反社会的勢力対応 関連コラム

これ以上犯罪者の跋扈を許してはならない
~「令和2年の犯罪情勢」と「特殊詐欺の認知・検挙状況」から

2021.02.09

取締役副社長 首席研究員 芳賀恒人

電話をかける男性

1.これ以上犯罪者の跋扈を許してはならない
~「令和2年の犯罪情勢」と「特殊詐欺の認知・検挙状況」から

警察庁より「令和2年の犯罪情勢【暫定値】」および「特殊詐欺の認知・検挙状況(令和2年・暫定値)」が公表されています。2つのレポートから昨年1年の犯罪情勢を概観したいと思います。

(1)令和2年の犯罪情勢
▼警察庁 令和2年の犯罪情勢【暫定値】

まず、全般的な情勢について、我が国の犯罪情勢を測る指標のうち、刑法犯認知件数の総数については、2003年(平成15年)以降一貫して減少しており、2020年(令和2年)は614,303件と前年に引き続き戦後最少を更新したこと、また、昨年は前年比で17.9%減少しており、その減少幅は例年より大きくなっている(2019年は前年比で8.4%の減少)ことが指摘されています。この点は、当然のことながら、コロナ禍の影響が色濃く反映されたものといえます。さらに、昨年における人口千人当たりの刑法犯の認知件数は4.9件で、戦後最少であった2019年(5.9件)を更に下回ったこと、認知件数減少の内訳を見ると、官民一体となった総合的な犯罪対策の推進や防犯機器の普及その他の様々な社会情勢の変化を背景に、2003年以降、総数に占める割合の大きい街頭犯罪及び侵入犯罪が一貫して減少してきた一方で、昨年は街頭犯罪の認知件数に特に大きな減少が見られたこと、「犯罪の発生件数の増減には様々な要因が考えられるものの、新型コロナウイルスの感染拡大に伴う感染防止のための外出自粛も減少の一因になっているものと考えられる」としています。また、街頭犯罪・侵入犯罪の認知件数については、刑法犯認知件数が戦後最多となった2002年からの減少率が87.3%となっている(それら以外の認知件数の2002年からの減少率は57.6%となっている)こと、昨年の街頭犯罪認知件数は199,282件で、2019年(272,956件)から27.0%減少したこと、侵入犯罪認知件数は55,525件で、2019年(71,122件)から21.9%減少したことも紹介っされています。また、昨年における月別の街頭犯罪認知件数を見ると、特に、4月以降の減少幅が前年同期比で大きくなっていること、他方、新型コロナウイルス関連では、「感染拡大に伴う混乱等に乗じて、休業中の店舗等への侵入窃盗、新型コロナウイルスの感染拡大対策に関連した給付金等をだまし取る詐欺等の犯罪も発生している」こと、「今後も、新型コロナウイルスの感染拡大に伴う社会の態様の変化による影響が表れてくる可能性がある」こと、「昨年4月7日から5月25日までの間、新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づく緊急事態措置が実施されたところ、同年4月以降、街頭犯罪認知件数に例年より大きな減少が見られた(2019年4月~12月は前年同期比で11.8%の減少、2020年4月~12月は前年同期比で32.2%の減少)」と顕著な差が見られたことを指摘しています。

特殊詐欺については、2019年6月の犯罪対策閣僚会議において決定された「オレオレ詐欺等対策プラン」に基づき、高い発信力を有する著名な方々と共に広報啓発を行うなど各種対策を推進したことにより、2020年中の認知件数は13,526件と過去5年間で最少となったこと、しかしながら、刑法犯認知件数の総数が2003年以降一貫して減少している中、特殊詐欺の認知件数は、統計開始以降最少となった2010年(平成22年)と比べて2.0倍 と、依然として高い水準にあるとともに、暴力団構成員等が主導的な立場で特殊詐欺に関与している実態もうかがえる(中枢被疑者の検挙人員に占める暴力団構成員等の割合は39.5%)と指摘しています。また、2018年(平成30年)以降、キャッシュカード詐欺盗等のキャッシュカードを狙った手口が多発するなど、その犯行手口の多様化・巧妙化もみられ、さらに、2019年以降、高齢者から電話で資産状況を聞き出した上で犯行に及ぶ手口の強盗等の被害が発生するなど 厳しい状況が続いているとしています。なお、昨年9月に警察庁が実施したアンケート調査(全国の15歳以上の男女1万人を対象に、年代別・性別・都道府県別の回答者数の割合が2015年(平成27年)国勢調査の結果に準じたものとなるようインターネットを通じて実施したもの)によれば、過去1年間に特殊詐欺の被害に遭うおそれのある経験をしたと回答した人の割合は11.0%(1,098人)であり、過去1年間に特殊詐欺の被害に遭ったと回答した人の割合は1.3%(126人)であったことも紹介されています。

「サイバー空間における脅威」としては、刑法犯認知件数以外の指標について見ると、サイバー犯罪の検挙件数が増加を続けており、高い水準で推移しているほか、警察庁が検知したサイバー空間における探索行為等とみられるアクセスの件数も増加傾向にあること、サイバー犯罪の検挙件数は、2012年(平成24年)から増加傾向にあり、昨年は9,911件と、前年比で4.1%、2012年からの過去5年で19.1%増加していること、サイバー空間における探索行為等とみられるアクセス件数は、2013年(平成25年)以降増加傾向にあり、昨年は、1つのセンサーに対する1日当たりの不審なアクセスの件数が6,506.4件となり、前年比で55.2%増加していることなどが紹介されています(サイバー空間における探索行為等とみられるアクセスについては、メールの送受信やウェブサイト閲覧等一般に広く利用されているポート(1023以下のポート)に対するものに比べ、IoT機器等に利用されているポート(1024以上のポート)に対するものの増加が顕著であり、昨年における1つのセンサーに対する1日当たりの不審なアクセスの件数は、2016年(平成28年)からの過去5年で8.1倍の4,931.1件(件/日・IPアドレス)となっているといいます)。また、インターネットバンキングに係る不正送金事犯は、2019年に発生件数が前年から5.8倍となる1,872件、被害額が前年から約5.5倍となる約25億2,100円に増加したのに対し、昨年は被害額が約11億7,900万円となり、前年比で約53.2%減少、発生件数も1,734件となり、前年比で7.4%減少しているものの、引き続き高い水準にあると指摘しています。なお、アクセス件数が増加傾向にあるのは、IoT機器の普及により攻撃対象が増加していること、新たな不正プログラムが出現し続けていることなどが背景にあるものとみられるとしています。このほか、2013年(平成25年)以降増加傾向にあったSNSに起因する事犯の被害児童数は前年比で減少したものの、依然として高い水準で推移するなど、サイバー空間を通じて他人と知り合うことなどを契機として犯罪被害に遭う事例もみられることも指摘しています。これらの指標をもって事案の発生状況を正確に把握することは難しいものの、「近年、国内外で様々なサイバー犯罪、サイバー攻撃が発生していることも踏まえると、サイバー空間における脅威は深刻な情勢が続いている」としています。なお、前述のアンケート調査において、過去1年間にサイバー犯罪の被害に遭うおそれのある経験をしたと回答した人の割合は21.8%(2,175人)であり、過去1年間にサイバー犯罪の被害に遭ったと回答した人の割合は9.5%(949人)であったことも紹介されています。

ストーカーについては、相談等件数が前年比では減少したものの、検挙件数は増加し、また、DVについては、検挙件数が前年比では減少したものの、相談等件数は増加しており、いずれの指標も引き続き高い水準で推移していること、また、児童虐待については、通告児童数、検挙件数共に増加傾向にあることから、これらの指標をもって事案の発生状況を正確に把握することは難しいものの、「ストーカー、DV及び児童虐待の情勢について引き続き注視すべきものといえる」と指摘しています。具体的には、SNSに起因する事犯の被害児童数は、昨年は1,820人であり、前年からは12.6%減少したものの、2013年(平成25年)以降増加傾向にあり、2016年(平成28年)からの過去5年で4.8%増加していること、ストーカーの相談等件数については前年比で3.5%減少したものの、2013年(平成25年)以降、2万件を超える高い水準で推移していること、ストーカー規制法違反の検挙件数については、昨年は985件と、前年比で14.0%、2016年(平成28年)からの過去5年で28.1%増加していること、刑法犯・他の特別法犯の検挙件数については、昨年は1,518件となり、前年比で1.8%、2010年(平成22年)と比べて73.1%増加しているなど、引き続き高い水準にあることが分かります。さらに、配偶者からの暴力事案等の相談等件数は2010年(平成22年)以降一貫して増加し、昨年は82,641件となり、前年比で0.5%、2016年(平成28年)からの過去5年で18.2%増加していること、配偶者からの暴力事案等に関連する検挙件数については、その大半を占める刑法犯・他の特別法犯による検挙件数が、昨年は8,701件となり、 前年比で4.3%の減少に転じたものの、2016年(平成28年)からの過去5年で4.9%増加していること、児童虐待の通告児童数は2010年(平成22年)以降一貫して増加し、昨年は106,960人となり、前年比で8.9%、2016年(平成28年)からの過去5年で2.0倍に増加していること、児童虐待の検挙件数は増加傾向にあり、昨年は2,131件となり、前年比で8.1%、2016年(平成28年)からの過去5年で2.0倍に増加していることなどが指摘されています。なお、前述のアンケート調査において、過去1年間につきまといやストーカーの被害に遭ったと回答した人の割合は2.0%(203人)、DVの被害に遭ったと回答した人の割合 は0.8%(80人)であったということです。

本レポートでは、「以上のとおり、様々な社会情勢を背景として、近年、総数に占める割合の大きい罪種・手口を中心に刑法犯認知件数の総数が継続的に減少しているところ、令和2年は、新型コロナウイルスの感染拡大等により例年より大きな減少がみられた」こと、しかしながら、「認知件数の推移からは必ずしも捉えられない情勢があることや新型コロナウイルスの感染拡大に伴う社会の態様の変化の影響等も踏まえると、犯罪情勢は、依然として厳しい状況にある」こと、「上記アンケート調査において、サイバー犯罪による被害をはじめとして犯罪被害に遭う不安感を抱いている人の割合は依然として大きく(例えば、サイバー犯罪の被害に遭う危険性について「不安を感じる」又は「ある程度不安を感じる」と回答した人の割合は75.3%(7,531人)に上っている。)、また、最近の治安の状況について、 「よくなっていない」又は「あまりよくなっていない」と回答した人の割合は56.2%(5,620人)であり、「よくなっている」又は「ある程度よくなっている」と回答した人の割合の34.4%(3,435人)よりも大きい」と指摘しています。

また、今後の取組としては、「近年被害が高水準で推移している特殊詐欺やサイバー犯罪のように、被害者と対面することなく犯行に及ぶ匿名性の高い非対面型犯罪については、対策に応じて絶えず犯行手口が変化するものも多く、また、痕跡が残りにくい形での犯行を容易に反復することが可能となっていることから、被害が拡大する危険性も高くなっていること、また、ストーカーやDV、児童虐待のように家族等私的な関係の中で発生することが多い犯罪に対しては、その性質上犯行が潜在化しやすい傾向にあることを踏まえて対策に当たる必要がある」としています。このほか、「感染防止のための「新しい生活様式」の定着や感染拡大の経済への影響など、新型コロナウイルスの感染拡大に伴う社会情勢の変化は、今後も引き続き犯罪情勢に何らかの影響を及ぼすものと考えられる」ことから、「警察としては、このような犯罪傾向や社会情勢も踏まえ、発生した事案に対して的確な捜査を推進することはもとより、被害の発生や犯行手口等に関する情報を関係機関、事業者等と共有し、緊密な連携を図るとともに、犯罪ツール対策等に取り組んでいくほか、被害が潜在している可能性があることも念頭に置きつつ、国民に対する迅速な注意喚起をはじめとする効果的な広報啓発、早期の相談対応等によって、被害に至る前段階での防止を図るなど、きめ細かな対策を進めていく必要がある」こと、また、「絶えず変化する現代社会において今後とも効果的かつ効率的な犯罪対策を講ずるため、様々な指標を用いた社会情勢の変化の的確な把握や犯罪情勢の分析の高度化に引き続き取り組むとともに、そうした分析に基づき、対象者を意識した実効性のある対策の立案・推進を図っていくことが求められている」としています。さらに、「上記アンケート調査では、平日の滞在場所について、6割超の人が「飲食・買い物・娯楽施設などへの外出先」に滞在する時間が減り、「自宅」の滞在時間が増えたと回答しているほか、「インターネットで買い物や決済をすることが増えた」、「現金を使う機会が減り、キャッシュレスサービスを使うことが増えた」と回答した人がそれぞれ3割を超えるなど、新型コロナウイルスの感染防止のため、実際に多くの人が外出自粛を意識している状況がみられた」と指摘しています。

(2)特殊詐欺の認知・検挙状況
▼警察庁 特殊詐欺認知・検挙状況等(令和2年・暫定値)について(広報資料)

まず、特殊詐欺(被害者に電話をかけるなどして対面することなく信頼させ、指定した預貯金口座への振込みその他の方法により、不特定多数の者から現金等をだまし取る犯罪(現金等を脅し取る恐喝を含む。)の総称)の認知状況について、情勢全般としては、以下のように整理されています。

  • 令和2年の特殊詐欺の認知件数(以下「総認知件数」という。)は13,526件 (▲3,325件、▲19.7%)、被害額は8億円(▲38.0億円、▲12.0%)と、いずれも前年に比べて減少、特に被害額は過去最高となった2014年(平成26年)の565.5億円から半減しているものの、依然として高齢者を中心に被害が高い水準で発生しており、深刻な情勢にあると指摘しています。
  • 被害は大都市圏に集中しており、東京の認知件数は2,902件(▲913件)、神奈川1,757件(▲1,036件)、千葉1,218件(▲191件)、大阪1,108件(▲701件)、埼玉1,030件(▲429件)、兵庫1,020件(+362件)及び愛知568件(▲50件)で、 総認知件数に占めるこれら7都府県の合計認知件数の割合は0%と高水準。その一方で、総認知件数の減少分のうち、7都府県の減少分が占める割合は89.0%(つまり、大都市圏での減少傾向がそれ以外の地域より顕著であるということであり、集中的な対策の成果ともいえます。しかしながら一方で、犯行グループが7都府県以外の地域での犯行に注力しはじめていること、したがってこれらの地域における対策を一層強化すべき状況にあることも示唆されます)。
  • 1日当たりの被害額は、約7,590万円(前年は約8,650万円)。既遂1件当たりの被害額は8万円(+18.1万円、+9.2%)となっています。

主な手口別の認知状況として、まず、オレオレ詐欺に預貯金詐欺(前年まではオレオレ詐欺に包含)を合わせた認知件数は6,382件(▲343件、▲5.1%)、被害額は121.6億円(+4.0億円、+3.4%) と、認知件数は減少しているものの、被害額は微増となっています。なお、総認知件数に占める割合は47.2%とほぼ半分を占めていることが示されています。また、キャッシュカード詐欺盗は、認知件数2,833件(▲944件、▲25.0%)、被害額39.7億円(▲19.3億円、▲32.7%)と、前年に比べていずれも減少し、総認知件数に占める割合は20.9%となり、オレオレ詐欺、預貯金詐欺及びキャッシュカード詐欺盗(以下3類型を合わせて「オレオレ型特殊詐欺」と総称する。)の認知件数は9,215件(▲1,287件、▲12.3%)、被害額は161.4億円(▲15.4億円、▲8.7%)で、総認知件数に占める割合は68.1%となっています。架空料金請求詐欺は、認知件数1,997件(▲1,536件、▲43.5%)、被害額79.6億円(▲19.0億円、▲19.3%)と、いずれも減少し、総認知件数に占める割合は 14.8%、前年増加した還付金詐欺は、認知件数1,806件(▲569件、▲24.0%)、被害額 24.9億円(▲5.2億円、▲17.4%)と減少に転じ、総認知件数に占める割合は 13.4%となっています。そして、オレオレ型特殊詐欺に、架空料金請求詐欺及び還付金詐欺を合わせた認知件数は13,018件、被害額は265.8億円で、総認知件数に占める割合は96.2%、被害額に占める割合は95.7%となっています。

主な被害金交付形態別の認知状況としては、キャッシュカード手交型の認知件数が4,299件(▲1,053件、▲19.7%)、被害額は59.4億円(▲1.9億円、▲3.1%)、キャッシュカード窃取型の認知件数は 2,833件(▲944件、▲25.0%)、被害額は39.7億円(▲19.3億円、▲32.7%)と、いずれも減少しており、両交付形態を合わせた認知件数の総認知件数に占める割合は52.7%とほぼ半数を占めています。また、現金手交型の認知件数は2,072件(▲375件、▲15.3%)、被害額は77.5億円 (▲10.2億円、▲11.6%)と、いずれも減少しており、キャッシュカード手交型、キャッシュカード窃取型及び現金手交型は、被害者と直接対面して犯行を敢行するものであり、これら3交付形態を合わせた認知件数の総認知件数に占める割合は68.0%を占めている点が注目されいます。一方、振込型の認知件数は2,804件(▲304件、▲9.8%)、被害額は50.4億円(+0.7億円、 +1.4%)と、認知件数は減少するも被害額は微増となっています。さらに、現金送付型の認知件数は352件(▲251件、▲41.6%)、被害額は40.5億円 (▲5.6億円、▲12.1%)といずれも減少しているものの、既遂1件当たりの被害額は約1,230万円と高額となっている点が注目されます。電子マネー型の認知件数は1,123件(▲365件、▲24.5%)、被害額は9.6億円(▲2.3億円、▲19.4%)と、いずれも減少しています。

高齢者(65歳以上)被害の認知件数は11,556件(▲2,544件、▲18.0%)で、法人被害を除いた総認知件数に占める割合(高齢者率)は85.7%(+1.8ポイント)となっているほか、 65歳以上の高齢女性の被害認知件数は8,902件で、法人被害を除いた総認知件数に占める割合は66.0%(+0.6ポイント)となっており、高齢者、とりわけ女性の被害が大きい傾向が続いています。また、被害者への欺罔手段として犯行の最初に用いられたツールは、電話が86.9%、電子メールが9.5%、はがき・封書等(はがき、封書、FAX、ウェブサイト等をいう)は3.6%と、電話による欺罔が大半を占めている点が注目されます(高齢者の被害が大きいこととあわせ、特殊詐欺被害の防止において、電話対策が極めて重要であることが示唆されます。その意味では、留守電設定や迷惑電話撃退機能付電話の導入などが有効であることがあらためてうかがえます)。なお、主な手口別では、オレオレ型特殊詐欺及び還付金詐欺は約99%が電話であるのに対し、架空料金請求詐欺は電子メールが約6割、電話が約3割などとなっています。また、特殊詐欺の被疑者による、電話の相手方に対して住所・氏名等の個人情報及び現金の保有状況等の犯行に資する情報を探る電話(以下「予兆電話」という。)の件数は98,757件で、月平均は8,230件(▲1,918件、▲18.9%)と減少しています。地域別では、東京が31,334件と最も多く、次いで埼玉9,529件、千葉9,478件、神奈川7,469件、大阪5,467件、兵庫4,155件、愛知3,690件の順となっており、全国の予兆電話件数に占めるこれら7都府県の割合は72.0%と、前述の認知件数割合(71.0%)とほぼリンクしていることが分かります。さらに、関連犯罪の発生状況としては、事前に被害者方に電話をかけ、資産状況等を聞き出した上で強盗を敢行するケースが11件(±0件)発生しており、東京5件、神奈川4件、千葉2件と首都圏に集中しています。また、興味深い調査として、「被疑者が最初に詐称した身分・職業等(警察庁集計)」についても紹介されており、オレオレ型特殊詐欺では、親族詐称が20.9%、親族以外の詐称が79.1%だということです。もう少し詳しくみると、オレオレ詐欺では、親族詐称が84.7%、親族以外の詐称が15.3%で、オレオレ型特殊詐欺全体の傾向とは大きく異なる結果となっています。なお、親族詐称のうち、主な内訳は、子詐称が66.7%、孫詐称が20.2%であることも興味深いといえます。一方、預貯金詐欺は、親族以外の詐称が100%と極端な結果となっており、主な内訳は自治体等職員詐称が36.0%、警察官詐称が31.7%、金融機関職員詐称が14.5%となっており、こちらも大変興味深い結果だといえます。さらに、キャッシュカード詐欺盗は、親族以外の詐称が99.9%で、主な内訳は警察官詐称が52.6%、自治体等職員詐称が21.0%、百貨店等店員詐称が12.2%だということです。預貯金詐欺では金融機関職員、キャッシュカード詐欺盗では百貨店等店員を名乗るケースが多くなっている点は、過去の事例をみても納得できるものといえます。また、「新型コロナウイルス感染症に関連した特殊詐欺(警察庁集計)」については、昨年中の新型コロナウイルス感染症に関連した特殊詐欺の認知件数は55件(うち未遂2件)、被害額は約1億円と総認知件数に占める割合は約0.4%であり、検挙件数は13件、検挙人員は16人と、数字としてはまだ大きくはないものの、今後、ワクチン接種の動きに絡めて警戒が必要であることは間違いないところです。なお検挙事例としては、「昨年4月、70代の男性は、県職員を名乗る男から「コロナ関連の給付金が10万円ある。口座に振り込むので通帳等を用意して欲しい。職員を向かわせる。」等の電話を受けたが、不審に思った被害者からの通報により、被害者方付近を警戒中の警察官が被疑者(受け子)を発見、逮捕した。(栃木)」というものが紹介されています。

特殊詐欺の検挙状況について、「効果的な取締り等の推進」としては、令和2年の特殊詐欺の検挙件数は7,373件(+556件、+8.2%)、検挙人員(以下「総検挙人員」という。)は2,658人(▲203人、▲7.1%)で、検挙件数は過去最高を更新、総検挙人員は減少に転じるも高水準を維持していること、検挙率は54.5%(+14.0ポイント)とここ数年は上昇傾向にあること、手口別では、2019年に大幅に被害が増加した還付金詐欺及びキャッシュカード詐欺盗に対して、検挙対策を強力に推進した結果、還付金詐欺の検挙件数は 452件(+76件、+20.2%)、検挙人員は65人(+31人、+91.2%)、キャッシュカード詐欺盗の検挙件数は2,520件(+903件、+55.8%)、検挙人員は722人(+261人、+56.6%)と大幅に増加したこと、中枢被疑者(犯行グループの中枢にいる主犯被疑者(グループリーダー及び首謀者等)をいう。)を76人(+17人、+28.8%)検挙したこと、被害者方付近に現れた受け子や出し子、それらの見張役を職務質問等により 1,997人検挙(▲5人、▲0.2%)したこと、預貯金口座や携帯電話の不正な売買等の特殊詐欺を助長する犯罪の検挙を推進し、3,505件(▲168件)、2,700人(▲79人)を検挙したことなどが紹介されています。また、犯行拠点(アジト)の摘発については、東京を中心に大都市圏に設けられた犯行拠点(欺罔電話発信地等)のほか、地方の犯行拠点を含め、30箇所を摘発(▲13箇所)、犯行拠点摘発数について、「賃貸マンション」16件、「賃貸オフィス」5件、「民泊」2件、「車両内」1件、「公営住宅」1件、「アパート」1件、「分譲マンション」1件となっているほか、所在地別では、東京19件、大阪5件、千葉2件、埼玉1件、京都1件、愛媛1件、福岡1件となっている点は興味深い結果だといえます。また、暴力団構成員等の検挙人員については、暴力団構成員等(暴力団構成員及び準構成員その他の周辺者の総称。 )の検挙人員は358人(▲163人、▲31.3%)で、総検挙人員に占める割合は13.5%、中枢被疑者の検挙人員(76人、+17人)に占める暴力団構成員等の検挙人員(割合)は30人(39.5%)であり、出し子・受け子等の指示役の検挙人員に占める暴力団構成員等の検挙人員(割合)は26人(40.0%)、リクルーターの検挙人員に占める暴力団構成員等の検挙人員(割合)は65人(32.2%)であるなど、「暴力団構成員等が主導的な立場で特殊詐欺に深く関与している実態がうかがわれる」と指摘しています。このほか、現金回収・運搬役の検挙人員に占める暴力団構成員等の人員・割合は26人(23.6%)、道具調達役の検挙人員に占める暴力団構成員等の検挙人員・割合は12人(36.4%)となっていることも興味深い結果です。さらに、少年の検挙人員は489人(▲130人)で、総検挙人員に占める割合は18.4%、少年の検挙人員の78.3%が受け子で、検挙された受け子に占める割合は21.7%と5人に1人が少年であることは事態の深刻さを表しているといえます。また、外国人の検挙人員は137人(+2人)で4年連続で増加したほか、総検挙人員に占める割合は5.2%、外国人の検挙人員の62.8%が受け子で、出し子は21人(+10人)と倍増している点は注目されます。また、主な外国人被疑者の国籍別人員(割合)は、中国97人(70.8%)、韓国10人(7.3%)、ベトナム7人(5.1%)、タイ7人(5.1%)、ブラジル人5人(3.6%)などどなっています。

特殊詐欺予防対策の取組としては、金融機関等と連携した声掛けにより、10,903件(+142件)、約51.1億円(▲21.5億円)の被害を防止(阻止率( 阻止件数を認知件数(既遂)と阻止件数の和で除した割合)45.7%)したほか、高齢者の高額払戻しに際しての警察への通報につき、金融機関との連携を強化したこと、キャッシュカード手交型とキャッシュカード窃取型への対策として、警察官や金融機関職員等を名乗りキャッシュカードを預かる又はすり替える手口の広報による被害防止活動を推進、また、被害拡大防止のため、金融機関と連携し、預貯金口座のモニタリングを強化する取組のほか、高齢者のATM引出限度額を少額とする取組を推進(昨年12月末現在、35都府県、154金融機関)、全国規模の金融機関においても取組を実施していることが示されています。また、還付金詐欺対策として、金融機関と連携し、一定年数以上にわたってATMでの振込実績のない高齢者のATM振込限度額をゼロ円(又は極めて少額)とし、窓口に誘導して声掛け等を行う取組を推進(こちらも昨年12月末現在、47 都道府県・399金融機関)、全国規模の金融機関等においても取組を実施しているといいます。さらに、電子マネー型への対策として、コンビニエンスストア、電子マネー発行会社等と連携し、電子マネー購入希望者への声掛け、チラシ等の啓発物品の配布、端末機の画面での注意喚起などの被害防止対策を推進しているほか、宅配事業者と連携し、過去に犯行に使用された被害金送付先のリストを活用した不審な宅配便の発見や警察への通報等の取組や、荷受け時の声掛け・確認等による注意喚起を推進しているとしています(これらの取組の成果として、本コラムで最近、未然防止に成功した事例を紹介していますが、このような取組みと事業者等の積極的な取組みによって、現場における意識やリスクセンスの向上が図られ、被害の未然防止につながっている状況を実感しているところです)。また、特殊詐欺等の捜査過程で押収した名簿を活用し、注意喚起を実施(20都府県でコールセンターによる注意喚起を実施。名簿登載者に加え、予兆電話多発地域の金融機関等にも注意喚起を実施)しているほか、犯人からの電話に出ないために、高齢者宅の固定電話を常に留守番電話に設定することなどの働き掛けを実施しているほか、自治体等と連携して、自動通話録音機の普及活動を推進(昨年12月末現在、全国で約23万台分を確保)、全国防犯協会連合会と連携し、迷惑電話防止機能を有する機器の推奨を行う事業を実施していることが示されています。また、「犯行ツール対策」の推進として、以下が紹介されています。いずれも、本コラムにおいて、適宜紹介してきた取組みではありますが、着実に実効性を高めている状況がうかがえます。

  • 主要な通信事業者に対し、犯行に利用された固定電話番号の利用停止及び新たな固定電話番号の提供拒否を要請する取組を推進。昨年中は3,346件の電話番号が利用停止され、新たな固定電話番号の提供拒否要請を5件実施
  • 犯行に利用された固定電話番号を提供した電話転送サービス事業者に対する報告徴収を7件、総務省に対し意見陳述を7件実施。なお、国家公安委員会が行った意見陳述を受け、昨年中、総務大臣が電話転送サービス事業者に対して是正命令2件を発出
  • 犯行に利用された携帯電話(MVNO(自ら無線局を開設・運用せずに移動通信サービスを提供する電気通信事業者)(仮想移動体通信事業者)が提供する 携帯電話を含む)について、役務提供拒否に係る情報提供を推進(6,076件の情報提供を実施)。
  • 犯行に利用された電話番号に対して、繰り返し架電して警告メッセージを流し、電話を事実上使用できなくする「警告電話事業」を継続実施。
  • SNS上における受け子等募集の有害情報への対策として、Twitter利用者に対し特殊詐欺に加担しないよう呼び掛ける注意喚起の投稿(ツイート)や、実際に受け子等を募集していると認められるツイートに対して、返信機能(リプライ)を活用した警告等を実施。
  • 取組事例 特殊詐欺実行犯の募集と認められる隠語(「受け出し」「闇バイト」等)を使用した投稿(ツイート)に対し、返信機能(リプライ)により、「このツイートは、詐欺等の実行犯を募集する不適切な書き込みのおそれがあります。」等と表示させることで、投稿者や隠語を検索した利用者に対する警告を実施(昨年12月末現在、12都道府県)。

今後の取組として、引き続き、「オレオレ詐欺等対策プラン」に基づき、関係行政機関・事業者等と連携しつつ、特殊詐欺等の撲滅に向け、被害防止対策、犯行ツール対策、効果的な取締り等を強力に推進すること、暴力団構成員等が主導的な立場で特殊詐欺に深く関与し、有力な資金源としている実態が認められることから、引き続き、部門の垣根を越えて情報を共有し、多角的・戦略的な取締りを推進することが示されています。

2.最近のトピックス

(1)最近の暴力団を取り巻く情勢

住吉会系組員らによる特殊詐欺事件の被害者が、実行犯のほか、住吉会の代表者ら3人を相手に、1,950万円の損害賠償を求めていた裁判の控訴審判決で、東京高裁は、関功会長ら3人の責任も認め、計1,210万円の支払いを命じています(なお、住吉会の西口茂男・元総裁も訴えられていましたが、2017年に死亡したため相続人が訴訟を引き継いでいます)。同種訴訟の控訴審判決で使用者責任が認められたのはこれで3例目となります。なお、本コラムでも以前紹介したとおり、一審判決は、実行犯が指定暴力団の構成員だったというだけでは、組の威力を利用したとは認められないなどとして、トップの責任は問えないと判断しており、特殊詐欺事件が、暴力団対策法で使用者責任の対象となる「暴力団の威力を利用した資金獲得行為」と言えるかが争点となっていました。なお、この1審判決については、暴排トピックス2019年6月号で以下のとおり指摘しています。

住吉会系組員らによる特殊詐欺の被害者が、組員と住吉会最高幹部ら8人に1,950万円の損害賠償を求めた別の訴訟の判決で、東京地裁は、実行犯の組員に1,100万円の賠償を命じています。一方、幹部ら7人への請求は棄却、「詐欺に暴力団の影響力が使われたとは認められない」と判断しています。報道によれば、判決では、「組員が共犯者をどのように手配し、管理・統制していたか明らかではない」などとして幹部らの責任を否定したほか、「組員が住吉会の資金獲得のため詐欺を行った証拠はない」として、従業員らの不法行為の責任を雇用主らが負うとする民法の「使用者責任」の成立も否定しています。組員の男は詐欺グループの中心人物に受け子を紹介しているものの、その人物と住吉会側との関係も明らかでないこと、詐取された金が住吉会側の収益となった証拠もないことなどから、「組員の男が住吉会の事業として詐欺行為をしたとは認められない」と結論づけています。報道の中で、原告代理人弁護士が、暴力団対策法、民法いずれの「使用者責任」も否定した判決を受けて、「想定外の判決。暴力団内部の収益の移動を被害者が立証するのは難しい。その困難な立証を強いるものだ」と批判していますが、筆者としても、その立証のハードルの高さから使用者責任を認められないとするのは暴力団と特殊詐欺グループの関係性の実態をふまえれば違和感を覚えます。

それに対し、今回の東京高裁判決では、特殊詐欺グループの組織性の高さに着目し、指定暴力団員の関与する特殊詐欺においては、指定暴力団の威力が内部の統制および外部への対抗に利用されることになったと認められるとして、組長の使用者責任を認めています。さらに、高裁判決では、息子の身を案じる親心につけこんだ点や金額が高額なこと、取り返すのに時間がかかることなどを総合敵に考慮し、一審では認められなかった慰謝料100万円も認めているということです。正に、刑事・民事の両面から使用者責任を認め、今後の特殊詐欺犯罪への関与の抑止力となりうる画期的な判決(さらに被害者の救済にも配慮が行き届いている点とあわせ)だと評価したいと思います。

さて、暴排の観点から、もう一つ画期的な判決が出ていますので、紹介します。

福岡県久留米市のマンションにある道仁会2次団体の組事務所について、マンション住民の委託で原告になった公益財団法人福岡県暴力追放運動推進センター(暴追センター)が使用禁止を求めた訴訟の判決で、福岡地裁久留米支部は、請求を認め、2次団体の組長に事務所の使用禁止を命じています。住民が暴力団と法廷で争うのを避けるため、暴追センターが代わりに原告になる暴力団対策法に基づく「代理訴訟制度」を活用した訴訟で判決が言い渡されるのは全国で初めてとなります(これまでに代理訴訟制度を利用した使用禁止請求訴訟が15件ありましたが、いずれも組側が退去して和解したり、仮処分決定で終結したりして、判決に至った事例はありませんでした)。同暴追センターは判決を受けて事務所の完全撤去を視野に入れて住民と協議するとのことであり、今回の判決が本制度の活用を後押しする契機となることが期待されます。報道(2021年2月5日付毎日新聞)によれば、訴訟では、原告側は、道仁会が過去に他の指定暴力団と死者が出る抗争を繰り返したとして「住民は抗争事件に巻き込まれる不安を抱えながら生活している」と主張、仮処分の決定が出るまで玄関やベランダに監視カメラが設置され、マンションの敷地で組員らが威圧的に列をなすこともあったなどとして「事務所が平穏な生活を営む権利を侵害しているのは明らかだ」と訴えたのに対し、組側は「現状では定例会の開催や組員参集もなく、事務所として使用していない」と反論、「抗争は既に終結し、(原告側は)偏見に依存した主張をしている」と請求棄却を求めていたということです。それに対し判決は、同暴追センターの仮処分申し立てで使用禁止を決定した後も室内に荷物が残っており、将来的に事務所として使われる可能性があると指摘、道仁会が過去に激しい抗争を起こしたことを踏まえ「抗争の恐れは今後も否定できない。周辺住民は平穏な生活を営む権利が侵害されており、人格権に基づき、使用禁止を求めることができる」と判断したということです。正に、原告側の主張が全面的に認められた判決で、同様の事例の範となるものと考えます。

組事務所撤去という点では、松葉会系関係者の会社が所有する鹿嶋市厨の施設を巡り、茨城県弁護士会は、小山記念病院を運営する医療法人善仁会が施設の建物部分を取得したと発表したという事例がありました(売買金額は3,100万円だということです)。この建物は、以前の経営会社の破産に伴い、2007年に松葉会系幹部が役員を務める会社が競売で取得していたものですが、2016年に守谷市にあった松葉会の事務所「松葉会会館」から退去を余儀なくされたことから、代替施設として利用される可能性が浮上、この会社が取得したのが上物(建屋)だけだったため、鹿嶋市が2016年に敷地(土地)を購入、市は地権者の立場から法的措置を示唆し、会社に対しこの建物を暴力団の会合に使用しないよう求めていました。取得した善仁会は今後、建物を災害時に使用する医療器具や新型コロナウイルス関連物資の保管施設などとして利用する方針だということです。工藤会本部事務所が撤去され、跡地がNPO法人により社会的に有効活用されることとなった事例とともに、官民挙げた暴排の取組み成功事例として高く評価したいと思います。

その工藤会については、4つの市民襲撃事件で殺人罪などに問われた最高幹部2人に対する論告求刑公判が福岡地裁であり、死刑が求刑されています。両被告は、北九州市の港湾関連工事などに強い影響力を持っていたとされる元漁協組合長の男性射殺(1998年)、工藤会捜査を担当していた元福岡県警警部の男性銃撃(2012年)、野村被告の下腹部の脱毛施術などを担当した女性看護師刺傷(2013年)、元漁協組合長の孫の歯科医師男性刺傷(2014年)の4事件で起訴され、公判は2019年10月から2020年9月まで計59回、延べ91人の証人が出廷、両被告は罪状認否や被告人質問で、4事件への指示や関与をすべて否定、数多くの証人による証言からも直接的な証拠は出ませんでした。それに対し検察側は、被害者が関わる利権に工藤会が近づこうとしていたこと、野村被告と被害者との間にトラブルがあったことなどから襲撃の動機があったと指摘、さらに、工藤会幹部が野村被告宅に毎朝あいさつに行ったり、総裁名で組員を処分したりしていることなど、野村被告が組織のトップとして力を持っていたことなどを示してきたほか、両被告の出身母体である工藤会の2次団体「田中組」の組員が組織的に準備し実行していることや、配下組員には事件を起こす動機がないことなど、両被告の指示や承諾を伺わせる間接事実を積み上げ、4事件は工藤会による組織的な犯行であって、最高幹部の指示や了承なしに事件は起こり得なかったと判断したものです。さらに、野村被告は2000年1月に4代目工藤会の会長に就き、田上被告と組織内で絶対的な存在感を築いてきたとされ、工藤会は、利権介入に応じない企業や関係者だけではなく、意に沿わない市民まで標的としてきたとされます。2003年には系列組員が暴力団追放を掲げる同市小倉北区のクラブ「ぼおるど」に手投げ弾を投げ込み十数人が負傷し、2012年は市内で暴排標章を掲示した飲食店への放火や店関係者への切りつけが相次ぎました。そのような経緯等もふまえ、検察側は論告で「工藤会は目的達成のためならば見境なく襲撃の標的とする人命軽視の姿勢が顕著な組織だ」と厳しく批判、「暴力団同士の抗争とは異なり、社会への脅威は極めて大きい。市民を強い恐怖に陥れた」と社会への影響にも言及したうえで、野村被告を「全犯行の首謀者で、元凶だ」と断じ、極刑を回避する理由はないと結論付けました。間接証拠の積み上げではありますが、「暴力団の組織統制上、親分の『あいつ気にいらん』との意思表示が子分に伝われば共謀は十分成立する。暗黙のうちに意思疎通できる関係性にあったと裁判所が認定するかも焦点だ」とする有識者のコメントは極めて説得力があります。前述した特殊詐欺における組長の使用者責任が問われた東京高裁判決では、特殊詐欺グループの「組織性の高さ」に着目、「指定暴力団員の関与する特殊詐欺においては、指定暴力団の威力が内部の統制および外部への対抗に利用されることになったと認められる」と指摘していることからもわかるとおり、「鉄の結束」とも言われた高い組織性が強固に備わっている組織であるがゆえに、「暗黙のうちに意思疎通できる関係性にあった」と認められる可能性は低くないように思われます。なお、検察側は「工藤会に逆らえない風潮を醸成した」と指摘していますが、これについては、「工藤会が暴力で脅し続けても、北九州市民は言うことを聞かなかった。言うことを聞かないからこそ、暴力をエスカレートさせたのだ。野村被告に死刑が求刑された背景に、北九州市民が暴力団に屈しなかった側面がある」との指摘もあり、繁華街の多くの飲食店等がみかじめ料を支払っていた事実はあるとはいえ、そのような側面も否定できないように思われます。いずれにせよ、今後の弁護人の最終弁論、被告人最終陳述、そして判決が注目されるところです。

さて、特定抗争指定暴力団に指定されている六代目山口組と神戸山口組の活動を厳しく制限する「警戒区域」に指定されている岡山市内で、(概ね)5人以上の組員が集まることが禁じられているにもかかわらず13人の集会を開いたとして、岡山県警は、神戸山口組系藤健興業幹部ら13人を暴力団対策法違反(多数集合)容疑で逮捕しています。警戒区域に関する違反での逮捕は全国初となります。報道によれば、逮捕容疑は昨年12月25日午後0時50分ごろから同2時10分ごろの間、岡山市南区の飲食店に13人で集まったというもので、「飲食店に暴力団組員が多数で集まっている」との情報提供があり、県警が捜査、防犯カメラの映像などから参加者を特定したということです。なお、藤健興業を巡っては、昨年12月、倉敷市児島味野の事務所が銃撃され、六代目山口組系の組員1人が銃刀法違反(発射、加重所持)罪などで起訴されています。さらに、本事件を受けて、岡山県公安委員会は、倉敷市も警戒区域に指定することを決め、2021年1月22日の官報の公示により効力が発生しています。これにより、全国の警戒区域は10府県19市町となりました。

さて、福岡県警は、2020年末の県内の暴力団勢力を発表しています。工藤会は、構成員220人、準構成員210人の計430人と前年同期より80人減って過去最少となり、ピーク時の2008年末の1,210人から65%も減る結果となりました。さらに、構成員の約半数が服役中か勾留中といい、福岡県警は、工藤会壊滅作戦や暴力団犯罪の取り締まりなどが奏功したとしています。また、他の指定暴力団も含めた暴力団勢力全体では、構成員860人、準構成員670人の計1,530人で、7年連続で過去最少を更新しており、前年同期比で160人減り、ピーク時の2007年末(3,750人)から6割減っています。ちなみに団体別では、道仁会は構成員200人(前年同期比▲30人)・準構成員170人(+10人)・合計370人(▲20人)、浪川会は構成員110人(増減なし)・準構成員50人(増減なし)・合計160人(▲10人)、福博会は構成員は80人(▲10人)・準構成員80人(▲10人)・合計150人(▲20人)、太洲会は構成員80人(▲10人)・準構成員50人(増減なし)・合計130人(▲10人)、六代目山口組は構成員120人(▲20人)・準構成員100人(増減なし)・合計220人(▲20人)、神戸山口組は構成員40人(▲10人)・準構成員20人(増減なし)・合計60人(▲10人)などとなっています。このように目に見て弱体化している工藤会については、六代目山口組幹部が、極秘裏に工藤会トップに拘置所で面会するなど、水面下で何らかの動きがあることを推測させる状況もあるようです。また、熊本県天草市の漁港で小型船舶から覚せい剤約590キロが押収された事件で、覚せい剤取締法違反(営利目的輸入未遂)の疑いで、工藤会系組員と建築作業員が新たに逮捕されています。この事件を巡る逮捕者は24人になり、工藤会の資金源の一端が明らかになっています。また、工藤会トップらの裁判に証人として出廷した男性を、電話などで繰り返し脅した罪に問われた工藤会系の組長に対して、福岡地裁は執行猶予付きの有罪判決を言い渡しています。報道によれば、裁判長は「組織の地位を背景にした悪質な犯行で、工藤会に関するほかの証人の審理にも影響を及ぼす」と指摘、そのうえで「被害者は報復に対する恐怖や不安など多大な精神的苦痛を負った」として、被告に懲役1年、執行猶予3年を言い渡しています。さらに、同じく工藤会トップらの公判を巡り、検察側が求刑した罰金の援助金名目で金を脅し取ろうとしたとして、福岡県警は、同会傘下組織幹部を恐喝未遂などの容疑で逮捕しています。報道によれば、工藤会ナンバー2で会長の田上不美夫被告の論告求刑公判後、会社経営の50代男性に「求刑で、罰金があってですね、1,000万くらいになると思う。加勢をしてもらおうと思いまして」などと現金を要求したものの、男性が応じなかったため未遂に終わったというものです。その他、工藤会を巡っては、旧本部事務所跡地に福祉施設を建設する予定のNPO法人抱樸理事長が「SDGsの街づくりとして、抱樸は特定危険指定暴力団工藤会の本部事務所跡地に全世代型の福祉施設を建設する「希望のまちプロジェクト」をパイロット事業に位置づけたい。本部事務所は撤去されたが、工藤会が受け皿になっていた行き場のない子供たち、そしてその親たちをしっかり支援し、工藤会に行かなくてもいい社会をつくることが真の最終決着になる。SDGsを担うのは子供たちだ。家族も含めた支援体制づくりにしっかり取り組まなければ、いつまでたっても工藤会は「社会の必要悪」と言われるだろう」と述べていることには、筆者は大変感銘を受けました。また、工藤会に対する「頂上作戦」を指揮した当時の福岡県警本部長の逸話として、トップ逮捕を受けた記者会見で、「田中組を中心とする工藤会。このような組織にいつまでもすがり、一部の幹部に翻弄され、自分の人生、そして家族の人生を棒に振ることはありません。工藤会の構成員、準構成員も一人の人間として、今、大きな岐路に立っているはずです。雲間から一筋の光を見いだし、勇気を出して、広い社会へ踏み出す時です。今が生まれ変わり、人生をやり直すチャンスです。自分の将来を、そして家族を大切にして、更生の道を歩もうとする者は、県警察に、あるいは暴追センターに相談してほしいと思います。待っています」と述べた経緯が2021年2月3日付西日本新聞で報じられていましたが、こちらも筆者として大変な感銘を受けました。なお、報道によれば、「数々の凶悪事件を起こし、特定危険指定されている工藤会を辞めることは、当時の組員にとって「死の恐怖」と言えた。だからこそ、トップとナンバー2をはじめ中枢幹部を先に社会から隔離することで報復のリスクを減らし、捜査と両輪で戦略的に離脱支援のメッセージを送った。今が、辞められるチャンスなんだと」、そのような思いで発せられた異例の言葉が、今に至る工藤会の弱体化(2008年比で▲65%にまで暴力団構成員等が減少した事実)へとつながっていることをあらためて痛感させられました。

その他、最近の暴力団情勢に関する報道から、いくつか紹介します。

  • 福山西署などは、名誉毀損などの疑いで侠道会系組長の男と自営業の男の両容疑者を逮捕しています。報道によれば、別の1人と共謀し、福山市内の会社役員男性方の周辺で「大悪党」などと書いた紙を貼り付けた街宣車で走りながら、「反社会勢力との密接交際をやめろ」、「放火魔、人殺し。おどりゃ、ぶち殺すぞ」などと拡声器で話し、男性らの名誉を傷つけた疑いがもたれているということです。また、侠道会については、組員と見られる男が覚せい剤取締法違反で逮捕され。本部事務所が家宅捜索を受けています。
  • 2017年4月に松葉会から分裂した、茨城県内唯一の指定暴力団である関東関根組に対し、茨城県公安委員会は、3年に1度、指定暴力団の更新を前に暴力団対策法に基づく意見聴取を県警本部で開いたが、大塚逸男代表ら組関係者は姿を現さず終了、聴取に応じなくても指定することが可能であり、同委員会は今後更新に向けた手続きを進めることになります。報道によれば、関東関根組の構成員数は約100人で、3年前から約60人減っているということです。
  • 太陽光発電設備を設置した土地を譲り渡すなどとうそをつき、現金2,850万円をだまし取ったとして、福博会系組長の男ら3人が逮捕されています。組長、会社役員ら男女3人は共謀の上、2019年4月から5月にかけて、容疑者が所有する飯塚市の土地に太陽光発電設備を設置し、土地と共に譲り渡すなどとうその約束をし、資材の購入名目で糟屋郡の60代の男性から現金2850万円をだまし取った疑いがもたれています。また、薬物の影響で正常な運転が困難な状態で事故を起こし、男女3人にけがをさせたとして、福博会系組員が逮捕されています。昨年12月、福岡市内の交差点で、薬物の影響で正常な運転が困難な状態で衝突事故を起こし、相手方の車に乗っていた20代の男女3人にけがをさせた疑いがもたれており、事故後、覚せい剤所持の疑いで現行犯逮捕され、その後、覚せい剤使用の疑いで再逮捕されていました。
  • 食品卸売会社を装い黒毛和牛などの高級食材を詐取したとして、警視庁は詐欺の疑いで、会社員=別の詐欺事件で受刑中=と、六代目山口組系組員の両容疑者ら男10人を逮捕しています。大量の商品を受領後に行方をくらます「取り込み詐欺」の手口で、少なくとも全国の約10社が黒毛和牛やホタテなどを詐取され、被害総額は計約6,000万円に上るとみられていますが、暴力団員の関与が明らかになるのは、極めて珍しいといえます。2018年3月、共謀し、「ケイズコーポレーション」という実体のない食品販売会社の社員を名乗って、福岡県の食肉会社や東京都の海産物販売会社に取引を持ちかけ、両社が扱う食肉と海産物をだまし取ったというもので、事件前に小規模の取引をし、信用させたといい、正に「取り込み詐欺」の典型的な事例だといえます。

コロナ禍の給付金や貸付金をだまし取る犯罪が多発する中、暴力団の関与する事件も次々と摘発されています。

例えば、(1)新型コロナウイルスの影響で収入が減った人に社会福祉協議会(社協)が貸し出す特例貸付金をだまし取ったとして、愛知県警捜査4課は、六代目山口組系組員4人を詐欺容疑で逮捕しています。4人はいずれも直接の面識はないものの、暴力団組員による不正受給が全国で相次いでおり、県警は指南役やマニュアルにより組織的に制度を悪用している可能性もあるとみて捜査しているということです。組員であることを隠し、社協から「緊急小口資金」や「総合支援資金」をそれぞれ20万~80万円だまし取ったとしていい、被害額は計約213万円だということです。また、(2)新型コロナウイルス対策のため、自主休業した飲食店に佐賀県が支給する支援金をだまし取ったとして福岡県警は、詐欺容疑で道仁会系組長と元妻の派遣社員の女を逮捕しています。昨年5~6月にかけて、男が実質的に経営する佐賀県鳥栖市のたこ焼き店に関し、女名義で支援金を申請し、15万円をだまし取った疑いがもたれています。佐賀県は暴力団関係者が関与する店舗を支給対象外としていたものの、この支援金の支払いは計155件で、緊急性などの観点から暴力団との関係を調べる佐賀県警への照会はしていなかったということです。さらに、(3)新型コロナで収入が減少した世帯などを支援する国の貸付制度を悪用し、現金50万円を騙し取ったとして、神戸山口組系暴力団組長と塗装作業員の2人が逮捕されています。2人は新型コロナで収入が減少した世帯などを支援する国の生活福祉資金貸付制度を悪用、制度の対象外となっている暴力団員だったことを隠し、2020年6月から7月にかけ計50万円をだまし取った疑いがもたれています。また、(4)同じ生活福祉金特例貸付制度の「緊急小口資金」をだまし取ったとして、詐欺の疑い六代目山口組系組員が逮捕されています。なお、「緊急小口資金」を暴力団員ではないと偽ってだまし取った事例としては、(5)六代目山口組系組員が石川県警に逮捕された事例や、(6)長崎県警に暴力団員が逮捕された事例、(7)松葉会系組員2人が群馬県警に逮捕された事例などがあります。それら以外でも、新型コロナ関連の事業をでっちあげ、松山市の金融機関に融資を申し込んで現金約3,000万円をだまし取るなどした疑いで、松山市内の41歳の男ら6人が、愛知県警に逮捕されています。養子縁組をして、容疑者1人を代表とするうその個人事業を装ったというものです。6人の中には暴力団の周辺者がいて、愛知県警はだまし取った金が暴力団の資金源になった可能性もあるとみて、養子縁組の理由も含め捜査しているということです。なお、コロナ関連ではありませんが、詐欺的手法で逮捕された事例としては、偽の商品券を使ってブランドバッグをだまし取ろうとしたとして、六代目山口組系幹部と組員が、偽造有価証券行使などの疑いで逮捕された事例がありました。報道によれば、2人は、2020年1月、3人の男と共謀し、大阪市内の高級ブランド店で、偽のJCBギフトカードを使い、販売価格34万円のショルダーバッグ1個をだまし取るなどした疑いがもたれています。愛知県内では2020年、偽のJCBギフトカードが使われる事案が48件確認されていて、警察は、手に入れた金品を暴力団の資金源としていた可能性もあるとみて関連を調べているということです。

その他、暴力団構成員等の関与した最近の摘発事例から、いくつか紹介します。

  • 稲川会系組員らが関与する別の詐欺事件で家宅捜索した際に、305グラムの乾燥大麻(末端価格約183万円)や量りなどが見つかり、愛知県警が乾燥大麻を販売する目的で所持した疑いで男女3人を逮捕しています。なお、報道によれば、押収した資料から3人は大麻を中学生などにも販売していたとみられるということで、警察が詳しく調べているということです。
  • 大阪市北区で無許可のキャバクラ店を営業したとして、大阪府警曽根崎署、六代目山口組系幹部ら計11人を風営法違反(無許可営業)と府迷惑防止条例違反(客引き)の疑いで逮捕しています。警察は、押収した資料を分析し、暴力団や半グレグループへの資金の流れを追及することにしているということです。
  • 六代目山口組系組員の男ら15人が昨年逮捕されたナマコ密漁事件で、第1管区海上保安本部(小樽)の男性海上保安官がこの暴力団員の男に捜査情報を漏えいした疑いがあることが分かったということです。小樽海保は国家公務員法(守秘義務)違反の疑いがあるとみて調べています。密漁グループの後ろ盾だった男に対し、張り込み捜査を行う日時や場所など職務上知り得た秘密を漏らした疑いが持たれており、これにより捜査が妨害された可能性があるということで、公務員としては言語道断の行為と呆れるばかりです。
  • 六代目山口組三代目弘道会福島連合幹部ら4人が、運輸局にウソの届け出をした疑いなどで逮捕されています。報道によれば、昨年5月、北海道運輸局に自動車の保管場所の移転登録を申請するにあたり、中古車販売業の容疑者を申請代理人として使用する本拠地の住所を組の事務所の住所としたり、所有者や使用者の住所にウソの内容を記載したりして届け出た疑いが持たれているといい、さらに、その際、容疑者らは、移転登録の申請に必要な証明書に会社名義の社判や社印を押すことを承諾した疑いがもたれているということです。

さて、「暴力団のこれから」を考えるうえで、半グレと暴力団の関係をどう整理するか、今後の両者の関係性がどうなるのか、法的規制のあり方をどうすべきかなど難しい問題が横たわっています。反社会的勢力という概念においては両立・併存する両者ですが、属性から捉えようとすると、その境目や役割などが相互にグラデーション化し溶け合っている部分もあり、一方で相互に明確に線引きがなされている部分などもあり、あるいは一般人との境目も不透明になっている部分もあり、正に「多様な属性を含む総体としての反社会的勢力」として排除していくとして言いようのないカオスな状態となっています。また、反社会的勢力を「社会不安を増大する存在」として捉えた場合、離脱者支援の問題は極めて重要なテーマとなります。この点について、前回の本コラム(暴排トピックス2021年1月号)で、「元暴アウトロー」の問題を追及している作家の廣末登氏のコラムを紹介しましたが、その続編(「半グレにもランクが」当事者が語った闇社会の実像」)(JBpress)が公表されていますので、少し長くなりますが、一部抜粋のうえ引用して紹介します。

闇バイトや先輩後輩の繋がりから、半グレの一員として特殊詐欺などの犯罪に手を染めると、銀行口座が作れないなどの厳しい社会的制裁を受ける。そうした実態を知らずに犯罪を行い、人生を棒に振った人たちを、筆者は数多く目にしてきた。ときどき誤解している若者もいるが、裏社会とは一攫千金を簡単に許す生易しい環境ではない。食うか食われるかのサバイバルである。…半グレは多くの場合、本職(ヤクザ)からになる。ただし、美味しい話はヤクザがシノいで、割に合わないリスキーな仕事するのが半グレ。つまり「残りっ屁」が半グレの仕事です。あとは、ヤクザはケツ持ち(後ろ盾)を匂わせてくるけど、実際には持ってくれない。…暴走族と同じで、それ(半グレ)でカッコよく稼げると思っている節があるんじゃないでしょうか。…犯罪も多岐にわたり、今の時代は(シノギの)レパートリーが豊富にある。この先、まだまだハイテクな犯罪が増えると思うし、当然、それを考えて繰り出していくのは、半グレたちだと思う。…これ以上半グレを増やさないようにするためには、前回の記事で指摘した元暴アウトローの問題や偽装破門など、暴力団員や暴力団離脱者のアングラ化も視野に入れて、闇バイトの実態や特殊詐欺実行犯の低年齢化の背景を解明し、早急に対策を講じる必要があるだろう。「どこにでもいる不良が半グレになる」「半グレは普通の子を巻き込む」という問題は、非常に深刻である。なぜなら、冒頭で述べたように、未成年でも特殊詐欺などの前歴があると社会的制約を課される恐れがある。結果、彼らは一回の失敗で、成功の見込みがない隘路を歩まねばならなくなる可能性を否めないからだ。興味本位や軽はずみな行動で、ずっと重い十字架を背負っていかねばならなくなるかもしれないのだ。

その他、半グレに関する最近の報道から、いくつか紹介します。

  • 風俗店で働く女性を勧誘するスカウトグループ幹部の男が、グループ内のルールを破ったという理由でメンバーを暴行した疑いなどで、警視庁に逮捕されています。スカウトグループ「ナチュラル」幹部(29)は、2020年9月、東京・新宿区の公園などで、メンバーの20代の男性の頭を殴ったうえ、「罰金を払わないんだったら殺すぞ」と脅した疑いが持たれています。「ナチュラル」は、本コラムでも以前紹介しましたが、歌舞伎町など都内の風俗店で働く女性を勧誘する800人規模のグループで、容疑者は、グループ内のルールを破った男性を制裁で暴行したとみられ、警視庁は、「ナチュラル」の背後に暴力団がいる可能性があるとみて調べているということです。
  • 警視庁が不良グループ元リーダー「新宿ジャックス」元総長(40)を再逮捕しています。報道によれば、昨年、知人の男性に因縁をつけ、5回にわたって合わせて現金300万円を脅し取った疑いが持たれています。容疑者はいずれも車の中に知人を押し込み、「ルールに反した」「なめてんだろ、電話して来いって言ったのに」などと脅したということです。容疑者は昨年7月、東京・六本木の路上で、この男性から現金200万円を脅し取ったとして逮捕・起訴されています。
(2)AML/CFTを巡る動向

コロナ禍の影響を受けて、2019年に実施された金融活動作業部会(FATF)の第4次対日相互審査の結果を審議する全体会合は今年6月に再度延期されています。引き続き態勢整備に取り組んでいくことには変わりはないものの、とりわけ、既存の顧客のリスクに応じて情報の更新を求める「継続的顧客管理」のあり方については、依頼する数が膨大で相応の時間を要することもあり、どの金融機関の実務にとっても悩ましいものとなっています。今後、リスクベース・アプローチによって、提供商品や属性等を勘案して低リスクと判断した顧客には「より簡素な顧客管理」を適用するなど、実効性を確保しつつ簡素化する対応も検討していくことが求められています。そのあたりの最新の動向と課題については、REGULATION JAPAN AML金融犯罪対策と規制対応<アフターレポート>が参考になります。以下、いくつか参照したいと思います。

▼REGULATION JAPAN AML金融犯罪対策と規制対応<アフターレポート>

金融庁の講演の中では、「マネー・ローンダリングやテロ資金供与の防止には、入口となる本人確認およびその後の継続的な実態把握が非常に重要だ。直近で発生している不正出金などのリスク対策にもなる。継続的なチェックは顧客へのアンケートの送信などがあるが、顧客に対し、協力をお願いする理由をしっかり説明することが大切だ」、「国連によれば、全世界で資金洗浄されている金額は世界全体のGDPの約2~5%とされている」、「金融機関ではないが、米国のAppleやAmazonも、取引スクリーニング手続きの不備により行政処分を受けた。米財務省OFACは、曖昧な検索や習慣上のスペリングの違いもしっかりスクリーニングで発見するべきだと指摘している。金融機関にとっても示唆に富む案件」、「犯罪手口の高度化などに伴い、対策のための金融機関のコストも増大しているのが課題だ。そこでAIも活用した AML/CFTプロセスの共同化を通じ、金融業界全体の態勢の有効性向上・効率化・規制の精緻化が達成できないかと考え、NEDOが実証事業を進めている」といった指摘が大変参考になります。

その他の専門家らの講演でも、「マネロン・テロ資金供与対策は、金融機関が自らの組織や善良な顧客を守る取組み。法令で定義された狭義の犯罪収益に限定するのではなく、守備範囲を広く構えて対応することが金融機関への社会的要請でもある」「取引時確認は、取引の過程で完成できるぐらいの認識と注意力をもって取引を開始する覚悟が必要」「継続的顧客管理は、疑問が出たら顧客に確認し、適切なリスク低減措置を講じて、取引継続・再開の是非を判断することである。この<疑問⇒再確認⇒低減措置>のサイクルがうまく回っていないとするなら、その原因は最初のリスクの認識が不十分だからなのではないかと考えられる」、「取引時確認がある一時点でのチェックであるのに対し、継続的顧客管理は動くボールのモニタリングという「点と線」 の関係」、「見えない敵に対し、人とシステムの感度を高め、いかに気づくかの闘い」、「有効なリスクファクターを見出すには、あるリスク項目を決めて分析する方法と、項目を判断せず回帰分析や決定木などによって統計的に処理する方法がある。いずれにしても、「黒い」ところだけを見ていても有効なモデルにはならないことに注意しなければならない」、「AMLプログラムは一体であり、一部が不調になると全体の有効性が低下してしまうため、常にトータルでの高度化を実現しなくてはならない。変動し続ける内外環境や犯罪手口に、常に対応することが求められる。全社的にPDCAを迅速に回すことが必要」、「不正口座対策とマネロン対策は同時に行うことが求められる。FATFなどでは海外送金に注目が集まりがちだが、それだけに限らず全商品サービスのリスク評価が必要」、「攻撃者はこの口座情報をどのように入手するのかが、対策のポイントとなってくる。入手方法の1つとして口座買取サイトがある。3万円~6万円で口座が買取されており、サイトを見て売ってしまう人が出やすい状況だ。SNSでの口座売買やレンタル、架空口座開設アルバイトの募集も見られる。さらに本人確認書類の偽造サイトなど、口座開設をサポートするようなサイトも存在する。本人確認書類だけで巧妙な口座の不正利用は防げず、これを前提とした施策が必要」、「不正口座対策のうち、効果が高いと考えているのが、申込内容の検証とアクセス情報のモニタリングだ。具体的な兆候として、少額入出金、ATM出金限度額変更、振込入金多数などが挙げられる。インターネットアクセスでは、海外プロバイダーを使った申込、過去に不正利用されたIPアドレス、海外の時間設定の端末からのアクセスなどが兆候だ。口座開設申込内容の検証では、大量のデータを分析すると不自然な塊が見えてくる。同一マンションの部屋番号違いでの申込集中、市役所などのFAX番号の使用などが多いパターンだ」、「財務省は外国為替検査における不備事項の事例を要約し、財務省HPに事例集として公表しているので、是非参考にしていただきたい。たとえば、顧客管理をカナで行っている金融機関にアルファベットでの管理も求めているが、管理できる字数の制約を減らし、資産凍結措置に関するスクリーニングを行うことが重要だ」、「FATFの公表レポートについて紹介すると、センザンコウやサイなど野生動物の違法取引にかかる犯罪収益の移転にも警鐘を鳴らしている。毎年数十億ドルの犯罪収益を生んでいるものの、各国においてその追跡を優先課題としておらず、FATFは検討すべき課題として取り上げている」といった指摘などが大変参考になります。

その他、AML/CFTを巡る最近の報道から、いくつか紹介します。

  • 2021年2月7日付読売新聞が、金融庁はAML/CFT強化のため、AI(人工知能)を活用して不正送金などを検知するシステムを作り、全国の金融機関での導入を図ると報じています。「反社会的勢力による銀行口座の開設や、犯罪組織の関与が疑われる資金のやり取りを防ぐ狙いがある。早ければ2021年度中に実用化し、対策が遅れている地方銀行などに利用を促す。新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の予算数億円を使い、金融庁が今年度からNECや全国銀行協会、あずさ監査法人と実証実験を進めてきた。3月に報告書をまとめ、21年度以降、システムの利用料金や運営体制などの検討を進める。新システムでは、金融機関の口座開設や送金などの取引データを、AIがチェックする。短期間に何度も特定口座への送金を繰り返したり、多額の現金を突然引き出したりといった不自然な取引や人物を検知し、金融機関に警告する仕組みだ」ということです。反社チェックやAML/CFTにおける厳格な顧客管理においては、すでに属性だけでなく「ふるまい」をもしっかり精査することで、見極めの精度を高める取組みが必須となっています。精度の向上と業務効率化に資するものであれば大変注目していきたいところです。今後の展開に期待したいと思います。
  • 政府はマイナンバーカード(個人番号カード)を使って本人確認することで、10万円超の現金振り込みをATMで完結できるようにする見通しとニッキンが報じています。報道によれば、2020年度中にも銀行界と調整に入り、利用者やシステム改修の負担が生じる金融機関のニーズを確認したうえで方向性を決めるとしています。10万円超の現金振り込みは、犯罪収益移転防止法(犯収法)で本人確認を義務づけられており、現在、店頭では運転免許証など本人確認書類を提示するか、預金口座にいったん入金して送金する必要があるところ。マイナンバーカードを使えば本人確認をATMで完結できることになり、AML/CFTの強化や利用者の利便性向上につながることが期待されるほか、インターネットバンキングでも活用も視野に入るものと思われます。関連して、LINEは金融機関の本人確認手続きをオンラインで代行するサービスを2021年夏に始めるとも報じられています(2020年10月5日付日本経済新聞)。通常は郵送による口座保有者への本人確認がLINEで完結し、銀行の手続き負担を軽減、スマホ決済向けの技術を活用し、なりすまし防止といった安全性も確保、先行する行政向けに続き、民間分野にも確認手段を提供するとしています。
  • インターネット証券会社に他人名義でFX口座を申し込み、口座をだまし取ったとして会社員の男が逮捕されています。報道によれば、実際には自らが取引を行うことを隠して証券会社に別の男の名義でFX口座の開設を申し込み、口座をだまし取った疑いが持たれているということです。別の詐欺事件の捜査でこの口座が見つかり、口座には現金5,000万円が入金されていたといいます。警視庁はマネー・ローンダリングが行われた可能性もあるとみて調べているということです。
  • 南渡島消防事務組合は、自分のキャッシュカードを他人に譲り渡したとして犯罪収益移転防止法違反罪で罰金20万円の略式命令を受けた20代の男性消防士を停職6カ月の懲戒処分としたと発表しています。報道によれば、消防士は昨年7月ごろ、借金の返済を免除してもらう約束でキャッシュカードを債権者に郵送したとされ、函館区検が略式起訴し、消防士は函館簡裁から略式命令を受けています。さらに、自分たちの銀行口座のキャッシュカードと暗証番号を、東京のヤミ金業者に譲り渡した疑いで、札幌の40代の夫婦が逮捕されています。報道によれば、2人は、2018年2月から6月にかけて、それぞれの名義の8つの銀行口座のキャッシュカードと暗証番号を、札幌市内の郵便局から5回にわけて東京都内のヤミ金業者に発送した疑いが持たれているといいます。夫は「生活が苦しく、お金に困っているときにヤミ金業者に言われて、キャッシュカードや暗証番号を渡した」と話し、容疑を認めているといいます。安易に口座の売買が行われている実態、生活苦に付け込んで口座の売買を持ちかけるヤミ金業者の存在など、不正口座売買がいかに蔓延しているかを感じさせます。先の専門家の指摘にもあるとおり、AML/CFTにおいては、攻撃者がどのようにして不正口座を入手するかを知り、対策することが極めて重要です。
(3)特殊詐欺を巡る動向

2020年(令和2年)の特殊詐欺の認知・検挙状況については、前述したとおりですが、特殊詐欺に関する報道から、自治体ごとの状況について言及されているものがいくつかありましたので、確認してみます。

まず大阪では、高齢者が数千万円をだまし取られる特殊詐欺の被害が相次いで明らかになり、警察が注意を呼び掛けている状況にあります。例えば、大阪府内の80代の女性に昨年9月以降、大手企業の社員を名乗る男らから「名義貸しは犯罪です」「このままでは金融庁に全財産を没収されてしまうので、こちらで保管します」などの電話が相次ぎ、女性は、ほぼ全財産の6,900万円を10回に分けて指定された住所に宅配便で送ってしまったということです。また最近でも、70代の女性が警察官をかたる男らに約2,500万円をだまし取られる被害が発生しているといいます。報道によれば、大阪府内での昨年1年間の特殊詐欺の被害は、約1,100件、高額の被害が相次いでいることから被害総額は22億円余りに上るということです(なお、すでに今年に入って1月15日時点で1,000万円以上の被害が3件、被害総額は1億5,000万円を超えているといい、危険な状況となっています)。また、昨年、富山県警が認知した特殊詐欺の被害総額が1億7,000万円近くにのぼり2019年から1億円以上増え、件数は48件で2019年より7件増えたということです。詐欺の手口は「老人ホームに入居するための名義を貸してほしい」といった介護施設関連の架空請求や銀行員を装った犯人が訪問してきて「今使っているキャッシュカードが使えなくなる」とにせのカードとすりかえる犯行が急増しているといい、被害にあっているのは70代と80代の女性がもっとも多いということです。次に、岡山中央署は、携帯電話のショートメッセージサービス(SMS)を悪用した架空請求詐欺で、岡山市内の女性が約280万円をだまし取られたと発表しています。女性は、大手携帯電話会社のカスタマーサポートセンターをかたるメールを受け取り、記載の番号に電話したところ、有料サイトの利用料の支払いを要求され、指定の口座に約30万円を振り込み、その後も別のサイトの利用料名目などで9回、計約250万円を支払ったということです。県警によると、2020年に認知された特殊詐欺の被害額は約5億2,010万円で、うち架空請求は約2億8,530万円と手口別で最多だったといいます。福島県については、昨年1年間に福島県内で発生した「なりすまし詐欺」による被害は件数・被害額ともに前の年を上回り、135件発生し被害総額は2億2,795万円に上ったと報じられています。前の年と比べると、件数は31件、被害額はおよそ5,300万円それぞれ増加しています。詐欺の手口では、警察官や金融機関の職員などになりすましてキャッシュカードを騙し取り現金を引き出す手口が全体のおよそ7割を占めたほか、被害者の8割余りが高齢者でみられるといいます。発生場所をさらに分析すると、新幹線駅がある福島市と郡山市の2市で認知件数全体の6割を占め、中通りだけで8割強に達したということです。県警は、関東圏の詐欺グループが新幹線で県内に入ってきているとみており、「県内全域で被害が確認されているが、交通の利便性も影響しているのは間違いない」としています。また、長野県内で昨年1年間に発生した特殊詐欺の被害額は前の年より増加し、およそ3億円となりました。被害の高額化が要因とみられているということです。報道によれば、昨年、長野県内で発生した特殊詐欺は125件、被害額は2億9、600万円余で、前の年を6、000万円近く上回る結果となりました。被害者のうち、65歳以上の高齢者は96人で、全体のおよそ8割を占めています。被害額が増えた要因について、施設への入居やマンション購入をめぐる名義貸しなど、1件あたりの被害額が1、000万円を超える詐欺が増加したことなどが挙げてられているようです。さらに、還付金詐欺や架空請求など三重県内での「特殊詐欺」被害は、昨年1年間でおよそ4億2,820万円と、前年に比べておよそ2億8,590万円も増えたといいます。また、兵庫県警は、特殊詐欺の「アポ電」の多い地域に捜査員を配置し警戒を強める中、同県内では昨年1~11月の特殊詐欺の被害が938件(前年同期比349件増)あり、被害総額は約15億5,500万円(6億1,730万円増)に上っているといいます。同県警は昨年12月、「特殊詐欺総合対策本部」を設置し、1月15日からは、アポ電の多発地域に制服姿の捜査員20人を配置し、商業施設や駅付近で不審者に声掛けするなど警戒に当たっています。また、滋賀県内で2020年に認知された特殊詐欺のうち、件数、被害額ともに約7割が65歳以上の高齢者に集中していたことがわかったといいます。自宅を訪ね、キャッシュカードをだまし取る手口の横行で、2年続けて高い割合となっており、県警は取り締まりや高齢者に対する啓発を一層強化する方針で、「『自分は大丈夫だ』と過信せず、警戒を」と呼びかけているといいます。報道によれば、特殊詐欺の認知件数88件のうち、高齢者が被害に遭ったのは60件(68・2%)、被害総額は全体の約1億5,000万円のうち約1億800万円(72・1%)を占めたといいます。高齢者の被害は、2018年までの5年間は件数ベースで約4~5割で推移していたところ、2019年に144件中106件(73・6%)と急伸したということです。背景にあるのが、犯人グループが自宅を訪ねてカードをだまし取り、現金を引き出す手口の横行で、犯行を主導した側の捜査が難航するケースも少なくなく、書き込みを自動消去できるアプリや海外のサーバー経由のメールなどで指示を飛ばし、追跡を困難にしている実態があります。一方、神奈川県警が昨年認知した特殊詐欺の件数(暫定値)は前年比1,021件減の1,722件となり、2015年以来5年ぶりに減少したことが分かったといいます。被害総額も20億円余り減の約33億4,100万円で、2年連続で減少したとのことです(前述の分析から、7都府県での減少傾向が指摘されていましたが、正にそのとおりとなっています)。また。特殊詐欺事件に関与したとして、同県警が詐欺や窃盗などの容疑で摘発した件数は674件(前年比163件増)、検挙人数も216人(同39人増)となっています。報道によれば、県警は「摘発と抑止の両面で対策を強化したことが奏功した」と分析していますが、全国的にみれば神奈川県内の認知件数は東京都に次いでワースト2位であって、依然として高水準で推移しており、引き続き撲滅に向けた対策を進める必要があるといえます。

いよいよ新型コロナウイルスのワクチン接種が始まる流れとなる中、ワクチンに関連した特殊詐欺、金銭を要求する不審な電話が全国的に増えている状況です。高齢者らの不安をあおる特殊詐欺の手口とみられ、警察などが警戒を強めています。報道によれば、接種が先行する欧米では、接種予約などと称して個人情報を抜き取る目的のメールが届いたり、メールにランサムウエア(身代金要求ウイルス)が添付されたりした事例も確認されたほか、偽ワクチンを販売する闇サイトも確認されており、専門家が注意を呼びかけているといいます。日本でも、国民生活センターによると、海外でワクチン接種が始まった昨年12月以降、接種を持ちかけて金銭や個人情報を盗み取ろうとする悪質な電話の相談が目立つようになっているといい、2月初旬には「優先的にワクチン接種を受けられる」と不審なURLが記載されたメールが届いたという相談も寄せられています。なお、実際に報じられた事例としては、(1)長野県警が、「新型コロナウイルスのワクチン接種を優先的に受けられる」と持ち掛ける特殊詐欺とみられる不審な電話が県内で確認されているとして、警戒を呼び掛けている事例があり、飯田下伊那地域の男性の携帯電話に、製薬会社社員を名乗る男から「ワクチン製造会社と連携しているので、事前申し込みがあれば、1月中に先行してワクチンを打つことができる」と電話があったといい、同様の電話は東京都などでも複数確認されているようです。また、(2)ワクチン接種やPCR検査を優先的に受けられると持ちかけて現金を要求する不審電話が1月に兵庫県内で2件確認されたと報じられています。保健所職員を名乗る男から「ワクチンを優先的に受けられる」、「10万円を振り込んでほしい」との電話や、保健福祉局職員を名乗る男から「PCR検査を優先的に受けられる」、「5万円を振り込んでほしい」との電話が確認されているといいます。さらに、(3)保健所職員を名乗って「接種費用を振り込むから口座番号を教えて」と持ちかける不審な電話が岡山県倉敷市などで3件あったといいます。電話では「1回目は無料だが、2回目は1万4,000円が必要」と説明、保健所が費用を立て替えるとして、振込先の口座番号を聞き出そうとしたということです。こういった状況に対し、例えば、警視庁滝野川署は、北区のスーパーマーケットに注意を促すチラシを張り出すという取組みを始めています。都内では宣言が出された1月8日以降、区役所や保健所の職員をかたって「高齢者は優先的にワクチン接種やPCR検査を受けられる。予約金を振り込んで」などと求める電話が数件あり、被害は確認されていないものの、同様の電話が今後増える恐れがあるため、チラシを同スーパーに掲示したほか、各家庭に配ったということです。また、こういった状況をふまえ、河野行政・規制改革相は、新型コロナウイルスのワクチンを巡り、自治体職員を装って金銭や個人情報を求める不審電話に注意を呼びかけました。

持続化給付金の不正受給問題が、その損害額の拡大とあわせ、他の給付金や貸付金の不正受給、詐取へと拡がる中、その裏側についても徐々に明るみに出てきています。そもそも持続化給付金をはじめとする給付金等は、困っている事業者にいち早く届けることを至上命題としたことから、本来厳格に行うべきさまざまなチェックを簡素化したことで多発してしまっている問題ですが、「最大の問題は、持続化給付金のシステムがいい加減なことです。そもそもこの事業は経産省主導で行なわれ、事業を受託した『サービスデザイン推進協議会』が97%を電通に再委託し、そこからさらにパソナなどに外注されていた。そうした事業者に不正受給を見抜く能力がないのは当然です。本来なら国税庁などが業務を請け負うべきでしたが、経産省の縄張り意識が他省庁の関与を嫌ったことも、事業が“ザル”になった大きな要因です」…自治体独自の不正受給も。「領収書はコピー可なので、但し書きなどを書き足して改竄するケースが多発しました。ある申請者は、祇園のキャバクラの領収書の但し書きに『消毒液』と書き足して申請していました。複数の企業を経営している人が同じ領収書を使い回したり、お菓子やジュースの購入履歴が印字されたレシートで申請するケースもありました」(マネーポストweb 1/28配信)といった実態や、「申請が始まってからの数カ月を通じ、審査部署も提出書類の真贋を見抜く精度を上げていきます。その結果、複数の確定申告書の作成者欄に、共通した税理士の名前が記載されている明らかに怪しいケースがあることに気づき始めたのです。例えば4月以降の極めて短い期間の間に、ある税理士がはるか離れた遠隔地からの依頼分も含めた多数の確定申告書を作成、あるいは税務署に提出しており、しかもそのどれもが税金の納付が発生しないよう、適当な必要経費を計上して調整されている、とか」(PRESIDENT Online 1/27配信)といった手口などが明るみになってきています。また、不正受給に手を染めた人間も多岐に渡っており、とりわけ国税職員の関与には驚かされました。なお、国税当局では、職員の不祥事が相次いでおり、現職の税務署職員が新型コロナウイルス対策の持続化給付金をだまし取ったとして詐欺容疑で逮捕されたほか、消費税の不正還付や大麻関連の事案も起きています。報道(2021年1月17日付日本経済新聞)に興味深い分析結果が報じられています。「人事院の資料によると、在職者数が約5万8千人いる国税庁では年間50件前後の懲戒処分がある。懲戒処分数を在職者数で割った比率は0.09%(2019年)で、他の省庁と同程度。20年は1~9月で28件と処分数が突出しているわけではない。ただ、不祥事の内容が「これまでとはちょっと考えられないレベル」(国税幹部)という。…国税当局は良くも悪くも体育会系の組織だといわれる。飲み会も多く、そうした中で「小さな過ちの芽が摘まれ、大ごとになる前に是正されてきたことも。上司からは職場だけでは分からない問題が見える場でもあった」(現場幹部)。両事件で逮捕された職員は飲み会などにはあまり参加しないタイプだったという。社会全体で働き方改革や価値観の変化のため、職場の飲み会は減り、新型コロナウイルスの感染拡大で飲み会の自粛は当面続く。職場内で物理的にも心理的にも人と人との距離の取り方が難しくなる中、不祥事再発防止の一環として、国税当局が各職員の状況を丁寧に把握することが重要になる」というものですが、何も国税当局に限った問題ではなく、今、急激に変化している働き方において、どのような組織においても注意をすべき状況にあることを認識する必要がありそうです。持続化給付金の不正受給に関する報道は極めて多くなっていますが、以下、若者が関与した事例や大口の事例を中心に、いくつか紹介します。

  • 新型コロナ対策の給付金を狙った詐欺グループの摘発が福岡県で相次いでいます。警察は、会社役員の男や18歳の少年ら4人を逮捕、被害の総額は、1億円に上るとみられています。報道によれば、4人はSNSを使って個人事業主を装う申請役の協力者を募集、だまし取った給付金のうち、4割を報酬として支払っていたということです。給付金を持ち逃げしようとした協力者の1人を少年が監禁する事件が発生し、その後の捜査の過程で、今回の詐欺が発覚したといいます。こうした新型コロナの流行に便乗した事件の摘発は相次いでおり、総額1億6,000万円をだまし取ったとみられる別のグループのメンバーが逮捕されるというケースも出ています。
  • 新型コロナ対策で国が個人事業者などに支給する持続化給付金をだまし取ったとして、鹿児島県警は、東京都の男子大学生らを詐欺の疑いで逮捕しています。さらに、共謀の疑いで鹿児島市の男子大学生についても、任意で捜査しています。報道によれば、容疑者らは昨年6月ごろ、鹿児島市の男子大学生と共謀し、新型コロナの影響で売り上げが減った個人事業者を装い、国の持続化給付金100万円をだまし取った疑いがもたれており、給付金の申請は鹿児島市の男子大学生の名義で行われ、容疑者が申請方法などを指示した指南役とみられるということです。
  • 国の持続化給付金をだまし取った罪に問われている愛知大学の元学生の男の裁判で、検察側は「申請者の情報を上の立場の者に渡す重大な役割を果たした」と指摘し、懲役2年を求刑しています。報道によれば、検察側は「複数の人間が関与する組織的な犯行の中、被告は被告が勧誘してきた申請者の情報を上の立場の者に渡す重大な役割を果たした」と指摘しています。一方で弁護側は「大学を退学処分となったほか、新聞やテレビで多く報道され社会的な制裁を受けている」などと主張し、執行猶予付きの判決を求めています。
  • 新型コロナウイルス対策の持続化給付金をだまし取ったとして、島根県警に詐欺容疑で逮捕された慶応大4年が関わった給付金の不正受給額が、計1,000万円以上とみられることが分かったということです。報道によれば、容疑者が指南役として、給付金申請に必要な確定申告の方法などをマニュアル化し、知人らにSNSで不正申請を促していたとみられることも判明、申請者は県外の学生や若者が多く、不正受給後、それぞれ数十万円を同容疑者に「アドバイス料」として渡した疑いがあるということです。慶応大によると同容疑者は野球部に所属し、昨秋ごろまで捕手として活動していたといいます。それ以外にも、都内に住む22歳の大学生のケース、北海道に住む21歳の大学生のケース(このケースでは、10人以上に手口を教え、不正な申請をさせていたとみられることが分かっています)などがあります。
  • 新型コロナウイルス対策として国が支給する持続化給付金あわせて300万円をだまし取ったとして、名古屋の税理士の男が逮捕されています。また、高知県では、持続化給付金をめぐり、うその申請をして給付金をだまし取った疑いで逮捕された男らが同じ手口を数十件繰り返し、だまし取った額は数千万円に上る可能性があることがわかったということです。さらに、持続化給付金をだまし取ったとして、福岡市などの男3人が逮捕された事件で、新たに指南役の3人が逮捕されています。この事件では、昨年6月、大分市の男子大学生2人と共謀し、うその申請をして持続化給付金100万円をだまし取った疑いで福岡市の会社役員ら男3人がすでに逮捕・起訴されていますが、警察は、容疑者らが給付金詐欺を主導し九州などを中心に約160件、あわせて約1億6,000万円の不正受給に関与した疑いがあるとみて、事件の全容解明を進めているということですます。なお、一連の事件では、これまでに8人が摘発されています。また、持続化給付金をだまし取ったとして、警視庁は、詐欺の疑いでいずれも職業不詳の容疑者2人を逮捕しています。新潟県や東京都、愛知県、三重県、兵庫県、熊本県など全国各地のフィリピンパブを訪ねて、約90人のフィリピン籍のホステスなどに虚偽申請を指南し、少なくとも128件の虚偽申請をして不正受給の総額は計約1億3,000万円に上るとみられています。

その他、特殊詐欺などの変わった手口、トークが見られた事例をいくつか消化します。

  • 銀行の振込画面の写真を送り「間違えて振り込んだ」などと嘘を付いて女性から現金をだまし取った詐欺事件で、逮捕・送検されていた29歳の自営業の男が、同様の手口で別の女性からも現金224万円をだまし取った疑いで再逮捕されています。報道によれば、自身が経営する会社の求人に応募してきた30代の女性に対し、従業員として雇用する契約を結んだように見せかけて口座番号を聞き出し、後日、誤って給料を振り込んだように装ったATMの振込画面の写真をSNSで送信、「間違えて3回、振り込み手続きをしてしまった。返金して欲しい」などと嘘を繰り返して女性から7回に渡り、あわせて現金224万円をだまし取った疑いが持たれているというものです。
  • 松阪市に住む60代の女性のもとに、市役所職員を名乗る男から、「介護保険の還付金があるが、コロナの影響で銀行の手続きは時間がかかる。スーパーマーケットのATMでもできるので、担当者から電話をかける」などと嘘の電話があり、女性が電話を信じ、別の男に言われるがまま、近くのスーパーマーケットで現金99万円を振り込んでしまった事例が発生しています。
  • 京都府警向日町署は、京都府長岡京市の70代のパート女性が同署員を名乗る男らに金融機関のキャッシュカード2枚をだまし取られ、現金計100万円を引き出されたと発表しています。女性宅に同署員を名乗る女から「キャッシュカードの情報が漏れている」と電話があり、女性は同署員を名乗る男からも電話で「被害救済の手続きが必要」などと言われたため、同カードの暗証番号を伝え、午後1時40分ごろに女性宅を訪れた別の男に同カード2枚を手渡してしまったといいます。その後、京都市内のATMで計100万円の引き出し被害があったということです。
  • 銀行協会職員を名乗って「キャッシュカードにICチップが付いていないと落とした時に悪用される」などとうその電話をかけ、女性宅でカード2枚をだまし取った疑いで男2人が逮捕されています。女性の口座からは約260万円が引き出されたといいます。報道によれば、男はさいたま市内のラブホテルを拠点に特殊詐欺を続け、この男が指示役と電話の「かけ子」、別の男が現金の「受け子」や引き出し役だったとみられています。さらに、男が使っている貸倉庫からは現金3,650万円が見つかったほか、拠点から複数台のスマートフォンや約1万7,000人分の名簿が押収されているということです。
  • 高齢女性からキャッシュカード5枚を詐取したとして、大阪府警捜査2課などは、詐欺容疑で無職の20代の容疑者を逮捕したと発表しています。府警は、容疑者がSNSを通じて特殊詐欺の実行犯に応募、カードを受け取る「受け子」やカードで現金を引き出す「出し子」として、少なくとも計2,000万円の特殊詐欺被害に関与したとみているといいます。容疑者は以前、九州在住で会社員だったが、退社しSNSのツイッターで「闇バイト」と検索、詐欺グループの指示を受け、大阪で犯行を繰り返していたとみられるということです。
  • 中東の金融センターとも呼ばれる、アラブ首長国連邦のドバイですが、そのセレブなイメージを悪用した詐欺、「ドバイ詐欺」が横行しているということです。報道によれば、ある輸入業の男性のSNSに送られてきたメッセージは「資産は52億円です。その半分を差し上げますのでご連絡ください。これはトップシークレットで扱ってください。」という文面で、ある時はアラブの王族などと騙り、日本人から次々と多額の現金をだまし取っているということです。在ドバイ日本総領事館によると、ドバイ詐欺の被害は2年で26件にも及び、総額6,000万円がだまし取られたといいます。
  • フィッシング対策協議会によれば、コロナ禍でフィッシング詐欺が増えており、昨年は、前年の4倍以上の報告件数となったといいます。報告件数増加のほとんどがECサービス系のブランドで、フィッシング詐欺の認知度が上がり報告数が増えているということもあるものの、コロナ禍でインターネットショッピング利用者が増えていることにも関係があると考えられるといます。さらに、地方では住民の多くがカードを持っている地元百貨店をかたったメールを送り付けて信頼させ、盗んだ個人情報で勝手に買物する事件が増えているといいます。また、「あなたの名前のカードが使われている」との電話を受け、自宅に回収に来た者に聞かれた暗証番号を教えて被害に遭うケースもあるということです。
  • 宅配便の不在通知を装ったメールから個人情報を盗む「フィッシングサイト」に誘導され、不正に送金される事件が年末年始に鳥取県内で連続発生していたことがわかったといいます。新型コロナウイルスの感染急拡大に伴う「巣ごもり消費」で、インターネット通販の利用者が増えていることに目を付けた犯行手口とみられるとのことです。2020年上半期のインターネットバンキングに関係した不正送金事件は全国で869件発生し、被害額は4億9,400万円に上り、被害総額も3憶円以上増えているということです。
  • 滋賀県警彦根署は、彦根市内の70代の無職の女性が現金約800万円をだまし取られたと発表しています。女性宅に証券会社を名乗る男から「仮想通貨取引のために名前を使わせてほしい」と電話があり、直後に別の証券会社を名乗る男から「名前を貸すのは法律違反。当社で取引したら大ごとにしない」と電話があったため、女性は、ATMで8回にわたって約800万円を指定口座に振り込んだといいます。
  • 海外の軍人や医師を装い現金をだまし取る「国際ロマンス詐欺」事件で静岡県警は、新たにナイジェリア人の男を逮捕しています。昨年8月、犯罪で得た金と知りながら現金約128万円を受け取った疑いがもたれており、現金は宮城県に住む40代の女性がイエメン在住の医師を名乗る男から騙し取られた金の一部で、詐欺グループの一人から容疑者に渡されたとみられています。ナイジェリア人系の国際ロマンス詐欺グループの逮捕者は8人目で、県警では、被害総額は1億円にのぼるとみて組織の全容解明に向け捜査しているということです。
  • 失業給付金をだまし取ったとして、大阪府警は、オウム真理教後継団体「アレフ」の信者の女を逮捕し、道場を捜索しています。容疑者は2016年、収入があったにもかかわらず、公共職業安定所に5回にわたり失業中だとウソの申請をし、失業給付金あわせておよそ46万円をだまし取った疑いがもられています。警察は、容疑者が当時、介護施設など3か所で働いていたことを裏付けたということです。容疑者は、「もらえるものをもらおうと思ってもらっただけです」などと話し、容疑を否認しているということですが、府警は「アレフ」が不正受給に関わっている可能性があるとみて、調べを進めているといいます。

本コラムでは、特殊詐欺被害を防止したコンビニエンスストア(コンビニ)や金融機関などの事例や取組みを積極的に紹介しています。必ずしもすべての事例に共通するわけではありませんが、特殊詐欺被害を未然に防止するために事業者や従業員にできることとしては、(1)事業者による組織的な教育の実施、(2)「怪しい」「おかしい」「違和感がある」といった個人のリスクセンスの底上げ・発揮、(3)店長と店員(上司と部下)の良好なコミュニケーション、(4)警察との密な連携、そして何より(5)「被害を防ぐ」という強い使命感に基づく「お節介」なまでの「声をかける」勇気を持つことなどがポイントとなると考えます。

  • まずは金融機関の事例を紹介します。ちょっと毛色が異なりますが、(1)埼玉県警は、氏名不詳者と共謀の上、2日午前9時ごろから数回、千葉県八千代市の無職の80代の女性方に孫らを名乗って、「会社のカードを落としてしまった」などと電話をかけ、女性宅付近で現金200万円をだまし取った疑いで女性を逮捕しています。報道によれば、管内の金融機関から「口座が凍結された名義人が来ている」と110番があり、女を発見、女の口座が架空請求詐欺事件の振込先として利用されている疑いが浮上、浦和署に任意同行して事情を聴き、所持していた携帯電話を調べるなどしたところ、八千代市の女性に対する詐欺の犯行が分かったというものです。女は「お金目的で口座を開設して有償で譲り渡した」と供述しており、同署は余罪もあるとみて調べているということです。口座凍結名義人リストが特殊詐欺被害の未然防止につながった事例として興味深いものといえます。また、(2)西日本シティ銀行苅田支店に勤務する行員2人は、町内の60代男性が携帯電話で話しながら支店のATMを操作しているのを不審に思い、声を掛けたところ、男性は携帯電話に届いたメールにある番号に電話したところ、インターネットの利用料など30万円を振り込むよう指示されており、男性に代わって振り込みを指示した男と携帯電話で通話、報告を受けた上司がさらに男とやりとりしたところ、別人の名前で振り込むよう指示していたことなどから詐欺を疑い、行橋署に通報して被害を防止した事例、さらに(3) 大阪市港区のりそな銀行市岡支店に市内の80代女性が来店、300万円を引き出そうとする女性に、職員が使い道を尋ねると「息子が会社のお金を使い込んだ」と訴えたことから、詐欺を疑い、上司に伝えて警察に通報、大阪府警港署員が女性から事情を聴くと、前日も700万円の特殊詐欺被害に遭っていたことから、署員は女性に「だまされたふり作戦」を持ちかけ、10代の受け子の女性の摘発に成功した事例、(4) 特殊詐欺の被害を防いだとして、和歌山県警和歌山北署は、紀陽銀行紀の川支店の40代の女性行員は、同支店に70歳代の男性が来店し、携帯電話で通話しながらおぼつかない手つきでATMを操作していたため声をかけると、男性は振り込み相手の名前などをあいまいにしか答えられなかったことから、「特殊詐欺ではないか」と直感し、支店長に相談、同署に通報したことで被害を未然に防止した事例、(5) 百五銀行上野支店城北出張所の女性行員2人は、昨年12月、伊賀市内の50歳代男性から、「SNSで知り合ったアメリカの女性に40万円を振り込みたい」と、ATMの使い方を質問されたため、不審に思って同じ出張所の女性に相談、通報を受け駆けつけた署員の説明を聞いた男性は送金をやめたものの、男性は同日、支店で再び送金をしようとしたが、ATMの点検している百五ビジネスサービス上野支社の男性が出張所にいた男性と同じ男性だと気付き、百五銀行上野支店の女性に伝えて防いだ事例などがありました。金融機関では日頃から特殊詐欺に関する啓蒙・研修を継続的に実施していることから、ちょっとした違和感にも対応できており、また組織的な対応も徹底していることがよくわかる事例が多いといえます。
  • 次にコンビニにおける事例を紹介します。(1)福井市江端町のコンビニ店に、昨年12月、30歳代の女性客が来店、25万円分の電子マネーカードを購入しようとしたが様子がおかしかったため、従業員の40代の女性が「お買い物ですか」などと声をかけたところ、女性客が言葉を詰まらせながら「サイトから退会できない」などと話したため、店長に相談した上で110番して被害を未然に防止したという事例、(2)栃木県真岡市のファミリーマート店員の男性は、80歳代の男性が同店を訪れ、「5万円分の電子マネーを9枚ほしい」と購入を申し込んできたことから、詐欺を疑って詳しく聞いたところ、「スマートフォンに『今日中に支払わないといけない』という警告文が出た」と説明したことから、自分のスマホを使って「詐欺の手口」を示しながら、警察に相談するよう説得、男性は真岡署に相談し、被害はなかったという事例、(3)山形県東根市内のコンビニ店2店舗の女性店員2人(50代と60代)は、昨年12月、市内の80歳代と70歳代の高齢男性が、電子マネー2万5,000円分と3万円分を購入しようとした際、手書きのメモを読みながら、焦った様子で電子マネーの売り場を尋ねてきたため、購入を思いとどまらせたという事例などがありました。また、(4)昨年、親族や金融機関の職員らが特殊詐欺を防いだ件数は322件と前の年より増加、金額にしておよそ2億5,400万円(前の年より4,000万円増加)の被害を防いだという報道もありました。静岡県警によれば、最も多かったのは、親族が気が付いたケースで124件、次にコンビニ店員が87件、金融機関の職員が79件だったということです。最近は高齢者にコンビニで電子マネーを購入させるケースが多く、店員が異変に気がついて声をかけるケースが増えているということです。金融機関同様、コンビニも加害者・被害者ともに立ち寄る特異な場所であることもあって、特殊詐欺に対する啓蒙・研修が行われており、上司との連携、警察との連携についてもしっかりと実施できる態勢が整っている印象を受けます。もちろん、店員ひとり一人の意識の高さがそれらを支えていることは言うまでもありません
  • 何者かと共謀して、南伊豆町の男性宅に弁護士や債権回収会社を装って、「電話料金の未納トラブルの和解金として300万円が必要」などのうその電話をかけ、現金300万円をだまし取ろうとした疑いで男が逮捕されています。相談を受けた下田署は、男性にだまされたふりをするよう依頼、指定された兵庫県尼崎市内のアパートに現金が入ったようにみせかけた宅配便を送り、受け取った男を警察官が逮捕したというものです。
  • 埼玉県の本庄署は、氏名不詳の者と共謀し、受取人を装い、上里町のアパートに宅配物を配達するよう宅配便運転手に電話し、宅配物をだまし取ろうとした詐欺未遂の疑いで、中国籍の20代の大学生を逮捕しています。運転手が同日午前、配達依頼のあったアパートに行くと空き部屋で不審に思っていたところ、再び配達の依頼が入ったため同署に連絡していたものです。本件では、「配達依頼のあった場所が空き家」という事象を「おかしい」と不審に思えたことがすべてであり、特殊詐欺に宅配便が悪用されることや、空き家に潜むリスクなどを事前に認識していた可能性も考えられるところです。
  • 特殊詐欺被害を未然に防いだとして、埼玉県警大宮署は、セコム埼玉統轄支社の60代の男性に感謝状を贈っています。男性は今年1月、さいたま市大宮区内のATMの障害対応をしていた際、ATMを利用しようとした市内の70代女性から「市役所からお金が戻ると言われた。連絡先に電話したが出ない」などと声を掛けられ、すぐに詐欺を疑って警察に通報したため、女性は被害に遭わずに済んだというものです。
  • 特殊詐欺グループがSNSで実行役を募る書き込みをしているのに対し、警察は公式アカウントから直接返信して注意を喚起しています。2020年12月現在で愛知県警など12都道府県警が取り組んでおり、同月には254件の投稿に返信し、うち133件が運営会社によるアカウントの凍結や削除に至ったということです。対象は、現金やカードを受け取る「受け子」や、ATMから現金を引き出す「出し子」らを募集しているとみられるツイッターの投稿となっています。
(4)薬物を巡る動向

長崎大は昨年、学生2人が大麻取締法違反の疑いで逮捕されたことを受け、全学生を対象に行った違法薬物に関する意識調査の結果を公表しています。回答者の37.9%にあたる2,321人が大麻の入手を可能と考えており、大麻が若者にとって身近な存在になっている現状が浮かび上がっています。また、違法薬物の使用を直接見たことがあると答えた学生は327人(5.3%)で、使用や購入を誘われた経験があると回答した学生は88人(1.4%)でした。さらに、大麻に特化した質問では、使用について「1回ぐらいなら心身に害はない」、「他人に迷惑をかけないなら個人の自由」などの肯定的な意見を選んだ学生は449人(7.3%)に上っています。そして、大麻の入手が可能と答えた学生に理由を尋ねたところ、252人(4.1%)が「インターネットやSNSで販売されているのを見るから」と答えたということです。同大副学長の井上氏は、「地方の国立大学である長崎大の学生に限って、薬物汚染はないだろうとの慢心があった」、「講義などで啓発しているつもりだった」と振り返り、来年度、違法薬物に対する倫理観や規範意識を醸成する講義を必修科目にする方針を公表しています。また、昨年10月にサッカー部員5人の大麻使用が明らかになった近畿大学は、5人を含む計12人の学生が大麻を使用するなどしていたとして、退学や停学などの処分を発表しています。同大学は64人の部員全員から聞き取り調査を実施した結果、大麻を購入して他の部員に広めた部員1人を退学、使用が確認された部員7人と部外の1人を1~3か月の停学、関与が疑われた部員1人と部外の2人を厳重注意としました。松井監督は辞任し、部長と2人のコーチはけん責処分、サッカー部は無期限活動停止となっています。さらに、東海大硬式野球部の寮で部員が大麻を使用した問題で、神奈川県警が大麻取締法違反(所持)の疑いで部員だった4年生2人を書類送検し、横浜地検小田原支部が不起訴処分としていたことが分かったということです。同大学は昨年10月、部員の薬物使用に関する通報が寄せられたことを受け、部員に聞き取り調査を実施、2人が大麻使用を認めたと発表しています。2人は退部し無期停学処分となっています。なお、同野球部については、2月1日より練習を再開しています。報道で同部主将が、 「(大麻問題で)厳しい目で見られることになると思う。それを受け止め、変わった姿を見てもらいたい」と述べていますが、正にそのとおりかと思います。そして、社会の目線を強く意識して、自分を厳しく律していくことは、すべての大学生にも言えることであり、大学生への大麻蔓延の実態の改善を強く願っています。

さて、コロナ禍において、刑法犯・特別法犯の認知件数や検挙件数が軒並み減少している中、薬物事犯については、増加傾向を維持しています。薬物の依存性の高さの表れでもありますが、コロナ禍における外出自粛の中、薬物のデリバリー方法も路上から宅配へと変化しているようです。とりわけ、最近ではデリバリーサービスを装った薬物のデリバリー手法が新たに登場しており、大変驚かされました。2021年1月29日付AERA.dotでは、その実態が明らかにされており、残念ながら大変よく考えられた手法であり、とても興味深いものです。以下に一部抜粋のうえ、引用します。

「このロゴが入っているだけで信用度が増すので、警察の職務質問に合う可能性がかなり低くなるんです」バッグを指さしながらそう話した男の配達員としての見かけと、実際の顔は大麻の売人という現実がどうにも一致しない。薬の売人といえば、どこか独特の雰囲気が出てしまうものだが、この男は、配達員としてまったく違和感がなかった。自転車で走るこの男を警察官が見かけたとしても、不自然さを感じることはないだろう。しかし、バッグの中には、食料品ではない非合法なモノが詰め込まれており、違法な取引を繰り返しているのだ。こうした現状について売人の男は、「違法薬物を“安心・安全”に運べる状況になっている」と話した。さらに借りるバッグであったが、返却されないケースも多く、フリマサイトなどを通じて市中に出回った。「これらのバッグの防水性・保湿性・収納性も大麻の保管にとっては非常に適しているんです」当然だが、これらの犯罪の責任がフードデリバリーサービスにあるわけではない。サービスが有名になり、信用があだとなって犯罪に利用されてしまったのだ。

大麻蔓延を支えるものとして、「大麻リキッド」と呼ばれる液状大麻の押収量が急増し、手軽に吸引できる状況が整ってしまっている状況が指摘できます。報道によれば、東京税関が昨年押収した量は2019年の70倍近くに増える見通しで、税関関係者は「爆発的な増加」と危機感をもってみているようです。液状の物は乾燥大麻より危険性が高いとされる上、その手軽さから若い世代に常習者が多いといい、警察当局などは警戒を強めています。新型コロナウイルス感染拡大の影響で航空機の乗客や商業貨物などからの大麻全体の摘発は減少する一方、液状大麻については昨年1~6月に計約9キロ、7~11月末には計約18キロを押収しています。2019年は1年間で約400グラムだったことから、その急増ぶりがうかがえます。昨年押収した液状大麻は、蜂蜜などの瓶に入っているケースが多かったといい、税関関係者は「ワインなど瓶の輸入はそもそも多く、(大麻草など)葉っぱの状態ならX線で見破れるが、瓶で偽装されると見つけにくく、開けづらい」と指摘しています。さらに、警視庁関係者も「大麻草に比べ、におわない」と発見が難しい理由を説明しています。こうして大麻が流通していく背景には、隠語を使ってSNSでやり取りを行う形態が若者にフィットしている点も挙げられます。直近では、愛知県警が、自称衣料品店長の少年(19)を麻薬特例法違反(あおり、唆し)容疑で逮捕したという事件がありました。報道によれば、少年は、大麻を示す「野菜」、手渡しを示唆する「手押し」などの隠語とともに「明日から10個単位の販売です!」などとツイッターに投稿し、大麻の乱用を助長した疑いがもたれています。なお、立ち寄り先からは大麻リキッドとみられる少量の液体や吸引用の水パイプも押収、書き込みは昨年末まで続いており、別のアプリのアカウントに誘導して個別に連絡を取っていたといいます。また、隠語とメッセージ自動消去アプロ「テレグラム」を活用した販売手法も摘発されています。石川県警は、韓国籍で兵庫県尼崎市の会社員の男(27)を大麻取締法違反(営利目的譲渡)容疑で逮捕しています。報道によれば、男は、ツイッター上で「野菜専門」「全国郵送」などの隠語を使って顧客を募集、秘匿性の高い「テレグラム」で顧客とやりとりを交わし、1グラム6,000~7,000円で大麻を売りさばいていたということで、大麻はレターパックで郵送していたといいます。調べに対し、男は容疑を認め、「全国の顧客約100人に大麻を売った」と供述しているようです。

さて、このように大麻が蔓延する大きな理由の1つが「罪の意識の薄さ」だと指摘されています。大麻を巡る規制は、国や地域ごとに違いがあり、多くの国が法律で禁止していますが、本コラムでも取り上げてきたとおり、カナダでは2018年10月から嗜好用大麻を合法化しています。健康被害などのリスクはあるにもかかわらず、「海外では合法」などという言葉から、他の違法薬物と比べ、罪の意識が薄くなっているのが実情です。さらに、警察庁の調査等で明らかになっているとおり、「若年層は友人知人等から誘われると断り切れず、周囲の環境に流されてしまう傾向があり、大麻は若年層の間でゲートウェイドラッグ、つまり違法薬物に近づくきっかけとなる場合が多い状況に置かれています。このように、大麻の誘惑を断つことが難しい環境に若者がいることに対する理解を深めることも重要となるといえます。

そのような状況において、大麻取締法に「使用罪」の導入することなどを検討する厚生労働省の有識者検討会がスタートしています。現在は罰則の対象になっていない大麻の「使用」に罰則を設けるかなど規制のあり方を検討し、今夏までに結論をまとめる予定で、海外で使われている医療用大麻の扱いについても議論するとしています。そもそも大麻取締法は1948年に施行され、大麻の所持や栽培を禁じる一方、覚せい剤など他の違法薬物と異なり、使用に罰則がありませんが、その背景には、同法に基づき都道府県知事の許可を得て大麻草を栽培する農家が、収穫作業などで大麻成分を吸う可能性があることから、使用についての罰則は盛り込まれなかったという事情があるとされます。以下、同検討会の第1回の資料のポイントを紹介します。概ね、本コラムでこれまで述べてきたとおりの内容となっています。

▼厚生労働省 第1回 大麻等の薬物対策のあり方検討会
▼資料
  • 覚醒剤事犯の検挙人員は、44年ぶりに1万人を下回った。大麻事犯の検挙人員は、6年連続で増加して過去最多を更新
  • 覚醒剤押収量は前年より大幅に増加して2,649.7kgとなり、初めて2トンを超えた。乾燥大麻押収量は、4年連続で増加。コカイン押収量は前年より大幅に増加し、過去最多を更新
  • 大麻事犯全体の検挙人員及び30歳未満の検挙人員は、6年連続で増加し、いずれも過去最多を更新。大麻事犯の検挙人員のうち、30歳未満の占める割合は57%
  • 薬物密輸入事犯の検挙人員は、過去最多を更新。薬物密輸入事犯のうち、覚醒剤密輸入事犯の検挙人員は、過去最多を更新。1トンを超える覚醒剤を押収した事件等、大型密輸入事件を複数摘発
  • G7における違法薬物の生涯経験率(%)の比較
    • 各国とも大麻の生涯経験率が最も多い。
    • 日本における違法薬物の生涯経験率は、諸外国と比較して低い。
    • 特に大麻については、欧米では20~40%台であるのに対し、日本では8%と圧倒的に低い。
  • 我が国における違法薬物の生涯経験率【薬物使用に関する全国住民調査】
    • 大麻の生涯経験率は、調査開始から現在までの間で過去最高を記録
    • 前回調査と比べ、大麻は生涯経験率及び生涯経験者数の推計値が増加
    • 覚醒剤、コカイン及び危険ドラッグの生涯経験率はほぼ横ばい
  • 覚せい剤(シャブ)
    • 1888年に長井博士がメタンフェタミンを合成。末梢・中枢神経のドパミン及びノルアドレナリン量を増加させる。強い精神依存がある。覚せい剤取締法で規制されており、規制されている物質は「アンフェタミン」と「メタンフェタミン」のみ。
    • 薬物使用により引き起こされる作用:興奮、不眠、多動 等
    • 薬物依存により引き起こされる作用:幻覚・幻聴、妄想、猜疑心 等
  • 大麻(マリファナ)
    • 古来から宗教儀式等で利用されている。大麻は「ハシシ」と呼ばれることがあり、「ハシシ」はassasinの由来と言われている。有害成分THCが脳内カンナビノイド受容体に結合し、神経回路を阻害する。軽度の身体依存あり。大麻取締法で規制されており、乱用されている大麻には「乾燥大麻」のほか、「大麻樹脂」、「液体大麻」、 「BHO(ブタンハニーオイル)」、「大麻含有食品」等、多岐に亘っている。
    • 作用:認知機能、記憶等の障害、知覚(聴覚、触覚)の変容 等
  • ヘロイン
    • 古くから鎮痛剤として利用。脳内のオピオイド受容体と結合し、強い精神依存と身体依存を誘発する。断薬により強い禁断症状を呈す。麻薬及び向精神薬取締法で麻薬として規制されている。
    • 作用:鎮痛、多幸感、嘔吐、呼吸中枢抑制 等
  • コカイン(クラック)
    • インディオがコカ葉を咀嚼して使用していた。ドパミン、ノルアドレナリン、セロトニンの再取り込み阻害作用を持つ。局所麻酔作用を持つため、医療用麻薬として使用されることがある。麻薬及び向精神薬取締法で麻薬として規制されており、コカインの原料であるコカ葉も同様に麻薬として規制されている。コカの木は麻薬原料植物として規制されている。
    • 作用:興奮(多弁、多動)、多幸感、感覚鋭敏 等
  • MDMA(エクスタシー)
    • 1980年代から乱用されており、我が国では1989(平成元)年に麻薬に指定。末梢・中枢神経のドパミンの遊離を促進する作用を持つ。覚醒剤と幻覚剤の2つの薬物の特徴を併せ持つ。正式名称は「N,α-ジメチル-3,4-(メチレンジオキシ)フェネチルアミン」、通称名は「3,4-メチレンジオキシメタンフェタミン」であり、MDMAは別名。麻薬及び向精神薬取締法で麻薬として規制されている。
    • 作用:多幸感、感受性亢進、気分高揚 等
  • 覚せい剤取締法及び大麻取締法にかかる科刑状況
    1. 覚せい剤取締法
      • 「1年以上2年未満」の刑が科されたものが最も多い。
      • 1年未満の刑が科されたものはごく少数であり、過去5年間に科された最高刑は「25年を超え30年以下」。
    2. 大麻取締法違反
      • 6月以上1年未満の刑が科されたものが最も多い。
      • 過去5年間に科された最高刑は「7年を超え10年以下」であり、10年を超える刑は科されていない。
      • 大麻取締法上の大麻について、大麻の定義から「成熟した茎及びその製品」は除かれているが、成熟した茎から分離した 「樹脂」は大麻に該当し、規制対象。
      • 大麻取締法上、「樹脂」の定義が定められておらず、規制対象が不明瞭との指摘がある。
  • 大麻から製造された医薬品について
    1. Epidiolex(エピディオレックス)とは
      • 英国のGW Pharmaceuticals(GWファーマシューティカルズ)社が開発した医薬品で、「大麻草」を原料として、抽出・精製された大麻成分CBD(カンナビジオール)を主成分とする経口液剤
    2. 日本の状況
      • 「Epidiolex」は、大麻草の規制部位から抽出されたものであり、大麻取締法に基づく大麻 製品であることから輸入が原則禁止される。 また、施用、受施用は禁止されている。
      • なお、大麻から製造された医薬品の国内での治験は、現行の大麻取締法においても可能。
  • 大麻に関する最近の国際情勢について
    1. 大麻に関するWHO勧告
      • 令和2年12月2日に開催されたCND(国連麻薬委員会)において、「大麻に関する6つのWHO勧告」の採決が行われ、「大麻から製造された医薬品に医療上の有用性が認められたことに基づき、条約上の大麻の規制のカテゴリーを変更する」という内容の勧告が可決された。残り5つの勧告は否決された。
      • 可決された勧告について、大麻は条約で「Ⅰ (乱用のおそれがあり、悪影響を及ぼす物質)」と「Ⅳ(特に危険で医療用途がない物質)」というカテゴリーで規制されているが、海外の一部の国で、大麻から製造された医薬品に医療上の有用性が認められたことからⅣのカテゴリーから外すというもの。ⅠとⅣの規制内容は同じで、大麻はコカインやあへんなどが規制されるⅠで引き続き規制されることから、大麻の規制内容に変更はない
      • 英国のGW Pharmaceuticals(GWファーマシューティカルズ)社が、「大麻草」から抽出・精製された大麻成分CBD(カンナビジオール)を主成分とする経口液剤「Epidiolex(エピディオレックス)」を開発し、現在米国や欧州において一部の疾患への治療薬として承認・使用されている。
      • 日本:反対(大麻の規制が緩和されたとの誤解を招き、大麻の乱用を助長するおそれがあるため)
      • ロシア、中国、中東諸国等30カ国(委員国17カ国)による共同ステートメントから抜粋
        • 勧告が可決されたことに大変失望している。
        • 大麻の規制カテゴリーを変更するエビデンスは限定的である。
        • 今回の投票結果は、「可決された勧告について委員国全体の同意が得られたものではなく、また半数近くの委員国が規制カテゴリーを変更する理由が十分とは考えていない」ということを示している。
        • 「国連麻薬委員会は、大麻は健康に悪影響がないと考えている」との誤解を招くことを大変懸念している
        • 大麻の不正栽培、密売を増加させることを懸念している。
        • 現行の条約でも「大麻の医療用途及び研究用途での使用」は認められていることから、今回の変更が大麻の医療用途及び研究用途での使用を助けることはない。
    2. 米国の動き
      • 令和2年11月4日に行われた住民投票の結果、アリゾナ、モンタナ、ニュージャージー、サウスダコタの4州で新たに大麻の嗜好用途での使用が合法化された。
      • 現在米国においては、15の州とワシントンDCで大麻の嗜好用途での使用が合法化されている。
      • 令和2年12月4日に「大麻の嗜好用途での使用を合法化する連邦法案」が下院で可決された。
      • 投票結果:賛成228票、反対164票
    3. ニュージーランドの動き
      • 令和2年10月17日、ニュージーランドで、大麻の嗜好用途での使用を合法化する法案についての国民投票が実施されたが、否決された。
      • 投票結果:賛成1,406,973票(4%)、反対1,474,635票(50.7%)、無効票26,463票(0.9%)
      • 現在、国として大麻の嗜好用途での使用を合法化しているのは、ウルグアイとカナダの2カ国
    4. 大麻を合法化した国に対する国連の見解
      • INCB(国際麻薬統制委員会)は、2018年の年次報告書において、カナダ、ウルグアイ、米国の一部の州において医療目的以外での大麻の使用が合法化され、条約に違反していることについて懸念を表明している。
      • INCBとは、The International Narcotics Control Boardの略称で、1961年の麻薬単一条約によって設立された国連の独立機関で、経済社会理事会の選挙により選出された13人の委員により構成され、薬物関連の条約に関する各国の履行を監視及び支援している。
    5. INCBの年次報告書2018抜粋
      1. 医療目的以外での大麻使用の合法化は、条約の普遍的履行、公衆衛生、福祉、条約締結国への挑戦である
        • 一部の国々で医療目的以外での大麻使用が合法化されているのは、条約の普遍的履行に対する挑戦であり、(特に若者の)公衆衛生や福祉への挑戦である。そして条約締約国に対する挑戦でもある。条約が大麻を含む規制物質の使用を医療および学術目的のみに制限していることをここで繰り返し、INCBは、医療目的以外での大麻使用が合法化されている国々の政府との対話を継続する。
      2. 大麻の合法化は、麻薬単一条約と麻薬新条約に違反する
        • カナダの大麻合法化法案の通過により、カナダ政府は、改正1961年条約だけでなく、1988年条約に基づく国際的義務違反となる状況を選択したことになる。締約国は、1988年条約に基づき、その態様を問わず1961年条約、改正1961年条約又は1971年条約の規定に反する麻薬又は向精神薬の生産、製造、抽出、調製、提供、販売の申出、頒布、販売および交付を、国内法令上の犯罪に指定する義務を負っている。
      3. 大麻合法化は他の条約国を追随させ、その正当化のための根拠となりかねない
        • 医療目的以外での大麻使用の合法化は薬物関連の条約に反する。カナダやウルグアイ(そして米国の一部の州)などの締約国が医療目的以外での大麻使用を合法化したことで、条約の普遍的な実施は深刻な危機に向き合っている。こうした国々や州の行動は条約を弱体化させるとともに、他の締約国を追随させ、その正当化のための根拠ともなりかねない。
      4. 大麻合法化を擁護する人々は未成年者の保護を主張するが、、未成年者への大麻を販売する例が多数認められる
        • 医療目的以外での大麻使用の合法化を擁護する人々の主張の一つは、合法化が未成年 者の大麻へのアクセスを制限するというものだ。ワシントン州の例ではこの主張に深刻な疑義を生じさせる。当局は未成年に大麻を売った認可大麻事業者がかなりの数に上ると報告している。
      5. 医療用途以外での大麻使用が増えると、公衆衛生への悪影響が増加する
        • 医療目的以外での大麻使用が増えると、公衆衛生への悪影響が増す。最も可能性の高い悪影響は、交通事故による怪我、大麻依存と乱用、精神病などの精神疾患、心理社会的な悪影響を及ぼす割合が青少年の中で増加するというものである。
      6. 医療目的以外の大麻の合法化は、条約を遵守する隣国における条約の履行を困難にする
        • 一部の締約国の医療目的以外での大麻使用の合法化は、国際薬物統制条約の条項を順守している隣接国での条約の履行をより難しくする。例えば、医療目的以外での大麻使用を合法化している締約国から合法化していない隣接国への大麻製品の密輸を防ぐのはより困難であろう。
    6. 大麻事犯の検挙人員が増加。麻薬取締部においては、全薬物事犯の中で大麻事犯の検挙人員が最多
    7. 大麻の不正栽培、密売、栽培器具販売業者に対する取締りを強化。大麻の不正栽培事犯の捜査において、「大麻の不正栽培に使われることを知りながら、栽培器具を販売し、栽培方法を教示する業者」が判明したことから、同業者に対する集中的な取締りを実施
    8. 麻薬取締部の密輸事犯の検挙事例
      • 令和2年1月、関東信越厚生局麻薬取締部は、東京税関と合同捜査を実施し、カナダから冷凍エビを装った段ボール20箱に覚せい剤240キロを隠匿し密輸入した水産加工会社経営のカナダ人を検挙
      • 関係機関間における協力捜査事例
      • 平成29年11月、海上保安庁に寄せられた情報を元に、警察、税関、麻薬取締部、海上保安庁による合同捜査体制を構築し、内偵捜査開始。
      • 被疑者らが捜査官による追跡を警戒する様子を見せる等厳しい状況が続き、捜査は困難を極めたが、強固な協力体制の下、長期に亘り粘り強く捜査を継続した。
      • 令和元年6月、洋上において覚醒剤を積み替え、静岡県賀茂郡伊豆町の海岸に陸揚げする様子を確認した。
      • 被疑者7名を覚醒剤取締法違反(営利目的共同所持)で逮捕するとともに、一度の摘発量としては過去最高となる1トンを超える覚醒剤を押収した。
    9. 海外捜査機関との連携事例
      • 平成24年、オーストラリア連邦警察(AFP)から、「国際薬物シンジケートの構成員が、オランダから日本の博多港に向け、ロードローラーに隠匿した覚せい剤を送った」との情報を入手し、捜査を開始。
      • 同年12月、情報のとおり、コンテナに格納されたロードローラーが博多港に到着したことから、麻薬取締部と税関が協力し、ロードローラーの検査を実施。その結果、ローラー部分に覚せい剤と思われる異影を確認したことから、ロードローラーを解体し、内部を確認したところ、覚 せい剤約108キログラムを発見。中身を代替物に入れ替え、コントロールド・デリバリー捜査を開始。
      • 輸入許可後にロードローラーが運び込まれた倉庫にて捜査を実施したところ、本件関係者と思われる複数の外国人の出入り を確認したことから、同所にて覚せい剤の取り出し作業が行われるものと判断し、強制捜査に着手。
      • 倉庫内部において、倉庫内にいた外国人らがロードローラーを解体し、覚せい剤の代替物を取り出している状況を確認。
      • 倉庫内にいた外国人3名のほか、強制捜査の際倉庫を離れていた日本人輸入業者1名及び外国人1名の合計5名を逮捕。最終的に、本件の主犯格であった外国人2名に懲役18年・罰金800万円の判決が下った。

さて、今回、厚生労働省の有識者検討会での検討が開始されたことについて、薬物依存症の専門家への取材記事(「なぜ突然、大麻「使用罪」創設の議論が始まった?薬物依存症の専門家に表裏を聞きました」、「結局、大麻は健康に悪いの?薬物依存症の専門家が訴える一番の害は…..」、「「麻薬中毒者台帳は廃止して」大麻使用罪創設なら守秘義務に配慮を」)がBuzzFeedにて連載されていました。やや過激な内容もありますが、大変示唆に富む内容を多く含んでおり、参考になりましたので、以下、少し長くなりますが、一部抜粋して引用します。

日本政府が焦って法改正に乗り出す事情は、12月に国連麻薬委員会で、大麻の規制カテゴリーが4から1に変わったことがあります。依存性薬物としての危険性はありつつも、医療上の有用性もあると認められたわけです。もう一つ、今までトランプ政権は比較的厳罰主義のスタンスでしたが、それにもかかわらず、アメリカでは15の州で嗜好品としての大麻が合法化されています。医療用大麻を認めていない州は3州ぐらいしかない。ただ、米国の連邦政府としては大麻を認めていません。ところが、バイデン新大統領の民主党政府は大麻の合法化を党としてうたっています。連邦政府として大麻を合法化し、かつこれまで大麻取締法で罪に問われた人の前科を抹消しましょうという法案をすでに下院では通しています。…今回、「使用罪」創設ありきのような報道がなされていますが、そうではなく、この機会に医療用大麻を日本で適切に使うためにはどうしたらいいのか、大麻取締法との関係性をどういう風に整理したらいいのかを議論する。それが公式の趣旨であると思います。

他の薬物の影響との比較をみると、大麻使用者が一番社会的な適応度が高い印象を受けます。市販薬や処方薬を乱用している人と比べても、はるかに健康度が高い。…はっきりしているのは大麻の使用経験がない人と比較すると、大麻の使用と精神障害とは関連があります。ただ、それが大麻による影響なのか、元々精神障害がある方が大麻を使っているのか、因果関係については分析できていません。かなり議論が多いところです。また、元々遺伝的に精神医学的な脆弱性をもっている人や、10代から大麻使用を始めた方々については、長期的には精神病の症状が出てきたり、うつ状態や自殺したいという気持ちを持つようになったり、自殺リスクと関連がありそうだということもわかっています。…要するに、大麻がうんと危険かどうかはわかりませんが、少なくとも10代から使っていると良くないらしい、といったこと はわかっている程度です。それから、私自身の研究ではっきりわかっているのは、有効成分であるTHC(テトラヒドロカンナビノール)の濃度が高い製品を、より長期間使うと、依存症に罹患する危険性が高まるかもしれない、ということです。…日本に限って言えば、大麻がゲートウェイドラッグとなるのは事実だと思います。最初の入り口として大麻からドラッグカルチャーにハマるということはある。というのは、大麻は違法薬物にされていますから、扱うのは反社会勢力なんです。反社会勢力とのコミュニケーションの中で、どうしてもさらにハードなドラッグと遭遇する機会は増えるのは当然だと思うのです。

私が実施している全国の精神科病院の調査でも、年々治療を受けている薬物依存症患者の数が増えており、しかも、「最近1年以上は薬物使用がない」という患者の割合が増えているのです。これは単に治療につながる薬物依存症の人が増えただけでなく、そこで治療を受けるなかで薬物をやめるようになった人が相当数出てきていることを示唆します。ようやくわが国でも、「刑罰ではなく治療」という流れが生まれつつあるわけです。そのような状況を阻むような施策を、よりによって厚生労働省がやるべきではないと思います。…刑の一部執行猶予制度が2016年から施行されています。これは、従来、覚せい剤依存症の人をもっぱら刑務所という施設内に閉じ込め、物理的に覚せい剤から遠ざけるというやり方だったのを、地域内、社会内で処遇していこうという動きの第一歩であると認識しています。…もし、大麻依存症の人が受診した場合、それを都道府県に届け出ると、その人は半永久的に人権侵害を受けることになります。…過剰な人権侵害がまかり通るのは、犯罪化しているからです。「法律で決まっているから」という人がいますが、法律は常に正しいのかも問い続けなければいけません

次に、薬物を巡る最近の報道から、いくつか紹介します。

  • 鹿児島県内で2020年、大麻に関する事件で摘発された人数がここ5年で1番多かったことが分かったと報じられています。2020年大麻に関する事件で摘発された数は33人で、前の年と比べて17人増えたといいます。摘発された33人のうち、24人は、20代以下で、全体の約7割を占め、さらに高校生2人を含む、未成年者が9人摘発されているということです(なお、2019年までは若年層の割合は5割を切っていたといいます)。若年層の増加の背景にはSNSやインターネットでの売買が拡がっていると考えられ、鹿児島県警は薬物乱用防止教室を開くなどして広報活動を行っていきたいとしています。
  • SNSを利用して大麻を密売する組織のリーダーとみられる女が、新潟県警により逮捕されました。組織の密売額は、県警が摘発した大麻密売の摘発事件としては過去最大となる約4億円に上るとみられています。容疑者は大阪に拠点をもつ「大麻極楽協会」という密売組織のリーダーで、大麻の売買には履歴が残らない「消えるSNS」を利用していたといいます。
  • 近畿厚生局麻薬取締部は、大阪市内を拠点にする薬物密売組織のリーダーの男を検挙し、組織が壊滅したと発表しています。被告は、2019年12月から2020年8月までの間に、少なくとも5人の顧客に覚せい剤や大麻などを継続的に販売した麻薬特例法違反などの罪で起訴されました。近畿厚生局麻薬取締部によると、被告は大阪市内の民泊を拠点に、SNSに薬物密売の書き込みをして客を集め、手渡しや宅配便で覚醒剤などを売っていたということです。被告は組織の指示役とみられ、薬物に関する犯罪の中では最も重い、麻薬特例法違反での検挙となりました。また、組織の関係者3人も検挙されていて、被告をリーダーとする密売組織は壊滅したということです。
  • 液体状の大麻を何者かに郵便で送り、譲り渡そうとしたとして、24歳の男が逮捕されています。男は、差出人を実在する別の人と偽って郵送していましたが、送り先の住所が間違っていたことで、その「別の人」の元に返送され、犯行が発覚しています。容疑者は差出人の欄に、豊橋市に住む面識のない人の名前などを書き、それぞれの送り先に郵送していましたが、送り先の住所が実在しなかったため、荷物は差出人として書かれていた人に返送。その荷物に心当たりがなかった差出人から警察署に届け出があり、中身を鑑定したところ大麻と判明し、その後の捜査で容疑者が浮上したということです。
  • 警察署にうその通報をして警察官の業務を妨害したとして、奈良県警高田署は、橿原市の少年(19)を偽計業務妨害の容疑で逮捕しています。少年は昨年11月、携帯電話で高田署に「友人が大麻を持っています。捕まえてください」とうその通報をして、大和高田市内の遊戯施設に警察官を出動させた疑いがもたれており、少年は大阪府と県内の9か所の警察施設に計76回にわたって無言電話やうその通報を繰り返していたということです。
  • タイ東部プラチンブリ県にある病院の食堂で、大麻を使った料理がメニューに加わり、物珍しさも手伝い、他県からも食事に来る人が後を絶たないほどの人気を集めているとの報道がありました。タイ政府は昨年12月、麻薬リストから大麻を除外、許可を受ければ大麻の葉などが使えるようになり、チャオプラヤ・アパイプーベート病院は「お祭りサラダ」「にやにやパン」「愉快なガパオライス」など凝った名前の7品目の提供を始めたということです。
  • 乾燥大麻を自宅に隠し持っていたとして、兵庫県警尼崎南署は、阪急バスの運転手の男(30)を大麻取締法違反(所持)の疑いで現行犯逮捕しています。報道によれば、自宅のクローゼットに少量の乾燥大麻が入ったポリ袋(4グラム)を隠し持っていた疑いがもたれており、別の薬物事件の捜査で、関係先として男が浮上したということです。同じバス運転手の事件として、覚せい剤を使用した疑いで名古屋市営バスの元運転手の男が逮捕されています。男は昨年8月にも同じ容疑で逮捕され、執行猶予中の身でしたが、愛知県内またはその周辺で覚せい剤を使用した疑いが持たれているといいます。また、大麻を所持したとして、三重県の市立小学校の非常勤講師(24)が逮捕されています。報道によれば、伊勢市の自宅前の路上で少量の大麻を所持していた大麻取締法違反の疑いが持たれています。容疑者が大麻を吸っていると情報提供があり、警察が朝に自宅から出てきた容疑者を調べたところ、持っていたポーチから少量の乾燥大麻と吸引用のパイプが見つかったということです。学校関係者としは、覚せい剤を使用したとして札幌の教諭の男が逮捕された事件もありました。報道によれば、男は宅近くの交番に「覚せい剤を使っている」などと自首しましたが、その数時間前に職場の上司へ電話をかけ「盗聴器が仕掛けられていて出勤できない」などと話していたということです。調べに対し容疑者は「仕事のことでストレスがたまり、興味本位で手を出した。今年に入ってからインターネット上の掲示板サイトで初めて購入した」という趣旨の話をしていて、警察が裏付けを進めているといいます。また、覚せい剤取締法違反(所持、使用)の罪に問われた元読売新聞記者に東京地裁は、懲役1年6月、執行猶予3年(求刑懲役2年)の判決を言い渡しています。報道によれば、被告は「覚せい剤を使用、所持した認識はない」と無罪を主張していましたが、裁判官は、採尿のための任意同行で「覚せい剤の陽性反応が出ると思う」と発言したことや、薬品の外観、購入時の条件から正規に流通したとは考えにくく「覚せい剤などの違法薬物との認識があった」と判断しています。
  • 偽のブランド品を販売したとして逮捕された男が、覚せい剤を全国に密売していた疑いが強まり、再逮捕されています。この容疑者は昨年4月ごろから宅配便やレターパックを使って全国の顧客に覚せい剤を密売した疑いがもたれています。
  • 東京都豊島区のカラオケバーで麻酔薬ケタミンなどを所持したとして、警視庁は、麻薬取締法違反の疑いでベトナム国籍の男女8人を逮捕しています。報道によれば、新型コロナウイルス感染拡大による緊急事態宣言の期間中、薬物パーティーを開いていたとみて調べているといいます。このカラオケバーを摘発した際、ベトナム人約40人がおり、椅子の下の収納スペースに隠されていたケタミン15袋とMDMA61錠を押収しています。また、ベトナム人の関係した事件としては、違法薬物の販売による収益の一部を受け取っていたとして、ベトナム人薬物密売グループのリーダー格とみられる男が逮捕されたというものもありました。報道によれば、容疑者はすでに起訴されている被告が別のベトナム人に大麻を販売した際の収益の一部、現金7万円を受け取った麻薬特例法違反の疑いが持たれています。容疑者は被告の送金履歴などから浮上、すでに昨年6月、警視庁に覚せい剤取締法違反の疑いで逮捕されていました。この容疑者はベトナム人薬物密売グループのリーダー格とみられ、ベトナムから覚せい剤や合成麻薬「MDMA」などを密輸し、国内に住むベトナム国籍の密売人らに売りさばいていたとみられており、管理する口座にはおよそ350回計2,250万円に上る入金が確認されています。なお、愛知県警は、これまでに容疑者のほか、共犯者とみられるベトナム人15人をのべ23回逮捕していて、密売グループの実態解明に向け調べを進めているということです。外国人の関与した事件としては、能代市の男性宛てに海外から覚せい剤を発送させ密輸入しようとしたとして、函館税関は、東京と神奈川に住むナイジェリア国籍の男2人を関税法違反の疑いで仙台地方検察庁に告発した事件もありました。関税法違反の疑いで告発されたのは、都内に住むナイジェリア国籍で無職の容疑者など2人で、共謀の上、アフリカ南部のモザンビークから能代市に住む男性宛てに覚せい剤およそ973グラム(末端価格6,200万円分)を国際郵便物として発送させ、密輸入しようとした疑いが持たれています。昨年12月、東京税関東京外郵出張所の職員が、検査で衣類の中に隠されていた覚せい罪を発見し未遂となりました。また、コカインを溶かした液体をシャンプーボトルに詰めフィリピンから密輸したとして、警視庁は麻薬特例法違反などの疑いで、いずれもフィリピン国籍の女3人を逮捕し、コカイン計約1キロ(末端価格約2,000万円相当)を押収しています。昨年12月、東京税関が成田空港に届いた国際郵便の中から、ボトルの入った不審な荷物を2つ発見、警視庁はうち一つの中身を入れ替えて追跡(コントロールド・デリバリー)し、荷物を受け取った容疑者らを逮捕したものです。報道によれば、容疑者は「外国人から荷物を受け取るよう頼まれ、50万円をもらった。中身は知らない」と供述しているということです。他にも、虚偽の申請をして住宅を借りたとして、名古屋市の男2人とイラン人の男が逮捕されています。男2人は薬物の密売人らに違法に住居を斡旋し、およそ4,000万円の利益を得ていたとみられています。共謀の上、在留資格がないイラン人容疑者の賃貸契約を代行し、別の日本人男性が入居するとの虚偽の申請をして賃貸権を不正に取得した、詐欺の疑いが持たれています。このイラン人容疑者は、昨年11月に覚せい剤の密輸などの疑いで逮捕されていて、薬物の密売人として借りた部屋を隠し場所などの拠点に利用していたとみられています。また日本人容疑者らは、イラン人容疑者のほかにも、イラン人を中心に少なくとも十数人の密売人の住居を違法に斡旋し、家賃を上乗せする形でおよそ4,000万円の利益を得ていたとみられ、警察が余罪を追及しているといいます。
  • 覚せい剤およそ8キロ、末端価格にして5億円相当をヘアワックスの容器に隠して、タイから密輸したとして、群馬県の夫婦が警視庁に逮捕されています。航空貨物として輸入されたヘアワックスのプラスチック容器の中に覚せい剤が袋詰めにされて、隠されていたのを東京税関が発見したもので、送り先は、2人が以前住んでいた群馬県内のマンションの住所になっていたといいます。ヘアワックスの容器を上げ底にして、容器の上の部分にワックスを入れ、その下にビニール袋に入れた覚せい剤が隠されており、輸入された覚せい剤の量は約27万回使用できる量で、明らかに密売組織との関係があるとみて、警視庁も捜査を進めているということです。
  • ツイッターで大麻の取引を持ちかける投稿をしたとして、京都府警は、解体作業員の男(21)を麻薬特例法違反(あおり、唆し)容疑で逮捕しています。男は昨年6月、ツイッターに大麻の隠語などを示したうえ、「営業してますよ」などと書き込んだ疑いがもたれており、京都府警がサイバーパトロールで発見したものです。府警はほかに、同居人で無職の男(33)も大麻取締法違反(栽培)で逮捕しています。2人は今年1月、自宅2階で大麻草1本を栽培した疑いがもたれています。
  • 覚せい剤の譲渡と所持の疑いで、佐渡市の僧侶と新潟市の会社員が逮捕されています。受け渡しには、佐渡汽船のジェットフォイル便が使われたとみられているといいます。報道によれば、会社員は、覚せい剤を知人の僧侶あてに発送し、僧侶が覚せい剤475グラムを受け取ったところを現行犯逮捕されたものです。なお、発送に使われたとみられるジェットフォイル便は、送り主と受け取る人の住所や名前などを書き込むだけで利用でき、中身を確認されることはないということです。
  • 愛知県一宮市の自宅アパートで乾燥大麻を所持していたとして、29歳の無職の男が逮捕されています。男は自宅アパートの一室で乾燥大麻数グラムを所持していた大麻取締法違反の疑いが持たれています。報道によれば、容疑者が大麻を扱っているという情報を入手した警察が自宅アパートを家宅捜索し、大麻草の株や発芽用のライトなどおよそ50点を押収したということです。また、大麻を営利目的で栽培したとして、26歳の無職の男が警視庁に逮捕されています。警視庁が容疑者の自宅を捜索したところ、照明器具などを使って大麻草138鉢が栽培されていたということで、これを乾燥させた場合には末端価格で137万円相当にあたるということです。容疑者は、「栽培したことは間違いないが、営利目的ではありません」と容疑を否認していますが、警視庁は入手ルートや販売状況などについて捜査を進めています。愛知県南知多町でも、販売目的で大麻草58株を栽培していたとして、あわせて3人が、大麻取締法違反の疑いで再逮捕されています。愛知県警は、知多半島で若者のグループが大麻を乱用しているという情報をもとに、これまでに10か所以上で捜索を行っていて、押収品などから今回の容疑が浮上したということです。さらに、同じ愛知県の名古屋市中川区のマンションの一室で、大麻草を販売目的で栽培したとして、38歳の無職の男が逮捕されています。容疑者の関係先4カ所からは、栽培中の大麻草およそ120株や、乾燥大麻300グラム以上などあわせておよそ500点が押収されていて、警察は共犯者がいるとみて密売ルートなどを調べているということです。
  • 仙台市内で大麻を所持したとして、大麻取締法違反罪に問われた男性(27)の判決で、仙台地裁は、無罪(求刑懲役1年6月)を言い渡しています。警察官が男性から大麻を押収した手続きについて、「令状主義の精神を没却する重大な違法がある」と指摘、警察官が職務質問に当たり、男性がいた車のドアを無断で開けたことを、「任意手段としての所持品検査の許容限度を超え、違法との評価を免れない」と認定したということです。また、逃走しようとした男性を警察官が3人がかりで路上に押し付けて四つん這いにするなどした点について、「職務質問のために許される限度を超え、違法の程度は高い」と述べたほか、令状が執行されるまでの約5時間、駐車場に男性を留め置いたりしたことを違法と認め、「本件の証拠を許容することは、将来の違法捜査抑制の見地から相当ではない」としています。なお、本件については、仙台地検が「警察官の職務意識に問題があったとは考えていないが、控訴審で判決を覆すことは難しいと判断した」として控訴を断念しています。

最後に、海外の薬物を巡る最近の報道から、いくつか紹介します。

  • 31歳の男がコカイン約10万ポンド(約1,430万円)相当をブラジルから密輸しようとして、英ロンドンのヒースロー空港で逮捕されています。報道によれば、男はコカイン101袋を飲み込んでいたといいます。昨年1月から頻繁に海外旅行をしており、税関職員が不審に思って調べたことから事件が発覚したということです。容疑者は「パンデミックで借金が膨らんだ。ドラッグ・ミュール(ドラッグの運び屋)として働いていた」と罪を認めたといいます。関係者は、「コカインを飲み込んで密輸するというのは、非常に危険である。小袋が1つでも胃や腸内で破裂すれば死亡する可能性がある。ルアンは南アメリカの麻薬カルテルとイギリスのストリートギャングにとって重要な役を担っていた。我々は小さな芽を摘む努力を怠らず、今後も国際犯罪組織の摘発に力を入れていく」と述べています。
  • コンサルティング会社マッキンゼー・アンド・カンパニーは、医療用麻薬「オピオイド」中毒問題への関与や、オピオイド系鎮痛剤メーカーの米パーデュー・ファーマへの助言を巡り米国の43州などが起こした訴訟について5億7,300万ドル以上を支払い和解することで合意しています。報道によれば、ワシントン州のファーガソン司法長官は複数の州による和解に加え、単独で1,300万ドルの和解金を受け取ることでマッキンゼーと合意したと発表しています。今回の訴訟では、マッキンゼーがオピオイド系鎮痛剤「オキシコンチン」を手掛けるパーデューと、同社を保有するサックラー一族に対して行った助言が問題となっていました。
  • 世界最大級の麻薬組織のトップが逮捕されています。ロイター通信などによれば、オランダの警察は、アジアを中心に活動する麻薬密売組織トップのツェ・チロプ容疑者をオランダのスキポール空港で逮捕したということです。関係先からは大量の麻薬や現金、高級スポーツカーのランボルギーニなどが押収されたといいます。同容疑者は中国系カナダ人で、年間700億ドル、7兆円相当の違法薬物取引を主導したとみられており、メキシコの麻薬王、ホアキン・グスマン受刑者と並ぶ大物とされていて、警察が指名手配し、10年以上行方を追っていたということです。
  • 昨年10月、米ロサンゼルスを訪れたメキシコのシエンフエゴス前国防相が、米麻薬取締局(DEA)に身柄を拘束されました。前政権の国防相として麻薬対策を指揮しながら、麻薬カルテルから賄賂を受け取ったなどとして起訴されたうえ、現地メディアはDEAが「エル・パドリーノ」(ゴッドファーザー)と呼ばれた麻薬組織の首領を追ったところ、シエンフエゴス氏だと判明したと報道され、メキシコに衝撃が走ったといいます。メキシコ大統領は逮捕直後から「事前に捜査を知らされていなかった」として、「主権が侵害された」と米国に抗議を始め、DEAとの協力を打ち切り、捜査員をメキシコから追放することも示唆したといいます。強い抗議を受け、米司法省は11月に起訴を取り下げ、前国防相はメキシコに送還されています。結局、前国防相は不起訴となり、大統領はその後も「事件はでっち上げ」との主張を続けています。
(5)テロリスクを巡る動向

アフリカでイスラム過激派がテロ活動を活発化している状況にあります。中東のイスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」(IS)や国際テロ組織アルカイダに関連する組織の犯行で、テロの主な舞台が中東から移っており、企業の活動や、今年始動したアフリカの自由貿易圏にも懸念要素となっています。イスラム過激派がアフリカで勢いを増したのは、中東で掃討され足場が縮小したのが大きな要因であり、報道(2021年1月19日付日本経済新聞)によれば、「ISはシリアとイラクで敗北後、イデオロギーを広げる代替地とみたアフリカに向かった」との分析結果や、IS系とアルカイダ系がアフリカで勢力争いをしているといった分析結果もあるようです。記事において、「新型コロナウイルスの流行を利用している可能性もある。「パンデミック(世界的大流行)で過激派組織がサヘル地域で支持を広げている」とデンマーク移民統合省は昨年の報告書で指摘した。行政サービスが届かない地域で医療を提供し、住民を取り込んでいるという」、「テロの発生は局所的だが、治安の悪化は経済活動や企業進出に影を落とす。1日には大陸全体の共通市場化を目指すアフリカ大陸自由貿易圏(AfCFTA)が始動した。5年以内に9割の関税を撤廃する目標を掲げている。物流インフラの不足がかねての課題だが、過激派の暗躍も経済統合を遅らせる恐れがある」と指摘されている点は説得力があると考えます。また、仏軍が、イスラム過激派掃討作戦で西アフリカに展開している部隊の縮小を検討しているという流れもあります。報道によれば、現在約5,100人が駐留しているところ、費用や人的犠牲が大きな負担となっているためだといいます。それに対し、イスラム過激派の活動の中心が中東からアフリカに移りつつある状況もあり、現地は治安改善の兆しが見えず、過激派が伸長する「アフガニスタン化」への懸念も拭えないところです。仏軍はISやアルカイダ系の組織を攻撃しているものの、過激派グループ間でも対立・戦闘があり、一つをたたいても別の組織が勢力を伸ばすいたちごっこが続いているといいます。さらに、過激派は市民からの略奪に加え、一般車両からの通行料金徴収や、違法薬物、金の違法取引などで資金を確保し、地域の貧困や失業、政府の汚職・不正への不満を背景に、若者をメンバーに勧誘している実態もあります。正に、貧困や不満、人心の荒廃、混乱がテロ発生の大きな要因となっていることを示しており、仏は「引くに引けない」状況に追い込まれているといえます。

アフガン情勢を巡っても混乱が続き、さらに混迷さが増している状況が続いています。まず、米トランプ前政権は、与野党の反対を押し切る形で、政権移行直前の駆け込みのタイミングで、アフガニスタンとイラクの駐留米軍をそれぞれ2,500人の規模に削減したと発表しています。これにより、アフガン駐留米軍は2001年の米同時テロ以降、最小規模となりました。一方、前提となるアフガン政府とタリバンの和解協議は難航しており、本コラムでもたびたび指摘しているように、拙速な撤収による情勢悪化も懸念されるところです。そのような状況を受けて、バイデン新政権は、撤収を進めるかどうか、難しい判断を迫られています。その米軍の撤退計画を巡っては、現在、バイデン政権から「検証」への言及が相次いでいます。トランプ前政権は昨年2月に反政府勢力タリバンと合意を結び、今年5月の完全撤退を目標に撤退を進めてきましたが、バイデン新政権は「テロ組織の活動を許さないという約束が守られていない」として、慎重な構えをとっています。報道によれば、米軍は2001年の同時多発テロ直後から、アフガニスタンに駐留、これまで約2,400人の米兵が死亡し、駐留経費は7,700億ドル(約80兆円)を超していることもあり、タリバンが、「テロ組織との関係を絶つ約束を守っているか」、「暴力を減らしているか」、「アフガニスタン政府などとの実質的な交渉に取り組んでいるか」について検証しているということです。一方のタリパンについては、米政府のアフガニスタン復興担当特別監察官が、「昨年10~12月の首都カブールにおける(タリバンの)攻撃件数は前年同期比で増加、3年前の同期比では大幅に増加した」との報告書を公表、前述のとおり再検証中であり、暴力行為が減少していないことが明らかとなり、テロ組織との関係を維持して治安悪化も続いていることで、アフガン駐留米軍の撤収時期にも影響する可能性も指摘されています。さらに、タリパン自体もまた米新政権の出方をうかがうように、アフガン政府が収監している全てのタリバン捕虜を釈放するよう米国に求めています。タリバンはトランプ米前政権との合意に基づき、既に捕虜の一部釈放に成功、さらに強い態度を示すことで、今後の関係のあり方を探っている形といえます。このような状況を受けて、直近では、バイデン新政権内で米軍のアフガニスタン撤収期限を5月から延長すべきだとの考えが浮上してきているようです。駐留を延長すればタリバンが反発し、2001年に始まった戦争の終結が遠のくリスクがあり、新政権は「テロ対策維持」と「戦争の早期終結」の選択を迫られているといえます。その結果、現状では、ブリンケン米国務長官は、アフガニスタンのガニ大統領と電話会談し、タリバンとの内戦の「公正な政治解決および恒久的かつ包括的な停戦」に向けた和平プロセスを積極的に支援していく考えを伝えた一方で、国防総省のカービー報道官は、アフガン国内でタリバンによるテロ攻撃が激化しているのを踏まえ、タリバンが昨年2月にトランプ前政権と結んだ和平合意でうたわれた「テロの非難と暴力の停止」を履行しない限り、和平の前進は困難だと警告するという両面の姿勢を示す形となっています。

さて、前代未聞の米議事堂乱入事件を受けて、バイデン米大統領は、国内テロに関する完全なリスク評価を行うよう指示したと報じられています。サキ大統領報道官は、国家情報長官室が連邦捜査局(FBI)や国土安全保障省と連携して評価を実施するとした上で、「われわれは事実に基づいた分析を求めており、それによって政策を形成することができる」、「6日に発生した議会議事堂襲撃は悲惨な死や破壊をもたらした。国内での暴力的な過激主義の台頭は、深刻かつ拡大する国家安全保障上の脅威であり、バイデン政権は必要な資源と決意をもってこの脅威に立ち向かう」と強調しています。さらに、米国土安全保障省は、バイデン大統領の就任に反対する国内の過激派が今後数週間にわたり暴力に訴える恐れがあるとのテロ警戒情報を発出しています(警戒情報の対象期間は4月30日までとなっています)。議員も標的にした6日の連邦議会乱入事件が、過激派を勢いづかせた可能性についても触れながらも、「特定の情報はない」と説明、一方で警報は「政治的な動機を持つ過激派」が政府機関の活動を妨害する恐れや、「偽情報を信じ込んだことによる不満」が暴力に発展する可能性を示す情報があると指摘しています。さて、その米国の首都ワシントンで1月6日に起きた連邦議会議事堂の占拠事件を巡って、米司法省は極右団体「プラウド・ボーイズ」の2人を共謀罪で起訴しています。従来は不法侵入など軽微な罪を問われる人が多かったところ、当局は事件の計画性に関する捜査を重点的に進めているようです。プラウド・ボーイズは白人至上主義を掲げる男性で構成する過激派組織で、トランプ前大統領を支持、共謀して議事堂の警備に当たる警官に暴行を加えたり、窓を壊して大勢の侵入を促したりしたといいます。事件では5人が死亡し、100人以上の警官が負傷、軽微な罪も含めて既に170人以上が起訴されているということです。そして、そのプラウド・ボーイズについては、隣国カナダがテロ組織に指定すると発表しています。指定により金融機関による資産凍結が可能になるほか、指定団体と知りながら資産を取り扱えば犯罪になります。カナダ政府によると、プラウド・ボーイズは2016年に設立された「政治的暴力に関わるネオファシスト組織」で、メンバーは女性やイスラム教徒、移民などを嫌悪する思想を支持し、別の白人至上主義グループとも関連があるとし、カナダ公安相は「言葉だけでなく活動や計画を含め、暴力激化が深刻化している」と説明しています

国内におけるテロやテロ対策を巡る報道から、いくつか紹介します。

  • 千葉県の印西市役所や千葉市の美浜区役所に対し、テロ行為を行う内容の犯行予告があり、印西市は、予告時間帯に職員、来庁者計約600人を駐車場に避難させ、市役所を一時閉鎖する措置を取っています。予告時間が過ぎても爆発などは起こらなかったため、庁舎内を点検して閉鎖を解除しています。また、美浜区役所に対しては「正面玄関からダイナマイトと火炎瓶を投げ込む」との予告があり、千葉市は不審物の有無について緊急点検を行っています。なお、同日、千葉県内の複数自治体に同じような予告があったとみられています。
  • 佐賀県教育委員会などは、高校1年生を対象にした英語の模擬試験で、「稼ぐことができなかったら彼らは食べ物を求めてモスクへ行き、テロリストとなる」などとイスラム教とテロリストを結びつけるような不適切な表現があったと発表、教育長が「偏見や誤解を招きかねない」として謝罪しています。問題となった英文は、全国の高校生を対象にした過去の英作文コンテストで最優秀に選ばれた作品だといい、海外を訪問して貧富の差を感じたという内容で、同じ高校生の文章で読みやすく、社会問題を扱っていることなどから、昨年6~11月、模試を担当する英語教諭ら13人で問題を作り、チェックもしていたものの採用されてしまったということです。なお、県教育委員会は、「不適切な問題だった。教諭の人権意識の問題で、気付けなかったことは非常に残念」と述べています。
  • 大阪港の岸壁で釣りをしようと、テロ対策で立ち入り制限された区域に侵入したとして、大阪水上署が、大阪府門真市に住む自営業の50歳代の男を建造物侵入容疑で書類送検していたことがわかったということです。周辺はかつて人気の釣りスポットで、不法侵入する釣り客が後を絶たず、同署が警備艇でパトロールをしていたところ、区域内で釣りをしている男を見つけたものですが、そもそもテロ対策上、立ち入りを制限している区域に一般人が(監視の目をくぐって)侵入できてしまうこと自体、テロ対策に対する意識の甘さ、テロ対策自体の脆弱性を示すものとなっています
(6)犯罪インフラを巡る動向

IP電話の「犯罪インフラ化」の実態が顕在化しています。IP電話は番号が「050」で始まるインターネット回線を使ったサービスで、携帯電話の通話アプリなどで利用でき、IP電話番号は、登録した携帯電話番号のショートメッセージサービス(SMS)で送られてくる認証コードなどをアプリに入力するだけで取得できるため、身元を隠したい特殊詐欺などの犯罪グループの温床になっています。2020年9月に東京都町田市で高齢女性が重傷を負った緊縛強盗事件で逮捕された容疑者が使っていた「IP電話」番号について、何者かに代行申請して不正取得させたとして、警視庁捜査1課は、別の犯罪収益移転防止法違反容疑で逮捕された容疑者を私電磁的記録不正作出・同供用容疑で東京地検立川支部に追送検しています。報道によれば、容疑者はSNSを通じてIP電話番号などの代行取得を1件当たり1,000円程度で募集し、2020年2月以降、約3,700件を不正利用させ、300万円超の報酬を得たとみられており、多くが犯罪グループに流れたとみられています。さらに、これとは別に、特殊詐欺で犯人グループが使用したIP電話について、警視庁からの照会に免許証などを偽造してうその回答をしたとして、有印公文書偽造などの疑いで男2人が逮捕されています。IP電話の回線は通常、キャリア会社から再販事業者を経由して利用者に電話番号が渡されますが、容疑者らは実際には特殊詐欺グループに電話番号が渡ったにもかかわらず、別の一般の利用者が番号を受け取ったように見せかけていたということで、摘発を逃れるため警視庁から照会を受けた事業者に対し、虚偽の回答を指南していたとみられているといいます(警視庁に偽の契約書と運転免許証の写しを提出した疑いがあるということです)。警視庁は、関連する再販事業者から他にも詐欺グループに電話番号が渡り、全国で十数億円規模の詐欺に使われていたとみて全容解明を進めています。本コラムでこれまでも指摘してきたとおり、特殊詐欺の電話はレンタル携帯電話が多く使われてきたところ、2008年施行の改正携帯電話不正利用防止法で本人確認が義務付けられ、本人確認の対象外だったIP電話に急速に移行が進んでいます(もちろん、レンタル携帯の本人確認のための免許証のコピーを偽造するなどして特殊詐欺グループにレンタル携帯を提供し続けてきた実態も確認されています)。IP電話の転送サービスを使い、「03」「06」などから始まる番号を表示させ、発信元を偽装する手口も増えています。報道によれば、警視庁が2020年に認知した特殊詐欺に使われた電話の92%は固定電話で、多くがIP電話だったということです。警察庁や通信大手各社は2019年9月から、特殊詐欺に使われた固定電話番号について警察が警告しても悪用が続いた場合は利用を停止し、扱った番号の悪用が相次いだ再販業者には新規番号の提供を止める対策を始めたており、昨年1年間で3,346件の番号を停止し、再販業者11社について提供を止める措置を取っています。IP電話のもつ性質と本人確認の脆弱性が悪用された形といえます。

また、警視庁が昨年10月に「在留カード」の偽造拠点から押収した偽造在留カードの画像約1,100点のうち、約8割に国から発行された正規の番号と有効期間が記載されていたことがわかったということです。正規の番号などで国の照会サイトをすり抜け、不法就労などに悪用している可能性が高いといい、警視庁は、番号などが大量に流出しているとみて実態を調べています。報道によれば、逮捕された中国人の男は東京都豊島区の自宅アパートでプリンターなどを使って在留カードを偽造し、中国人とみられる指示役から指定された客の住所にレターパックで送っていたとされ、押収された偽造カードの画像約1,100点はいずれも住所や氏名、顔写真などが別人のものに改ざんされていたものの、番号と有効期間は正規に発行されたものが約8割を占めたということです。「偽造拠点を摘発するたびに有効な番号の偽造カードが見つかっている」との捜査関係者の話は衝撃的であり、番号などの流出経路は分かっていないものの、所有者が自身のカード情報を偽造グループに提供して報酬を得たり、雇用先などから大量流出したりしている可能性があるとみられています。

ヤミ金からソフトヤミ金へ、さらには給与ファクタリングなどの新しい手法が登場しているところ、今度は、(風景写真や、ゴルフレッスンの解説文やギャンブル攻略法のデータなど)二束三文の商品にあえて高い値を付けて代金後払いで販売し、販売価格の何割かを即座にキャッシュバックする形で、現金を融通する業者が増えていると報じられています。正に規制の穴を突いた新たなヤミ金手口とも指摘され、こうした商法は「後払い現金化」と呼ばれているということです。報道(2021年2月5日付産経新聞)によれば、新型コロナウイルス感染拡大による収入減を補うために業者を利用して、「借金苦」に陥った人もいるといい、多重債務者の支援団体では、法規制の対象に加えるべきだと訴えています。昨年以降、警察当局が「給料ファクタリング」の摘発を強化したことから、昨年夏ごろには衰退、代わって台頭したのが「後払い現金化」だということです。さらに、「給料ファクタリング」から「後払い現金化」に転換した業者もあるといい、「実態としては違法なヤミ金」に気付かないまま手を出し被害が拡大している状況にあります。そして、その「給与ファクタリング」については、高金利で金を貸し付けたとして、警視庁生活経済課が、出資法違反(高金利)の疑いで、ファクタリング会社社長ら7人を逮捕しています。容疑者の会社は「七福神」の名称で貸し付けを行っており、2018年6月~20年5月、全国47都道府県で延べ約9万7,000人に約50億円を貸し、約13億5,000万円の違法な利息を得たとみられているということです。さらに、福岡県警は、貸金業法違反(無登録営業)と出資法違反(超高金利)の疑いで、男女4人を逮捕しています。給与ファクタリング業者の摘発は全国3例目で九州では初めてだということです。報道によれば、貸金業の登録をせずに横浜市の40代の男性会社員ら10人に法定の6~19倍の金利で計約63万円を貸し付け約28万円の利息を受け取った疑いがもたれています。SNSで「給料日までに前借りしたい人は、即日買い取り現金化できる」などと宣伝していたといい、全国で約600人に約3,000万円を貸し付け、約1,800万円の利息を得ていたとみられています。また、給与ファクタリングではありませんが、売掛債権(未回収の代金を取引先から受け取る権利)を買い取るファクタリング業者を装い、ヤミ金を営んだとして、警視庁生活経済課は、一般社団法人「ハートフルライフ協会」代表理事ら男6人を出資法違反(超高金利)などの疑いで逮捕しています。6人は「貸金ではなく(正規の)ファクタリングだ」などと供述し、いずれも否認しているということです。40都道府県の中小企業経営者ら約240人に約20億円を貸し付け、約4億円の利益を得ていたとみられており、HPのほか、中小企業経営者の名簿をもとに電話やファクスで融資希望者を勧誘、利用者は建設業や運送業の経営者が多かったといいます。

さて、菅首相が表明したストーカー規制法改正について、警察庁は有識者検討会の報告書をまとめ、GPS機器を悪用して相手の位置情報を監視する行為を違反に加える改正法案を今国会に提出する予定としています。報道によれば、GPSの悪用は、被害者の車などに無断で機器を取り付け、インターネット上で位置情報をリアルタイムに把握する手口などが典型で、各地の警察はストーカー規制法の禁じる「見張り行為」として摘発してきたが、最高裁が昨年7月、離れた場所からGPSで監視する行為は見張りに当たらないとの判断を示し、摘発が困難となっていたものです。それについて報告書では、車にGPSを取り付けたりスマホに位置情報取得アプリをインストールしたりして無断で居場所を確認する行為は「相手に大きな不安を与え、犯罪に発展する恐れがある」と指摘し、摘発対象の「つきまとい等」に加えるべきだと提言しているほか、位置情報の取得だけでなく、GPSを取り付ける行為自体も規制するよう求めています。このほか、「見張り」や「押しかけ」などを規制する場所についても検討、現行法が自宅や勤務先など「通常所在する場所」に限定するのに対し、立ち寄り先の店やイベント会場など「現に所在する場所」も含めるよう求めています。さらに、メールなどに加えて、手紙といった文書の連続送付も規制、書類の交付が必要な禁止命令は、受領を拒んだり、住居にいなかったりする現状があることを踏まえ、都道府県公安委員会の掲示板への張り出しなどで効果が生じることを可能とする規定を設けるべきだとしています。科学技術の進展など手口の巧妙化などによって、法の抜け穴が生じていくことになる中、本来なら先回りして包括的に規制できればよいところ、現実的には困難であることをふまえれば、このように可能な限り機動的に見直していくことが重要となるといえます。

新たな手口が次々と現れるという点では、脱税(海外課税逃れ)などもその代表的な犯罪ですが、国税庁が、日本の個人や法人が海外86カ国・地域の金融機関に持つ約206万件の口座情報を調べたところ、残高が約10兆円に上ることがわかったといい、国内の富裕層が多額の資産を海外で保有している実態の一端が明らかになりました。日本を含む世界各国の国税当局は互いに、「共通報告基準」(CRS:Common Reporting Standard)に基づく制度を使い、外国人や外国法人(上場企業などを除く)が国内の金融機関で開設した口座情報をその外国人らの居住国と共有、自国民の海外資産を把握することで、税務調査につなげています。20事務年度は、今年1月15日までの半年余りで219万2,000件を入手しており、残高はさらに増える可能性があります。なお、国際的な税逃れの監視や税務調査に、CRSによる情報を活用する案件も増えており、大阪国税局が手掛けたケースでは、相続人3人が父親の死後、海外の父親名義の預金口座に残高があることを認識していたが「海外預金なので把握されることはないだろう」と考え、申告財産から除外していたところ、大阪国税局はCRS情報を活用して海外口座の存在をつかみ、さらに過去の贈与税が無申告だったことも突き止めたといった事例が紹介されています。

少し変わった視点となりますが、盗難を招きやすい脆弱性などが悪用された事例がありました。愛知県内でトヨタ自動車の高級車「レクサスLX」が盗まれる事件が増えており、2020年は車種別で最も多い119台が被害に遭っており、1年間で県内登録の5台に1台が盗まれた計算となるようです。海外への転売を狙った組織的な犯行の可能性が指摘されています。一戸建ての駐車場が狙われやすいというものの、路上やコインパーキングで盗まれたケースもあることから、被害を防ぐためには、結局は持ち主の防犯対策の徹底しかない状況のようです。報道で愛知県警が、「犯人側に発見されるまでの時間を遅らせれば盗難リスクを抑えられる。市販の防犯装置で複合的な対策を講じてほしい」と呼びかけています。また、携帯電話会社の紛失補償サービスを悪用し、スマートフォンの新しい端末をだまし取ろうとしたとして、埼玉県警がベトナム国籍の無職の男を詐欺未遂容疑で逮捕しています。携帯電話会社の紛失補償サービスは月額料金330~1000円(税抜き)で、紛失した場合に数千円~1万数千円を支払い、新しい端末を受け取る仕組みですが、サービス加入後、短期間で手続きすれば、少ない負担で10万円以上の端末を入手できることから、男がこうした仕組みを悪用し、転売を繰り返していたとみられています。

さて、猛威を奮っていたマルウエア「Emotet」ですが、登場当初は不正送金マルウェエアとして知られていたものの、その後はサイバー犯罪のインフラとして活動、自身の感染拡大だけでなく、ダウンローダーとして動作し、「TrickBot」や「Ryuk」など、他不正送金マルウエアやランサムウェアの感染も引き起こしている厄介者です。今回、EUROPOL(欧州掲示警察機構)とEUROJUST(欧州司法機構)の調整の下、合わせて8カ国の法執行機関などが共同して「Emotet」ボットネットのテイクダウンを行い「無害化」に成功、同マルウエアへ感染した被害者からのアクセスは、法執行機関が管理するインフラへ転送されるよう対策が講じられました。さらにオランダ警察では、「Emotet」により窃取されたメールアドレス、ユーザー名、パスワードなどのデータベースを押収、押収データに関連する情報が含まれていないか調べることができるチェックサイト

を用意しています。さらに、その資金の動きなども明らかになってきており、犯行グループが利用していたひとつの暗号資産プラットフォームを調べたところ、2年間で約1.050万ドルの資金が移されていることが判明したということです。これだけの成果をもたらした関係者には感謝と尊敬の意を表したいと思います。

最近、クラブハウス(ClubHouse)と呼ばれる、文字によるコミュニケーション中心のTwitterやFacebookとは異なる、音声によるコミュニケーションであるSNSが急速に普及しています。しかしながら、「ClubHouseの普及が招く闇。薬物売買や援助交際に利用されれば捜査が難航するリスクも」(Yahoo!ニュース 2/4配信)と題されたコラムによれば、すでにこのSNSには「犯罪インフラ」性が備わっていることが指摘されており、注意が必要な状況だといえます。例えば、「ClubHouse内の通常の会話は録音されていない」、もし「記録された」としてもそのデータは米国内に存在するため、「データ提供を求めるためには、米国の法律に従って開示の手続きをとらなければならない」、「過去ログが存在しない」、「音声が記録されず、過去の会話も参照することが出来ない」といった特性が、正に犯罪者にとっては悪用に最適な機能だといえます。薬物売買や特殊詐欺、暴力団をはじめとする犯罪組織等の情報のやりとり(犯罪の指示等)、援助交際等、あらゆる違法なやり取りを証拠を残さずにできてしまうことになるからです。このような犯罪インフラ性を強くもつSNSとしては、高度な暗号化機能を有し機密性の高い「テレグレム」や「シグナル」が有名です。実は、トランプ前米大統領の支持者が連邦議会議事堂を占拠した事件で一躍、日本でもその名を知られるようになった極右団体「プラウド・ボーイズ」などの過激集団も、ツイッターやFBの利用ができなくなったことから、連絡手段を暗号化アプリに移しているとされ、外部からの捕捉がより一層難しくなったとされます(水面下でメンバーの勧誘活動や分断を図る活動が継続しており、米国内でのテロや騒乱・騒動勃発のリスクは減じてはいない状況にあります)。2021年2月6日付日本経済新聞によれば、暗号化メッセージを送れるアプリ「シグナル」は事件の起きた1月6日時点では米国内の「アップストア」のダウンロードランキングで500位に届かなかったところ、直後に急上昇し、数日にわたり1位になったといいます。最近でも150位前後で推移しているようです。また、プラウド・ボーイズがロシア発の無料通信アプリ「テレグラム」に設けたチャットグループには多くのQアノン信奉者とみられる人々が流入したともいわれています。このように、クラブハウスやテレグラム、シグナルといったSNSが犯罪やテロ、さらには社会不安や社会の分断までも助長しているとすれば、深刻な問題であり、対抗手段を早急に講じていく必要があります。

そのSNSについては、SNSに公開された情報を手がかりに第三者の住所などを特定し、報酬を受け取る「特定代行屋」と呼ばれる人たちがおり、「犯罪インフラ」化している状況にあります。SNSの普及によって個人情報の入手が容易になったことが背景にありますが、ストーカーなどの犯罪行為を助長する恐れもあり、その動向には注意が必要だといえます。自粛生活が続く新型コロナウイルス下では、これまで以上に個人情報が特定されやすくなっているといい、SNSユーザーは一層の注意が必要だと指摘されています。2021年2月4日付産経新聞によれば、一般に公開されている情報をたどり、身元を特定すること自体は違法ではないものの、そうして入手した情報を素性の分からない相手に不用意に渡せば、ストーカーなどに悪用されかねず(その意味では犯罪インフラといえます)、場合によっては特定代行屋が共犯になることもありうると指摘されています。さらには、特定代行屋を掲げながら、特定をせずに報酬だけをだまし取る詐欺行為が横行しているとの情報もあるといいます。また、米インスタグラムなどで日本企業をかたる偽アカウントが急増しているとも報じられています。100円ショップ「ダイソー」や資生堂などを装って個人情報の入力を促すもので、小売り各社がネットでの情報発信を強化するのに合わせ、2020年末から国内でなりすまし被害が相次いでいるといいます。その意味では、「サイバー攻撃の入り口が、電子メールからSNSへと変わり始めた」(2021年2月4日付日本経済新聞)との指摘は正鵠を射るものといえます。海外では2年ほど前から問題になっていたインスタの偽アカウントですが、国内で急増しており、トレンドマイクロによると、少なくとも66のブランドが昨年12月に偽アカウントの存在を公表しています。消費者に身近な企業を偽装する例が多く。新型コロナウイルスの影響で、小売り各社がSNSなどでの販促活動を強化していることが背景にあるといいます。

さて、今年2月1日に、巨大IT企業を規制する「特定デジタルプラットフォームの透明性・公正性向上法」が施行されました。この新法は、独占禁止法などとあわせてデジタル市場で取引の透明性を高める目的のもと、変化のスピードに対応するために違反が表面化する前から取組みを監視していく手法をとっていること、さらに、技術革新を阻害しないよう、事業者の自主的な取り組みを尊重するという「ゴールベース・アプローチ」が採用している点が注目されます。不確実性が高まり、変化のスピードが加速する中、「社会の目線」を強烈に意識しながら「コンダクト・リスク」や社会的課題に自立的・自律的に対応し、その妥当性を「透明性レポート」といった形で社会に対して説得的なコミュニケーションを図りながら、自らの健全性を担保していく手法で、今後、このようなアプローチが定着し、「攻め」のコンプライアンス・リスク管理によって、「健全性と収益性」の両立がもたらされることを期待したいところです。

前回の本コラム(暴排トピックス2021年1月号)では、新法への対応を見据えたヤフーの「個人に対する誹謗中傷などを内容とする投稿への対応や今後の方針を策定」について紹介しました。例えば同社は、「事業者による自主的な誹謗中傷投稿への対策については、削除基準やそれに基づく措置件数、AIを用いた措置に関するアルゴリズムや合理性を担保するための制度設計に関する説明など、世間に対し説明を尽くしていくことの重要性について、強く認識しています。Yahoo! JAPANでは、2020年度の取り組みについて取りまとめ、来年春以降に透明性レポートの作成および公表を進める予定です」と公表しています。今回は、同じく巨大IT企業の一角を占めるメルカリの公表した「マーケットプレイスの基本原則」について紹介したいと思います。

▼メルカリ、外部有識者とともに策定した「マーケットプレイスの基本原則」を公開

本リリースで、同社はまず、「「メルカリ」をはじめとした二次流通マーケットプレイスの浸透により、個人でモノを売買することがより簡単、身近に楽しめるようになり、モノの循環もより加速するようになりました。その一方で、多くの利用者が参加するようになったことによる課題も生じています。特にコロナ禍においては、社会全体でさまざまな物資の需給バランスが変化し、「メルカリ」においても既存の取り組みの強化だけではなく、より複合的な対策や判断が求められるケースが発生しました」とその問題意識を提示しています。そのうえで、「メルカリと有識者が策定に向けた議論を行った基本原則とは、利用規約やガイドの背景となる、メルカリのマーケットプレイスに参加するすべての人の拠り所となる基本的な考え方をまとめたものです。具体的なルールや禁止行為はサービスの利用規約やガイドに定められていますが、その背景となる基本原則が存在することで、より透明性の高いマーケットプレイスとなることを目指します」、「本基本原則においてはまず、「多様な価値観を持った人たちが、自由に取引できるマーケットプレイスを創ること」を重要な理念として定めました。マーケットプレイスの果たすべき役割として、多様な価値観を持った売り手と買い手の自由な取引を通じ、需給のマッチングを実現します。メルカリは、誰もが安心して参加できる、多様で自由なマーケットプレイスを実現し、誰かにとっては価値がなかったモノが、他の必要とする誰かのもとに届くことによって生みだされる「新たな価値」を創出していきたいと考えています」、「一方で、例えばコロナ禍におけるマスク・消毒液など、緊急事態下において著しく供給が逼迫しており、本来できるだけ早く多くの人に届けられるべきであるにも関わらず、需給バランスが一時的に崩れ、様々な影響が出てしまうケースも存在します。本基本原則では、有識者会議での議論を通じ、こうしたケースに対応しながら、モノの循環の加速、循環型社会の実現といったマーケットプレイスによって生みだされる正の側面を最大化するための対応基準や考え方として、以下を3つの基本原則として明文化いたしました」と表明しています。

マーケットプレイスの基本原則(一部抜粋)

  • 安全であること
    自由な取引は、安全に利用できる環境があってはじめて成り立つものです。
    そのため、法令に違反する取引を禁止することはもちろん、以下のような取引についても禁止し、取引の当事者及び取引の結果影響を受ける第三者の安全を確保します。
    • 身体・生命への危害が加わる可能性が高い商品の取引
    • 違法・犯罪行為につながる可能性が高い商品の取引
    • 緊急事態において、生命身体の安全や健康の維持に関わる必需品であり、できるだけ早く多くの人に届けることが求められるが供給が著しく不足している商品の取引
  • 信頼できること
    マーケットプレイスでは様々なものが取引されています。一つ一つユニークな商品を安心して取引するには、商品や取引に関する正確な情報が提供された上で、誠実に取引される必要があります。そのためメルカリは、以下のような行為を禁止することによって、多くの人に信頼してご利用いただけるマーケットプレイスを構築します。
    • 商品の詳細がわからない取引や商品情報の偽装を行う行為
    • 商品に問題があっても返品に応じないという行為
    • 手元に商品がないのに出品する行為
    • 販売を目的としない出品行為
  • 人道的であること
    多様な価値観を持つ人々が参加するマーケットプレイスでは、一人一人の価値観や立場が尊重されることが大切です。また、取引を通じて、人道に反するような行為が助長されることがあってはならないと考えます。
    そのため、メルカリでは以下のような取引や行為を禁止します。

    • 人種、民族、宗教、性別等による差別を助長する商品の取引・行為
    • 誹謗中傷、脅迫行為等
(7)誹謗中傷対策を巡る動向

コロナ禍において、献身的な活動を続ける医療関係者に対する心ない誹謗中傷が多発しています。直近では、新型コロナウイルスにまつわる医療従事者らへの差別や風評被害が昨年10~12月の間に全国で698件確認されたと日本医師会が発表しています。

▼日本医師会 新型コロナウイルス感染症に関する支援への御礼及び医療従事者への風評被害について

それによると、差別や風評被害の698件の内訳は、主に看護師を指す「医師以外の医療従事者」に対するものが277件(約40%)で最も多く、「医療機関」に対するものが268件(約38%)、「医師または医療従事者の家族」が112件(約16%)と3番目に多かったということです。また、看護師らへの差別では、新型コロナの患者を診療する医療機関かどうかに関わらず、医療職であるというだけで「近寄らないで」と心ない言葉をかけられたといったものや、保育園に子どもを預けるのを拒まれ、仕事を休まざるを得なかったケースもあったといいます。このような状況を受けて、日本医師会の中川俊男会長は「風評被害を飛び越えて、差別、人権侵害が散見される。国が対応することを要請する」として、政府に正確な知識を啓発する取り組みの強化などを求める考えを示しています。

次に、国内における誹謗中傷を巡る最近の報道から、いくつか紹介します。

  • 三重県議会の委員会に参考人招致された同性愛者の男性が、同性パートナーシップ制度導入などをめぐり意見対立した後にSNSで中傷され、名誉を傷つけられたとして、三重県議会議員に投稿の削除と謝罪広告の掲載を、三重県に慰謝料など330万円の損害賠償を求める訴訟を津地裁に起こしました。報道によれば、提訴を受けて同県議は、特定の個人を攻撃したものではなく、名誉毀損には当たらないと反論しています。具体的な内容としては、男性が県議会の特別委員会に招致された際、県の同制度導入などをめぐり同県議と意見が対立、同県議は昨年10月29日、特別委の動画と共に男性をやゆする内容のツイートを引用し、「三重県議会の汚点となる参考人招致と言わざるを得ません」と自身のツイッターに書き込んだというものです。
  • 2019年4月の大阪府知事・市長のダブル選前にSNSで誹謗中傷されたとして、大阪市の松井一郎市長が埼玉県の女性に550万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が大阪地裁であり、裁判長は女性側に330万円の支払いを命じています。報道によれば、女性はダブル選の約1カ月前の同年3月、ツイッターに「松井一郎は過去に女子中学生を強姦し、自殺に追いやりました」などと匿名で投稿したとされます。女性側は「選挙妨害目的ではなく公益目的だった」と主張していたものの、判決理由で裁判長は、投稿について「客観的裏付けがなく、立証もしていない」と認定、発信者特定に労力が必要になったり、ダブル選間近の投稿だったりした経緯を指摘し、「政治家としての社会的評価を低下させ、精神的苦痛を与えた」と結論付けました。
  • 職場で特定民族の差別を含む資料を配布され精神的苦痛を受けたとして、在日韓国人の50代女性が勤務先の不動産会社「フジ住宅」と男性会長に3,300万円の損害賠償を求めた訴訟の控訴審第1回口頭弁論が大阪高裁で開かれ、双方が争う姿勢を示しています。同社側に計110万円の賠償を命じた1審大阪地裁堺支部判決を不服として、双方が控訴していたもので、意見陳述で、原告側の女性は「業務と関係のない個人の世界、歴史観を持ち込まないでほしいと求めていたが、職場環境はさらに悪化している」と主張したのに対し、同社側は「多様性は尊重している。自己と相いれない考えをヘイトとして封殺することが認められれば、自由・民主主義の根幹を揺るがしかねない」と訴えており、2審の判決が注目されるところです。
  • 在日の韓国人や朝鮮人に対して差別的な言動があったとして、大阪市は、ヘイトスピーチ抑止を目的とする条例に基づいて「行動する保守運動関西地区」の団体名を市HPに公表しました。2016年1月の条例制定以降、氏名や団体名が公表されるのは3例目だということです。報道によれば、同団体は2016年7月、大阪市中央区の在大阪韓国総領事館付近で、数人で街宣活動を実施し、マイクを使って在日韓国・朝鮮人に対してヘイトスピーチをしたうえ、活動の様子を生配信したり、動画をHP上に掲載したりして不特定多数が閲覧できる状態にしたとされます。
  • 自民党の中谷元・元防衛相と国民民主党の山尾志桜里衆院議員は、人権侵害にかかわった外国の人物や団体に制裁を科す「日本版マグニツキー法(特定人権侵害制裁法)」制定に向け、超党派の議員連盟を発足させると発表しています。同法はロシアで人権侵害に関与した人物・団体への資産凍結や入国禁止を可能にするため2012年に米国で成立、その後、国や地域を限定せずに制裁を科せるように改正され、カナダやEUなどでも同様の仕組みの導入が進んでいるということです。報道によれば、法務省出入国在留管理庁、財務省、経産省、外務省のいずれの省庁も人権侵害を理由に制裁を科した例はないということであり、「日本は人権侵害に甘い国」というレッテルを国際社会から張られてもおかしくない状況にあるのは間違いなさそうです。

海外においては、誹謗中傷に限らず、過激化する主義主張のぶつかり合い等の状況から、とりわけ「表現の自由」を巡り、SNS事業者による規制が妥当なのか、どうあるべきかが問われる状況となっています。

米議事堂乱入事件の際に一躍知られるようなった、米国の保守派に人気のSNS「パーラー」のジョン・マッツェCEOは、取締役会によって解任されたと明らかにしています。報道によれば、マッツェ氏は「私の製品に関するビジョン、言論の自由に対する強い信念、パーラーのサイトの運営方針について、過去数か月間、絶え間なく抵抗を受けてきた」としています。パーラーを巡っては、今年1月6日にトランプ前大統領の支持者らが連邦議会に乱入した事件を受けて米アマゾン・ドット・コムがパーラーのサービス提供を停止したほか、米アップルとアルファベット傘下のグーグルはそれぞれパーラーをアプリストアから排除しています。さらに、サービス再開を巡り争っている訴訟で、米連邦地裁は、米アマゾン・コムがパーラーの暴力的な投稿への対応が不十分で、利用規約に違反するとして同社のサイトの管理サービスを停止した措置を維持する判断を示し、停止の差し止めを求めたパーラーの請求を退けています。なお、パーラーは、ロシア人が所有するIT企業の支援を得て、サイトを部分的に再開しています(なお、ロイターの報道によれば、サイトが使用するIPアドレスはDDoSガードという会社に属しており、同社はロシア人男性2人が支配権を持ち、サーバーに大量のデータを送り付けて通信機能を停止させる「DDoS」攻撃の対策サービスなどを提供しているとされる「犯罪インフラ」事業者であり、パーラーの「犯罪インフラ」化がさらに進むことが危惧されます)。

また、ミャンマー国軍によるクーデターでは、国軍が、民主的な選挙で圧倒的に勝利した国民民主連盟(NLD)を率いるアウン・サン・スー・チー氏を拘束して全権を握った後、FB(フェイスブック)への接続を国内通信事業者に遮断させました。2021年2月6日付ロイターは、「ミャンマー国民の実に半数が利用するFBは、国軍との間で過去数年間、緊張関係が続いていたが、今回、さらに何らかの対応を迫られる重大な局面を迎えた」と報じています。さらに、「今後、FBは民主勢力の政治家や活動家を守ることと、サービスを再開できるよう当局に協力することとの間で、どう折り合いをつけて振る舞うか、難しい決断をしなければならない」、「FBがミャンマーで果たしている役割は、際立って大きい。国民の多くはFBをインターネットの同義語と考えるほどだ」、「FBはミャンマー問題を緊急案件として扱っている。AIを駆使し、ヘイトスピーチと暴力扇動の規約違反に該当している可能性の高いコンテンツを制限しているという」。「もっとも、クーデターが始まったときから、国軍もFBを積極活用した。傘下の「真実のニュース」部門は接続遮断まで毎日、国軍からの情報を提供していた」などとも報じており、ミャンマー国内における独特のFBの立ち位置もあるものの、国の動向をも左右しかねない影響力をSNSが持ちうることをあらためて示したものといえます

また、米ツイッターは、暴力をあおる目的の投稿があるとするインド政府からの要請を受け、同国で主要ニュースマガジンを含む数十のアカウントを停止しています。報道によれば、インドでは農業新法を巡り農家の抗議デモが続いており、デモ隊と警官隊が衝突、参加者1人が死亡したほか、警官を含む100人以上が負傷する騒動に発展しています。インドのIT法は、治安を乱す行動を扇動していると見なされるオンラインコンテンツの遮断を求める権限を政府に与えており、ツイッターは、「権限を有する機関から適切な範囲の要請を受けた場合、特定の国で特定のコンテンツへのアクセスを制限することが必要になることもある」と必要に応じて政府の指示に従っていると説明しています。一方、アカウントを停止されたニュースマガジン側は、ツイッターからアカウント停止の通知を受けていないとしたうえで、「これは検閲に近い。農家デモに関する報道を伝えたエディターが暴力を扇動したとして、これまでに複数の訴訟が提起されている」と述べており、ミャンマーにおけるFBの立ち位置と近い状況にツイッターが置かれているようです。

さて、米国のトランプ前大統領の支持者が連邦議会議事堂に乱入した事件を受け、ツイッターやFBなどが「暴力の扇動」を理由にトランプ氏のアカウントを停止したことが議論を呼んでいます。ミャンマーにおけるFB同様、民間のサービスとはいえ、言論プラットフォームとして社会インフラ化したソーシャルメディアですが、運営企業が独断で公人の発信まで規制することは、言論の自由の観点から認められるかどうかは、議論の分かれるところだといえます。それに対し、2021年1月12日付産経新聞の内容が、現状や課題についてコンパクトにまとまっており、以下、一部抜粋して引用します。

これまでSNS運営企業は通信品位法230条に基づき、不適切な投稿を掲載したり、削除したりしても法的責任を問われなかった。SNSは人々が意見を交わす「掲示板」のような情報基盤に過ぎないと位置づけられたためだ。ただ、社会への大きな影響力を持つようになったSNSは単なる掲示板とはいえないとして、SNS運営企業を投稿内容に責任を負う「編集者」として扱うべきだとの見解も強まってきた。一国の大統領のアカウントを停止するという踏み込んだ対応の是非も踏まえながら、同法230条の改正を含むIT規制強化が急務となりそうだ。一方、6日の議会襲撃事件をめぐっては、侵入した白人至上主義者などの過激思想や、襲撃計画がSNSでやり取りされていた実態が判明し、SNSの闇の深さも見え隠れしている。…管理が厳しくなった主流SNSの代わりに利用されたパーラーは停止されたが、「MeWe」や「Gab」など多くの新興SNSが顕在だ。こうした新興サイトに白人至上主義団体の利用者が急速に移行していると専門家は分析しており、SNS上で過激思想を封じ込める難しさが指摘されている。

また、2021年1月22日付毎日新聞でも詳しく報じられており、例えば米の専門家は、「憲法上の言論の自由とは無関係だ」、「(米国の言論の自由は憲法修正1条に規定されているが)修正1条が検閲を禁じているのはあくまで政府であり、民間企業は含まれない」」と指摘しています。また、日本の専門家は、「表現の自由を重視するのか、安全・安心を追求するのか、そこは各社の姿勢に幅があっていい」、「米国では『明らかに危険や暴動が発生する』と判断できる場合に規制が許容されるというのが古典的な考え方」、「日本の場合、より問題になるのは個人への中傷だ」と指摘しています。さらに、日本でも米国と同様、ユーザーからは「よく分からない理由で発信を削除されたりアカウントを凍結されたりした」との声が上がる一方、ヘイトスピーチと見なされる発言が放置されるなど、運営側の判断基準がはっきりしない問題があると同紙が問題提起しています。それに対して、。日本では、(中傷に対して)どこまでの表現を許容するかは事業者に委ねられている部分が大きいが、2020年9月に総務省が公表した「インターネット上の誹謗中傷への対応に対する政策パッケージ」では「法的枠組みの導入の検討」に言及していることに関連して、「(何を削除・凍結したかを)一番分かっているのは事業者だが、その情報を出すインセンティブ(動機付け)がない。法的な根拠が必要だろう」、あるいは、「日本で迅速な裁判を受ける権利を保障するルール作りが必要だ。ソーシャルメディア運営企業は、言論インフラを担う存在として電気やガス、水道のように一定の規制の下に活動するよう法整備すべきではないか」といった指摘もなされています。なお、これら日米の考え方に対し、仏や独では、危険な投稿を放置してきたソーシャルメディア運営企業に厳しい目が向けられる一方で、「表現の自由」の規制は企業ではなく国や裁判所が行うべきだとの論調が主流を占めています(例えば、仏のルメール経済・財務相は、「巨大IT企業に対する規制は、業界の寡占企業が自分で行うことではない」、「ツイッター上で発信される偽情報や扇動発言には、国や裁判所が対応すべきだ」と主張しているほか、EUのブルトン欧州委員は、襲撃事件は「SNSが暴力扇動や偽ニュースを野放しにしてきたことの表れ」だとして、EUによる規制の必要性を訴えています)。あるいは、新型コロナウイルスの感染拡大が社会不安を引き起こし、インターネット上では新型コロナを巡る真偽不明の情報が拡散しましたが、ロシアのプーチン大統領など一部の政治家はこの混乱を利用し、「情報操作」をすることで、自らへの支持を維持しようとしている状況もあります(報道によれば、ロシアは昨春、全国で外出制限を導入し、経済は停滞。プーチン氏の支持率は4月、59%と過去最低水準まで低迷したものの、その後、プーチン氏の大統領選5選出馬を可能とする憲法改正の国民投票に合わせるようにロシアの感染状況は改善し、外出制限などは解除されたという流れが確認できています)。あるいは、巷に溢れる偽情報へのソーシャルメディア運営企業の対応が追い付いていない現状もあります。FBやツイッターは偽情報に「警告」ラベルを添付して注意を促しているというものの、ある調査では、偽情報を拡散するFBページを検証したところ、警告ラベルが添付されていた偽情報はわずか16%に過ぎなかったと指摘されています。このように「表現の自由」の名を借りた悪用は、ソーシャルメディア運営企業の制御できるレベルを超えて、「情報操作」や「偽情報」という形で、社会に大きな影響を及ぼしている現実も(表現の自由とそのコントロールの関係を考えるうえで)無視できないところです(逆に、ソーシャルメディア運営企業がそれらを技術を駆使して制御できることになれば、もはや誰も統制できない「巨大な権力」を有する存在として君臨する恐れも秘めている点は認識しておく必要があります)

なお、この「情報操作」や「偽情報」については、2021年1月16日および17日付毎日新聞で、大変興味深いインタービュー記事が2本掲載されていますので、以下、一部を抜粋しながら引用します。

「ロシアなどは、国ぐるみでプロパガンダ(政治的宣伝)や偽情報を作っているとみられる。日本で組織的なものはないとみられ、基本的に個人が愉快犯としてやっている。だが、偽情報が全体の0・1%に過ぎなくても、一度発信されてしまえばインフォデミックになる可能性がある。「表現の自由」を守りつつ、国際的に規制を進めることが必要だ」、「純粋な軍事力ではどの国も米国に勝てない。自国の主張や国益を通すため、サイバーや宇宙空間で優位になろうとしている。偽情報は「どのようにすれば相手国の国民を揺さぶることができるか」という実験に使われている側面もある」、「(ISのプロバガンダを行った)サイバー技術に詳しい若者が国の暗殺リストの最上位になるほど、SNS上の情報は脅威となっている」、「人間の判断能力を超える情報量になったことで多くの人が思考停止状態となった。思考が停止したことで、真実よりも感情に訴えかける情報が重視される傾向もある。さらに、在宅勤務が増えたことでネットから情報を取る頻度が上がり、より危険になっている」

ブラジルなどを含めた17カ国ほどの「権威主義的な」国では、コロナ禍を契機に、偽情報の規制法を情報統制のツール(道具)として使っている。「非常事態だから」という理由で、規制強化が認められやすい状況になっている。国際新聞編集者協会(IPI)は、報道機関やジャーナリストに対する締め付けが厳しくなっていると報告している。…インフォデミック(偽情報の拡散)が起こる要因の一つは、人々の不安だ。「今何が起きているのか」「今後どうなるのか」「どのように行動すればよいのか」などを示す確たる情報がない不安感の中で、ネットでたまたま目にした強い表現の情報を見ると、うのみにしないまでも「他の人たちにも知らせなければ」と拡散させてしまうことがある。法規制の芽を出さないためにも、専門家や公的機関が精度の高い情報を発信し、情報の「空白」を埋めていくことが重要だ。医師会や専門家は、意識的にそうしたリスクに関するコミュニケーションを取ろうとしているが、政治家も国民の安心感につながるような継続的な情報発信の努力をもっとすべきだと思う。

この「表現の自由」が無制限に主張できるかどうか、「表現の自由」に対する規制のあり方については、以前、本コラムでは仏テロ事件発生時に仏マクロン大統領が、仏の伝統である「冒涜の自由」を強固に主張したことに対して論じたことがあります。要約すれば、「マクロン大統領は「イスラム教徒ではなく、イスラム過激主義者が問題だ」とするが、その「冒涜の自由」の主張は、イスラム教徒に対してあまりに「不寛容」で乱暴だ。仏ではイスラムコミュニティが人口の9%、約600万人を占めているが、「イスラム教徒としての自分を社会で認められない」疎外感が過激化につながっている事実も直視すべきだ。カナダのトルドー首相が、「表現の自由は常に守っていかなければならないが、限度がないわけではない」、表現の自由の行使は「相手への敬意を保ち、同じ社会、地球に暮らす人々を故意に、あるいは不必要に傷つけないよう、自ら戒める責任を負う」、「多元的で多様な社会では、他者への発言や行動の影響に配慮する責任を負う。特に今なお差別を経験している人々に対してはそうだ」と指摘したことは、全く正しい」というものです。専門家のいう「一定の規制」「法的根拠」や、トルドー首相のいう「自ら戒める責任」「他者への発言や行動の影響に配慮する責任」について、国と民間事業者の間で、どう整理していくか、米やミャンマー、インド、仏など世界各地で起きている諸問題もふまえ、「古くて新しい問題」に今、きちんと向き合うことが求められているといえます。その意味で一つの参考となる取組みもあります。FBの第三者機関「監督委員会」は、FBによる投稿削除に関する初めての審査結果を発表しています。報道によれば、5件のうち4件について、FBの決定は適切ではなかったとして投稿の復元を求めているほか、規約の明確化や運営の改善も提言しているといいます。監督委員会は「表現の自由」を尊重する取り組みとして設置され、メンバーは人権活動家や大学教授、ジャーナリストらで、FBは原則、委員会の決定に従うものとされており、FBによるトランプ前米大統領のアカウント凍結についても審査しているということであり、今後の動向が注目されるところです。あるいは、同じくFBは、自然言語処理や画像認識といった技術開発を進めるなか、2016年の米大統領選などを機に同社の投稿管理に不備があるとの見方が浮上、AI関連の人材や開発資金の多くをこの分野に充ててきたところ、投稿管理について過去数年はヘイトスピーチ対策に注力し、大きく進歩したといい、直近では約95%をほかの利用者が目にする前に削除し、偽アカウントなどの検知能力も向上したと報じられています(2021年1月30日付日本経済新聞)。一方、いじめや嫌がらせに関する投稿を事前に削除できた比率はいまだ26%にとどまっており、「隠語の利用や新たな事件への言及などがあり困難が伴うが、対策に注力する方向性を示しています。このような最新の技術を活用した誹謗中傷の深化もまた期待したいところです。

(8)その他のトピックス
(8)-1 中央銀行デジタル通貨(CBDC)/暗号資産(仮想通貨)を巡る動向

CBDCを巡る動向については、まず、国際決済銀行(BIS)が公表した65の中央銀行を対象に実施した調査で、世界全人口の2割をカバーする地域の中銀が、今後3年以内にCBDCを発行する可能性が高いことが分かったということです(2021年1月28日付ロイター)。報道によれば、現在はビットコインなど民間の暗号通貨の取引が拡大し、フェイスブック(FB)の「ディエム(旧リブラ)」計画など新たな暗号通貨発行の取り組みも浮上しているところ、中央銀行の間に、CBDCを発行して自らの通貨発行権を守ろうとの考えが広がっていること、また主要国で政策金利がマイナス圏に突入して金融政策手段が枯渇する中で、CBDCが思い切った措置の導入に役立つとの期待もあることなどが背景として指摘されています。また、CBDCに積極的に取り組む中国については、着々と実証実験を進めているところです(本コラムでも紹介したとおり、経済特区40周年を迎えた中国・深センで昨年10月、一般市民が参加できる最初の大規模なデジタル人民元の実験があり、抽選で選ばれた約5万人にデジタル人民元200元(約3,200円)分をプレゼントし、市内約3400店舗での買い物に使えるというものでした。同市以外にも、成都、杭州など主要都市でも実証実験が行われています)。中国の動きについては、2021年1月16日付産経新聞において、「中国・習近平政権によるドル基軸通貨体制侵食が始まった。習政権の戦略は段階的で、まずは香港民主派の一掃によってドル金融センター、香港を完全掌握する。同時並行で、中国電子商取引最大手、アリババ集団を強権支配する。アリババが構築したデジタル決済ネットワーク基盤の上に共産党が支配する発券銀行、中国人民銀行が発行するデジタル人民元を国内で普及させる体制を年内に整える。総仕上げは拡大中華経済圏構想「一帯一路」の沿線国・地域や貿易相手国に浸透させていくシナリオだ」とその動向と狙いを指摘していますが、正に正鵠を射るものと思われます。なお、2021年1月24日付朝日新聞で「各国中銀のデジタル通貨の準備状況」が整理されており、参考までに以下のとおりです。

  • 中国:各地で消費者らが参加する実験を実施。2022年の北京冬季五輪までの発行を目指す。現金の流通額(GDPに対する割合。BISによる)は3%。
  • スウェーデン:民間事業者と組んで技術面の実験を実施中。発行は未定。現金の流通額は3%。
  • 日本:日本銀行が21年春にも初期の実証実験を開始予定。発行は未定。現金の流通額は3%(他国と比較して圧倒的に現金が使われている実態が浮き彫りになっています)。
  • ユーロ圏:欧州中央銀行(ECB)が実証実験に入るかどうかを21年半ばまでに決める。現金の流通額は1%。
  • 米国:日銀を含む主要中銀による研究グループに途中参加。現金の流通額は3%。

関連した動きで注目されるものとしては、ベルギーに本部を置く国際銀行間通信協会(SWIFT)が、中国人民銀行(中央銀行)のデジタル通貨研究所と清算機関と共同で合弁事業を設立したと報じられていることです(2021年2月5日付ロイター)。中国は、デジタル人民元の国際的な利用を目指していますが、HSBC(香港上海銀行)の最近のリポートでは、デジタル人民元について、資金の流れの監視強化、国際決済の効率化、人民元の国際化につながると指摘しています。人民銀行の監督下にある国際銀行間決済システム(CIPS)はSWIFTと提携している一方で、米中関係の緊張が高まる中、SWIFTの競合相手にもなっています。中銀国際は昨年7月のリポートで、「SWIFTからCIPSに移行すれば、中国の国際決済に関するデータを米国に握られることが少なくなる」と指摘されています。SWIFTとの関係については、デジタル人民元の「ドル基軸通貨体制浸食」の動きの一つとして、今後の動向に注目したいところです。

日本については、本コラムで紹介しているとおり、日銀としては現時点で「デジタル通貨を発行する計画はない」との立場を崩していませんが、先行する中国や欧米の動向をにらみつつ、環境が変化し導入が必要になった場合に備えています。日銀は当面、現金の流通が大きく減少する可能性は高くないとみているものの、デジタル通貨は現金と違って輸送や保管などのコストがかからないメリットがあるほか、CBDCは個人や企業の決済や取引を記録することも可能になり、脱税やマネー・ローンダリングの防止につながる利点もあります。一方で、取引情報や個人情報の保護といった課題もあり、日銀は実証実験と並行し、こうした課題を踏まえてCBDCの制度設計を検討していく方針です。なお、日銀の想定する今後の流れとしては、「3年度の早い時期に始める第1段階の実験では、発行や流通といったCBDCの基本機能に関する検証を行う。第2段階では、保有金額に上限を設定できたり、通信障害といった環境下でも利用できたりするかなど、通貨に求められる機能を試す。第2段階の具体的な期間については明らかにしていない。第3段階では実際に民間事業者や消費者が参加して、実用に向け実験を行う計画だ」(2021年1月19日付産経新聞)となります。

最近の暗号資産(仮想通貨)を巡る報道から、いくつか紹介します。

  • 暗号資産交換事業者「コインチェック」から2018年1月、約580億円相当の暗号資産「NEM」が流出した事件で、警視庁がこれまでにNEMの不正な交換に応じたとみられる13都道府県に住む23~43歳の男31人を組織犯罪処罰法違反(犯罪収益収受)容疑で逮捕や書類送検しています(このうちの2人は既に逮捕・起訴されたことが判明している北海道帯広市の医師、大阪市の会社役員(公判中)だといいます)。報道によれば、不正交換の摘発総額は流出額のおよそ32%にあたる約188億円分に上るといいます。しかしながら、流出に関与した首謀者らの摘発には至ってはいません。捜査当局の具体的な手法としては、流出したNEMを追跡し、通常のインターネット上の暗号資産取引所で交換された際に、そこに登録された利用者の身元を特定するなどして捜査を進め、摘発したようです。なお、本件については、2021年1月22日付日本経済新聞に詳しく、「流出事件では、何者かが同社のシステムに不正アクセスしてNEMを外部に送金。匿名性の高い闇サイト群「ダークウェブ」上に交換サイトを開設し、約580億円相当を相場より15%安いレートでほかの仮想通貨との交換を持ちかけた」、「一般的にダークウェブを使ったサイバー犯罪捜査は難航する場合が多い。警視庁はダークウェブ上のサイトで交換されたNEMをさらに追跡し、通常のインターネット上の交換所で取引された際に登録者の身元を特定するなどした。一方、警視庁は流出に関与した首謀者らについても、電子計算機使用詐欺容疑などで捜査しているが、摘発には至っていない。19年に国連がまとめた報告書は、コインチェックの事件の攻撃グループについて北朝鮮のハッカー集団の関与を示唆した。サイバー犯罪では海外からのアクセスも容易で、国家を背景とした攻撃についても指摘されることが多い。技術が高く手口も巧妙なため、捜査の壁になっているとみられる」といった内容が参考になります。
  • 最高裁第3小法廷は、暗号資産ビットコインの取引所を運営していた「MTGOX」のデータを改ざんしたとして、私電磁的記録不正作出・同供用罪に問われた元同社代表取締役の上告を棄却する決定をしています。これにより、懲役2年6月、執行猶予4年とした1、2審判決が確定しました。なお、以前の本コラム(暴排トピックス2019年4月号)
    でも紹介したとおり、被告は顧客の預かり金計約3億4,100万円を着服したとする業務上横領罪でも起訴されましたが、1審判決が成立を否定、同罪については無罪が確定しています。参考までに、東京地裁の判決は、「改ざんは、被告が過去に行った架空のビットコインの作成を隠蔽するために行われた」と指摘、「被告は自身に認められた権限を乱用し、虚偽の電磁的記録を作り出した」としています。一方、検察側が「顧客がビットコイン売買のために同社に預けた資金を投資に使ったり、生活費に充てたりした」と主張していた、顧客の預かり金3億4,000万円を着服したなどとする業務上横領や特別背任の罪については無罪とし、「現金は同社に帰属する」と指摘し、使い道は被告の裁量に委ねられていたとしています。
  • 報道(2021年1月26日付ロイター)によれば、イングランド銀行(英中央銀行)のベイリー総裁は、世界経済フォーラム主催のオンライン会議で、長期にわたり決済手段として機能し得る構造を持つ暗号資産は存在しないとの見方を示しています。報道によれば、(英中銀もまたCBDCの発行の実現可能性を検討しており、最近のビットコインの高騰、乱高下といったボラティリティの高さを念頭に)「デザイン、ガバナンス、取り決めにおいて永続的なデジタル通貨とも呼ぶべき領域に到達したかと言えば、正直、まだだと思う」、「人々が、安定した価値を持つ決済手段が使われるという安心感を持てるかという問題は、結局、銀行と法定通貨を結び付けており、法定通貨は国家と関係がある」、「デジタル通貨での取引における適切なプライバシーの基準について盛んな議論が行われる可能性が高いとし、プライバシーの問題はデジタル通貨発行での課題として過小評価されているかもしれない」と語ったということです。
  • マネーパートナーズグループは、暗号資産交換業を手掛ける連結子会社のコイネージが、暗号資産交換業から撤退すると発表しています。3月末で事業を廃止する予定だということです。同社のリリースによれば、「当該連結子会社では、2020年7月27日の開業以来、暗号資産の現物販売所としての事業を行ってまいりました。しかしながら、暗号資産交換業の登録事業者が増加し競争が激化する中、計画していた顧客獲得、収益を大きく下回る状況が継続しており、将来的にも当該事業の業績の改善を図ることは困難であると判断し、当社連結子会社の株式会社マネーパートナーズへの経営資源の選択と集中を目的として、当該連結子会社による当該事業からの撤退を決定いたしました」ということです。
  • 暗号資産取引所の米コインベースは、資金調達を伴わない直接上場(ダイレクトリスティング)により株式を公開するとブログで発表しています。報道によれば、直接上場では新規株式公開(IPO)のように新規株式を発行せず、既存株主は上場後に保有株の売却を一定期間禁じられるロックアップ期間に縛られなくなるほか、上場直後の取引でボラティリティが高まる可能性があるとされます。コインベースは昨年12月、米証券取引委員会(SEC)に非公開で株式公開を申請したと発表しています。なお、公開すれば、主要な米暗号資産取引所として初の上場となるといいます。
(8)-2 IRカジノ/依存症を巡る動向

横浜市は、カジノを含む統合型リゾート(IR)の誘致を目指し、事業者の公募(RFP)を始めました。公表された実施方針に基づき、IR事業者を募集することになります。今年2~5月に参加資格審査書類、6月に提案審査書類を事業者から受け付けるスケジュールとなっており、有識者で構成する「事業者選定等委員会」の議論を経て夏ごろに事業者を選定、秋から冬に公聴会を実施し、神奈川県などの同意も得ながら、国への申請に必要な区域整備計画を事業者と定める予定です。

▼横浜市 横浜特定複合観光施設設置運営事業 募集要項 【修正版:令和3年(2021年)2月】

本募集要項から、「市の基本コンセプト」については、まず、「「横浜IR」では、世界水準のMICE施設、ホテル、エンターテイメントや最先端のテクノロジー(技術)を駆使した未来の街のショーケースを、これまで築き上げてきた横浜都心臨海部の街の魅力や資源と一体的に整備し、融合していくことで、相乗効果を最大限に発揮するとともに、新たな魅力・資源をハイブリッド(混成)に創造し、横浜の観光・経済にイノベーション(革新)をもたらしていく。 そして、横浜都心臨海部がこれからも、横浜市民の憩いの場であるとともに、横浜が世界から選ばれる「デスティネーション(目的地)」となることを目指す」と示されています。そのうえで、コンセプトを実現する方向性は、次のとおりとなっています。

【方向性1:世界最高水準のIRを実現】

ビジネスからレジャーまで、大人から子どもまで、外国人でも日本人でも、幅広い客層が楽しめる非日常的で印象的な空間を有する都市型リゾートを目指し、世界の人々が日本に行ってみよう!日本に行くなら横浜に行ってみよう!と思う、世界最高水準のIRを実現する。

また、周辺地域と一体的に観光振興を推進するとともに、「横浜IR」から市内・県内はもとより日本各地の魅力を発信し、送客することができる日本のゲートウェイ(玄関口)を目指す。

【方向性2:都心臨海部との融合】

横浜の都心臨海部には、開港以来の歴史や文化、美しい港の風景や水際を身近に感じられる都市空間など、これまでのまちづくりで築かれてきた豊富な魅力や資源がある。 最先端のテクノロジー(技術)を駆使したスマートシティ、環境、防災、ユニバーサルデザイン等「未来の街のショーケース」として「横浜IR」を、都心臨海部の既存の街と一体的に整備し、21 世紀を象徴するような新しい横浜の都市デザイン・景観形成を実現するとともに、街の魅力や資源と融合していく。

もって、日本における新たな開港の地として世界各国の人々を迎え入れ、もてなす、世界から選ばれるデスティネーション(目的地)を実現する。

【方向性3:オール横浜で観光・経済にイノベーションを】

「横浜IR」と株式会社横浜国際平和会議場(以下「パシフィコ横浜」という。)、公益財団法人横浜観光コンベンションビューロー(以下「YCVB」という。)、観光関連 事業者、市等とのコラボレーションにより、オール横浜で観光MICE推進体制を構築し、国際観光・MICE都市、文化芸術創造都市として、横浜の新たな魅力・資源を創造するとともに、その相乗効果により、横浜の観光・経済にイノベーション(革新)をもたらし、横浜を世界から選ばれるデスティネーション(目的地)へと導く。

また、その効果を都心臨海部はもとより、横浜市域全体、さらには日本各地に拡げていく。

【方向性4:安全・安心対策の横浜モデルの構築】

IRには、構成する施設の一つであるカジノに起因する治安や依存症などの市民の懸念や不安がある。

これらに対し、入場回数制限、自己・家族による入場制限、広告規制、徹底した背面調査など、世界最高水準といわれるIR整備法に基づく対策に加え、警察と連携した防犯体制の強化、訓練された従業員による巡回や声掛け、ファミリー層等の主動線とは分離されたカジノ施設の適正な配置計画やデザインなど、カジノ施設の設置及び運営に伴う有害な影響の排除に徹底して取り組む。

併せて、防災・減災対策の充実により、自然災害に対して防災性の高いエリアを実現するとともに、新型コロナウイルス・新型インフルエンザなどの感染症対策その他の健康・衛生の確保のための取組を適切に講じ、誰もが安心して「横浜IR」に訪れられるよう、 「安全・安心対策の横浜モデル」を構築する。

なお、募集要項に関する質問に関する回答も公表されています。

▼横浜市 募集要項に関する質問への回答(参加資格要件に関するもの等)

このうち、「暴力団排除に関する誓約書」について、「建設会社が誓約する場合、施工時の孫請け以下の連業者が抵触した場合、当該連業者に対して本誓約書3を履行すればよいのでしょうか。」という質問に対し、「請負人が、本事業に関してご質問の「孫請け」の事業者と契約し、当該「孫請け」の事業者が、誓約書3項に該当することが判明した場合、請負人と「孫請け」の事業者との契約を解除するため必要な措置を講じる必要があります。」と回答されています。サプライチェーンからの暴排については、本来、「孫請け」については、「元請」あるいは「下請」の事業者が厳格なチェックを行ったうえで契約を締結することが求められており、サプライチェーンの中に暴力団関係者が存在してはならないといえますが、実務上は「判明したら速やかに解除する」という対応となることはやむを得ないものと考えられます。「誓約書」の内容も「回答」内容も、「契約を解除するため必要な措置を講じる」「講じる必要がある」という表記にとどまっている点は気になります(通常の暴排実務であればそれでもよいのですが、IRカジノ事業が「世界最高水準の廉潔性」を目指している以上、厳格な暴排の取組みがマストであり、本来であれば、「速やかに関係を解消する」とすべきだからです)。なお、「暴力団排除に関する誓約書」の内容は、以下のとおりです。

当社は、横浜特定複合観光施設設置運営事業の公募への参加に当たり、下記事項について誓約します。

この誓約が虚偽であり、又はこの誓約に反したことにより、当方が不利益を被ることとなっても、異議は一切申し立てません。

  1. 暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律(平成3年法律第77号)第32条第1項第3号及び第4号に掲げる者、横浜市暴力団排除条例(平成23年条例第51号)第2条第2号に規定する暴力団、同条第5号に規定する暴力団経営支配法人等、又は、同条例第7条に規定する暴力団員等と密接な関係を有すると認められる者のいずれにも該当しません。また、神奈川県暴力団排除条例(平成22年条例第75号)第23条第1項又は第2項に違反している事実はありません。
  2. 本誓約書1のいずれかに該当する者を委託、請負又は本事業に関して締結する全ての契約の相手方としません。
  3. 受託者等(受託者、請負人及び自己、受託者又は請負人が本事業に関して個別に締結する場合の当該契約の相手方をいう。)が本誓約書1のいずれかに該当する者であることが判明したときは、当該契約を解除するため必要な措置を講じます。
  4. 本誓約書1のいずれかに該当する者による不当介入を受けた場合、又は受託者等が本誓約書 1のいずれかに該当する者による不当介入を受けたことを知った場合は、警察へ通報及び捜査上必要な協力を行うとともに、横浜市(以下「市」といいます。)へ速やかに報告を行います。
  5. 本誓約書1に反しないことを確認するため、別紙の通り当社等の役員名簿を提出し、市が本誓約書及び当該名簿に含まれる個人情報を警察及び民間の調査会社に提供することについて同意します。また、別紙に記載された全ての役員等に同趣旨を説明し、同意を得ています。

※ 応募企業又は応募グループ構成員は、誓約事項を確認の上、代表者が記名押印し、提出すること。

なお、和歌山県については、2業者から事業計画の提出を受けたと発表しています。

▼和歌山県 「和歌山県特定複合観光施設設置運営事業」の事業者公募における提案審査書類等の提出者について

今後、弁護士らでつくる「事業者選定委員会」による審査などを経て、今春ごろに県が業者を選定する見込みです。また、今後、「区域整備計画の認定申請」が2022年4月28日まで、IR開業を2026年春頃とのスケジュールも公表されています。なお、事業計画を提出したのは資格審査を通過していた、「クレアベストニームベンチャーズ」と「サンシティグループホールディングスジャパン」となります。報道によれば、県の担当者は「国の基本方針の公表が遅れたり、投資環境が悪化したりする中、2業者から提出があったことをうれしく思う」と話しています。

本コラムで動向を追っているカジノを含む統合型リゾート施設(IR)事業をめぐる汚職に絡む証人買収事件で、衆院議員、秋元司被告=収賄罪などで起訴=に対する贈賄罪に問われた中国企業「500ドットコム」の自称元副社長の被告に対し、東京地裁は、懲役2年、執行猶予3年(求刑・懲役2年)の判決を言い渡しています。報道によれば、弁護側は、被告はドットコム社側と同社元顧問の紺野被告らとの間で通訳や連絡役を担っていたに過ぎないとして、罰金刑が相当と主張していたところ、裁判長は「IR事業について社会の信頼を大きく損なった」と指摘、被告が行った連絡調整は事件の核心部分を含んでいるとし、ドットコム社から年1,000万円の報酬を得る契約を結んでいたことも踏まえて「主体的かつ積極的に重要な役割を果たした」と認定しています。さらに、賄賂の提供については「ぜいを尽くした露骨な接待に終始し、至れり尽くせりの特別待遇を行った。強い非難に値する」と述べたということです。なお、本事件において、当時IR担当の内閣府副大臣で、収賄罪に問われた秋元議員については、無罪を主張する見通しではあるものの、裁判は始まっていません。すでに報じられているとおり、秋元議員は、保釈後に、贈賄側にうその証言を依頼した組織犯罪処罰法違反(証人買収)罪でも起訴されています。なお、前回の本コラム(暴排トピックス2021年1月号)で紹介した「特定複合観光施設区域整備推進本部におけるIR事業者等との接触のあり方に関するルール」については、「事業者との面談は庁舎内で複数の職員が対応」「面談する場合は事前に日時や事業者名を上司に報告し、面談内容も事後に報告」「面談の記録を作成し、一定期間保存」などの7項目が示されていますが、2021年1月16日付毎日新聞では、その「抜け穴」について指摘しています。とりわけ、基本事項では議員は接触ルールの対象にならなかった点は問題で、「事業者は役所の人間だけでなく、議員に接触してくることも想定される。その議員が役所の職員に圧力をかけてくる可能性もある」との自治体関係者の指摘や、「IRは利権が大きく絡む新規事業。業者はできることはすべてやって食い込もうとしてくる。もっと広く制限をかけるべきだ」と識者が指摘している点は正に正鵠を射るもので見直しが必要ではないかと思います。

日本型IRは「世界最高水準の厳格な規制」(世界一の清廉性/廉潔性)を掲げています。今回の一連の事件は国会議員が関与した贈収賄事件という最悪の事態を招いたという点で問題の根は深く、本件を踏まえてIR基本方針の改正が図られ、「厳格な接触ルール」を定めて「IR事業者の廉潔性確保」に「全般的なコンプライアンス確保」が求められることとなりました。IR事業(とりわけカジノ事業)は、そもそも社会から相当厳しい目で見られているところ、今回の事件で「世界一の廉潔性」はやはり画餅ではないかと冷笑されている事実を関係者はあらためて自覚し、それでもなお、自らを厳しく律しながら「世界一の廉潔性」を目指していくべきだと思います。

さて、IRカジノに向けられる社会の目線をさらに悪くするような事案がまた発生しています。海外のカジノに客を送って報酬を得るジャンケット業者「ナインアンドピクチャーズ」の前社長が、同社の株式上場話を資金提供者らに持ちかけていたことなどが明らかになっています。報道によれば、前社長はカジノ事業に絡んで4億円超の資金を借り入れるなどしたが、返済できずに2019年9月に自己破産を申し立てているほか、バカラ賭博で借入金を使い込んだ疑いや多額の使途不明金があることも判明するなどしています。なお、同社は日本初のジャンケット業者ですが、ジャンケット業者とは、IRカジノに富裕層を送り込む仲介業者のような存在で、収益増を図るカジノ側にとって重要な存在ではあるものの、海外ではマネー・ローンダリングなど不正の温床になるとして規制が強められていることもあり、日本型IRにおいては禁止されています。

興味深い視点として、「カジノとデジタル通貨」の関係があり、報道(2021年2月6日付ロイター)によれば、「デジタルコインによって、マカオの華やかさに陰りが出る可能性がある。マカオ特別行政区では、モバイル決済額が2020年中に5倍に増大した。また、中国は新たなデジタル通貨をこの地域で実験したいと考えている。デジタル通貨が拡大すれば、規制当局の「監視」も楽になる。ギャンブル愛好家やカジノの一部が、抵抗を感じている理由もそこにある。中国人民銀行は「デジタル人民元」への取り組みを進めている。昨年8月、中国商務省は旧ポルトガル植民地であるマカオにおいて追跡可能な新通貨であるデジタル人民元の実験を行うと発表した。デジタルコインがカジノで利用できるようになれば、透明性の向上により、ギャンブルの中心地であるマカオでも、当局が資本の移動を追跡し、腐敗対策の捜査を進めやすくなる」と指摘しています。確かに、AML/CFTの観点からは、デジタル通貨の追跡可能性の高さはとても有効ですが、そもそも富裕層の資金の流れの不透明さや中国の汚職関連がカジノにつぎ込まれている実態をふまえれば、「カジノとデジタル通貨」の関係性がどうなっていくのかは、今後のカジノのあり方を大きく左右していくことになりそうです。なお、同記事においては、「幸いにも、小口のカジノ客を頼みにするには良い流れが来ている。マカオにとって最も収益性の高い顧客は、もはや高額のギャンブラーではない。2019年末には、カジノの売上高・純利益の双方において、史上初めて、マスマーケット、つまり小口の一般客の貢献度が高額ギャンブラーを上回った。あまり派手ではない顧客に賭ける方が、むしろ配当は高くなる可能性もある」とも指摘されています。富裕層頼みからマスマーケットへ、デジタル通貨がその流れをさらに推し進める可能性が高いようです。

(8)-3 犯罪統計資料
▼警察庁 犯罪統計資料(令和2年1~12月)【暫定値】

前述した「令和2年の犯罪情勢」と重複しますが、令和2年1~12月の刑法犯の総数は、認知件数は614,303件(前年同期748,559件、前年同期比▲17.9%)、検挙件数は279,222件(294,206件、▲5.1%)、検挙率は45.5%(39.3%、+6.2P)となり、コロナ禍により認知件数が大きく減少したことが特徴です。犯罪類型別では、刑法犯全体の7割以上を占める窃盗犯の認知件数は417,316件(532,565件、▲21.6%)、検挙件数は170,702件(180,897件、▲5.6%)、検挙率は40.9%(34.0%、+6.9P)であり、「認知件数の減少」と「検挙率の上昇」という刑法犯全体の傾向を上回り、全体をけん引していることがうかがわれます(なお、令和元年における検挙率は34.0%でしたので、さらに上昇していることが分かります)。うち万引きの認知件数は87,278件(93,812件、▲7.0%)、検挙件数は62,613件(65,814件、▲4.9%)、検挙率は71.7%(70.2%、1.5P)であり、認知件数が刑法犯・窃盗犯ほどには減少していない点が注目されます。また、検挙率が他の類型よりは高い(つまり、万引きは「つかまる」ものだということ)一方、一時期、検挙率の低下傾向が続いていましたが、ここ最近はプラスに転じている点は心強いといえます。また、知能犯の認知件数は34,110件(36,031件、▲5.3%)、検挙件数は18,164件(19,096件、▲4.9%)、検挙率は53.3%(53.0%、+0.3P)、そのうち詐欺の認知件数は30,493件(36,031件、▲5.3%)、検挙件数は15,275件(15,902件、▲3.9%)、検挙率は50.1%(49.4%、+0.7P)と、とりわけ刑法犯全体の減少幅より小さく、コロナ禍においてもある程度詐欺が活発化していたこと、一方で検挙率が高まっている点が注目されます(なお、令和元年は49.4%であり、ここにきてようやく昨年と同じ水準に回復したことになります)。

また、令和2年1月~12月の特別法犯総数について、検挙件数は72,947件(73,034件、▲0.1%)、検挙人員は61,383人(61,814人、▲0.7%)となっており、令和元年においては、検挙件数が前年同期比でプラスとマイナスが交互し、横ばいの状況が続きましたが、ここ最近は減少傾向が続いています(とはいえ、ほぼ横ばい・高止まりといってもよい状況です)。犯罪類型別では、入管法違反の検挙件数は6,846件(6,241件、+9.7%)、検挙人員は5,015人(4,735人、+5.9%)、ストーカー規制法違反の検挙件数は1,003件(882件、+13.7%)、検挙人員は811人(728人、+11.4%)、犯罪収益移転防止法違反の検挙件数は2,639件(2,577件、+2.4%)、検挙人員は2,136人(2,144人、▲0.4%)、不正アクセス禁止法違反の検挙件数は609件(816件、▲25.4%)、検挙人員は141人(145人、▲2.8%)、不正競争防止法違反の検挙件数は58件(68件、▲14.7%)、検挙人員は69人(63人、+9.5%)、銃刀法違反の検挙件数は5,459件(5,469件、▲0.2%)、検挙人員は4,821人(4,818人、+0.1%)などとなっており、入管法違反とストーカー規制法違反、犯罪収益移転防止法違反は増加したものの、不正アクセス禁止法違反や不正競争防止法違反が大きく減少している点が注目されます(不正アクセス事案は体感的にまだまだ減っていないと思われているだけに数字上は意外な結果となっています。引き続き注視が必要な状況だといえます)。また、薬物関係では、麻薬等取締法違反の検挙件数は1,053件(915件、+15.1%)、検挙人員は547人(435人、+25.7%)、大麻取締法違反の検挙件数は5,872件(5,306件、+10.7%)、検挙人員は4,908人(4,221人、+16.3%)、覚せい剤取締法違反の検挙件数は11,830件(11,648件、+1.6%)、検挙人員は8,252人(8,283人、▲0.4%)などとなっており、大麻事犯の検挙が、コロナ禍で刑法犯・特別法犯全体が減少傾向にあるにもかかわらず、令和元年から継続して増加し続けていること、さらに、覚せい剤事犯については、減少傾向が続いていたところ、検挙件数・検挙人員が横ばい、さらには微増に転じていることから、薬物が確実に蔓延していることを感じさせる状況です(依存性の高さから需要が大きく減少することは考えにくく、外出自粛の状況下でもデリバリー手法が変化している可能性がうかがえます。なお、参考までに、令和元年における覚せい剤取締法違反については、検挙件数は11,648件(13,850件、▲15.9%)、検挙件数は8,283人(9,652人、▲14.2%)でしたので、減少傾向が下げ止まり、増加に転じている状況であるといえます)。

なお、来日外国人による重要犯罪・重要窃盗犯の国籍別検挙人員の総数553人(482人、14.7%)、ベトナム115人(77人、+49.4%)、中国89人(98人、▲9.2%)、ブラジル55人(47人、+17.0%)、韓国・朝鮮27人(32人、▲15.6%)、フィリピン25人(32人、▲21.9%)、インド17人(9人、+88.9%)、スリランカ14人(19人、▲26.3%)、パキスタン11人(9人、+22.2%)などとなっており、昨年から大きな傾向の変化はありません。

暴力団犯罪(刑法犯)総数については、検挙件数は13,155件(18,640件、▲29.4%)、検挙人員は7,517人(8,445人、▲11.0%)となっており、特定抗争指定やコロナ禍の影響からか、刑法犯全体の傾向と比較しても検挙件数・検挙人員ともに大きく減少していること、とりわけ検挙件数の激減ぶりは特筆すべき状況となっていること、とはいえ徐々に前年同期比の減少幅が縮小していることなどが指摘できます(なお、令和元年は、検挙件数は18,640件(16,681件、▲0.2%)、検挙人員は8,445人(9,825人、▲14.0%)でしたので、基礎疾患を抱え高齢化が顕著に進行している暴力団員のコロナ禍の行動様式として、検挙されない(検挙されにくい)活動実態にあったといえます)。また、犯罪類型別では、暴行の検挙件数は850件(894件、▲4.9%)、検挙人員は828人(866人、▲4.4%)、傷害の検挙件数は1,360件(1,527件、▲10.9%)、検挙人員は1,625人(1,823人、▲10.9%)、脅迫の検挙件数は446件(414件、+7.7%)、検挙人員は414人(393人、+5.3%)、恐喝の検挙件数は431件(491件、▲12.2%)、検挙人員は575人(636人、▲9.6%)、窃盗の検挙件数は6,639件(10,748件、▲38.2%)、検挙人員は1,151人(1,434人、▲19.7%)、詐欺の検挙件数は1,540件(2,327件、▲33.8%)、検挙人員は1,247人(1,448人、▲13.9%)、賭博の検挙件数は62件(142件、▲56.3%)、検挙人員は225人(189人、+19.0%)などとなっており、暴行や傷害、脅迫、恐喝事犯の減少が続く一方、これまで増加傾向にあった窃盗と詐欺が一転して大きく減少している点は注目されます(さらに、暴行等の減少幅をも大きく上回る減少幅となっており、特定抗争指定やコロナ禍の影響がまさにこの部分に表れているものとも考えられます)。

また、暴力団犯罪(特別法犯)の総数については、検挙件数は7,766件(8,121件、▲4.4%)、検挙人員は5,640人(5,836人、▲3.4%)となっており、こちらも大きく減少傾向を継続している点が特徴的だといえます(特別法犯全体の傾向より減少傾向にあるもおの、刑法犯ほどの激減となっていない点も注目されます)。うち暴力団排除条例違反の検挙件数は52件(23件、+126.1%)、検挙人員は121人(45人、+168.9%)、麻薬等取締法違反の検挙件数は177件(182件、▲2.7%)、検挙人員は58人(56人、+3.6%)、大麻取締法違反の検挙件数は1,097件(1,129件、▲2.8%)、検挙人員は730人(762人、▲4.2%)、覚せい剤取締法違反の検挙件数は5,068件(5,274件、▲3.9%)、検挙人員は3,502人(3,593人、▲2.5%)などとなっており、とりわけ暴排条例違反の摘発が顕著に増加している点が注目されます(全国で進む暴排条例の改正により、「暴力団排除特別強化地域」内におけるみかじめ料の授受等の摘発が強化・厳格化されている成果を示すものといえます)。また、令和元年の傾向とやや異なり、大麻取締法違反の検挙件数・検挙人員も大きく減少に転じている点が注目されます。一方、覚せい剤取締法違反についても令和元年の傾向とは異なり、ここ最近は減少幅が小幅になってきている点も注目されます。いずれも、新型コロナウイルス感染拡大による外出自粛の影響で対面での販売が減っている可能性を示唆していますが(覚せい剤等は常習性が高いことから需要が極端に減少することは考えにくいこと、さらに対面型からデリバリー型に移行しているとの話もあり)、正確な理由は定かではありません(なお、令和元年においては、大麻取締法違反の検挙件数は1,129件(1,151件、▲1.9%)、検挙人員は762人(744人、+2.4%)、覚せい剤取締法違反の検挙件数は5,274件(6,662件、▲20.8%)、検挙人員は3,593人(4,569人、▲21.4%)でした)。

(9)北朝鮮リスクを巡る動向

先月、5年ぶりに北朝鮮の平壌で開かれた朝鮮労働党大会で、金正恩総書記は、「核戦争抑止力をより強化し、最強の軍事力を育てることに全てを尽くすべきだ」と演説し、原子力潜水艦や極超音速兵器などの最新鋭戦略兵器開発を掲げ、核抑止力をさらに推進していく構えを改めて示しています。また、正恩氏は米国を「最大の主敵」と呼び、(発足前の)バイデン米新政権との対決姿勢を打ち出し、「いかなる形の脅威と不意の事態にも徹底して準備すべきだ」と唱え、対米交渉の長期化も念頭に軍事力の増強を図っていく構えも示しています。さらに、祖父、父親の肩書を慎重に避けていた正恩氏が、かつての決定を覆して由緒ある「総書記」に就いたことに関しては、「最大の栄光と受け止めながらも重い気持ちを禁じ得ない」と表明、「難局を打開して人民生活を安定、向上させるには、経済問題から早急に解決すべきだ」と語り、新たな「国家経済発展5カ年計画」の遂行を訴えています。総書記就任の背景には、北朝鮮を取り巻く厳しい状況があるのは間違いありません。国連安保理制裁、米経済制裁等の長期化、新型コロナ対応、自然災害といった三重苦の苦境の中、当面は国内対応に力を注ぎつつ、核保有国を既成事実化して核軍縮交渉を行うべく、バイデン政権の動きを待つ構えで、伝統的友好国である中ロとの関係を強化し米韓と対決する「新冷戦」志向との指摘もあります。このあたりについては、2021年1月24日付時事通信のコラムに深い洞察が掲載されていますので、以下、一部抜粋しながら、以下に引用します。

正恩氏が言及した最新鋭兵器は、多くがまだ開発初期段階にある。正恩氏自ら、多弾頭ミサイルは研究の最終段階、極超音速ミサイルなどは研究を終え試作への準備段階、原子力潜水艦は設計を終え最終審査段階、無人機や軍事偵察衛星などは設計を終えた段階と説明している。また、既に米本土を射程に収めるICBMを保有している中で、15,000キロのミサイルの軍事的意味は乏しい。ICBM発射や核実験など制裁強化を招く挑発を当面控えることを念頭に、先端兵器を挙げて「言葉」で米国を刺激する意味合いが濃いとみられる。北朝鮮は対米強硬姿勢を示す一方で、党大会開催中に習近平中国共産党総書記(国家主席)と正恩氏の祝電のやりとりを公表し、中国との密接な関係をアピールした。…当面中国に依存するしかない北朝鮮としては、新たな国連安保理制裁決議に至りかねず、朝鮮半島情勢の安定を望む中国に不快感を与えるような行為には踏み切りにくい。また、報道によると、北朝鮮は世界保健機関(WHO)が主導する低所得国向けの共同調達の枠組み「COVAX」や欧州諸国を通じて新型コロナウイルスワクチンの入手を模索しているもようだ。コロナ危機の早期収束は北朝鮮にとって最優先の死活的課題。そのためには、挑発行為で国際社会の非難を浴び、ワクチン入手に不利になるような事態は避けたいだろう。…対米挑発行為を自制する代わりに、南北関係の緊張を高めることで米国の関心を引き寄せるシナリオも取りざたされる。韓国への挑発行為なら国連安保理制裁が強化される可能性は小さく、北朝鮮への融和政策を取る文政権が安保理制裁決議を求めること自体考えにくいためだ。…党大会で改正された党規約では、…新たに「強力な国防力で根源的な軍事的脅威を制圧し、朝鮮半島の安定と平和的環境を守る」「これは強力な国防力に依拠し、朝鮮半島の永遠の平和的安定を保障し、祖国統一の歴史的偉業を前倒ししようとするわが党の確固不動の立場の反映である」と記された。これは、「民族」に依拠した南北の特殊な関係ではなく、国家と国家の関係として、核抑止力を中心とした軍事的優位の下で南北の共存を図る路線を打ち出したことを意味する。…文政権は対北朝鮮政策の抜本的な見直しを迫られている。

上記の方向性を念頭に、事実を確認すると、まず2020年の北朝鮮の対中貿易額が前年比約80.7%減の5億3,900万ドルに落ち込んだことが、中国税関の統計で分かったと報じられています。北朝鮮が新型コロナウイルス感染抑制のため、厳格なロックダウン(都市封鎖)を実施していることが響いた形です。中国は北朝鮮にとって最大の貿易相手国で、貿易額の約90%を占めていますが、貿易額減少の理由は示されていないものの、昨年1月、中国で新型コロナ感染が確認されたことを理由に両国の国境を閉鎖して以降、一段と孤立していることが浮き彫りとなった形となりました。従来から感染者は「ゼロ」と主張しており、脆弱な医療態勢を見据えてか、水際対策を緩める兆しはみられず、朝鮮労働党機関紙・労働新聞は「領土外でひしめく悪性ウイルスは我々を狙う。非常防疫戦を命がけで展開すべきだ」と伝えています。このような自主独立を強調する「チュチェ(主体)思想」は、70年余にわたり人民を外の世界から隔離して北朝鮮を支配してきた金王朝の指導原理となっていますが、新型コロナウイルスという未曽有の公衆衛生上の脅威を克服するために国際援助の申し出を受け入れるかどうかの決断を迫られています(直近では、北朝鮮は6月までに英アストラゼネカ製の新型コロナウイルスワクチン約200万回分を受け取る見込みと報じられています。COVAXは新型コロナワクチンの公平な分配を目指す枠組みで、インドのセラム・インスティチュート・オブ・インディアが生産したワクチン199万2,000回分をCOVAXが上半期中に北朝鮮に供給するということです)。

一方、米バイデン新政権の北朝鮮に対するスタンスが少しずつ明確になってきています。まず、バイデン大統領から国務長官に指名されたブリンケン氏は、新政権では、北朝鮮を核兵器を巡る交渉の席につかせるための圧力強化に向け、同国へのアプローチを全面的に見直す意向だと明らかにしました。北朝鮮政策では核問題の解決を図るとともに、安全保障面だけではなく人道面にも目配りしていきたいとも述べています。さらにサキ大統領報道官は、北朝鮮の核・ミサイル開発について「国際社会の平和と安全保障上の深刻な脅威となっている」とし、「米国市民と同盟国の安全を保つための新たな戦略を採用する」と述べています。新たな戦略については「現在の圧力策や将来的な外交努力の可能性など、日本や韓国などの同盟国と緊密に協議しながら対北朝鮮政策の見直しを進めていく」として、具体的な中身には言及していません。また、米政府の国家情報会議(NIC)の北朝鮮担当情報官、シドニー・サイラー氏は、北朝鮮は外交を、核兵器開発を前進させるための手段としか考えていないとの見方を示しています。「外交に携わるときは常に核開発を前進させる狙いがあった。核開発を脱却する方法を見いだすためではない。戦術の不明確さによってわれわれの北朝鮮に関する戦略の明確さが阻害されないよう訴えたい」と強調しています。

中国の習近平国家主席は、韓国の文大統領と電話で約40分間協議し、北朝鮮情勢を巡り「南北と米朝の対話を(それぞれ)支持する。北朝鮮は対話の扉を閉ざしていない」との認識を示したということです。さらに、両首脳は習氏の早期訪韓を目指す方針も確認、習氏は「条件が許せば速やかに訪問して会いたい。外交当局間の密接な疎通を願う」と述べたといいます。一方、その会談直後には、韓国の文大統領は、2018年の南北首脳会談直後に、韓国産業通商資源省が、北朝鮮への原発支援案をまとめた文書を作成していたことが発覚し、窮地に追い込まれています。文政権が国内で脱原発政策を進めていることもあり、野党は強く批判、具体的な支援案として、(1)1994年の米朝枠組み合意で、核開発凍結の見返りに軽水炉型原発を提供する予定地だった北朝鮮東部・咸鏡南道に原発を建設、(2)北朝鮮との軍事境界線を挟んで設けられた非武装地帯(DMZ)に原発を建設、(3)韓国内に新たな原発を建設し、電力を北朝鮮に送電の3案を併記したもので、米国や日本など関係国と進めるとして、課題に使用済み核燃料の処分などが挙げられていたということです。

北朝鮮が昨年、韓国の金融や社会インフラなどの公共分野で1日平均約150万件のサイバー攻撃を仕掛けた疑いがあることがわかったと報じられています(2021年2月1日付読売新聞)。報道によれば、4年前の1日平均41万件に比べて急増、手口の約4割はハッキングで、金融機関を狙ったものや暗号試算を窃取するといった金銭窃取を目的とする攻撃が目立ったということであり、韓国では、北朝鮮が新型コロナウイルス対策の国境封鎖や長引く経済制裁で外貨不足が深刻化し、サイバー攻撃で補おうとしているとの見方が出ているということです。また、サイバー攻撃を活発化させていると見られる北朝鮮では、サイバー部隊の養成システムが確立されているといい、その点について、同記事から一部抜粋して引用します。

「1,000人中10~15人の秀才のうち、数人がサイバー部隊に引き抜かれる」。…この男性や北朝鮮のサイバー部隊の養成に詳しい関係者によると、北朝鮮では、各地域で最も優秀な高校に通う知能指数(IQ)の高い子どもを17歳で選抜し、IT教育を詰め込む。その中でも優秀な学生を平壌近郊のIT重点大学に入学させる。大学で2~3年学ばせた後にサイバー部隊に引き抜くという。中国などに留学させてサイバー攻撃を学ばせるケースもある。…大学では数学やプログラミングなど基礎をたたき込まれ、ハッキングなどの攻撃手法は部隊に引き抜かれてから学ぶ。男性はサイバー部隊に入った知人から「目的は知らされず、ひたすらプログラミングを習い、行き着いたのがビットコインのハッキングだった」と聞いた。ハッキングに成功すると、家族に報奨や米などの食糧の配給も行われた。部隊では自由な生活はなく、ひたすら指示されたことを行ったという。北朝鮮当局は家庭環境などで思想的に問題がないかも調べてサイバー部隊を選抜する。男性は「忠誠心が強い秀才たちで組織されている」と話す。…朝鮮では1990年代に金正日総書記(当時)の指示で部隊が組織された。資源や資金がない北朝鮮にとって、サイバー戦争は戦力差を挽回できるためだ。金正恩朝鮮労働党総書記は更に強化しているという。2009年頃までは偵察総局傘下に一つの部隊が置かれていただけだったが、現在は金銭窃取やインフラ破壊など目的ごとに部隊が細分化された模様だ。金興光氏は要員は計5,000人程度とみる。17年に世界中の銀行や企業に身代金を要求したサイバー攻撃への関与が指摘される「ラザルス」や、最近活発化している「ビーグルボーイズ」などのハッカー集団は各部隊の指揮下で活動している。金興光氏は世界的なコロナ禍が「北朝鮮ハッカーにとって最高の環境となった」と話す。コロナ関連の「緊急情報」などを装うことでハッキングすることが容易なためだ。米国の経済制裁などの打撃も重なり、北朝鮮はサイバー攻撃を活発化させ続けるとみられる

その他、北朝鮮を巡る最近の報道から、いくつか紹介します。

  • バチェレ国連人権高等弁務官は、北朝鮮の人権状況に関する年次報告書を公表、拷問や強制労働、日本人ら外国人の拉致など「人道に対する罪が続いている」と結論付け、北朝鮮に「深刻な人権侵害の存在を認め、即座に停止」するよう求めています。報道によれば、報告書は、拉致被害者の家族が高齢化し、早期解決を求める声が高まっていることにも言及、「被害者家族が生涯にわたって苦しむことを示している」としたほか、「人道に対する罪に時効はない」と強調、2014年の国連調査委員会の報告書と同様に、北朝鮮の犯罪を裁くため、国際刑事裁判所(ICC)への付託や、国連特別法廷の設置も選択肢として検討することを求めています。
  • 北朝鮮の駐クウェート大使代理だった外交官が2019年に亡命し、韓国に入国していたことが分かったと報じられています。妻子も同行しており、元大使代理は「親として、子どもにより良い未来を与えたくて脱北を決心した」と話しているといいます。報道によれば、元大使代理はクウェートの大使館に参事官として勤務、北朝鮮のミサイル発射などに対する2017年の国連安全保障理事会の制裁決議により当時の大使が追放された後、大使代理を務めていたということです。

3.暴排条例等の状況

(1)岡山市暴力団威力利用等禁止条例に基づく逮捕事例

2021年2月2日付山陽新聞によれば、暴力団排除強化地域内で営業する接客業者からみかじめ料を受け取ったとして、岡山中央署が、岡山市暴力団威力利用等禁止条例違反の疑いで、神戸山口組系組員を逮捕したということです。倉敷市のビル内で、同条例が排除強化地域とする岡山市北区柳町で風俗店を経営する男性から、用心棒代名目の「みかじめ料」として現金10万円を受け取った疑いがもたれているということです。なお、報道によれば、「岡山市暴力団威力利用等禁止条例」について、「岡山市中心部の繁華街を排除強化地域に指定。接客業者が暴力団に利益を供与することなども禁じており」とされていますが、残念ながらネット上では内容を確認できませんでした。参考までに、岡山市では、「岡山市暴力団排除基本条例」も別途定められており、こちらはネット上でも公開されています。

▼岡山市暴力団排除基本条例

本条例においては、第9条(暴力団威力利用等の排除)において、「本市は、暴力団の地域からの排除を図るため、市民又は事業者が暴力団の威力を利用する等の社会的害悪をもたらす行為について、必要な規制を行うものとする」と規定されており、「岡山市暴力団威力利用等禁止条例」と連動しているものと推測されます。

(2)暴力団対策法に基づく中止命令(兵庫県)

2021年1月26日付神戸新聞によれば、「暴力団対策法が1992年に施行されて以降、指定暴力団の組員らによる不当要求などに対し、同法に基づき兵庫県公安委員会が出した中止命令が3千件を超えたことが25日、県警暴力団対策課への取材で分かった。命令に対する違反があったのは2005年の1件のみ。ほぼ全ての事案で組員らの要求をやめさせたといい、同課は暴力団への流入を阻止した金額が約30億円に上るとしている」、「年間でみると02年の300件をピークに減少傾向で、近年は2桁で推移する。背景には暴力団排除の意識向上や、組員の減少があると考えられ、「暴力団が中止命令の対象とならない特殊詐欺などに資金源を求めている」とみる捜査員もいる」などと報じられています。

▼暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律

中止命令について、暴力団対策法は、第11条(暴力的要求行為等に対する措置)において、「公安委員会は、指定暴力団員が暴力的要求行為をしており、その相手方の生活の平穏又は業務の遂行の平穏が害されていると認める場合には、当該指定暴力団員に対し、当該暴力的要求行為を中止することを命じ、又は当該暴力的要求行為が中止されることを確保するために必要な事項を命ずることができる」と規定しています。なお、記事にあるとおり、中止命令の対象となる「暴力的要求行為」とは、具体的には第9条に以下の27の行為が列記されており、特殊詐欺は含まれていません。

▼全国暴力追放運動推進センター 暴力団対策法で禁止されている27の行為
  • 口止め料を要求する行為
  • 寄附金・援助金等を要求する行為
  • 下請参入等を要求する行為
  • みかじめ料を要求する行為
  • 用心棒料等を要求する行為
  • 利息制限法に違反する高金利の債権を取り立てる行為
  • 不当な方法で債権を取り立てる行為
  • 借金の免除や借金返済の猶予を要求する行為
  • 不当な貸付け及び手形の割引を要求する行為
  • 不当な金融商品取引を要求する行為
  • 不当な株式の買取り等を要求する行為
  • 不当に預金・貯金の受入を要求する行為
  • 不当な地上げをする行為
  • 土地・家屋の明渡し料等を要求する行為
  • 宅建業者に対し、不当に宅地等の売買・交換等を要求する行為
  • 宅建業者以外の者に対し、宅地等の売買・交換等を要求する行為
  • 交通事故等の示談に介入し、金品等を要求する行為
  • 建設業者に対し、不当に建設工事を行うことを要求する行為
  • 不当に集会施設等を利用させることを要求する行為
  • 交通事故等の示談に介入し、金品等を要求する行為
  • 因縁を付けて金品等を要求する行為
  • 許認可等をすることを要求する行為
  • 許認可等をしないことを要求する行為
  • 売買等の契約に係る入札に参加させることを要求する行為
  • 売買等の契約に係る入札に参加させないことを要求する行為
  • 人に対し、売買等の契約の入札に一定の価格その他の条件で申込等を要求する行為
  • 売買等の契約の相手方としないこと等を要求する行為
  • 売買等の契約の相手方に対する指導等を要求する行為
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