反社会的勢力対応 関連コラム

令和元年犯罪収益移転危険度調査書を読み解く

2020.01.07

取締役副社長 首席研究員 芳賀恒人

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【もくじ】―――――――――――――――――――――――――

1.令和元年犯罪収益移転危険度調査書を読み解く

2.最近のトピックス

(1)暴排を巡る動向

(2)特殊詐欺を巡る動向

(3)薬物を巡る動向

(4)テロリスクを巡る動向

(5)犯罪インフラを巡る動向

(6)その他のトピックス

・暗号資産(仮想通貨)を巡る動向

・IRカジノ/依存症を巡る動向

・犯罪統計資料

・再犯防止を巡る動向

・「『世界一安全な日本』創造戦略」取り組み状況

・忘れられる権利を巡る動向

(7)北朝鮮リスクを巡る動向

3.暴排条例等の状況

(1) 暴排条例の改正(新潟県)

(2) 公共工事からの排除措置(社名公表)事例(福岡県)

1.令和元年犯罪収益移転危険度調査書を読み解く

今回4回目となる「犯罪収益移転危険度調査書(令和元年版)」(以下「本調査書」)が公表されています。

▼国家公安員会 犯罪収益移転危険度調査書

本調査書は、当然ながら日本における「アンチ・マネー・ローンダリング(AML)/テロ資金供与対策(CFT)」の根幹となるリスク分析・リスク評価であるとともに、本コラムの射程範囲である組織犯罪領域における、「暴力団/反社会的勢力」「特殊詐欺」「暗号資産(仮想通貨)」「テロリスク」「薬物」「IRカジノ」といった分野とも密接に関連した内容となっています。したがって、今回は、本調査書の内容について、関連分野について詳しく紹介していきたいと思います。

まず、本調査書について、その主な内容を概観したいと思います。実は、骨格自体は前年の調査書と変更点はなく、以下のとおりとなっています(昨年の調査書では、「前提犯罪ごとのマネー・ローンダリングの手口等の分析結果」、「実質的支配者が不透明な法人の悪用事例の分析結果」、「仮想通貨、貴金属、電話転送サービスの分析結果」といった部分が追加されました)。

1.マネー・ローンダリング事犯等の分析

  • 主体(暴力団、特殊詐欺の犯行グループ及び来日外国人犯罪グループ)
  • 前提犯罪(窃盗、詐欺、出資法・貸金業法違反、電子計算機使用詐欺、常習賭博及び賭博場開張等図利、風営適正化違反、売春防止法違反等)

2.危険度の高い取引

  • 取引形態
    • 非対面取引
    • 現金金取引
    • 外国との取引
  • 国・地域
    • FATF声明によりマネー・ローンダリング等への対策上の欠陥を指摘されている国・地域:イラン、北朝鮮(本項目は、FATF声明を踏まえており、要因としての国・地域は、同声明に応じて変化(27年調査書では、これに加えてアルジェリア、ミャンマーを記載))
  • 顧客の属性
    • 反社会的勢力(暴力団等)
    • 国際テロリスト(イスラム過激派等)(28年調査書で追加)
    • 非居住者
    • 外国の重要な公的地位を有する者
    • 実質的支配者が不透明な法人(「写真付きでない身分証明書を用いる顧客」を29年調査書で除外)
  • 危険性の認められる商品・サービス
    • 預金取扱金融機関が取り扱う商品・サービス(預貯金口座、預金取引、内国為替取引、貸金庫、手形・小切手)
    • 保険会社等が取り扱う保険
    • 金融商品取引業者等及び商品先物取引業者が取り扱う投資
    • 信託会社等が取り扱う信託
    • 貸金業者等が取り扱う金銭貸付け
    • 資金移動業者が取り扱う資金移動サービス
    • 仮想通貨交換業者が取り扱う仮想通貨(28年調査書で追加)
    • 両替業者が取り扱う外貨両替サービス
    • ファイナンスリース事業者が取り扱うファイナンスリース
    • クレジットカード事業者が取り扱うクレジットカード
    • 宅地建物取引業者が取り扱う不動産
    • 宝石・貴金属等取扱事業者が取り扱う宝石・貴金属
    • 郵便物受取サービス業者が取り扱う郵便物受取サービス
    • 電話受付代行業者が取り扱う電話受付代行
    • 電話転送サービス事業者が取り扱う電話転送サービス
    • 法律・会計専門家が取り扱う法律・会計関係サービス

3.危険度の低い取引

  • 要因
    • 資金の原資が明らかである
    • 国又は地方公共団体を顧客等とする
    • 法令等により顧客が限定されている
    • 取引の過程において、法令により国等の監督が行われている
    • 会社等の事業実態を仮装することが困難である
    • 蓄財性がない又は低い
    • 取引金額が規制の敷居値を下回る
    • 顧客等の本人性を確認する手段が法令等により担保されている
  • 取引
    • 規則第4条で規定する簡素な顧客管理が許容される取引(ただし、疑わしい取引等に該当する場合は簡素な顧客管理は許容されない)

4.新たな技術を活用した商品・サービス

  • 電子マネー

とりわけ本調査書では、平成31年4月に新たな在留資格である「特定技能」に係る制度による外国人材の受入れが開始されるなど、在留外国人が今後より一層増加していくことが予想されることから、最近の情勢を踏まえたマネー・ローンダリング等のリスクに関するものとして、外国人の増加を踏まえたリスクとその対処について記載されている点は注目されます。また、これら外国人の増加等に伴い送金サービスの需要が今後さらに高まると考えられ、また、預金取扱金融機関における送金サービスだけでなく、安価で利用できる資金移動サービスの利用の増加も予想されることから、送金サービスが、ビジネス・スキームの多様性や取引金額等の増加等により、マネー・ローンダリング等に悪用される危険性が高まっていることについても言及されています。なお、外国人については、「その属性のみをもって一律に取引の謝絶その他のリスク遮断の対象とするものではなく、事業者が、適切にリスク評価を行った上で、当該リスクに見合った具体的な対応を行っていくことが重要である」ことから、外国人によるマネー・ローンダリング等への事業者による対策の推進に資するよう、来日外国人犯罪情勢のほか、在留外国人の増加等を踏まえた所管行政庁及び事業者の取組の状況についても記載されています。

さて、冒頭ではまず所管行政庁が把握した事業者が留意すべき事項がまとめられています。これらについては、本コラムでもたびたび紹介してきたとおり、事業者として当然行うべき事項といえます。

「リスク管理体制に関すること」については、「経営陣が、主体的・積極的に関与して、具体的な指示を行い、また、関係各部署を連携等させることで、実効性のあるリスク低減措置や行動計画を策定し、体制整備を推進する必要があること」、「マネー・ローンダリング等対策を所管する部署に十分な人員を配置して、必要な専門性・能力を有する要員を確保すること」に留意すべきと指摘しています。また、「リスクの特定・評価等に関すること」では、「リスクの特定・評価に当たり、経営環境、営業地域、顧客の特性、疑わしい取引の傾向といった自社固有のリスクを分析すること」や「特定事業者作成書面の作成・見直しにおいて、調査書や広く用いられているひな形の内容を引用するだけでなく、商品・サービスや取引形態、取引に係る国・地域、顧客の属性をはじめとする自社の取引等の特性を勘案するなど、リスクの特定・評価を網羅的に行うこと」が、さらに、「リスクに応じた継続的顧客管理措置等に関すること」では、「外国人については、口座開設の際に、口座売買が犯罪であることを周知し、帰国時の口座解約を働き掛けるなどした上で、在留期間を把握すること等により、在留期間が経過した後においても入出金等が発生している口座を不正利用の可能性のある事例として検知すること」や「過去に届け出た疑わしい取引と類似した取引を繰り返し受け付けている事業者もいることから、営業店等に対する情報共有を図ること」、「疑わしい取引の参考事例を参照しつつ、これらと類似した取引について、届出の要否を判断すること」、「既存の顧客に対する定期的な顧客属性の確認の結果、凍結口座名義人であることが判明した者について、取引履歴の確認等を行うこと」といった指摘が並びます。また、「犯罪収益移転防止法等の義務履行に関すること」については、「本人確認書類の提示等を受けて、本人確認を適正に行うこと」、「非対面取引において、取引関係文書を書留郵便等による転送不要郵便物として送付すること」、「法人の顧客に対して、実質的支配者の確認を行うこと」が指摘されています。

それに対し、事業者の取組例としては、以下のようなものが紹介されており、参考になります。

  • 預金取扱金融機関
    • 自社が届け出ている疑わしい取引の内容を分析し、外国送金に関して仕向及び被仕向送金先の国・地域の傾向、外国人名義の口座に関して国籍の傾向、顧客に関して職業や業種の傾向等から独自のリスク指標を抽出している事例
    • 調査書における直接的な記載のみにとどまらず、記載の趣旨を勘案し、留学生や短期就労者等の帰国を前提とするような外国人は帰国時における口座の不正転売の可能性があること、現金を集中的に取り扱う業者は取引における不正資金の混入の可能性があること等、具体的なリスクを特定している事例
    • 営業店ごとに商品等の取引実績、顧客の属性や地理的な特徴等が異なることから、それぞれが個別に商品・サービス、取引形態、国・地域、顧客属性等に着目した分析を行っている事例
    • 帰国時における口座売却等のリスクに対して、外国人の留学生や就労者等の顧客について、その在留期間を確認した上で、システムによって管理している事例
    • 少額で開設された口座、遠隔地の顧客の口座、設立又は移転後間もない法人の口座等を管理対象先口座に指定し、同口座への振込依頼が発生した場合には、口座開設目的との整合性確認や振込依頼人の意思確認等を行い、整合性が確認できない場合は取引謝絶や疑わしい取引の届出等を実施することを社内規程によって整備している事例
    • 長期間入出金のない口座取引を停止し、取引再開を希望する顧客の本人確認書類や預金通帳等を確認することで、口座の不正利用を防止している事例
    • 現金の持ち込みによる海外送金の取扱いを停止している事例
  • 保険会社等
    • 現金取引の固有リスクを高リスクと位置付け、保険料の収納・契約貸付金の返済等について現金領収を取りやめるほか、保険金支払も、原則、本人名義口座への振り込みとするようなキャッシュレス化を進め、やむを得ず現金取引を行う場合でも、一定の金額を超える現金取引を行う際は、所定のチェックシート等を用いたヒアリング等を行い、統括管理者の承認を要することとし、また、事後的にシステムで捕捉して取引時の状況等を管理している事例
  • 金融商品取引業者等
    • 現金取引に係るリスクに鑑み、そのリスク低減措置として、現金取引を禁止とした事例
  • 資金移動業者
    • 商品・サービス、取引形態、国・地域及び顧客属性によって取引金額の上限を設定し、それを上回る場合は厳格な取引確認を行っている事例(例えば、「永住者」、「技能実習生」、「留学生」等の在留資格に応じて取引金額の上限を変更)
    • 顧客の属性や取引状況を勘案し、顧客ごとのリスク評価を行い、評価に応じた措置を行っている事例
  • 仮想通貨交換業者
    • マネー・ローンダリング等に直接関係するリスクのみならず、ハッキングのリスクといった間接的に影響を及ぼすリスクも評価している事例
    • 法定通貨の入金経路に係るリスクを特定・評価し、コンビニエンスストアでの入金等について、そのリスクも踏まえ、入金回数や資金移動を一定期間制限するなどのリスク低減措置を講じている事例
  • 外貨両替業者
    • 一定金額以上の取引を高リスク取引に分類し、社内規程において、それらの取引が生じた場合には本部への報告、必要な調査を実施するなどの措置を定めている事例
    • 取引時確認を免れるために、取引が意図的に複数に分割して行われる危険性を考慮し、社内で独自に設定した敷居値に基づいて取引時確認を行い、それらをデータベース化して、取引の総額において多額の取引を行っている顧客がいないかをモニタリングしている事例
    • 過去に公的機関等から照会を受けた取引を分析し、それに類似した形態の取引や顧客属性を「取引モニタリングシート」に反映し、該当した場合は営業店から本部に報告の上、疑わしい取引の届出の要否を検討している事例
  • クレジットカード事業者
    • 商品券等の換金性の高い商品の購入を短期間に行う取引を高リスク取引に特定し、それらをモニタリングシステムで検知した場合は、クレジットカード機能を停止し、名義人に電話で利用内容や使用者の確認等を行っている事例
    • クレジットカードの利用可能枠について、申込みから1年が経過するまでは、原則としてその増枠を認めないことにより、マネー・ローンダリングを企図する者の契約に関するリスクを低減させている事例
  • 宅地建物取引業者
    • 過去において取引を中止する又は何らかの理由によって取引が成立しなかった顧客との取引についてデータベース化して全社的に共有し、当該顧客に関して以後の取引が生じた場合は、顧客管理を強化する又は取引を謝絶するなどの措置を講じている事例
    • 反社会的勢力との取引を見逃さないために、反社会的勢力の言動等に関する特徴点について事業者独自のチェックリストを作成し、顧客管理において活用している事例

次に、疑わしい取引の届出を端緒として検挙した事件例(届出の内容と検挙罪名との間に直接的な関連がない場合もある)について、以下のとおりまとめられています。この部分については、今回はじめて導入されたものですが、疑わしい取引の届け出がどのような端緒で把握され、どのような検挙につながったのかイメージしやすく、実務においてリスクセンスを発揮することが重要であることを痛感させられる内容であることから、社内研修等に活用できるものと思われます。

  • 組織的犯罪処罰法違反事件等
    • 日本人名義の口座について、金融機関から、「多数者からの振込入金後に出金」、「別人使用の疑い」等を理由としてなされた疑わしい取引の届出を端緒として、同口座がヤミ金融に使用されていることが判明し、同口座を使用している者を貸金業法違反(無登録営業)及び組織的犯罪処罰法違反(犯罪収益等隠匿)で検挙
    • 日本人名義の口座について、金融機関から、「一定期間取引のなかった口座に、突如、多数者から振込入金があり、その後に出金」、「口座開設時に確認した取引目的・職業に照らし、合理性のない多数回の入出金」、「第三者からの多数回の入金」、「匿名又は架空と思われる名義から振込入金があり、その後に出金」、「口座凍結を行った名義人に係る別口座」、「凍結口座名義人リスト登載者と同一氏名」等を理由としてなされた疑わしい取引の届出を端緒として、同口座がヤミ金融に使用されていることが判明し、同口座を使用している者を組織的犯罪処罰法違反(犯罪収益等収受)で検挙
    • 日本人名義の口座について、金融機関から、「一定期間取引のなかった口座に、突如、複数から振込入金があり、その後に出金」「過去の取引行動と態様が大きく相違」「口座凍結を行った名義人に係る別口座」、「多額の現金取引を行うなど、口座開設時に確認した取引目的・職業と照らし不自然な取引」、「複数の者からの頻繁な送金、現金振込及びその後の出金」等を理由としてなされた疑わしい取引の届出を端緒として、同口座が暴力団員によるみかじめ料回収等に使用されていることが判明し、同口座を使用している者(暴力団員)を組織的犯罪処罰法違反(犯罪収益等隠匿)で検挙
  • 銀行法違反事件
    • 外国人名義の口座について、金融機関から、「多額・少額の現金入金後、多数先への振り込み」、「口座開設時に確認した職業に照らし、不自然な多数者との多額取引」、「経済合理性の確認できない多額の被仕向外国送」等を理由としてなされた疑わしい取引の届出を端緒として、名義人を含む関係者(外国人)複数名による不審な資金移動が判明し、同人らを銀行法違反(無免許銀行業)で検挙
  • 恐喝事件
    • 悪評のある日本人名義の口座について、金融機関から、「個人から多額入金後、第三者への振り込みと出金」、「多額現金の払出し申出時における態度が不自然」、「多額入金に近接した現金払出しの申出に関し、入金理由等が不明」等を理由としてなされた疑わしい取引の届出を端緒として、名義人が被害者を脅して現金を同口座に振り込ませていたことが判明し、同名義人を恐喝で検挙
  • 覚せい剤取締法違反事件
    • 日本人名義の口座(謝絶した分を含む)又は契約について、金融機関及び保険会社から、「原資不明等、経済合理性の確認できない多額の仕向外国送金の申込み」、「原資不明等、経済合理性の確認できない多額外貨の日本円への両替」、「複数の個人から頻繁な入金があり、その後に出金」、「取引開始について合理的理由がない者からの口座開設申込み、かつ、反社会的勢力として把握済みの者が同行契約名義人について、保険金を不正請求したものと判断」等を理由としてなされた疑わしい取引の届出を端緒として、同口座に係る不審な資金移動が判明し、名義人を含む複数名を覚せい剤取締法違反(営利目的所持)で検挙
    • 日本人名義の口座について、金融機関から、「インターネットバンキングの口座開設申込みがあった複数の口座が、不正に開設されたものであることが判明し、いずれの口座も多数者と頻繁な取引あり」、「複数の者からの送金があり、その後に出金」等を理由としてなされた疑わしい取引の届出を端緒として、同口座に係る不審な資金移動が判明し、名義人を覚せい剤取締法違反(譲渡)で検挙。なお、名義人は薬物の密売で得た収益を銀行口座に振り込ませていた
  • 詐欺事件
    • 日本人名義の口座(謝絶した分を含む)について、金融機関から、「別人使用の疑い」「郵送による口座開設申込みについて、申込人が凍結口座名義人リスト登載者と一致と判断し、口座開設拒否」、「郵送による口座開設申込みについて、なりすましの疑いがあることから口座開設拒否」、「インターネットによる口座開設申込みについて、なりすましの疑いがあることから口座開設拒否」等を理由としてなされた疑わしい取引の届出を端緒として、同口座が不正に開設された口座であることが判明するなどし、同口座を使用している者を含む関係者複数名を、証券購入における名義貸しトラブルを回避する名目で高齢者から現金を詐取した詐欺で検挙。なお、同口座は、特殊詐欺やヤミ金融事犯に使用されていた
  • 有印私文書偽造・同行使、詐欺事件
    • 日本人及び同人が代表者である法人名義の口座について、金融機関から、「口座開設時に確認した事業内容に照らし、不自然な個人からの入金が多数発生」、「他行で口座凍結されている者と同一名義の口座であることが判明」、「多数の個人から振込入金、その後の出金又は特定先に振り込み」、「別人使用の疑い」、「郵送による口座開設から一定期間経過後に、突如、個人から多額の入金があり、その後に出金」等を理由としてなされた疑わしい取引の届出を端緒として、一部の口座について不正に開設されたものであることが判明し、その開設者を、偽名で口座開設した有印私文書偽造・同行使、詐欺で検挙。なお、これらの口座は、特殊詐欺に使用されていた
    • 日本人名義の口座(謝絶した分も含む)について、金融機関から、「短期間のうちに、複数の口座開設申込み」、「口座開設手続中、態度が不自然」等を理由としてなされた疑わしい取引の届出を端緒として、不正に口座開設しようとしたものであることが判明し、名義人を含む複数名を、偽名で口座開設を申し込んだ有印私文書偽造・同行使、詐欺未遂で検挙
  • 詐欺、犯罪収益移転防止法違反事件
    • 日本人名義の口座について、金融機関から、「個人から振込入金があり、その後に出金」、「複数個人からの振込入金後、インターネットでの第三者宛ての送金又は金融機関での出金及び取引の態様が口座開設時に確認した取引目的と乖離」等を理由としてなされた疑わしい取引の届出を端緒として、同口座の第三者使用が判明し、名義人を、譲渡目的で口座を開設した詐欺及び第三者に口座を譲渡した犯罪収益移転防止法違反(預貯金通帳等の譲渡等)で検挙。なお、同口座は、ヤミ金融業者へ譲渡されていた
    • 日本人名義の口座について、金融機関から、「一定期間取引のなかった口座に、突如、複数回振込入金があり、その後に出金」、「多数者からの頻繁入金」等を理由としてなされた疑わしい取引の届出を端緒として、同口座の第三者使用が判明し、名義人を譲渡目的で口座を開設した詐欺で検挙。なお、同口座は、ヤミ金融業者へ譲渡されていた
    • 日本人名義の口座について、金融機関から、「個人からの多数回の振込入金とその後の出金及び取引の態様が口座開設時に確認した取引目的と乖離」、「インターネット利用取引内容を確認すると、不審点あり」、「一定期間取引のなかった口座に、突如、複数の個人からの振り込みとその後の出金が発生」、「個人からの複数入金後に、他行へ送金」、「不特定多数からの入金」等を理由としてなされた疑わしい取引の届出を端緒として、同口座の第三者使用が判明し、名義人を譲渡目的で口座を開設した詐欺で検挙。なお、各名義人の口座は、ヤミ金融事犯に使用されていた
    • 日本人名義の口座について、金融機関から、「口座開設時に確認した職業に照らし、不自然な高額かつ多数人からの振込入金」、「複数個人から多額の振込入金とその後の出金」等を理由としてなされた疑わしい取引の届出を端緒として、同口座の第三者使用が判明し、名義人を、第三者に口座を譲渡した犯罪収益移転防止法違反(預貯金通帳等の譲渡等)で検挙。なお、同口座は、ヤミ金融業者へ譲渡されていた
    • 外国人名義の口座について、金融機関から、「一定期間取引のなかった口座に、突如、個人からの振込入金が複数あり、その後に出金」等を理由としてなされた疑わしい取引の届出を端緒として、同口座の第三者使用が判明し、名義人を、第三者に口座を譲渡した犯罪収益移転防止法違反(預貯金通帳等の譲渡等)で検挙。なお、同口座は、特殊詐欺に使用されていた
  • 出入国管理及び難民認定法違反事件
    • 外国人名義の口座について、金融機関から、「口座開設時に確認した職業に照らし、不自然な多額の振込入金が発生」等を理由としてなされた疑わしい取引の届出を端緒として、名義人の不法残留が判明し、名義人を出入国管理及び難民認定法違反(不法残留)で検挙

さらに、本調査書では、「我が国においては、暴力団によるマネー・ローンダリングがとりわけ大きな脅威として存在している」と指摘したうえで、平成30年中のマネー・ローンダリング事犯の検挙事例のうち、暴力団構成員及び準構成員その他の周辺者(以下「暴力団構成員等」という)によるものは65件で、全体の12.7%を占めていること、そのうち、組織的犯罪処罰法に係るものが62事件(犯罪収益等隠匿事件36事件及び犯罪収益等収受事件26事件)で、麻薬特例法に係るものが3事件(薬物犯罪収益等隠匿事件2事件及び薬物収益等収受事件1事件)であること、また、前提犯罪ごとにマネー・ローンダリング事犯における過去3年間の暴力団構成員等の関与状況を見ると、検挙件数では詐欺や窃盗が多いが、一方で検挙総数に占める暴力団構成員等の比率を見ると、賭博事犯及び売春事犯等において暴力団構成員等が深く関与している実態が認められることなどを特徴として指摘しています。

また、暴力団と並ぶ重要な「主体」である特殊詐欺グループについては、「近年、我が国においては、被害者に電話を架けるなどして対面することなく信頼させ、不特定多数の者から現金等をだまし取る特殊詐欺が多発している」としたうえで、特殊詐欺の犯行グループは、首謀者を中心に、だまし役、詐取金引出役、犯行ツール調達役等にそれぞれ役割分担した上で、組織的に詐欺を敢行するとともに、詐取金の振込先として架空・他人名義の口座を利用するなどし、マネー・ローンダリングを敢行していること、また、自己名義の口座や偽造した身分証明書を悪用するなどして開設した架空・他人名義の口座を遊興費や生活費欲しさから安易に譲り渡す者等がおり、マネー・ローンダリングの敢行をより一層容易にしていることなどを指摘しています。

さらに重要な「主体」のひとつである「外国人」については、「外国人が関与する犯罪は、その収益の追跡が、法制度や取引システムの異なる他国間での移転によって困難となるほか、来日外国人等で構成される犯罪グループが、出身国に存在する犯罪グループの指示を受けて犯罪を敢行する例が見られるなど、その人的ネットワークや犯行態様等が一国内のみで完結せず、国境を越えて役割が分担されることで、犯罪がより巧妙化・潜在化する傾向を有するという特徴がある」としています。そのうえで、平成30年中のマネー・ローンダリング事犯の検挙事例のうち、来日外国人によるものは48件で、全体の9.4%を占めていること、内訳をみると、犯罪収益等隠匿事件34件及び犯罪収益等収受事件14件であること、過去3年間の組織的犯罪処罰法に係るマネー・ローンダリング事犯の国籍別の検挙件数では、中国、ベトナム、ナイジェリアの順に多く、特に中国が全体の約47.3%を占めていることなどを指摘しています。また、とりわけベトナム人による犯罪については、窃盗犯が多数を占める状況が続いていること、手口別では万引きの割合が高いこと、万引きの犯行形態としては、SNS等を介して自国にいる指示役から指示を受け、数人のグループで、見張り役、実行役、商品搬出役等を分担して、大型ドラッグストア、大型スーパー等に車両で乗り付け、主にベトナムで人気の高い日本製の化粧品を対象に、一度に大量の商品を万引きし、これを広域的・連続的に敢行するなど組織性・計画性が認められること、さらに、盗んだ盗品を航空機を利用して海外へ運搬していること、ベトナム人は、国籍等別にみると地下銀行事件の検挙人員が最も多いことなどを特徴としてあげています。

前提犯罪のひとつである「窃盗」については、マネー・ローンダリング事犯の手口として、ヤードに持ち込まれた自動車が盗難品であることを知りながら買い取り、保管するもののほか、侵入窃盗で得た多額の硬貨を他人名義の口座に入金して払い出し、事実上の両替を行うもの、盗んだ高額な金塊を会社経営の知人に依頼して、金買取業者に法人名義で売却させるもの、中国人グループ等が不正に入手したクレジットカード情報を使って、インターネット上で商品を購入し、配送先に架空人や実際の居住地とは異なる住所地を指定するなどして受領するもの、不正に入手したキャッシュカードを使用して現金を引き出して盗み、その現金をコインロッカーに隠していたもの等があると紹介しています。

また、「詐欺」を前提犯罪としたマネー・ローンダリング事犯の手口としては、(前述した疑わしい取引事例にもあるとおり)特殊詐欺の被害金を架空又は他人の名義の口座に振り込ませるものが多く、振込先として使用する口座に振り込まれた被害金は、被害発覚後の金融機関等による口座凍結の措置等を回避するため、入金直後に払い戻されたり、他口座へ送金されたり、複数の借名口座を経由して移転されたりするなどの傾向も認められること、また、隠匿先となる口座の名義は、個人名義、法人名義、屋号付きの個人名義等、詐欺の犯行形態によって様々であるところ、具体的な事例として、外国人が帰国する際に犯罪グループに売却した個人名義口座が特殊詐欺の振込先に悪用されたもの、特殊詐欺の収益の振込先にするために実態のない法人を設立して法人名義口座を開設して悪用したもの、外国で発生した詐欺事件の収益の振込先にするために屋号付名義の個人口座を開設して悪用したもの等があげられています。また、取引時確認等の義務の履行が徹底されていない郵便物受取サービスや電話転送サービスを取り扱う事業者が、特殊詐欺等を敢行する犯罪組織の実態等を不透明にするための手段として悪用されている事例がみられるとも指摘しています(つまり、これらのサービスが「犯罪インフラ」化している実態を示しているともいえます)。

さらに、「薬物密売」に係るマネー・ローンダリング事犯の手口としては、代金を他人名義の口座に入金させて隠匿するものが多くみられること、手渡しや郵送により覚せい剤の密売を行っていた密売人が、代金を他人名義の口座に振込入金させていた事例、宅配便等により大麻等の密売を行っていた密売人が、代金を他人名義の口座に振込入金させていた事例等が紹介されています。また、暴力団員の親族名義の口座に係る不審な資金移動(薬物代金の振り込みの疑い)を端緒として捜査した結果、同暴力団員らを覚せい剤の密輸等で検挙した事例もあるということです。

また、マネー・ローンダリングに悪用された主な取引等としては、「我が国においては、内国為替取引、現金取引及び預金取引がマネー・ローンダリング等の多くに悪用されている」実態も指摘されています。具体的に悪用された件数は、内国為替取引が414件、現金取引が295件、次いで預金取引が118件で、これらがマネー・ローンダリングに悪用された取引等の大半を占めているということです、典型的な例としては、以下が紹介されています。

  • 詐欺の被害金を他人名義の口座に振込送金させる(内国為替取引)
  • 窃盗の被害品を他人名義で売却して現金化する(現金取引)
  • 盗んだ現金を他人名義の口座に預け入れる(預金取引)
  • 外国で発生した詐欺事件の被害金を、国内の口座に送金させる(外国との取引)
  • 詐欺による被害金を実態のない法人名義の口座に振り込ませる(法人格)
  • 窃盗の被害品である金塊を知人を使って法人名義で売却する(宝石・貴金属)
  • 詐欺の被害金を郵便物受取サービス業者を経由して収受する(郵便物受取サービス)

次に、商品・サービス別、取引別での危険度の高いものについて代表的なものについて、詳細を確認していきます。

  • 預金取扱金融機関

平成28年から30年までの間の預金取扱金融機関による疑わしい取引の届出件数は1,096,663件で、全届出件数の90.0%を占めており、その内訳は以下のようになっています。

  • 職員の知識、経験等から見て、不自然な態様の取引又は不自然な態度、動向等が認められる顧客に係る取引(203,013件、5%)
  • 暴力団員、暴力団関係者等に係る取引(157,045件、3%)
  • 多数の者から頻繁に送金を受ける口座に係る取引。特に、送金を受けた直後に当該口座から多額の送金又は出金を行う場合(85,417件、8%)
  • 経済的合理性のない多額の送金を他国から受ける取引(75,942件、9%)
  • 多額の現金又は小切手により、入出金(有価証券の売買、送金及び両替を含む。以下同じ。)を行う取引。特に、顧客の収入、資産等に見合わない高額な取引、送金や自己宛小切手によるのが相当と認められる場合であるにもかかわらず、あえて現金による入出金を行う取引(72,537件、6%)
  • 通常は資金の動きがないにもかかわらず、突如多額の入出金が行われる口座に係る取引(68,518件、2%)
  • 経済的合理性のない目的のために他国へ多額の送金を行う取引46,747件、3%)
  • 多額の入出金が頻繁に行われる口座に係る取引(46,688件、3%)
  • 口座開設時に確認した取引を行う目的、職業又は事業の内容等に照らし、不自然な態様・頻度で行われる取引(36,790件、4%)
  • 架空名義口座又は借名口座であるとの疑いが生じた口座を使用した入出金(35,285件、2%)
  • 多数の者に頻繁に送金を行う口座に係る取引。特に、送金を行う直前に多額の入金が行われる場合(18,550件、7%)

なお、危険度の評価としては、預金取扱金融機関は、安全かつ確実な資金管理が可能な口座をはじめ、時間・場所を問わず、容易に資金の準備又は保管ができる預金取引、迅速かつ確実に遠隔地間や多数の者との間で資金を移動することができる為替取引、秘匿性を維持した上で資産の安全な保管を可能とする貸金庫、換金性及び運搬容易性に優れた手形・小切手等、様々な商品・サービスを提供していること、一方で、これらの商品・サービスは、それぞれが有する特性から、マネー・ローンダリング等の有効な手段となり得ること、実際、口座、預金取引、為替取引、貸金庫並びに手形及び小切手を悪用することにより、犯罪による収益の収受又は隠匿がなされた事例があること等から、「預金取扱金融機関が取り扱うこれらの商品・サービスは、マネー・ローンダリング等に悪用される危険性があると認められる」と指摘しています。さらに、国際金融市場としての我が国の地位や役割、業界全体の金融取引量の大きさ、マネー・ローンダリング等に悪用された取引等の統計、国際犯罪組織が関与する事例の発生等も踏まえると、「マネー・ローンダリング等に悪用される危険度は、他の業態よりも相対的に高いと認められる」とも指摘されています。そして、このような危険度に対して、「所管行政庁及び事業者等は、法令上の措置に加えて、さまざまな危険度の低減措置を行っており、その効果は事業者による効果的な取組の状況等によっても表れている」と評価しながらも、「これらの取組の程度は、事業者ごとに格差が見受けられており、リスクに応じた実効的な低減措置が行われていない事業者はマネー・ローンダリング等に悪用される危険度が高まり、ひいては、業態全体の危険度にも影響を及ぼすことにもなり得る」と厳しく指摘しています。また、疑わしい取引の届出の状況や事例等を踏まえると、取引時の状況や顧客の属性等に関して、以下のような要素が伴う取引については、危険度がより一層高まるものと認められるとしています。

  • 多数の者から頻繁に送金を受ける口座に係る取引(送金を受けた直後に当該口座から多額の送金又は出金を行う場合には、危険度が特に高まると認められる)
  • 多額の現金又は小切手により、入出金を行う取引(顧客の収入、資産等に見合わない高額な取引、送金や自己宛小切手によるのが相当と認められる場合であるにもかかわらず、あえて現金による入出金を行う取引は、危険度が特に高まると認められる)
  • 通常は資金の動きがないにもかかわらず、突如多額の入出金が行われる口座に係る取引
  • 口座開設時に確認した取引を行う目的、職業又は事業の内容等に照らし、不自然な態様・頻度で行われる取引
  • 架空名義口座又は借名口座であるとの疑いが生じた口座を使用した入出金
  • 多数の者に頻繁に送金を行う口座に係る取引(送金を行う直前に多額の送金を受ける場合には、危険度が特に高まると認められる)
  • 短期間のうちに頻繁に行われる取引で、現金又は小切手による入出金の総額が多額であるもの
  • 多数の口座を保有している顧客(屋号付名義等を利用して異なる名義で保有している顧客を含む)の口座を使用した入出金
  • 口座から現金で払い戻し、直後にその現金(伝票の処理上現金扱いとする場合も含む)を送金する取引(払い戻した口座の名義とは異なる名義で送金を行う場合には、危険度が特に高まると認められる)
  • 匿名又は架空名義と思われる名義での送金を受ける口座に係る取引
  • 口座開設後、短期間に多額の又は頻繁な入出金が行われ、その後、解約され、又は取引が休止した口座に係る取引
  • 暗号資産(仮想通貨)交換業者

暗号資産については、「我が国を含めて世界的に取引額が増大しており、それに伴い暗号資産に関連した事案の発生も認められる」と指摘し、平成30年中の暗号資産交換業者等への不正アクセス等による不正送信事犯として169件、約677億3,820万円相当の被害を認知しており、平成30年1月及び9月には国内の暗号資産交換業者等から多額の暗号資産が不正に送信されたとみられる事案も発生していること、これらの事案の背景には、暗号資産を取り扱う事業者において、事業規模が急激に拡大する中、マネー・ローンダリング等の各種リスクに応じた適切な内部管理体制の整備が追いついていなかったこと等が要因となっているとみられるものもあることなどを指摘しています。また、暗号資産交換業者の取引は、その大半がインターネットを利用した非対面で行われていることから、対面取引と比べて匿名性が高いこと、さらに、取引の中で、匿名性を高めた暗号資産との交換が行われた場合、その後の取引等の追跡は困難となることなども指摘しています。なお、平成29年4月から平成30年末までの間の暗号資産交換業者による疑わしい取引の届出件数は7,765件であり、その理由としては、顧客の情報に着目したもののほか、架空名義や借名での取引が疑われるもの等が多く認められ、その内容としては、以下などがあると紹介されています。

  • 異なる氏名・生年月日の複数の利用者が使用した本人確認書類に添付されている顔写真が同一
  • 同じIPアドレスから複数の口座開設・利用者登録がされている
  • 利用者の居住国が日本にもかかわらずログインされたのが日本国外である
  • 同一携帯番号が複数のアカウント・利用者連絡先として登録されていたが、使用されていない電話番号である

また、暗号資産がマネー・ローンダリングに悪用された事例として、以下が紹介されています。

  • 不正に取得した他人名義のアカウント及びクレジットカード情報等を利用して暗号資産を購入後、海外の交換サイトを経由するなどして日本円に換金し、その代金を他人名義の口座に振り込んでいた事例
  • 特殊詐欺の犯罪収益が振り込まれた銀行口座から現金を払い出し、ネット銀行に開設された暗号資産交換業者の口座に振り込み、暗号資産を購入し、その後、複数のアカウントに移転させていた事例
  • ベトナム人が開設した暗号資産口座のID、パスワードを第三者に有償で提供した事例
  • 他人名義の本人確認書類を使用して暗号資産交換業者に口座を開設した事例
  • 違法薬物の取引や児童ポルノのダウンロードに必要な専用のポイントの支払いに暗号資産が用いられていた事例
  • 宅地建物取引業者が取り扱う不動産

平成28年から30年までの間の宅地建物取引業者による疑わしい取引の届出件数は23件であり、「疑わしい取引の参考事例」に例示された類型のうち届出件数が多かったものは、以下のとおりと紹介されています。

  • 多額の現金により、宅地又は建物を購入する場合(5件、7%)
  • 自社従業員の知識、経験等から見て、不自然な態様の取引又は不自然な態度、動向等が認められる顧客に係る取引(5件、7%)
  • 不動産がマネー・ローンダリングに悪用された事例
  • 売春により得た収益を原資として、親族名義で土地を購入していた事例
  • 薬物の密売人等が、薬物の密売により得た収益等を使って、知人の名義で、生活用の不動産や薬物製造に使用する不動産を購入していた事例
  • 詐欺により得た収益をマンションの購入に充てていた事例

また、事業者によるリスク評価及びリスクベース・アプローチの取組の例としては以下が紹介されています。

  • 過去において取引を中止する又は何らかの理由によって取引が成立しなかった顧客との取引についての情報をデータベース化して全社的に共有し、当該顧客に関して、以後の取引が生じた場合は、顧客管理を強化する又は取引を謝絶するなどの措置を講じている事例
  • 反社会的勢力との取引を見逃さないために、反社会的勢力の言動等に関する特徴点について、事業者独自のチェックリストを作成し、顧客管理において活用している事例
  • 宝石・貴金属等取扱事業者が取り扱う宝石・貴金属

金にかかる密輸事件において、最近見受けられる手口としては、国内外における税制度の違いを利用して不法な利益を得る手口、具体的には、非課税の国・地域で金塊を購入しそれを我が国に密輸入して納めるべき消費税を免れ、その後国内の貴金属店等で消費税込みの価格で売却することで消費税分の利益を得る手口があること、また、密輸の形態については、大量の金を自動車の部品に隠匿して繰り返し密輸したり、密輸する金を加工、変形させて体腔内や着衣内等に隠匿するなどの手口の巧妙化や小口化がみられること、加えて、航空機旅客、航空貨物、国際郵便等を利用した密輸手口の多様化、密輸の窓口となる空港の地方への拡散等の傾向が認められると指摘しています。さらに、密輸の仕出地は香港、韓国が多いこと、また、密輸によって得られた犯罪収益を基に、国外で購入された金塊が再び我が国へ密輸され、国内買取店で売却されるという、犯罪収益を得ることを繰り返す循環型スキームが認められることも指摘しています。そして、この背景として、韓国人密売グループや暴力団関係者等の国内外の犯罪組織が関与している実態が認められる点も指摘しています。また、金地金については価格の変動を伴うもので現金取引が主流であることから、取引の匿名性を高める要因のひとつになっているといいます。

  • 郵便物受取サービス業者が取り扱う郵便物受取サービス

郵便物受取サービス業者は、自己の居所又は事務所の所在地を顧客が郵便物を受け取る場所として用いることを許諾し、当該顧客宛ての郵便物を受け取り、これを当該顧客に引き渡す業務を行っていることから、これを利用することにより、顧客は、実際には占有していない場所を自己の住所として外部に表示し、郵便物を受け取ることができるため、特殊詐欺等において郵便物受取サービスが被害金等の送付先として悪用されている実態があると指摘しています。

  • 電話受付代行業者が取り扱う電話受付代行

電話受付代行業者は、自己の電話番号を顧客が連絡先の電話番号として用いることを許諾し、当該顧客宛ての当該電話番号に係る電話を受けて、その内容を当該顧客に連絡する業務を行っていることから、これを利用することにより、顧客は、自宅や事務所の実際の電話番号とは別の電話番号を自己の電話番号として外部に表示し、連絡を受けることができるため、詐欺等において電話受付代行が悪用されていると指摘しています。

  • 電話転送サービス事業者が取り扱う電話転送サービス

電話転送サービスは、自己の電話番号を顧客が連絡先の電話番号として用いることを許諾し、当該顧客宛ての又は当該顧客からの当該電話番号に係る電話を当該顧客が指定する電話番号に自動的に転送する業務を行っていることから、これを利用することにより、顧客は、自宅や事務所の実際の電話番号とは別の電話番号を自己の電話番号として外部に表示し、連絡を受けることができるため、特殊詐欺等において電話転送サービスが悪用されている実態があり、実際、証券購入費用名目の架空請求詐欺事件等における被疑者の連絡先として電話転送サービスが悪用されていた事例等もあると指摘しています。

  • 非対面取引

非対面取引は、取引の相手方と直に対面せずに行う取引であることから、同人の性別、年代、容貌、言動等を直接確認することにより、本人特定事項の偽りや他人へのなりすましの有無を判断することができないこと、また、本人確認書類の写しにより本人確認を行う場合には、その手触りや質感から偽変造の有無を確認することができないことなどから、「非対面取引においては、他人になりすますことを企図する者を看破する手段が限定され、本人確認の精度が低下する」点を指摘しています。したがって、「非対面取引は対面取引と比べて匿名性が高く、容易に氏名・住居等の本人特定事項を偽ったり、架空の人物や他人になりすまして取引を行うことが可能」となること、具体的には、偽変造された本人確認書類の写しを送付すること等により、本人特定事項を偽ったり、他人になりすましたりすることが可能となること、なお、我が国は、FATFの第3次対日相互審査において、「非対面取引における身分確認及び照合に関する義務が十分でない」旨指摘されていることなどが紹介されています。そして、非対面取引がマネー・ローンダリングに悪用された事例として、以下が紹介されています。

  • 窃取した健康保険証等を用い、インターネットを通じた非対面取引により他人名義で開設された口座が盗品の売却による収益の隠匿口座として悪用されていた事例
  • 架空の人物になりすまして非対面取引により開設された口座が、詐欺やヤミ金融事犯等において、犯罪による収益の隠匿口座として悪用されていた事例
  • インターネットバンキングに係る不正送金事犯において、偽造の身分証明書を使用した非対面取引により開設された複数の架空名義口座が振込先に指定されていた事例
  • 長期不在中の親族の写真付き本人確認書類を使い、スマートフォンアプリにより銀行口座を開設して、詐欺の犯罪収益を振り込ませていた事例
  • 偽造の健康保険被保険者証を使用し、オンラインで銀行口座の開設の申込みをして、キャッシュカードが本人限定郵便で郵送されてきた際に、郵便局員に口座開設の際に使用した偽造の本人確認書類を提示し、キャッシュカードを受け取っていた事例
  • オンラインで架空の法人名義口座を開設し、特殊詐欺の犯罪収益を振り込ませていた事例
  • 現金取引

現金取引の特徴として、遠隔地への速やかな資金移動が容易な為替取引と異なり、実際に現金の物理的な移動を伴うことから、相当な時間を要すること、その一方で、現金は流動性が高く、権利の移転が容易であるとともに、現金取引は匿名性が高く、取引内容に関する記録が作成されない限り、資金の流れの追跡可能性が低いことなどを指摘しています。

  • 外国との取引

我が国は日常的に外国との取引を行っているところ、外国との取引は、国により法制度や取引システムが異なること、自国の監視・監督が他国まで及ばないこと等から、一般に、国内の取引に比べて、資金移転の追跡を困難とする性質を有すること、諸外国の中には、法人の役員や株主を第三者名義で登記することができる制度を許容している国・地域等もあり、それらの国・地域において設立された実態のない法人が、犯罪による収益の隠匿等に悪用されている実態も認められること、また、それらの匿名性の高い法人口座等を複数経由するなどにより、最終的な送金先が不透明になる危険性を高めることとなることなどを指摘しています。そして、外国との取引がマネー・ローンダリングに悪用された事例として、以下が紹介されています。

  • アメリカ、ヨーロッパ等において敢行した詐欺事件における詐取金を我が国の銀行に開設した口座に送金させた上、口座名義人である日本人が偽造した請求書等を当該銀行の窓口で提示して、正当な取引による送金であるかのように装って当該詐取金を引き出した事例
  • サーバをハッキングして、外国の企業に対して取引相手を装い、代金の振込先が変更になった旨の偽のメールを送り、我が国に開設された営業実態のない会社名義の口座に当該代金を振り込ませ、一度に多額の現金を引き出した事例
  • 中古自動車等輸出会社の実質的経営者が、盗品自動車について内容虚偽の書面を準備した上で、事実と異なる輸出許可を得て国外輸出していた事例
  • 送金依頼を受けた資金で母国で需要の高い中古自動車等を購入し、正規の貿易を装って輸出して現地で換金することで、実質的に外国への送金を行っていた事例
  • 顧客から送金依頼を受けて他人名義の口座に振り込ませ、中古重機や農機具等を購入した後、正規の貿易を装ってこれらを輸出して現地で換金することで、実質的に外国への送金を行っていた事例
  • 顧客から送金依頼を受けて他の外国人名義の口座に振り込ませた後に現金で払い出し、払い出した現金を外国人が経営する国内の会社に渡して、同会社がその現金を原資として日本製品を購入した後に輸出し、外国で販売し外貨を得ることで、実質的に外国への送金を行っていた事例
  • 顧客から送金依頼を受けて他人名義の口座に振り込ませ、現金を引き出した後に旅行バッグ等に入れて外国へ密輸した事例
  • 外国の留学あっせんブローカーと来日外国人が結託した犯罪グループが、実際の資金移動をすることなく、同グループが日本国内外に管理する口座等を用いて外国人留学生等の母国に住む家族等への送金・支払を請け負う、大規模な地下銀行を営んでいた事例
  • 犯罪による収益が、国境を越える大口の現金密輸、実際の商品価格に金額を上乗せして対価を支払う方法による取引等によって外国に移転されていた事例
  • 反社会的勢力(暴力団等)

まず、反社会的勢力の最近の動向をふまえ、「近年、準暴力団に属する者等が、繁華街・歓楽街等において、集団的、常習的に暴行、傷害等の暴力的不法行為等を敢行したり、特殊詐欺、組織窃盗、ヤミ金融、賭博、みかじめ料の徴収等の不法な資金獲得活動を行っている実態がある」ことを指摘しています。そのうえで、これら準暴力団には、暴力団との関係を持つ場合も認められ、不法な資金獲得活動によって蓄えた潤沢な資金の一部を暴力団に上納する一方、自らは風俗営業等の事業資金に充てるほか、他の不法な資金獲得活動の原資となっていることがうかがわれる事例もみられること、また、現役の暴力団構成員が準暴力団と共謀して犯罪を行っている事例もあることから、暴力団と準暴力団との結節点が存在するとみられるとも指摘しています。なお、平成28年から平成30年までの間の疑わしい取引の届出件数は1,218,599件で、そのうち、暴力団構成員等に係るものは186,626件で、全体の15.3%を占めているといいます。また、暴力団構成員等が関与したマネー・ローンダリングの事例としては、特殊詐欺等の詐欺事犯、ヤミ金融事犯、薬物事犯、労働者派遣法違反等で収益を得る際に、他人名義の口座を利用するなどして犯罪による収益の帰属を仮装する事例が多く、以下のような事例が紹介されています。

  • 暴力団がその組織や威力を背景にみかじめ料や上納金名目で犯罪による収益を収受している事例
  • 暴力団員が売春事犯の犯罪収益と知りながら、親族名義の口座に現金振り込ませて犯罪収益を収受した事例
  • 暴力団員が、代金引換郵便サービスを利用して健康食品を送りつけ、その販売代金名目でだまし取った現金をサービスを提供する会社の社員を介して、知人が開設して実態のない法人名義の口座に入金させていた事例
  • 暴力団員がヤミ金融の返済口座として、妻が旧姓で開設した口座を使用していた事例
  • 国際テロリスト(イスラム過激派等)

テロ資金供与の脅威・脆弱性に関する国際的な指摘等をふまえ、テロ資金供与の特性として、「テロ資金は、テロ組織によるその支配地域内の取引等に対する課税、薬物密売、詐欺、身代金目的誘拐等の犯罪行為、外国人戦闘員に対する家族等からの金銭的支援により得られるほか、団体、企業等による合法的な取引を装って得られること」、「テロ資金供与に関係する取引は、テロ組織の支配地域内に所在する金融機関への国際送金等により行われることもあるが、マネー・ローンダリングに関係する取引よりも小額であり得るため、事業者等が日常的に取り扱う多数の取引の中に紛れてしまう危険性があること」、「テロ資金の提供先として、イラク、シリア、ソマリア等が挙げられるほか、それらの国へ直接送金せずに、トルコ等の周辺国を中継する例があること」などが指摘されています。なお、FATFの新「40の勧告」では、非営利団体が悪用される形態として、テロ組織が合法的な団体を装う形態、合法的な団体をテロ資金供与のパイプとして利用する形態及び合法目的の資金をテロ組織に横流しする形態を示していること、また、同勧告及びその解釈ノート等を踏まえると、テロ資金供与に対する非営利団体の脆弱性として、以下が挙げられるとしている点に注意が必要です。

  • 非営利団体は、一般社会の信頼を享受し、相当量の資金源へのアクセス権を有し、しばしば現金を集中的に取り扱うこと
  • テロ行為にさらされている地域やその周辺において活動し、金融取引のための枠組みを提供しているものがあること
  • 活動のための資金の調達と支出における主体が異なる場合等があり、使途先が不透明になり得ること
  • テロ組織やその関係者が慈善活動を名目に非営利団体を設立して調達した資金をテロリストやその家族への支援金にすること
  • 合法的な非営利団体の活動にテロ組織の関係者が介入し、非営利団体が有する金融取引を悪用して、紛争地域等で活動するテロ組織に資金を送金すること
  • 合法的な非営利団体の活動によって得られた資金が、国外にあるテロ組織と関連を有する非営利団体に提供されてテロ資金となること
  • 非居住者

外国に留まったまま郵便やインターネット等を通じて取引を行う者(以下「非居住者」という)については、常に相手方と対面することなく取引を行うことから、その取引は匿名性が高いこと、したがって、非居住者は、本人確認書類の偽変造により、容易に本人特定事項を偽り、又は架空の人物や他人になりすますことができること、また、非居住者との継続的な取引において、既に確認した本人特定事項等を当該非居住者が偽っていた疑いが生じた際や当該取引がマネー・ローンダリング等に悪用されている疑いが生じた際に、当該顧客に対して事業者が執り得る本人特定事項の確認等の顧客管理措置が居住者に比べて制限されてしまうことなどを指摘しています。

  • 外国の重要な公的地位を有する者

外国の重要な公的地位を有する者(いわゆる「PEPs」と呼ばれ、FATFは、国家元首、高位の政治家、政府高官、司法当局者、軍当局者等を例示している)は、マネー・ローンダリング等に悪用し得る地位や影響力を有するほか、非居住者であったり、居住者であっても主たる資産や収入源が国外にあったりすることから、事業者による顧客等の本人特定事項等の確認及び資産の性格・移動状況の把握が制限されてしまう性質を有すること、また、腐敗対策に関する法規制の厳格さは国・地域により異なることなどを指摘しています。

  • 実質的支配者が不透明な法人

法人は、一般に、その財産に対する権利・支配関係が複雑であり、会社であれば、株主、取締役、執行役、さらには債権者が存在するなど、会社財産に対して複数の者が、それぞれ異なる立場で権利を有することになるため、財産を法人へ流入させれば、法人に特有の複雑な権利・支配関係の下に当該財産を置くことになり、その帰属を複雑にし、財産を実質的に支配する自然人を容易に隠蔽することができること、さらに、法人を支配すれば、その事業の名目で、多額の財産の移動を頻繁に行うことができることなどを指摘しています。そして、法人を悪用したマネー・ローンダリング事犯の検挙事例等を見てみると、法人を悪用してマネー・ローンダリング等を意図する者は、以下の法人の特性を悪用している実態が認められるとしています。

  • 取引における信頼性を享受し得ること
  • 多額の財産の移動を頻繁に行うことができること
  • 合法的な事業収益に犯罪収入を混入させることで、違法な収益の出所を不透明にすることができること

また、法人を悪用した手口の中でも、実態のない又は不透明な法人を悪用するものは、事業活動や実質的支配者の実態が不透明であることから、その後の収益の追跡を困難にすること、具体的には、犯罪による収益の隠匿等に悪用する目的で、実態のない法人を設立する、犯罪による収益の隠匿等を企図する者が、第三者が所有する法人を違法に取得する、などの手口によって法人を支配し、同法人名義の口座を犯罪収益の隠匿先に悪用するなどの実態が認められると指摘、実態が不透明な法人がマネー・ローンダリングに悪用された事例として、以下が紹介されています。

  • 第三者を代表取締役にして設立した会社の実質的支配者が、詐欺による収益を当該会社名義の口座に隠匿していた事例
  • 知人に依頼して実態のない株式会社を設立させて開設した同会社名義の口座に、正当な事業収益を装って、売春による収益を隠匿していた事例
  • 犯罪収益を、複数の実態のない会社の口座を経由させた後、金融機関の窓口で払い出していた事例
  • 実態のない法人名で、インターネット上の電子書籍販売に関する副業のあっせんを行うホームページを開設し、当該副業のあっせんを申し込んできた者から、サーバのバージョンアップに関する必要費用等の名目で現金を架空名義の口座に振り込ませてだまし取っていた事例
  • 外国において発生した詐欺等の被害金を、実態のない法人名義の口座に振り込ませていた事例
  • 実態のない会社を設立した上、金融機関から融資金目的をかたってだまし取った金銭を、同社名義の口座に振り込ませていた事例
  • 不法就労の外国人を稼働させて得た収益を隠匿するために、既に廃業となっている親族の会社名義の口座を利用していた事例

さて、次に、例月どおり、金融庁と業界団体との意見交換会において金融庁が提起した主な論点についていくつか紹介します(なお、実際の会合はFATF審査より前に行われておりたもののこのあたりの点も言及があります)。

▼金融庁 業界団体との意見交換会において金融庁が提起した主な論点(10月)
▼共通事項

まず、FATF第4次対日相互審査への対応については、FATFの対日相互審査のオンサイトレビューが始まることをふまえ、足許、留意いただきたい点として、例えば、「FATFが拡散金融リスクとして注目している北朝鮮やイラン関係についても、報道機関や国会等での関心も高いので、各金融機関において具体的にどのような対策を講じているのか、今一度確認するよう、担当部署に必要な指示を出していただきたい」こと、「国家公安委員会が作成している犯罪収益移転危険度評価書を踏まえ、日常業務の中で、実際にどのような手続きによってリスク低減策が講じられているか、再度、確認いただきたい」こと、加えて、「今一度、経営陣・取締役会として、担当部署に確認の指示を出し、その結果を報告させるなどのチェックを行っていただきたい」こと、さらに、「自社がどのようなマネロン・テロ資金供与リスクに晒されていて、どのような対策をリスクベースで講じているか、そしてどのような課題があるのか、経営陣が自分の言葉で語れるようにしていただきたい」(最近のヒアリング事例でも、マネロンに関し、悪い話が経営陣に上がっていない、もしくは、速やかに報告されていないという事例もあり、経営陣として、自らのマネロン・テロ資金供与対策の現状や課題を常日頃より、リスクに応じて把握するようにしていただきたい)こと、他方、「インタビューに選ばれるか否かに関わらず、各社におかれては、マネロン等における適切なリスク管理体制の構築やリスクの特性に応じた取組みを引き続き経営課題として進めていただきたい(今回のFATF審査は通過点に過ぎない。審査結果を踏まえ、引き続き継続的に態勢の高度化を図っていく必要があることを今一度ご理解願いたい)」こと、「マネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策の現状と課題」(いわゆるマネロンレポート)を公表、これまでのモニタリングで得られた傾向や事例を還元することにより、金融機関等における更なる実効的な態勢整備の一助としていただくとともに、金融機関の利用者にもマネロンに関するご理解をいただけるものになればと考えている」ことなどを述べています。

▼主要行

外国人向けパンフレットの公表について、「外国人材の受入れ・共生について、本年4月の入管法改正により導入された新たな在留資格での受入れが少しずつ始まっているところ。金融庁としても、これまで外国人材の受入れ先向けのパンフレットを作成・頒布するなど、外国人の円滑な口座開設に関する取組みを行ってきた」、「皆様におかれては、外国人材の円滑な口座開設のための取組を進めて頂いているところと思う。このたび、金融庁において、外国人材に対して口座開設の手順や口座売買が違法であることなどを説明するためのリーフレットとして「日本でくらすための銀行口座や送金のつかい方」を公表した。やさしい日本語と13か国語で作成しているので、各支店・窓口に外国籍のお客様が来店された際などにぜひ活用して頂くようお願いする」、「引き続き政府一丸となって外国人材の円滑な受入れ・共生について強力に推進していくので、銀行業界におかれてもご協力をお願いする」としています。

その他、最近の報道から、AML/CFTを巡る海外の動向について、いくつか紹介します。

  • インターネットバンキングを巡る不正送金被害が急増していることを受け、愛知県警は、ツイッター上の口座売買に関する投稿に、公式アカウントを使って警告メッセージを返信する取り組みを始めています。報道によれば、全国の警察で初めての取り組みだといい、既に数件のアカウントや投稿が削除されたということです。また、ネット上に売買の意向を書き込むこと自体も犯罪収益移転防止法に違反するとして、同県警はサイバーパトロールで書き込みを発見したら「口座売買は犯罪」などと警告し、売買をしないように求め、直接返信するとのことです。ネット上のパトロールは口座の不正売買以外にも様々な視点から行われているところ、このような取り組みが全国に拡がることを期待したいと思います。
  • 25歳若い生年月日が記された偽造運転免許証で銀行口座を開設しようとしたとして、兵庫県警明石署は、無職の男を詐欺未遂の疑いで逮捕しています。明石市内のメガバンクで偽造免許証を示し、口座の開設を申し込んだ疑いがあるということです。報道によれば、男はインターネットを通じ、自身の写真と偽名が入った偽造免許証を海外から購入、25歳下の「昭和60年生まれ」と記されていたもので、窓口対応した女性行員が男の見た目と免許証の年齢の違いを不審に思い、通報したとのことです。窓口担当者の高いリスクセンスが不正を未然に防止することにつながった好事例だといえます。
  • 豪ナショナル・オーストラリア銀行(NAB)は、同行のマネー・ローンダリング防止システムに欠陥があったことを豪金融取引報告・分析センター(AUSTRAC)に報告しています。(本コラムでも紹介したとおり)同国では、ウエストパック銀行が資金洗浄防止法に違反としたとしてAUSTRACから提訴されていますが、NAB会長は、年次株主総会で「欠陥があったことをAUSTRACに報告した」と表明、システムを改善したことを明らかにしたということです。

2.最近のトピックス

(1)暴排を巡る動向

兵庫、愛知、岐阜、三重、京都、大阪の6府県の公安委員会は、指定暴力団六代目山口組と指定暴力団神戸山口組の対立抗争とみられる事件が相次いでいるとして、活動を厳しく制限するため暴力団対策法に基づく「特定抗争指定暴力団」に両組織を指定すると発表、今年1月7日に官報で公示、すでに効力が発生しています。特定抗争指定暴力団は、いずれも福岡県に本部を置く指定暴力団道仁会と指定暴力団九州誠道会(現浪川会)が平成24年に全国で初めて指定(平成26年6月に解除)されましたが、今回が2例目となります。

あらためて、「特定抗争指定暴力団」の規制について、暴力団対策法の規定を確認します。

▼暴力団対策法(暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律)

第十五条の二(特定抗争指定暴力団等の指定)指定暴力団等の相互間に対立が生じ、対立抗争が発生した場合において、当該対立抗争に係る凶器を使用した暴力行為が人の生命又は身体に重大な危害を加える方法によるものであり、かつ、当該対立抗争に係る暴力行為により更に人の生命又は身体に重大な危害が加えられるおそれがあると認めるときは、公安委員会は、三月以内の期間及び当該暴力行為により人の生命又は身体に重大な危害が加えられることを防止するため特に警戒を要する区域(以下この条及び次条において「警戒区域」という。)を定めて、当該対立抗争に係る指定暴力団等を特定抗争指定暴力団等として指定するものとする。

  • 公安委員会は、前項の規定による指定をした場合において、当該指定の有効期間が経過した後において更にその指定の必要があると認めるときは、三月以内の期間を定めて、その指定の期限を延長することができる。当該延長に係る期限が経過した後において、これを更に延長しようとするときも、同様とする。
  • 公安委員会は、必要があると認めるときは、警戒区域を変更することができる。
  • 前三項の規定は、一の指定暴力団等に所属する指定暴力団員の集団の相互間に対立が生じ、内部抗争が発生した場合について準用する。この場合において、第一項中「指定暴力団等を」とあるのは、「集団に所属する指定暴力団員の所属する指定暴力団等を」と読み替えるものとする。
  • 公安委員会は、第一項(前項において準用する場合を含む。以下この条及び第十五条の四第一項において同じ。)の規定による指定をしたときは、警戒区域内に在る当該指定に係る特定抗争指定暴力団等の事務所の出入口の見やすい場所に、当該特定抗争指定暴力団等が当該指定を受けている旨を告知する国家公安委員会規則で定める標章を貼り付けるものとする。公安委員会が第三項(前項において準用する場合を含む。以下この条において同じ。)の規定による警戒区域の変更をした場合において、新たに当該特定抗争指定暴力団等の事務所の所在地が警戒区域に含まれることとなったときは、当該事務所についても、同様とする。
  • 公安委員会は、前項の規定により標章を貼り付けた場合において、第一項の規定による指定の期限(第二項(第四項において準用する場合を含む。)の規定によりその延長が行われたときは、その延長後の期限。次項及び第十五条の四第一項において同じ。)が経過したとき、第三項の規定による警戒区域の変更により当該標章を貼り付けた事務所の所在地が警戒区域に含まれないこととなったとき、又は同条第一項の規定により当該特定抗争指定暴力団等に係る第一項の規定による指定が取り消されたときは、当該標章を取り除かなければならない。
  • 何人も、第五項の規定により貼り付けられた標章を損壊し、又は汚損してはならず、また、第一項の規定による指定の期限が経過し、第三項の規定による警戒区域の変更により当該標章を貼り付けた事務所の所在地が警戒区域に含まれないこととなり、又は第十五条の四第一項の規定により当該特定抗争指定暴力団等に係る第一項の規定による指定が取り消された後でなければ、これを取り除いてはならない。
  • 第五条(第一項ただし書を除く。次項において同じ。)及び第七条の規定は、第一項の規定による指定について準用する。この場合において、同条第一項中「その他の」とあるのは「、第十五条の二第一項(同条第四項において準用する場合を含む。第四項において同じ。)に規定する警戒区域その他の」と、同条第四項中「事項」とあるのは「事項(第十五条の二第一項に規定する警戒区域を除く。)」と読み替えるものとする。
  • 第五条の規定は第三項の規定による警戒区域の変更(当該変更により新たな区域が当該警戒区域に含まれることとなるものに限る。)について、第七条第一項から第三項までの規定は第三項の規定による警戒区域の変更について、それぞれ準用する。この場合において、同条第一項中「その他の」とあるのは、「、第十五条の二第一項(同条第四項において準用する場合を含む。)に規定する警戒区域その他の」と読み替えるものとする。
  • 第一項の規定により特定抗争指定暴力団等として指定された指定暴力団連合が第三条の規定により指定暴力団として指定された場合において、当該指定暴力団連合に係る第四条の規定による指定が第八条第三項の規定により取り消されたときは、第一項の規定により当該指定暴力団連合について公安委員会がした指定は、同項の規定により当該指定暴力団について当該公安委員会がした指定とみなす。
  • 第一項の規定により特定抗争指定暴力団等として指定された指定暴力団等に係る第三条又は第四条の規定による指定(以下この項において「旧指定」という。)の有効期間が経過した場合において、当該指定暴力団等について引き続き第三条又は第四条の規定による指定(以下この項において「新指定」という。)がされたときは、第一項の規定により旧指定に係る指定暴力団等について公安委員会がした指定は、新指定に係る指定暴力団等について引き続きその効力を有する。

第十五条の三(特定抗争指定暴力団等の指定暴力団員等の禁止行為)特定抗争指定暴力団等の指定暴力団員は、警戒区域において、次に掲げる行為をしてはならない。

当該特定抗争指定暴力団等の事務所を新たに設置すること。

当該対立抗争に係る他の指定暴力団等の指定暴力団員(当該特定抗争指定暴力団等が内部抗争に係る特定抗争指定暴力団等である場合にあっては、当該内部抗争に係る集団(自己が所属する集団を除く。)に所属する指定暴力団員。以下この号において「対立指定暴力団員」という。)につきまとい、又は対立指定暴力団員の居宅若しくは対立指定暴力団員が管理する事務所の付近をうろつくこと。

多数で集合することその他当該対立抗争又は内部抗争に係る暴力行為を誘発するおそれがあるものとして政令で定める行為を行うこと。

2.特定抗争指定暴力団等の指定暴力団員又はその要求若しくは依頼を受けた者は、警戒区域内に在る当該特定抗争指定暴力団等の事務所に立ち入り、又はとどまってはならない。ただし、当該事務所の閉鎖その他当該事務所への立入りを防ぐため必要な措置を講ずる場合は、この限りでない。

第十五条の四(特定抗争指定暴力団等の指定の取消し)公安委員会は、第十五条の二第一項の規定による指定をした場合において、当該指定の期限を経過する前に同項に規定するおそれがないと認められるに至ったときは、その指定を取り消さなければならない。

2.第七条第一項から第三項までの規定は、前項の規定による指定の取消しについて準用する。

特定抗争指定暴力団への指定は2例目となりますが、1例目となった道仁会と浪川会のケースをみれば、その効果がいかに大きかったかが分かります。それまで抗争状態にあった両団体ですが、福岡県公安委員会など関係公安委員会が両団体に対する特定抗争指定暴力団の指定作業を開始すると、抗争事件は完全に止まっています。さらに、両団体が「抗争終結」を宣言(平成25年6月、道仁会最高幹部が久留米警察署を訪れ、九州誠道会側と協議の結果、抗争を終結し、九州誠道会は「解散」する旨の「誓約書」を提出したといいます)した後も、福岡県公安委員会では、1年間状況を見極めた上、平成26年6月に、両団体に対する特定抗争指定暴力団としての指定を解除、それ以降も抗争事件は発生していません。このあたりの経緯については、「暴追ネット福岡」というサイトが参考になりますので、一部抜粋して紹介したいと思います(下線は筆者)。

特定抗争指定暴力団に指定されると、暴力団事務所を開設することはもちろん、既存の事務所も使えなくなります。相手方暴力団員につきまとったり、居宅、事務所周辺をうろつくことも禁止されます。さらに決定的なのは、警戒区域内では多数で集合することが禁止されるのです。多数とは、具体的には5人以上です。そしてこれらの禁止行為違反は罰則規定があり犯罪です。例えば、道仁会本部事務所があり、警戒区域となった久留米市内で、道仁会や九州誠道会の暴力団員が5人以上集まっただけでも違反になります。相手を襲撃するために、相手の事務所や居宅を下見するだけでも、警察官に見つかれば逮捕されてしまうのです。私が平成25年3月に署長として着任した当時、既に久留米警察署では、事務所使用制限の対象となった道仁会会長本家前で24時間体制で監視活動と職務質問を行っていました。会長本家は、会長の自宅であり、会長以下数人の道仁会暴力団員が住所にしていたため、住居部分については使用は制限されていませんでした。しかし、5人以上集合することは禁止されていましたので、例えば道仁会本家に幹部が立ち寄れば、本家にいた暴力団員が外出し、絶対に5人以上にならないように気をつけていました。暴力団にとって、定期的に幹部や暴力団員を集めるということは非常に重要です。直接、顔を集めることが大事なのです。そのために、指示事項は毎度変わらず、10分程度で終わる定例会でも、毎回、多数の暴力団員を集めるのです。道仁会でも、指定前には他県などで行っていた定例会、幹部会の開催が段々と難しくなっていきました。特定抗争指定暴力団指定の半年後、ある道仁会傘下組織組長が次のように語っていました。特定抗争指定暴力団に指定される前には約30人の組員がいたそうです。ところが、指定後は半分の15人に減ったそうです。久留米市内で5人以上集まっただけでも、警察に見つかれば逮捕されます。携帯電話での連絡が主になったそうですが、そのうち電話にも出ず、どこにいったか分からない組員が何人も出てきたそうです。

つまり、特定抗争指定暴力団に指定されると、「警戒区域」に定められた市町村で組員がおおむね5人以上集まることや、事務所の使用が禁じられ、違反すると逮捕されることになり、著しく活動が制限されることから、会合もままならず意思疎通・情報伝達・指揮命令系統に綻びが生じ、組織の弱体化に直結することが考えられるということです(たとえば、報道によれば、関西では76ヵ所の事務所が使用禁止になるということです)。もちろん、特定抗争指定暴力団の指定は、憲法上保障されている「集会の自由」などの権利を著しく制限するものともいえ、本来、その指定には慎重さが求められますが、これだけ明らかに「抗争状態」にあり、市民の生活の平穏を害し、その生命財産が危険に晒される状況であれば、今回の指定はやむを得ないものといえると思います。ただし、指定にあたっては、「警戒区域」をあらかじめ指定する必要があり、今回は6府県が対象となっているところ、両団体ともに「広域」の指定暴力団であって、当然のことながら、6府県以外にも拠点があり、活動の拠点を移転する可能性も考えられるところです。したがって、警戒区域以外においても同様に十分に注意する必要があります(むしろ、警戒区域外では彼らの行動は比較的制限されないことをふまえれば、より警戒すべき状況といえるかもしれません)。

その一方で、六代目山口組が今回の指定を受けてどのように対応していくのかにも注目が集まっています。現状、神戸山口組の主力団体である山健組では内部対立が先鋭化、複数の傘下組織が六代目山口組側の切り崩し工作で組を離脱したとされ、中田組長本人が逮捕されトップの社会不在が長期間続けば、さらなる混乱を招く可能性も否定できない状況にあります。そのうえ、数的にも資金的にも圧倒的に優位にあるとされるのは六代目山口組ですが、道仁会と浪川会のように「抗争が落ち着くのではないか」、「このまま神戸山口組の勢力が縮小へ向かう可能性もある」という見方もあれば、(週刊誌情報ですが)六代目山口組の関係者は「相手が壊滅すれば抗争は終結するわけだから、指定も外れる。壊滅とは神戸側の幹部が全員引退するということ」と述べているようですし、「抗争は今後もエスカレートするのではないか。高山若頭をはじめとする六代目側は、神戸側の井上邦雄組長が白旗を上げるまで抗争を続けるだろう」、「抗争は長くてもあと1~2年で終わるはず。今後はピンポイントで神戸の幹部が狙われる」といった意見もみられます。なお、両団体の動向について、他にも以下のような報道がありました。

  • 神戸山口組の有力組織のひとつである太田舎弟頭補佐が率いる「太田興業」が解散届を提出したことが明らかとなっています。さらに、その後を追う組もいくつかあるとの情報もあります。太田興業は、井上組長の出身母体の「山健組」、ナンバー2の入江禎組長率いる「宅見組」、最高顧問の池田孝志組長が所属する「池田組」と並ぶ有力組織で、山健組、太田興業などの状況から神戸山口組の内部崩壊も現実味を帯びています。
  • 令和元年12月21日付dotで、今回の特定抗争指定暴力団への指定を前に、六代目山口組内でマニュアルが作成されていることが報じられています。そのマニュアルには、たとえば、<神戸山口組を解散させ名前を変えた場合、抗争指定はどうなるのか?(変わらない)>、<お互いに終結宣言を出さない限り特定抗争指定は解除されないのか?(3カ月更新)>と対神戸山口組を意識したものや、<たまたま入った飲み屋に組員がいて合計人数が5人以上になった場合はどうするのか?(ダメ)>。<暴力団お断りの店等に入ってはいけないのか?(ダメ)>と偶発的なことでも逮捕の可能性があることも書かれているようです。
  • 昨年12月16日にも、大阪市浪速区の六代目山口組弘道会系組事務所近くの歩道で、同組系の40代の男性組員が包丁を持った男に襲われる事件がありました。大阪府警は殺人未遂容疑で、神戸山口組山健組系「健竜会」組員を現行犯逮捕しています。なお、この健竜会は、兵庫県警に殺人未遂容疑などで逮捕された山健組組長の中田浩司容疑者がかつて組長を務めていた組織であり、一連の抗争の流れにあるものと見られます。

それ以外の暴力団の動向について、以下に簡単に紹介します。

  • 福岡県北九州市の特定危険指定暴力団工藤会の本部事務所の解体作業が進み、先月16日までに建物の取り壊しがほぼ終わりました。11月から解体作業が行われてきた本部事務所は、工藤会側が福岡県暴力追放運動推進センターに土地を1億円で売却し、福岡県内の民間企業に転売されることが決まっています。解体費用などの経費を差し引いた約4,000万円を福岡県暴追センターが管理し、工藤会が関与した襲撃事件の被害者への賠償にあてられる「北九州方式」が採用されています。今後は整地などが進められ、今年3月末までに、更地になった土地の引き渡しと、所有権の移転が行われる見通しといいます。その北九州市の北橋健治市長は、昨年一年を振り返り、幹部職員が選んだ市の10大ニュースを発表、2位には、暴追運動に取り組んできた成果として、工藤会本部事務所の撤去を選び、安全になった北九州をアピールしていきたいと決意を表しています。
  • 工藤会が関与したとされる4つの一般人襲撃事件の公判が続いていますが、福岡県警の元警部銃撃事件の被害者が、工藤会トップで総裁の野村悟被告(殺人罪などで公判中)らに約3,000万円の損害賠償を求めた訴訟の控訴審判決が福岡高裁であり、野村被告が会の捜査を長年担当していた元警部の銃撃を決め、他の幹部が具体的な計画を立てたとする一審の判断を支持、「元警部に強い憤りを感じており、危害を加える動機があった」とし、襲撃を指示しなかったとする野村被告側の主張を退け、野村被告らに約1,620万円の支払いを命じた1審・福岡地裁判決を支持、被告側の控訴を棄却しています。なお、被告側は1審に続いて和解の意向を示したものの、元警部側との和解は成立していません。
  • 福岡、山口両県公安委員会は、暴力団対策法に基づく工藤会の特定危険指定を1年間延長しています。特定危険指定は全国唯一で、延長は7回目となります。報道によれば、野村悟被告をトップとする組織構造に変化がなく「暴力的要求行為が引き続きあり、今後も継続の恐れがある」と判断したということです。
  • 指定暴力団任侠山口組の拠点の一つとなっている傘下組織「古川組」の事務所について、神戸地裁は、使用を差し止める仮処分を決定しています。暴力団追放兵庫県民センターが昨年10月末、地域住民に代わって神戸地裁に仮処分を申し立てていたもので、報道によれば、仮処分の決定は全国で9件目だということです。なお、兵庫県内では神戸山口組の旧本部事務所と任侠山口組の本部事務所に同様の仮処分が出ています。

さて、首相官邸主催の「桜を見る会」を巡って、政府は、反社会的勢力の定義について、「その時々の社会情勢に応じて変化し得るものであり、限定的・統一的な定義は困難だ」とする答弁書を閣議決定しています。またこの点について、菅官房長官は、「犯罪が多様化しており、定義を固めることは逆に取り締まりを含め、かえって複雑になる」、「逆に定義をすることが難しいのではないか。犯罪の質もどんどん変わっていますから」などと述べています。多くの報道は、「定義が定まらないことで反社会的勢力に対する民間企業の取り組みに混乱が生じるのではないか」、「定義が曖昧になると、言い逃れに使われかねない」、「指定暴力団員はともかく、盃を持たない半グレや特殊詐欺を繰り返す不良グループが活気づくのではないか」といった論調が目立っていますが、筆者は、政府の見解は「正しい」と考えています(ただし、それが「言い訳」や「目眩まし」に使われるのは論外だとのスタンスです。社会的に批判を浴びるような怪しい、グレーな人間を首相官邸が主催する会合に招待する、あるいは会場に入場させるといったことは、本来あってはならず、厳しくチェックすべきと考えています)。

反社会的勢力の捉え方については、まず、社会の要請の厳格化によって、結果として反社会的勢力の不透明化の度合いがますます深まっており、その結果、彼らが完全に地下に潜るなど、いわゆる「マフィア化」の傾向が顕著になりつつある実態をふまえる必要があります。表面的には暴排が進んだとしても、「暴力団的なもの」としての反社会的勢力はいつの時代にもどこにでも存在するのであって、その完全な排除は容易ではありません。だからこそ、企業は、その存続や持続的成長のために、時代とともに姿かたちを変えながら存在し続ける反社会的勢力を見極め(したがって、反社会的勢力の定義自体も時代とともに変遷することも認識しながら)、関係を持たないように継続的に取組んでいくことが求められています。つまり、反社会的勢力を明確に定義することはそもそも困難であるとの前提に立ちながら、暴力団や「現時点で認識されている反社会的勢力(便宜的に枠を嵌められた、限定された存在としての反社会的勢力)」だけを排除するのではなく、「暴力団的なもの」、「本質的にグレーな存在として不透明な反社会的勢力」を「関係を持つべきでない」とする企業姿勢のもとに排除し続けないといけないとの認識を持つことが必要ではないかと考えます。したがって、筆者としては、反社会的勢力を、「暴力団等と何らかの関係が疑われ、最終的には「関係を持つべきでない相手」として、企業が個別に見極め、排除していくべきもの」として捉えていくべきだと以前から主張しています。便宜的とはいえ、反社会的勢力を事細かく定義することによって、「そこから逃れてしまう存在」にこそ、彼らは逃げ込もうとするのであり、このくらいの大きな捉え方をしたうえで、ケースごとに個別に判断していくことこそ、実務においては重要であり、むしろ極めて実務的な捉え方であると強調しておきたいと思います。反社会的勢力の範囲を詳細に定義することが可能になれば、DB(データベース)の収集範囲が明確となり、その結果、DBの精度が向上し、排除対象が明確になり、暴排条項該当への属性立証も円滑に進むであろうことは容易に想像できる一方で、反社会的勢力の範囲の明確化は、反社会的勢力の立場からすれば、偽装脱退などの「暴力団対策法逃れ」と同様の構図により、「反社会的勢力逃れ」を進めればよいことになります。社会のあらゆる局面で、排除対象が明確になっており、DBに登録されている者を、あえて契約や取引の当事者とするはずもなく、最終的にその存在の不透明化・潜在化を強力に推し進めることになると考えられます。その結果、実質的な契約や取引の相手である「真の受益者」から反社会的勢力を排除することは、これまで以上に困難な作業となっていくのは明らかです。つまり、反社会的勢力の資金源を断つどころか、逆に、潜在化する彼らの活動を助長することになりかねず、結局はその見極めの難易度があがる分だけ、自らの首を絞める状況に追い込まれるのです。さらに、反社会的勢力の範囲の明確化を企業側から見た場合、排除すべき対象が明確になることで、「それに該当するか」といった「点(境目)」に意識や関心が集中することになることから、逆に、反社チェックの精度が下がる懸念すらあります。そもそも、反社会的勢力を見極める作業(反社チェック)とは、当該対象者とつながる関係者の拡がりの状況や「真の受益者」の特定といった「面」でその全体像を捉えることを通して、その「点」の本来の属性を導き出す作業です。表面的な属性では問題がないと思われる「点」が、「面」の一部として背後に暴力団等と何らかの関係がうかがわれることをもって、それを反社会的勢力として「関係を持つべきでない」排除すべき対象と位置付けていく一連の作業です。その境目である「点」だけいくら調べても、反社会的勢力であると見抜くことは困難であり(さらに、今後その困難度合が増していくことが予想されます)、全体像を見ようとしない反社チェックは、表面的・形式的な実務に堕する可能性が高いと指摘しておきたいと思います。

反社会的勢力の範囲を明確にすることで、表面的・形式的な暴力団排除・反社会的勢力排除の実現は可能かもしれません。企業実務に限界がある以上、また、一方で営利を目的とする企業活動である以上、最低限のチェックで良しとする考え方もあることは否定しません。しかしながら、既に述べた通り、私たちに求められているのは、暴力団対策法によって存在が認められた暴力団や当局が認定した暴力団員等、あるいは、「現時点で認識されている反社会的勢力(便宜的に枠を嵌められた、限定された存在としての反社会的勢力)」の排除にとどまるのではなく、「真の受益者」たる「暴力団的なもの」、「本質的にグレーな存在である反社会的勢力」の排除であることを忘れてはなりません。反社会的勢力の範囲を明確にすることが、直接的に相手を利することにつながり、対峙すべき企業が自らの首を絞めるとともに、自らの「目利き力」の低下を招くものだとしたら、これほど恐ろしいことはないといえます。

その他、最近の報道から、反社会的勢力を巡る動向等について、いくつか紹介します。

  • 吉本興業の所属芸人が反社会的勢力から金銭を受け取った「闇営業」問題に関連し、同社の「経営アドバイザリー委員会」は、中間取りまとめを吉本興業ホールディングスの大崎洋会長と岡本昭彦社長に提出しています。所属芸人が会社に報告せずに仕事を受けることを全面禁止する、書面による契約締結を徹底するなどとする吉本興業の方針を了承した上で、違反があった際の罰則などルールの明確化を求めています。なお、反社会的勢力排除については、同社の「属性調査体制」に対して同委員会は、「現状の属性調査体制は、わが国の主要企業のそれと比して同等かそれを上回るレベルである。吉本が反社会的勢力の排除に向けた強い覚悟・決意のもとで高レベルの属性調査体制を構築し運用してきている事実については、社会一般にしっかりと周知されるべきである。現に、この属性調査の結果、反社会的勢力との関連性が認められる又はその蓋然性が認められる相手先との取引を未然に防止することができたケースもあり、一定の効果を上げている。一方で属性調査の一般的課題として、反社会的勢力といっても暴力団からいわゆる半グレまで裾野が広がってきており、専門業者の力を借りたとしても、反社会的勢力がどうかの調査には限界があり、また直接的な取引相手先ではなく、間接的に関与する第三者が反社会的勢力である点があげられる。これらの点については、直接の取引先との契約書中に「反社排除表明保証条項」を盛り込むことを徹底することにより、取引相手先と一体となって反社会的勢力が関与する余地を生じさせない体制とすることが有効である。吉本としてはこの方針を採用し、徹底するということであり、その対応方針は了とする」といった報告がなされています。本件については、過去の本コラム(暴排トピックス2019年7月号8月号)で述べたとおり、「やるべきことはやっていたと思う。しかし、芸能界を取り巻く反社リスクが高かった」、「同社が「最大限の努力としてここまでやっていた」と説明責任を果たそうとしていることは理解できるものの、実際のところ、「反社リスクはもっと大きかった」という現実があり、結果的に社会の要請や社会の目線の厳しさを見誤ったこと、リスク評価の甘さが招いた結果である」と筆者は認識しています。つまり、反社リスクはその企業を取り巻く状況や当該企業の立ち位置によって異なるものであり、自らがそのリスクを厳しく評価し、それに見合った十分なリスク対策を講じるべきものであり、社会一般のレベル感と比較することについては違和感を覚えます。また、反社会的勢力の範囲の拡大(不透明化)としての「半グレ」の問題、KYCCの問題について、方向性はよいとしても、具体性に乏しいと指摘せざるを得ません。ただし、この問題は現時点は有効な解がないのも事実であり、本コラムとしても今後も深く考えていきたいと思います。
  • 昨年11月、北九州市でうどん屋を営む元暴力団幹部の男性が地元金融機関の預金口座開設に漕ぎつけたとの報道がありました(令和元年12月13日付ニッキン)。組織を抜けてから4年半、本人は諦めていたということですが、離脱者の社会復帰支援に取り組む警察が動き、報道によれば、口座開設申し込みの場に警察が付き添ったということです。この事例のように、警察が何らかの形で離脱を保証してくれない限り、金融機関がリスク(反社会的勢力に戻るリスクなど)を一方的に取るのは難しいのが現状で、あくまで現時点では例外的な事例といえます。
  • 沖縄県の石垣島最大の歓楽街・美崎町で営業する飲食店が暴力団などからの不当な要求を団結して拒絶しようと、「美崎町みかじめ料等縁切り同盟」を発足させました。報道によれば、縁切り隊は同県内各地で立ち上がっているとのことですが、複数の縁切り隊がまとまった縁切り同盟の発足は県内初だということです。本コラムでもたびたび指摘しているとおり、観光客の急増に伴い石垣島では悪質な客引き行為などが横行し、風俗環境の悪化が懸念されているほか、「半グレ」も進出しているとされます。
  • 東京商工リサーチの記事で、東京弁護士会民事介入暴力対策特別委員会委員長の齋藤弁護士が、「半グレは定義が曖昧だが、新たな反社会的勢力と評価して差し支えなく、準暴力団や(暴力団)偽装離脱者などを含む概念だ。半グレの実態は半分どころか全部グレている」としている点は全くそのとおりであると感じています。「(元構成員などの)社会復帰を阻害している側面があり、半グレを生み出している可能性がある。元暴5年条項は、弾力的に運用することが望ましい」との指摘もそのとおりだと思いますが、一方で、偽装離脱や当該条項とは関係なく反社会的勢力に戻る多くの人間も多数いることにも注意する必要があります。
  • イタリアの検察当局は、マフィアら334人を殺人やマネー・ローンダリングなどの容疑で一斉摘発したと発表しています。報道によれば、摘発規模は過去約30年間で最大だといいます。当局は、伊南部を中心に活動するマフィア「ヌドランゲタ」の弱体化を狙い、警官ら2,500人を動員してヌドランゲタの拠点などを捜索、摘発者の中には、ベルルスコーニ政権下の元国会議員や弁護士、会計士、公務員なども含まれ、約1,500万ユーロ(約18億3,000万円)の資産も押収したといいます。ヌドランゲタは麻薬取引などで近年、シチリアを拠点とするマフィアを上回る勢いで勢力を拡大しています。
(2)特殊詐欺を巡る動向

平成30年における特殊詐欺の認知件数は16,496件で、被害総額は363億9,000万円にも上り、2,686人が摘発され、うち625人が暴力団構成員や周辺者であるほか、警察が「主犯」や現場の「指示役」など中核と認めた容疑者の半数近くが暴力団関係者という実態があります。特殊詐欺対策の重要な柱が暴力団対策でもあり、裏返せば、暴力団の資金獲得活動の制限、資金源枯渇化による弱体化を目指すうえでは特殊詐欺対策が極めて重要だともいえます。したがって、とりわけ、特殊詐欺による被害回復として「暴力団の威力利用資金獲得行為」に対する使用者責任の追及は大きな意味を持つものとなります。前回の本コラム(暴排トピックス2019年12月号)で紹介したとおり、特殊詐欺事案における暴力団対策法上の使用者責任については、下級審の段階で判断が分かれている状況であったところ、直近で、使用者責任を認める東京高裁の判決が出ましたので紹介します。

住吉会系の組員らによる特殊詐欺事件をめぐり、被害に遭った茨城県の女性3人が、住吉会の関功会長と福田晴瞭前会長に計約700万円の損害賠償を求めた訴訟の控訴審判決が東京高裁であり、暴力団対策法上の使用者責任を負うと判断し605万円の支払いを命じています。1審の水戸地裁判決を支持、特殊詐欺で暴力団のトップに暴対法上の使用者責任を適用した高裁判断は初めてとなります。暴力団対策法では、指定暴力団の組員が「暴力団の威力」を利用して(威力利用資金獲得行為によって)他人の生命や財産を侵害した場合、代表者が賠償責任を負うと規定されています。なお、「威力利用資金獲得行為」とは、「当該指定暴力団の威力を利用して生計の維持、財産の形成若しくは事業の遂行のための資金を得、又は当該資金を得るために必要な地位を得る行為」をいいます。これまで、被害者に暴力団だと名乗らない特殊詐欺が「威力行使」に該当するかが主な争点となっており、前述のとおり、水戸、東京両地裁であった4件の判決は結論が割れています。本件も組員らは被害者をだました際には暴力団員を誇示していなかったものの、報道によれば、東京高裁判決では、「(威力行使は)資金獲得行為自体に威力を使うだけでなく、共犯者集めなど実行過程で用いる場合も含む」と指摘したうえで、グループを主導した組員は暴力団の威力を示して「受け子」などを集めており、会長らに使用者責任が生じると判断したというものです。今回の高裁判決以降も3つの裁判についても東京高裁の判断が待たれるところ、暴力団の資金獲得活動に打撃を与えうるものと期待したいところです。なお、参考までに、1審で使用者責任が否定されているケースにおける東京地裁の判断は以下のとおりであり、高裁がどう判断するのか注目されます。

  • 住吉会系組員らによる特殊詐欺の被害者が、組員と住吉会最高幹部ら8人に1,950万円の損害賠償を求めた別の訴訟の判決で、東京地裁は、実行犯の組員に1,100万円の賠償を命じています。一方、幹部ら7人への請求は棄却、「詐欺に暴力団の影響力が使われたとは認められない」と判断しています。報道によれば、判決では、「組員が共犯者をどのように手配し、管理・統制していたか明らかではない」などとして幹部らの責任を否定したほか、「組員が住吉会の資金獲得のため詐欺を行った証拠はない」として、従業員らの不法行為の責任を雇用主らが負うとする民法の「使用者責任」の成立も否定しています。組員の男は詐欺グループの中心人物に受け子を紹介しているものの、その人物と住吉会側との関係も明らかでないこと、詐取された金が住吉会側の収益となった証拠もないことなどから、「組員の男が住吉会の事業として詐欺行為をしたとは認められない」と結論づけています。
  • 稲川会系組員らによる特殊詐欺事件の被害に遭った70代の女性が、稲川会の辛炳圭(通称清田次郎)元会長に2,150万円の損害賠償を求めた訴訟の判決で、東京地裁は、「詐欺は稲川会の威力を利用した資金獲得行為とは認められない」などとして、暴力団対策法と民法の両面で使用者責任を認めず、請求を棄却しています。組員が詐欺に使う携帯電話などをどう準備したかは明らかでなく、稲川会が協力したと認められる証拠もないと指摘、共犯者に暴力団組員であることを示した証拠もないとして、稲川会の威力を利用したとはいえないと判断しています。さらには、詐取金が稲川会の収益になった証拠もないとして、民法上の使用者責任も否定しています。

以前の本コラム(暴排トピックス2019年7月号)で紹介した、犯罪対策閣僚会議で決定した「オレオレ詐欺等対策プラン」が効果を発揮し始めています。そもそも本プランは、特殊詐欺に、IP電話などの固定電話が悪用されるケースが多発していることから、特殊詐欺グループに電話番号を販売する悪質な「電話再販業者」の規制に乗り出すというもので、警察などが大手通信事業者に協力を要請し、悪質な再販業者が大手事業者と新規の番号契約をできなくしたり、詐欺に使われたことが判明した番号を利用停止にしたりする取り組みをはじめたものです。電気通信事業法の運用を見直し、「特殊詐欺への悪用」もサービス提供を拒否できる正当な理由に当たると位置付ける画期的なものといえます。被害者の多くは自宅にかかってきた電話でだまされていること、警察が把握した特殊詐欺の番号のうち8割が、アナログ回線やIP電話といった固定電話の番号だったこと、番号は市場で売買され、犯行グループ側が電話転送サービスを多用するなどしていることなどから、利用者の特定は容易ではないところ、これまで通信事業者は固定電話を「ユニバーサルサービス」、重要な社会インフラと位置付けており、料金未払いなどがない限り、サービスを止めていないのが現状でした。「社会インフラ」だからやむをえない(不作為)のではなく、害悪が生じているからこそ「犯罪インフラ」化を阻止すべく、できるところから進めていくとのスタンスにようやく転換できたことは特筆すべきことだといえます(時間はかなりかかりましたし、これまでたくさんの被害を生じさせてきましたが)。

さて、本件について、直近報道によれば、特殊詐欺に使われた固定電話番号について、警察からの要請に基づき通信事業者が利用停止にした件数が、制度の運用を始めた9月から11月末までに約670件に上るということです。新たな制度は各都道府県警が詐欺に利用された固定電話番号に警告を発信した上で、利用が続いた場合には通信事業者に通知する仕組みで、事業者は速やかに番号を停止し、契約者の情報を警察に提供するというスキームとなっています。

▼首相官邸 犯罪対策閣僚会議(第32回)
▼資料3 「オレオレ詐欺等対策プラン」に基づく取組状況

1.被害防止対策の推進

  • 幅広い世代に対して高い発信力を有する著名な方々による「ストップ・オレオレ詐欺47~家族の絆作戦~」プロジェクトチーム(略称:SOS47)と連携した広報啓発イベントを全国19か所で開催
  • 政府広報として、SOS47広報啓発動画等に係るテレビCM(7月8~21日、全国43局)、Yahoo!Japanトップページのバナー広告(7月8~21日)、新聞各紙のテキスト広告(7月1~14日、22日~28日、8月5~11日)を実施
  • 各府省庁において、警察庁ウェブサイトのSOS47広報啓発動画掲載ページへのリンクバナーをHPに掲載したほか、関係機関・団体・企業等に対し、広報啓発への協力を依頼
  • 高齢者の被害防止に向け、医療機関等、高齢者と接する機会の多い事業者に対し協力を依頼したほか、老人クラブ連合会において全国の老人クラブへチラシを配布
  • 教育現場を通じた被害防止のための取組の推進に向け、文部科学省から各都道府県教育委員会等に対して広報啓発を依頼(R元.8)
  • 高齢者の被害防止に向け、消費者庁において関係要綱を改正し、通話録音機能を有する機器が地方消費者行政強化交付金の支援対象であることを明確に(R元.8)
  • 金融機関やコンビニエンスストアとの連携の下での未然防止により、約4,400件、約38億円の被害を防止(R元.10末現在)

2.犯行ツール対策の推進

  • 警察からの要請に基づき、主要通信事業者が犯行に利用された固定電話番号を利用停止する取組をR元.9から開始(11月末までに約670件の利用停止を実施)
  • 犯罪収益移転防止法上の取引時確認等の義務違反に係る契約の多くが特殊詐欺に利用された疑いがある場合に総務省が行う是正命令など、特定事業者への指導監督を強化
  • 警察から事業者に対して、犯行に利用された携帯電話の契約者確認の求めを約1,500件(R元.11末現在)実施するなど、犯行利用携帯電話のサービス停止を推進
  • 警察において、特殊詐欺に利用された約7,800件の預貯金口座の凍結依頼を実施(R元.11末現在)したほか、金融庁等において、犯罪に不正利用されている疑いのある預金口座について関連金融機関に情報提供を実施

3.効果的な取締り等の推進

  • 検挙状況(R元.11末現在)検挙人員:2,638人、拠点摘発:41か所携帯電話不正売買等の助長犯:2,599人
  • 暴力団や暴走族等、特殊詐欺の背後に存在する犯罪者グループを検挙
  • 中枢被疑者の検挙による組織の壊滅を推進(中枢被疑者検挙人員:R元.11末現在54人)

4.成果と今後の課題

  • 各種取組の推進により、被害状況は改善傾向(R元.11末現在、括弧内は昨年同時期との増減状況)【認知件数:15,392件(▲852件、▲2%)、被害総額:273.8億円(▲67.6億円、▲19.8%)】
  • しかしながら、依然として高水準の被害が発生しているほか、キャッシュカードをすり替えて窃取する手口等新たな手口が見られることから、引き続きプランに掲げられた対策を推進していく

さて、画期的な内容を含む「大分県特殊詐欺等被害防止条例」が制定されています(施行は令和2年4月1日)。特殊詐欺被害を防ぐため、事業者が企業の顧客リストなどの個人データを第三者に提供する際、公的証明書に基づく本人確認を義務づけることや、全ての企業が従業員やその家族に被害防止の注意喚起を行うこと、アパートなどを借りる人に「特殊詐欺に利用しない」との誓約書を書いてもらうことを所有者に求める等の努力義務を課し、県も「被害者が財産及び心身に重大な被害を受けていることを理解し、被害回復のための措置等に関し、相談、助言その他必要な支援を行う」ことまで明記しています。特殊詐欺の防止策を定めた条例は全国で制定されていますが、とりわけ、カウンセリングを受けられる機関の紹介や捜査状況の説明、被害金回復に向けた助言など幅広い支援策を含む条例は都道府県レベルで初めてだということです。特殊詐欺等対策に資すると思われる事業者の責務等も具体的に定められており、(かつての暴排条例のように)全国に同様の条例制定の動きが広がり、「点」から「面」へと対策の質がさらに向上することを期待したいと思います。

▼大分県特殊詐欺等被害防止条例 本文
▼大分県特殊詐欺等被害防止条例(仮称)骨子案

本条例の内容が充実していることから大変参考になると思われますので、以下、公表されている骨子案を以下に紹介します。

1.条例の目的

  • この条例は、特殊詐欺等の被害が深刻な社会問題となっていることに鑑み、特殊詐欺等の被害の防止に関し、(1)県、県民及び事業者の責務を明らかにする(2)それぞれが連携及び協力の下に官民一体となった取組を推進する(3)必要な措置を講ずることにより、特殊詐欺等の被害から県民を守り、もって安全で安心な県民生活の確保に寄与することを目的とする。

2.オール大分による総合的な対策/青少年対策

  • 特殊詐欺等の定義
  • 特殊詐欺の他、騙しの電話を架けるなど犯行の大部分で手口が共通する、特殊詐欺と同視し得る窃盗、いわゆるアポ電強盗、類似手口の恐喝も条例の対象とする
  • 特殊詐欺等の根絶に向けた施策の推進
  • 県は、特殊詐欺等の根絶に向けた施策を総合的かつ計画的に推進するものとする
  • 県は、市町村の施策や県民、事業者が行う自主活動等に必要な協力、支援を行う
  • 県は、特殊詐欺等の根絶に向けた社会気運を高め、県民等の関心・理解を深めるなど、被害防止等に効果的な広報啓発活動を行うものとする
  • 県は、被害防止のため、必要に応じて、市町村や県民、事業者に対し、発生状況、手口その他被害防止に有意な情報を提供するものとする(例:まもめーる等)
  • 県は、被害者が財産及び心身に重大な被害を受けていることを理解し、被害回復のための措置等に関し、相談、助言その他必要な支援を行うものとする
  • 特殊詐欺等の根絶に向けた県民及び事業者等の努力義務
  • 県民は、被害防止に関する知識、理解を深め、家族及び地域住民との間で相互に注意を喚起し、必要な予防対策に取り組むなど、身近な者が特殊詐欺等の被害に遭わないよう努めるものとする(例:迷惑電話防止機能付き電話機の導入等)
  • 県民は、県及び市町村が実施する施策に協力するよう努めるものとする
  • 事業者は、被害防止に関する知識、理解を深め、県及び市町村が実施する施策並びに県民等が組織する団体が実施する自主的な活動に協力するよう努めるものとする
  • 事業者は、事業活動が特殊詐欺等の手段に利用されないための措置を講ずるよう努めるものとする
  • 事業者は、従業者及びその家族が被害に遭わないよう注意を喚起するものとする
  • 青少年の育成に携わる者は、青少年やその家族の被害防止、青少年の犯行加担防止のため、青少年に対し指導・助言等をするよう努めるものとする
  • 特殊詐欺に関する通報等
  • 県民は、自己又は家族等が特殊詐欺等と疑われる電話や電子メール、郵便物等を受けたときや、特殊詐欺等の被害に遭い、又は遭いかけていると認められる者を発見した時は、警察に通報するよう努めるものとする
  • 事業者は、事業活動において、被害に遭い、又は遭いかけていると認められる者を発見した時は、警察に通報するとともに注意喚起を行い、特殊詐欺等を行っていると思われる者を発見したときも警察に通報するよう努めるものとする

3.犯行拠点(アジト)対策

  • 何人も、特殊詐欺等の犯行拠点への利用を知りながら建物を貸してはならない(不動産業者は当該事情を知って賃貸契約の代理又は媒介をしてはならない)
  • 建物の賃貸をしようとする者は、賃貸契約前に相手方から特殊詐欺等に利用しない旨の誓約書を徴し、契約時には、特殊詐欺等への利用が判明した場合に催告することなく契約解除できる等の特約を設けるよう努めるものとする(不動産業者は、建物を賃貸しようとする者に対して助言するよう努めるものとする)
  • 建物の賃貸をした者は、建物の特殊詐欺等への利用が判明したときは、警察に通報するなどし、警察官と連携しつつ、建物の明け渡しを求めるよう努めるものとする
  • 旅館営業者等は、特殊詐欺等への利用を知りながら宿泊させてはならない
  • 旅館営業者等は、特殊詐欺等への利用が判明したときは、警察に通報するなどし、警察官と連携しつつ、宿泊施設からの退去を求めるよう努めるものとする

4.荷電先リスト(名簿)対策

  • 何人も、特殊詐欺等の用に供されるおそれがあることを知りながら、個人情報(特殊詐欺等に利用されるおそれがある情報に限る)を第三者に提供してはならない
    • 当該個人情報の利用による被害発生のおそれ→事実の公表
  • 個人情報取扱事業者は、個人情報保護法第25条の手続(記録作成義務)による個人データの第三者提供のときは当該第三者を公的証明書で確認しなければならない。ただし、既に提供先を確認している場合又は平素の交際や提供理由等の事情により確認しないことに合理的理由がある場合を除く(偽名、架空会社の排除)
  • 公的証明書での確認を求められた第三者は正当な理由なく拒んではならない
  • ※「履行状況の調査」→「違反に係る勧告」→「悪質な業者の公表」
  • 警察本部長は、特殊詐欺等の捜査等を通じて、個人情報保護法の義務規定に違反する事業者を把握し、特殊詐欺等の被害防止のために必要と認められる場合は、個人情報保護委員会に対し、処分又は行政指導をするよう求めるものとする→処分等を求めた旨の公表

次に、例月通り、平成31年1月~令和元年11月の特殊詐欺の認知・検挙状況等についての警察庁からの公表資料を確認します。

▼警察庁 令和元年11月の特殊詐欺認知・検挙状況等について

平成31年1月~令和元年11月の特殊詐欺全体の認知件数は15,392件(前年同期16,244件、前年同期比▲5.2%)、被害総額は273.8億円(341.4億円、▲19.8%)となり、認知件数・被害総額ともに減少傾向が継続しています。なお、検挙件数は6,126件となり、前年同期(5,160件)から+18.7%と昨年を大きく上回るペースで摘発が進んでいます(参考までに検挙人員は2,638人と昨年同期(2,618人)から+0.8%とほぼ横ばいとなりましたが、全体の件数が大きく減少している中、摘発の精度が高まっていると評価できると思います)。また、昨年6月から新たに統計として加わった「特殊詐欺(詐欺・恐喝)」と「キャッシュカード詐欺盗(特殊詐欺(窃盗))」の2つのカテゴリーについても確認します。あらためて、「特殊詐欺(詐欺・恐喝)」とは、「オレオレ詐欺、架空請求詐欺、融資保証金詐欺、還付金等詐欺、金融商品等取引名目の特殊詐欺、ギャンブル必勝法情報提供名目の特殊詐欺、異性との交際あっせん名目の特殊詐欺及びその他の特殊詐欺を総称したものをいう」ということですので、従来の「振り込め詐欺」となりますが、「キャッシュカード詐欺盗(特殊詐欺(窃盗))」とは、「オレオレ詐欺等の手口で被害者に接触し、被害者の隙を見てキャッシュカード等を窃取する窃盗をいう」とされ、最近の本手口の急増が反映された形となります(なお、「キャッシュカード詐欺盗」との呼称は先月初めて登場しています)。その特殊詐欺(詐欺・恐喝)については、認知件数は12,018件(15,084件、▲20.3%)、被害総額は227.4億円(325.3億円、▲30.1%)と、特殊詐欺全体の傾向に同じく、認知件数・被害総額ともに大きく減少する傾向が続いています(なお、検挙件数は4,715件(4,802件、▲1.8%)、検挙人数は2,219人(2,483人、▲10.6%)とやはり同様の傾向となっています)。また、キャッシュカード詐欺盗(特殊詐欺(窃盗))の認知件数は3,329件(1,160件、+187.0%)、被害総額は46.4億円(16.1億円、+188.2%)、検挙件数は1,411件(358件、+294.1%)、検挙人員は419人(135人、+210.4%)と、正に本カテゴリーが独立した理由を数字が示す形となっています。

類型別の被害状況をみると、まずオレオレ詐欺の認知件数は6,134件(8,346件、▲26.5%)、被害総額は62.0億円(117.7憶円、▲47.3%)と、認知件数・被害総額ともに大幅な減少傾向が続いています(2月以降、増加傾向から一転して減少傾向に転じ、ともに大幅な減少傾向が続いています。なお、検挙件数は3,023件(3,164件、▲4.5%)、検挙人員は1,530人(1,766人、▲13.4%)となっています)。また、架空請求詐欺の認知件数は3,207件(4,446件、▲27.9%)、被害総額は79.0億円(110.3億円、▲28.4%)、検挙件数は1,246件(1,172件、+6.3%)、検挙人員は581人(577人、+0.7%)、融資保証金詐欺の認知件数は297件(376件、▲21.0%)、被害総額は4.4億円(5.5億円、▲19.2%)、検挙件数は85件(163件、▲47.9%)、検挙人員は26人(28人、▲7.1%)、還付金等詐欺の認知件数は2,299件(1,752件、+31.2%)、被害総額は29.0億円(20.7億円、+40.0%)、検挙件数は296件(175件、+69.1%)、検挙人員は30人(46人、▲34.8%)となっており、特に還付金等詐欺については、認知件数・被害総額ともにいったん減少傾向が続いていたところ、今年に入って一転して大幅に増加しており、今後の動向に引き続き注意する必要があります。

なお、それ以外の傾向としては、特殊詐欺全体の被害者の年齢別構成について、60歳以上88.3%・70歳以上75.7%、性別構成については、男性25.3%・女性74.7%となっています。参考までに、オレオレ詐欺では、60歳以上98.3%・70歳以上94.4%、男性13.9%・女性86.1%、融資保証金詐欺では、60歳以上38.6%・70歳以上13.9%、男性79.8%・女性20.2%、還付金等詐欺では、60歳以上90.6%・70歳以上54.8%、男性34.2%・女性65.8%などとなっており、類型別に傾向が異なっている点に注意が必要であり、以前の本コラム(暴排トピックス2019年8月号)で紹介した警察庁「今後の特殊詐欺対策の推進について」と題した内部通達で示されている、「各都道府県警察は、各々の地域における発生状況を分析し、その結果を踏まえて、被害に遭う可能性のある年齢層の特性にも着目した、官民一体となった効果的な取組を推進すること」、「また、講じた対策の効果を分析し、その結果を踏まえて不断の見直しを行うこと」が重要であることがわかります。なお、犯罪インフラの検挙状況としては、口座詐欺の検挙件数は867件(1,222件、▲29.1%)、検挙人員は523人(674人、▲22.4%)、盗品譲受けの検挙件数は10件(3件、+233.3%)、検挙人員は8人(2人、+300.0%)、犯罪収益移転防止法違反の検挙件数は2,244件(2,355件、▲4.7%)、検挙人員は1,841人(1,917人、▲4.0%)、携帯電話端末詐欺の検挙件数は262件(290件、▲9.7%)、検挙人員は192人(229人、▲16.2%)、携帯電話不正利用防止法違反の検挙件数は49件(38件、+28.9%)、検挙人員は35人(38人、▲7.9%)などとなっています。

次に、最近の特殊詐欺に関する報道等から、いくつか紹介します。これらを見れば、犯行の手口が多様化・高度化していること、人間の心理を巧みに突いていることがよくわかり、大きな危機感を覚えます。

  • 全国で相次ぐ特殊詐欺被害を防ごうと「だまされんのじゃ岡山県・県民運動」を展開している岡山県警が、逮捕された詐欺グループの「受け子」から押収した「受け子マニュアル」を公開しています(令和元年12月31日付毎日新聞)。公開されたのは、匿名性の高い通信アプリを使った詐欺グループと受け子のやり取りで、必要な持ち物や、詐欺のストーリーが詳細に記されています。その一部を紹介します。

【必要な持ち物】

・ネームホルダー・マスク・モバイルバッテリー
・充電器、充電ケーブル・マイク付きのイヤホン
・二重封筒10枚以上・ポイントカード×15位・スティックのり
・セロハンテープ・小さなハサミ・手のひらサイズのメモ帳
・ボールペン・白手袋

【仕事の流れ】

  • 警察官約のアポの方が個人宅に電話してお金の被害が出ていますと言います
  • 直ぐにキャッシュカードを止める手続きと被害者を救済する【お金が戻ってくる手続き】被害者救済法に申請しましょうねと話します
  • 同意がもらえた客に実際に手続きしにいくのが今回お願いしていますレジストリマークのお仕事です。【電話で戦闘とも言います】
  • 実際の手続き内容は、封筒にキャッシュカードを入れて、数日間使わない・・・
  • 国民生活センターでは、毎年、消費者問題として社会的注目を集めたものや消費生活相談が多く寄せられたものなどから、その年の「消費者問題に関する10大項目」を選定し、公表していますが、2019年は、改元に便乗した消費者トラブル、無登録業者とのバイナリーオプション取引などの「もうけ話」のトラブルが若者を中心に増加したほか、SNSが関連している相談が多く寄せられる年となりました。以下に紹介します。
▼国民生活センター 消費者問題に関する2019年の10大項目
  • 若者を中心に広がる「もうけ話」のトラブル
  • ネット関連の相談は年齢問わず SNSがきっかけになることも
  • 架空請求に関する相談引き続き 新しい手口も
  • 高齢者からの相談 依然として多く
  • なくならない子どもの事故 死亡事故も
  • チケット不正転売禁止法施行 相談件数は5倍以上に
  • 「アポ電」と思われる不審な電話相次ぐ
  • 改元に便乗した消費者トラブル発生
  • キャッシュレス化が進む 関連したトラブルも
  • 各地で自然災害発生 国民生活センターでも被災地域の支援行う
  • 「国民消費生活組合」その他の団体名を名のり「有料サイトの登録料金が未払いになっており、放置すると訴訟履歴がマイナンバーに登録される」などとして、業者への連絡を求める不審なメールが送付されているとして、消費者庁は、「マイナンバーの利用範囲は法律で決められており、マイナンバーから訴訟履歴が明らかになるようなことはありません。このようなメールが送られてきても開封せず、記載されているアドレスのウェブサイトにアクセスしたり、相手に連絡を取ったりしないでください」とする注意喚起を行っています。
▼消費者庁 「国民消費生活組合」等の団体名を名のる 「訴訟履歴がマイナンバーへ登録されます」 という内容の不審なメールに御注意ください

相談事例と紹介されているものは、「【重要】国民消費生活組合より大切なお知らせ【重要】」というタイトルの不審なメールが届いた。このメールには、「【重要】マイナンバーに関わる大切なお知らせの為、必ず最後までお読み頂けます様お願い申し上げます。※個人情報保護法に基づき、第三者による貴方様の氏名・住所・電話番号・マイナンバー等の閲覧を防ぐ為、本電子文書へは非公開と致します。」と書かれており、有料サイトの登録料金が未払いとなっているため、民事訴訟の手続の関係で連絡を求める、というもので、このメールにはさらに、「【マイナンバーに関する注意】民事訴訟及び刑事訴訟の被告人(訴えられた側)となられた方は、訴訟履歴がマイナンバーへ登録されます。訴訟履歴がマイナンバーへ登録されますと今後一切記録を消すことが出来なくなります。」と書いてあるということです。

  • 大阪府警捜査2課は、府内の80代の夫婦が息子をかたる「オレオレ詐欺」で現金約1,000万円をだまし取られたと発表しています。報道によれば、夫婦は金融機関から出金する際、通報を受けた警察官から思いとどまるよう説得されたものの、実の息子と声が似ており信じ切ってしまったということです。不審に思った金融機関職員が警察署に通報、署員3人が店に駆け付けて説得に当たったものの、夫婦は「夫の病気の治療費だ。不審な電話もなかった」などと話し、現金をそのまま引き出したというものです。特に高齢者(さらには女性)を中心とする特殊詐欺被害者においては「自分は騙されるはずがない」という「確証バイアス」が強く働き、「騙されていない事象」だけを信じようとする傾向が強まる(騙されていることを認めたくないがゆえに他人のアドバイス自体を排除する傾向が強まる)ことが知られています。銀行員や警察などの第三者からの説得は、確証バイアスに囚われた被害者からすれば「嘘」にしか聞こえない状況であることもふまえ、本人だけでなく家族も巻き込んで説得に当たるといった取り組みが重要ではないかと考えます。
  • 千葉県浦安市は、副業の振込先として知らせた銀行口座を詐欺に利用された消防署消防士の男性主事を停職4カ月の懲戒処分にしたと発表しています。報道によれば、20代のこの主事は、業務中にSNSで副業としてのアルバイト先を無許可で探していたところ、接触した東京都内の個人から手数料の振込先として必要と求められ、自身の銀行キャッシュカードと、暗証番号を記した用紙を送付したところ、口座が詐欺に利用されることとなり、県警の取り調べを受けたというものです。「業務中に副業を探す」行為自体も問題ながら、安易に「口座情報+暗証番号を書いた紙を送付する」行為自体に唖然としてしまいます。社会人としてこのような基本的なことからきちんと教育・研修をしていくことが重要であると、あらためて実感させられます。
  • 全国銀行協会の職員などを名乗り、高齢女性からキャッシュカードをだまし取ったとして、大阪府警捜査2課などは、窃盗容疑で、タイ国籍の容疑者を逮捕しています。容疑者は、SNSを通じて詐欺グループの受け子の募集に応じたとされ、報道によれば、子供のころに来日して永住者の資格があり、日本語も堪能だったといいます。相手とのコミュニケーションが重要な「受け子」の分野にも外国人が関与するようになっている点には今後も注意が必要です。
  • 突然、謎の番号を伝えられ、加害者に仕立てられた挙げ句に現金1,300万円をだまし取られるという事例がありました。埼玉県警川口署は、川口市内の80代の無職の女性が特殊詐欺の「かけ子」とみられる男から伝えられた「番号」を第三者に教えたことから、詐欺事件に巻き込まれる被害に遭ったというものです。報道(令和元年12月24日付産経新聞)によれば、「「日本再生機構」という架空の団体の職員を名乗る男から「番号を伝えるから、誰にも言わないでほしい」との電話があり、その後、別の団体職員を名乗る男から「番号を教えてほしい」と電話で迫られた。女性が番号を漏らした直後、「日本再生機構」を装った男の上司を名乗る者から「あなたが言ってはいけない番号を伝えたので、先方が大気汚染浄化装置を買ってしまった」などとして弁償費用の現金700万円を要求された。その後も連日、「団体職員が逮捕されたので保証金を払ってほしい」などと電話があった」という手口が紹介されています。かなり手の込んだ手口であり、今後も注意が必要です。
  • 以前も本コラムで紹介しましたが、NHK名古屋放送局の委託を受け、契約や集金の業務を担当していた委託先の社長が、契約者23人分の個人情報を男に漏洩したとして起訴されています(当該情報が特殊詐欺に悪用されたといいます)。名簿には生年月日などの情報はなかったものの、住所や氏名などから高齢者かどうか判断していたとみられ、「NHKから貸与された端末で高齢者の多い市営住宅の契約者情報をダウンロードし、氏名や住所を男に伝えた」と述べています。
  • 息子などを装い、「果物を送ったよ」といった内容の電話を受け、現金をだまし取られる特殊詐欺の被害が今秋以降、千葉県内で相次いでいるといいます。子どもから果物を送ると言われて気が緩む親の心理につけ込んだ巧妙な手口で、報道で県警が、被害に遭わないために、「果物を送ると電話で言われた後にお金や小切手の話をされたら詐欺を疑い、話を信じる前に子どもに電話して確認してほしい」と述べていますが、前述した「確証バイアス」の問題とあわせ、「子どもにこちらから確実に連絡をとって事実を確認する」ことが極めて重要だと認識させられます。この点についても、もっと徹底的に周知していくことが必要だと思われます。
  • 福島県警郡山署は、特殊詐欺グループの「受け子」兼「出し子」とみられる栃木県小山市の16歳の無職の少年を窃盗容疑で再逮捕しています。報道によれば、「金もうけができるとインターネットで知り、アルバイトでやった」と容疑を認めているということです。警察官を装って男性方を訪れ、男性と妻名義のキャッシュカード計5枚が入った封筒を別の封筒にすり替えて盗み、小山市と東京都内のATMで約560万円を引き出したものです。少年の特殊詐欺への関与が問題となっていますが、若者と特殊詐欺を結ぶ「SNS」の犯罪インフラ性、「軽い気持ち」と抵抗感を和らげてしまうSNSの特性など若者とSNSの親和性にはやはり注意が必要です。
  • 埼玉県警草加署は、同県八潮市に住む70代の男性からキャッシュカードを盗み取ったとして、窃盗の疑いで、名古屋市に住む私立高校2年の男子生徒(16)を逮捕しています。報道によれば、詐欺グループで金品を受け取る「受け子」役とみられ、「割り印をするので印鑑を用意して」と言って被害者の注意をそらしていたといいます。なお、本件は、スーツを着た男子生徒がATMを利用しているのを警戒中の警察官が見て声を掛け、発覚したといい、警官のリスクセンスの高さが摘発につながったという点も注目したいところです。
  • 前述したとおり、「医療費が還付される」という作り話を持ちかけてATMに現金を振り込ませる「還付金詐欺」が東京都内を中心に急増しています。以前からある手口であるものの、特に「無人のATM「が使われているケースが目立つという点で注意が必要です(無人ATMの犯罪インフラ化)。報道(令和元年12月21日付毎日新聞)によれば、オレオレ詐欺などの手口の被害は減っている一方で、詐欺グループが被害者や金融機関職員らと接触しない方法に目を付けて被害が集中している可能性があり、警察が警戒を強めているといいます。さらに、還付金詐欺の誘い文句など手口に大きな変化はないものの、被害が急増している背景にあると考えられることとして、「都心部のATMの多さ」と「犯人側の警戒心」を指摘しています。都内の今年上半期の被害件数の76%は無人のATMが使われていたといい、「徒歩圏内に複数のATMがある地域が多く、詐欺グループにとっては短時間で金を振り込ませることができる」利便性が悪用されているようです。さらには、「金融機関ごとの対応マニュアルがあるようだ。誘導したATMで残高を確認させることで被害額も増える傾向にある」と捜査関係者が述べていますが、特殊詐欺グループの人間の心理等を巧みに突く手口、摘発を逃れるための手口の高度化等の実態には空恐ろしさを感じます。
  • マレーシアを拠点にした国際詐欺組織が偽造クレジットカードを使い、日本国内で大量に商品を購入して詐取した疑いが強まったとして、大阪府警が本格的な捜査に乗り出すとの報道がありました(令和元年12月21日付毎日新聞)。大阪府警は東京と大阪にあるカード偽造拠点を統括するリーダー格の男を逮捕しましたが、本コラムでもたびたび取り上げているように、偽造カードに絡んでマレーシア人が逮捕される事件は全国で相次いでおり、現地の詐欺拠点を摘発した例はまだないことから、今後の展開を期待したいと思います。近年、短期滞在ならビザ(査証)がなくても来日できるようになったことや、偽造が難しいICカードに比べて日本では不正が容易な磁気式のカードが普及していることが背景にあると考えられています。このあたりは本コラムでも以前から「犯罪インフラ」として問題点を指摘していたところです。

最後に、最近の報道等から、特殊詐欺対策の取り組み事例をいくつか紹介したいと思います。

  • 熊本県警は「振り込め詐欺」の名称を1月から「電話で『お金』詐欺」に変更し、県民への啓発活動で使い始めるということです。報道によれば、新たな名称には、「電話」で「お金」の話が出てきたときには、詐欺に注意してほしいとの意味が込められているといいます。名称変更の背景には、詐欺の手口が多様化し、「振り込め詐欺」の名称が実態と一致していないケースが増えたことがあるといいますが、過去も「母さん助けて詐欺」(警視庁)と名称を変更して啓蒙を図ろうとしたものの普及しなかった例もあります。個人的には、特殊詐欺の被害や手口・名称が浸透していないのではなく、予期しないタイミングで電話がかかってきて、冷静に判断する間もないまま、確証バイアス等によって犯行に巻き込まれてしまうとの「被害にあうメカニズムにどう抗うか」が問題の本質であるはずで、名称の如何ではなく、問題の本質をふまえた対策の周知徹底をお願いしたいところです。
  • 愛知県警は、詐欺グループが現金受け取り役の「受け子」などをツイッターで勧誘していると分析、募集とみられる投稿に返信し、警告する取り組みを続けています。報道(令和元年12月29日付時事通信)によれば、募集とみられるツイートには「受け出し」、「運び屋」といった隠語や「闇バイト」などのハッシュタグが使われ、簡単に金が稼げるかのように誘っているといい、県警の返信は、応募しようとする若者らに監視の目を意識させる狙いがあるとされます。返信は約4カ月間で2,000件を超えたということですが、隠語も変化したり、ツイッター以外のSNSに移行するといった可能性も考えられるところ、いずれ「抑止」という成果につながる取り組みであると評価でき、地道に継続し続けることが重要だと思います。
  • コンビニが特殊詐欺被害を未然に防ぐ事例が相次いて紹介されています。前回の本コラム(暴排トピックス2019年12月号)でも紹介し、「これらの事例からは、もちろん当事者のリスクセンスの高さはいうまでもないものの、コンビニにおいて特殊詐欺に関する教育がしっかりなされていることを感じられること(平素からの教育研修の重要性)、店舗内のコミュニケーション(情報共有)が重要であること、躊躇することなく通報できる警察との良好な関係などがその背景にあるものと推測されます」と指摘しました。直近でも、令和元年12月21日付毎日新聞では、「今年に入って4回、特殊詐欺の被害を防いだコンビニエンスストアが高知県佐川町にある。過去の被害事例を従業員たちが学び、被害に遭いそうな客には積極的に声を掛けた」という事例が紹介されています。やはり、特殊詐欺被害を第三者が防ぐポイントは、「リスクセンス」「教育」「情報共有」「勇気」といったところになります。
  • 特殊詐欺を未然に防いだとして愛媛県警松山東署は、愛媛銀行本店営業部の2人に感謝状を贈っています。報道によれば、「キャッシュカードが使えないようなので、新しい口座を作りたい」と松山市の80代女性から依頼を受けた窓口担当者が詳しく話を聞いたところ、同市職員を装った男から女性宅に電話があったと判明、「未払いの還付金があるので入金したいが口座が使えない」との内容を不審に思った担当者は上司に報告、その後、同署に連絡して特殊詐欺と判明、女性は、すでに口座番号や暗証番号を伝えていたといい、間一髪で被害を逃れたということです。本件も、前述したコンビニの事例同様、「リスクセンス」「教育」「情報共有」「勇気」が被害を未然に防いだ事例だといえます。
(3)薬物を巡る動向

令和元年における薬物を巡る動向としては、インターネット・SNSを介した売買の増加、大麻を中心に若年層への浸透の深刻化、大麻の違法栽培の普及、多数の芸能人の摘発、流通する薬物の多様化、暴力団の関与等による大規模密輸化等があげられます。そして、これらの傾向は本年もより深刻さを増していくことが予想され、一方で相変わらず暴力団等の犯罪組織の資金源となっていることから、本コラムでもその動向については厳しく注視していきたいと思います。

令和元年12月30日付日本経済新聞で「薬物使用唆すネット投稿増加19年上半期通報最多」という記事が掲載されており、それによると、「2019年上半期(1~6月)に警察庁の委託先に寄せられた投稿についての通報は333件で過去最多だった。投稿先の9割超は国内の法律の規制が及ばない海外サイトという。日本からの削除の要請に応じないサイトが多く、警察当局は対応に苦慮している」といった実態が指摘されています。さらに、「ネット上では警察の摘発を警戒して直接的な表現を避け、覚醒剤を「S(エス)」、合成麻薬「MDMA」を「罰(バツ)」などと隠語で表現。購入方法を紹介したり共同使用を誘ったりする」、「海外の運営者の場合、日本の法律に基づいて違法な投稿を削除させるのは難しい。警察の要請に応じる運営者も一部にはいるが、日本語で薬物体験ツアーを呼びかけるなど多くの違法な投稿が放置されたままになっている」といった唆しの具体的な方法や摘発の難しさも指摘されています。また、「投稿の場所は匿名掲示板だけでなく、最近はSNS(交流サイト)にも拡大している。ネットを通じた違法薬物の売買は密売人に会わずに済む。このため買い手の心理的ハードルが下がり、犯罪組織と無縁だった一般社会の層が違法薬物に手を出すことも容易にしている」こと、「一方、誰でも見られる一般のサイトとは異なり、匿名化ツールを使ってアクセスする「ダークウェブ」にも薬物の取引を持ちかける投稿が多数ある。薬物を売買する場合、暗号資産(仮想通貨)で決済されることも多く「資金の流れの解明は簡単ではない」(警察当局)」といったSNSやダークウェブ・暗号資産等の「犯罪インフラ」の実態についても指摘されおり、若年層を中心に「薬物初心者」に対して薬物が蔓延していく背景には、これらの「犯罪インフラ」が大きな役割を果たしていることが分かります。そして、大麻は「ゲートウェイドラッグ」と呼ばれ、覚せい剤をはじめとする他の薬物に手を出すきっかけとなることが知られており、今後、薬物を利用する者の増加、薬物依存症の問題の深刻化が予想されるところです。一方で、このような状況が将来的に見通せるということは、暴力団等の犯罪組織の資金源として薬物の売買がますます盤石のものとなりかねない恐れがあるということでもあり、「大麻」「若年層」への浸透(蔓延)をいかに防ぐかが喫緊の課題だといえます。そして、その対策のカギを握るのが、「SNS」「インターネット」「ダークウェブ」等の「犯罪インフラ」の厳格な監視に基づく警告・摘発(国境を越えた法的規制のハードルの高さへどう対応するかが最も難関です)や、「ダークウェブ」「暗号資産」等の「匿名取引」をいかに規制していくか(AML/CFTからも重要な視点)にかかっています。

また、若年層への蔓延の実態として、令和元年12月11日付産経新聞は、「大麻事件で全国の警察が摘発した未成年が昨年429人に上り、平成25年(59人)の7倍超に上ることが、警察庁のまとめで分かった。有害性がないなどの誤った情報がインターネットを通じて広がり、スマートフォンや会員制交流サイト(SNS)の普及で「若年層が密売人と容易に結びつくようになった」(捜査幹部)といい、警察当局が大麻の未成年への浸透拡大に警戒を強めている。近年の摘発ではSNSを通じて密売人と接触するケースが目立つ。捜査幹部は「家庭環境に問題がなく、不良グループなどにも属さないいわゆる『普通の子供』が手を染めている」と指摘する。60%は1グラム5千円以下で大麻を購入しており、比較的入手しやすい価格であることも未成年への浸透に影響しているとみられる」と報じています。さらに、同日付の同新聞は、「SNSなどを通じた未成年への大麻汚染は関西でも広がっている。大阪府警は今年5月、SNSを通じて購入した大麻を転売したとして、大麻取締法違反の疑いで18~19歳の少年2人を逮捕していたと発表した。2人はSNSで「野菜売ります」などと大麻を指す隠語を書き込み「1カ月で200人くらいに売った」などと供述した。高校生の客もおり、府警は高校3年の男子生徒ら2人も逮捕した。・・・深刻化する未成年の薬物使用に歯止めをかけるため、警察は小中学校や高校で薬物の恐ろしさを伝える巡回教室などを定期的に実施している」、「近年、摘発された大麻事件からは高校生ら未成年の深刻な薬物事情が浮かび上がる。会員制交流サイト(SNS)が若年層と密売人を直に結びつけ、短時間で容易に薬物が入手できるようになった。購入した未成年が気軽な気持ちで売り手に回り、密売網が増殖していく悪循環にも陥っている」という記事を掲載し、未成年者への蔓延とその拡大の「悪循環」の問題の深刻さを指摘しています。なお、同記事において、「逮捕された少年のノートには「密売マニュアル」が記されていた」として、以下のようなものが列挙されています。

  • 電話で1回話す。隠語をできるだけ使用
  • 客より先に行く!先に確認
  • 客のフォロワー、ツイートを探る
  • ネタ(薬物)はパンツの内側に隠す
  • 人がら(人柄)と周囲を警戒
  • 固定客が集まったら新規に売らない
  • 利益ばかり求めんと、とことん値引き
  • 詐欺らない(詐欺をやらない)
  • ネタの種類を増やす
  • 客に売って、良かったら広めといてと宣伝する
  • 広告割(SNSなどで宣伝してくれた客に割り引く)500~1000円引き

この内容を見る限り、SNSを前提としているほか、隠語の利用や値引きのあり方など固定客をつかまえることを重視するなどかなり慎重な姿勢も示されており、犯罪者側の強かさも感じられます。若年層への蔓延を食い止めるために、大麻等薬物に関する間違った知識や噂が流布している状況をふまえ、「本当の恐ろしさを伝える巡回教室などを定期的に実施する」だけではもはや十分でなく、インターネット・SNS・ダークウェブ等の監視の強化や摘発の強化など「薬物は割に合わない(いいことはない)」ことを知らしめるための多面的な取り組みとその強化が求められているといえます。

さて、昨年も女優、ミュージシャンら著名人の違法薬物事件が相次ぎました。令和元年12月28日付スポーツ報知は、「芸能事務所では「タレントの不祥事は損害賠償の責任を負うなどダメージが大きい」として、法令順守の講習などを実施するが、限界もあるという。「性善説に立ち、相手を信用して契約をしている。人権、プライバシーの問題もある。任意であっても、薬物検査なんて軽々にはできない」。芸能事務所幹部は違法薬物の対策などの難しさについてこう明かす」と報じています。この問題については、前回の本コラム(暴排トピックス2019年12月号)で、筆者は以下のように指摘しています。

人権問題との関係で十分な検討が必要となりますが、映画やドラマなど社会的影響や興行的観点から薬物排除を徹底するのであれば、抜き打ちの薬物検査等を実施するといった自衛策・予防策も考えられるところです(実際に、2009年に沢尻容疑者の当時の所属事務所が自発的に薬物検査を行い、同容疑者が違法薬物の陽性反応が出たことを理由に契約解除されたと報じられています)。これは極端な対策ですが、最近は芸能人のマネジメントもプライベートへの関与が昔ほど深くなくなっているとも聞く一方で、正にそのプライベートの問題が事業や企業に大きなダメージをもたらすことを踏まえれば、そもそものマネジメントのあり方自体、もう少し踏み込んで検討すべき時期にきているともいえます。

若年層への大麻の蔓延を防止するために「教育」(正しいこと、薬物の恐ろしさを伝えること)だけで十分なのかという前述の問題提起と同じく、芸能界の薬物リスクの高さ、レピュテーションリスクの大きさ、巨額な損害賠償請求、それに伴う事業への悪影響等を考えた場合、「もっと踏み込んだ」対策を講じなければそれを防ぐことが難しいことを認識し、「性悪説」に立った厳格な対策・規制に踏み込むべき状況だといえます。

なお、参考までに、やや横道にそれますが、本報道内では、薬物・銃器などの摘発における3つの手法について解説がありましたので、あわせて紹介しておきます。

  • 通称「S(エス)」

Sは「SPY(スパイ)」の頭文字で、違法薬物の売人と接触できる協力者らを指す。売買の場所などを事前に知ることで、大量の違法薬物を押収したり、逮捕につなげることができるが、信頼関係を築くには時間がかかるという。「S」が別の捜査機関に逮捕されてしまうケースもあった。

  • コントロールド・デリバリー(別名・泳がせ捜査)

1992年の麻薬特例法施行で導入された。捜査関係者によると、税関の検査で不審な荷物を発見した際、いったん開封し、GPS発信機器を取り付け、元通りに戻し、宛先まで送る。装置は開封した際に居場所を発信する仕組みで、組織全体の摘発につなげる。協力者らが身分を隠して密売人に接触し、薬物取引を持ちかけて摘発する「おとり捜査」も一定の要件下で認められている。

  • 通信傍受

2000年施行の通信傍受法では薬物、銃器、集団密航、組織的殺人の4類型の犯罪で通信事業者の立ち会いのもとで電話の会話内容などの傍受を認めている。2016年12月の改正法では殺人、放火、窃盗など9類型が追加。法務省によると、昨年は82人の逮捕につなげた。計12事件で傍受した通話は計10,359回。覚醒剤取締法違反事件(営利目的)では、16日間で1,899回に及んだ。今年6月からは通信事業者の立ち会いが必要なくなり、捜査がスムーズに進むようになった。

また、現状の国の薬物対策については、犯罪対策閣僚会議で以下のとおり報告されています。本コラムで主張している視点はあるものの、対策そのものの「踏み込みの甘さ」は否めず、今後に大きな課題を残したままだといえます。

▼首相官邸 犯罪対策閣僚会議(第32回)
▼資料4 薬物対策の推進状況
  • 大麻を始めとする薬物事犯の特徴
    • 大麻事犯はH26以降検挙人員が増加、H30は過去最多を更新 特に若年層を中心に安易な動機による乱用が増大
    • 覚醒剤押収量は3年連続1トン超え
    • コカイン事犯、MDMA事犯の増加等の乱用薬物の多様化
  • 徹底検挙
    • 薬物犯罪組織の弱体化及び壊滅 関係機関が連携した捜査
    • 情報収集活動の強化 大麻の違法栽培に係る情報提供呼び掛けポスターの作成
  • 効果的な広報啓発
    • 若年層に重点を置いた乱用防止活動:関係機関と連携し薬物乱用防止教室等を開催
    • 有害性や犯罪組織との親和性の意識付け:有識者・関係機関が協力した説得力のある広報の実施
    • 対象に適した広報啓発活動:若年層、海外渡航者等を対象に、大麻に特化した広報啓発活動を実施

関連して、警察庁が大麻事犯対策に係るポスター(情報提供依頼用、海外渡航者用)を作成しています。

▼海外渡航者への注意喚起用ポスター
▼大麻栽培の情報提供依頼用ポスター

大麻の違法栽培については、「こんな場所に要注意」として、「一日中、雨戸や遮光カーテンで窓がふさがれているが、照明は点いている」、「エアコン室外機や換気扇が常に動いている」、「土や肥料を運び入れたり、茎や根などをゴミに出しているが、外で植物を育てている様子がない」、「近くを通ると青臭いにおいがする」といった端緒が示されています。なお、大麻の栽培については、埼玉県警のHPに詳しく、本コラムでも過去(暴排トピックス2018年1月号など)で取り上げています。以下、(一部重複する部分もありますが)当該部分を紹介します。

▼埼玉県警察 大麻の乱用が急増中!私たちの身近な場所で大麻栽培が!

「こんな場所は要注意」として、「玄関の隙間や家屋の換気口から、大麻特有の青臭い・甘い匂いがする場合は要注意」、「光量の調節のためには、外の光をシャットアウトして暗闇を作る必要がある。大麻栽培プラントでは、雨戸や遮光カーテン等を閉め、さらに目張りをするなど、外の光の差込みや匂いの漏れなどを防いでいるケースが多い」、「人が生活している様子がないのに「電気メーターが常に早く回っている」、「常にエアコンの室外機が回っている」などの特徴がある」、「必要な作業のため、「連日深夜等に人が短時間立ち寄る」ほか、栽培に必要な「大量の土、肥料、電気設備、植木鉢、ダクトなどを運び込む」、「収穫した大麻を、ダンボールやゴミ袋に詰め込み、人に見つからないように持ち出す」といった特徴がある」などといった専門的な情報まで掲載されており、大変参考になります。

すでに本コラムでも取り上げましたが、熊本県天草市の漁港の船内から大量の覚せい剤が見つかった事件で、押収量は約600キロ(末端価格約360億円相当)に上ることが分かっています。なお、600キロという数字は薬物乱用者の通常使用量約1,967万回分に相当、これだけで平成30年の1年間に全国の密輸摘発で押収した量の半分に匹敵し、国内で一度に押収された量としては、平成30年6月、静岡県南伊豆町の港で警視庁などが押収した約1トンが最多で、本件はこれにつぐ過去2番目の規模となります。ちなみに、本件では、あまりに大量の覚せい剤であったために燃料を消費し、目的地に到着する前に燃料が切れて、身動きが取れなくなった可能性があるといわれています。また、本件では、台湾籍の2人や少年を含む密輸グループの男女13人が覚せい剤取締法違反(営利目的所持)容疑などで逮捕されていますが、その中には六代目山口組の元組員や住吉会の関係者がいるとも報じられており、暴力団の関与が濃厚なうえ、大規模な密輸では大量の資金を用意する必要があり、複数の組織が協力した可能性が考えられるところです(なお、複数の組織が協力するという点では、「貧困暴力団」の例も想起されますが、これは組織とは関係なく、末端の組員が「食うに困って」やむなく連携して犯行に及んでいる実態を指します。指定暴力団の要件の一つの「組織性」という点で、大規模密輸は正にその「組織性」を最大限に活用しており、「貧困暴力団」が統制を無視・無効化しようとしている点とは質的に真逆となります)。また、覚せい剤の密輸は現在「瀬取り」(海外から船で運んできた覚せい剤を日本近海で受け渡しする密輸入方法の一つ)で大規模に行われるケースと、(大規模な摘発が相次いでいることから)航空機への乗客等を「運び屋」に仕立てて小口で行われるケース(ショットガン方式)とに大きく二分化しているのも最近の特徴だといえます。たとえば、訪日客などを装った「運び屋」による覚せい剤密輸事件が各地で相次いでいる実態があり、警視庁は昨年11月末までに昨年1年間の2倍の34件を摘発しています。このようなショットガン方式では1人の密輸量は多くなく、大量押収の「リスク」を避ける意図が密売組織にあり、背景には、大型密輸事件の摘発が相次ぎ、覚せい剤が「品薄」になっている事情があるとされます。また、大規模密輸の「瀬取り」については、「関係者」が解説している報道が最近増えており、(参考になるものもあることから)紹介します。

  • 「昨年までの3年間に押収された覚せい剤は毎年1トンを超えているといいます。さらに、今年の上半期だけで、46トンもの覚せい剤を警察や税関が押収している。今回の熊本沖の密輸も含めれば、今年だけで2トンを超しており、末端価格にすると1200億円にもなるのです」、「小さな島が点在する沖合で取引することが多いです。島が取引場所の目印にもなるし、逃げ隠れするのに都合がいいですからね。例えば、台湾や韓国などから覚せい剤を積んだ船が沖合まで来て、浮き具を付けたクスリを海に放り込む。浮き具にはGPSをつける場合もあって、海上で別の船がクスリを回収し陸に運ぶ方法が多いですね」、「今は手渡しでの売買は稀で、指定の場所までブツをデリバリーしたり、別の場所で受渡を行ったりと、手口が巧妙化しているという」(令和元年12月20日付文春オンライン)

その他、最近の報道から薬物事犯に関するものをいくつか紹介します。

  • どくろの形の置物や女性の体を模した石像に覚せい剤を隠し、成田空港に到着の旅客機で密輸したとして、千葉地検は、米国人(74)を覚せい剤取締法違反(営利目的輸入)などの罪で起訴しています。報道によれば、メキシコからカナダ経由の旅客機で来日し、覚せい剤8キロ(末端価格2億3,400万円)を機内預け入れのスーツケース2個に入れて密輸したといいます。覚せい剤はビニール袋30袋に分け、どくろの石膏の置物4個や石像などに隠されていたといいます。
  • 大麻の購入をツイッターで勧め、自身も所持したとして、京都府警は大麻取締法違反などの疑いで、同志社大1年の男(21)を逮捕、起訴しています。一緒に大麻を所持したとして、同法違反の疑いで、いずれも同志社大の学生3人も逮捕しています。さらに、陸上自衛隊高等工科学校は、大麻を使用したり譲渡したりしたとして、17~18歳の男子生徒5人を退校の懲戒処分にした(警察に情報提供し、大麻取締法違反の疑いで1人が逮捕され、別の1人が書類送検されました)事例もありました。報道によれば、1人の生徒がSNSを通じて知り合った男から大麻を購入し、学校が所在する武山駐屯地内で他の生徒に譲渡、また、5人のうち4人は東京都内や千葉県内で大麻を使用したといい、5人はいずれも「興味本位だった」と話しているといいます。前述のとおり、これらの事例は、正に若年層への大麻の蔓延の実態を示すものであり、「SNSによる売買」、「興味本位」という点もその典型となっています。
  • 東京税関成田税関支署と千葉県警は、防寒用ジャケット内にコカインの溶けた液体約5キロを隠し、成田空港に密輸したとして、麻薬取締法違反(営利目的輸入)などの疑いで、スペイン人の男を逮捕したと発表しています。報道によれば、液体はエックス線検査で見えにくく、衣類の中に隠すのは珍しいということです。ブラジルからドイツ経由で来日、ビニールで密閉した液状コカインをジャケット3着の中綿に隠し持っていたといいます。液体の入った袋はシート状で薄く、中綿に沿うように隠されていたとのことですが、荷物検査で衣類が不自然に重く、エックス線にかけたが、中身は分からなかったものの、手触りから疑念を強めた検査官がジャケットに針を刺すと液体が出てきたことで発覚したものです。本コラムでは、たびたび税関職員のリスクセンスの高さについて紹介していますが、本件も「手にしたら不自然に重かった」、「手触りから疑念を強めた」といったところなど、日常からの取り組みの真剣さとともにリスクセンスの高さに感心させられます。
  • 合成麻薬MDMA約1万錠(約7キログラム、末端価格約4,000万円相当)を空路で密輸したとして、福岡県警は、米国籍の男(68)を麻薬取締法違反(営利目的輸入)の疑いで緊急逮捕、門司税関は、関税法違反の疑いで福岡地検に告発しています。報道によれば、容疑者は「運ぶように言われただけで中身は知らなかった」と容疑を否認しているといいますが、MDMA約1万錠は粘着テープで巻かれたポリ袋に入れられ、二重底状のスーツケース内の板の下に隠されていたといいます。税関の職員が荷物の多さなどを不審に感じて発覚したとのことですが、本件でも税関職員のリスクセンスの高さが摘発につながったものといえます。
  • 他の者と共謀し、覚せい剤約3(末端価格約1億4,000万円)を中部国際空港に営利目的で持ち込んだ容疑で、オーストラリア国籍のプロサッカー選手が逮捕されています。税関職員がスーツケースの内張の中に隠してあるのを見つけたものですが、報道によれば、容疑者は、知人にスーツケースを日本に持っていくよう頼まれたと話し、「覚せい剤が入っていることは知らなかった」と容疑を否認しているとのことです。知らない間に「運び屋」に仕立てられるケースは多いとはいえ、そもそも「知らない人に頼まれてスーツケースを運ぶ」ことの不自然さや「密輸」の可能性を疑うことがないのか、このような事例に接するたびにその「言い訳」に説得力が欠けるように感じています。とはいえ、一方で、札幌地裁が、覚せい剤を持ち込んだとして起訴された外国人男性について、無罪を言い渡したといったケースも報道されています。報道によれば、判決理由では、男性が「ノリアナ」を名乗る女性から日本への偽ブランド品入りスーツケースの運搬を委託されたとした上で、携帯電話のアプリでの2人のやりとりから、薬物の運び屋を否定するノリアナの返信に男性が安心していることなどを指摘、「男性がスーツケースの中に覚せい剤などの違法薬物が隠されていると認識していたと認めるには合理的な疑いが残る」としています。
  • 大阪府は、和泉市内の駐車場で大麻を所持したとして大麻取締法違反罪で起訴された西大阪治水事務所副主査(57)を懲戒免職処分にしたと発表しています。報道によれば、同被告は内部調査に事実関係を認め、「持病の腰痛に悩んでいたら、知人から大麻を勧められた。痛みが和らいだのでやめられなかった」と話したといいます。
  • 島根県警大田署は、大田市仁摩町馬路の漁港に、コカイン約1キロ(末端価格約2,000万円)が漂着しているのが見つかったと発表しています。報道によれば、大田市の男性漁師が知り合いと海岸の清掃作業中に、海藻に紛れていた漂着物を発見、ビニールや養生テープなどで何重にも巻かれた白い内容物を確認、110番通報したといいます。梱包に文字などの印字はなかったということですが、同署は海外から流れ付いたとみて調べるということです。前述のとおり、「瀬取り」による可能性(受け渡しに失敗した事例)も否定できないところです。
  • トランクルームで覚せい剤約12キロ(末端価格約7億2,000万円相当)を保管したとして、大阪府警は、稲川会系組員を覚せい剤取締法違反(営利目的所持)の疑いで再逮捕しています。報道によれば、昨年4月、同法違反容疑で逮捕した密売人の男2人が拠点としていた、大阪市内のマンションの一室を捜索した際に、覚せい剤が入れられていた菓子箱の袋から容疑者の指紋を検出したことが端緒となっているといいます。また、本件はトランクルームも「犯罪インフラ化」している実態が明らかとなったという点でも注目されます。

さて、本コラムでもたびたび指摘しているとおり、米国では大麻成分を添加した電子たばこのリキッドの使用が急増しています。当然ながら、日本においても今後、大麻リキッドと電子たばこの関係には注意が必要であり、すでに大麻リキッドの大量密輸が摘発され、横浜税関によると、昨年年1~6月にかけて大麻の摘発件数が前年同比で2.2倍、押収量も4.5倍となっており、大麻リキッドが若い世代を中心に蔓延しつつある状況です。さらに米国では電子たばこを吸って健康被害を受け、死者まで出ていることが大きな社会問題になっています。米疾病対策センター(CDC)によれば、昨年12月中旬時点で、電子たばこ使用に関連する肺の病気による死亡は54件、入院は2,506件に上るほか、高校生の4人に1人以上が使用していると報告されています。一方、11月に米の研究者らは、電子たばこ関連の肺疾患がビタミンEアセテートを原因とするものではないかということを発見しました。このビタミンEアセテートは、大麻の主要な向精神物質であるテトラヒドロカンナビノール(THC)を含む闇市場の電子たばこに含まれていることが多い成分だといいます。つまり、現在の肺疾患の急増における中心的要因は、闇市場のTHC製品への不純物の混入や汚染であると考えられるということであり、電子たばこを違法化することで、10代の若者を含めた現在の電子たばこ利用者が闇市場や低品質製品へと導くことを招きかねず、その結果、規制の強化によってむしろ肺疾患の急増に拍車がかかるのではないかと危惧されるのです。このような中、トランプ大統領はこのような電子たばこ規制の強化をいったん発表したものの、(業界団体の反対を受けて、大統領選挙への影響も配慮したのか)その後手綱を緩めました。そして、直近では、米食品医薬品局(FDA)は、フレーバー付き電子たばこ製品に関する規制の枠組みを発表、30日以内に販売を中止するよう求め、その後は当局が承認した製品のみ販売を認めるとし、あらためて規制の強化に転じています。一方で、そのような連邦よりも厳しい電子たばこ規制に乗り出す州もあり、既に19州が連邦に先駆けて購入可能年齢を21歳に引き上げています。さらに、ニューヨークなど一部の州は、風味付き製品の販売も禁止しています。行き過ぎた規制が健康被害を助長することになるとの警告も説得力がある中、市場からの「排除」ではなく「規制を正しく強化する」方向性の方が現実的な解なのかもしれません(大麻の合法化と同様の一種のハームリダクション(個人や社会がもたらす害悪を軽減するための社会実践)と捉えるべきかもしれません)。なお、米では規制に反対する訴訟も起きており、電子たばこをめぐる論争が続くことが予想されますが、今後の日本における対応のあり方を考えるうえでもその行方に注目したいと思います(すでにリスクが指摘されている以上、日本においても議論を進めるべきです。ちなみに、フィリピンのドゥテルテ大統領は、電子たばこの使用と輸入を禁じる方針を表明しています。「電子たばこは有害であり、政府には国民の健康を守る手だてを講じる権限がある」と述べ、公共の場での使用者を逮捕するよう当局に命じています。ドゥテルテ氏は2017年、国内全ての公共の場所で通常のたばこを吸うことを禁止しており、健康増進を理由に再び大きな問題提起を行っています)。

4.テロリスクを巡る動向

令和元年のテロリスクを巡る動向については、昨年12月に警察庁、公安調査庁、犯罪対策閣僚会議から相次いで各種報告書が公表されています。それぞれ充実した内容となっていることから、国内外のテロを取り巻く情勢の概観については警察庁「治安の回顧と展望」から、特にイスラム教シーア派過激組織「イスラム国」(IS)の動向の詳細については公安調査庁「内外情勢の回顧と展望」から、本年開催される2020年東京オリンピック・パラリンピック東京大会(2020年東京大会等)を見据えたテロ対策の推進状況については犯罪対策閣僚会議の資料から抜粋して紹介したいと思います。

まず、警察庁「治安の回顧と展望」から、国内外のテロを取り巻く情勢を概観してみます。

▼警察庁 治安の回顧と展望(令和元年版)

「国際テロ情勢」のうち、「イスラム過激派」の動向について以下のとおり述べられています。概ね本コラムで取り上げてきた内容ですが、とりわけ、本コラムでも指摘している「外国人戦闘員の帰還問題」、「外国人戦闘員の移動問題」の深刻さ、ISの影に隠れがちなアル・カーイダ(AQ)の脅威もいまだ継続している状況にあらためて注意が必要です。

  • ISは、2014年にカリフ制国家の樹立を宣言した後、その過激思想に影響を受けた多くのイスラム教徒を世界中から引き付け、イラク及びシリアにおいて勢力を増大させたが、諸外国の支援を受けたイラク軍やシリア軍等の攻撃により、その支配地域を減少させ、2019年3月、両国における全ての支配地域を喪失したとされる。しかし、ISの残存勢力は、依然として攻撃を行う能力を有し、シリアでは地下ネットワークを拡大し、イラクではその指導部及び組織の再構築を継続しながら、活動を継続していたところ、2019年9月にも、指導者のアブー・バクル・アル・バグダーディの声明が発出され、攻撃、情報発信を含むあらゆる活動を強化するよう改めて支持者に呼び掛けた。同年10月27日、トランプ大統領は、バグダーディが、米国の作戦行動により死亡したと発表した。同月31日、ISも指導者の死亡を認め、新指導者を指名したことを発表し、同年9月に発出されたバグダーディの声明にも言及しつつ、米国に対して警告する声明を発出した。
  • ISは、従前より、イラク及びシリアにおける軍事介入に対する報復として、「対IS有志連合」参加国、ロシア、イラン等に対するテロを実行することや、爆発物や銃器が入手できない場合にはナイフ、車両等を用いてテロを実行することを呼び掛けてきており、2019年中も、IS等の過激思想に影響を受けたとみられる者によるテロ事件が発生し、ISは、インターネットを活用してこれらのテロ事件を称賛するなど、更なるテロの実行を呼び掛けた。
  • イラク及びシリアでISが支配地域を喪失したことにより、両国における外国人戦闘員及びその家族の多くが同地を離れ、残留者の一部は収容施設又は難民キャンプに収容されるなどしており、関係各国は、外国人戦闘員等の帰国又は移動並びに施設等収容者らの送還及び処遇への対応を迫られることを懸念している。今後、外国人戦闘員が、母国又は第三国でテロを行うことが懸念される。実際、2017年5月から同年10月にかけてフィリピン南部の都市マラウィで発生した、ISを支持する勢力とフィリピン当局との戦闘で死亡した者の中に、中東、北アフリカ等出身の外国人戦闘員も含まれていたとされる。また近年、イラク及びシリアから多くの外国人戦闘員がアフガニスタンに移動する動向が指摘されていたところ、アフガニスタン、リビア等のイラク及びシリア以外の紛争地域が多数の外国人戦闘員を引き付け、当該地域の紛争を激化、長期化させたり、当該地域から世界中に過激思想を拡散させたりすることも懸念される。
  • AQは、指導者のアイマン・アル・ザワヒリが2019年中も引き続き複数の声明を発出し、一貫して反米テロ等を呼び掛けている。一方、2019年9月14日、トランプ大統領は、AQ創設時の指導者オサマ・ビンラディンの息子とされるハムザ・ビンラディンが米国の作戦行動により既に殺害されていたことを発表した。
  • 中東、アフリカ、南西アジア等において活動するAQ関連組織は、現地政府・治安機関等を狙ったテロを行っているほか、オンライン機関誌等を通じて欧米諸国におけるテロの実行を呼び掛けるなど、AQ及びその関連組織は、依然として自らがイスラム過激派を主導する勢力であると主張しており、脅威は継続している

次に「我が国を標的とするテロの脅威」については、以下のとおり述べられています。邦人を取り巻くテロリスクは依然と高止まりしていること、日本を舞台としたテロ計画の存在やホームグローン・テロリストの存在なども示唆されており、やはり日本人はテロリスクに対して認識がまだまだ甘いことを痛感させられます。

  • 2013年1月の在アルジェリア邦人に対するテロ事件、2015年1月及び同年2月のシリアにおける邦人殺害テロ事件、同年3月のチュニジアにおけるテロ事件、2016年7月のバングラデシュ・ダッカにおける襲撃テロ事件、2019年4月のスリランカにおけるテロ事件等、邦人や我が国の権益がテロの標的となる事案が現実に発生しており、今後も、邦人がテロや誘拐の被害に遭うことが懸念される。実際にシリアにおける邦人殺害テロ事件では、ISによって配信された動画において、日本政府がテロの標的として名指しされ、今後も邦人をテロの標的とすることが示唆された。その後も、ISはオンライン機関誌「ダービク」において、我が国や邦人をテロの標的として繰り返し名指しした。
  • AQについても、2012年5月に米国が公開したオサマ・ビンラディン殺害時の押収資料によれば、「韓国のような非イスラム国の米国権益に対する攻撃に力を注ぐべき」と同人が指摘していたことが明らかとなっているほか、米国で拘束中のAQ幹部ハリド・シェイク・モハメドの供述によれば、我が国に所在する米国大使館を破壊する計画等に関与したことなども明らかになっている。こうした資料や供述は、米軍基地等の米国権益が多数存在する我が国に対するイスラム過激派によるテロの脅威の一端を明らかにしたものといえる。
  • また、欧米では、非イスラム諸国で生まれ又は育った者が、ISやAQ等によるインターネット上のプロパガンダに影響されて過激化し、自らが居住する国やイスラム過激派が標的とする国の権益を狙ってテロを実行する、いわゆるホームグローン・テロリストによる事件が数多く発生している。我が国においても、IS関係者と連絡を取っていると称する者や、インターネット上でISへの支持を表明する者が国内に存在しており、ISやAQ関連組織等の過激思想に影響を受けた者によるテロが日本国内で発生する可能性も否定できない。過去には、殺人、爆弾テロ未遂等の罪で国際刑事警察機構(ICPO)を通じ国際手配されていた者が、不法に我が国への入出国を繰り返していたことも判明しており、過激思想を介して緩やかにつながるイスラム過激派組織のネットワークが我が国にも及んでいることを示している。これらの事情に鑑みれば、我が国に対するテロの脅威は継続しているといえる。

また、「国際テロ対策」から、事業者向けの取り組みとして「(3)爆発物の原料となり得る化学物質の販売事業者等に対する管理者対策」について、以下、紹介します。本コラムでたびたび指摘しているとおり、日本の事業者にとってもテロリスク対策としてできることはたくさんあることをあらためて認識していただきたいと思います。

  • 近時、薬局、ホームセンター等の店舗やインターネットで購入が可能な化学物質から爆発物を製造する事案が発生しており、我が国においても、大学生らがインターネットを通じて知り合い、爆発物の製造方法に関する情報交換をするなどした上で、インターネットで購入した化学物質などから爆発物を製造した事件が発生している。
  • このため、警察では、厚生労働省、農林水産省及び経済産業省に対し、化学物質11品目の適正な管理について、関係団体等に対する周知・指導を要請するとともに、爆発物の原料となり得る化学物質の販売事業者に対して継続的に個別訪問を行い、販売時における本人確認の徹底、盗難防止等の保管・管理の強化、不審情報の通報等を要請しているほか、実際に接客に当たる従業員に対し、不審購入者の来店や電話による問合せがあった場合を想定した体験型の訓練(ロールプレイング型訓練)を行っている
  • また、近年、爆発物の製造等を目的とした学校からの化学物質窃取事案が発生していることを受け、文部科学省に対し、学校等における化学物質の管理強化等に関する指導を要請している。
  • さらに、ウェブサイト上で爆発物の製造方法に関する情報を入手したり、インターネット通信販売で原料を入手したりすることにより爆発物を製造する事案が発生していることを踏まえ、爆発物の製造方法等に関する有害情報の発見及びプロバイダ等に対する削除要請を推進している。
  • このほか、諸外国において産業用爆薬を使用したテロ事件が発生している事態を踏まえて、火薬類そのものの流出を防止するため、火薬類取扱事業者との連携を強化している。
  • 警察では、販売事業者等から得られた不審情報を集約・分析するなどして爆発物を用いたテロの未然防止を図っている

次に、本コラムでもその動向を詳しく確認しているISの動向の詳細について、公安調査庁「内外情勢の回顧と展望」から抜粋して紹介したいと思います。

▼公安調査庁 内外情勢の回顧と展望(令和2年1月)の公表について
  • ISは、最後の支配地であったシリア東部・バグズを喪失し、米国などの支援を受ける「シリア民主軍」(SDF)は、「ISの領土面での100%の敗北を宣言する」と発表した(3月)。SDFによる掃討作戦を通じてIS戦闘員多数が拘束されたとされ、米国国防総省が発表した報告書(8月)によると、外国人戦闘員約2,000人を含むIS戦闘員約1万人がSDFに拘束されているとされる。他方、同報告書によると、依然としてシリア及びイラクにIS戦闘員ら1万4,000~1万8,000人が残存しているとされる。これら残存する戦闘員は、小規模な集団で各地に点在しているとされ、シリアでは、デリゾール県や北東部・ハサカ県などでSDFなどに対するテロを実行しているほか、アサド政権が支配する中部・ホムス県などで同政権軍などに対するテロを実行している。また、イラクでは、治安部隊による掃討作戦が実施される中、首都バグダッドのほか、北部、東部及び西部において、治安部隊や部族長などを標的としたテロを実行するなど、両国で一定の勢力を維持している。
  • ISは、シリア及びイラクでの退潮に伴い、プロパガンダの発出が減少傾向にあるとされてきたが、支配地喪失(3月)以降も、アラビア語週刊誌「アル・ナバア」やラジオ局「アル・バヤーン」を通じて各地の「戦果」などを継続的に発信するなど、広報機能を一定程度維持した。
  • ISは4月以降、南アジア及び中部アフリカにおけるテロに関し、新たに「パキスタン州」や「中央アフリカ州」名などによる犯行声明を発出し、世界各地に影響力が及んでいることをアピールした。これら新「州」を含めた各「州」などは、6月以降、バグダーディへの忠誠を改めて誓う動画声明を相次いで発出し、同人に対する忠誠心や結束力を顕示した。
  • 米国のトランプ大統領は、シリア北西部・イドリブ県で実施した米軍特殊部隊による作戦で、IS最高指導者バグダーディが自爆して死亡したと発表した(10月)。その後、ISは、バグダーディの死亡を認めるとともに、諮問評議会で新たな最高指導者にアブ・イブラヒム・アル・ハシミ・アル・クラシが選出された旨の声明を発出した(10月)。同声明では、ISが依然として各地で拡大していると主張するとともに、全ての関連組織に対して「不信仰者」らに対する報復を呼び掛けた。
  • ISは、バグダーディ死亡後も、シリア及びイラクでテロを実行しており、今後も、両国で治安部隊などを標的としたテロを継続するものとみられるほか、新最高指導者の下での結束力を強調するため、様々なプロパガンダの発信を通じて、自組織の存在感を継続的にアピールしていくとみられる
  • IS最後の支配地であったシリア東部・バグズでの掃討作戦(3月終結)に伴い、同地で生活していたIS戦闘員の妻や子供らが、同国北東部・ハサカ県のアル・ホール難民キャンプへ流入した。国連人道問題調整事務所(OCHA)によると、同キャンプの収容者数は、2018年12月時点で約9,700人であったところ、3月末には7万3,000人以上へと大幅に増加したとされる(9月25日時点の収容者数は約6万8,600人)。このうち外国(イラクを除く)出身者については1万人以上とされるところ、一部の国では、自国出身の女性や子供の帰国を受け入れている一方、欧州諸国の多くは、IS支持者が保持する過激思想の影響が自国に拡散し得る脅威などを懸念し、特に女性の受入れに消極的とされ、英国は、バングラデシュ系英国人とされる女性の国籍の剥奪を発表した(2月)。
  • アル・ホール難民キャンプに収容された欧州出身者の中には、「『イスラム国』での生活は素晴らしかった」などとしてISの復活を望む発言をする者がいるなど、ISを引き続き支持する女性が少なからず存在するとされる。これら女性は、他の女性収容者に対してISが厳格に解釈したイスラム教に基づく生活を強要し、これに従わない者に対して刃物による脅迫や投石、テントへの放火などを行っているとされ、殺害事案も報じられている。このほか、IS支持者の女性は、医療スタッフや人道支援者らに対しても投石などを行っているとされ、治安部隊員を刺傷する事案も発生した(7月)。また、アル・ホール難民キャンプでは、女性だけでなく子供の中にもISの過激思想の影響を受けた者が一定程度存在するとみられている。米国国防総省が発表した報告書(8月)によると、同難民キャンプではISの過激思想が際限なく広がっているとされ、より一層の過激思想の拡散やISを支持する女性や子供の今後の動向が懸念される。
  • アジアでは、近年治安が安定していたスリランカにおいて、高級ホテル3か所及びキリスト教会3か所で爆発が起き、邦人1人を含む250人以上が死亡、邦人4人を含む500人以上が負傷するテロが発生した(4月)。同国では、これまで、ISによるテロ関連活動はほとんど確認されていなかったところ、今次事案により、同国へのISの影響力の浸透が明らかになった
  • フィリピン南部では、スールー諸島やミンダナオ島の一部を拠点とするIS関連組織が、それぞれの拠点でテロや治安部隊との衝突を継続した。このうち、スールー州ホロ島では自爆テロが続発し、標的とされたカトリック教会(1月)や国軍施設(6月、9月)では、多数の市民や兵士らが犠牲となった。IS関連組織は、従来同国では見られなかった自爆テロを相次いで実行するなど、よりインパクトのあるテロ手法を取り入れつつあることを示唆しており、治安情勢の一層の悪化が懸念される
  • インドネシアでは、ジャワ島西部・バンテン州で、IS支持者の夫婦が、治安関係の大臣や地元警察幹部らを刃物で刺す襲撃事件が発生した(10月)。東南アジアにおいて、IS支持者が現役閣僚を負傷させたのはこれが初めてであり、今後、IS支持者らによる要人暗殺テロの連鎖が警戒される。5月には、大統領選挙の公式結果発表に合わせて首都ジャカルタ中心部で予定されていたデモに際し、遠隔操作による爆弾テロを計画したとして、IS支持者のグループが摘発された。首謀者の一人は、当該デモを「多神崇拝の一形態である民主主義」の信奉者が集まる場とみなした旨供述したとされ、同国におけるIS関連テロの標的が多様化・無差別化しつつあることをうかがわせた
  • 欧米諸国では、フランス東部・リヨンで、ISに影響を受けたとみられる者による爆弾テロが発生した(5月)。また、英国首都ロンドンのロンドン橋付近で、刃物を持った男による襲撃テロが発生し、ISと関連を有する「アーマク通信」がISの犯行と主張した(11月)。このほか、IS関連の摘発事案も相次いでおり、オーストリアでは、首都ウィーンで、隣国ドイツの鉄道脱線を目的とするテロを計画したとしてISとの関係が指摘される男が逮捕された(3月)ほか、ブルガリアでは、中部・プロヴディフで、ISに勧誘され爆弾テロを計画していたとして学生が逮捕された(6月)。さらに、ドイツやフランス、米国などでも、ISに何らかの影響を受けたとみられる者らによるテロ計画が摘発されたほか、ISへの勧誘活動及び資金提供、ISのプロパガンダ活動など、IS関連事案の摘発が相次いだ。欧米諸国では、2018年に比して、ISに関連したテロの発生件数は減少したが、ISに関連したテロ計画の摘発事案が続発するなど、ISの影響力が浸透しているとみられるほか、IS支持者らは、引き続き、インターネット上で欧米諸国に対するテロの実行を呼び掛けており、今後も、ISに影響された者らによるテロの発生が懸念される
  • ISは、我が国を含む対IS有志連合参加国の国民を標的とし、可能な限り多くの犠牲者を出す目的で、観光地や公共交通機関などのソフトターゲットを標的としたテロを志向してきた。近年の邦人被害の多くは、直接我が国権益や邦人を狙ったテロによるものではなく、ソフトターゲットを標的としたテロの巻き添えとして発生したものである。このため、多くの観光客が訪れ、在留邦人や日系企業の拠点数も相当数に上る欧米諸国や東南アジアでは、引き続き警戒が必要である
  • 一般に、ISへの合流を志す外国人戦闘員には、それまでの居住国での生活基盤を捨て、財産を処分するなど、覚悟を決めて戦闘地域に渡航する者が少なくなく、そうした外国人戦闘員は、ISの過激思想に深く影響を受け、しばしば「殉教志願作戦」(自爆)に従事しているとされる。当初、フィリピン南部では、外国人戦闘員(モロッコ系ドイツ人及びインドネシア人夫婦)が自爆し、次に地元過激組織メンバーが自爆しており、過激な外国人戦闘員の影響が地元戦闘員にまで及びつつある可能性を示している。今後、過激な思想やテロ手法が更に拡散すれば、テロの被害が増大し、治安情勢が一層悪化することが懸念される

また、2020年東京大会等を見据えたテロ対策の推進状況については、犯罪対策閣僚会議の資料がコンパクトにまとめられているため、以下に紹介します。

▼首相官邸 犯罪対策閣僚会議(第32回)
▼資料2 2020年東京大会等を見据えた主なテロ対策の推進状況(第2版)
  1. 情報収集・集約・分析等の強化
  • 「国際テロ情報収集ユニット」を始め、関係機関において、必要な予算・定員を措置し、引き続き、情報収集・集約体制を強化
  • 「国際テロ対策等情報共有センター」(平成30年8月設置)で、テロ容疑事案等に関する情報の共有・分析を一層推進
  • サイバー空間における情報収集・分析体制や情報収集衛星の機能を拡充・強化
  • 「セキュリティ情報センター」において、東京大会の脅威・リスクに関する情報を集約・分析・評価し、関係省庁等に提供
  1. 水際対策の強化
  • G20大阪サミットやラグビーW杯に際し事前の合同訓練・点検を実施、厳格な水際対策を実施
  • 厳格な審査・取締り等に必要な機器(高性能X線検査装置、バイオメトリクスシステム、審査ブース出口前扉・センサー等)の整備を推進
  • 効果的・効率的な取締りを実施するため、PNR等の事前情報を分析・活用。また、二国間(EU含む)や国際的な枠組み(G7、APEC等)を通じ、PNR等の積極的な活用に向けた協力を進めるよう働き掛け
  • 航空貨物に係る事前報告制度の拡充等に関する関税法等の規定を整備(平成31年3月施行)
  • 各種訓練、空港パトロール、船舶への立入検査、港湾保安設備の点検を関係機関が合同で実施
  • 全国の国際港湾ターミナルで出入管理情報システムの導入を拡大
  1. ソフトターゲットに対するテロの未然防止
  • G20大阪サミットやラグビーW杯に際し、不特定多数の者が集まる施設の警備を実施。また、管理者に対するテロ対策徹底の周知、官民合同のテロ対策訓練を実施
  • 危険物検知手法の鉄道駅への導入可能性を検討するための実証実験(危険物探知犬、旅客スクリーニング装置)を実施
  • 適切に梱包されていない刃物の鉄道・乗合バス車内への持込み規制の明確化に係る国土交通省令を改正(平成31年4月施行)
  • イベント警戒に際し、突入阻止車両等を活用するとともに、車両突入テロ対策資機材を整備
  • 東京大会のラストマイルにおいて、観客が滞留するおそれがある主要交差点等について、防護柵やボラードを設置予定
  • 空港やバスのターミナルにおける先進的な警備システム等の導入に向け実験結果を公表、関係者に共有
  1. 重要施設の警戒警備及びテロ対処能力の強化
  • G20大阪サミットやラグビーW杯に際し、厳重な警備を実施
  • ラグビーワールドカップ大会特別措置法に基づき、同大会に際し、小型無人機等の飛行の禁止について対象大会関係施設等を指定
  • テロ対処に必要な装備資機材の整備を引き続き推進(テロ対処部隊の車両・資機材、小型無人機対策資機材、化学剤遠隔検知装置、大型除染システム搭載車等)
  • 競技開催地の地方公共団体と関係機関が連携し、国民保護共同訓練を実施
  • テロに対応するための医薬品・ワクチン等の備蓄を着実に実施
  • IMAT(事件現場医療派遣チーム)の協定締結医療機関拡大に係る取組を推進
  • ボディスキャナーについて、平成29年度末までに16空港、平成30年度には新たに12空港に導入するなど、先進的な保安検査機器の導入を一層推進
  • 令和元年9月から、保安検査強化(航空機搭乗前の上着検査、靴検査、爆発物検査)の恒久化を実施
  1. 官民一体となったテロ対策の推進
  • 47都道府県警察本部に「官民連携ネットワーク」を設置、行政機関・民間事業者等との情報共有や協働対処訓練を推進
  • 爆発物原料、病原体、毒劇物、ガソリン等を扱う事業者・施設等に対し、保管・管理の強化を求める要請、立入検査等を実施
  • 住宅宿泊事業法等の施行(平成30年6月)に伴い、住宅宿泊事業者等による宿泊客の本人確認等の徹底等を図るとともに、住宅宿泊仲介業者による違法物件の民泊仲介サイトへの掲載削除に向けて取り組むなど、違法民泊への対策・取締りを推進
  • 海事・港湾業界全体としてテロ対策に取り組む姿勢のアピール等を目的とした「テロ対策啓発用ポスター」を作成
  • 警察や地方公共団体等が連携し、外国人に対する防犯についての広報啓発活動、通訳人を帯同した巡回連絡、外国人と協働した防犯パトロール等を実施
  1. 海外における邦人の安全確保
  • 国内外において、企業や旅行業界、教育機関等を対象として、テロ対策を含む安全対策に係るセミナーや訓練等を実施。また、ホームページやメール等を活用し、海外渡航者・在留邦人に対して安全情報を積極的に発信
  • 日本人学校等について、警備員の配置や施設の強化等の安全対策を実施
  1. テロ対策のための国際協力の推進
  • アジア地域に対し、国際機関を通じたテロ資金対策、国境管理、刑事司法・法執行、暴力的過激主義対策のための能力向上支援等を実施
  • WCO(世界税関機構)アジア大洋州地域セキュリティカンファレンス(2019年5月)を開催し、税関のテロ対策における国際協力を強化
  • G7、ASEAN、グローバルテロ対策フォーラム(GCTF)等テロ対策協力の枠組みに積極的に関与するとともに、テロ対策協議(平成30年12月以降、日トルコ、日米豪)も実施
  • 国際組織犯罪防止条約等の枠組みに基づく国際的な捜査協力を実施

上記にも記載されていますが、空港における保安検査の厳格化が進む中、(年末年始の繁忙期を前に)国土交通省は利用者向けに理解を促進するためのリリースを行っていますので紹介します。

▼国土交通省 航空機にお乗りになる皆さまへ~保安検査は快適で安全・安心な空の旅にするために必要なものです~

保安検査では、特にナイフ(アーミーナイフ等)、ハサミ、カッターナイフといった凶器になり得るものが多く発見されているといい、利用者に対し、以下のような準備を要請しています。

  • ご自宅などで準備する機内持込み手荷物には、刃物等を入れない
  • 空港においても、保安検査場通過前に改めて確認し、刃物等がある場合は、預け入れ手荷物として航空会社に預けるか、空港にある放棄品箱に放棄する
  • 保安検査場に入る際は、身につけている金属類(財布・スマートフォン・鍵など)や衣類(コート、ジャケット、パーカー、マフラーや帽子など)、パソコン・タブレット端末を検査用トレーに入れる
  • 航空法では、航空機の安全な航行を確保するため、刃物等を航空機内へ持ち込むことを禁止している
  • 航空機にお乗りになる旅客の皆さまは、刃物等の持込制限品を持っていないかどうかを確認するため、必ず空港で保安検査を受ける必要がある
  • 刃物等の機内への持ち込みは、航空法違反による50万円以下の罰金が適用される場合がある

その他、国内のテロ対策を巡る最近の報道から、いくつか紹介します。

  • 政府は成田空港、羽田空港、関西国際空港で2020年春から、顔認証の技術を使い、国際線に搭乗するまでの手続きを簡素化するとしています。チェックイン時に顔写真を撮影してパスポートの顔写真と照合すれば、保安検査場や搭乗ゲートなどを通る際にパスポートや搭乗券を提示しなくてよくなり、すでに顔認証を導入済みの出国審査とともに、空の玄関での「顔パス」が拡大することになります。「顔認証」による本人確認の精度は上がっているとのことであり、一方で、上記にもあるように出入国管理においては、「PNR等の事前情報を分析・活用観光客等を装ったテロリスト等の入国を確実に水際で阻止するため、個人識別情報、ICPO紛失・盗難旅券情報及びAPIS等を活用した厳格な出入国審査を継続して実施している。これに加えて、航空会社に対して乗客予約記録(PNR)の報告を求めることができることとなっているほか、NACCS経由でPNRの電子的な受領が可能となった」(法務省出入国管理局の資料より)といった厳格な管理が行われています。また「顔認証」技術についても、量子暗号技術を使って安全性を高める(NECと情報通信研究機構)といった工夫も進められており、これらの組み合わせでさらに出入国管理の効率化・高度化が進むものと期待したいと思います。
  • 関西電力高浜原発3、4号機が来夏以降に停止することが明らかになっています。国が義務付けるテロ対策施設の設置工事が期限内に終了しないことが確実になったためです。停止中の1、2号機も、関電幹部らの金品受領問題などで再稼働に不可欠な地元合意を得られるか不透明な状況で、2020年秋以降は全4基が停止する公算が大きくなっています。テロ対策施設の工事による停止は九州電力川内原発に続いて2例目となります。
  • 東京五輪・パラリンピックの開催を前に、大勢の人が利用する公共交通機関を狙ったと想定したテロ対処訓練が、九州新幹線が通る佐賀県鳥栖市のJR新鳥栖駅で行われています。鳥栖署員やJR職員ら約30人が参加、駅構内で刃物を持った男が乗降客を切りつけ、警官らに制圧された男が「爆発物を仕掛けた」と供述したことから、県警機動隊爆発物処理部隊が不審物を回収するとの想定で実施されています。

最後に海外における最近のテロを巡る報道から、いくつか紹介します。

  • フランス軍が西アフリカのマリで展開しているイスラム過激派掃討作戦で、仏軍として初めて無人機による攻撃を実施したとのことです。同作戦で、地上部隊を支援する目的で投入された無人機が追撃を行い、7人の過激派戦闘員を殺害したと報じられています。仏軍ではこれまで、偵察用の無人機が活用されてきたところ、無人機による攻撃は今回が初めてだといいます。なお、シリア中部ホムス県で国営の主要な製油所1カ所と天然ガス施設2カ所が攻撃され火災が発生する事案もあり、攻撃にドローンが使われた可能性があり、石油鉱物資源省は「テロ攻撃」と非難しています。
  • ソマリアの首都モガディシオの検問所で、トラックに積まれた爆弾が爆発し、少なくとも90人が死亡したと報じられています。報道によれば、人や車が混み合う朝の時間帯が狙われたとの見方もあり、多くの大学生らが犠牲になっています。国際テロ組織アルカイダ系の過激派アルシャバーブによる犯行の可能性があるとされますが、声明などは確認されていないようです。
  • 米国防総省は、イラク北部キルクーク近くの基地がロケット弾攻撃を受けて複数の米国人が死傷したことへの対抗措置として、イスラム教シーア派武装組織「神の党旅団(カタイブ・ヒズボラ)」のイラクとシリアの拠点に対し空爆を実施したと発表しています。報道によれば、戦闘員ら少なくとも25人が死亡、55人が負傷し、死者の中には組織の司令官少なくとも4人が含まれているということです。神の党旅団はイラン革命防衛隊の特殊作戦部隊「コッズ部隊」の支援を受けているとされ、国務省が2009年に外国テロ組織に指定しています。
  • 米連邦航空局(FAA)は、米国の領空を飛行するFAA登録の全てのドローンを対象に、飛行位置と識別情報を発信する装置の取り付けを義務付ける規制案を発表しています。次世代の輸送手段としても注目を集めるドローンは、FAAに150万機近くが登録されているとされますが、一方でテロに使われる危険性も指摘され、対策を求める声が出ていたものです。
(5)犯罪インフラを巡る動向

令和元年12月28日付産経新聞によれば、昨年、インターネット通販サイトから流出したクレジットカード情報は34万件に上り、平成29年(約15万件)、平成30年(約16万件)の2倍以上に急増、特に、昨年7月~12月の下半期が248,655件と集中しているということです。さらに、流出したサイトの4分の3以上が「EC-CUBE」というソフトで作られており、経済産業省は通販事業者に注意を呼び掛けているとのことです(このソフトは、株式会社イーシーキューブのEC構築パッケージを誰でも無料で利用・改変できる「オープンソース」として公開されたもの。ダウンロードは無料。必要な機能は揃っているので、すぐに開店することができるとうたわれており、国内約35,000の通販サイトに使われているとされます)。正に、この「EC-CUBE」が犯罪インフラ化しているといえ、その対策が急務だといえます。

インターネットの「犯罪インフラ化」については、利用者のなりすましを防ぐとされる「2段階認証」ですら突破され、不正送金を許しつつある現実もあります。インターネットバンキングの利用者の口座から預金が不正に送金される被害が急拡大しており、11月は573件が発生、被害額は約7億7,600万円となり、2012年の統計開始以降で最悪となっています。とりわけ「2段階認証」を破る手口が横行していることが背景にあり、「2段階認証を設定すれば安心」という心理の隙を突いて利用者をだましている実態があります。こちらについても対策が急務だといえます。

そして、昨年はとりわけ「SNSの犯罪インフラ化」が顕著となった1年だったともいえます。たとえば、SNSなどを通じて面識のない者同士が金の貸し借りをする「個人間融資」が大きな問題となっています。ツイッター上では検索の目印となる「#」(ハッシュタグ)を付け、融資を募ったり、持ち掛けたりする投稿が散見され、SNSを多用する若者らを中心に金をだまし取られるといったトラブルが相次いでいます(最近では、19歳の少女がツイッターに「融資始めました!お困りの方お助けいたします」と書き込んだ上、連絡してきた女性(20)に「融資額の1割を担保として頂く」と伝え、現金1万4,000円を知人名義の銀行口座に振り込ませて詐取した疑いをはじめ、小学6年の女児(12)を含む30都道府県の115人から計約200万円を詐取したとみられる事件もありました)。個人間融資については、個人であっても、不特定多数が閲覧できるSNSで勧誘すれば登録が必要な資金業に当たる恐れがあるほか、法外な利息を要求する「闇金業者」も紛れ込んでいるとみられており、SNSの「犯罪インフラ化」は深刻化しているといえます。金融庁も11月から、ツイッターの公式アカウントで、無登録で個人間融資を持ち掛けているとみられるツイートなどに対し、貸金業法に抵触する恐れがあるという趣旨の返信を始めています。報道によれば、これまで40件ほど返信し、投稿やアカウントの削除に結び付いた例もあるということです。

また、最近、SNSを通じて子どもが犯罪に巻き込まれる事件も相次いでおり、背景には、子どもとSNSの親和性、親の監視の甘さがあるといえます。SNSでは、「フィルターバブル現象」(検索サイトが提供するアルゴリズムが、自分が見たくないような情報を遮断する機能(フィルター)のせいで、まるで「泡」(バブル)の中に包まれたように、自分が見たい情報しか見えなくなること)や「エコーチェンバー現象」(閉鎖的空間内でのコミュニケーションを繰り返すことよって、特定の信念が増幅または強化される状況)によってリアルの世界とは異なる、自分に心地よい状況が作り出されてしまう特性が、とりわけ子どもと親和性を高める要素となっている点に注意が必要です。また、SNSの特性としては、他にも、放射能漏れや火山の噴火、感染症の拡大といった「怖い」ニュースに関して、ツイッターの相互フォローの多い人ほど、自分が怖く感じたニュースを多くリツイートする傾向にあることが、大阪電気通信大などの研究で分かったとの報道もありました(令和元年12月29日付朝日新聞)。災害時にニュースなどに交じってデマ情報が流れることもありますが、いわゆる発信力のある人ほど「怖い」ニュースをリツイートしてしまう傾向にあり、それによって誤った情報の拡散を助長しかねない恐れがあるということになります。記事の中で専門家が、「SNSでの友人が多い人ほど、体験を共有したいと考える傾向が強く、リツイートに慎重さが必要になる。災害時には、すぐにデマと見抜けない情報も多い。誤ってリツイートしてしまった後の削除や訂正など、事後対応の重要性も認識してほしい」と指摘していますが、正にそのとおりであり、子どもも大人もSNSに向き合うには「慎重さ」が必要であることに変わりはありません。「慎重さ」を欠いた時点で、SNSは「犯罪を助長する武器」になってしまう厄介なモノであることを十分認識する必要があります。

また、最近、インターネットの世界では、フリマアプリやオークションサイトが爆発的に普及しましたが、「フリマアプリやオークションサイトをはじめとする、インターネットを介した「個人間取引」の犯罪インフラ化」も深刻化しています。昨年は、勤め先の備品などを盗む「職場窃盗」の売り先として、こうしたサービスを使う手口が相次いだことも特徴で、その典型的な事例が大量の個人情報を含む神奈川県庁の行政文書が保存されたハードディスク(HDD)が流出した問題(廃棄を再委託された事業者の従業員による職場窃盗で、盗まれたHDDがフリマアプリ等で転売された問題)でした。これまでも質屋や金券ショップなどに職場窃盗の対象が持ち込まれ、換金される不祥事案も数多くありましたが、フリマアプリ等により、匿名性等が保たれたまま、売買の利便性が格段に向上したことで、罪の意識のハードルが下がり、職場窃盗を助長してしまっている構図が指摘できます。フリマアプリ事業者も明らかな盗品等の売買などの監視を強化する、利用者の登録時や決済時の(反社チェックを含む)KYCチェックの実施、過去の履歴によるプロフィリング等を行うといった厳格な取り組みがなされているところですが、そもそも盗品でないかどうかを見極めることは容易ではなく、「個人間取引」の犯罪インフラ化の阻止はかなり難しい問題だといえます(なお、法人間取引においても同様のプラットドームを提供するサービスが存在していますが、そこに参画する事業者のKYCチェックや取引監視など、基本的には同じような厳格な管理が導入されているところもあります)。関連して、「アプリの犯罪インフラ化」の事例としては、アラブ首長国連邦(UAE)で開発されたスマホの人気チャットアプリ「To Tok」が、UAE政府によるスパイ活動に使われていたとの疑惑が報じられたこともあげられます。疑惑を受けて、米国のアップルやグーグルは配信サービスから問題のアプリを削除しています。報道によれば、開発会社は、首都アブダビに拠点を置き諜報とハッキングに携わる会社と関係しており、UAE政府に対して個人情報に自由にアクセスできるようにしており、利用者の会話や位置情報、保存した画像などを追跡できるということです。開発段階から製作者側が悪意をもって「アプリを悪用しようとした」という点、特定の利用者のみ悪用が可能だったという点ではフリマアプリとは性質が異なりますが、アプリの持つ「犯罪インフラ性」には十分な注意が必要だということを気づかせてくれます。

インターネットの犯罪インフラ化に関連して、最近発生した事例として、福岡県内の中学生が複数のプレーヤーが戦い合う人気のオンラインゲーム「荒野行動」で知り合った何者かに大麻の購入を持ちかけられたというものがありました。全国では未成年者がオンラインゲームを通じて近づいてきた相手に誘い出され、犯罪に巻き込まれたケースもあり、インターネット上で協力していくうちに知らない人同士も親密になるオンラインゲームの特性が悪用されたという点で今後注意が必要です。報道(令和元年12月30日付毎日新聞)によれば、全国の警察は、未成年者がSNSを通じて売買春や違法薬物売買などの犯罪に巻き込まれないようツイッターなどの書き込みを監視する「サイバーパトロール」で一定の成果を上げているものの、「対策はツイッター中心で次々と新作が生まれるオンラインゲーム対策まで手を付けられていない」という捜査関係者の話を紹介していますが、だからこそ、犯罪者が様々なサービスを次々と犯罪インフラ化しているのだということを痛感させられます。

さて、参考までに、SNSの犯罪インフラ化の懸念に関連して、先日発生した大阪市女児誘拐事件をふまえた注意喚起が、総務省が出されていますので、以下紹介します。

▼総務省 大阪市女児誘拐事件踏まえた利用者への注意喚起に関する要請
▼別添

総務省では、青少年ネット利用環境整備協議会に対して、協議会の加盟各社において青少年の安心・安全なインターネット利用に向けた丁寧な周知等、必要な措置を講じていただくことについて、以下のような要請を行っています。

  • 総務省では、青少年が安全に安心してインターネットを利用できる環境の整備等に関する法律(平成20年法律第79号)等に基づき、青少年が安心・安全にインターネット等を利用できるための様々な取組を関係府省庁や関係事業者・団体とともに進めている
  • 近年、青少年のスマートフォン等のインターネット接続機器の利用が急速に進んでおり、多くの青少年がSNSを利用するようになっている。今般、SNSの不適切な利用等により、青少年が犯罪に巻き込まれる深刻な事案が発生したところ。未来を担う青少年が、このようなリスクに対する適切な対応を理解した上で、SNS等を正しく利活用できる環境を整えることが非常に重要
  • 貴協会の加盟各社におかれては、上記の趣旨を御理解いただき、自社のサービスの特徴に応じて、青少年の安心・安全なインターネット利用に向けた丁寧な周知や環境の整備等、必要な措置を講じていただくよう、よろしくお願い申し上げる

さて、企業主導型保育事業を巡る助成金不正請求問題については、本コラムでもたびたび取り上げてきましたが、内閣府の調査の結果、不正に請求された助成金の額が2016~18年度の3年間で少なくとも計約8億3,000万円に上ることが分かったということです。以前の本コラム(暴排トピックス2019年11月号)でも会計検査院の指摘を紹介しましたが、助成金詐取の事件が相次ぎ、そもそも制度上の不備(脆弱性)が指摘されているところであり、内閣府は助成金の審査をより厳格にするとしていますが、当初の制度設計の段階からリスク(助成金不正請求リスク)をしっかりと洗い出し、また問題が発覚してからではなく、「中間管理」を厳格に行いながら制度上の脆弱性を改善していくべきです。そして問題なのは、この件に限らず、国の制度には多かれ少なかれ同様の構図(脆弱性)が存在し、それが犯罪に悪用されている実態が数多くあるということです。国の制度の「犯罪インフラ化」とでもいうべき状況は、その原資が国民や事業者の「税金」であることを鑑みれば、極めて憂慮すべき問題です。この点については、直近でも以下のような問題が報じられています。

  • 堺市堺区で児童発達支援事業所を運営する3社について、児童福祉法の規定をもとに指定障害児通所支援事業者の指定取り消し処分にすると発表しています。報道によれば、A社は同区内で3施設を運営、平成29年1月から今年9月にかけ、支援管理責任者や保育士、看護師が常勤で配置されていなかったにもかかわらず、常勤として申告するなどして、給付費計約7,850万円を不正に受領していたということです。さらに、9月に行われた市の監査の際、虚偽のタイムカードや給与明細を作成し、非常勤職員を常勤職員として雇用しているかのように装うなど、市の検査を妨害したとしていいます。今回、このA社以外にも2社、同様の不正受領が判明したということですので、(虚偽申請を見抜くことができない)制度上の不備、運用上の不備が存在し、それが事業者側に見透かされていた(悪用されていた)ことは明らかだといえます。
  • 兵庫県警は、約2年間で約1,700件(約1万点、約3億円相当)の盗みなどを繰り返していたとして、事業所の元運営者ら5人を窃盗や盗品等有償譲り受けなどの容疑で送検しています。報道によれば、元経営者らは障害者就労継続支援事業所を設立し、リサイクル品の洗浄作業を行うとして募集した複数の障害者に対し、盗品の一部のゴルフクラブなどを磨かせたり、梱包させたりし、オークションサイトなどに出品されていたということです。事件では、就労支援を装った事業所で、事情を知らない障害者が窃盗グループの「手足」として働かされていたことになります。報道ではさらに、「しかし、神戸市は不正に気づけず、指導体制の拡充が求められている。事業所を認定する際の審査は書類だけで、市は一度も立ち入り指導はしていなかった。不正は県警の捜査の過程で発覚し、市は今年1月、施設側からの廃止届に基づき認定を取り消した」としていますが、正に行政側の制度上の不備、運用上の不備が存在し、それが事業者側に見透かされていた(悪用されていた)という点では、前述の事件と全く同じ構図だといえます。
  • 外国人観光客向けの免税制度を悪用し、不正に消費税の還付を受けたなどとして、大阪市内に9店舗あるドラッグストアチェーンの運営会社2社が、大阪国税局から計約4,000万円の追徴課税を受けていたことが分かりました。報道によれば、免税店は外国人観光客に免税品として売った商品の消費税を受け取らない代わりに、商品を仕入れた際に支払った消費税分の還付を受けることができる制度(ただし1日に客1人に免税販売できるのは、化粧品などの消耗品は50万円以下と定められています)がありますが、50万円を超える販売分などを免税販売だったと偽り、あるいはレシートを分割発行し、複数人に売ったように装うなどして不正に消費税の還付を受けていたということです。同社は「不正はなかった」とコメントしていますが、脱法的な運用であることに相違なく、制度上の脆弱性が突かれた形です。
  • 環境省は、地球温暖化対策の広報事業を委託した博報堂とみずほ情報総研が、2016年度と17年度に不適切な運用をしていたと発表しています。一般を対象にした「地球温暖化防止コミュニケーター」の養成セミナーに、日当を払って83人を参加させていたというものです。コミュニケーターは、自治体や企業に勤める社会人や学生らに、無報酬で温暖化対策の取り組みを広めてもらうのが目的で、博報堂とみずほ情報総研は、全国各地で開催する養成セミナーの運営を委託されていたといいます。

その他、最近の報道から、犯罪インフラに関するものをいくつか紹介します。

  • 医薬品卸大手メディセオの山梨県内支店で昨年2月、向精神薬100錠を紛失していたことが分かりました。また、上野原市立病院で2017年5月に向精神薬の注射液4管を紛失していたことも分かりました。報道によれば、毎日新聞が山梨県への情報公開請求で判明したもので、麻薬及び向精神薬取締法は向精神薬120錠以上、注射剤の場合は10アンプル以上などが不明になった場合、都道府県知事などへの届け出を義務付けているものの、厚生労働省は120錠以下でも盗難などの場合は都道府県知事に届け出るよう呼び掛けているところ、届出をしていなかったというものです。向精神薬の横流しは「貧困ビジネス」の代表的なものであり、事業者の管理の脆弱性がそのような犯罪を助長している実態があります。事業者には、一層の厳格な管理を求めたいと思います。
  • 本コラムでも関心をもって紹介している富裕層による租税回避地への資産隠しや、海外の取引法人を利用した税逃れ行為について、そのような行為が後を絶たない中、国税庁は、海外の税務当局と金融口座情報を交換するCRS(共通報告基準)により、2019年分として日本の個人や法人が85カ国・地域に保有する口座情報約189万件(11月末時点)を入手したと発表しています。国税庁は富裕層や企業による国際的な税逃れの監視に力を入れており、入手した口座情報は税務調査などに活用するとしており、初回の2018年分の交換では残高1億円超の口座などの情報を対象とし、2019年6月までに約74万件を入手、2回目の2019年分は残高1億円以下の口座なども交換の対象に加わり、入手情報が大幅に増加しています。前回の本コラム(暴排トピックス2019年12月号)では、富裕層に金融口座の取引履歴を保存するよう要請、税務当局が海外収入について申告漏れの疑いを見つけた場合、履歴の提出を求め、富裕層が提出した履歴から申告漏れが発覚した場合は、加算税を軽減する仕組みを税制改正でつくり、富裕層の自主的な履歴の保存を促す仕組みの導入が検討されていることを紹介しましたが、「国外財産調書」の提出義務などこれらの取り組みが進展することで、国際課税逃れの防止がますます進展することを期待したいと思います。
(6)その他のトピックス

1.暗号資産(仮想通貨)を巡る動向

冒頭紹介した「犯罪収益移転危険度調査書」によれば、平成30年中に暗号資産交換事業者が不正アクセスなどを受け、外部に不正送金された金額が約677億3,820万円相当に上ったといいます。件数は167件で前年比20件増だった一方で、金額は100倍以上の増加となりました。本コラムでも取り上げてきたとおり、平成30年1月に仮想通貨交換事業者「コインチェック」から約580億円相当の仮想通貨「NEM」が外部流出したのに続き、同年9月にはテックビューロでも約70億円相当が流出し全体の金額を押し上げる形となりました。これらの背景要因として(繰り返しとなりますが)「仮想通貨を取り扱う事業者において、事業規模が急激に拡大する中、マネー・ローンダリング等の各種リスクに応じた適切な内部管理体制の整備が追いついていなかったこと等が要因となっているとみられるものもある」と指摘しています。なお、580億円相当の仮想通貨NEMが流出した事件について最近進展があり、警視庁がNEMを他の仮想通貨に交換した男ら数人の関係先を組織犯罪処罰法違反(犯罪収益収受)容疑で家宅捜索しています。報道によれば、男らはNEMが違法に流出したと知りながら、他の仮想通貨と交換した疑いが持たれており、警視庁サイバー犯罪対策課が近く、同容疑で立件する方針だということです。なお、本件については、令和元年12月21日付日本経済新聞に簡単にまとめられており、それによると、「事件は2018年1月に発生。ウイルスに感染した従業員のパソコンを通じてコインチェックの社内ネットワークに侵入され、顧客のNEMが流出した。18年2月には匿名性の高い闇サイト群「ダークウェブ」上に、NEMを別の仮想通貨のビットコインなどと交換するサイトが出現した。このサイトは流出に関与したハッカーが開設したとみられ、通常の相場より割安の価格でビットコインなど他の仮想通貨をNEMと交換すると呼びかけていた。多数の人物が交換に応じ、18年3月までにほぼ全てが交換された。同課は交換に応じた男らを特定し、11月末に関係先を家宅捜索した」ということです。暗号資産の交換や現金化の時点の詳細な内容を分析することで、マネー・ローンダリングの手口の解析や本件の首謀者であるクラッカーの特定につながることを期待したいと思います。

また、金融庁は平成29年4月に仮想通貨交換業者を登録制とする改正資金決済法を施行しましたが、その際、法施行前から営業していた業者は経過措置として、登録申請すればそのまま営業できる「みなし業者」が存在していました(最も多い時で15社)。それが、直近で「みなし業者」がゼロとなり、施行から2年半あまりですべての事業者が正式な登録業者に移行したことになります。また、直近では、暗号資産の自主規制団体である日本仮想通貨交換業協会が、交換業者の顧客のメールアドレスが不正流出した可能性があるとして、注意喚起を行っています。交換業者を通じて取引サービスのパスワードの変更などを促す一方で、「アドレスは交換業者から不正流出したものではない」としています。複数の交換業者の顧客のアドレスが流出しているとの報道もありますが、同協会のサイトには十分な情報が掲載されていません。昨年も暗号資産の流出事件は続き、暗号資産を取り巻くセキュリティ上の懸念は顧客にとってはもっとも知りたい部分であって、すべての協会員が登録事業者である以上、問題が発生した場合には、適切な措置と十分な情報開示が求められることを認識すべきだと思います。

さて、暗号資産を代表するビットコインについては、今年はその値動きに注意が必要となりそうです。令和元年12月20日付ロイターの報道に詳しいのですが、今年、ビットコインの生産が「半減」することが予定されています。これはビットコインの生みの親、サトシ・ナカモトなる人物が10年以上前にコードに書き込んだとされるルールであり、ビットコインの希少性を守るとともに、ビットコイン価格のインフレを抑えるため、コインの「採掘者(マイナー)」に与えられる新コインの数がほぼ4年ごとに半減される仕組みで、次は今年5月にこれが起きる見通しとなっているということです。報道によれば、ビットコインの市場規模約1,200億ドルに対し、毎年の発行規模は数十億ドル相当とのことで、「半減」は大きな変化をもたらすことが想定されます(ボラティリティーの上昇で出来高が膨らみ価格の上昇が見込まれる一方で、すでに多くのトレーダーが対策を講じ始めており市場の織り込みも進むのではないかとの予測もあります)。

また、関連して、暗号資産の今後の課題としては、技術の進歩などに対して(暗号資産の基盤となる)ブロックチェーン技術が長期的にみてシステム上や活用・運用面などでの脆弱性が生じるのではないかという懸念があるとされます。ブロックチェーン技術は、耐改ざん性やシステム全体の安全性の高さなどが特徴である半面、今後、取引で付与されているデジタル署名に必要な秘密鍵が推定されてしまう懸念などが否定できず、専門家等から暗号資産の盗取などに至る可能性が指摘されています。暗号資産やブロックチェーン技術を構成しているものが最新の知見であっても、犯罪者が同等以上の知見を得た時点でそれは危険極まりないものとなります。このような課題の行方については、注意深く見守っていく必要があります。

さて、本コラムでは、ここ最近、米FBの構想する米ドルなどの法定通貨に裏打ちされたデジタル通貨「リブラ」を巡る議論、そこから拡がる国際的な「ステーブルコイン」の議論について取り上げています。リブラに対する大きな懸念は、(サイバー攻撃による窃取リスク、マネー・ローンダリングやテロ資金供与等への悪用リスク、プライバシー侵害リスク等に加え)国家主権の中核である通貨発行権を脅かしかねないという点にほぼ収斂されています。一方、その間隙を突くように、中国は「デジタル人民元」発行の準備を加速させているほか、欧州中央銀行(ECB)やウルグアイ、スウェーデンなども検討を開始しているといいます(国際決済銀行(BIS)によれば、世界の63中央銀行のうち7割がデジタル通貨に強い関心を示していると報じられています(令和元年12月29日付時事通信))。そこに、米中両国の対決構図(基軸通貨を巡る覇権争い)も絡み、デジタル通貨の行方に注目が集まっている状況が続いています。そもそも、20億人のユーザーを抱えるFBのリブラが定着すれば、明らかに国際資金の流れは大きく変わり、金融経済規模の小さい国であれば「リブラ化」する可能性は否定できません。正に「通貨発行権」という経済政策の根幹に対するチャレンジ(殴り込み)に政府・中央銀行はどう対峙するのかが問われています。一方、技術革新によって「民間銀行」がこれまで提供してきたさまざまなサービスを、細分化し低コストで提供する流れは加速しており、すでに多くの送金業者や決済提供業者が存在し多様なサービスを提供し始めていますが、「少額な国際資金送金」に対してもリブラはチャレンジ(殴り込み)をしかけることになります。また、リブラなどの民間のデジタル通貨と中央銀行発行のデジタル通貨が競合するようなことになれば、「民間銀行」を衰退に追い込むことにもなりかねません。また、デジタル通貨によって個人や企業の取引情報がすべて、発行主体の知るところとなれば「監視経済」「監視社会」化が進むこともリアルに想像できるところです。リブラの「破壊力」は、国(政府)・中央銀行・金融、そして国民にとって、あるいは「お金」そのものにとって、その存在意義を再定義させる必要があるほどの大きさだといえ、今後の議論に注目していきたいと思います。以下、前回に引き続き、世界各国や規制当局等のリブラに対する姿勢について、簡単に集約していますので、あわせて参考にしていただきたいと思います。

  • 中国人民銀行(中央銀行)が計画する「デジタル人民元」が欧米主導の国際金融秩序を揺さぶる可能性をはらむ中、欧州中央銀行(ECB)もデジタル通貨の発行を検討、焦りすら見せ始めているようです。ECB理事会メンバーは「ECBが他の中銀に先駆けて、デジタル通貨を発行したいなら早急に動く必要がある」と発言、ラガルド総裁も「既に作業部会を立ち上げており、取り組みを加速させる」と述べています。
  • スウェーデンの中央銀行は、コンサルティング大手アクセンチュアと連携して、デジタル通貨「e-クローナ」の実験運用を始めると発表しています。2020年以降、実験環境下で機能するかどうか運用し、技術的な問題を検証するといいます。スウェーデン中央銀行は世界の主要中央銀行に先駆けてデジタル通貨を導入したい考えとみられています。スマホなどを使ったデジタル通貨の支払いを可能にするようなシステムを開発、実験に参画する決済サービス業者や小売店で同システムが問題なく利用できるかどうかを調査するとのことです。
  • 中国人民銀行(中央銀行)の陳雨露・副総裁は、リブラなどステーブルコインが世界的に利用されれば、人民元の国際化を妨げる要因になる可能性があるとの認識を示しています。ステーブルコインが資本規制の効果を弱め、資産価格が不安定になれば、金融の安定に影響が出る恐れがあるとも指摘したといいます。
  • エストニアのカリユライド大統領は、リブラについて「通貨として成り立たない」と指摘しています。相場乱高下の可能性やマネー・ローンダリングに悪用されることを懸念しているようです。同国はブロックチェーン技術を活用して行政のデジタル化を進め、IT先進国として知られていますが、デジタル通貨については否定的な見方を示す形となりました。
  • スイスのマウラー大統領は、リブラプロジェクトは現行の形では頓挫するとし、承認には修正が必要との見解を示しています。報道によれば、「リブラを裏付ける通貨バスケットを中央銀行が受け入れないため、リブラプロジェクトは現行の形では頓挫する」と述べています。

2.IRカジノ/依存症を巡る動向

カジノを含む統合型リゾート(IR)事業を巡り、事業への参入を目指していた中国企業側から現金300万円などの賄賂を受け取ったとして(ほかにも、家族で北海道旅行への招待を受け、旅費など計約70万円相当の利益供与を受けたとされ)、内閣府のIR担当副大臣だった秋元司衆議院議員が収賄容疑で逮捕された事件は、IR誘致を目指す各自治体に衝撃を与えています。報道によれば、政府関係者は「IR事業者は賄賂を持ってくる悪い連中だという印象が強まるかもしれないが、逮捕された中国の事業者はそもそもIR事業者ではない」と断言した上で、IR政策をスケジュール通りに粛々と進めていく方針を示すなど火消しに躍起ですが、ただでさえ、犯罪組織の関与やマネロン、ギャンブル依存症など負の側面が問題視されていたところ、現職国会議員の逮捕でさらなるイメージダウンを招くことは避けられそうになく、誘致反対の動きも強まることが考えられます。なお、本件については、「「大した力はないが、お調子者で、危ない筋とも付き合っていた」。自民ベテラン議員は秋元議員をそう評す。その議員活動をたどると、娯楽産業との最初の接点はパチンコ業界にあった」(令和元年12月26日付朝日新聞)、「秋元容疑者の資金集めに注目し、数年前から情報収集を進めていたという特捜部の捜査が、秋元容疑者周辺に迫ったのは、今年7月。特捜部が手がけた国の企業主導型保育事業をめぐる詐欺事件だった。捜査の過程で詐欺罪で起訴された男性被告が、秋元容疑者の政治資金パーティー券を複数企業に数百万円分購入させていたという疑惑が浮上したのだ。ある検察幹部は「IRをめぐっては水面下で巨額のカネが動いている。どこまで金脈を明らかにできるかが問題だ」と話した」(令和元年12月25日付産経新聞)といった報道も相次いでいます。そして、この問題は、他に国会議員5人(自民党4人、日本維新の会1人)にも現金を渡したと中国企業が供述し、さらに深刻さを増しています(しかも、5人は、北海道を含むIR誘致を検討していた自治体出身の議員や超党派でつくる「国際観光産業振興議員連盟(IR議連)」の幹部らで、閣僚経験者や現職の政務官も含まれるとされます)。IRカジノ事業は巨額の資金が動くものであるがゆえに、政府は「世界最高水準の廉潔性」を掲げて推進しているのであり、このような形で「廉潔性」を汚すことになるのは極めて残念です。

その一方で、各自治体は誘致に向けて本格的に動き始めています。大阪府・市は、横浜市や和歌山県、長崎県など誘致を表明した自治体に先駆けて事業者の公募を始めました。同府・市は2025年国際博覧会(大阪・関西万博)の開幕前の開業を目指してきましたが、工期の短さを懸念する事業者側に配慮し、公表した募集要項では万博後の2026年度の開業も認めるものとなっています。既に米MGMリゾーツ・インターナショナルとオリックスの共同チーム、シンガポールのゲンティン・シンガポール、香港のギャラクシー・エンターテインメントの3組が名乗りを上げており、府・市の審査が本格化することになります。

▼大阪府・大阪市 大阪・夢洲地区特定複合観光施設区域整備 実施方針(案)

本コラムとの関係の深い「懸念事項対策」に関係する部分について、以下、抜粋して紹介します。

まず、「第4特定複合観光施設を構成する施設の種類、機能及び規模に関する事項並びに設置運営事業等に関する事項2.懸念事項対策に関する事項」として、「設置運営事業者は、IR関係法令等に従うほか、以下に掲げる基準・要件等を充足の上、自らの創意工夫とノウハウを最大限活かして本事業を実施する」としています。

  • ギャンブル依存症対策

設置運営事業者は、懸念事項対策を適切に行うため必要な措置として、以下のとおり、ギャンブル依存症対策を実施する。

  1. IR関係法令等及びギャンブル等依存症対策基本法等の関係法令の遵守
  2. 責任あるゲーミングに対する積極的な取組み
  3. 国及び大阪府・市と緊密に連携するとともに、国及び大阪府・市が実施する施策への協力
  4. ギャンブル依存を防止するための、IR区域内での予防啓発、カジノ施設への厳格な入場管理、本人申告による賭け金額等の上限設定、24時間・365日利用可能な相談体制の整備、連携協力体制の整備、専門人材育成への協力、調査研究の推進への協力など
  • 治安・地域風俗環境対策

設置運営事業者は、カジノ施設の設置及び運営に伴う有害な影響の排除を適切に行うために必要な措置として、以下のとおり、良好な治安の確保及び善良な地域風俗環境の保持に向けた万全の取組みを実施する。

  1. IR整備法等の関係法令の遵守
  2. 自主的な防犯対策及び自主警備の徹底、体制の整備
  3. 大阪府・市及び大阪府公安委員会との情報共有
  4. 大阪府・市及び大阪府公安委員会が実施する施策への協力
  5. 組織犯罪対策、暴力団等反社会的勢力対策、テロ対策、犯罪防止対策、地域風俗環境対策及び青少年対策等について、万全な対策の実施

また、「第6カジノ施設の設置及び運営に伴う有害な影響の排除を適切に行うために必要な施策及び措置に関する事項」として、「ギャンブル依存症対策や治安・地域風俗環境対策といった懸念事項対策を確実に実施する上では、国、地方公共団体、設置運営事業者等をはじめとする各関係者が、関係法令等に基づき的確に各々の役割を果たすとともに、一体となって対策を講じることが必要である。大阪・夢洲におけるIR区域整備の推進に当たって、大阪府・市及び設置運営事業者は、以下のとおり、適切かつ確実に各々の役割を果たすとともに、国も含めて緊密な連携を図りながら、海外の先進事例に学び、大阪の実状を踏まえた万全の対策を実行していく」としています。

1.ギャンブル等依存症対策

大阪府・市では、国の取組みと連携しつつ、依存症対策のトップランナーをめざし、発症・進行・再発の各段階に応じた、防止・回復のための対策について、世界の先進事例に加え、大阪独自の対策をミックスした総合的かつシームレスな取組み(大阪モデル)を構築していく。また、IR整備法に基づく地方公共団体としての責務として、カジノ施設の設置及び運営に伴う有害な影響の排除を適切に行うために必要な施策を策定・実施するとともに、国のギャンブル等依存症対策推進基本計画を基本とし、大阪の実状を踏まえた大阪府ギャンブル等依存症対策推進計画を策定し、有効な対策を着実に実施する。具体的に、大阪府・市、関係機関においては、以下のような取組みを実施する。

  1. 普及啓発、青少年向け予防教育の推進
  2. 相談支援体制の強化
  3. 治療体制の強化
  4. 回復支援体制の強化
  5. 地域支援ネットワークの強化
  6. ICT・AI技術を活用するなど先進的な依存症対策研究の推進
  7. 府域における実態の把握など

2.治安・地域風俗環境対策

大阪府・市及び大阪府公安委員会は、良好な治安の確保及び善良な地域風俗環境を保持するため、警察官の増員や夢洲における警察署等警察施設・交通安全施設の設置の検討を進め、警察力の強化を図るとともに、地域防犯の推進を図る。また、IR整備法に基づく地方公共団体の責務として、カジノ施設の設置及び運営に伴う有害な影響の排除を適切に行うために必要な施策を策定・実施する。具体的には、以下のような取組みを実施する。

  1. 警察官の増員、夢洲における警察署の設置など、警察力の強化
  2. 防犯、警備体制等について設置運営事業者への指導・助言
  3. マネー・ローンダリング、暴力団等の事業介入への対策など、犯罪収益対策の推
  4. 情報収集・警戒警備など、各種テロ対策の推進
  5. 防犯環境にかかる対策の推進
  6. 少年の健全な成長を阻害する行為から保護するための対策の推進など

大阪府・大阪市以外では、横浜市が、IR事業者など7者が事業構想を提出したと発表しています。あらかじめコンセプト提案の募集(RFC)で参加登録をしていた全ての事業者が提出したといいます。同市は2020年に構想について事業者と意見交換し、実施方針の策定に役立てるとしており、2019年度末までにIRの条件などを定めた「実施方針」を策定、2020年度以降の事業者の公募・選定などに向けて準備するとし、このままいけば、2020年代後半のIR開業に向け準備が進められる見通しとのことです。さらに、和歌山県は、国の基本方針が2020年1月に決定されれば、2020年春までに事業者の公募を始め、秋ごろに事業者を決める方針を示しています。同県は和歌山市の人工島「和歌山マリーナシティ」へのIR誘致を表明しており、2024年度の開業を計画しています。

さて、IRカジノ事業が本格化する時期となりましたが、本コラムでは国の基本方針案等が公表される前から、IRカジノ事業からの反社会的勢力排除のあり方について考察を重ねてきました。最近の報道でも、たとえば、IR整備法には、暴力団員をカジノの運営や利用から排除する規定が盛り込まれてはいるものの、「犯罪歴などのデータがない場合、一般企業を装った暴力団の組織や個人を完全に識別して特定するのは容易ではない」(令和元年12月23日付東京新聞)といった指摘もあり、本コラムにおける問題意識も正にそこにあります。前回の本コラム(暴排トピックス2019年12月号)でも以下のとおり指摘していますので、あらためて強調しておきたいと思います。

そもそも論として、カジノ事業における反社会的勢力排除に向けた取り組みにとっての大前提は、カジノ事業に求められているのが「世界最高水準の廉潔性・適格性」「十分な社会的信用性」だという点です。それに対して、法令およびガイドラインで求められているのは、「暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律(平成3年法律第77号)第2号第6号に規定する暴力団員又は同号に規定する暴力団員でなくなった日から5年を経過しない者(以下「暴力団員等」という。)」の排除となっており、そこには大きな断絶があります。反社リスクが、後から問題視される「後付けリスク」によるレピュテーションの毀損をもたらすことをふまえれば、その時点で可能な最大限の努力を講じるべきであり、最低限の法令やガイドラインを守ればよいというものではないはずです。すなわち、法令およびガイドライン上の要請は「暴力団員等の排除」だが、それだけでよいのか、たとえば、暴力団員等との関係がうかがわれる「共生者」や「半グレ」、「特殊詐欺グループ」などは「十分な社会的信用性を有する者」とは言えないし、世界最高水準の廉潔性・適格性という観点を加味すれば、本来的には、事業者のこれまでの反社会的勢力排除の取り組み以上のレベル感で取り組むべきではないかということです。そして、反社会的勢力の実態をふまえれば、KYCでは不十分、KYCC(実質的支配者の確認)まで踏み込むべきであること、事業の長期的な安定性・継続性をふまえれば、高いレベルでの「中間管理」(適切な事後検証/継続的な顧客管理)が求められると認識すべきであること、あわせて、中途で排除すべき事情が発生した場合、「適切な排除」を実施する体制も求められることをしっかり認識し、法令およびガイドラインの趣旨をふまえ、「事業者が自ら高いレベル感を設定して取り組むべき」ではないかと指摘しておきたいと思います。

厚生労働省は、カジノや競馬、パチンコといったギャンブルの依存症治療について、来年度から公的医療保険の対象とする方針を固めました。中央社会保険医療協議会での議論を受け、依存症患者に対する適切な医療体制の整備が急務と判断したものです。IRカジノ事業の誘致が本格化する中、依存症対策が課題であり、対策の本格化は好ましいものですが、「ギャンブル依存症は自分の努力で回復すべきもの。安易に保険適用することで、(依存症患者が増えるなど)逆の方向に向かうかもしれない」などと、慎重な検討を求める声も一定数あることも事実です。このあたりの問題を考えるにあたっては、依存症対策に本格的に取り組む医療機関のひとつ「久里浜医療センター」のHPに「インターネット依存症」に関する情報が掲載されており、大変参考になりますので、以下紹介しておきます。

▼独立行政法人国立病院機構 久里浜医療センター インターネット依存 (嗜癖) について

1.嗜癖とは何を意味するのでしょうか?

  • ある習慣が行き過ぎてしまい、その行動をコントロールするのが難しいまでになった状況。その行き過ぎた行動のために、さまざまな健康問題や社会的問題をひきおこすことがある
  • 「嗜癖」とよく似た用語に「依存」がある。依存は嗜癖の一部で、嗜癖のなかで特に習慣の対象が何らかの物質の場合を指す。たとえば、アルコール依存、ニコチン依存、覚せい剤依存など
  • 「嗜癖」は「依存」とよく混同されて使われている。むしろ、ギャンブル依存、買い物依存のように、使われる方が一般的だが、これは間違った使い方

2.インターネット嗜癖とはどのようなものなのでしょうか?

  • インターネット嗜癖の一致した定義はまだ見られないが、キンバリー・ヤング(Kimberly S. Young, 1998)によれば、「インターネットに過度に没入してしまうあまり、コンピューターや携帯が使用できないと何らかの情緒的苛立ちを感じること、また実生活における人間関係を煩わしく感じたり、通常の対人関係や日常生活の心身状態に弊害が生じているにも関わらず、インターネットに精神的に嗜癖してしまう状態」と定義している
  • 実際に毎日のように10時間以上アクセスし、インターネットが原因で、家族や友人との関係に亀裂を生じたり、仕事や学校の勉強に支障をきたしているにもかかわらず、やめることができない人もいる。インターネットは便利で役立つすばらしいツールだが、行き過ぎた使用のために、健康問題や社会的問題を起こしうるまでになる

3.インターネット嗜癖者はどのくらいいるのでしょうか?

  • 中国ではインターネット嗜癖の青少年が1,300万人以上に上り、治療施設も300を超えているという。また韓国では、2011年5月の政府の発表によると、小学4年生、中学1年生、高校1年生を対象とした全国調査では、その94%にあたる89,755人にネット嗜癖の危険性が見られたという
  • 我々が2008年に実施した、成人人口から層化2段無作為抽出方法によって抽出した男女7500名を対象とした調査から、わが国成人のネット嗜癖傾向者は合計270万人におよぶと推計された。インターネット嗜癖は若者に増加していると推察されることから、調査対象を20歳以下にひろげればもっと多くの嗜癖者が存在すると思われる

4.インターネット嗜癖といってもそのタイプはさまざまです

  • ヤングらは5つの類型に分類
    • サイバーセックス依存(Cybersexual addiction) : サイバーセックスやサイバーポルノのためにアダルト・ウェブサイトを強迫的に使う
    • 人間関係依存(Cyber-relational addiction) : オンラインの人間関係にのめりこみすぎる
    • ネット強迫(Net compulsions) : とりつかれたようにオンライン・ギャンブル、オンライン・ショッピング、オンライン取引にのめり込む
    • 情報収集過剰(Information overload) : 強迫的なネットサーフィンやデータベース検索
    • コンピューター依存(Computer addiction) : 強迫的なコンピューターゲームの使用
  • 大野らは3つの類型に分類
    • リアルタイム型チャット依存:チャットやオンラインゲームなど、利用者同士がリアルタイムにコミュニケーションを行うことを前提としたウェブサービスへの依存
    • メッセージ型ネット依存:ブログ・BBS・SNSへの書き込みやメール交換など、利用者同士がメッセージを交換しあうウェブサービスへの依存
    • コンテンツ型ネット依存:ネット上の記事や動画などのコンテンツなど、受信のみで成立する一方向サービスへの依存

5.インターネット嗜癖はどのように治療するのでしょうか?

  • インターネット嗜癖そのものには確立された治療法はない。また、重症の嗜癖の場合には、背景に躁鬱病や発達障害といった精神疾患がある場合や、実生活において人間関係上や経済上深刻な問題を抱えており、そこからの逃避の場合もある
  • ヤングは、その著書「Caught in the Net」 (1998) の中でインターネット嗜癖からの回復のために必要なこととして、以下をあげている
    • 自分が失いつつあるものを知る : インターネットで費やす時間のために、切り詰めたり、削ったりしていることがらを書き出しランク付けする
    • オンラインにいる時間を計る : 自分がどれだけの時間をこの習慣に費やしているかを明確に知るために、実際に使った時間の記録をつける
    • 時間管理法を使う : 代わりにできる活動を見つける、自分の利用パターンを見きわめ、その反対のことをする、外部からの防止策をさがす、計画的なインターネットの利用時間を予定表に書き込む
    • 実生活のなかで支援を見出す : 支援グループを探す
    • 自分が嗜癖になったきっかけを探す
  • 韓国では政府が、K-scaleという独自のインターネット嗜癖スクリーニングのためのスケールを思春期の子どもたちに実施して、インターネット嗜癖の危険性の高い子どもたちを同定し、心理相談施設におけるカウンセリングやインターネット以外の楽しみを見つけられるような活動探し、治療キャンプなどが行われ、重症の嗜癖の場合には医療機関による薬物療法や認知行動療法、家族療法などが行われる

その久里浜医療センターが行ったゲーム依存症の実態調査の結果も報道されています(令和元年12月11日付産経新聞)。全国の10~29歳を対象に、ゲームに費やす時間や生活への影響について聞き、相関を分析、最近の1年について聞いたところ、85%がゲームをしていたこと、スマホを使うケースが多いこと、ゲーム時間は平日でも2時間以上が男性4割、女性2割に上ること、休日に6時間以上している者も12%いること、6時間以上ゲームをしている人で成績や仕事のパフォーマンス低下は3割、昼夜逆転は5割に上ること、腰痛など体の問題、睡眠障害など心の問題が起きても続けた人は各4割もいること、6時間以上で、学業に悪影響や仕事を失うなどしてもゲームを続けた人は25%、友人や恋人など大切な人との関係が危うくなってもやめられない人も15%いたことなどが判明しました。これらの結果を受け、同報道では、「他人と対戦できるオンラインゲームなどが発達し、長時間のめりこみやすい背景もある。優位に立つために課金するシステムもあり、高額な費用負担に苦しむ例もある。ゲームで過度の刺激を長時間受け、脳の損傷や萎縮が起きるなどの研究も報告されている。厚生労働省研究班の別の調査では中学、高校生のうち1割超がネットへの依存性が高く「病的使用」ともされている。教員や保護者をはじめ、周囲はゲーム依存の危険性など十分理解したい。久里浜医療センターのように予防や治療の専門機関もあるから、相談をためらうべきではない。自分からやめられないのが依存症の怖さである。大切な人間関係を失っても、ゲームが手放せないようでは、情報機器の活用とはほど遠い。」と指摘していますが、正にその通りです。ギャンブル依存症、薬物依存症、ゲーム依存症など、それは先に紹介した「ギャンブル依存症は自分の努力で回復すべきもの」との指摘をしているだけでは解決できない根深い「病気」であり、適切な治療と支援体制が求められるものだといえます。

3.犯罪統計資料

警察庁から最新の「犯罪統計資料(平成31年1月~令和元年11月分)」が公表されていますので、以下に紹介します。

▼警察庁 犯罪統計資料(平成31年1月~令和元年11月分)

平成31年1月~令和元年11月の刑法犯の認知件数の総数は688,375件(前年同期754,741件、前年同期比▲8.7%)、検挙件数の総数は272,440件(288,741件、▲5.6%)、検挙率は39.6%(38.3%、+1.3P)となり、ここ最近と同じく平成30年の犯罪統計の傾向が継続しています。犯罪類型別では、刑法犯全体の7割以上を占める窃盗犯の認知件数は489,471件(537,597件、▲9.0%)、検挙件数は168,119件(178,635件、▲5.9%)、検挙率は34.3%(33.2%、+1.1P)と刑法犯全体をやや上回る減少傾向を示しており、このことが全体の減少傾向を牽引する形となっています(ただし、検挙率がここのところ上昇傾向にあるのはよいことだと思われます)。うち万引きの認知検数は85,991件(91,678件、▲6.2%)、検挙件数は60,786件(66,368件、▲8.4%)、検挙率は70.7%(72.4%、▲1.7P)となっており、認知件数が刑法犯・窃盗犯を上回る減少傾向を示していることや検挙率が他の類型よりは高い(つまり、万引きは「つかまる」ものだということ)ものの、ここ最近、検挙率が低下傾向が続いている点は気になるところです。また、知能犯の認知件数は33,209件(38,835件、▲14.5%)、検挙件数は17,717件(18,339件、▲3.4%)、検挙率は49.7%(43.7%、+6.0P)、うち詐欺の認知件数は29,687件(35,128件、▲15.5%)、検挙件数は14,767件(15,343件、▲3.8%)、検挙率は49.7%(43.7%、+6.0P)ととりわけ検挙率が大きく高まっている点が注目されます。今後も、認知件数の減少と検挙件数の増加の傾向を一層高め、高い検挙率によって詐欺の実行を抑止するような構図になることを期待したいと思います。

また、平成31年1月~令和元年11月の特別法犯については、検挙件数は67,145件(68,766件、▲2.0%)、検挙件数は57,041件(58,361件、▲2.3%)となっており、最近は検挙件数が前年同期比でプラスとマイナスが交互する状況であり、特別法犯の検挙状況は横ばいの状況が続いています。犯罪類型別では、入管法違反の検挙件数は5,708件(4,789件、+19.2%)、検挙人員は4,323人(3,764人、+14.9%)、犯罪収益移転防止法違反の検挙件数は2,407件(2,413件、▲0.2%)、検挙人員は1,997人(2,041人、▲2.2%)、不正アクセス禁止法違反の検挙件数は759件(443件、+71.3%)、検挙人員は138人(106人、+30.2%)、不正競争防止法違反の検挙件数は60件(37件、+62.2%)、検挙人員は53人(47人、+12.8%)などとなっており、とくに入管法違反と不正アクセス禁止法違反、不正競争防止法違反の急増ぶりが注目されます(体感的にもこれらの事案が増加していることを実感していますので、一層の注意が必要な状況です)。また、薬物関係では、麻薬等取締法違反の検挙件数は844件(778件、+8.5%)、検挙人員は404人(367人、+10.1%)、大麻取締法違反の検挙件数は4,886件(4,253件、+14.9%)、検挙人員は3,908人(3,203人、+22.0%)、覚せい剤取締法違反の検挙件数は10,758件(12,895件、▲16.6%)、検挙人員は7,654人(8,991人、▲14.9%)などとなっており、大麻事犯の検挙が平成30年の傾向を大きく上回って増加し続けている一方で、覚せい剤事犯の検挙が逆に大きく減少し続けている傾向がみられます(参考までに、平成30年における覚せい剤取締法違反については、検挙件数は13,850件(14,065件、▲1.5%)、検挙件数は9,652人(9,900人、▲2.5%)でした)。

なお、来日外国人による重要犯罪・重要窃盗犯の検挙人員総数は453人(493人、▲8.1%)、中国90人(113人、▲20.4%)、ベトナム72人(66人、+9.1%)、ブラジル46人(48人、▲4.2%)、フィリピン31人(22人、+40.9%)、韓国・朝鮮26人(32人、▲18.8%)、スリランカ18人(15人、+20.0%)、アメリカ17人(9人、+88.9%)などとなっており、こちらも平成30年の傾向と大きく変わっていません。

暴力団犯罪(刑法犯)総数については、検挙件数は17,673件(17,869件、▲1.1%)、検挙人員は7,863人(9,068に人、▲13.3%)となっており、暴力団員数の減少傾向からみれば、刑法犯の検挙件数の減少幅が小さく(つまり、刑法犯に手を染めている暴力団員の割合が増える傾向にあるとも推測され)、引き続き注視していく必要があると思われます。うち傷害の検挙件数は1,428件(1,674件、▲14.7%)、検挙人員は1,691人(1,878人、▲10.0%)、窃盗の検挙件数は10,289件(9,805件、+4.9%)、検挙人員は1,331人(1,530人、▲13.0%)、詐欺の検挙件数は2,145件(2,155件、▲0.5%)、検挙人員は1,349人(1,580人、▲13.0%)などとなっており、「令和元年上半期における組織犯罪の情勢」において、「近年、暴力団は資金を獲得する手段の一つとして、暴力団の威力を必ずしも必要としない詐欺、特に組織的に行われる特殊詐欺を敢行している実態がうかがえる」と指摘されていることに加え、最近では窃盗犯の検挙件数の増加が特徴的でもあり、「貧困暴力団」が増えていることを推測させることから、こちらも今後の動向に注視する必要があると思われます。また、暴力団犯罪(特別法犯)総数については、検挙件数は7,519件(9,114件、▲17.5%)、検挙人員は5,380人(6,671人、▲19.4%)となっており、特別法犯全体の減少傾向を大きく上回る減少傾向となっている点が特徴的だといえます。うち暴力団排除条例の検挙件数27件(14件、+92.9%)、検挙人員は46人(53人、▲13.2%)であり、暴力団の関与が大きな薬物関係では、麻薬等取締法違反の検挙件数は177件(154件、+14.9%)、検挙人員は54人(47人、+14.9%)、大麻取締法違反の検挙件数は1,048件(1,092件、▲4.0%)、検挙人員は699人(718人、▲2.6%)、覚せい剤取締法違反の検挙件数は4,870件(6,289件、▲22.6%)、検挙人員は3,316人(4,334人、▲23.5%)などとなっており、とりわけ覚せい剤から大麻にシフトしている状況がより鮮明になっている点やコカインやMDMA等と思われる麻薬等取締法違反が検挙件数・検挙人員ともに伸びている点が注目されるところです(なお、平成30年においては、大麻取締法違反については、検挙件数は1,151件(1,086件、+6.0%)、検挙人員は744人(738人、+0.8%)、覚せい剤取締法違反については、検挙件数は6,662件(6,844件、▲2.7%)、検挙人員は4,569人(4,693人、▲2.6%)でした。また、暴力団員の減少傾向に反してコカイン等への関与が増している状況も危惧されるところです)。

4.再犯防止を巡る動向

前回の本コラム(暴排トピックス2019年12月号)においては、「令和元年犯罪白書」と「再犯防止推進白書」について紹介しました。たとえば、入所受刑者の状況については、年齢層別(入所)では、高齢者の増加が顕著であること(平成元年の315人から平成30年には2,222人にまで約7倍以上となっています)、また再犯者率については、再犯者人員は平成18年(149,164人)をピークに漸減傾向(平成30年は平成18年と比べて▲32.6%)にあるほか、初犯者人員は平成16年(250,030人)をピークに減少(平成30年は平成16年と比べて▲57.8%)にある一方で、再犯者率は平成9年以降一貫して上昇していること(平成30年は平成期で最も高い48.8%)、再入者人員は平成18年(16,528人)をピークに減少傾向にあること(平成30年は10,902人で前年比▲5.0%)、再入者率は平成16年~平成28年は毎年上昇、平成30年も59.7%で前年比+0.3Pとなっていることがあげられます。なお、出所事由別再入率では、満期釈放者は仮釈放者と比べて相当高いこと、5年以内再入率については、平成26年出所受刑者では約4割の者が5年以内に再入所、うち約半数が2年以内に再入所、10年以内再入率では、平成21年出所受刑者のうち満期釈放者では56.0%、仮釈放者では35.5%などとなっています。また、出所事由別再入率の推移としては、総数の2年以内再入率(23.4%)及び5年以内再入率(46.9%)は平成11年をピークに低下傾向にあり、総数の2年以内再入率は、平成22年以降は20%を下回る状況が続いていることも指摘されています。これらの点について、先ごろ開催された再犯防止対策推進会議の会合では、「再犯防止推進計画」(2018~22年度)を加速するための具体案として、受刑者が刑務所を出た後、再び入所する「出戻り」を減らすため、仮釈放者に比べて再入所率が高い満期釈放者に対する支援を重視する内容が盛り込まれています。満期釈放者の再犯につながる要因として住む場所がないことを指摘、更生保護施設や住み込みに応じる雇用主などと連携して「居場所の確保に努める」と明記しています。さらに、暴力団から離れるための相談態勢を整えることも明記しています。本計画については、以下、主要な部分を抜粋して紹介します。

▼首相官邸 犯罪対策閣僚会議(第32回)
▼資料1-2 「再犯防止推進計画加速化プラン」(案)

まず、満期釈放者対策の充実強化については、以下のとおり指摘したうえで、出所受刑者の2年以内再入率について、満期釈放者は仮釈放者の2倍以上の差があり、全体を16%以下にするという政府目標を確実に達成し、更に数値を下げるためには、満期釈放者対策は不可欠として、令和4年までに、満期釈放者の2年以内再入者数を2割以上減少(2,726人(直近5年間の平均)から2,000人以下に減少させる)ことを目標と掲げています。

満期釈放者の2年以内再入率が仮釈放者のそれと比較して高い背景として、刑事施設釈放後、仮釈放者は、保護観察を通じて、保護観察官等の指導監督を受けながら、個々の実情に応じた必要な支援に結びつける様々な援助を受ける機会があるのに対し、満期釈放者は、支援を受ける機会がより限定されていることが挙げられる。

また、受刑者が満期釈放となる背景として最も多いのは、社会復帰後の適当な帰住先が確保されないことであり、刑事施設において仮釈放の申出がなされなかった理由の約4割を住居調整不良が占めている。そして、満期釈放者の約4割が出所後、ネットカフェやビジネスホテルなど不安定な居住環境に身を置かざるを得ない状況にある

さらに、満期釈放者の再犯率が高い背景としては、社会復帰後の安定した生活を送るために必要な支援を社会内で継続的に受けられていないことが挙げられる。

こうした課題を解決するため、刑事施設と保護観察所が緊密な連携を図りながら、刑事施設入所早期に行うニーズ把握から出所後の各種支援に至るまで、切れ目のない“息の長い”支援体制を構築することで、社会での適当な帰住先を確保した状態で社会復帰させるための施策の強化を図るとともに、満期釈放となった場合であっても、地域の支援につなげる仕組みを構築することが必要である。

さらに、具体的な取り組みとして、たとえば、「刑執行開始時調査等により刑事施設入所早期から受刑者個々の社会帰に向けたニーズを把握するだけでなく、刑事施設在所期間中の様々な機会において、働き掛けや指導等を行い、社会復帰に向けた意欲を高める」、「警察及び暴力追放運動推進センターにおいては、矯正施設と連携し、暴力団員の離脱に係る情報を適切に共有するとともに、矯正施設に職員が出向いて、暴力団員の離脱意志を喚起するための講演を実施するなど、暴力団員の離脱に向けた働き掛けを行う」、「刑事施設と更生保護官署の連携の下、生活環境の調整を充実強化することにより、受刑者の帰住先の確保を促進するとともに、改善指導等の矯正処遇や就労支援を始めとする社会復帰支援を充実させ、悔悟の情や改善更生の意欲のある受刑者については、仮釈放を積極的に運用する」、「釈放後の支援の必要性が高い満期釈放者について、生活環境の調整の結果に基づき、刑事施設、保護観察所、公共職業安定所、更生保護就労支援事業所、地域生活定着支援センター及び地方公共団体が就労支援職場への定着支援及び福祉サービスの利用支援等の面での連携を強化し、更生保護施設、自立準備ホーム、住込み就労が可能な協力雇用主、福祉施設、公営住宅等の居場所の確保に努める。また、居住支援法人と連携した新たな支援の在り方を検討する」、「暴力団離脱者については、警察のほか、暴力追放運動推進センター、職業安定機関、矯正施設、保護観察所、協賛企業等で構成される社会復帰対策協議会の枠組みを活用して、暴力団離脱者のための安定した雇用の場の確保に努める」、「暴力団からの離脱に向けた指導等を担当する警察職員等に対し実務に必要な専門的知識を習得させるための教育・研修の充実を図る」といった内容が盛り込まれています。とりわけ、暴力団離脱者支援の問題が喫緊の課題とされる中、(真に更生したい者を正しく導き、生活環境・就職支援等によってその基盤を用意することが重要であることは間違いなく)再犯防止推進の観点とあわせ強力な支援体制が構築されることを期待したいと思います。

また、地方公共団体との連携強化の推進については、「高齢、障害、生活困窮等の様々な生きづらさを抱える犯罪をした者等の再犯を防止し、その立ち直りを実現するためには、従来の刑務所等からの円滑な社会復帰を目的とした支援だけでは不十分であり、地方公共団体や民間団体等と刑事司法関係機関が分野を越えて連携する、切れ目のない“息の長い”支援が必要である」と指摘したうえで、地方公共団体による取り組みが重要視される中、再犯防止推進法に基づく地方再犯防止推進計画を策定した地方公共団体は一部にとどまっていることをふまえ、令和3年度末までに、100以上の地方公共団体で地方計画が策定されるよう支援することも盛り込まれています(現状、策定団体数は22団体にとどまっています)。さらに、「“息の長い”支援を実現するためには、更生保護ボランティアや少年警察ボランティア、更生保護法人、協力雇用主、教誨師や篤志面接委員といった、これまで長年に渡って犯罪をした者等の立ち直りを支援してきた民間協力者に加え、ダルク等の自助グループ、医療・保健・福祉関係等の民間団体、企業等は不可欠な存在であり、その活動を支援する必要がある」と指摘、民間協力者の活動の促進を図ろうとしています。ただ、財政上の問題から、民間協力者による再犯防止活動が限定的な効果にとどまっていることも少なくないのが実態であり、「ソーシャル・インパクト・ボンド等の成果連動型民間委託契約方式(PFS)の仕組みを通じ、社会的課題に取り組むNPO、民間企業・団体等と連携した効果的な再犯防止・立ち直りに向けた活動を推進する」、「保護司、更生保護女性会員、BBS(Big Brothers and Sisters Movement)会員、協力雇用主及び少年警察ボランティア等民間協力者の活動について、国民の理解と協力を得られるよう、新聞・テレビを始め、関係機関のウェブサイトやSNS等様々な媒体を通じた広報を充実強化するとともに、民間協力者によるクラウドファンディングや基金等の活用を促進する」といった新たな手法を駆使した取り組み策も盛り込まれています。

なお、参考までに、今回の犯罪対策閣僚会議においては、平成26年12月16日の犯罪対策閣僚会議決定である宣言「犯罪に戻らない・戻さない~立ち直りをみんなで支える明るい社会へ~」の数値目標の達成状況についても公表されています。

▼首相官邸 犯罪対策閣僚会議(第32回)
▼資料1-4 宣言「犯罪に戻らない・戻さない~立ち直りをみんなで支える明るい社会へ~」の数値目標の達成状況について

「再犯防止につながる仕事の確保」について、「2020年までに、犯罪や非行をした者の事情を理解した上で雇用している企業の数を現在の3倍にする」として数値目標(1,500社)を設定したのに対し、平成31年4月1日時点で1,556社と3.3倍増を実現したことが示されています。また、「再犯防止につながる社会での居場所づくり」について、「2020年までに帰るべき場所がないまま刑務所から社会に戻る者の数を3割以上減少させる」として数値目標(4,450人以下)を設定したのに対し、平成29年に3,890人、平成30年には3,628人(4割以上減)を実現しています。

大阪府では、「社会全体で子どもを性犯罪から守ることを基本に、子どもが性犯罪の被害に遭わない、その加害者を生み出さない社会の実現を目指し」、平成24年3月に独自に「大阪府子どもを性犯罪から守る条例」を制定しています。元受刑者について住所等の届出義務を課すとともに、「社会復帰支援対象者に対し、社会復帰に関する相談その他必要な支援を行う」ことを定めた画期的な内容となっています。ところが、最近の報道(令和元年12月23日付毎日新聞)によれば、出所後の住所や連絡先などを府に届け出た元受刑者のうち、カウンセリングなど府の支援を受けたのは4割にとどまることが明らかになったといいます(過去5年半の間に府に届け出た元受刑者121人のうち、希望した49人が相談や支援を受けていますが、社会復帰には継続的なカウンセリングが必要とされるところ、11人は1回だけで、5割以上は10回以下だったといいます)。「仕事が忙しい」、「行政は信頼できない」などと敬遠されている実態が明らかとなりました。今後も本条例をきっちり周知させていくことはもちろんですが、(性犯罪の常習性等に鑑みれば、諸外国ではすでに取り組みが始まっている)国と自治体との間の情報共有に向けた法整備も必要ではないかと考えます。

なお、再犯防止ではありませんが、犯罪抑止効果という点で興味深いものとして、兵庫県尼崎市が平成25年から兵庫県警と協力し、ひったくりと自転車盗の重点対策を続け、認知件数を大幅に減らすことに成功したというものがありました(令和元年12月23日付読売新聞)。報道によれば、手口や現場からの逃走経路などを分析し、次の行動パターンを予測する「プロファイリング」の手法を防犯活動に応用、次の犯行発生地を予測しパトロールを強化するといった取り組みが功を奏し、平成30年のひったくり被害は平成24年に比べて9割も減少、自転車盗被害についても4割減少したといといいます。AIやプロファイリングなどを積極的に導入することで犯罪を抑止し、そもそも犯罪を発生させない社会的な取り組みが進むことを期待したいところです。

5.「『世界一安全な日本』創造戦略」取り組み状況

平成25年12月10日に閣議決定された「世界一安全な日本」創造戦略について、直近までの主要な取り組み状況について、犯罪対策閣僚会議にて報告されています。「安全」にかかわる様々な領域における国の取り組み状況が概観できるものであり、本コラムにおいても大変参考となりますので、直近の動向を中心に抜粋して紹介したいと思います。

▼首相官邸 犯罪対策閣僚会議(第32回)
▼資料6 「「世界一安全な日本」創造戦略(平成25年12月10日決定)」主要な取組(概要)

1.世界最高水準の安全なサイバー空間の構築

  • 30年12月、サイバーセキュリティ基本法を改正し、サイバーセキュリティ協議会が組織され、官民の多様な主体が相互に連携し、サイバー攻撃に関する迅速な情報共有等を実施している
  • 警察においては、一般財団法人日本サイバー犯罪対策センター(JC3)の活動に貢献するとともに、共有された情報を警察活動に迅速・的確に活用することとしている
  • 「青少年が安全に安心してインターネットを利用できる環境の整備等に関する法律」等に基づき、青少年のインターネットの適切な利用に関する教育及び啓発活動、青少年有害情報フィルタリングの性能の向上及び利用の普及等の関連施策を推進している
  • ログの保存が許容される期間を具体的に例示することを内容とする「電気通信事業における個人情報保護に関するガイドライン」の解説の改正を行うとともに、関係事業者への周知を図り、関係事業者における適切な取組を推進するなどした

2.G8サミット、オリンピック等を見据えたテロ対策、カウンターインテリジェンス等

  • 31年4月、「セキュリティ幹事会」決定に基づき、オリパラ東京大会のサイバーセキュリティに係る脅威・インシデント情報の共有等を担う中核的組織としての「サイバーセキュリティ対処調整センター」を内閣官房に設置した
  • 令和元年11月、「セキュリティ幹事会」において、オリパラ東京大会における政府のセキュリティ対策の中心となる「セキュリティ調整センター」を令和元年3月を目途に内閣官房に設置することを決定した
  • 「海上保安体制の強化に関する方針」に基づき、原子力発電所等におけるテロ対処・重要事案対応体制の強化を段階的に進めることとしている
  • 空港においては、空港設置管理者及び航空関係事業者に対して、セキュリティ強化を指示している
  • 国際港湾においては、施設管理者による保安対策や国による立入検査に加え、円滑な物流を確保しつつ、制限区域における出入りを管理する「出入管理情報システム」を港湾58施設に導入している。警察や海上保安部等も交えた保安設備の合同点検を実施し、引き続き一層の保安対策の強化を図っている
  • テロリスト等の入国阻止、テロ関連物資等の流入阻止等のため、航空会社から乗客予約記録(PNR)を取得している。また、輸出入・港湾関連情報処理システム(NACCS)を経由した電子的なPNRの取得を開始
  • 出入国在留管理庁においては、情報収集・分析の中核組織である「出入国管理インテリジェンス・センター」において、PNR等情報の高度な分析を行い、その結果を地方出入国在留管理官署と速やかに共有し、入国審査等に活用
  • 財務省税関においては、「情報センターのPIU(パッセンジャー・インフォメーション・ユニット)」において電子的なPNRの一元的管理を行っており、28年11月から、24時間体制で分析・活用等を開始するなど、体制面の強化を行った
  • 事前旅客情報(API)、乗客予約記録(PNR)、外国人の個人識別情報(指紋及び顔写真)及びICPO紛失・盗難旅券データベースの情報を活用するとともに、外国入国管理当局との情報連携を強化し、厳格な入国審査を実施しているほか、主要空港の直行通過区域におけるパトロール活動を行うとともに、海港においてパトロール及び臨船サーチを実施し、不審者の監視や摘発に努めている。令和2年度には、在中国公館の一次の観光ビザ(個人・団体)を対象に電子ビザを導入し、ビザシールを廃止することによって、ビザの偽造を防止することとしている
  • 国際航海船舶から通報される船舶保安情報の内容を精査するとともに、巡視船艇及び航空機による夜間を含む監視警戒や外国からの入港船舶に対する厳格な立入検査を実施することにより、テロの未然防止に努めている
  • 28年10月から、テロリスト等の入国を水際で阻止するため、上陸審査時に外国人から提供を受けた顔写真とテロリスト等の顔画像との照合を実施している
  • 令和元年5月、暗号資産の交換等を伴わず、他人のために暗号資産の管理をすることを規制の対象に追加すること等を含む「情報通信技術の進展に伴う金融取引の多様化に対応するための資金決済に関する法律等の一部を改正する法律」が成立した

3.犯罪の繰り返しを食い止める再犯防止対策の推進

  • 28年12月に成立した「再犯の防止等の推進に関する法律」に基づき、29年12月、政府として初めてとなる「再犯防止推進計画」を閣議決定した。同計画においては、5つの基本方針の下、7つの重点課題について115の施策を盛り込んでおり、30年度から、同計画に基づき各種施策を推進している
  • 27年11月、法務省及び厚生労働省の共同により、「薬物依存のある刑務所出所者等の支援に関する地域連携ガイドライン」を策定し、28年4月から実施している
  • 27年度から、刑務所出所者等を雇用し、就労継続に必要な指導等を行う協力雇用主に対して奨励金を支給する「刑務所出所者等就労奨励金支給制度」を実施している

4.社会を脅かす組織犯罪への対処

  • 27年8月末以降、短期間に3団体に分裂した山口組については、相互に対立状態が続いていることから、これらの団体に関する情報収集、取締り、警戒活動等を推進している。特に、六代目山口組と神戸山口組に関連して、刃物や銃器を使用した事件が続発していることから、これらの団体に対する警戒及び取締りの更なる強化を図るとともに、関係する暴力団事務所の使用を制限するなど暴力団対策法の効果的な活用によって、市民の安全確保及び対立抗争等の封圧に努めている
  • 30年8月、「薬物乱用対策推進会議」において策定された「第五次薬物乱用防止五か年戦略」の「広報・啓発による薬物乱用未然防止」、「適切な治療等による薬物の再乱用防止」、「取締りの徹底と乱用薬物の流通防止」、「水際対策の徹底による薬物密輸入阻止」及び「国際連携・協力を通じた薬物乱用防止」の5つの目標に沿って、関係機関が連携して危険ドラッグ対策を含む総合的な薬物乱用対策を推進している

5.活力ある社会を支える安全、安心の確保

  • 27年7月から、児童相談所全国共通ダイヤルを、3桁番号「189」に変更するとともに、28年4月から児童相談所につながるまでの時間を短縮し、30年2月から携帯電話等からの発信にコールセンター方式を導入するなど、発信者の利便性の向上に努めている。更に、令和元年12月には、虐待通告の無料化などの運用改善を行う
  • ストーカー事案、配偶者からの暴力事案等の人身の安全を早急に確保する必要の認められる事案に的確に対処するため、都道府県警察において、所要の体制を構築し、的確な対応の徹底を図っている
  • 令和元年5月に発生した川崎市における児童等殺傷事件を受け、登下校時に子供が集まる箇所等の点検、スクールガード・リーダーの増員等による見守り活動の強化、小学校に加えて中学校と警察署との間で不審者情報等を共有する体制の構築等の取組を推進している
  • 令和元年6月、犯罪対策閣僚会議において策定した「オレオレ詐欺等対策プラン」に基づき、全府省庁において、幅広い世代に対して高い発信力を有する著名な方々と連携し、公的機関、各種団体、民間事業者等の協力を得ながら、家族の絆の重要性等を訴える広報啓発活動を多種多様な媒体を活用して展開するなど被害防止対策を推進している。また、電話転送サービスを介した固定電話番号の悪用への対策をはじめとする犯行ツール対策のほか、効果的な取締り等を推進している
  • 消費者安全法及び特定商取引法に基づき、悪質事案に対して厳正に対処している

6.安心して外国人と共生できる社会の実現に向けた不法滞在対策

  • 「摘発方面隊」による摘発を推進しているほか、退去強制令書が発付された者については、チャーター機を活用するなどして安全かつ確実な送還を実施している。他方、一部の国では、退去強制令書が発付されているにもかかわらず、自国民の引取りを拒む例が見られることから、関係機関の理解と協力を得つつ、当該国に対し自国民の引取りを求めていくこととしている
  • また、法務大臣の私的懇談会である出入国管理政策懇談会の下に「収容・送還に関する専門部会」を設置し、送還忌避者の増加や収容の長期化を防止するための方策について有識者の方々で議論を進めている
  • 在留外国人に関する情報の収集・分析に加え、入管法に規定された偽装滞在者対策を推進しているところ、29年1月の改正入管法の施行により、在留資格取消手続に係る入国警備官による事実の調査の実施が可能となったほか、取消事由の拡充、不正に上陸許可等を受けた者に係る罰則が整備された

7.「世界一安全な日本」創造のための治安基盤の強化

  • 令和2年度予算政府案において、国境離島における事態対処能力の強化を図るため、地方警察官(159人)の増員を盛り込むとともに、国際テロ対策の強化、サイバー空間の脅威への対処能力の強化等のため、警察庁職員(123人)の増員を盛り込んでいる
  • 令和2年度予算政府案において、法務省では、検察庁職員(221人)、矯正官署の職員(刑事施設368人、少年院42人及び少年鑑別所19人)、更生保護官署の職員(地方更生保護委員会14人及び保護観察所20人)、出入国在留管理庁の職員(541人)及び公安調査局等の職員(44人)の増員を盛り込んでいる。また、財務省では、税関職員(456人)の増員を、海上保安庁では、海上保安官(436人)の増員を、厚生労働省では、麻薬取締官(地方厚生局11人)の増員を盛り込んでいる
  • 令和2年度予算政府案において、警察庁では、地域警察執行力強化等に要する経費として、警察用車両、航空機及び装備資機材の整備に要する経費(8,674百万円)を計上している。また、海上保安庁では、巡視船艇等及び航空機の整備に要する経費(37,079百万円)を計上している

6.忘れられる権利を巡る動向

インターネット検索サイト「グーグル」に自身の逮捕歴が表示され続けるのはプライバシーの侵害だとして、北海道内に住んでいた男性が検索結果の削除を求めた訴訟の判決で、札幌地裁は、米グーグルに一部の削除を命じています。本件は、男性が平成24年7月、当時住んでいた北海道内で女性に性的暴行を加えたとして、強姦(現・強制性交)容疑で北海道警に逮捕されたものの、その後、嫌疑不十分で不起訴となったもので、判決では、男性が不起訴になったことなどを考慮し、「私生活上の不利益は大きい」、「公表されない利益が表示維持を優越する」と判断したものと考えられます。検索結果の削除を認める司法判断は異例で、判決では初めてとなります(平成30年8月に、東京高裁が強姦致傷容疑の逮捕歴について仮処分決定を出した例はあります)。なお、この男性は、削除の対象を一部にとどめたこの判決を不服として札幌高裁に控訴しています。報道によれば、検索結果の削除を命じたのは、原告側が求めた19件のうち5件にとどまっているということです。

最高裁は平成29年、グーグルをめぐる同種裁判の決定で、「情報の収集、整理及び提供はプログラムにより自動的に行われるものの、同プログラムは検索結果の提供に関する検索事業者の方針に沿った結果を得ることができるように作成されたものであるから、検索結果の提供は検索事業者自身による表現行為という側面を有する」としたうえで、削除を認めるかどうかの考慮要素として、「当該事実の性質及び内容」、「当該URL等情報が提供されることによってその者のプライバシーに属する事実が伝達される範囲とその者が被る具体的被害の程度」、「その者の社会的地位や影響力」、「上記記事等の目的や意義」、「上記記事等が掲載された時の社会的状況とその後の変化」、「上記記事等において当該事実を記載する必要性」の6項目を示しました。そして、「当該事実を公表されない法的利益が優越することが明らかな場合には、検索事業者に対し、当該URL等情報を検索結果から削除することを求めることができるものと解するのが相当」と指摘しています。本件では、「7年前」の「強制性交」に関する「不起訴事案」であることが「私生活上の不利益が大きい」と判断されたわけですが、最高裁でも具体的に示されなかった「公共性」と「時間の経過」の比較衡量の観点(何年経てば犯罪報道の公共性がなくなるのか)について、またひとつ具体的なケースが積み重なったものとして、妥当なものと個人的には受け止めています(なお、19件のうち5件しか削除が認められなかった理由が明らかでないため、今後の訴訟の行方についても注目していきたいと思います)。

参考までに、以前の本コラム(暴排トピックス2019年10月号)で、ツイッターの削除を命じる判決を紹介しています。その内容は、東北地方の男性が、ツイッター社に過去の逮捕歴をめぐる投稿の削除を求めた訴訟の判決で、東京地裁が「プライバシーを違法に侵害している」と認め、削除を命じる判決を出したというものです。本件の対象となった事例は、男性が女湯の脱衣所に侵入したとして建造物侵入容疑で逮捕され、略式命令を受けて罰金を納付したというものであり、マスコミに実名で報道された記事を引用したツイートが複数投稿され、ツイッターで男性の名前を検索すると、逮捕歴がわかる内容が表示され、就職活動や交友関係に支障が出ていたというものです。

(7)北朝鮮リスクを巡る動向

警察庁は、日本を取り巻く治安環境や国際情勢を分析した令和元(2019)年版「治安の回顧と展望」を公表しています。冒頭で、米国への不満を隠さなくなった北朝鮮をめぐり、金正恩政権が対話路線を維持する一方、新開発とみられる弾道ミサイルを今年5~11月に13回、試射したことについて、「関連技術の高度化や能力の向上を図っている」として、緊張の高まりを懸念する内容となっています。さらに、本コラムでもたびたび紹介してきたとおり、北朝鮮が政治目標の達成や外貨獲得のために「様々な形でサイバー攻撃を行っている」とし、同政府が支援する3つのハッカー集団が米財務省の制裁対象となった事実や、推定20億ドル(約2,300億円)の大量破壊兵器開発資金をサイバー攻撃で得た疑いがあるといった報告を紹介し、北朝鮮のサイバー戦能力に警戒感を示す内容となっています。以下、北朝鮮に関する記述の中から、本コラムとの関係の特に深い部分を抜粋して紹介します。

▼警察庁 治安の回顧と展望(令和元年版)

まず冒頭の「北朝鮮によるミサイル発射動向」については、「北朝鮮は、令和元年(2019年)中、対話路線を継続しながらも、令和元年(2019年)5月から同年11月にかけ、新たに開発したとみられる弾道ミサイルの「試験発射」等を13回にわたって行った。このうち、同年10月2日に発射された弾道ミサイルは、島根県隠岐諸島の島後沖の我が国の排他的経済水域(EEZ)内に落下したとみられるところ、北朝鮮は「周辺国家(複数)の安全にささいな否定的影響も与えなかった」などと主張した。また、北朝鮮はこれらミサイル等の発射に関し「通常武器の開発措置」などと正当化する一方、同年8月5日から同月20日にかけて合同軍事演習を行った米韓両国を非難し「米国と南朝鮮当局が繰り広げた合同軍事演習に適切な警告を送る機会になる」などと主張した。一方、北朝鮮のこうした動きに対し、トランプ大統領は、同年9月23日、米国・ニューヨークで行われた米韓首脳会談の場において、北朝鮮のミサイル発射動向について「私たちは短距離ミサイルについては合意していない」、「そのこと自体は注目に値するような出来事ではない」などと、短距離ミサイルであれば問題視しない姿勢を示した。北朝鮮は、こうしたミサイルの「試験発射」等を重ねることによって、弾道ミサイル関連技術の高度化や能力の向上を図っていると考えられる」と指摘しています(内容については、本コラムでこれまで紹介してきたとおりです)。

また、「北朝鮮からの木造船漂着事案」については、「北朝鮮からのものとみられる木造船の漂流・漂着事案は、平成30年の1年間で過去最多の225件に上ったが、生存者の上陸は確認されなかった。令和元年中は既に127件の漂流・漂着事案が確認されており、生存者の伴う事案が2件発生している(11月29日現在、海上保安庁調べ)。平成31年1月8日には島根県隠岐の島町に北朝鮮からのものとみられる木造船が漂着し、生存者4人が発見された。また、同月13日には青森県深浦町の沖合を漂流している生存者2人が乗った北朝鮮からのものとみられる木造船が発見された。両事案の生存者は、全員が一貫して「北朝鮮から漁のために来たが、船が故障して漂流した」旨述べたほか、北朝鮮への帰国を希望し、同年2月に全員が、中国経由で北朝鮮に引き渡された。警察では、引き続き、関係機関と連携して、沿岸地域のパトロール等の諸対策を徹底していくこととしている」としています。

さらに、「国内外におけるサイバー攻撃の発生状況」として、「北朝鮮は、政治目標の達成や外貨獲得を目的として、様々な形でサイバー攻撃を行っているとみられている。例えば、暗号資産に関連した資金調達において、暗号資産交換業者へのサイバー攻撃や暗号資産採掘(マイニング)が指摘されている。韓国警察庁は、平成29年9月、北朝鮮が同年7月から同年8月にかけてサイバー攻撃により暗号資産交換業者からビットコインの窃取を企図したと公表した。また、同年12月、米国は、同年5月に発生した「WannaCry」等と呼ばれるランサムウェアの感染事案について、北朝鮮によるものであるとして、北朝鮮を非難する旨発表した。我が国は、同事案の背後に北朝鮮の関与があったと断定し米国の発表を支持した。さらに、令和元年9月、米国財務省は、北朝鮮が行ったとされるランサムウェア「WannaCry」によるサイバー攻撃等に関与したとして、北朝鮮政府が支援するハッカー集団「Lazarus」、「Bluenoroff」及び「Andariel」の3集団を、米国内における資産凍結等の制裁対象に指定したと発表した。また同月、国連安全保障理事会北朝鮮制裁委員会の専門家パネルは北朝鮮が大量破壊兵器の開発資金として金融機関や暗号資産交換業者へのサイバー攻撃等を実行し、推定20億ドルを違法に得た疑いがあると報告した。」としています。

これらの内容に加え、最近の状況について補足すると、北朝鮮は大陸間弾道ミサイル(ICBM)のエンジンの燃焼試験とみられる「重大実験」をしたとも宣言し、挑発の度合いを高めていること、日本政府は5月以降の新型ミサイルは4種類と分析、迎撃の難度が増したと警戒を強め、ミサイル防衛体制の強化を急ぐ必要に迫られていること、サイバー防御に関するサービスを提供するセンチネルワン社のサイバー攻撃に関する報告書で、(治安の回顧と展望にも登場する)北朝鮮政府の支援を受けるハッカー集団「ラザルス」が東欧のサイバー犯罪集団と共謀していると指摘されていることなどがあげられます。また、米マイクロソフト(MS)が、日米韓3か国の組織や個人から情報を盗み出すサイバー攻撃を行っていたとして、北朝鮮傘下とみられるサイバー犯罪集団の50のドメインの利用を差し止めたと発表しています。報道によれば、攻撃に関与したのは、同社が「タリウム」と呼ぶ集団で、政府や大学関係者、核不拡散問題に携わる組織や人物が標的となり、利用者のメール連絡先や今後のスケジュールを盗んでいたということです。

そのような中、北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長は、昨年末に異例の4日間にわたって開催された党中央委員会総会において、「現在の状況で求められる国の主権と安全保障の完全な確保に向け、積極的かつ攻撃的な措置」をとる必要性を強調、「我が人民が豊かに暮らすために、我が党は再び苦しく長い闘いを決心した」と述べ、米国との非核化交渉を巡り、さらなる長期化も辞さない構えを示しています。さらに、核抑止力の開発を継続するとともに、近い将来「新たな戦略兵器」を導入するとも表明しています。報道によれば、「「やくざ」のごとき米国が敵視政策に固執するなら、朝鮮半島の非核化は永久にない」として米国をけん制したといい、同時に、「核抑止力の度合いは米国の将来の態度次第だ」として対話に含みを残しています。さらに、米国が韓国との合同軍事演習や制裁などを継続していることなどから、もはや「核実験やICBM実験の中止にとらわれる根拠はなくなった」とまで述べています。これらの発言から、北朝鮮が今後、米大統領選の行方を見極めつつ、その間の核・ミサイル開発を正当化したい戦略が読み取れます。

一方、このような北朝鮮の挑発に対し、トランプ米政権もその姿勢を硬化させ始めています。たとえば、米国のクラフト国連大使は「弾道ミサイル発射は、射程にかかわらず地域の安全を損なう明確な安保理決議違反だ」と明言、トランプ大統領がこれまで北朝鮮との非核化交渉を優先し、短距離のミサイル発射実験を問題視してこなかった姿勢を変化させ、米国として厳しい姿勢を明確にしたことや、北朝鮮が「クリスマスプレゼント」と称して弾道ミサイル発射などの挑発行動を12月27日までに仕掛けてきていないことに関し、北朝鮮の意図を探るとともに、年明け後も引き続き警戒態勢を維持していく構えだといいます。米としては、北朝鮮は金正恩朝鮮労働党委員長の誕生日である1月8日ごろまで挑発行動で出てくる可能性を想定、トランプ政権は挑発行動があった場合、米軍に対し、爆撃機による朝鮮半島上空の飛行や火砲を使った緊急軍事訓練など、米軍の軍事力を誇示して北朝鮮を威嚇する作戦行動を事前承認したともいわれています(ただし、北朝鮮に対する直接的な軍事行動は現時点の計画には含まれていないようです。さらに、米国との対立が深まる北朝鮮の核ミサイル問題をめぐり「第2次朝鮮戦争が起きる可能性が高まっている」と警告する有識者も出始めています)。

また、日米首脳が電話会談を行い、安倍首相は、「日本としては米朝プロセスを完全に支持する」と強調し、「北朝鮮の危険な挑発行動を断固批判するとともに、平和的な対話を通じて、北朝鮮が朝鮮半島の非核化に向けて取り組むよう強く求めていく」と述べ、中国の習近平国家主席との会談や日中韓3カ国首脳によるサミットを開催することを念頭に「この地域の平和と安定に向けて中国、韓国ともしっかりと連携したい」として米側と対応をすり合わせています。その習近平国家主席との会談では、外務省のリリースによると「双方は、最近の情勢を含む北朝鮮情勢について意見交換を行い、安倍総理大臣から北朝鮮が更なる挑発行動を自制することの重要性を指摘した上で日中両国の共通の目標である朝鮮半島の非核化に向けて連携していくこと、安保理決議の完全な履行の重要性について一致した。また、拉致問題に関し、安倍総理から、早期解決に向けた支持を求めた」ということです。さらに、日中韓3か国首脳会談でも北朝鮮情勢が取り上げられ、国連安保理決議の確実な履行や、米朝プロセスの継続を後押しするなど北朝鮮問題の解決に向けて、日中韓が連携して対応していくとする共通の立場を確認しています(なお、実は韓国の文在寅政権も北朝鮮がミサイル開発を加速している間に国防予算を急増させている点に注意が必要です)。

さて、このような中、北朝鮮は、北西部の平安北道東倉里の西海衛星発射場で「非常に重大な実験」を成功裏に行った(具体的には12月7日と13日の2回実施)と発表しており、極めて重要な兆候と受け止める必要があります。発表後、米シンクタンクの戦略国際問題研究所(CSIS)は、最新の衛星写真に基づき、北朝鮮が7日に西海衛星発射場でエンジン燃焼実験を実施し、成功したとの分析結果を公表しました。さらに、米国の北朝鮮問題研究グループ「38ノース」は、この西海衛星発射場を写した衛星写真を公表、エンジン燃焼実験台付近の草木が燃えた形跡がある(さらには実験施設に損傷がないこと)ことから、ロケットエンジンの燃焼実験が実施されたと分析しています。報道によれば、衛星写真では、エンジン燃焼実験台から格納式シェルターが取り除かれているのも確認できるといい、38ノースは「燃焼実験後の改装作業に着手している可能性がある」と指摘しています。また、北朝鮮の軍事開発に詳しい米国の専門家は、北朝鮮が、奇襲性を高められる固体燃料によるミサイル発射を続けていると分析、すでに固体燃料を使った新型の大陸間弾道ミサイル(ICBM)の発射も可能な段階にあるという見方を示しています。このように、ICBM発射をちらつかせて、米などに圧力をかけている(挑発している)というだけにとどまらず、実際に、「治安の回顧と展望」で指摘されている「弾道ミサイル関連技術の高度化や能力の向上を図っていると考えられる」状況にますます拍車がかかっていることが危惧されます。

その一方、国連による一連の制裁決議の中で、北朝鮮出稼ぎ労働者の本国送還が昨年12月22日に期限を迎えたところ、約3万人いたロシアなどで送還が進むものの、全出稼ぎ労働者の半数を占める中国は、詳細を明らかにしていないこと、ここに来て中国とロシアが安保理理事国に送還の撤回を主張し始めており(北朝鮮市民の生活を向上させるための制裁解除と主張しています)、送還がどの程度徹底されているのかは不透明な状況となっています。国連安全保障理事会が送還を求めている北朝鮮の海外出稼ぎ労働者については、米政府は2017年末時点で、中国やロシアを中心に約10万人が派遣されていると推計しており、国連加盟国の報告によれば、これまでに送還されたのは2万数千人にとどまっているようです。そもそも北朝鮮の海外出稼ぎ労働者の問題の本質は、彼らが稼ぎ出した「外貨」が北朝鮮の核・弾道ミサイル開発等につぎ込まれていることにあります。つまり、国連の制裁は、その資金源となる外貨を断つことが主要な目的なのです。石炭や海産物の輸出を禁じるだけでなく、年間5億ドル(約547億円)超を稼いだと推計されている北朝鮮の出稼ぎ労働も制裁対象となっているのは当然のことでもあります。そして、貴重な外貨は何をおいても、金正恩独裁体制の延命存続、軍備強化に使われるており、ロシアや中国による北朝鮮労働者の放置は、あからさまな体制擁護にほかならず、国際社会は適切な履行に向けて、厳しく申し入れていく必要があるといえます。

なお、関連して国連総会は、北朝鮮の人権侵害を非難する決議案を採択しています。決議案は、北朝鮮による「長年続く広範かつ著しい人権侵害」を非難、決議案に拘束力はないが、政治的な重みを持つもので、北朝鮮国連大使は、決議案について「北朝鮮の社会制度打倒を狙う敵対勢力の政治的策略であり、真の人権促進・保護に全く関係ない」と反発しています。

3.暴排条例等の状況

(1)暴排条例の改正(新潟県)

新潟市中央区のJR新潟駅周辺と古町地区を特別強化地域に指定し、当該区域内で、飲食店等が暴力団への用心棒代やみかじめ料を支払った場合に、新たに1年以下の懲役又は50万円以下の罰金が科せられる、また暴力団員等が用心棒代やみかじめ料を受け取った場合に同様に罰則が科せられる旨の改正新潟県暴排条例が12月27日から施行されています。同改正暴排条例においては、東京都暴排条例等他の自治体同様、自発的に申告した場合には刑を減免できる規定(リニエンシー)も設けられています。報道によれば、慣習として仕方なく支払いに応じている店もあるとみられ、これまで警察が店側に聞き取りをしても、用心棒代やみかじめ料については口が重かったという実態があり、改正暴排条例の施行をきっかけに、利益供与がなくなることを期待したいところです。

▼新潟県警察 新潟県暴排条例

事業者に対しては、第18条の第1項で「特定営業を営む者(以下「特定営業者」という)は、特別強化区域における特定営業の営業に関し、暴力団員から、用心棒の役務(営業を営む者の営業に係る業務を円滑に行うことができるようにするため顧客その他の者との紛争の解決又は鎮圧を行う役務をいう。以下同じ)の提供を受けてはならない」と、第2項で「特定営業者は、特別強化区域における特定営業の営業に関し、暴力団員に対し、顧客その他の者との紛争が発生した場合に用心棒の役務の提供を受けることの対償として利益の供与をしてはならない」、第3項で「特定営業者は、特別強化区域における特定営業の営業に関し、暴力団員に対し、名目のいかんを問わず、その営業を営むことを容認する対償として利益の供与をしてはならない」と定めています。さらに、暴力団員については、第19条(特別強化区域における暴力団員の禁止行為)第1項で「暴力団員は、特別強化区域における特定営業の営業に関し、特定営業者に対し、用心棒の役務の提供をしてはならない」と規定されているほか、第2項「暴力団員は、特別強化区域における特定営業の営業に関し、特定営業者から、顧客その他の者との紛争が発生した場合に用心棒の役務の提供をすることの対償として利益の供与を受けてはならない」、第3項「暴力団員は、特別強化区域における特定営業の営業に関し、特定営業者から、名目のいかんを問わず、その営業を営むことを容認する対償として利益の供与を受けてはならない」とも定めています。そのうえで、これらの規定に違反した場合、第24条(罰則)において、「(2)相手が暴力団員であることの情を知って、第18条第1項、第2項又は第3項の規定に違反した者」や「(3)第19条第1項、第2項又は第3項の規定に違反した者」については、「1年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する」と定められています。その一方で、同条第2項において「前項第2号の罪を犯した者が自首したときは、その刑を減軽し、又は免除することができる」とするリニエンシー規定が設けられています。

(2)公共工事からの排除措置(社名公表)事例(福岡県)

福岡県警は、福岡市東区の建設会社「株式会社厨設」の役員などが暴力団と密接交際していたとして、公共工事から排除するよう県や福岡市、北九州市などに通報しました。報道によれば、同社代表は昨年11月末、福岡市で発覚した詐欺事件の容疑者として、暴力団組員とともに逮捕されていたものです。

http://www.city.kitakyushu.lg.jp/shimin/16200000.html

▼福岡県 暴力団関係事業者に対する指名停止措置等一覧表
▼福岡市 競争入札参加資格停止措置及び排除措置一覧
▼北九州市 暴力団と交際のある事業者の通報について

なお、本件については、通報内容について、それぞれ「役員等又は使用人が、暴力的組織又は構成員等と密接な交際を有し、又は社会的に非難される関係を有している/役員等が、禁こ以上の刑に当たる犯罪の容疑により公訴を提起された」(福岡県)、「暴力団との関係による」(福岡市)、「当該業者の役員等が、暴力団と「社会的に非難される関係を有していること」に該当する事実があることを確認した」(北九州市)としています。さらに、排除期間については、「令和元年12月26日から令和4年12月25日まで(36ヵ月間)」(福岡県)、「令和元年12月24日から令和4年12月23日まで」(福岡市)、「令和元年12月24日~審議中」(北九州市)とされています(なお、参考までに、北九州市においては過去の同様の事案では、「18カ月を経過し、かつ、暴力団又は暴力団関係者との関係がないことが明らかな状態になるまで」とされることが多いようです)。

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