における海外送金の問題がクローズアップされその対応に厳格さが求められているところ、海外送金業務から「撤退」することが選択肢として浮上しています。AML/CFTへの厳格対応に負担感が増しているためで、例えば、富山第一銀行は10月から全店窓口での外国向け送金取り扱いを取りやめる極めて異例の対応を選択しています(事前登録した法人向けインターネット取引のみ本部が厳格に対応するということです)。常陽銀行や群馬銀行、八十二銀行、四国銀行などは現金による海外送金を取りやめ、みちのく銀行や宮崎銀行など対象店舗を絞るといった対応が選択されるなど、案件の少ない地銀を中心に今後、同様の対応が広がる可能性があると考えられます(筆者も複数の地域銀行から同様の話を聞いています)。一方で、AML/CFT対応を強化した金融機関もあり、例えば、ゆうちょ銀行は、多くの国内外法人データを確認できる仕組みを導入しています。報道(平成30年10月5日付ニッキン)によれば、10月から高額送金の場合、事前に送金内容を審査する取り組みも始めたほか、送金の規模を問わず活用するデータベースについては、億単位の数の法人情報を整理したもので、当該企業の個人株主や役員による他社の株式保有情報、役員兼務状況を確認でき、各企業の情報を結び付け、相関関係を表示する仕組みも搭載されているということです。
 なお、関連して、金融機関では、犯罪インフラとなりかねない「外国人の口座売買対策」の強化にも乗り出しています。売られた口座は特殊詐欺やマネー・ローンダリングなどの犯罪に悪用される恐れがあり、金融庁も注意喚起しているものです。最近、外国人留学生や技能実習生による預金口座の不正売買が後を絶たないことから、例えば、北洋銀行は、10月15日に預金規定を改正し、在留期限を過ぎた外国人の口座を解約できるようにする取り組みを行うほか、一部の地銀も同様の措置を検討しているということです。
 また、金融機関の取り組みだけでなく法レベルでの対応も必要な部分もあるようです。報道(平成30年10月4日付ロイター)によれば、FATFが国内、海外問わず国家元首や首相、閣僚、中央銀行総裁、軍隊の幹部など重要な公的地位を有する要人(PEPs)の規制強化を求めているのに対し、日本は海外の要人だけを規制対象にしており、国内政治家の規制強化に向けて政府として取り組む必要性が認められます。FATFはPEPsについて、汚職防止の観点から、取引時の本人確認を金融機関の窓口職員ではなく上級の管理者に行わせるほか、収入状況の確認、継続的な監視など、一般の利用者よりも厳しい対応が必要だとして法制化を要請しています。FATFの対日第3次審査の時点では日本は法整備ができていなかったものですが、「国内PEPsがマネロンに関与するリスクがあるのか、事実は必ずしも明確ではなく、慎重な検討が必要だ」というのが警察庁の認識であり、第4次審査でもクリアできない可能性があります。

さて、米財務省は、マネー・ローンダリングなどにかかわったとして指定暴力団六代目山口組の幹部ら4人と、関連の不動産会社2社を経済制裁の対象にしています。報道によれば、米財務省は、「我々はヤクザが管理する企業に狙いを定め、合法的に見える企業の実際の所有権を明らかにしている。性的搾取から武器密輸、ゆすりなどあらゆる犯罪で利益を得ている、日本の危険な犯罪組織と幹部らに圧力を強める」と声明を出しており、日本の暴力団が「国際犯罪組織(TCO)」として厳しい目で見られていることをあらためて示すものとなりました。なお、米財務省の制裁リストは以下から無料で検索することが可能です。

▼OFAC Sanctions Lists Including the SDN List

筆者が検索してみたところ、森尾卯太男山口組本部長ら幹部4人が新たに追加されていたことを確認したほか、不動産会社2社については、「YAMAKI, K.K.」、「TOYO SHINYO JITSUGYO K.K.」であることが判明しました。具体的には、株式会社山輝(本部事務所を所有している)、東洋信用実業株式会社(本部や組織の多様なビジネスで使われている不動産の運営・管理を行っている)の2社が制裁対象となりました。なお、現在、当該リストに掲載されている組としては、六代目山口組、神戸山口組、住吉会、稲川会、工藤会、弘道会、山健組であり、その他、篠田建市(司忍)など個人も掲載されています。なお、この制裁リストに含まれる個人・企業が米国の司法管轄下に保有する全資産が凍結されるほか、米国の個人・企業との取引が禁じられることになりますが、組織名や組長などの名義で米国内に資産があるわけはなく、その実効性については過大な期待はできないものと思われます。

金融庁と金融機関との対話において金融庁が提起した内容について、本コラムの射程範囲に限定して確認したいと思います。

▼金融庁 業界団体との意見交換会において金融庁が提起した主な論点
▼共通事項(主要行/全国地方銀行協会/第二地方銀行協会/全国信用金庫協会/信託協会/日本証券業協会/生命保険協会/日本損害保険協会/外国損害保険協会)

金融行政の新たな枠組みについては、プリンシプル・ベースの行政を徹底したことが大きなポイントのひとつです(他に、「中間目標と最終目標の再設定」、「取り組みの見える化によって顧客が選べる環境を整備」がポイントとなります)。具体的には、「2007 年に金融規制の質的向上(ベター・レギュレーション)の4本の柱の1つとして「ルール・ベースの監督とプリンシプル・ベースの監督の最適な組合せ」を掲げたものの、リーマンショックの発生などもあって、次の段階に進めなかったプリンシプル・ベースのレギュレーションを形あるものにした。具体的には、チェックシートの形で運用されていた検査マニュアルの廃止を決め、金融機関と当局が共有すべきプリンシプルとして、ディスカッション・ペーパーを公表した。このディスカッション・ペーパーは現時点で健全性政策基本方針およびコンプライアンス・リスク管理基本方針の2本である。プリンシプルは当局と金融機関の間で共有すべきものであり、まずはこのディスカッション・ペーパーを熟読いただき、議論をはじめていきたい」としています。また、本コラム(暴排トピックス2018年8月号)でも解説した「コンプライアンス・リスク管理に関する検査・監督の考え方と進め方(コンプライアンス・リスク管理基本方針)」(案)に関連して、「コンプライアンス・リスク管理に関しては、金融機関の経営陣において、経営目線での内部管理態勢を主導していくこと、外部有識者等の視点を活用するガバナンス態勢を構築すること、金融機関の規模・特性に応じたリスクベースでのメリハリのある管理態勢を構築すること等が重要であると考えている」こと、また、「当局による検査・監督においては、そのような金融機関の取組みを支援していくことが重要であると考えている」こと、「本基本方針は、より良い実務に向けた対話の材料とするためのものであり、経営陣の方も含めて、是非、一読いただき、建設的な対話を行っていきたいと考えており、協力をお願いしたい」としています。さらに、AML/CFTについて、「当庁は昨年来、AML/CFTの取組みを強化している。前事務年度に実施したモニタリングについて、要点をかいつまんで申し上げる」として、「金融機関等の実効的な態勢整備を図るため、マネロン・テロ資金供与対策の基本的な考え方をまとめた「マネロン・テロ資金供与対策に関するガイドライン」(以下、ガイドライン)を策定し、2月に公表・確定した」こと、「3月には、金融機関自身と当局とが業務におけるマネロン等のリスクを把握するため、基礎的な定量データや態勢面に関する定性情報等の報告を求める実態調査を実施した。加えて、5~6月には、各金融機関において、ガイドラインの記載と、各金融機関における現状の差異(ギャップ)を分析し、講じるべき具体的対応等を明らかにしていただくため、ガイドラインと現状とのギャップ分析を実施し報告するように要請した」ことなどをふまえ、「マネロン等対策においても、一番必要なのは経営陣の理解であり、経営陣の関与の度合いによって、金融機関のマネロン等対策の実効性に差異が生じている。マネロン等対策については、来年に控えたFATFによる相互審査等も見据えながら、引続き、各金融機関において、対策の高度化を図って頂きたい」としています。

その他、金融機関以外のAML/CFTとしては、福岡市で経済産業省が主催した「金地金等取引事業者向け犯罪収益移転防止法に関する説明会」が開催されたことが挙げられます。説明会において、経産省からは、九州で金塊密輸の摘発が多いことをふまえ、顧客の本人確認や取引記録の保存を義務付けた犯罪収益移転防止法の内容が説明され、「従業員に周知徹底してもらい、適正で健全な取引をしてほしい」と訴えたということです。また、届け出をすべき不審な取引事例として、短期間に何度も大量に金塊を売買したり取引記録を残さないよう依頼したりする顧客の動きを挙げています。今後は、金地金等取引事業者が社内でその内容を周知徹底し、現場のリスクセンスを発揮してマネロンリスク等への対応を強化していただきたいと思います。
 また、企業の取引先を装うメールを送って現金をだまし取る「ビジネスメール詐欺」の手口で得た収益を金融機関から不正に引き出したとして、警視庁組織犯罪対策総務課は、組織犯罪処罰法(犯罪収益隠匿)や詐欺などの疑いで、ナイジェリア国籍の自称貿易業の男2人を再逮捕しています。報道によれば、容疑者らは重機の輸出代金を装って、米国企業から仙台市にある銀行の口座に振り込ませた現金約500万円を引き出しだまし取ったもので、別の米国企業から同様の手口で現金約1億円を同じ口座に送金させ、9,300万円を不正に引き出したとして9月に詐欺の疑いなどで逮捕され、その後起訴されていたということです。なお、ナイジェリア人犯罪組織は世界で暗躍しており、マネー・ローンダリングや詐欺に限らず幅広い犯罪を手がけ、西アフリカからの覚せい剤の国内流通にも関与していると言われています。国内でも偽造カードを使った詐欺事件やマネー・ローンダリング事件が相次いでいることから、疑わしい取引にナイジェリア人の関与がある場合は注意が必要だと言えそうです。

(2) 特殊詐欺を巡る動向

まずは、例月通り、平成30年1月~8月の特殊詐欺の認知・検挙状況等についての警察庁からの公表資料を確認します。

▼警察庁 平成30年8月の特殊詐欺認知・検挙状況等について

平成30年1月~8月の特殊詐欺全体の認知件数は10,750件(前年同期11,663件、前年同期比▲7.8%)、被害総額は190.7億円(217.4億円、▲12.3%)となり、件数・被害総額ともに減少傾向が継続しています。なお、検挙件数は3,271件となり、前年(2,674件)を22.3%上回るペースで摘発が進んでいます(検挙人員も1,728人と前年同期比+21.9%であり、摘発の精度が高まっていると言えます)。うち振り込め詐欺の認知件数は10,624件(11,473件、▲7.4%)、被害総額は185.5億円(205.8億円、▲9.9%)となっており、認知件数が減少に転じてその減少幅が拡大しているほか、被害額の大幅な減少も続いています。また、類型別の被害状況をみると、オレオレ詐欺の認知件数は5,923件(5,054件、+17.2%)、被害総額は87.8億円(99.5億円、▲11.8%)と件数の増加傾向は続くもののその増加幅は減少しており、被害額は減少しています。また、架空請求詐欺の認知件数は3,244件(3,615件、▲10.3%)、被害総額は79.2億円(74.3億円、+6.6%)と件数の減少幅が拡大した一方、被害額が増加から減少に転じています。融資保証金詐欺の認知件数は288件(416件、▲30.8%)、被害総額は4.2億円(4.6億円、▲8.7%)、還付金等詐欺の認知件数1,169件(2,388件、▲51.0%)、被害総額は14.2億円(27.4億円、▲48.2%)と、これらについては件数・被害額ともに大きく減少する傾向が継続しています。これまで猛威をふるってきた還付金等詐欺の件数・被害額が急激に減少する一方、それととって替わる形でオレオレ詐欺が急増している点(特殊詐欺全体でみれば件数が減少に転じた点は特筆すべき変化ではありますが、それでも高水準を維持している点)に注意が必要です。なお、それ以外では、特殊詐欺全体の被害者について、男性25.0%、女性75.0%、60歳以上82.1%(70歳以上だけで66.6%)と、相変わらず全体的に女性・高齢者の被害者が多い傾向となっている(その傾向に拍車がかかっている)ほか、犯罪インフラの検挙状況として、口座詐欺の検挙件数は822件(1,041件、▲21.0%)、犯罪収益移転防止法違反の検挙件数は1,598件(1,565件、+2.1%)、携帯電話端末詐欺の検挙件数は183件(216件、▲15.3%)、携帯電話不正利用防止法違反の検挙件数は27件(30件、▲10.0%)などとなっています。

さて、特殊詐欺の被害者の多くが高齢者であることから、自治体と警察が連携して被害防止に努めようと名簿を警察と共有する動きがあります。例えば、大阪府警は管内の一部自治体と情報共有に関する覚書を締結しています。住民基本台帳に基づく自治体の情報は、警察が把握しているものより精度が高く、戸別訪問で効率的に注意喚起できるメリットがあるということです。一方で、プライバシー保護の観点から、こうした動きを懸念する声もあり、慎重な取り扱いが求められているのも確かです。東京都新宿区が特殊詐欺防止を目的として65歳以上の区民の名前や住所などを記した名簿を警察署に提供するとした問題で、対象となる区民約67,000人の4割に当たる約27,800人が「名簿提供を希望しない」と意思表示していたことが判明しています。新宿区は返信のない約40,000人分の名簿を提供する方針だということです。これについて、報道(平成30年10月3日付毎日新聞)で、第二東京弁護士会の弁護士が、「拒否が4割では、事業として成り立たない。個別に同意を得たうえで実施すべきだった」と話していますが、まずは特殊詐欺被害防止との目的を遂行できることが重要であり、もう少し一人ひとりの感情に寄り添った慎重な対応が必要となるものと思われます。
 また、報道(平成30年9月25日付産経新聞)によると、警視庁が摘発した特殊詐欺グループでだましの電話をかける「かけ子」の女が、グループの犯行拠点から遠く離れた自宅から犯行に及んでいたことが確認されたということです。アジト(拠点)から集団で電話をかける手法が一般的なところ、女は犯行に使う足のつかない携帯電話などの犯罪ツールを郵送で受け取り、グループの指示のもとで電話をかけ続けていたといいます。確かに、アジトから集団で電話をかける従来の手法では、不審な人物の出入りや多数の電話の声(騒音)などから近隣住民等から通報される可能性があり、短期間でアジトを転々とする必要がありました。その結果、移動可能な車やホテル・民泊等を転々としながら犯行に及ぶ詐欺グループも現れましたが、この「在宅勤務」型ではそのような問題が解消されるだけでなく、警察の摘発から逃れられやすいうえ、組織性の実態解明を分かりにくくするなどの効果が期待できることから、今後、ますます浸透していくことが予想されます。一方で、これまでアジトの摘発に注力していた警察にとっては、拠点の分散化、不透明化の進展への対応が迫られそうです。
 また、被害者には高齢者が圧倒的に多い一方で、若者などより若い層が巻き込まれるケースも増えています。実際のところ、有料サイトの未払い料金がある」などとかたる「架空請求」が目立ち、手口は巧妙化しています。かつては高齢者が現金を振り込まされる被害が目立ちましたが、最近ではインターネット上で決済される電子マネーの普及に伴い、若い世代である20~40歳代にも被害が広がっているようです(ちなみに架空請求詐欺における60歳以上の比率は53.3%、融資保証金詐欺では42.9%であり、全体の60歳以上の比率82.1%と大きく傾向が異なっており、より若い層の被害が目立つ形となっています)。
 さらに、以前の本コラム(暴排トピックス2018年8月号)でとりあげた、警察庁「平成30年上半期における特殊詐欺認知・検挙状況等について」においては、少年の検挙人員が368人であり、特殊詐欺全体の検挙人員の約3割(27.8%)を占め、増加傾向(+186人、+102.2%)にある点が懸念されると指摘しました。さらに、役割別では約7割(73.1%)が受け子で、特殊詐欺全体の受け子の検挙人員の約4割(36.7%)を占めるほどになっており、アルバイト感覚で足を踏み入れているケースが多いのではないかと推測されます。実際のところ、例えば、詐欺グループはアルバイト感覚で加担する少年を末端の「切り捨て要員」として利用していること、「少年法に守られている」「捕まってもすぐに出られる」といった言葉で、犯罪に加担する心理的なハードルを下げ、未成年にとっては高額な報酬を示して勧誘していること、規範意識の低さにつけ込み、警察に捕まる可能性が小さくない現金の受け取りなどに利用していることなどが犯行グループの勧誘の手口として報じられています(平成30年9月27日付読売新聞)。先輩などから誘われ、軽い気持ちで始めてしまう傾向にある薬物の問題同様、若年層に対する教育は極めて重要だと思われます。

その他、最近の報道から、特殊詐欺にかかわるものをいくつか紹介します。

  • 振り込め詐欺などの被害を防ぐため、自宅の固定電話に取り付ける「通話録音装置」の無償貸与を行っている埼玉県春日部市が、装置の活用をさらに広げようと、貸与事業のキャンペーンを行ったとの報道がありました。報道によると、装置は電話着信時に、「この電話は振り込め詐欺などの犯罪被害防止のため、会話内容が自動録音されます」とのメッセージが発信者側に流れるもので、発信者が振り込め詐欺などを画策していたとしたら、通話を録音されるのを嫌がるため、電話を切らせる効果があるとされます。実際、装置を導入した人からは「(振り込め詐欺を思わせる)電話がかかってこなくなった」との声が寄せられているということです。
  • 特殊詐欺の被害を食い止めようと、青森県警は電話で詐欺の手口などを県民に直接伝えて注意を呼びかける「特殊詐欺被害防止広報コールセンター」を開設しています。詐欺グループから押収した名簿の電話番号などにオペレーターが直接電話をかけるもので、同県内で被害が目立つ「架空請求」の手口を説明するほか、不審な電話がかかってきていないかも聞き取り、多発地域には重点的に注意を呼びかけるということです。
  • 栃木県警と栃木県タクシー協会、栃木県個人タクシー協会は、ぶかぶかのスーツとマスク姿には要注意など殊詐欺の「受け子」の特徴をまとめた「手配書」をタクシー運転手に配布する「特殊詐欺タクシー通報作戦」を始めています。詐欺の被害者と直接会って現金を受け取る受け子は、移動にタクシーを使うことが多いといいます。同県警は、不審者を乗せたら通報するようタクシー運転手らに呼びかけ、特殊詐欺被害を未然に防ぐことを狙うとのことです。
  • 報道(平成30年10月10日付読売新聞)によると、「息子かたり」と呼ばれる身内を装う特殊詐欺では、事前に電話を入れるケースが相次いでいるといいます。静岡県警が今年1~4月の「息子かたり」の詐欺電話932件の時間帯を調べたところ、最も多かったのは午後6時台が121件、続いて同7時台が119件、同8時台の99件であり、犯人が事前に電話をする理由は、同県警では「段階を踏むことで、息子や孫だと信じさせやすくするため」、「高齢者が孫や息子と同居していないかを調べるため」、「翌日の在宅の状況を確認し、効率的にだますため」と指摘しており、大変興味深いものです。
  • 金融機関では、不審な引き出しに対し、理由や経緯を尋ねる声掛けが徹底されていることをふまえ、服装で引き出しの理由を不審に思わせない手口もみられています。報道では喪服を着用するよう指示する手口を「新しい手口」としていましたが、実は過去にも、警察庁のレポート「平成27年上半期の特殊詐欺の認知・検挙状況等について」に、「被害者が金融機関で預貯金を引き出す際に疑われないよう、喪服を着用して金融機関に行き、身内に不幸があったのでお金が必要と説明するよう指示」された事例が紹介されています。なお、同レポートでは、「金融機関で預貯金を引き出す際に疑われないよう、あらかじめ、自動車販売店で新車のカタログを受け取って金融機関に行き、新車の購入代金としてお金が必要と説明するよう被害者に指示し、カタログが被害者に渡るよう手配までしていた」事例も紹介されています。
(3) 仮想通貨を巡る動向

テックビューロ社が運営する仮想通貨取引所Zaifがハッキング被害を受け、約70億円相当の仮想通貨(ビットコイン、モナコイン、ビットコインキャッシュの3種類)が流出する大規模事件が発生しました。今年1月のコインチェック社のNEM大規模流出事件の発生を受けて、金融庁も監督を強化、みなし業者の問題にも厳しく対応してきました。ところが、本コラムでも紹介した金融庁の「仮想通貨交換業者等の検査・モニタリング中間とりまとめ」において、多くの仮想通貨交換業者が「法令等のミニマムスタンダードにも達していない内部管理」態勢だと厳しく指摘されたばかりのタイミングでの発生であり極めて憂慮すべき状況です。テックビューロ社は、これまでもシステム障害が多発し、金融庁から2度も業務改善命令を出されていたにもかかわらず、結果的にセキュリティ面の脆弱性を認識しながら利便性を優先、コインチェック社のセキュリティ面の脆弱性が露呈した教訓を活かすことなく、「ホットウォレット」で管理していたというから驚きです(仮想通貨の取引では、常に出し入れができるコインを確保するため、一定額をホットウォレットに入れておく必要がありますが、外部とつながっているため不正アクセスの危険に晒されており、一定金額に抑えたうえで万全のセキュリティ対策を取る必要があります)。また、流出が始まった時期として、分析結果によれば9月14日の17時ごろから19時ごろにかけてホットウォレットを管理するサーバーが不正にアクセスされたことがきっかけだったということですが、15日から分散が活発化していたところ、テックビューロ社が異常を検知したのは17日であり、さらに被害を確認したのは18日と検知(認知)の遅れが顕著であり、この点でも極めて重篤な脆弱性を有していたと指摘できます(攻撃側の拡散のスピード感に対応できなければ、流出したコインの追跡が非常に難しくなるからです)。このようないくつもの脆弱性を認識しつつ(認識できず)改善を怠り、放置しながら顧客を欺いてきた企業姿勢にはただただ呆れるばかりです。そもそも犯罪者の攻撃の手口が高度化する一方であるところ、(攻撃側が圧倒的に優位な構図の中)十分な防御ができないのなら、その社会的責任の大きさをふまえ、金融庁は機動的に登録の取消しも検討できる仕組み等を整備すべきではないかと考えます。一方で、そもそも顧客の資産を預かるという金融事業の本質の理解と自覚なき事業者は自ら退場すべきです。この点、テックビューロ社は、金融事業会社で自らも運営しているフィスコ仮想通貨取引所との間でZaifの事業を譲渡する契約を正式に締結したと発表しました。顧客への補償は、当初予定したフィスコからの50億円の金融支援ではなく、フィスコが調達済みの仮想通貨と日本円で行われ、事業譲渡後、テックビューロ社は仮想通貨交換業の登録を廃止した上で解散する予定だということです。いずれにせよ、金融庁のレポート等から見られるように、仮想通貨業界のずさんな資産管理の実態は目に余るものがあります。新たに設立された自主規制団体と金融庁の密接な連携のもと、速やかに利用者保護の徹底を図らなければ、次世代の決済手段と注目された安全性への信頼、仮想通貨取引への信頼がますます損なわれることになると思われます。
 さて、今回のテックビューロ社の仮想通貨不正流出事件では、流出したコインがさらに数千口座へ分散、不特定多数の取引を組み合わせて追跡を困難にする「ミキシング技術」と呼ばれる仕組みが使われたようです(報道によれば、今回流出分の半数以上が3万件超の送金先に分散されたということです。コインチェックからの流出時に比べて分散の規模が大きく、不正アクセスの攻撃者が追跡を困難にして現金化する狙いがあるのは自明ですが、その手口が高度化している実態が垣間見えます)。さらに、仮想通貨の持つマネー・ローンダリング/テロ資金供与リスクという観点から言えば、例えば、匿名性の高い仮想通貨が使われるだけで所在の特定はさらに困難となります。また、交換所や取引所を介さないでWebサイト上の掲示板やSNSを通じて仮想通貨を取引する「相対取引」も見られ、当局の規制対象外の匿名取引が横行するリスクを孕んでいます。さらには、(仮想通貨を保管する)ウォレットを開設する際に個人情報の提供を求めないウォレット会社(そもそも監督・規制の対象外となっています)もあり、これまた匿名性の高い取引を助長しかねない状況です。現状、仮想通貨取引は、匿名を望む人にとっては悪用し放題のサービス・手法が提供されている(マネロン・テロ資金供与の格好の手段=犯罪インフラとなっている)と指摘できます(詳細は控えますが、金融庁は仮想通貨による政治家への献金、利益供与とともに危惧しているのが暴力団の関与だと言われています。実際のところ、六代目山口組最大の直系団体である弘道会と廃業した某仮想通貨事業者との関係も取り沙汰されています)。言い換えれば、仮想通貨にはこれまでのAML/CFTの常識は通用しない面もあるということであり、その独特のリスクをきちんと分析したうえで、これまでの厳格さのうえにあらたな監督・規制の発想が国際的に求められていると言えます。

▼金融庁 テックビューロ株式会社に対する行政処分について
▼テックビューロ株式会社に対する行政処分について(近畿財務局ウェブサイト)

テックビューロ株式会社(本店:大阪府大阪市、法人番号1120001184556、仮想通貨交換業者)(以下、「当社」という)に対しては、資金決済に関する法律(平成21年法律第59号)第63条の15第1項に基づく当社からの報告及び金融庁の検査を踏まえ、平成30年3月8日(木)に、実効性あるシステムリスク管理態勢や適切に顧客対応するための態勢、同年6月22日(金)に、適正かつ確実な業務運営を確保するための実効性ある経営管理態勢、法令遵守、マネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策、利用者財産の分別管理等に係る実効性ある内部管理態勢について、同法第63条の16に基づく業務改善命令(以下、「3月8日付業務改善命令及び6月22日付業務改善命令」という。)を発出し、その改善状況を定期的に確認しているところである。当社においては、平成30年9月14日(金)に当社が保有していた仮想通貨が不正に外部へ送信され、顧客からの預かり資産が流出するという事故(以下、「流出事案」)が発生した。これを踏まえ、同年9月18日(火)、同法第63条の15第1項の規定に基づく報告を求めたところ、発生原因の究明や顧客への対応、再発防止策等に関し、不十分なことが認められた。当社に対し、同法第63条の16の規定に基づき、下記の内容の業務改善命令を発出した

  1. 流出事案の事実関係及び原因の究明(責任の所在の明確化を含む)並びに再発防止策の策定・実行
  2. 顧客被害の拡大防止
  3. 顧客被害に対する対応
  4. 3月8日付業務改善命令及び6月22日付業務改善命令の内容について、流出事案を踏まえて、具体的かつ実効的な改善計画の見直し及び実行
  5. 上記1から4までについて、平成30年9月27日(木)までに、書面で報告

さて、仮想通貨の安全性・信頼性を損なうような事態が頻発している状況の中、金融庁の「仮想通貨交換業等に関する研究会」での議論が再開されていますので、重要と思われる部分をピックアップして紹介したいと思います。

▼金融庁 「仮想通貨交換業等に関する研究会」(第5回)議事次第
▼資料2 説明資料(事務局)

これまでの議論を通じて、「仮想通貨やブロックチェーンについては、地域通貨のような形で地域の創生に貢献できる、情報共有の領域でコストを削減できる、ICOについては、場合によってはリスクマネーの調達手段の一つとして使えるかもしれない、といった良い面も考えつつ、規制を検討していくべきではないか」、「仮想通貨、ICOの果たしている機能に応じたリスク・特性を踏まえて、規制のあり方を検討していく必要があるのではないか」、「取引が国境を越えて行われるため、エンフォースメントが難しい局面もあると思われるが、規制が必要であるということと、エンフォースメントが難しいということは、レベルとしては違うことなので、分けて考えていくべきではないか」、「今後は、ルールメイクやエンフォースメントに当たって、国際的な協力が不可欠ではないか」、「現時点では、規模的にシステミックリスクに繋がる可能性は低いと思われるが、レバレッジやボラティリティが大きいことを踏まえれば、将来的には、大きなイベントがあったときなどにどのような動きをするのかということをしっかりとウオッチしていく必要はあるのではないか」、「最低基準の遵守に向けたルール・ベースのアプローチに重点を置き、悪質な事案については厳しい処分を科すということによって、抑止力を高める、世間に対する注意喚起を促す、といったアプローチが必要なのではないか」、「参入規制が少し緩いのではないか。例えば、自己資本も低い額になっているが、一旦流出事故が起きれば、数十億、数百億単位で喪失が出ることもあり得るので、自己資本に限らないが、参入規制についてもう一回考えてもよいのではないか」、「適切性を認めがたい仮想通貨について、例えば参入規制で業者登録を認めないとか、行為規制の中で一般の投資者への販売を許容しないといった対応が考えられてもよいのではないか」、「みなし業者について、現行規制でもっと運用・監督を改善・強化していくという考え方もあるのではないか」、「マネー・ローンダリングの疑いや匿名性のある仮想通貨が出てきている中で、法定通貨でも厳しいマネー・ローンダリングの規制がある以上、同じように考えていく必要があるのではないか」、「仮想通貨の預託や移転だけを行う業態について、犯罪収益移転防止法の規制対象にしなくてよいか、検討を要するのではないか」、「金融商品取引法の規定を準用できるかは疑問であるが、インサイダー情報をもっているから儲けることができるという状況を放置するわけにもいかないので、実効的な規制を考える必要があるのではないか」、「ICOについては喫緊の対応が必要ではないか。特に消費者保護が焦点になると思われ、どういったアプローチで対処していくのか、どの程度の厳しい規制を課していくのか、柔軟にガイドラインのような形で対応していくのか、といったことも含め、ある程度論点を絞った上で、検討していく必要があるのではないか」、「仮にICOがベンチャー企業等の資金調達手段として有効であった場合、それを禁止することによって企業が海外に出ていったり、日本での技術開発が難しくなったりすることがないのかという点は、議論していく必要があるのではないか」、「ICOについては、ホワイトペーパーに関する詳細な情報開示を事業者側に義務づけること等により、場合によってはリスクマネーの調達手段の一つとして使える可能性があるのではないか」、「実際に、ICOがスタートアップの資金調達に有効に効いている例はないのか、事例を調べる必要があるのではないか」といった有益な意見が出ており、今後の議論につながるものと思われます。

▼資料4 説明資料(日本仮想通貨交換業協会)

本資料は、自主規制団体である日本仮想通貨交換業協会の自主規制の概要がまとめられた資料となりますが、例えば「AML/CFT・反社対策関連規則」のパートでは、まず「金融庁AML/CFTに関するガイドラインに準拠し、仮想通貨交換業者に求められるAML/CFT態勢について規定」していることが示されています。とりわけ注目したいのは、「KYC・CDD」に関する部分であり、「犯収法の規定にかかわらず、ウォレットの提供時等にも取引時確認の対象」とすること、「反社情報のみならず、制裁リスト、PEPsリスト等を活用した新規及び既存利用者のスクリーニングを継続的に実施」すること、「継続的な利用者管理に加え、取引先等の管理も実施」することが求められています。これらは、(1)最近の反社チェックのみでは不十分であり、リスクの多様化・高度化に対応した「KYCチェック」が重要となること、(2)「真の受益者」の特定が困難になりつつある状況とサプライチェーン・マネジメントの厳格化の視点から「KYCCチェック」へと移行すべきであること、(3)社会の要請・社会常識・各種規制等は時代とともに変わることをふまえたジャッジメント・モニタリング(常に現時点の目線で確認していくこと)の実践=「継続的な顧客管理」もまた重要であること、という取引先管理のあり方(厳格な顧客管理)を先取りしたものと捉えることができます。また、AML/CFTの実務において重要な取引管理については、「利用者属性や取引時の状況等の情報を勘案した取引モニタリングによる疑わしい取引の検出、当局への届出の徹底」が掲げられています。このあたりも、厳格な顧客管理のあり方のひとつとして、(4)なりすましや真の受益者の不透明化の進展への対応として、属性の確認だけでは不十分であり、行為(ふるまい)に着目したモニタリング態勢の高度化、現金化する時点でのリアルなAML/CFTとの接続・連携の重要性についても見通していただきたいところです。その他、データ管理として、「確認記録・取引記録の正確なデータベース化、データベースを利用したリスクの評価や低減措置の実効性の検証を実施・業務内容・業容に応じた疑わしい取引等の検出・監視・分析態勢の構築」、経営陣の関与として、「AML/CFTを経営戦略等における重要な課題の一つとして位置付け、経営陣が主体的かつ積極的に関与・理解」、「責任者設置:AML/CFT、反社対策の責任者の設置、責任者への情報伝達ルールの整備」、職員の確保・育成として、「採用や研修等を通じたAML/CFTに関わる職員の適合性の確認」といったAML/CFT+反社排除に向けた内部統制の構築に必要な要素について一通り言及されています。

▼金融庁 仮想通貨交換業等に関する研究会」(第5回)議事録

これまで紹介してきた資料をふまえ、当日の研究会での議論が議事録として公表されています。関連して重要と思われる部分を箇条書きで紹介したいと思います(一部言い回し等筆者にて加筆修正)。

  • 内部管理よりも広告宣伝にお金をつぎ込むというような利益を優先した経営姿勢、取締役及び監査役の牽制機能が発揮をされていない、あるいは技術には相当詳しいけれども、金融業としてのリスク管理に知識を有する人材が不足している。また、利用者保護の意識や遵法精神が低い企業風土があるのではないか、あるいは、わかりやすく経営情報や財務情報の開示をするということに消極的であるというようなことが認められた
  • 取扱い暗号資産の選定に当たって、暗号資産の利便性や収益性のみが検討されている反面、取扱い暗号資産ごとにセキュリティやマネロン・テロ資金供与対策のリスクを評価した上で、リスクに応じた内部管理態勢の整備を行っていないこと。あるいは、リスク管理・コンプライアンス部門としては、専門性、能力を有する要員が確保されていない、システムでは、業容や事務量に比べて、システム担当者が不足している、コンティンジェンシープランやセキュリティに関する研修が不十分
  • 課題としては市場の急拡大に対しての対応があげられる。また、金融業者としてのお客様のお金を預かる、財産を扱うという意味についての意識改善及びガバナンスの強化。不適切な営業方法の是正。リスク管理態勢の強化、確立。サイバー攻撃等に対して外部脅威に対しての対応。また、AML/CFTに対して、どういうふうに取り組んでいくか。デリバティブ取引、また、仮想通貨発行、ICOなどの新たな取引類型に対する対処をどう行っていくかなどがある
  • 利用者保護上または公益上問題がある仮想通貨に関しては、協会としては取扱いを禁止する方向。移転・保有記録の更新・保持に重大な支障・懸念が認められる仮想通貨や、会計士等により監査が実施できない仮想通貨、また、安全な保管及び出納ができないもの、資金決済法上の義務を適正かつ確実に履行できないものなどについては、仮想通貨としては取り扱わないという方向で協会としては臨んでいる
  • 事件等であったホットウォレットについては、単位時間当たり、送金数量に応じ設定するというような形の中でどれぐらいの仮想通貨を保有するかについてのリスク許容度の部分を設定している。また、マルチシグなどを利用し、受払担当者による不正流用を防止するために必要な措置を講じることも規定化している
  • 苦情が非常に多かったことも踏まえ、まず業者に事前説明(情報開示)として、どこに問い合わせればいいのか、ADRとか協会への相談方法、相談の仕方、連絡先などをしっかり開示、明示すること、苦情処理体制の構築。また、苦情受付記録をしっかり保管することを規則化している
  • サイバー攻撃等が行われた際に、仮想通貨が流出した場合等、賠償等をどう会社が行っていくのかという賠償方針や、業務報告書、直近の財務書類、監査報告書の内容等も開示することを規則の中には掲げている
  • 不正取引の具体的内容として、価格変動を図る一方で行う一定の行為、いわゆる風説の流布、また、相場操縦、架空名義による取引などが挙げられる。また、役職員(内部者)による「仮想通貨関係情報」を利用した取引等も、自主規制規則のほうにそういったところを防止する観点で規定を設ける対応をしている
  • 日本の市場に関しては、投機目的のほうが市場多数を占める状況の中で、その健全化の必要性というのを痛感。このため、仮想通貨発行体への基準設定・法整備・モニタリング、また、詐欺・実態的利用価値がない通貨・ホワイトペーパーと整合性のない通貨の排除などをどう行っていくか、また、AML/CFTのための世界的な連携なども進めていく必要がある
  • 証券会社、金商法事業者に準拠した仮想通貨の本人確認、KYC、CDDを進めることによって、入り口、出口というのはまず未然にしっかり押さえていくことができると思っている
  • 警視庁のサイバー犯罪対策課等の連携も業者ベースでは現在行っているが、協会としても連携しながら、反社会的勢力データベースなどもしっかり情報収集、探査ができるよう取り組みながら、業界における不正の締め出しに取り組みたい

国民生活センターが仮想通貨に関するトラブル(ICOを巡るトラブル)事例を詳細に掲載しています。

▼国民生活センター 新しく上場するという仮想通貨のトラブル

相談内容としては、「知人から「新しい仮想通貨(Aコイン)が来月には上場されるので、今、購入しておけば将来値上がりして儲かる」という勧誘を受けた。説明では「スマートフォンに海外にある仮想通貨交換業者のアプリを入れ、自分のアカウントを取得してウォレットを持てば、そこにAコインが入る。もし、上場されなければ契約先となる事業者が買い取るのでリスクはない」ということだったので計500万円を支払った。その後、海外にある仮想通貨交換業者のアプリをスマホに入れ、アカウントを作成した。アプリを開くとAコインがウォレットに入っているような表示が出る。しかし、Aコインは仮想通貨Bと交換できると言われていたのに、交換しようとしてもできない。Aコインが上場しているのかどうか分からないし、当初の話と違う。事業者に全額返金を求めているが「買い取ってくれる人を探している」などと言って引き延ばされている」といったものでした。同センターの対応経緯については省略しますが、本件の問題点として、以下を指摘しています。

  • 事業者は、Aコインはトークンであり仮想通貨ではないと主張したが、トークンと称していたとしても仮想通貨に該当する場合がある。具体的には、本件において事業者は「Aコインは仮想通貨Bと交換できる」と標榜していたが、仮にそれが事実であれば、Aコインは1号仮想通貨である仮想通貨Bと交換できる2号仮想通貨に該当する可能性があり、Aコインはトークンにすぎないと主張していたとしても、資金決済法における仮想通貨にAコインが該当する可能性が生じることとなる。なお、トークンが資金決済法における仮想通貨に該当する場合、当該トークン発行者が仮想通貨に該当するトークンの売買や他の仮想通貨との交換を業として行う場合には、仮想通貨交換業の登録を受ける必要があるが、本件において事業者が仮想通貨交換業の登録を受けている事実は確認できなかった。
  • 金融庁の「事務ガイドライン」によると、海外の事業者の場合であっても、日本国内において仮想通貨交換業に係る取引を行う場合には、資金決済法に基づく仮想通貨交換業の登録が必要となる。また、海外の事業者が国外で仮想通貨交換業の登録と同種類の登録を受けている場合(資金決済法に規定する外国仮想通貨交換業者)であっても、原則として、外国仮想通貨交換業者は、国内において仮想通貨交換業の登録を受けずに仮想通貨の売買や交換等の勧誘を行ってはならないとされており、この勧誘行為にはウェブサイト上への広告掲載も原則として「勧誘」に該当するとされている。
  • 本件においては、Aコインの法律上の仮想通貨該当性や事業者の仮想通貨交換業の登録の有無といった資金決済法に関連する問題点以外にも、実質的に事業者が投資を募っているとの見方もできることから、金融商品取引法上の集団投資スキームへの該当性についても検討する余地がある。また、勧誘時に「Aコインが上場しなければ買い取る」などと、あたかも元本保証のような説明をしていることなどから、出資法の観点からの検討も可能となる。それゆえ、本件のようなICO に関連する事例においては、資金決済法や同法関連のガイドラインだけではなく、金融商品取引法をはじめとする他の金融関係法規についても検討する余地がある

最後に、仮想通貨の盗難を巡る状況について確認しておきます。CIPHER TRACE社のレポートによると、今年1~9月に仮想通貨交換所と取引プラットフォームからハッキングによって盗まれた仮想通貨の被害額は9億2,700万ドル(約1,040億円)と、昨年全体の2億6,600万ドルから250%近くも急増したということです。ビットコインの人気上昇に加え、その他のデジタル通貨やトークンが1,600種類以上も登場したことで、ハッキングを通じた犯罪や不正も拡大しているとされます。

▼CIPHER TRACE Cryptocurrency Anti-Money Laundering Report‐Q3 2018

本件に関する報道(平成30年10月11日付ロイター)によると、同社CEOは、「規制当局の対応は数年遅れの状態にある。強力なマネー・ローンダリング取締法を本格的に適用している国はごくわずかだからだ」と語っています。さらに、実際の犯罪は今回のレポートで把握した分の5割増しである公算が大きく、現に同社としても報告書以外で6,000万ドル強の仮想通貨盗難があったと認識しているということです。
 一方、日本については、警察庁が、ビットコインなどの仮想通貨が不正アクセスによって盗み出された被害は今年上半期に158件あり、前年同期の3倍超になったと発表しています。1月に発覚した約580億円相当のコインチェック社のNEM流出を含め、被害総額は約605億円に達しています。前半の1~3月が8割近くを占め、後半は減少しており、NEM流出事件を受けて金融庁が仮想通貨交換業者への行政指導を強化し、利用者の認証を厳格化した効果が出ているものと推測されます。なお、本報告書では、認知した158件のうち102件(64.6%)において、利用者が他のインターネット上のサービスと同一のID・パスワードを使用していたと指摘しており、「ID・パスワードの使い回し」がセキュリティ対策上の重要な課題として認識する必要があります。

▼警察庁 平成30年上半期におけるサイバー空間をめぐる脅威の情勢等について
(4) テロリスクを巡る動向

米国務省が、世界のテロの動向に関する2017年版の報告書を発表しています。

▼U.S.DEPARTMENT of STATE:Coordinator for Counterterrorism Nathan A. Sales on the Release of the Country Reports on Terrorism 2017

本レポートによると、2017年に世界で起きたテロの件数は前年に比べ23%減、死者数も27%減ったということです。イラクでのテロが大幅に減ったことが主な理由されていますが、ケニアやソマリア、英国などではテロの件数、死者数共に増えています。報告書は、国際テロ組織の掃討が大きく前進したと評価したものの、一方でテロ組織はより拡散し、秘密裏の活動を拡大しており、インターネットを使って遠隔地の信奉者を扇動していると警告しています。関連して、本コラムでたびたびその動向を取り上げているイスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」(IS)については、いまだ一部地域で活動している「リアルIS」と、ローンウルフ型テロのように思想的に世界中に影響を及ぼしているISの「2つのIS」が存在しています。前者については、全体的な縮小傾向にある一方で、散らばった残党によるアジア・アフリカ等での展開に注意が必要な状況です(最近では、ISの前身でもある「イラクのアルカーイダ」の拠点のあるイラクをベースにISが態勢を立て直しているとの情報もあります。「リアルIS」と一口に言っても、イラクの現状について専門家は、「新IS」ではなく「元祖IS」だと指摘しており、国際社会にとっても注意が必要だと言えます)。また、後者については、日本を含む世界中で今後も、いつ、誰によって起こるか分からない「見えないテロリスク」に備えていく必要があると言えます(なお、見えないテロリスクに関連して、ISが最近支持者向けに出したポスターに、生物兵器で米国の都市を攻撃することをイメージさせるものがあったといいます。バイオテロを示唆するものとして注意が必要です)。
 さて、日本もテロの脅威とは無関係ではいられませんが、実際に国際テロ組織によるテロが発生していないこともあり、まだまだ危機感はまだまだ低いようです。日本では今後、皇位継承式典、G20やラグビーW杯、東京五輪・パラリンピックといった世界的なイベントが目白押しであり、テロリストにとっては格好の標的・機会となることが予想されることから、日本もまたテロリスクとは無関係でいられないことを国民全体がもっと真剣に対峙していく必要があります。このような状況の中、前回の本コラム(暴排トピックス2018年9月号)で取り上げたとおり、テロとの関係は薄いものの、高性能爆薬「TATP(過酸化アセトン)」を製造したなどとして、愛知県警捜査1課が、爆発物取締罰則違反(製造、所持)などの疑いで、名古屋市の大学生の少年(19)を逮捕した事件については、この大学生が市販薬から覚せい剤を製造したとして、覚醒剤取締法違反(所持)の疑いで再逮捕しています。爆薬や覚せい剤、拳銃の原材料については、主にインターネットから調達したとみられていることから、ネットで薬品を販売する業者に、テロ未然防止の観点から不審な購入者の通報等の徹底が求められます。しかしながら、報道(平成30年9月日付産経新聞)でも指摘しているとおり、ネット上で原材料の調達を防ぐには限界があります。指定薬品の販売時の身分証明書や企業情報の提示や入力を求めても、積極的には確認しないといった実務の実態、「情報を信じている。業者向けなので大量購入も不自然ではない」との通販サイト事業者の言葉は、テロリストに購入される(既にされている)リスクがかなり高いことを示唆しています。また、この大学生が(違法薬物や銃器、サイバー攻撃のツールなどが取引されている)「ダークウェブ」にアクセスした疑いがあることもあり、リアルな対面販売の強化とともにネット通販の厳格な販売態勢の徹底、さらにはダークウェブの監視や取締りの強化も必要な状況です。

さて、本コラムでは、社内研修等の一環として活用できそうな外務省の「ゴルゴ13の中堅・中小企業向け海外安全対策マニュアル」の紹介を継続的に行っています。さいとう・たかをさんの人気漫画「ゴルゴ13」が登場するもので、大変分かり易くポイントもおさえられているものと思います。以下に掲載されていますので、是非、ご覧いただきたいと思いますが、今回もその中から一部をあらためて紹介します。

▼外務省 ゴルゴ13の中堅・中小企業向け海外安全対策マニュアル
▼第11話 有事への備え

本話で最も重要だと思われる指摘は、「普段から関連情報をモニターし、渡航先・赴任先の様子を観察し続けていると、有事の兆候をつかめる場合がある」という点です。これは危機管理の鉄則であり、どのようなリスクへの対応においても重要なポイントだと言えます。そして、そのような場合には、不測の事態を想定しつつ、回避する努力を行う必要があり、まずは、現地の日本国在外公館や治安当局、本社に状況の報告・相談をし、アドバイスを求めること(国によっては治安当局の信頼性に問題がある場合もあり、その点は注意が必要)、得られたアドバイスを参考にしながら現地側で可能な対策を検討すること、さらには、「目立たない」「行動を予知されない」「用心を怠らない」という「安全のための三原則」をあらためて見直し、遵守を徹底するとともに、例えば警備などの強化、通勤経路や時間の変更、単独行動の回避、視察予定等の変更など、自衛策を講じることが求められます(なお、あわせて、勤務先・家族とは不測の事態に巻き込まれた場合を想定し、対応を事前に話し合っておくことも必要です)。そして、「重要なのは、どんなに小さな兆候でも、気になることがあればすぐに相談すること」、「ささいな兆候であれば、実際の有事に繋がらない可能性もあるため、報告・相談をためらう場合も多いと考えられるが、報告することにより本社でも関連情報の収集に動くことができ、本社と現地が円滑に連携できる体制をつくることができること」、「情報収集により事前予防や被害を小さくすることが可能な場合もあり、現地で気になる変化が生じた場合には、躊躇なく報告するように心掛けること」を説いています。一方の本社の危機管理担当者に対しては、「現地からの報告を歓迎する雰囲気づくりに努める必要がある」と指摘しています。「常日頃から必要な情報提供や注意喚起を行いながら、現地の情報も積極的に確認するようにすること」、そして「こうしたやり取りを意識的に行うことで、ささいな有事の兆候にも対応できる組織体制をつくることが可能になる」との指摘は、正に、有事に備えた平時にできる危機管理であり、それを実践し続けることが有事に強い組織を生むという点で極めて重要な指摘だと言えます。

(5) 犯罪インフラを巡る動向

最近の報道から、犯罪インフラ化が懸念される状況について、いくつか紹介します。

例えば、特殊詐欺の「3種の神器」と言えば、「他人名義の携帯」「他人名義の銀行口座」「名簿」ですが、これら犯罪ツールを手配するのが「道具屋」と呼ばれるグループであり、犯罪インフラそのものです。口座やカードを多重債務者らから入手し、詐欺グループに売るなど道具屋の暗躍により、譲渡された口座やキャッシュカードが、振り込め詐欺やマネー・ローンダリングに悪用されるケースは後を絶たず、口座やカードの譲渡、買い取りを禁じる犯罪収益移転防止法違反の摘発件数は、昨年は前年の約3割増の約2,500件に上るなど、道具屋が活発に活動している状況がうかがえます。この道具屋に絡み、直近では、東京都大田区議(日本維新の会)が金融業者を名乗る男に譲渡した口座が、振り込め詐欺に悪用されるという事件が発生しています。報道によれば、「法の存在を知らず、(業者に)言われるがままに応じてしまった」として、被害者に現金約200万円を全額弁済する意向を示したということですが、そもそも口座やキャッシュカードの譲渡は犯罪収益移転防止法に抵触する疑いがあります。さらには、法令違反であるだけでなく、そもそも口座を売却するような話がなされるという特異な状況にいること自体、さらには他人に口座を売却することが犯罪を助長する行為であるとの認識すらない人物が、選挙で選ばれて公職に就いていることは「知らなかった」では済まされず、大変残念です。
 また、3種の神器のひとつである「名簿」についても、直近では、通信教育の教材費名目で現金をだまし取っていた男に、顧客リストとなる名簿(通販利用者などの名簿)を売ったとして、京都府警生活保安課などが、詐欺などの疑いで、名簿販売会社役員ら2人を逮捕したという事件がありました。容疑者らが売った名簿を使って金をだまし取られた被害者は47都道府県におり、被害額は約12億円に上るとみられるということであり、販売している名簿が詐欺に使われると知っていたのであれば、かなり悪質な事例だと言えます。なお、特殊詐欺などに使われる名簿は、内部犯行(役職員による社外への持ち出し)や不正アクセス等により企業等から漏えいした個人情報が、悪質な名簿屋やダークウェブ等を介して流通しています(ただし、名簿屋については、ベネッセコーポレーションの顧客情報流出事件などを受け昨年全面施行された改正個人情報保護法によって、名簿の仕入れが難しくなり、利用者の身分確認も必要になったことなどから事業の継続が困難になっていることが個人情報保護委員会による初の実態調査で判明しています)。この名簿の中でもとりわけ高値で取引されているのが、「騙されたことのある人の名簿」だといいます。特殊詐欺の被害者の8割以上が60歳以上ですが、人は高齢化するにつれ「自分は騙されるほど愚かな人間ではない」と強く思い込むようになる(いわゆる「確証バイアス」が強くかかる)ことから、息子を名乗る電話の声を(おかしいと思いながらもかけ子の巧妙な話術も手伝って)息子のものと脳内で変換されるなどして、結果的に騙されることになると言われています。さらに悪いことに、一度騙された人は「もう騙されない(騙されるわけがない)」と強く思い込むことで確証バイアスがより強くかかることになり、再度騙されるという悪循環に陥ることになります(海外の研究でも、再度騙される確率は5倍以上になることが報告されています)。このように「名簿」(とりわけ「騙されたことのある人の名簿」)もまた典型的な犯罪インフラだと言えます。
 また、自治体のリソースの限界を背景としたチェックの甘さが犯罪を助長してしまう事例も後を絶ちません。直近でも、本人と確認せずに偽造運転免許証で印鑑登録された上、無断で不動産を売却されたとして、さいたま市の女性が同市を相手取り、不動産所有権の抹消登記手続訴訟の弁護士費用と慰謝料約1,314万円を求めた訴訟の判決があり、さいたま地裁は、市の責任を認めて715万円の支払いを命じています。判決では、偽造した運転免許証をめぐる市の責任について、「担当職員は職務上の注意義務を尽くしたとはいえない」と断じています。また、これとは別に、約60年前に取得した戸籍(都外の裁判所に約60年前、出生時の戸籍が存在しないとする虚偽の申し立てを行い、新たな戸籍の取得を認められたと主張しているようです)の名義で年金を受け取る一方で、出生時の戸籍の名義を使い、市から不正に生活保護を受けていた男性が詐欺の疑いで刑事告訴されています。年金の受給額は生活保護の対象基準を超えており、男性は本来、生活保護を受ける資格はなかったといいます。本件は、男性が交通事故で市内の病院に入院した際、2種類の名前を使っていたことが判明したということです。これらの2つの事例は、いずれも、自治体及び職員のチェックの甘さが犯罪に直結してしまっており、自治体の犯罪インフラ化はあってはならないことです。
 あってはならないという意味では、市販薬(一般用医薬品)を扱うインターネットサイトの6割で、乱用の恐れがあるせき止めなどの薬が、不適切な方法で販売されていたことが厚生労働省の実態調査で判明しています(平成30年9月13日付朝日新聞)。医薬品医療機器法施行規則は、乱用の恐れがある医薬品は、原則一度に一つしか購入できないと定められているものの、63%のサイトでは、理由などを質問されずに複数購入できたといい、その割合は前年度より9ポイント上昇するなど悪化していたということです。また、副作用のリスクが高い第1類を販売するサイトのうち、24%は同法が義務づける副作用の情報提供をしていなかったことも判明しています。例えば、全日本民医連のサイトでは、「かぜ薬のなかには、覚醒剤の原料であるエフェドリンや麻薬の成分であるリン酸ジヒドロコデイン、興奮作用をもつカフェインなどが含まれている場合があります。この成分は、咳や頭痛を抑える一方で、飲みすぎると眠気・疲労感がなくなり、多幸感や頭がさえたような感覚などの覚醒作用があります。・・・乱用して薬物依存になるケースが増えています。覚醒剤と違って、誰でも気軽に買うことができることや甘味のある味、液状であることなどが乱用につながる要因になっています。定められた用法・容量を守るなら、けっして依存症になることはありませんが、多飲・暴飲すると依存症になる危険性があることを、メーカーはきちんと知らせるべきです」との注意喚起がなされていますが、現状のネット販売の危うい実態は、薬物依存症を蔓延させ各種犯罪を惹起する可能性を秘めており、もっと厳格な管理に踏み込むべきではないかと思われます。

(6) その他のトピックス

1.薬物を巡る動向

本コラムでたびたび取り上げてきましたが、大麻事犯の増加、とりわけ若年層への蔓延は深刻な状況であり、大麻が「ゲートウェイドラッグ」と呼ばれているとおり、今後、覚せい剤へのシフトなど薬物問題がより深刻になる可能性が高まっています。その背景のひとつとして、これまで述べてきているとおり、国民の間に大麻に関する正しい理解が浸透していない(むしろ、誤った認識が流布している)ことがあると考えます。最近、警視庁と厚生労働省のそれぞれのサイトにおいて、大麻に関する正しい情報提供がはじまっていますので、以下抜粋して紹介したいと思います。

▼警視庁 大麻を知ろう
▼大麻を知ろう

まず、大麻について、大麻草(学名:カンナビス・サティバ・エル)とその製品をいうこと、大麻に含まれる成分のひとつTHC(テトラヒドロカンナビノール)が主に中枢神経に作用し、興奮、陶酔、幻覚などを引き起こすものであること、使い方には「乾燥大麻を燃やしてけむりを吸う」などがあるが、大麻の所持や栽培などは「大麻取締法」で厳しく規制されていることが示されています。その害については、「国連の専門機関である世界保健機関(WHO)は薬物依存症に関する疾患として、カンナビノイド(大麻に含まれる物質)によるものを挙げており、大麻が健康被害を生むということは医学的な常識」だと指摘しています。また、若年層への蔓延の状況については、警察庁の調べ(平成29年)によると、大麻を初めて使用した経緯で最も多かったのは「誘われて」であること、友人や先輩などに誘われ、好奇心やその場の雰囲気に流され、大麻にハマってしまうことなどを指摘しています。また、京都府立洛南病院の薬物依存症の専門家は、以下のような指摘をしており、大変参考になります。

  • 以前は、薬物依存症といえば覚醒剤によるものが多かったが、平成26年以降、大麻依存症で入院する患者数は約20倍にも増えた。これだけ入院する患者が増えているということは、大麻を使う人が相当増えていると推測される
  • 入院するということは幻覚や妄想が出ており、大麻精神病といえる。大麻精神病には2種類あるが、大麻中毒性の「急性精神病」か「遅発性精神病」になってしまっているということ
  • (京都府立洛南病院に)今入院している薬物依存症の患者のうち15、16%くらいが大麻依存症の患者。最も多いのは覚醒剤依存症の患者で、その次がアルコール、大麻、睡眠薬の順
  • 私達は日々「努力して、達成して、ドーパミンをご褒美としてもらう」を繰り返している。でも、大麻や覚醒剤、アルコールなどの依存性物質を使うと、「努力→達成」というプロセスを踏まずにドーパミンが出る。簡単にスカッとするのでクセになる。大麻を吸って、一度でもポンとストレスがなくなって気分が良くなることを記憶してしまうと、それが忘れられず繰り返し使ってしまうようになる。これが大麻依存症の始まり。現実というストレスから逃げることでドーパミンを手に入れてスカッとするというのは、薬物依存症だけではない。例えば、パチンコも同じ
  • 大麻の害は大きく分けて2つあり、「依存性」と「脳への障害」である。アルコールと比較すると、海外の統計や研究だが、アルコールの依存症化率はアルコール常用者のうちの0.9%だが、大麻の依存症化率は10%とされている
  • 大麻を使うとTHCが脳の細胞の死ぬ速度を上げてしまう。死ぬ速度が上がるということは、生まれる速度がついていけないから、脳がだんだんと小さくなっていく。大麻でも、覚醒剤でも、アルコールでも、長年にわたって使いすぎると脳が縮んで、最終的には認知症のような状態になってしまう。さらに、大麻は、脳の中の「海馬」というところの細胞を早死にさせる特徴があるといわれている。海馬は、「記憶のストレージ」の役割をするところで、これが縮むということは記憶障害が起きてしまう。これが大麻の一番怖いところ
  • 大麻にまつわる4つのウソがある。これらのウソが想像以上に世の中に広がっている。「大麻は精神病にならない」については、一見普通に生活しているような人でも、実は記憶障害が出ていること、無気力になる「無動機症候群」の割合が多いことが分かっている。「大麻には依存性がない」については、大麻は覚醒剤に比べると効きが緩やかなこと、また、急に使用をやめても、少し不眠になったり、食欲不振になる程度なので使っている本人は依存性があることに気が付きにくいことがある。「大麻は体に良い」については、医療大麻よりも良い薬はいっぱいあること、一方で医療大麻の錠剤は、一定時間かかって体内で溶けるようになっているから血中濃度が上がるのをなだらかにコントロールしてくれるという点は理解が必要。「大麻を禁止するのは国の間違い」については、大麻は、いろいろな国の調査で最高使用率は50%といわれていることから、大麻を合法化しても国民の半分は使わないのであって、合法化しようとしている国やアメリカの一部の州は50%以上の人が常用してしまっていたため合法化に踏み切ったもの。こうなってしまった場合、大麻を合法化してももう使用者数は増えないから医療費などは増えないし、取り締り費用なども必要なくなる、国や州で管理すれば税収になったり、マフィアなどに流れる金もなくなるといった事情もある。日本は先進国の中では大麻の常用者率が極端に低い国。もし日本で大麻を合法化してもデメリットしかない

これらの専門家の指摘は大変示唆に富むものであり、「誘われても間髪いれず断ること。大麻依存症や脳の障害は進行性なので早期の治療が大事」という点は本コラムがこれまで指摘したことと同じであり、やはり正確な知識の浸透が何よりも重要であり、(既に取組みははじまっているものの)もっと早急に本格的に手を打つべきだと考えます。
 さて、警視庁のサイト以外でも、厚生労働省のサイトにおいても大麻の害悪について取り上げていますので、以下、紹介します。

▼厚生労働省 薬物乱用防止に関する情報
▼今、大麻が危ない!

(警視庁のサイト同様の基本的な部分は割愛しますが)厚生労働省のサイトにおいては、大麻事犯の検挙人員は、平成26年以降、3年連続で増加しており、乱用が拡大している状況にあること、大麻は脳に影響を与える違法な薬物であるから、間違った情報に流されず、正しい知識で判断をすべきとしています(正に、筆者が前述した内容そのものです)。そのうえで、大麻は吸引のための乾燥大麻や樹脂の形で売られていること、最近では、大麻の種子を入手して大麻草を販売するという違反事案が増えていること、また、インターネットではさまざまな隠語を使って売られていること、大麻を乱用すると、記憶や学習能力、知覚を変化させ、乱用を続けることにより、「無動機症候群」といって毎日ゴロゴロして何もやる気のない状態や、人格変容、大麻精神病等を引き起こし、社会生活に適応できなくなること、女性も男性も生殖器官に異常が起こることなどが説明されています。

一方、薬物事犯者の更生もまた大きな課題となっています。この点について、法務省が再犯防止推進計画等検討会が、今後の再発防止推進計画の案を取りまとめ、公表していますので紹介したいと思います。

▼法務省 再犯防止推進計画(平成29年12月15日閣議決定)

本計画では、「犯罪をした者等が、円滑に社会の一員として復帰することができるようにすることで、国民が犯罪による被害を受けることを防止し、安全で安心して暮らせる社会の実現に寄与する」という目的のもと、多面的な角度から様々な施策等が提示されています。その中でも、とりわけ、「薬物依存を有する者への支援等」においては、新機軸が打ち出されていましたのであらためて確認したいと思います。
 具体的には、従来からの薬物依存者の再犯防止対策として、「懲役・禁錮刑」の考え方からを転換し、「薬物事犯者は、犯罪をした者等であると同時に、薬物依存症の患者である場合もあるため、薬物を使用しないよう指導するだけではなく、薬物依存症は適切な治療・支援により回復することができる病気であるという認識を持たせ、薬物依存症からの回復に向けた治療・支援を継続的に受けさせることが必要である」との認識のもと、「法務省及び厚生労働省は、薬物事犯者の再犯の防止等に向け、刑の一部の執行猶予制度の運用状況や、薬物依存症の治療を施すことのできる医療機関や相談支援等を行う関係機関の整備、連携の状況、自助グループ等の活動状況等を踏まえ、海外において薬物依存症からの効果的な回復措置として実施されている各種拘禁刑に代わる措置も参考にしつつ、新たな取組を試行的に実施することを含め、我が国における薬物事犯者の再犯の防止等において効果的な方策について検討を行う」としています。また、「薬物依存症からの回復に向けて効果が認められている治療・支援が、認知行動療法に基づくものであり、薬物依存症に関する知識と経験を有する心理学の専門職が必要となることを踏まえ」、心理専門職などの薬物依存症の治療・支援等ができる人材の育成等についても具体的に明示するなど、新たな方向性がしめされた点は特筆すべきだと言えるでしょう。なお、このような背景には、薬物犯罪の再犯率の高さとともに、「刑務所に閉じ込めるだけでは再犯は止められない」との考え方が広まってきたことがあるとされます。米国などでは「ドラッグコート」(薬物法廷)という取り組みが浸透しており、依存症の対象者は、社会生活の中で薬物離脱プログラムを受けながら更生を目指す制度(裁判官・検察・弁護人・保護観察官・警察とトリートメントサービスのコーディネーターやケースマネージャーで運営され、ドラッグ・トリートメントへの「アクセス」を「強制」するシステム)で成果をあげているようです。日本でもこのような制度の導入を検討する方向が示されていることをふまえ、「懲役・禁錮刑」を中心としてきた日本の刑事政策は社会内での更生を重視する流れを加速させていきたいものです。

その他、薬物依存症や薬物事犯についての報道からいくつか箇条書きで紹介します。

  • 米飲料大手コカ・コーラは、ソーダ需要の鈍化からコーヒーや健康飲料への多角化を進めているところ、大麻(マリフアナ)入り飲料市場の成長を注視しているとの見解を示しています。大麻入り飲料製造に向けてカナダのオーロラ・カナビスと協議を進めているとの報道を受けてのもので、炎症、痛み、けいれんを緩和する飲料を開発する方向が考えらえるとのことです。筆者としては、このような報道によって、大麻が安全なものであるかのように誤解されることを怖れます。医療用大麻と嗜好用大麻が違うものであることなど、正しい知識を浸透させるものであってほしいと思います。
  • 昨年5月中旬、香港からの船便に積んだキャンプ用のパラソルに覚醒剤を含む固形物を隠し、品川区のコンテナふ頭に密輸した疑いで7人が逮捕されています。容疑者は今年5月、中国・上海から国際郵便で覚醒剤を練り込んだロウソク約25キロを密輸したとして、麻薬特例法違反容疑で逮捕され、7月に覚醒剤取締法違反で起訴されていたもので、警視庁は、被告が密輸グループの主犯とみているようです。
  • 北海道警は、覚醒剤を所持したとして、覚醒剤取締法違反の疑いで、札幌・中央署薬物銃器対策課巡査部長(46)を現行犯逮捕しています。報道によれば、容疑者は前任地の室蘭署時代も含め10年以上の薬物捜査の経験があるということです。「ミイラ取りがミイラになる」典型的な事例ですが、10年以上も組織として把握できなかったことは正に「言語道断」であり、職業倫理の徹底と日常における抜き打ち検査等、性悪説に立った厳格な対策が求められていると言えます。
  • 大麻成分を含む洋菓子を米国から密輸しようとしたとして、近畿厚生局麻薬取締部神戸分室が、大麻取締法違反の疑いで、日刊スポーツ新聞西日本編集局整理部記者(46)を逮捕、送検しています。「自分で食べるため密輸した」と容疑を認めていますが、同分室と神戸税関は関税法違反(密輸入未遂)の罪で神戸地検に告発しています。このように、知名度のある企業であれば(社会的関心も高いことから)社名付きで報道されることになります(この場合のように、容疑者の名前は非公表となるケースも多いようです)。事業者は、自社の社員の中に社会常識の通用しない犯罪予備軍が潜んでいることを自覚する必要があります。そのような少数の者が罪を犯す確率が高いことが考えられ、その結果、自社のレピュテーションを毀損することにつながると言えます。これもまたHR(ヒューマンリソース)にかかるリスクであり、職場における端緒情報(時々様子がおかしいなど)が適切に組織的な認知につながる仕組みを整えておきたいところです。
  • 大阪府警が関西大倉高校で薬物乱用防止教室を開催しています。府内で今年1~6月に大麻取締法違反容疑で摘発された未成年は51人(暫定値)と昨年同期比で30人増加し、統計を取り始めた平成2年以降、過去最多になるほど若年層への蔓延は深刻な状況です。報道によれば、講師の警部補は、こうした統計を紹介しながら「大麻は身近にあり、薬物乱用の入り口と言われている。絶対に手を出さず、困ったときは周囲に相談してほしい」と注意を呼びかけたということであり、正に「大麻は脳に影響を与える違法な薬物であるから、間違った情報に流されず、正しい知識で判断を」の重要性を実践したものといえ、全国で同様の取り組みが拡がることを期待したいと思います。

2.忘れられる権利を巡る動向

いわゆる「忘れられる権利」については、昨年1月に最高裁の判断が出て以降、その判断基準に沿った形での判決が続いています。最近でも、報道(平成30年8月23日付ロイター)によると、会社名を検索すると、詐欺行為に関与しているような検索結果が表示され名誉を傷つけられたとして、東京のインターネット関連会社が米グーグルに削除を求めた訴訟の控訴審判決で、東京高裁は「検索結果が真実でないことや公益性がないことが明らかで、重大で回復困難な損害が生じる恐れがある場合、削除が認められるとし、削除請求は出版物でいえば事前の差し止めに当たる」としています。また、別の報道(平成30年9月29日付産経新聞)によると、過去に逮捕歴のある歯科医師が、グーグルの検索結果から自身の逮捕に関する記事を削除するよう、米グーグルに求めた訴訟で、最高裁は、医師の上告を受理しない決定をして削除を認めず、1、2審判決が確定しています。この事案は、医師が約11年前に、免許のない者に診療行為をさせたとして歯科医師法違反容疑で逮捕され、罰金50万円の略式命令を受けた事実を巡るもので、以前、医師が申し立てた仮処分で、東京地裁が一部の記事の削除を認めたため、グーグルは仮の非表示措置をとっていたところ、本案訴訟において、1審横浜地裁が「原告の歯科医師としての資質に関する事実として、一般市民の正当な関心の対象」と指摘して検索結果が表示されることが原告の仕事に与える影響は「存在するとしても極めて限定的」として請求を退け、2審東京高裁もこれを支持したものとなります。

▼最高裁判例 投稿記事削除仮処分決定認可決定に対する抗告審の取消決定に対する許可抗告事件

あらためて、この最高裁の判決について簡単に確認すると、「情報の収集、整理及び提供はプログラムにより自動的に行われるものの、同プログラムは検索結果の提供に関する検索事業者の方針に沿った結果を得ることができるように作成されたものであるから、検索結果の提供は検索事業者自身による表現行為という側面を有する」とし、削除請求の対象となるとの初判断が示されたうえで、その削除については、「当該事実を公表されない法的利益と当該URL等情報を検索結果として提供する理由に関する諸事情を比較衡量して判断すべきもので、その結果、当該事実を公表されない法的利益が優越することが明らかな場合には、検索事業者に対し、当該URL等情報を検索結果から削除することを求めることができるものと解するのが相当」と指摘したものでした。言い換えれば、検索結果を広く提供する必要性に対して、プライバシーが明らかに優越することが明らかな場合に限り、削除を求めることができるとするもので、事実上、忘れられる権利を認めるケースを限定的に捉え、情報の公共性を重視したものといえます。そして、削除を認めるかどうかの検討においては、「当該事実の性質及び内容」、「当該URL等情報が提供されることによってその者のプライバシーに属する事実が伝達される範囲とその者が被る具体的被害の程度」、「その者の社会的地位や影響力」、「上記記事等の目的や意義」、「上記記事等が掲載された時の社会的状況とその後の変化」、「上記記事等において当該事実を記載する必要性」の6項目を考慮要素として判断すべきという点が示された点が、その後の判断の基準となっています。なお、本件については、以前の本コラム(暴排トピックス2017年2月号)で筆者の見解を示していますので、以下にあらためて紹介しておきます(現時点でも指摘した状況に変わりはありません)。

今回の判断が、「表現の自由」や「知る権利」を重んじたのは評価できるとしても、「公共性」と「時間の経過」の比較衡量の観点(何年たてば犯罪報道の公共性がなくなるのか)からの判断が「明確に」示されなかった点(考慮要素の中に「社会的状況のその後の変化」との文言はありますが)は残念で、このあたりは、さまざまな個別の事情についての今後の裁判実務に委ねられることになり、実務上の課題としては残ることになります。犯罪歴は、慎重な配慮を必要とする個人情報(改正個人情報保護法における要配慮個人情報)であり、過失などの軽微な犯罪歴まで、誰でも検索可能な形でネット上に掲載し続けることは、人権上、まったく問題がないとは言えず、そのバランスが判例の積み重ねにより妥当なところで収斂していくことを期待したいと思います。ただし、以前のコラム(暴排トピックス2017年1月号)でも指摘した通り、こと暴排実務との関係でいえば、今後、重要と思われるリスク情報(つまり、今、削除されるべきでない個人情報)について、前述の6項目の判断考慮要素が明確になったにもかかわらず、一方で、「報道されない」「匿名報道される」「削除される」傾向が一層強まり(つまり、端的に言えば、「忘れられる権利」が、結果的に「表現の自由」や「知る権利」を凌駕する状況)、事業者が取引可否判断に必要な真実にアプローチしにくくなることが、現実的に大きな懸念事項として顕在化してきています。・・・(特殊詐欺事案や性犯罪なども含めるべきところ)少なくとも暴排実務に関する情報については、反社会的勢力を排除するという社会的要請が強く存在する以上、これらの動きとは関係なく、「地域性」を超えて、きちんと「実名」で報道され、「時間の経過に伴う公共性の減少」の概念の適用外として運用されることが望ましいといえると思います。

3.北朝鮮リスクを巡る動向

朝鮮半島融和の動きが進展しつつある中、北朝鮮に対する制裁のあり方を巡って足並みの乱れが顕在化してきました。当事者である韓国が2010年に黄海で起きた韓国哨戒艦「天安」沈没事件で発動した北朝鮮に対する独自制裁の解除について「関係省庁と検討中」と明らかにしたことや、南北軍事境界線付近での飛行禁止区域設定などが盛り込まれた軍事分野の合意書の締結など北朝鮮に歩み寄る姿勢を見せ始めています。軌を一にして中ロも北朝鮮と共同声明を出し、北朝鮮の非核化に向けた動きを評価し、「国連安保理決議による北朝鮮制裁の見直しを適切な時期に開始する必要がある」との認識で一致しています。本コラムでも伝えているとおり、中ロはこれまでも北朝鮮が求める「段階的な非核化」を支持し、制裁緩和を呼び掛けてきています。これに対し、日米は、北朝鮮の非核化に向けた国連安全保障理事会(安保理)の制裁決議の完全な履行を求めており、現段階で制裁を維持する姿勢を堅持しています。参考までに、韓国統一省は、北朝鮮の対中国貿易が、制裁の影響で大幅に減少したと報告しています。8月末時点で、貿易総額の約9割を占める中国向けが前年同期より57.5%減っており、特に輸出額は同89.7%減と、貿易赤字が膨らみ、外貨の獲得が難しくなっているとしています。経済制裁で、生産に大きな影響が出ていることが示唆され、制裁の効果はある程度見られているようです。
 さて、このままでは北朝鮮のペースでなし崩し的に制裁緩和のムードが醸し出されそうな雰囲気ですが、あらためて北朝鮮の行為を確認しておく必要があります。例えば、国連安保理は、北朝鮮に関する緊急会合を開き、席上、米国国連大使は、公海上で積み荷を移し替える「瀬取り」による石油精製品の密輸に関し、「米国は1~8月に少なくとも148回確認し、北朝鮮が得た総量は80万バレルに上る」として制裁決議が定めた年間50万バレルの上限を大幅に上回っていると指摘しています。瀬取りについては、本コラムでもたびたび取り上げているとおり、国連の制裁決議に反する行為を堂々と行っている実態に変わりはありません。さらに、北朝鮮北西部・東倉里にあるミサイル基地「西海衛星発射場」の施設解体に関する活動について、8月3日の画像で確認されて以降、新たな作業は行われていないと北朝鮮分析サイト「38ノース」が分析しています。9月の南北首脳会談で発表された平壌共同宣言には、東倉里のエンジン試験場とミサイル発射台について「北朝鮮は、関係国専門家の立ち会いの下に永久に廃棄する」と盛り込まれているにもかかわらず、何ら動きがない状況です。また、平壌近郊にある弾道ミサイルの移動式発射車両(TEL)製造工場の改造工事が終了した模様だと38ノースが発表しています。非核化への努力を続けると主張する一方で、北朝鮮は6月の米朝首脳会談後もICBMの製造を続けている可能性が高いと指摘されており、改造工事の終了の意味も北朝鮮の国連安保理決議を履行する意思のないことの表れだと言えるかもしれません。また、米セキュリティ大手のファイア・アイの報告書によれば、金融機関を狙ってサイバー攻撃を行う北朝鮮のハッカー集団「APT38」の存在が明らかになっており、経済制裁に苦しむ北朝鮮政府の資金源となっている可能性があるとされます。報告書によれば、2014年以降、少なくとも11カ国で16の金融機関などにサイバー攻撃を仕掛け、11億ドル(約1,250億円)以上を盗み取ろうとしたとされ、今年に入って融和路線に転じた後も、資金目当ての違法な活動を続けていると指摘しています。

▼FireEye APT38: Details on New North Korean Regime-Backed Threat Group

一方、米はこのような状況においても厳しい姿勢を崩さず、より踏み込んだ経済制裁を課しています。例えば、米財務省は、北朝鮮の核・ミサイル開発を支援したとして、中国に拠点を置くIT企業とそのロシア法人を制裁対象に指定しています。報道によれば、財務長官は声明で「フロント企業などを隠れ蓑に身元や素性を偽る海外IT関連労働者からの違法資金の流れを断つ狙いがある」とした上で、世界中の企業は技術分野でうかつに北朝鮮人を雇わないよう注意すべきと述べています。さらに、直近では、国連安保理制決議に違反して同国との軍用品やぜいたく品の取引に関与したとして、トルコの企業など1団体と3個人を制裁対象に指定すると発表、非核化まで圧力を緩めないという米政府の決意を明示しています。事業者としては、国連安保理制裁決議に違反し、制裁リスト入りしている企業や個人、団体等との取引リスクへの対応が急務です。とりわけ海外取引においては、直接的には制裁リストのスクリーニングが必須であり、米の制裁におけるセカンダリー・サンクション(北朝鮮そのものに対する制裁に留まらず、北朝鮮と取引をする個人・法人に対しても二次的に制裁を行うというもの)をふまえれば、KYCでは不十分であり、KYCCの視点を持つ必要があります。実務としては、取引相手の重要関係先を洗い出し、あわせてチェックしていく慎重さが求められることになります。

3.最近の暴排条例による勧告事例ほか

(1) 暴排条例による勧告事例(北海道)

北海道公安委員会は、暴力団から密漁ナマコを買い取ったとして、札幌市内の水産物加工会社代表の男に対し、北海道暴排条例(北海道暴力団の排除の推進に関する条例)に基づき暴力団を利用しないよう取引を中止するよう勧告しています。報道によると、男は昨年6月から今年7月にかけて計168回、既に逮捕された暴力団組員が石狩市の沖合で密漁したナマコ46トン(約1億7,700万円相当)で買い受けたとされます。なお、買い取り価格は、相場より2割程度安く、男性はその後、ナマコを加工して転売して利益をあげたということです。以前の本コラム(暴排トピックス2018年6月号)でも「貧困暴力団」の実態を取り上げましたが、ナマコの密漁もまた彼らのシノギ(資金源獲得活動)の重要なひとつとなっています。

▼北海道暴力団の排除の推進に関する条例

北海道暴排条例は「北海道暴力団の排除の推進に関する条例」との名称である点で少し珍しいのですが、平成23年4月1日施行と全国でも早めに施行されています。なお、本条例の附則第3項では、「知事は、この条例の施行の日から起算して5年を経過するごとに、社会経済情勢の変化等を勘案し、この条例の施行の状況等について検討を加え、その結果に基づいて必要な措置を講ずるものとする」と定められている点も珍しく、実際にこれまでも、平成24年12月、平成27年3月、平成29年3月と改正を重ねています。例えば、第20条では、「暴力団排除特別強化地域」を設定して暴排を強化する取り組みなど福岡県等での先進的な取り組みをきちんとフォローしている点が評価できると思います。
 さて、本条例では、第14条(暴力団利用行為等の禁止)第2項において、「事業者は、その行う事業に関し、財産上の不当な利益を図る目的で暴力団員等を利用してはならない」と規定されています。また、第3項では、「事業者は、その行う事業に関し、暴力団員等又は暴力団員等が依頼した者が不正の方法を用いて得た物品であることを知り、又は知り得べき状態にありながら、これを譲り受けてはならない」との規定もあります。さらに第15条(利益供与の禁止)第1項第2号において、「暴力団の威力を利用したことに関し、財産上の利益の供与をすること」をしてはならないと規定されています。この点、本事例においては、暴力団から通常より2割安い価格で仕入れて利益を得ようとしたもの(財産上の不当な利益を図る目的で暴力団等を利用した)であり、おそらくは暴力団員による密漁であることを知りながら購入した(不正の方法を用いて得た物品であることをしり得べき状態にありながら(有償で)譲り受けた)ことも推測されます。さらには、暴力団を利用したことの対価として代金の支払い(財産上の利益の供与)を行ったとも言えます。その結果、第22条(勧告)の「北海道公安委員会は、第14条、第15条第1項又は第17条第2項の規定に違反する行為があった場合において、当該行為が暴力団の排除に支障を及ぼし、又は及ぼすおそれがあると認めるときは、当該行為をした者に対し、必要な措置を講ずべきことを勧告することができる」との定めにより、今回の公表に至ったものと考えられます。

(2) 暴排条例による勧告・命令・検挙事例~「平成30年上半期における組織犯罪の情勢」

前述した通り、警察庁「平成30年上半期における組織犯罪の情勢」においては、暴排条例について、「各都道府県においては、条例に基づいた勧告等を実施している。30年上半期における実施件数は、勧告18件、指導2件、中止命令10件、再発防止命令7件、検挙6件となっている」との記述がありました。また、あわせて勧告・命令・検挙事例について取り上げられていますので、以下紹介します(一部、本コラムで取り上げた事例もあります)。

【勧告及び命令事例】

  • 解体工事会社の役員(35)が、六代目山口組傘下組織組員が違法に労働者派遣を行っていることを知りながら、労働者派遣の依頼を行ったことから、同社に対し、勧告を実施した事例(3月、北海道)
  • 自動車販売会社の役員(50)が、暴力団の活動を助長し、又は暴力団の運営に資することとなることを知りながら、六代目山口組傘下組織組長(48)に正月用飾り物の購入名目に現金を供与したことから、同社に対して勧告を実施し、同組長については、勧告を受けていたにもかかわらず、勧告に従わなかったことから、その氏名等を公表した事例(3月勧告、4月公表、愛知)
  • 稲川会傘下組織幹部(29)が、条例で定める暴力団排除特別強化地域に所在する飲食店において、暴力団員が立ち入ることを禁止する旨を告知する標章が掲示してあるにもかかわらず、同店に立ち入ったため中止命令を発出していたが、他の飲食店に対しても同様の行為を行ったことから、再発防止命令を発出した事例(5月、山梨)
  • 不動産管理会社の役員(46)が、暴力団の活動を助長し、又は暴力団の運営に資することとなることを知りながら、住吉会傘下組織組長(50)に対し、暴力団の威力を示すための活動を行う場所である暴力団事務所として、同社が所有する不動産を賃貸したことから、同社及び同組長に対し、勧告を実施した事例(6月、埼玉)

【検挙事例】

  • 極東会傘下組織幹部(65)らが、条例で定める暴力団事務所の開設又は運営の禁止区域に暴力団事務所を開設し、運営したことから、条例違反として検挙した事例(1月検挙、警視庁)
(3) 福岡県等の指名停止措置

福岡県、福岡市、北九州市において、同一の法人についての指名停止措置(排除措置)が公表されていますので、紹介します。

▼福岡県 暴力団関係事業者に対する指名停止措置等一覧表
▼福岡市 競争入札参加資格停止措置及び排除措置一覧
▼北九州市 暴力団と交際のある事業者の通報について

排除措置の理由としては、「役員等が、暴力的組織の構成員となっている」(福岡県)、「当該業者の役員等が、暴力団構成員であることを確認し、「暴力団員が事業主又は役員に就任していること」に該当する事実があることを確認した」(北九州市)、「暴力団との関係による」(福岡市)であり、最近の事例としては珍しく(一覧表を見る限り平成28年にもありますが)暴力団員が直接役員に就任しているケースとなります。また、排除期間については、福岡県と福岡市が36か月としている一方で、北九州市については「平成30年9月12日から36月を経過し、かつ、暴力団又は暴力団関係者との関係がないことが明らかな状態になるまで」としています。なお、北九州市の他の事案と比較すると、「暴力団員が実質的に運営している」ケースと同じ排除期間であり、「従業員として雇用」(24か月)、「役員等が暴力団構成員と社会的に避難されるべき関係を有している」(18か月)などのケースより排除期間は長くなっています。

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