反社会的勢力対応 関連コラム

生き残るのは誰だ(2)~抗争終結は確実に迫っている。離脱者支援態勢の整備を

2022.10.11

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手を差し伸べる会社員

1.生き残るのは誰だ(2)~抗争終結は確実に迫っている。離脱者支援態勢の整備を

国内最大の指定暴力団六代目山口組が2015年に分裂してから7年、工藤会トップの野村被告に死刑判決が言い渡されて1年が経過しています。抗争終結が六代目山口組優勢のまま最終局面を迎えた矢先、神戸山口組から離脱した池田組と絆會が再度神戸山口組に合流するという「3者連合」が形成されました。ところが、その過程において、神戸山口組はその立役者とでも言うべき大幹部の入江禎副組長(二代目宅見組組長)を絶縁処分としました。さらに、「3者連合」の前には、やはり大幹部の寺岡修若頭(侠友会会長)が井上組長と路線の違いから決裂し、離脱しています。神戸山口組は、「3者連合」と引き換えに2大有力組織を失うこととなりました。正に離合集散を地で行く形ですが、そのような神戸山口組側は、今後も離合集散を繰り返し、その形を変化させながら自然に勢力を衰退させていくのかもしれません(多くの関係者が指摘するように、その理由としては、井上組長のリーダーシップへの懸念や年齢的な問題が挙げられると思います)。一方の六代目山口組も、司忍組長や高山清司若頭の年齢的な問題はあるものの、それがゆえに、現状の優勢な状況を活かして、短期的に終結に持ち込むことを狙っている可能性が否定できません。両陣営の「生き残り」をかけた深謀遠慮の応酬がどのような最終局面を導くのか注目されるところです。一方、特定危険指定暴力団に指定されているとはいえ、工藤会は正に「生き残り」をかけた正念場を迎えています。構成員の減少と高齢化が顕著であり、後継者不足も深刻です。数年前から進出している関東で「生き残り」をかけ半グレとの連携を進めており予断は許されないものの、警察や社会による暴排の包囲網は強化されるばかりで、シノギ(資金獲得活動)は細っていくことが予想されます。福岡県警が取り組んだ頂上作戦では、多くの構成員らが摘発され弱体化を推し進めましたが、真の意味での工藤会の壊滅には離脱者支援の強化が不可欠だといえます。本心では脱退したい組員が多い中、脱退への意志を後推しする力となり、組織を内部から崩壊させるためには、官民挙げた力強い離脱者支援(とりわけ就労支援)が今こそ必要なのです。そして、それは何も工藤会に限った問題ではありません。暴力団の壊滅、暴力団排除には、暴排アウトローの跋扈や再犯を防止するための「受け皿」が必要であり、「離脱者支援」がその最後の重要なピースとなります。暴力団が壊滅した先に「生き残る」のは当然、離脱者なのです。

2022年8月31日付読売新聞の記事「暴力団巡るトラブル懸念」の中で、北九州市が実施したアンケート調査で「離脱者を雇用したくない」とする事業者が7割にも上ると報じられています。以下、抜粋して引用します。

北九州市が昨年11~12月に市内の事業所を対象に実施したアンケートでは、調査に応じた2009社のうち、約7割にあたる151社が、元暴力団員について「雇用したくない」と回答した。「元暴力団員を雇うことに恐怖心がある」と回答。「(雇用することで)犯罪被害に遭う可能性がある」と答えた企業もあった。また、「条件によっては雇用してもよい」とした32社のうち、29社が「警察による本人への指導や財政的支援など、行政の支援が受けられる場合」との条件を示した。こうした意見を踏まえ、「暴力団の壊滅には、離脱した元暴力団員を支える社会の受け皿が必要」とする市は、4月から離脱者を雇用した企業への補助制度を開始。市内の協賛企業が元暴力団員を雇用した場合、企業に対して、業務に必要な資格を取得させるための費用を助成している。県弁護士会で民事介入暴力対策委員長などを務めた堀内恭彦弁護士は「離脱者を支える環境がなければ、再犯に及ぶ可能性もある。更生には企業や社会の理解は欠かせない」と強調。その上で、「行政などは離脱者雇用の成功事例を積み重ね、可能性な範囲で公開して企業の不安を払拭するなどして、理解を広げる粘り強い取組みが求められる」と話している。

前述したとおり、特定抗争指定暴力団の六代目山口組から神戸山口組が分裂、抗争状態となって7年が経過しましたが、この間、六代目山口組による神戸山口組の切り崩しが進む一方、神戸山口組からは任侠団体山口組(現・絆會)が分派、岡山を拠点にした有力組織の池田組も離脱しました。ところが、最近になって神戸山口組と離脱した2団体が再び急接近、六代目山口組に対抗する組織再編の可能性も指摘されるところ、今度は新たに神戸山口組の中核組織である侠友会が離脱し、分裂抗争は混迷の度合いを深めています。侠友会については、寺岡会長が、神戸山口組の若頭として神戸山口組を解散させようと動いたもののうまくいかず、井上組長らとの関係が悪化、8月下旬、神戸山口組から離脱に至ったもので、組長が出した「絶縁状」が確認されているといいます。さらには、その3社連合の立役者とでもいえる宅見組も離脱したといいます。宅見組組長でもある神戸山口組の入江副組長が、井上組長と3社連合を巡って仲たがいをしたことが要因とされます。この辺りについては、週刊誌情報とはなりますが、以下の記事「「高山若頭はひとり勝ちで秘かに笑っている」という、3社連合の立役者、神戸山口組・入江副組長の脱退 神戸側は副組長を説得中」(デイリー新潮 10/3配信)に詳細に解説されていますので、抜粋して引用します。

神戸山口組と池田組が連帯し、そこに池田組と運命を共にする絆會も絡んでの「3社連合」。図らずも山口組分裂からちょうど7年目のタイミングで発生したこの動きは、関係者の注目を大いに集めた。しかしその直後、3社連合の立役者である神戸山口組・入江禎副組長(2代目宅見組組長)が脱退することになった。一連の事態を6代目山口組の高山清司若頭はどう見ているのか。…「井上組長は青木本部長、竹本若頭補佐が供養に赴くことを聞いていないと激昂し、両者を殴打したそうです。入江副組長は香典をポケットマネーから20万円包んでいたということですが、そういったことも含めて井上組長は入江副組長の行動に激怒したと聞いています」3社連合を確固たるものとするためには、“セレモニー”が必須だと捉えていた入江副組長としては井上組長の思考は到底理解できず、呆れるほかなかったとされる。「入江副組長は自ら率いる2代目宅見組傘下に脱退通知を行なっている。一方、神戸側は最高幹部が副組長に“もう一度一緒に”と説得中とのことで、温度差が顕著です。もともと副組長としては、井上組長が信頼していた5代目山健組の中田浩司組長や織田代表が反旗を翻したことなどについて、井上組長のリーダーシップに疑念を抱いていたように感じます。そして最後に背中押したのが今回の供養であり、“井上組長の下ではもう働けない”という思いに至ったということでしょう」その一方で、この動きを注視する6代目山口組についてはこう語る。「高山若頭がひとり勝ちだとほくそ笑んでいると聞きました。現状を単純に見れば、神戸山口組から最高幹部が抜け、さらに古巣とモメているという状況なんですから、抗争なしで敵対組織の弱体化に成功しているわけです。その点で笑いが止まらないでしょうね」

さらに、宅見組の離脱となった経緯については、以下の記事「神戸山口組から入江副組長が脱退、怒り心頭の井上組長が「3派連合」立役者に投げかけた罵声とは?」(デイリー新潮 9/22配信)に詳細に解説されていますので、以下、抜粋して引用します。

入江副組長と池田組の池田孝志組長の関係は良好で、池田組長が神戸山口組を抜けた後も緊密な関係を続けてきたとされる。また、池田組長と織田代表もとても近い間柄で、実際、以前にもこの3派が連合する動きが取り沙汰されたことがあった。神戸山口組内には当時、ナンバー2の寺岡修若頭が在籍しており、「神戸山口組の解散」を唱えていた。「解散反対派」の入江副組長との間には路線対立があったというわけだ。しかし今年8月、その寺岡若頭が神戸山口組を電撃脱退したことで、上記の3派連合が進むことになった。「神戸山口組と池田組が“五分の親戚”、すなわち“対等の連合”という関係を結ぶことになりました。その一方で、池田組と絆會は運命共同体の間柄にあるとされていることから、3派の面々が積極的に交流し、同盟のような結びつきに発展していく可能性を秘めています」ただ、そのためにはそれぞれが超えなければならないハードルが存在した。神戸山口組側が織田代表にヒットマンを放ったことで発生した一件だ。…「そういった経緯がある中で、関係修復は不可能だというのがもっぱらの見方でしたが、今年の事件現場(神戸市長田区)における楠本組員の命日供養に、神戸山口組、池田組からそれぞれ若頭や本部長クラスといった最高幹部が弔問に訪れたのです。自身が狙われ、ボディガードを亡くした織田代表にとっては、この最高幹部らの弔問が今後のために必要な儀式だったのでしょう」…「井上組長はこの供養の場に、神戸山口組の本部長と若頭補佐が手を合わせに行くことについて報告を受けていないと入江副組長をなじったということでした。9月20日のことですね」「これに対して入江副組長は“3派連合を世間にアピールするのには絶好のタイミングであるし、奴ら(本部長と若頭補佐)はええことしたんやないか”と強く突っぱねたと言います」竹垣氏によると、これに怒り心頭の井上組長は以下のようにまくし立てたという。「その抗争で、生命を賭けた人間がいるというのに、それをわかって言うとるんか?身体を賭けて懲役行かなあかん人間はどんな気持ちになるんや。そんなもん、こっちから手を合わせに行ったと聞いたら、自分がやったことは何やったんやってなるやろが!勝手なことしやがって!」入江副組長は呆れ顔で、その場を立ち去ったという。…「つい2週間前まで、とりあえず怨讐を超えて行こうと話を進めて固まったのに、急転直下、その連合を成立させた功労者が抜けることになるとは……。入江副組長は井上組長と池田組長とが面会して握手する場を作っているので、組織を抜ける気はさらさらなかったと思います。さながら夫婦げんかのようで何とも虚しい感じがしますね」今後、入江副組長が率いる2代目宅見組は、神戸山口組を抜けて独立組織として生きていくという。

今回の動きについて、六代目山口組としても驚きをもって捉えられているようですが、これまでの神戸山口組側への対峙の仕方と変わることはないと考えられます。神戸山口組側は組織の立て直しで精一杯であることに加えて、積極的に報復に出ようとする若い衆も少なくなってきていると思われ、これまで同様、六代目山口組側の一方的な襲撃が続くと思われます。ただ、攻撃の対象が3カ所になることで、分裂騒動が長期化することは間違いないところです。

なお、「3社連合」となった神戸山口組の井上組長は「2社連合」を主張しているといい、その辺りの経緯については、週刊誌情報とはなりますが、以下の記事「神戸山口組の井上邦雄組長が「3社ではなく2社連合」を主張する理由、「3社と3派」という2つの呼称が存在するワケ」(デイリー新潮 10/5配信)に詳細に解説されていますので、抜粋して引用します。

神戸山口組と池田組が連帯し、そこに池田組と運命を共にする絆會も絡んでの「3社連合」。ここに来て、その呼称に異を唱える人物が現れた。それは他ならぬ神戸山口組の井上邦雄組長ということのようだが、一体どういうことなのか?…「“神戸山口組は池田組としか連合していない。井上組長と織田代表との間の溝は埋めがたい”ということでした」…「3社と呼ばれていたのは、そのように呼んでもらいたい勢力がいたからです。私はそれを池田組だと見ています。神戸時代、池田組長は井上組長の舎弟だったわけですが、こうやって連合となることで対等の関係になることができる。規模は大きい方がベターだし、池田組と絆會とは密接な関係にあるということで“3社”を喧伝していたのでしょう。3社連合の絵を描いたのも池田組で、先に触れた前谷若頭が主導したはずです」…「井上組長は6代目山口組の高山清司若頭に対する思いと同じくらい、織田代表のことを宿敵と見ているように感じましたね。手のひらを返すようにして新組織を作ったことについて示しがつかないし、許せないというわけです」ところで、3社連合に対して3派連合なる言い方も一時、流布したことがあった。「主に6代目山口組側は3派と言っていたように記憶しています。社よりも派の方が組織として規模が小さい、大したことはないという風に今回の件を示したいという意図が見え隠れしていました」3社連合に3派連合、入江副組長の脱退、2社連合……。ここ1カ月で目まぐるしい動きに驚く他ないが、井上組長自身、「この先はわからない」と見ているようで、まだまだ波乱含みであることは間違いなさそうだ。

その他、暴力団組織を巡る最近の報道から、いくつか紹介します。

  • 岡山市北区の指定暴力団池田組事務所の駐車場で、つるはしで乗用車2台に穴を開けたとして、岡山県警岡山中央署は、器物損壊の疑いで、六代目山口組系組員を逮捕しています。岡山県警は対立抗争の可能性もあるとみて調べています。容疑者は約5分後に署に出頭、現場には柄の長さ約90センチ、頭部の長さ約45センチのつるはしが残されていたといいます。また、池田組の市内にある関連施設に、2022年5月に車が突っ込んだ事件で、対立する六代目山口組系の暴力団員が、壁を壊すなどした罪に問われている裁判が岡山地方裁判所で始まり、被告は起訴された内容を認めています。池田組の岡山市内にある関連施設に、軽自動車で突っ込んで壁を壊したほか、金属バットでガラス2枚をたたき割ったとして、建造物損壊の罪などに問われています。冒頭陳述で検察は「敵対関係にある池田組の関連施設を襲撃しようと考え、コンクリートブロック33個をあらかじめ購入して車の後ろに積み込み、後ろ向きで建物に突っ込んだ」などと指摘しています。池田組は、六代目山口組が対立する神戸山口組の2次団体でしたが、2020年7月に離脱を表明、2021年9月に独立を確認した岡山県公安委員会は2021年11月、暴力団対策法に基づき指定暴力団に指定し、官報で公示しています。池田組が、神戸山口組から離脱したと、県公安委員会が警察庁に報告して9月16日で1年が経過、全国で六代目山口組の分裂をめぐる抗争事件が後を絶たないことから、岡山県内でも警察が警戒を続けているといいます。報道によれば、岡山県内の暴力団の構成員は、10年前にはおよそ330人いたところ、2021年はおよそ150人と2分の1以下になっています。この1年に岡山県内では発砲など重大な事件は発生していませんが、全国では六代目山口組と分裂した暴力団との間で抗争が続いていることから、抗争が激化する可能性もあり、市民が巻き込まれないよう、岡山県内でも警戒を続けるとともに、暴力団の取締りを強化しているといいます。
  • 六代目山口組の分裂から7年が経過し、これまで両組織の本拠地がある関西にとどまらず、各地で互いの襲撃が繰り返されてきました。福岡県内でも2022年8月に抗争事件が発生、その後も両組織を標的とした事件が続き、地域住民は不安を募らせています。福岡県警はエスカレートしないよう、抑止と警戒、摘発を強める方針といいます。直近では、8月1日に、福岡県福津市役所近くの民家の塀に車が突っ込む事件が発生、民家は、神戸山口組系の組事務所で、その場で逮捕された男2人のうち1人は、六代目山口組のトップ篠田建市組長の出身母体「弘道会」傘下組織の組員を名乗り、調べに対し「(相手組織を攻撃して)功績を挙げたかった」と供述したといいます。さらに8月末には、福岡県古賀市の神戸山口組系組長宅の乗用車が燃える不審火があり、さらに、9月2日には、福岡市の六代目山口組系組長で弘道会幹部の自宅車庫にトラックが衝突する事件も発生しています。福岡県警は、8月の事件に対する報復の疑いもあるとみています。神戸山口組の関係先が狙われる事件は今春以降、全国で起きており、6月には神戸市の神戸山口組トップの井上邦雄組長宅に銃弾が撃ち込まれたほか、同じ6月、九州では佐賀市の神戸山口組系組事務所に六代目山口組系組員の運転する車が突っ込み、シャッターの一部を損壊する事件もありました。こうした情勢の背景には2021年秋、神戸山口組の中核組織だった山健組が六代目山口組に復帰し、勢力均衡が六代目山口組側に大きく傾いたことがあるといわれています。
  • 対立抗争を続ける「特定抗争指定暴力団」の六代目山口組と神戸山口組について、兵庫や大阪など9府県の公安委員会は、依然として対立抗争が続いているとして、10月7日からさらに3か月間、指定を延長しています。今回の延長で、県内での指定期間は3年となりました。六代目山口組と分裂して対立抗争を続ける神戸山口組の取締りを強化するため、兵庫や大阪などの公安委員会は、2019年1月、2つの組織を「特定抗争指定暴力団」に指定し、3か月ごとの更新を繰り返してきました。兵庫をはじめ大阪や京都など、全国9つの府県の公安委員会は、依然として抗争状態が続いていることから、10月7日から指定をさらに3か月間、延長しています。兵庫での更新は11回目で、効力は203年1月6日までで、兵庫県内での指定期間は3年になります。一方で、2022年6月には、神戸市中央区花隈町にある六代目山口組の2次団体「山健組」の事務所が裁判所から使用禁止の仮処分を命じられたほか、9月には、尼崎市の六代目山口組傘下の事務所が閉鎖され、市内からすべての暴力団事務所がなくなったと発表しています。しかし、警察は、暴力団側が拠点を変えて活動している可能性もあるとみて、取締りや警戒を続けることにしています。なお、尼崎市については、引き続き両組の活動を厳しく制限する「警戒区域」に定められています。兵庫県内ではほかに神戸市、姫路市、南あわじ市が指定されています。兵庫県警暴力団対策課は尼崎市が警戒区域となったことについて「事務所の存在はあくまで根拠の一つ。総合的に判断して指定を継続した」と説明しています。
  • 1992年3月に暴力団対策法が施行されてから30年が経過し、徳島県内の暴力団の組員数(準構成員含む)が800人から50人へと16分の1に減ったことが徳島県警のまとめで分かったといいます。報道によれば、組織の数は27団体から2団体になったといい、徳島県警は暴力団対策法や暴力団排除条例(暴排条例)の施行で規制が厳しくなったためとみています。一方、元々の暴力団関係者が身元を隠して活動している可能性はあり、県警などは県民に注意を呼び掛けています。
  • 福岡地検は、暴力団組員の宿泊を禁じている沖縄県内のホテルに身分を隠して泊まったとして、詐欺の疑いで再逮捕された道仁会の小林哲治会長ら男女5人を不起訴処分としています。地検は理由を「起訴に足りる証拠がない」と説明しています。2021年10月、小林会長らがホテルに宿泊することを隠して宿泊カードに偽名を記すなどしたとして、福岡県警が2022年9月、再逮捕していたもので、2021年6月、同様に福岡県内のホテルに泊まったとする詐欺容疑についても、地検は小林会長ら3人を不起訴処分としています。
  • 新型コロナウイルスの感染拡大で収入が減った露天商組合の幹部から、みかじめ料を脅し取ったとして、愛知県警捜査4課は、恐喝容疑などで、六代目山口組系組長の薄葉容疑者ら6人を逮捕しています。同容疑者は山口組幹部で「直参」と呼ばれる2次団体「平井一家」のトップで、主な資金源は露天商組合からの上納金で、感染拡大前は月1000万円以上あったとみられています。同課は活動資金を確保するためだったとみて調べています。
  • 札幌市西区のアパートの部屋を暴力団員であることを隠し、借りていたとして逮捕された六代目山口組三代目弘道会「福島連合」の男は「自分が暴力団であると言わなければ、わからないと思った」などと話していることがわかりました。今年に入ってから「福島連合」に関係する逮捕は、少なくとも10人以上となります。本件では、警察が別の事件で暴力団の捜査をすすめていた中で、今回の容疑が浮上、その後、反社会的勢力との契約を締結しない条項が書かれた契約書で容疑者が賃貸契約を結んでいことが明らかになり、逮捕に至ったものです。取り調べに対して容疑者は「住むための部屋が必要だった。自分が暴力団であると言わなければ、わからないと思った」などと供述しているということです。北海道警察は、「福島連合」への警戒を強めていて、札幌市のマンションの賃貸契約をめぐる詐欺事件で、9月30日に幹部の紙谷亘容疑者を逮捕したばかりで、今年に入ってから少なくとも10人以上の関係者を逮捕しています。
  • 警視庁は、暴力団飯島会系会長で北海道帯広市、職業不詳の男を電子計算機使用詐欺容疑などで逮捕しています。男は特殊詐欺の被害金を引き出す「出し子」の統括役で、警視庁はグループが2022年4月から約4か月間で、8都府県の約180人から計約2億7000万円を詐取したとみています。報道によれば、男は5月、仲間と共謀して東京都中央区の80代男性宅に区職員らを装って「医療費の還付がある」とうその電話をし、現金約145万円を指定口座に振り込ませてだまし取るなどした疑いがもたれています。警視庁は、飯島会の本部事務所を約40人態勢で同容疑で捜索し、資金の流れを調べています。

前述したとおり、兵庫県尼崎市は、市内で最後となる事務所(六代目山口組直系弘道会傘下「大興会」の同市昭和南通にある事務所)が閉鎖したと明らかにしています。4年あまりで8カ所の暴力団関係施設がなくなったことになります。自治体で複数あった暴力団事務所の排除を完了したのは全国初とみられます。2022年9月21日付神戸新聞によれば、住民と連携して40年にわたり暴排運動に関わってきた兵庫県弁護士会の垣添誠雄弁護士は「10年前では考えられなかった。行政も継続支援した成果を全国に広げたい」と語っています。垣添弁護士によると、市内は全国的にも関係施設が多く、過去には抗争の巻き添えで女性が死亡する事件も起きたといいます。だが報復の危険もあり住民、行政も手をこまねく状態が続いてきたところ、転機となったのは2017年、六代目山口組が3分裂して抗争になる中、神戸山口組の拠点があった同県淡路市の住民らが、改正暴力団対策法で認められた「代理訴訟制度」に基づく措置を使って事務所を使用中止に追い込んだことです。全国初の成功事例に、尼崎市内でも一気に機運が高まり、市内を地盤とした神戸山口組系「古川組」では一部組員が離脱し、地元を拠点に「絆會」が設立され、六代目山口組を巻き込んで三つどもえの対立を激化させました。その後、神戸山口組の古川恵一幹部が路上で射殺されるなど、暴力団が関係する事件が頻発しました。不安が高まる中、住民らは2018年に尼崎市暴力団追放推進協議会を結成、尼崎市もふるさと納税を活用し、訴訟費用を一部負担する基金を作って支援、防犯カメラも次々と設置、2021年6月には全国の自治体で初めて組幹部宅の買収に踏み切っています。稲村和美市長と垣添弁護士は会見で、これで阪神間6市1町の暴力団関係施設はなくなったとし、非合法な風俗街だった通称「旧かんなみ新地」の清算にも触れて今後の取り組みに力を尽くすと強調しています。会見で稲美市長は、「事務所付近で発砲事件が発生する度に市のイメージが傷つけられ、市民は不安を感じてきた。(今回の閉鎖は)大きな意味を持つ」、「市が住民や警察をサポートし、暴力団活動の警戒をこれからも続けたい」と強調、垣添弁護士は「自治体が具体的な施策で積極的に暴力団排除に関わるのは珍しい。尼崎市をモデルとして全国的に広まってほしい」と述べています。

みかじめ料を支払わされたとして、愛知県の会社経営の男性が六代目山口組の篠田建市(通称・司忍)組長らに、使用者責任などに基づき約1070万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が名古屋地裁であり、裁判長は、篠田組長の使用者責任を認める一方、大半は消滅時効が成立し、請求権が失われたとして47万円の支払いのみ命じています。判決などによると、男性は2005~2016年、六代目山口組傘下の組幹部から事務所の立ち上げ費用や後援会費などの名目でみかじめ料を要求され、営業が妨害されることを恐れ、計776万円を支払ったといいます。裁判長はこのうち180万円について、「危害を与えたり畏怖させたりする言動はうかがえない」として違法性を否定したものの、残り596万円は組幹部の不法行為と篠田組長の使用者責任を認定、しかしながら、大半は3年の消滅時効が成立しているとし、一部のみ請求を認めたものとなります。原告側代理人の田中清隆弁護士は判決後に記者会見し、「被害者は恐怖が慢性化、恒常化し、長期間訴えられない。実態を無視した判決だ」と述べ、控訴する意向を示しています。なお、関連して暴力団対策に取り組んだ弁護士の浅田敏一さんが死去されました。日本弁護士連合会の民事介入暴力対策委員長などを務め、1990年に山口組の抗争で暴力団幹部に間違われた男性が射殺された事件では、遺族が山口組の渡辺芳則組長(当時)らに損害賠償を求めた訴訟で弁護団長を務め、日本最大の暴力団トップの「使用者責任」を追及したことで注目を集め、1997年に原告の請求を認める内容で、大阪地裁で和解が成立しています。2004年には、最高裁で、下部組織の抗争に対する渡辺組長の使用者責任を認める判決を勝ち取るなど、組織暴力に対する市民の被害救済に尽力されました。

会津小鉄会のこれまでの動向を端的にまとめた記事「古都にうごめく暴力団・会津小鉄会 組織統合の裏に山口組の影」(2022年10月1日付産経新聞)がなかなか興味深いものでしたので、以下、抜粋して引用します。

京都を拠点とする指定暴力団「七代目会津小鉄会」。後継者争いをめぐって特定抗争指定暴力団の山口組と神戸山口組を支持する2つの勢力に分裂したが、昨年4月に一本化が確認され、今夏には指定暴力団に再指定された。過去30年で会津小鉄会の勢力は9割以上減少したものの、対立関係にあった両者が4年ぶりに合流したことで京都の暴力団事情が新たな展開を見せるのか。警察当局は警戒を強めている。「反発はしているかもしれないが1つの方向を向いている」。捜査関係者はかつて対立関係にありながら、同じ組織の構成員として再会した組員らについて説明する。…ことの始まりは馬場会長の引退をめぐる後継者争いだった。山口組の後見を受けていた馬場会長だったが、懇意にしていた井上邦雄組長率いる神戸山口組に急接近。馬場会長の引退表明直後、山口組は会津小鉄会若頭で傘下組織「心誠会」の原田昇組長を七代目に就任させようと事務所まで押しかけ、占領に至った。直後には既成事実化するため、一方的に原田組長の会長就任を知らせる文書が全国の関係組織に送付された。これには馬場会長側も黙ってはいない。馬場会長は傘下組織「いろは会」の金子利典組長を七代目に就任させ、それぞれ山口組と神戸山口組を支持母体とする2つの「七代目会津小鉄会」が存在する奇妙な状況が誕生した。分裂直前の構成員は約100人いたという。分裂後の令和元年7月、京都府公安委員会が金子組長を七代目会津小鉄会の代表者にしたことで原田組長の組織は指定暴力団ではなくなったものの、互いに一歩も譲らず七代目を主張し合っていた。両者が一本化に向けて動き出したのは、捜査関係者によると昨年2月。山口組が引き合わせたという。「京都での影響力を強めるため、交戦状態にあった神戸山口組への圧力だろう」と捜査関係者。一本化した七代目会津小鉄会は金子会長と、原田若頭のもと再スタートを切った。…京都を縄張りとする一大組織も近年は他組織である山口組に翻弄され続けてきた。それでもかつての抗争や山口組との深い関係を知る当局は警戒を強める。捜査関係者は「会津小鉄会での内紛だけでなく他の組織との勢力図も慎重に見極めていく」と話している。

次に、工藤会に関する最近の報道から、いくつか紹介します。

「首都圏で勢力拡大」工藤会頂上作戦8年 福岡県警暴力団対策部長(2022年9月29日付毎日新聞)
全国唯一の特定危険指定暴力団「工藤会」の壊滅を目指し、トップで総裁の野村悟被告(75)=殺人罪などで死刑判決を受け控訴中=を逮捕した「頂上作戦」から9月で8年。その後も福岡県警は多くの組幹部を逮捕してきたが、組織壊滅には至っていない。捜査を指揮する田中伸浩・暴力団対策部長は毎日新聞のインタビューに応じ「重要未解決事件の検挙や、暴力団排除活動の推進など今後も総合対策を徹底的に進める」と決意を語った。「死刑判決の影響は十分あったと思う。だが、被告は控訴しており、判決は確定していない。今後の公判の推移を見定めつつ、工藤会がどう動くか、注視する必要がある。」「工藤会対策の一環として組事務所の撤去運動を継続的に促進し、これまで20以上の関係事務所が撤去された。警察と行政、民事介入暴力に取り組む弁護士、住民が一体となり、排除活動を進めてきた成果だ。」「工藤会の県内の構成員は約200人で、ピーク時の08年と比べて7割減だ。一方、首都圏で資金獲得活動を進めているグループが勢力を拡大しつつある。いわゆる「半グレ」などと呼ばれる者たちを仲間に引き入れている。警視庁や他県警と連携を密にし、取り締まりを強化したい。」「総合対策が重要。まずは、警察が県民の前面に立って安全安心を守る保護対策。次いで、未解決事件の徹底検挙。事件に直接関与した実行役は末端の組員かもしれないが、背後にいる首謀者も含めて検挙したい。併せて、組の資金源となる犯罪についても取り締まりを強化する。」
暴力団『工藤会』壊滅へ 頂上作戦から8年 北九州市の街に変化(2022年9月12日付FBS福岡放送)
全国唯一の特定危険指定暴力団で北九州市に本部を置く『工藤会』の壊滅を目指し、最高幹部らを次々に逮捕した福岡県警の“頂上作戦”開始から8年となりました。組員が大幅に減り、『工藤会』の弱体化が進む中、北九州市の街には、着実に変化が見られます。…「前までは、本当に街にも多かったと思う。そういう方たち(暴力団)が。ある意味(標章を)貼っていて怖いということもあったので。いまは、怖いことも少ないと思って、安心して貼らせてもらいました。」、「いまは普通に(北九州の街を)若者たちも歩けるし、会社員の方たちも歩きやすくなったと思います。(県外の客は)『北九州大丈夫?』と、いまだに言われるそうなので、『そんなことないよ』ということを、まず皆さまに知っていただきたい。」、「暴力団問題は、追放したらおしまいとか、潰したらおしまいじゃない。私は変わっていくという可能性や希望というものを、最もこの場所が表していけるんじゃないか、ちょっと伏し目がちに通り過ぎて行ったような場所が、こんなに素敵な場所に変われるんだと、こういうのが希望なんだろうと思う。」
  • 暴力団排除の運動をしていた建設会社役員の男性が射殺された事件で実行役を務めるなど、七つの事件に関与したとして、殺人や現住建造物等放火などの罪に問われた工藤会系組幹部の中西被告の判決公判が福岡地裁であり、裁判長は「工藤会組員が組織的に実行した犯行に関与した」として、求刑通り無期懲役を言い渡しています。判決によると、中西被告は2011年11月26日、北九州市小倉北区の路上で、帰宅してきた男性に拳銃2発を発射、1発を首に命中させ、失血死させたものです。判決はこのほか、2012年の元県警警部銃撃、2014年の歯科医師刺傷など6事件で、中西被告が被害者の行動確認や実行犯への指示をしたと認めています。中西被告は全ての事件で起訴内容を否認しましたが、裁判長は関係者の供述や防犯カメラの映像などから「実行役や指示役として必要不可欠な役割を果たした」と判断しています。
  • 福岡県福津市で2011年5月、建設会社社員の男性宅に銃弾が撃ち込まれた事件で、福岡県警は、工藤会系組幹部の竹内容疑者ら2人を銃刀法違反容疑などで逮捕しています。この発砲事件で逮捕者が出るのは初めてだということです。他に逮捕されたのは、自称会社員の金森容疑者。工藤会を巡っては、1998~2014年に福岡県内で元漁協組合長ら市民が襲撃された4事件で殺人罪などに問われたトップで総裁の野村悟被告に死刑判決(控訴中)が出ており、福岡県警は、同じ期間に発生したこの発砲事件についても野村被告ら組織トップの関与の有無を調べる方針といいます。捜査関係者によると、事件発生から10年以上が経過する中、新たな証言と証拠が得られたため2人の逮捕に踏み切ったということです。金森容疑者は事件当時、工藤会系の組幹部で、県警は野村被告と近い立場だったとみて調べを進めています。また、竹内容疑者は、北九州市八幡西区で2012年9月に不動産会社経営の男性が刺されて重傷を負った事件で2022年7月に逮捕され、8月に傷害罪で起訴されています。なお、被害男性はその後、病死しています。

暴力団の高齢化を物語る記事「暴力団組織で進む高齢化 それでも組長の引退が難しい事情」(NEWSポストセブン 9/25配信)が興味深いものでしたので、以下、抜粋して引用します。

「神戸もしぶとく頑張っている。彼らも六代目を割って出たのはいいが、その後が振るわなかった。脱退や分裂騒動で勢いをなくし、六代目山口組に戻っていく組員らが次々と出てくる始末。このまま弱体化していけば、何のために名古屋(六代目山口組)と決別したのか、少しでも盛り返したところを見せないと、組として格好すらつかなくなる」と、山口組の分裂抗争に詳しい指定暴力団の元組長は語る。…神戸山口組の井上邦雄組長も今年74歳になったと聞く。いい加減引退してもいい歳だが、組織が下り坂では引退できないと考えるはずだ。巻き返しを図り、組織が少しでも上向きになってからでないと、周囲もそんな話すらできないのではないか。ヤクザの組織にも大小あるが、ある程度の組織を率いた組長ともなれば、引退するには花道が必要だからな」と元組長はいう。だがこの三社連合に、早くも暗雲が立ち込めてきた。連合体の立役者である神戸山口組の入江禎副組長が脱退することになったといい、池田組が連合を白紙にするのではという憶測も流れて始めた。一度分裂してしまったものを元の鞘に収めるというのは、筋立て通りにはいかないらしい。…元組長も「六代目山口組では、舎弟や幹部になっている組長らも高齢な者が多い。ほとんどが60代や70代で50代は一握りだ。高齢者が多いこともあって、コロナのワクチン接種が始まった頃は、組の者がワクチンを接種したかどうか確認するよう電話で通達がきたという話を聞いたほどだ」と語る。高齢化はどこの組織でも問題になっているようだ。上が詰まっていては、下の者は上に上がることができない。さらに暴力団対策法や暴力団排除条例により、銀行口座が作れない、携帯電話の購入契約ができないなど暴力団員の生活は制限されることが多い。組としての決まりやルールも厳しいため、組員になりたがる若者は激減している。その上、コロナ渦でシノギが減少したとなれば、高齢の組長の中には引退を考えている者も少なからずいるという。「やめられるならやめたいと思っている組長はいるだろう。だが六代目山口組は、まだ対立抗争中だ。歳を取ったからといって、おいそれと簡単には引退できない。六代目がいるのに、盃をもらった自分たちが先に引退するなどとは言えないだろう」(元組長)生き残りをかけて闘うのは、抗争だけではないようだ。

次に、暴力団等反社会的勢力やその排除・逮捕等を巡る最近の報道から、いくつか紹介します。

  • 沖縄市議会の議員が8月、旭琉会系暴力団総長の沖縄市内の自宅で、総長が死去したとして、総長の息子に香典2千円を手渡していたことが分かったといいます。市議は総長の息子と幼なじみで「友人の父親が亡くなったので香典を渡した。暴力団との関係性はない」と話しています。息子ら子どもたちは、暴力団関係者ではなく、市議は総長の息子と小学時代からの幼なじみだったといいます。これまで総長宅には複数回訪れたことがあり、総長とも顔見知りだったといい、総長の息子によると、市議が最後に総長と顔を合わせたのはおよそ2年前で、息子を訪問した際に居合わせた状況で、総長を訪問したことはないということです。息子から父親が亡くなった話を聞き、初七日の日に香典を渡したもので、市は暴力団排除条例を定めているところ、今回の香典が利益の供与になるかどうかについて、市民生活課は「社会通念の範囲内のため条令違反には当たらない」としています。なお、本人は、この幹部と深い付き合いはなかったとした上で、香典を渡したのは「あくまでも私人として行ったこと。問題はない」と答えています。報道で、刑事訴訟法などに詳しい近畿大学の辻本典央教授は「当該議員は会見や議会で、香典を渡した経緯や日常の交際関係を明らかにするべきだ」と話しています。報道内容から見る限り、密接交際にあたるような関係性ではなく、幼なじみという関係性の中での社会通念上も許容されうる範囲での香典であり、暴排条例上大きな問題となるようなものではないと思われます。一方、市議という立場上、議会等で説明を求められれば、説明責任を果たすべきという点はそのとおりかと思います。
  • 大阪市は一部の入札について運用を改める方針を示しました。9月22日の大阪市議会・建設港湾委員会で指摘されたのは「入札事業者へのチェック」についてで、大阪市は2011年に「暴力団排除条例」を施行して入札に反社会勢力は参加できないとされていますが、大阪港湾局では、これ以降に入札を約150件実施していて、その際に「反社会勢力と関係がない」と誓約書の提出を求めていますが、報道によれば、「暴力団員または暴力団密接関係者に該当するかどうかについて、警察へ照会を行った事例はありません」(大阪市港湾局 施設管理課長)とのことで、チェックの甘さが明らかになっています。
  • 埼玉県は、開会中の県議会に提案している補正予算で、新型コロナウイルス軽症患者の移送を今月から2023年3月まで東武トップツアーズに継続して委託するため、事業経費として6億2062万円を計上する考えを明らかにしています。同事業ではコロナ禍において、2020年9月から感染者の医療機関や宿泊療養施設への移送を民間の運送会社に委託してきましたが、2022年6月末、約3年間移送を担った会社の役員に暴力団や構成員の関係者がいるとみられることが判明し、県は契約を解除、7月中に現在の委託先と契約するまで、県職員が移送を担っていたものです。
  • 暴力団の活動への規制の網が強まるなか、愛知県警がこれまで手つかずだった領域に捜査のメスを入れています。2022年9月24日付朝日新聞によれば、申込時の暴力団排除を掲げていないデポジット式カードについて、身分を偽って入手したとして暴力団幹部らを逮捕したというものです。暴排の動きがさらに広がるかどうかの試金石になり得る事件といえ、検察の刑事処分の行方が注目されています。焦点となったのは、各地の高速道路でETCが利用できるデポジット式の「ETCパーソナルカード」で、愛知県警は9月6日から9日までに、六代目山口組系組長の男ら組員9人を逮捕、2015年10月~2021年12月に、暴力団員であることを隠してこのカードを入手した詐欺の疑いが持たれています。保証金を前払いするデポジット式カードの規約には、発行を拒む対象として「暴力団員」とは明記されておらず、このため、愛知県警はこのカードが暴力団に広く利用されているとみており、「反社会的勢力が割安サービスのあるETCを使う抜け穴になっていた」ものです。ただし、規約にはカードの利用者が「暴力団・暴力団関係企業ら反社会的勢力」と判明した時は利用を止めることができるとも記載されており、申込時には規約への同意が必要となっています。愛知県警はこの記載を「暴排条項」に準ずるものと見なし、暴力団員が身分を偽ってカードを入手すれば詐欺容疑に当たると判断して逮捕に踏み切ったものです。警察はこうした暴排条項を根拠に、身分を偽って民間のサービスを利用した暴力団員による詐欺事件の摘発を強化、2014年3月には最高裁が詐欺罪の成否について、「サービスの提供側が身元確認を徹底したかどうかによる」との判断基準を示しています。
  • 神戸の繁華街・東門街で、みかじめ料を要求したとして暴力団組員らが逮捕されています。みかじめ料を巡る検挙は兵庫県内では2年ぶりだということです。兵庫県警は、新型コロナ禍からの経済活動の再開を見越して新たにオープンする店が、暴力団の標的になっているとみて警戒しているといいます。兵庫県警生田署が恐喝未遂の疑いで逮捕したのは、六代目山口組系組員の男ら2人で、6月7日夜、東門街の路上で飲食店のチラシを配っていた女性に近づき、「ここでビラ配ってもうたら困るんや。わしらここらへん、仕切らせてもらっとるんやけど」、「みんな2万円払うてもらってる」、「こないだも下の店でルール違反したやつがあってな、30万円払ってもらって店も潰した」などと脅したとされます。みかじめ料は、かつては主要なシノギの一つでしたが、近年は目立たなくなっており、恐喝や兵庫県暴排条例などによるみかじめ料関連の検挙人数は、2017年が5人、2018年が10人だったところ、2019年が3人、2020年が2人、2021年はゼロだったといいます。2019年2月に施行された改正兵庫県暴排条例で、みかじめ料の受け渡しが罰則付きで禁じられたことが影響しているとみられます。しかし2022年に入って、すでに3人が検挙されています。兵庫県警が着目するのは、2022年6月の被害の店が、新規出店だった点で、東門街のある飲食店主が「古くからのスナックや飲み屋が新型コロナ禍を機にいくつも店を閉め、店の顔ぶれが変わった」と語るように、コロナ禍で閉じたテナントに新しい店がオープンするケースが目立っているといいます。こうした街の変化を好機ととらえて、「組員が新たな資金源の開拓を狙っている可能性がある」と捜査関係者は警戒しているとのことです。
  • 大量の覚せい剤を複数の客に売り渡したなどとして、新潟県警はこれまでに稲川会系暴力団幹部らを逮捕し、密売グループを摘発したと発表しています。報道によれば、この組織は少なくとも10年にわたって密売を繰り返しており、県警察本部が検挙した密売の規模としては平成以降、最大だということです。容疑者らは、違法に入手した覚せい剤を新潟市内の駐車場などで客に売り渡していた疑いが持たれています。警察は、容疑者らからこれまでに覚せい剤を340グラム余り押収していて、末端の密売価格にしておよそ2000万円に上ります。また、警察は、容疑者らから覚せい剤を買い取った疑いなどで、40代から70代までの会社員ら18人を逮捕したと発表しています。このグループは、少なくとも10年前から県内の広い範囲で覚せい剤の密売を繰り返していて、押収量のほか、取引の回数、客の人数などからみて、県警察本部が検挙した密売の規模としては平成以降、最大だということです。警察は、覚せい剤の密売人や、その客20人以上を逮捕するなどして捜査を進めた結果、この密売グループの摘発にいたったとしています。
  • 「2年分の有料サイトの料金が未払い」などとうその話で70代の男性がお金をだまし取られた事件で、警察は特殊詐欺のいわゆる『出し子』の疑いで暴力団の準構成員の男を逮捕しています。警察によると2022年5月、堺市中区の70代の男性に「ご利用料金の件について」などと書かれたメールが届き、男性は記載されていた連絡先に電話をしたところ、電話先の男から「約2年分の有料サイトの料金が未払いで裁判が起きています。示談のためにお金が必要」などとうその説明をされ、指定された口座に約50万円を振り込んだということです。その後、男性が家族に相談したことから被害が発覚し、警察は振り込み先の口座から現金を引き出した特殊詐欺のいわゆる『出し子』として六代目山口組傘下組織の準構成員を逮捕しました。容疑者は不正に入手したキャッシュカードを使って現金を引き出した窃盗の疑いが持たれています。
  • 自転車に乗っていた男性を転倒させ、さらに暴行を加えてケガをさせた疑いで、準暴力団「チャイニーズドラゴン」のメンバーら5人が逮捕されています。「チャイニーズドラゴン」のメンバーと同団体」の関係者とみられる容疑者ら合わせて5人は、2021年10月、東京・台東区の路上で、自転車に乗っていた飲食店経営の中国人男性に体当たりして転倒させたうえ、暴行を加えて、全治およそ2週間のケガをさせた疑いが持たれています。チャイニーズドラゴンは、歌舞伎町や池袋などの繁華街を拠点としていることで知られていますが、容疑者は、赤羽を拠点とするグループに所属、警視庁が把握している赤羽グループの構成員は十数人、関係者も含めると数十人規模にのぼるといいます。
  • 100台近くの「iPhone」を購入しようとした男性を、鉄パイプのようなもので襲撃したとして、中国人の男らが逮捕されています。被害者の男性は、いわゆる「転売ヤー」とみられています。事件の背後には、「チャイニーズドラゴン」の影も見え隠れするといいます。容疑者ら3人は、いずれも中国人で、被害者の男性も、日本国籍を取得した元中国人だということです。チャイニーズドラゴンには、日本国内で購入したiPhoneを、中国本土で転売する「シノギ」が存在するといい、容疑者3人とチャイニーズドラゴンとの「接点」は明らかになっていないものの、警視庁暴力団対策課では、チャイニーズドラゴンの「しのぎ」を横取りさせまいと、3人が男性を襲撃した可能性もあるとみています。手段を選ばない、荒っぽい手口は、いかにもチャイニーズドラゴンを彷彿させるものです。

最後に、旧統一教会を巡る動向、とりわけ宗教法人の規制のあり方や霊感商法などの被害者救済のあり方について触れておきたいと思います。さまざまな報道を以下に抜粋して引用するものとなります。

霊感商法の寄付取り戻し可能に 政府、法改正へ調整(2022年10月9日付日本経済新聞)
政府は世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の問題を受け、霊感商法などの被害者を救済しやすくするため消費者契約法を改正する調整に入った。契約後でも財産を取り戻せる対象に「寄付」行為を追加する。現行法では宗教団体への高額寄付が対象となるのかが曖昧で、救済可能な「契約」とみなすのは難しいとの意見が出ていた。トラブルを霊感商法と認定する要件も緩和するほか、時効までの期間を延ばして過去の寄付を取り消しやすくする。…政府は霊感商法の問題に関し「救済」と「予防」の2つの切り口で対策を練っている。まずは財産を取り戻す「救済」、次いで寄付強制を禁止するといった「予防」の2段階で対処する。予防措置については別の法律で検討する。…消費者契約法は不当な勧誘による契約の取り消しなどを定める。2018年の法改正では不安をあおってつぼや書籍などの高額商品を購入させる霊感商法も対象として明記した。それでも適用例はほとんどなかった。現行法の「消費者契約」は主に物品販売を想定しており、旧統一教会を巡って被害が報告されている巨額の寄付は対象としにくいためだ。寄付として納める金額の目安が示された場合は民法上の「契約」とする判例はある。寄付の場合はその額を本人の意思に委ねたようにみせる事例が多く、事後に取り消せる「契約」に当てはまらないとの見解が根強い。法改正により被害者の救済の実効性を高める。トラブルを霊感商法と認める要件緩和では現在の「不安をあおる」だけでなく「不安につけ込む」手法も認定する案がある。すでに不安に陥っていて繰り返し献金しているような教団の信者も新たに対象に入れる目的がある。被害に気付いてから1年、契約締結から5年が過ぎると取り消し権は消滅する現行法の規定も救済の抜け穴になっている。被害に遭ってから時間が経過している場合も多い。寄付取り消しを訴えることができる期間を現行よりも延長する方向だ。法改正の作業とともに被害者が財産を取り戻すための支援体制を強化する。…外部機関との連携で心のケアや生活困窮の相談にも対応する体制をめざす。
霊感商法、高額寄付も取り消し対象に 法令改正へ詰め(2022年10月5日付日本経済新聞)
霊感商法などの被害対策や救済のあり方を巡る議論が大詰めを迎えている。消費者契約法の見直しが主な論点で、消費者庁の有識者検討会は「高額寄付」を取り消せるよう改正の提言をまとめる方向だ。基準となる寄付額や期間など意見は多様。法令改正による救済の実効性とスピードをどう確保できるかが焦点となる。…今後のポイントは法令改正の具体論だ。検討会はまず、取り消し対象となる要件を拡大するという点ではおおむね一致している。現在の「不安をあおる」だけでなく「不安につけ込む」場合も取り消し権の対象とするよう提言案に盛り込まれる見通しだ。参考になるのは海外のケースだ。消費者法に詳しい松本恒雄・一橋大名誉教授によると、オランダは消費者の脆弱な状況を認識しながら結んだ契約は取り消しの対象。フランスも相手の依存状態につけ込んで義務を負わせ過大な利益を得た場合は取り消しを認める。不安や脆弱性につけ込むことを取り消しの要件とするケースは少なくない。日本でも過去、消費者契約法の改正で同様の規定を設けるかどうかが議論され、見送られてきた経緯がある。松本氏は「信者の内心が利用された寄付は消費者問題。あくまで消費者に対する『行為』に着目して対応すべきで、つけ込む行為を対象にできていなかったのは問題だった」と指摘する。…第1が「高額寄付」の基準だ。…次に契約を取り消せる主体だ。霊感商法の場合、不安をあおられて契約した本人以外に家族からの取り消しの申し出も想定される。…第3に契約の取り消し期間だ。現行法の取り消し期間は被害に気付いてから1年で、契約締結から5年が過ぎても取り消し権は消滅する。「信者が取り消しを求める精神状態に戻るには時間が必要」(委員)とされ、延長を求める意見が強い。
霊感商法「取り消し権」行使例なし 高額献金や宗教2世保護も…消費者庁、対策急務(2022年10月7日付産経新聞)
世界平和統一家庭連合(旧統一教会)に関する霊感商法や高額献金問題などを巡り、政府は消費者庁の対策検討会や法務省を中心とした関係省庁連絡会議を立ち上げ、被害者救済のため協議を進めている。消費者庁の検討会では消費者契約法の見直しや高額献金の規制などについて議論が続けられており、近くとりまとめ案が示される方針だ。消費者庁の検討会は、8月末からこれまでに計6回実施された。論点の1つとなっているのが消費者契約法。現行では霊感商法に対して取り消し権を行使できるが、実際に行使した裁判例は確認できず、委員から「効果的な法律になっていない」と見直しを求める声が上がった。また被害の中心が霊感商法から高額献金に移っているという指摘もあり、悪質な献金要求行為を禁止する新たなルールが必要とされた
旧統一教会 有識者検討会で座長が論点提示(2022年10月5日付毎日新聞)
霊感商法への対策を議論する消費者庁の有識者検討会が4日、開かれた。座長を務める河上正二・東京大名誉教授が五つの論点を示し、大筋で了承された。次回の会合でとりまとめ案が示される方向となった。河上座長から示された論点は、消費者契約法の見直し▽悪質な献金被害の救済と不当な献金の防止▽宗教法人法の見直し▽親の信仰の影響で苦悩を抱える「宗教2世」の保護―など。消費者契約法の見直しについては、「小手先の改正で済ませることは不適当だ」と指摘。霊感商法など不安をあおるような形で消費契約が結ばれた場合、現行法で取り消すことは可能だが、判例がないことから要件を緩和する必要性がこれまでの会合で指摘されている。多額の献金で家庭が崩壊するケースに対応する必要性が盛り込まれ、委員からは年収の一定割合以上の献金などを禁じるよう求める提案もあった。
宗教法人の税制優遇はなぜ? 「銃撃」後に広がる疑問の声(2022年9月26日付毎日新聞)
宗教団体は、文化庁や都道府県の認証を受ければ、宗教法人として認められる。宗教法人は営利を目的にしていない「公益法人等」に位置づけられ、旧統一教会も認証を受けた宗教法人だ。税法上、宗教法人の宗教活動には課税されない。法人税のほか、活動をするための敷地や建物に課される固定資産税などもかからない。一方で、営利を目的とした事業は宗教法人であっても課税対象だ。例えば駐車場や結婚式場を経営して得られた収益には課税される。ただ、一般企業よりも税率は優遇されている。…宗教法人への優遇措置は、これまでも度々悪用されてきた。こうした宗教法人への不信感が、銃撃事件を機に噴出した格好だ。…民間の株式会社であれば、上げた利益は最終的に個人株主に分配される。そのため、会社への課税は個人株主への所得税の前取りに相当するというのが、法人税の基本的な考え方の一つとされてきた。一方、宗教法人を含む公益法人は営利を目的とせず、利益を分配することも想定していない。そのため、個人所得税の前取りとしての課税対象にはならないと解釈されてきたという。…「戦前は政府が宗教を戦時体制に利用する見返りとして免税で優遇していた」。公益財団法人「国際宗教研究所」の元研究員、竹内喜生さんは、こう指摘する。…「政府は宗教が持つ教えを広める力に着目し、国家統制に利用した」と竹内さんはみる。…竹内さんは「公益性があるから非課税だというのは後付けの理由に過ぎない。国が宗教に公益性があるかどうかを判断するというのは危険な考えだ」と指摘。その上で「国民が納得しない状況は好ましくない。説得力のある非課税根拠の提示を望む」としている。…ある関係省庁の幹部は「問題は税制ではなく、悪徳商法をしている団体だ。そっちをどうするかの議論をすべきだ」と語り、宗教法人への税制優遇自体を変更する必要はないと見る。
オウム捜査終結10年 宗教法人法の調査ゼロ、議論進まず(2022年9月25日付日本経済新聞)
国内の犯罪史上最悪とされるオウム真理教による一連の事件の捜査終結から24日で10年。事件後に宗教法人法が改正され、オウム真理教を想定した団体規制法も成立した。当時は活動の封じ込めが優先され、違法行為にどう対応していくかの議論は深まらなかった。オウム真理教への強制捜査は地下鉄サリン事件2日後の1995年3月。安全とされた日本で起きた無差別テロは国内外に衝撃を与えた。「秘密教団を警察が捜査」(AP通信)など捜査の状況は海外メディアも逐一、トップニュースで報じた。捜査の進捗とともに国が重視したのが教団の活動封じ込めだった。まず東京地検などが適用したのが宗教法人法に基づく解散命令だ。根拠となったのは「著しく公共の福祉を害する」とされた同法の要件。地下鉄サリン事件の約9カ月後に司法で確定し、裁判所が選任した清算人の下で財産整理も行われた。…団体規制法の成立以降、オウム真理教の規制を巡る議論は下火になっていく。立正大の西田公昭教授(社会心理学)は「オウムは世界でも類を見ない凶悪事件を引き起こした異質な団体とみなされ、国や行政の対応も教団対策に終始した」と指摘する。消費者庁で8月末に発足した検討会で、委員から宗教法人法改正を求める声が上がるなど、同法のあり方は現在、改めてテーマとして浮上している。
旧統一教会問題、違法行為見極め対処 海外事例を参考に(2022年9月16日付日本経済新聞)
世界平和統一家庭連合(旧統一教会)を巡る問題を機に、高額献金などが社会問題化した宗教団体への対処について、フランスなど海外の事例を引き合いにした議論が高まっている。同国の制度に詳しい山形大の中島宏教授は「違法行為を見極めての対処は参考になる」と指摘。信教の自由を前提に「活動を畏縮させないための客観性の確保が不可欠だ」との認識を示す。…「国家の宗教的中立性という観点から『ブラックリスト』方式には批判が多かった。法律ではない議会による報告書を根拠に、規制を正当化できるのかとの問題もあった。05年には団体リストも撤回され、『違法行為』に着目する路線となった。公務員教育や情報提供などに力を入れた取り組みも含めて、日本も参考にできると思う」セクト規制法を制定したフランスにおいても、セクトに信教の自由が保障されるということが出発点になっている。『セクトは宗教にあらず』という立場をとると、国家が宗教の真偽を判断することになり、公認宗教制につながるのではないかという懸念があるためだ。この点は、日本における規制を検討するにあたっても確認されるべき事柄だろう」「日本の宗教法人法に解散命令を行使できる規定があり、オウム真理教と(霊視商法詐欺事件を起こした)明覚寺に適用した事例がある。前者は起こした事件の重大性が著しく、後者はそもそも宗教性が希薄だった点が判断のカギだったのではないか。一方、旧統一教会の場合は宗教性や事件の重大性の評価について、意見が分かれるかもしれない」「さらに進んで団体そのものを解散させた場合、本部や代表者が法的には無くなったとしても信者は残る。その活動が『地下活動化』して見えにくくなる懸念はないだろうか

霊感商法対策「宗教法人法の改正も必要」 消費者庁検討会(2022年9月15日付毎日新聞)
世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の問題を巡り、霊感商法への対策を検討する消費者庁の検討会が15日、開かれた。宗教法人への解散命令請求や寄付行為のあり方などを巡り、委員から「法律を改正するなどの対応が必要ではないか」などの意見が出た。消費者庁は早期に結論をまとめたい考えだ。宗教法人法では、法令に違反し、著しく公共の福祉を害する行為などがあった場合、裁判所は所管庁である文化庁などの請求を受け、解散を命令できる。疑わしい行為がある宗教法人に対して質問権があるが、過去に行使されたことがないという。委員の一人、菅野志桜里弁護士は「所轄庁が権限や責任をせまく捉えてきた」と批判。消費者問題が山積している場合、消費者担当相が質問権の発動や調査に積極的に関われるようにすることなどを提案。解散まで至らない場合でも税優遇を剥奪するなど、宗教法人法改正の具体的な検討を進めるべきだとした。一方、宗教的な寄付を巡っても議論された。民法に詳しい中央大の宮下修一教授は「金額を明示された場合、契約と見なしやすくなるのでは」との見方を提示。紀藤正樹弁護士からは、献金が契約とされた場合でも、消費者契約法上の取り消し権が適用されない可能性について整理が必要との意見も出た。
宗教法人に報告求める「質問権」、過去一度も使われず…「運用改善や法改正の検討必要」(2022年9月15日付読売新聞)
消費者庁は15日、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)を巡って関心が高まっている霊感商法に関する対策検討会を開催した。会合は3回目で、宗教法人法に基づいて宗教法人に報告を求める「質問権」が過去一度も使われていない実態が明らかになった。質問権は、宗教法人法に基づき、文部科学省や都道府県が宗教法人やその役員に報告を求め、質問できる規定で、1996年に施行された改正法に盛り込まれた。宗教法人に解散命令を出す前の段階で使われることが想定されているが、検討会では、これまで使われたことがないと報告された。委員からは「質問権を使って調査し、必要があれば解散命令を請求するという流れになっていない。運用改善や法改正の検討が必要だ」との意見が出た。文化庁によると、問題行為を理由に解散命令が出された宗教法人はオウム真理教など2件にとどまる。オウムへの命令時は法改正前で質問権の規定がなく、残りの1件では刑事裁判で証拠が集まっていたため、使わなかったという。文化庁は「解散命令には刑法に違反するなどの条件が必要」としており、この2件以外に質問権を行使するような事案がなかったとしている。
「行政の怠慢、罪深い」旧統一教会問題で紀藤弁護士(2022年9月15日付産経新聞)
世界平和統一家庭連合(旧統一教会)による霊感商法の被害救済に取り組む紀藤正樹弁護士が15日、日本記者クラブで記者会見し「伝道や献金などが民事(訴訟)で違法とされても、行政は何もしなかった。刑事事件の捜査も途中で止まっている。行政の怠慢はとても罪深い」と批判した。議論されている宗教法人法に基づく解散請求については「文化庁が(できないと)言っているのは、過去の怠慢に対する言い訳だ」と指摘した。児童虐待防止法の通達など、現行法で救済できる被害もあるとし「今できることはやるべきだ。2世問題は放置できない」と早期の対応を訴えた。紀藤氏は、霊感商法の被害対応を検証する消費者庁の検討会で委員も務めている。
旧統一教会の違法行為、救済へ「日本型モデル」構築急務(2022年9月13日付日本経済新聞)
世界平和統一家庭連合(旧統一教会)を巡る問題をきっかけに、宗教法人による霊感商法などの違法行為にどう対応するかの議論が始まっている。海外では客観性を保つため第三者機関が違法行為の有無を確認する仕組みを導入しているケースもある。違法行為をどう防止し、被害を救済できるか。日本型モデルの構築が急務となっている。旧統一教会は1964年、宗教法人として認証を受けた。現在も国内で宗教活動を行い、税制の優遇措置も受けている。80年代、教団による霊感商法などが社会問題化した。先祖の因縁などで不安をあおった献金が民事訴訟で「違法」と初めて判断されたのは94年。教団の使用者責任も認定した同判決は97年に最高裁で確定した。全国霊感商法対策弁護士連絡会によると、2022年7月までに約30件の教団側敗訴が確定した。「組織化された献金勧誘システム自体が違法」とする地裁判決もある。政府は8月、法務省や消費者庁など関係省庁の連絡会議で対策や被害救済の検討を始めた。議論として浮上する第1が、宗教法人法に基づく調査権の活用だ。…第2に、違法な活動を行う宗教法人を切り分けて対応することだ。…消費者法に詳しい松本恒雄・一橋大名誉教授は「過度な寄付は信仰ではなく『悪霊払いサービス』の対価。宗教法人かどうかではなく、あくまで消費者に対する『行為』に着目して対応すべきだ」と現行の消費者契約法の積極適用を提案する。そもそも宗教法人法が解散請求できると規定するのは「法令に違反し著しく公共の福祉を害する」などのケースだ。文化庁宗務課は「世間を騒がせるほどの刑事事件を起こしたことが前提」と説明しており、過去の解散命令はオウム真理教などに限られる。…海外では宗教団体の活動内容を第三者機関が「監査」する例もある。…2001年に強制解散も規定した反セクト法が成立。だが、信教の自由に配慮して解散例はないとされ、05年には団体をカルトと公表したリストも撤回した。団体の規制から「違法行為」への対処に方針を転換し、被害者救済や公務員研修などを強化。同国の制度に詳しい山形大の中島宏教授は「フランスも試行錯誤している」と指摘する。

2.最近のトピックス

(1)AML/CFTを巡る動向

本コラムでもその動向を注視していたところですが、暗号資産(仮想通貨)における送金ルールに関する規制が強化される見込みです。2022年9月27日付日本経済新聞によれば、2023年5月にも、暗号資産交換業者によるマネー・ローンダリング(マネロン)を防ぐ送金ルールを導入し、犯罪者による資金移動を追跡できるようにするということです。今後、犯罪収益移転防止法や外為法、国際テロリスト財産凍結法などマネロン関連の法律を改正して顧客情報の業者間での共有を義務づけることとし、銀行並みの規制をかけて、マネロンの監視を強化するとのことです。本コラムでも以前取り上げた「トラベルルール」と呼ばれる送金ルールの対象に暗号資産を加えるよう、「金融活動作業部会」(FATF)が2019年、各国に導入を勧告していたもので、米国、ドイツ、シンガポールなどが法制化を終え、EUも準備を進めている段階にあります。トラベルルールとは、暗号資産の交換業者を対象に、顧客から預かった暗号資産を別の業者に送る際、氏名や住所など顧客情報をセットで提供するよう義務づけるもので、犯罪者がいつ、どこへ送金したか追跡できるようにする狙いがあります。違反した交換業者には行政指導や是正命令を発動できるようにし、命令に違反した場合は刑事罰の対象になるほか、暗号資産の一種で法定通貨に価値を連動させる「ステーブルコイン」にも適用するというこです(なお、ステーブルコインは2022年の通常国会で成立した改正資金決済法を施行する2023年春から流通が登録制になります)。ステーブルコインは日本ではまだ広く普及はしていない状況ではありますが、今後、国内での普及を見すえ、暗号資産全般に監視の網をかけることとなります。なお、外為法の改正案はステーブルコインを2023年5月にも規制対象資産に加え、ロシアなどの制裁対象者への移転や制裁対象者から第三者への移転を防ぐほか、北朝鮮とイランへの核開発資金を断つため、両国の核開発関係者の日本国内での金融・不動産取引を規制できるようにもするということです。さらに、国際テロリスト財産凍結法を改正し、2022年中の施行をめざすということです。海外との取引はすでに外為法で規制されていますが、国連安全保障理事会の決議に基づき、両国の核開発関係者を制裁対象に指定しているところ、国際テロリスト財産凍結法では対象外であり、核開発資金の「抜け穴」になるとしてFATFが改善を求めていたものです。とりわけ、北朝鮮が弾道ミサイル発射を繰り返し、核実験実施に向けた動きを活発化させている情勢を鑑みれば、暗号資産が「抜け穴」とならないよう厳格な規制を課していくことは極めて重要だといえます。

送金や支払いなどの「資金決済」は従来、銀行が中心でしたが、スマートフォン決済など資金移動業者の参入で変革が進む中、全国銀行協会(全銀協)は、銀行間の送金を行う「全国銀行データ通信システム(全銀システム)」について、10月11日に「ペイペイ」などのスマートフォン決済事業者に開放すると発表しています。これにより、スマホ決済アプリから別の決済アプリや銀行口座に送信できるようになります。なお、事業者が接続できるようになるには、システム整備が必要で、運用開始は2024年初め頃になる見通しだということです。全銀システムは、振り込みや資金決済を処理する基幹システムで、銀行や信用組合を始め、1000を超える金融機関が参加していますが、これまで決済事業者は加盟を認められておらず、決済アプリを使った入金(チャージ)や払い出しは特定の銀行に限られていましたが、開放後は、ほぼすべての金融機関と相互送金できるほか、入金などにかかるコストの負担が減ることになります。また、加盟する決済アプリ同士の送金もできるようになり、利便性が増すことになります。

関連して、海外送金と個人情報の関係について、全銀協のサイトに解説が掲載されましたので、以下、概要のみ簡単に紹介します。

▼全銀協 外国送金するときの個人情報の取扱いは?
  • 外国送金の仕組みについて教えてください。
    • 外国送金とは、日本の銀行から外国の銀行口座に資金を送金することをいい、通常、外国送金は、銀行間の国際的金融取引ネットワークであるスイフト(Society for Worldwide Interbank Financial Telecommunication SC)の参加銀行間の送金電文(データ)を利用して処理されます。
    • なお、スイフトには、200以上の国・地域で1万1,000社以上の銀行、証券会社等が参加しています。このため、理論的には、全世界すべての国・地域に外国送金が可能ですが、外国為替および外国貿易法や米国OFAC規制等の法令により外国送金ができない国・地域や、外国送金に当たって送金先の詳細や送金の資金源に関する資料のご提出が必要となる国・地域があります。詳細は、お取引銀行にご照会ください。
    • 送金する通貨や送金方法(円建て、外貨建てなど)によっては、日本の銀行から送金先の外国銀行(最終受取銀行)に直接送金することができず、最終受取銀行とは異なる外国銀行(経由銀行)を介して、送金電文を最終受取銀行に送信する可能性があります。
    • この経由銀行は、日本や最終受取銀行の所在国以外の国(第三国)に所在する可能性もあります。また、複数の経由銀行を介する必要がある場合には、第三国も複数の国となる場合もあります。
  • 外国送金では、スイフト参加銀行間の送金電文(データ)の授受によって処理されるとのことですが、どのような情報が送金先の外国銀行等に提供されるのですか。
    • お客さまが各銀行が定める「外国送金依頼書」などに記入した「ご依頼人名・住所」や送金の相手方である「お受取人名・住所」、「お受取人の取引銀行名・支店名」、「お受取人の口座番号」などが送金先の外国銀行等(最終受取銀行のほか経由銀行も含み、以下同様とします。)に提供されます。
    • これらの情報は、個人情報保護法や犯罪収益移転防止法や外国為替および外国貿易法などの法令あるいは同様の趣旨の関係各国の法令の規定に従って、各銀行が適切に管理のうえ、マネー・ローンダリング/テロ資金供与対策を目的として、日本や外国の関係各国の法令、制度、勧告、習慣や、送金先の外国銀行等が定める所定の手続きに従って提供されます。
  • 銀行では、外国銀行等に個人情報を提供するに当たって、どのような取組みをしているのですか?
    • 2022年4月1日から改正個人情報保護法が施行され、個人データを外国にある第三者(送金先の外国銀行等)に提供する場合には、あらかじめ「外国にある第三者への個人データの提供を認める旨の本人の同意」を得るに当たり、提供先の外国にある第三者に関する情報の提供を行うことが必要となりました。

本人確認手続きにおける同一性精査について、注意が必要な事例がありました。山口県岩国市が、海外から転入した外国人に、同姓同名のマイナンバーを誤って登録するなどのミスがあったと発表しています。2022年8月、外国人の代理人が転入届を出した際、職員が住民基本台帳ネットワークに表示された氏名、生年月日、性別が一致する市外の別人を同一人物と思い込み、マイナンバーと住民票コードを登録、さらに、別の職員が誤ったマイナンバーを記載した書類を日本年金機構の事務センターに送ったもので、9月、代理人からの問い合わせで発覚したものです。市は転入した外国人には新しいマイナンバーなどを登録し、同姓同名の外国人にはマイナンバーを再設定する手続きをしてもらったということですが、日本人でも「氏名」「生年月日」「性別」が一致していれば、同一性が高いと認識してしまう事例も多く、外国人であればなおさら発生しやすい事務ミスと考えられます。なお、同一性の精査においては、「氏名」「年齢」「住所(丁目まで)」がすべて同一で別人という事例もあります。

(2)特殊詐欺を巡る動向

コロナ禍における国の支援策について、日本では、持続化給付金などの不正受給が大きな社会問題となっています(経済産業省のサイトによれば、2022年10月6日時点の不正受給総額は15億2798万8130円で、認定された1511者のうち、1204者は、不正受給金額(総額12億1706万4600円)に加え、20%の加算金及び年率3%の延滞金の全額を国庫に納付済みだということです)。実は、この問題は海外でも同様であり、米労働省監察室は、コロナ禍対応の失業給付金を巡る詐欺被害が456億ドル(約6.5兆円)に達すると明らかにしています。報道によれば、2021年6月時点の試算(160億ドル)を大きく上回っており、コロナ禍の支援金が巨額になるなか、詐欺被害も歴史的な規模になっていますが、にもかかわらず、被害の全容は把握できておらず、今後も増える可能性がある状況だといいます。2020年3月~22年4月に失業給付金を受け取った人の社会保障番号(SSN)をもとに調べたところ、番号が複数の州で登録されていたり、死者や囚人の番号で不正に受給したりしたケースが多数みつかったほか、追跡できない不審なメールアドレスも使われているようです。労働省と司法省は共同で、コロナ対応関連の詐欺事件の摘発を強化するための専門組織を設立、9月には、中西部ミネソタ州で児童向け栄養プログラムから2億4000万ドル(約345億円)以上をだまし取ったとして非営利団体に所属する47名を摘発したほか、犯罪組織による大規模な失業給付金詐欺も摘発されています。前者は、補助金の受給基準が緩和されたのに乗じて、2020年4月以降、レストランなど計250カ所以上を拠点に「貧困家庭の子供に食事を提供した」と虚偽の内容を申告し、州政府を通じて、連邦政府の補助金を不正に受給、国内での高級車や不動産の購入、ケニアやトルコでの不動産購入、海外旅行の費用に充てていた疑いがあると報じられています。また、容疑者らの申告では1億2500万食分以上を提供したことになっていましたが、実際にはほとんど提供されていなかったほか、提供先の欄にはランダムに氏名を創作するインターネットサイトを利用した偽名が使われていたといいます。政府はこれまでに、容疑者側から計約5000万ドル(約70億円)分の現金や資産を回収しています。日本に比べて不正受給金額の規模が桁違いに大きいことに驚かされるとともに、まだ把握できていない実態の解明や回収を急ぎ、犯罪組織等の資金源となることを避けたいものです。

例月どおり、2022年(令和4年)1~8月の特殊詐欺の認知・検挙状況等について確認します。

▼警察庁 令和4年8月の特殊詐欺認知・検挙状況等について

令和4年1~8月における特殊詐欺全体の認知件数は10,500件(前年同期9,374件、前年同期比+12.0%)、被害総額は211.7憶円(179.6億円、+17.9%)、検挙件数は4,011件(4,034件、▲0.6%)、検挙人員は1,468人(1,460人、+0.5%)となりました。ここ最近は認知件数や被害総額が大きく増加している点が特筆されますが、とりわけ被害総額が増加に転じて以降も増加し続けている点はここ数年なかったことであり、あらためて特殊詐欺が猛威をふるっている状況を示すものとして十分注意する必要があります(コロナ禍における緊急事態宣言の発令と解除、人流の増減等の社会的動向との関係性が考えられるところです)。うちオレオレ詐欺の認知件数は2,435件(1,938件、+25.6%)、被害総額は71.8憶円(55.4憶円、+29.6%)、検挙件数は1,066件(862件、+23.7%)、検挙人員は587人(464人、+26.5%)と、認知件数・被害総額ともに大きく増えている点が懸念されるところです。2021年までは還付金詐欺が目立っていましたが、そもそも還付金詐欺は自治体や保健所、税務署の職員などを名乗るうその電話から始まり、医療費や健康保険・介護保険の保険料、年金、税金などの過払い金や未払い金があるなどと偽り、携帯電話を持って近くのATMに行くよう仕向けるものです。被害者がATMに着くと、電話を通じて言葉巧みに操作させ(このあたりの巧妙な手口については、暴排トピックス2021年6月号を参照ください)、口座の金を犯人側の口座に振り込ませます。直近では新型コロナウイルスを名目にしたものが目立ちます。一方、ATMに行く前の段階の家族によるものも含め、声かけで2021年同期を大きく上回る水準で特殊詐欺の被害を防いでいます。警察庁は「ATMでたまたま居合わせた一般の人も、気になるお年寄りがいたらぜひ声をかけてほしい」と訴えていますが、対策をかいくぐるケースも後を絶ちません。なお、最近では、本コラムでも毎回紹介しているように金融機関やコンビニでの被害防止の取組みが浸透しつつあり、ATMを使った還付金詐欺が難しくなっているのも事実で、そのためか、オレオレ詐欺へと回帰している可能性が疑われます(とはいえ、還付金詐欺自体も高止まりしたままです)。最近では、コロナ禍の影響もあり、闇バイトなどを通じて受け子のなり手が増えたこと、外国人の新たな活用など、詐欺グループにとって受け子は「使い捨ての駒」であり、仮に受け子が逮捕されても「顔も知らない指示役には捜査の手が届きにくことなどもその傾向を後押ししているものと考えられます。特殊詐欺は、騙す方とそれを防止する取り組みの「いたちごっこ」が数十年続く中、その手口や対策が変遷しており、流行り廃りが激しいことが特徴です。常に手口の動向や対策の社会的浸透状況などをモニタリングして、対策の「隙」が生じないように努めていくことが求められています。

また、キャッシュカード詐欺盗の認知件数は1,981件(1,634件、+21.2%)、被害総額は27.0憶円(25.0憶円、+8.2%)、検挙件数は1,357件(1,228件、+10.5%)、検挙人員は326人(350人、▲6.9%)と、こちらは認知件数・被害総額ともに増加という結果となっています(上記の考え方で言えば、暗証番号を聞き出す、カードをすり替えるなどオレオレ詐欺より手が込んでおり摘発のリスクが高いこと、さらには社会的に手口も知られるようになったことか影響している可能性も指摘されていますが、増加傾向にある点は注意が必要だといえます。なお、前述したとおり、外国人の受け子が声を発することなく行うケースも出始めています)。また、預貯金詐欺の認知件数は1,427件(1,706件、▲16.4%)、被害総額は16.5憶円(22.1憶円、▲25.7%)、検挙件数は859件(1,422件、▲39.6%)、検挙人員は323人(473人、▲31.7%)となり、こちらは認知件数・被害総額ともに大きく減少している点が注目されます(理由はキャッシュカード詐欺盗と同様かと推測されます)。その他、架空料金請求詐欺の認知件数は1,680件(1,361件、+23.4%)、被害総額は58.0憶円(42.4憶円、▲+36.7%)、検挙件数は119件(156件、▲23.7%)、検挙人員は80人(79人、+1.3%)、還付金詐欺の認知件数は2,812件(2,547件、+10.4%)、被害総額は32.9憶円(28.8憶円、+14.3%)、検挙件数は565件(337件、+67.7%)、検挙人員は101人(66人、+53.0%)、融資保証金詐欺の認知件数は92件(113件、▲18.6%)、被害総額は1.6憶円(1.9憶円、▲17.1%)、検挙件数は24件(13件、+84.6%)、検挙人員は22人(10人、+120.0%)、金融商品詐欺の認知件数は17件(23件、▲26.1%)、被害総額は1.4憶円(2.1憶円、▲30.6%)、検挙件数は5件(7件、▲28.6%)、検挙人員は10人(13人、▲23.1%)、ギャンブル詐欺の認知件数は31件(44件、▲29.5%)、被害総額は2.2憶円(1.4憶円+61.2%)、検挙件数は11件(3件、+266.7%)、検挙人員は8人(3人、+166.7%)などとなっており、オレオレ詐欺の急増とともに、特にコロナ禍の社会情勢をふまえて「非対面」で完結する還付金詐欺や架空料金請求詐欺の認知件数・被害総額ともに大きく増加している点がやはり懸念されます。

犯罪インフラ関係では、口座開設詐欺の検挙件数は459件(447件、+2.7%)、検挙人員は251人(272人、▲7.7%)、盗品等譲受け等の検挙件数は11件(0件)、検挙人員は11人(0人)、犯罪収益移転防止法違反の検挙件数は1,851件(1,471件、+25.8%)、検挙人員は1,473人(1,179人、+24.9%)、携帯電話契約詐欺の検挙件数は62件(110件、▲43.6%)、検挙人員は63人(104人、▲39.4%)、携帯電話不正利用防止法違反の検挙件数は7件(15件、▲53.3%)、検挙人員は4人(12人、▲66.7%)、組織的犯罪処罰法違反の検挙件数は78件(80件、▲2.5%)、検挙人員は14人(16人、▲12.5%)などとなっています。また、被害者の年齢・性別構成について、特殊詐欺全体では60歳以上91.9%、70歳以上74.2%、男性(26.2%):女性(73.8%)、オレオレ詐欺では60歳以上98.5%、70歳以上96.4%、男性(19.7%):女性(80.3%、融資保証金詐欺では60歳以上17.9%、70歳以上5.1%、男性(83.3%):女性(16.7%)、高齢被害者(65歳以上)の割合について、特殊詐欺全体 87.2%(男性23.4%、女性76.6%)、オレオレ詐欺 98.1%(19.5%、80.5%)、預貯金詐欺 98.7%(10.2%、89.8%)、架空料金請求詐欺 52.7%(51.9%、48.1%)、還付金詐欺 87.7%(31.7%、68.3%)、融資保証金詐欺 12.8%(90.0%、10.0%)、金融商品詐欺 29.4%(60.0%、40.0%)、ギャンブル詐欺 54.8%(70.6%、29.4%)、交際あっせん詐欺 0.0%、その他の特殊詐欺 30.0%(100.0%、0.0%)、キャッシュカード詐欺盗 98.7%(13.7%、86.3%)などとなっています。

本コラムでも継続して取り上げている国際ロマンス詐欺については、まだまだ被害が高止まりしている状況です。直近では、滋賀県警東近江署が、同県東近江市の60代の女性が、外国人宇宙飛行士を名乗る人物から地球へ帰還する費用などの名目で計約440万円をだまし取られたと発表しています。報道によれば、女性は2022年6月、インスタグラムで自称ロシア人男性と知り合い、この人物は「国際宇宙ステーション」に勤務していると説明、「日本で人生をスタートさせたい」「1000回言っても伝わらないけど言い続ける。愛している」などのメッセージをLINEで女性に送信、地球に戻るためのロケットの着陸費用などとして金を要求し、信じた女性は8月~9月、5回にわたり計約440万円を振り込んだといいます。その後も要求が続いたため、女性は不審に思って同署に届け出たというものです。女性は「NASA(米航空宇宙局)やJAXA(宇宙航空研究開発機構)など実在する機関の名前が出てきたので、信じてしまった」と話しているということです。また、70代の女性漫画家が国際ロマンス詐欺で7500万円の被害に遭ったと告白、単行本「毒の恋」(双葉社)を出版しています。ネットでのやりとりだけでなぜ信じ、大金を送り続けてしまったのかを「レディースコミックの女王」のベテラン作家が自身の体験を赤裸々に語り、再発防止を訴えています。報道によれば、米国在住の知人が「英語を学んでいない人の文章」と偽物の可能性を指摘したものの、30秒ほどのビデオ通話で疑いは消え、「画面の向こうで私と話したのは確かにマーク本人だった」というものの、実はそれが合成動画「ディープフェイク」だとは当時気づかなかったといいます。「私の仕事に敬意を払い、こんなおばあちゃんを『美しい。年齢差は問題ない。幸せにしたい』と。心臓をつかまれたようで涙があふれた」と振り返っています。この点が国際ロマンス詐欺の大変恐ろしい点だといえます。なお、国民生活センターによると、国際ロマンス投資詐欺の相談は、2018年度は2件、2019年度は5件だったものが、2020年度は84件、2021年度は170件と急増しています。知り合うきっかけは、フェイスブックなどのSNSや婚活サイトが多く、高収入の女性が狙われる傾向があるといい、交際や結婚をちらつかせて気を引き、親密に連絡を取り合う仲になった後に何らかの理由を付けて現金を要求してくることが多いとされます。また、外務省も、海外安全情報に、日本人が国際交流サイトなどを通じて知り合った外国人異性から「あなたに会うために日本を訪ねようとしたが経由地のマレーシアで逮捕された。保釈金が必要」「あなた宛てに送った現金が税関でとめられた。後日送金するので関税を肩代わりしてほしい」などと要求され、マレーシアに送金したところ連絡が取れなくなるといった事案を紹介、「相手方のプロフィルは顔写真や身分証を画像加工ソフトで切り張りした代物であることが多い」などと注意を呼び掛けています。具体的な事例や注意点等について、2022年9月20日付読売新聞の記事「「2人の将来のため」マッチングアプリ使う詐欺多発…恋愛感情を悪用・1億円振り込んだ男性も」が分かりやすくまとめられており参考になりますので、以下、抜粋して引用します。

SNSなどで親しくなり、現金や暗号資産をだまし取る詐欺が佐賀県内で多発している。今年に入って8月末までに24件発生。中でも多いのが、恋愛感情を利用する手口だ。長期間にわたって高額な被害に遭う場合が多く、被害額が1億円を超えたケースもあり、佐賀県警は注意を呼びかけている。県警捜査2課によると、今年の1~8月末に、県内の20~60歳代の男性10人、女性14人の計24人がSNSなどを使った詐欺被害に遭い、計約2億5700万円をだまし取られた。昨年1年間では15人が計約8500万円をだまし取られたことと比較すると、被害が急増していることがわかる。24件のうち、半数の12件に共通しているのはマッチングアプリを利用している点。異性との出会いを求める相手に深い関係を築く目的で接触し、時間をかけてやりとりを重ねる。外国籍や外国在住を語ることも多く、不自然な言葉遣いになることもある。手口としては、出会ってから親密な関係になる過程で、「2人の将来のため」「結婚資金をためるため」などと恋愛感情をもとに、投資を持ちかけるケースが目立つ。最初は少額の投資で利益が出たように見せかけ、それ以降に、より多額の金銭を要求するといった巧妙な場合もある。アプリやSNSはスマートフォンを多用する層の利用が多く、被害は比較的若い世代で起こっている。…傾向として、被害者は相手のことを心から信頼しているという。長期間のやりとりと第三者の介入が難しいことなどから信用しきってしまい、面識がない相手にも金銭を渡すとみられる。今年発生したものの中には、約8か月やりとりが続いたものもあった。県警は一連の詐欺を「被害者を幸せの絶頂にして裏切るという卑劣な行為」としており、「会ったことがない相手にもうけ話をされたときは詐欺を疑い、家族や県警に相談してほしい」と呼びかけている。

特殊詐欺ではありませんが、オンラインカジノを通じて報酬を得る儲け話に不正に勧誘したとして、大阪府警は、名古屋市の男ら十数人を特定商取引法違反(事実の不告知、書面不交付)などの疑いで逮捕しています。大阪府警は、男らのグループが、新たな客を勧誘すれば紹介料が入るマルチ商法(連鎖販売取引)の仕組みで、2021年6月以降、数十億円を集めたとみているといいます。本コラムでもたびたび紹介しているオンラインカジノは、海外の事業者が運営するサイトでポーカーやルーレットに金を賭けることができるものですが、利用すれば、刑法で禁じられた賭博に当たり違法となるものの、事業者が海外にいるため捜査が難しいとされます。報道によれば、大阪府警は今回、オンラインカジノを利用した儲け話に着目、容疑者らは、大阪府内で説明会を複数回開催し、オンラインカジノの利用者を増やせば、紹介料を得られると説明、利用者が賭けた額の一部も報酬として受け取れるとしたものの、毎月約2万5000円を賭ける必要があり、その条件を告げずに契約を結ばせた疑いのほか、契約書を交付しなかった疑いももたれています。さらに容疑者らは、説明会に参加させるため、マッチングアプリやSNSで知り合った相手に「副業に興味はないか」と持ちかけ、会場では「ネオンラインカジノは今後もっと流行する」、「多くの人に紹介すると、とんでもない額の報酬が得られる」と強調、入会金約75万円を支払わせ、報酬などを管理するアプリに登録させていたといいます。本コラムでも山口県阿武町の誤送金問題でもオンラインカジノの横行が問題化していることを取り上げました。国内では公営ギャンブル以外の賭博は法律で禁止されていますが、オンラインカジノは海外で運営されているため、利用しても違法ではないという誤解が広がっています。読売新聞の報道で、神戸大の森井昌克教授(情報通信工学)の分析では、国内から100万~200万人がネットカジノのサイトに接続しているといい、森井教授は「コロナ下で自粛生活が広がる中、24時間遊べる手軽さもあり、20~40代を中心に利用者が増えた」と指摘しています。さらに、ギャンブル依存症の問題も顕在化しており、「ギャンブル依存症問題を考える会」によれば、オンラインカジノに関する相談は、2019年は相談全体の4.2%だったが、2022年5月には12.5%に増加、数千万円の借金を抱える人もいたといいます。

特殊詐欺では、若者などが「小遣い稼ぎという軽い気持ち」で出し子や受け子になってしまうことも問題となっています。そのような中、高齢者からキャッシュカードや通帳をだまし取ったとして、滋賀県警大津署は、大津市の無職の40代の男を詐欺容疑で逮捕しています。報道によれば、「夜、寝る時、(被害者の)おばあさんの顔が浮かんだ」といい、反省して同署に自首したといいます。男は氏名不詳者らと共謀、千葉県柏市の80代の無職女性に、仲間が「健康保険の払い戻しがある」、「申請にはカードと通帳が必要」と電話した後、市職員を装った男が女性宅を訪問し、キャッシュカード2枚と通帳2通をだまし取った疑いがもたれています。男はその後、ATMで現金を引き出したということですが、大津署に1人で自首し、「何も悪くないおばあさんをだまし、悪いことをした。耐えられなくなった」と供述したということです。ほかに3件の事件への関与を示唆しており、同署で余罪を調べています。このような思いに苛まれるくらいなら犯罪に加担しなければよいと考えますが、一方で、このような事例についても広く世間に周知し、犯行を思いとどまらせる

特殊詐欺被害に関する最近の報道から、いくつか紹介します。特殊詐欺は自分がだまされない限り被害は発生しないものであり、事例を知ること自体が、特殊詐欺被害を防止するための有効です。自分がだまされないことはもちろん、いつ何時、身内かどうかを問わず、周囲でだまされている人に遭遇するかも知れず、そういった方の被害を食い止めるためにも、最近の手口を知っておくことは大変意味のあることだと思います。

  • 三重県警鳥羽署は、鳥羽市の80代女性が、自宅に電話をかけてきた男らに計約1億円をだまし取られる被害に遭ったと明らかにしています。報道によれば、2021年6月、男から電話があり「絆の会という会社であなたの名前が使われている。使われないためには、権利を別の人に譲らないといけない」などといわれ、女性が権利譲渡を依頼すると、その後「あなたの行為は犯罪で、刑事裁判になる」と別の電話があり、裁判回避名目で現金を要求されたといい、女性は指示に従い、約3カ月間にわたり現金計約9,930万円を振り込んだり、自宅に来た男に手渡したりしたといいます。2022年9月ごろ、現金を振り込んだ口座が凍結されたと銀行から連絡があり、家族が同署に相談したものです。
  • 自宅への電話でトラブル解決のために必要だとだまされ、高齢者が数千万円を詐取される被害が大阪府内で相次いでいる。府警の担当者は、「怪しい電話はいったん切り、警察に相談してほしい」と呼びかけています。大阪府警特殊詐欺捜査課は、大阪府内の80代女性が名義貸しのトラブル解決費用として現金6520万円をだまし取られたと発表しています。女性は犯人側の指示で、2カ月以上にわたって毎日ATMから50万円ずつ引き出しており、現金がまとまると、受け子に手渡していたといいます。報道によれば、2022年3月、女性宅に国民生活センターの職員を名乗る男から「国立国民支援機構にあなたの名前が登録されている」と電話があり、男は別の人物に登録を変更することを打診し、女性は了承、その後、登録した人物が逮捕されたとして保釈金名目で現金を要求され、5月末までに計6520万円を支払ったといいます。電話の男は、ATMで1日に引き出せる上限の50万円を毎日引き出すように指示、女性は所有する6つの口座から出金し続け、引き出した現金は3回に分けて金融庁職員を名乗る男に手渡していたといいます。女性は電話の中で、預金口座の残高を話しており、ほぼ全額を渡した5月末以降、音信不通になったというものです。また、大阪府警は、府内の60代の男性が約4000万円をだまし取られる特殊詐欺被害に遭ったと発表しています。報道によれば、男性は7月下旬~8月中旬、「あなたの携帯電話のウイルスが原因で90人が被害に遭っている」、「和解金が必要」などとうそを言われ、数十回にわたって指定された口座に振り込んだということです。
  • 大阪府警特殊詐欺捜査課は、大阪府内に住む無職の60代男性が現金約4000万円をだまし取られたと発表しています。男性は預金をほぼ全額詐取された後、別の被害者がだまし取られた1170万円が自分の口座に振り込まれ、口座を凍結されて被害が発覚したものです。報道によれば、「契約するアプリの料金が1年未納になっている」と嘘の説明を受け、利用料金名目で90万円を指定の口座に入金、その後、セキュリティ協会や警視庁の職員を名乗る男から電話があり、和解金や保険料名目で、8月20日までに計約4000万円を複数の口座に振り込んだといいます。翌21日にセキュリティ協会を名乗る男から電話で「口座に誤入金したので送金してほしい」などと依頼、男性は口座に振り込まれていた現金1170万円を同27~28日に指定の口座へ振り込んだところ、この現金は奈良県警が捜査していた別の詐欺事件の被害金だったため、間もなく男性の口座は凍結、9月13日に銀行から口座凍結について連絡を受けたことで、被害が発覚したというものです。
  • 茨城県警組織犯罪対策課は、茨城県常陸太田市の60代の無職女性が現金計約4226万円をだまし取られる特殊詐欺の被害に遭ったと発表しています。今年に入り最高額の被害といいます。報道によれば、7月21日、女性の携帯電話に大手通信会社を装ったショートメッセージが届き、添付の電話番号に連絡すると、セキュリティ関連の団体の職員を名乗る男が「有料サイトの未払い料金がある」などと要求、女性は指定された金融機関の口座に50万円を振り込んだといいます。その後も、警視庁の警察官を名乗る男らから「あなたも警察に疑われている。一度全財産を警察にあずけましょう」などと電話があり、9月1日までに計44回にわたって計約4226万円を振り込んだといい、連絡が取れなくなったことを不振に思った女性が同庁に問い合わせ、被害が発覚したものです。
  • 神奈川県警田浦署は、横須賀市内の80代の夫婦が現金計320万円とキャッシュカードをだまし取られたと発表しています。報道によれば、夫婦宅へ長男を装った男から「書類が郵便局に届いたが、受け取りに金が必要」などと複数回、電話があり、長男の上司の息子を装って夫婦宅を訪れた男に妻が170万円を、夫も金融機関から引き出した150万円とキャッシュカード4枚を手渡したといいます。カードからも多額の現金が引き出されたといい、同署が詐欺事件として捜査しています。
  • 親族になりすまして高齢女性から現金計25万円やキャッシュカードを盗んだなどとして、警視庁蒲田署は詐欺と窃盗の疑いで、18歳の大学生の男を逮捕しています。複数人と共謀し、70代女性に対し、孫を装い「仕事の損失を穴埋めするために援助が必要」などと虚偽の電話をかけ、女性宅を訪問、現金15万円とキャッシュカード1枚を受け取り、大田区内のコンビニエンスストアのATMで現金10万円を引き出し、盗んだというものです。女性が翌日、孫に電話し被害が発覚、蒲田署が防犯カメラなどから男を特定したものです。
  • 茨城県西地域でニセ電話詐欺被害が相次いでいるとして県警は、古河など7警察署管内で「ニセ電話詐欺多発警報」を発令、防災行政無線などによる注意喚起を強化しています。県警ニセ電話詐欺対策室によると、カードをすり替えて盗むキャッシュカード詐欺盗やオレオレ詐欺など、未遂を含め8件発生、被害総額は計約1500万円に上り、9月5日には古河市内で高齢女性2人がキャッシュカードを盗まれる被害が相次いで発生、計170万円を引き出されています。ともに、市役所や金融機関の職員を名乗る男から「カードが古いので交換する必要がある」といった電話がかかってきた後、自宅を訪れた男が既存のカードを封印するふりをしてすり替えて盗む手口だったといいます。同対策室によると、県内で起きたニセ電話詐欺の8月末現在の認知件数は計152件(前年同期比25件減)、被害総額は計約2億8700万円(同約3100万円減)で高止まりが続いているといい、声かけの阻止ができないタンス預金の被害もあり、県警は金融機関への預金を推奨するほか、「犯人と話さないことが有効」として留守番電話設定を呼びかけています
  • 群馬県警安中署は、安中市の80代の無職男性がキャッシュカード4枚をだまし取られ、現金142万9000円を引き出されたと発表しています。警察官を名乗る男から「東京のATMで現金が下ろされている」などと男性宅に電話があり、警察官を装う男が男性宅を訪れ、カードに切り込みを入れて持ち去ったもので、計5回にわたり現金が引き出されたということです。
  • 新潟県警村上署は、村上市の70代女性が、ネット上で振り込みができる「ネットバンキング」の悪用で現金約1500万円をだまし取られる詐欺に遭ったと発表、同署が電子計算機使用詐欺容疑で捜査しています。女性宅に市役所職員を名乗る男から「還付金がある」などと電話があり、女性が口座番号を教えたところ、その後、金融機関の職員を名乗る男からも電話があり、暗証番号を教えたといいます。その後、金融機関から連絡があり、ネットバンキングで自身の口座から他人の口座に送金されていたことに気づいたということです
  • 千葉県警柏署は、電話を用いた特殊詐欺により、同県柏市の90代の男性が3500万円を詐取されたと発表しています。2000万円を渡した後、「不足している」と言われ、さらに現金を要求されたということです。男性のもとに、息子をかたる男から「袋を電車に置き忘れて、駅員に探してもらうように頼んだ」と電話があり、駅員をかたる男から「袋が見つかった」と連絡があったものの、息子をかたる男から再び電話があり、「袋の中身は契約書類で、今日が契約日だから2000万円が必要だ」と要求されました。話を信じた男性は、柏市内の公園で2000万円を手渡したものの、息子をかたる男から「不足している。1000万円が必要だ」、「追加で500万円が必要だ」などと言われ、男性は柏市の路上でさらに1500万円を手渡したものです。その後、連絡がないことを不審に思った男性が息子に電話をかけたことで詐欺が発覚、男性の家族が通報したということです。
  • 徳島県警は、病院職員や息子などを名乗る人物から電話を受けた県内の70代女性が現金700万円をだまし取られたと明らかにしています。詐欺グループは喉の手術で声が変わったと説明し、息子だと信じ込ませていたといいます。県警は留守番電話に設定するなどして「犯人とのファーストコンタクトから断つようにして」と呼びかけています。病院職員を名乗る男から「喉の腫瘍を取る手術をした息子から後で電話があるが、声が変わっている」と連絡があり、その後息子を名乗る男から、会社の支払いに必要なものを入れたかばんを盗まれたと電話があり、しゃがれ声で苦しげに話すのを聞き、信じた女性は「700万円なら用意できる」と応じ、自宅近くで上司の部下だという男に現金を手渡したといいます。女性は1人暮らしで、当日夜に近くに住む息子が食事をしに自宅を訪れ、詐欺と気付いたものです。
  • 鳥取県警は、同県東伯郡の70代女性が架空請求による特殊詐欺の被害に遭い、4550万円をだまし取られたと発表しています。鳥取県内で発生した特殊詐欺事件の被害額としては過去最高ということです2022年6月、女性宅に「利用料金の未納」を通知する内容の封書が届いた。差出人は「NTTファイナンス日テレサイケン買収(株)」で、女性が電話すると、「コンピューターウイルスを出していて被害が出ているので、補償が必要」と言われ、指定の口座に80万円を振り込んだといいます。翌日以降、女性宅に「日本保護協会」「警視庁刑事2課」などを名乗る複数の男から電話が相次ぎ、「お金を払わなくてもいい被害者なので返金する」などと言って口座番号や資産額などを言葉巧みに聞き出し、「預金を守る口座があるので移動させましょう」とATMに出向かせ、約2カ月間で67回にわたり計4550万円を振り込ませたというものです。振込先口座の一部は暗号資産会社が開設したもので、詐欺グループへの捜査の手が及びにくくする狙いがあるとみられています。9月に女性が通帳記入しようとしたところ、通帳が戻らなくなり、金融機関に相談、口座が別の詐欺事件の入金先に悪用され、警察の要請を受けた金融機関が凍結していたことがわかったということです。女性は1人暮らしで、「まさか自分がだまされるとは思っていなかった」と話しているといいます。
  • 秋田県警大仙署は、美郷町内の70代女性が電子マネー5万円分をだまし取られる架空請求詐欺の被害に遭ったと発表しています。女性が自宅のパソコンでネット閲覧中に、画面が停止し電話番号が表示されたため電話すると、「金を払えば直せる」と言われ、コンビニ店で購入した電子マネーの利用番号を伝えたということです。また、能代署は、三種町内の60代男性が電子マネー計11万円分をだまし取られる架空請求詐欺の被害に遭ったと発表しています。男性が自宅のパソコンでネット閲覧中に、画面に電話番号と「不具合がある」などのメッセージが表示されたため電話すると、「セキュリティーソフトが必要」と言われ、コンビニ店で購入した電子マネーの利用番号を伝えてだまし取られたということです。

特殊詐欺の摘発事例として特異なものがありましたので、以下、紹介します。

  • 高齢女性が特殊詐欺の被害に遭い、現金70万円を引き出された事件で、容疑者1人の逮捕に至ったのは、事情を知る匿名の人物から女性宅にかかってきた電話での「告げ口」がきっかけだったというものがありました。京都府警向日町署は、兵庫県加東市の20代の無職の男を窃盗容疑で逮捕、男は氏名不詳者と共謀し、「カードが勝手に使われている。交換が必要」と長岡京市の80代の自営業女性に電話して自宅を訪れ、封筒の中身をすり替える手口でキャッシュカード2枚を盗み、コンビニのATMで70万円を引き出したといいます。男が立ち去った後、何者かから「あなたのカードで現金が下ろされた。警察に言ったらどうか」と女性宅に電話があり、男が乗っていたとみられる車のナンバーを伝えたといい、この情報が男の特定につながったものです。同署は、何らかの理由で詐欺グループが仲間割れし、メンバーが電話をかけた可能性があるとみています。
  • 大津市の80代の無職女性宅に量販店店員を名乗る男から、「カードが悪用されている」「銀行協会職員が訪問する」などと電話があり、女性宅に同職員を名乗る男が訪れ、キャッシュカードをだまし取ろうとしたところ、女性が「おかしい」と気付き、男を追い返したといいます。直後に滋賀県警捜査員が付近で女性宅に電話をかけていた男2人を逮捕、女性宅付近をパトロール中の捜査員が車に乗った不審な2人組を発見、女性宅への発信記録が残った携帯電話を持っており、緊急逮捕したものです。

本コラムでは、特殊詐欺被害を防止したコンビニエンスストア(コンビニ)や金融機関などの事例や取組みを積極的に紹介しています(最近では、これまで以上にそのような事例の報道が目立つようになってきました。また、被害防止に協力した主体もタクシー会社やその場に居合わせた一般人など多様となっており、被害防止に向けて社会全体の意識の底上げが図られつつあることを感じます)。必ずしもすべての事例に共通するわけではありませんが、特殊詐欺被害を未然に防止するために事業者や従業員にできることとしては、(1)事業者による組織的な教育の実施、(2)「怪しい」「おかしい」「違和感がある」といった個人のリスクセンスの底上げ・発揮、(3)店長と店員(上司と部下)の良好なコミュニケーション、(4)警察との密な連携、そして何より(5)「被害を防ぐ」という強い使命感に基づく「お節介」なまでの「声をかける」勇気を持つことなどがポイントとなると考えます。また、最近では、一般人が詐欺被害を防止した事例が多数報道されており、大変感心させられます。

まずはコンビニの事例を取り上げます。特殊詐欺の阻止につながる取組み(ロープレ)の例という点で、2022年10月1日付読売新聞の記事「コンビニ店の詐欺防止割合44%、全国1位の県は…県警の訓練や巡回指導が奏功か」が大変興味深いものでしたので、以下、抜粋して引用します。

2021年の1年間に特殊詐欺(電話でお金詐欺)を店頭で防いだとした長野県内のコンビニ店の割合が全国1位だったことが、日本フランチャイズチェーン協会(東京)の調査でわかった。県警の訓練や巡回指導が奏功しているとみられるが、最近はコンビニ店を経由せずに現金などをだまし取る手口が増えており、県警は「水際対策だけでは全ての被害を防げない。それぞれが防犯意識を高めることも必要だ」としている。…「電子マネーを30万円分買いたいのですが」先月19日、飯綱町普光寺の「セブン―イレブン三水普光寺店」。レジで女性客から声をかけられたアルバイト従業員の女性(43)は、客が通話中だったことを不審に思い、「詐欺かもしれないので販売できない」と答えた。これは地元の防犯協会員が客に扮して店員の接客を確認する長野中央署の「ブラインド訓練」だ。女性は「疑ったら失礼ではないかという思いもあり、注意するのは緊張した。今後は金額の大きさにかかわらず必ず一声かけたい」と話した。同署は20年12月から訓練を本格化し、実際の事例を題材にするなどして、これまでに270回ほど実施してきた。同様の取り組みは県内各署で行われているという。…最近はコンビニ店を経由せず、直接自宅に出向いて現金などをだまし取る「オレオレ詐欺」が増加。県警によると、今月28日までの今年の被害認知件数は133件(前年同期比22件増)、被害額は約3億9124万円(同約1億7935万円増)で、被害額はすでに昨年1年間を上回っている。県警特殊詐欺抑止対策室の水井武文室長は「『最後のとりで』であるコンビニ店での水際対策には継続的に力を入れていく」と強調する。だが、現金などを被害者と直接やりとりしようとする手口もあり、「電話でお金を要求されたら詐欺を疑うことを一人ひとりが徹底してほしい」と注意を呼びかけている。
  • 来店した高齢女性が携帯電話で話す相手の片言の日本語に異変を感じ、特殊詐欺被害を防いだとして高知県警安芸署は、ローソン店員の20代の女性に感謝状を贈っています。プリペイドカード(10万円分)を手にした高齢女性が「お金を返してもらえると電話で言われた」と来店、女性の電話は通話のままで、女性店員が代わると片言の日本語の男と会話がかみ合わなかったため、「詐欺でしょ。警察に伝えます」と言うと「kill(殺す)するよ」と怒りだしたということです。忙しい時間帯ながら丁寧な応対で被害を防いだことをたたえられた女性店員は「事件後、店では声かけや啓発を強めています。素直な方だったのでよかったのですが、『年寄り扱いするな』と怒る人もいて難しいです」と現場の苦労を打ち明けています。電話を代わるという勇気ある行動や、通話中の携帯電話・片言の日本語といった端緒を見逃さなかった点など、日頃からの取組みがベースにあることを感じます。
  • サポート詐欺被害を防いだとして滋賀県警甲賀署は、セブンイレブン甲南病院前店・副店長とアルバイト店員に感謝状を贈っています。来店した甲賀市内の60代女性が5万円分の電子マネーを購入しようとしたため、事情を尋ねたところ、女性は「パソコンがウイルス感染し、電子マネーを購入するよう指示された」と答えたため、詐欺被害を疑い、購入を思いとどまらせて、被害を防いだものです。副店長は「普段から高額な電子マネーを販売する時は声かけをしている。詐欺被害が一つでもなくなってほしい」と話したといい、やはり日頃からの取組みがベースにあることを感じます。
  • 土曜日の午前、茨城県阿見町のセブンイレブン阿見中央7丁目店でアルバイトをしていた高校3年生の山内さんは、50代の女性客の様子が気になっていたといいます。店内に並ぶ電子マネーのカードをじっと見た後、携帯電話の充電器などのコーナーへ。しばらくすると、再び電子マネーの売り場に戻って商品を探していたため、「何かお探しですか」声をかけると、女性は電子マネーのカードを探しているとのこと。女性が伝えた商品名には聞き覚えがなかったものの、「なぜ必要なんですか」重ねて尋ねると、女性はスマートフォンにメールが届き、カードを買うよう求められたと説明、山内さんは詐欺ではないかと疑ったといいます。山内さんは同署から感謝状を贈られ、「お客さんが困っていたら、声をかけるのは当たり前です」と話したといい、大学に進学しても、引き続き同店でバイトを続けるつもりだということです。
  • ニセ電話詐欺の被害を未然に防止したとして、福岡県警糸島署は、署に隣接するコンビニエンスストアローソン糸島警察署前店の店長に感謝状を贈っています。70代女性が、電子マネーを「1万円分購入したい」と店を訪れ、店長は「お年寄りが買うことはあまりない」と不審に思い、すぐに糸島署に相談、署員が駆けつけ、ニセ電話詐欺とわかったものです。女性はコンビニを訪れる前日に「ネットのクイズで8900万円が当たりました」というメールを受信、その振り込みを受けるのに1万円が必要という説明を真に受けて来店していたといい、女性はメールを受信したことを義理の息子に話したところ「それは詐欺ばい。ダメよ、払っちゃ」とたしなめられたが、翌日、家族に黙って店を訪れたということです。家族に詐欺だと指摘されても行動してしまう高齢者の「最後の砦」としてコンビニの役割が大きいことをあらためて痛感させられます。
  • 特殊詐欺被害を未然に防いだとして、和歌山県警和歌山東署は、ローソン和歌山中之島店の店長ら従業員4人に感謝状を贈っています。日ごろから従業員同士が来店者らの情報共有に努めていたことが、詐欺被害防止につながったといいます。50代女性が来店、プリペイドカードを購入しようと、店内の端末や携帯電話を操作していたものの、手間取っている様子で、対応した従業員が事情を尋ねると、「3000円を支払えば、50万円が受け取れる」などと話したことから、従業員2人がかりで「詐欺ではないか」と説得、女性は理解し、店を出たといいます。従業員はその後、勤務に入った店長に女性客のことを伝えていたところ、数時間後、「3000円を支払いたい」という女性が再び現れたため、店長は「同一人物ではないか」とみて、店内に掲示している特殊詐欺防止を啓発する署製作のポップを示しながら、詐欺であることを伝えたといいます。しかし、女性は支払いを急いだため、店長は操作を補助しつつも、端末に異なる支払い番号を入力するなどして時間を稼ぎ、その間に別の従業員が警察に通報し、詐欺被害を防いだというものです。本件では、従業員同士の連携のすばらしさ、機転の利いた対応などが特筆されますが、これらも日頃からの取組みがベースにあることを感じさせます。

次に、金融機関の事例を紹介します。

  • 高齢者の詐欺被害を未然に防いだとして、福岡県警粕屋署は、福岡銀行粕屋支店の寛野さんと西日本シティ銀行久山支店の伊藤さんに感謝状を贈っています。寛野さんは、窓口を訪れた粕屋郡の60代女性から「個人にお金を融資したい」と借り入れの相談を受けたことを不審に思ったといいます。インスタグラムで知り合った米軍医を名乗る女性が日本に渡航するために必要な465万円を振り込みたいというもので、寛野さんは優しく語りかけながら、警察官が銀行に到着するまでの30分間、女性を引き留めたというものです。女性は当初「米軍で働いている方がうそをつくはずがない」と説得に応じなかったが、寛野さんがあきらめずに語りかけると、徐々に聞く耳をもつようになったといいます。寛野さんは「詐欺被害が身近で起こりそうになったと思うと、怖くなった」と心境を語っています。また、伊藤さんは、振込手数料の相談に来た粕屋郡の70代男性の携帯電話の「5千円を振り込むと3億1450万円分のポイントがもらえる」というメッセージをみて詐欺だと気付いたといい、「被害を未然に防ぐよう、これからもお客様へのお声かけを続けたい」と話しています。高齢者は頑固な方が多く、その説得は難しいといわれています。あきらめず根気よく丁寧に接することで心を開いてもらえるという好事例だといえます。
  • 営業時間が終わり、静寂に包まれた銀行の支店で、シャッターを隔てたATMコーナーから、なぜか女性がひとりで話し続ける声が聞こえるという不審な状況を見過ごさず、還付金詐欺の被害を水際で防いだとして愛媛県警今治署は、伊予銀行今治南支店の行員2人に感謝状を贈っています。行員の越智さんは支店で机の上を片付けていたところ、シャッターで遮られたATMコーナーから女性が話す声が聞こえ、内容は聞き取れないものの、もう数分以上経過したことから、気になって、ATMを映すモニターを見ると、高齢の女性がスマートフォンを耳に当てながらATMを操作していたといいます。ほどなく夫とみられる男性が現れ、2人はスマホを持ちながら必死になってATMを操作し続けていたため、「これはおかしい」と感じ、店内にいた支店長代理に声をかけ、ATMコーナーに入ったところ、男性が驚いた様子で「行員が来たので切ります」と言ってスマホの通話を切ったといいます。2人は少し興奮状態に見えたものの、「どうされましたか」とやさしく呼びかけ、一緒に話を聞いたといいます。2人は今治市内に住む70代の夫婦で、「市役所の保険課」を名乗る男性から電話があり、「納め過ぎた保険料の払い戻しがあります」「急いで手続きしてください」などと言われたと話したため、すぐに夫婦の口座を確認、お金はまだ動いていなかったといいます。「ATMに着いたら電話するように」と夫婦が指示された番号は県外の局番だったとのことです。

最後に特殊詐欺対策を巡る最近の動向から、いくつか紹介します。

  • 埼玉県警は、特殊詐欺の手口を周知して被害を防ぐことを目的に、特殊詐欺グループによる「予兆電話」とみられる通話の音声データ1件をホームページで公開、「実際に聞いて体感してもらい、怪しい電話があれば誰かに相談してほしい」と呼びかけています。電話を受けた同県川口市の40代男性が怪しいと感じたことから、被害には至らなかったケースで、報道によれば、県警にデータを提供した男性は、語り口の巧妙さなどを明かして「ひょっとしたら信じていたかもしれない」と振り返っています
▼埼玉県警 実録!これが還付金詐欺の手口だ!音声データ公開!! 還付金詐欺の犯人とのやり取り音声(MP3形式)
▼還付金詐欺の犯人とのやり取り文章(PDF形式)

電話は自宅の固定電話にかかってきて、「市役所健康保険課の○○と申します。○○様でしょうか?」電話の男は市役所職員を名乗り、男性に対してご自宅に累積医療費のご案内と書かれた封筒を送っています。中身は確認してもらえましたか」、送った文書の中に「提出期限が迫っている申請書がある」と主張、男性が身に覚えがないと伝えると電話は切れたというものです。相手の言い分を真に受けた場合、ATMで現金を振り込むよう要求されるなどのケースが多いところ、男性は、市役所職員を名乗る人物からの電話であるにもかかわらず、表示されていた発信元が県外の電話番号だったことから不審に思ったといいます。男性は、自宅の固定電話を携帯に転送しており、偶然録音していたということです。なお、埼玉県警特殊詐欺総合対策本部によると、9月15日現在の速報値で、2022年1月以降に県警が認知した特殊詐欺被害の件数は892件(前年同期比177件増)、被害額は18億2594万円(同2億117万円増)にのぼり、オレオレ詐欺が最多で336件、預貯金詐欺が206件、還付金詐欺が156件だということです。

  • 大阪府警も実際にあった特殊詐欺の電話のやり取りの音声を、HPで公開しています。ある音声では、ATMを操作するよう仕向けた上で「個人情報の取り扱いになるので他の方に見られないように」と、第三者に相談しないよう巧妙に誘導、孫を装った男が涙声で「お金おろしに行ってくれるか」と哀願する“熱演”もあり、「不審な電話はいったん切って、家族や警察に相談を」と府警の担当者は注意喚起しています。
▼大阪府警 実録!これが特殊詐欺の手口です。
  • オレオレ詐欺に注意!
    • 息子や孫のフリをして電話をかけ、「風邪を引いて声の調子が悪い」、「今から病院に行く。」等と言って、息子や孫と声が違うことをごまかした上、「友達の会社のお金を横領して株を買ったことがバレた。今日中にお金を返さないと訴えられる。」、「不倫相手を妊娠させた。示談金が必要。」等と言って、いわゆる親心につけ込み現金をだまし取ろうとする、オレオレ詐欺電話が多発しており、この音声は孫のフリをした詐欺電話です。
    • ホームページ内の「わかりやすい!特殊詐欺被害防止啓発コーナー(防犯チラシなど)」にも「防犯速報オレオレ詐欺!(息子編)」を掲載しており、息子になりすまして現金をだまし取る手口を紹介しています。
    • 音声と合わせてご覧いただき、被害に遭わないように注意してください。
▼実録、これがオレオレ詐欺の手口です。
  • 還付金詐欺急増中!
    • 還付金詐欺が多発しています。大阪府内では、自治体や年金事務所(旧社会保険事務所)等の公的機関の職員を騙り、主に65歳以上の方を対象に「医療費の還付金を振り込みます。」「銀行・コンビニ・スーパー・ショッピングセンター等のATMに行って、今から言う番号に電話してください。」などと言って騙し、金融機関等でATMを操作させて、被害者が気付かないまま犯人側の口座に現金を振り込ませる「還付金詐欺」が多発しています。
    • 「お金を返すからATMに行ってください。」「操作方法を教えるので、ATMから、携帯電話で折り返し電話をしてください。」は詐欺です。
    • ATMを操作して、あなたの口座に現金が振り込まれることは絶対にありません。
  • 還付金詐欺の被害に遭わないために
    • 「お金を返します。」と言われても、一度は電話を切って、親族や正式な公的機関の窓口に電話をかけ直して事実を確認するなど、必ず誰かに相談しましょう。身近な人に相談できない場合は、最寄りの警察署や自治体の相談窓口など信用できるところに相談してください。
    • また、多額の入出金はATMではなく、金融機関の窓口で行い、少しでも不審に思ったら、金融機関職員に直接相談してください。
  • 還付金詐欺を見破るポイント
    犯人は、

    • 市役所職員、社会保険庁、社会保険事務所の職員を名乗ります!
    • 主に「03番号」や「0120番号」に折り返し電話するよう指示します!(携帯電話や「06番号」もあります。)
    • ATMで医療費や税金等の還付金を受け取るように指示します!
    • これら3つの内、どれか1つでも該当すれば、詐欺の可能性が高いので、すぐに相談してください。
▼実録、これが還付金詐欺の手口です。(パート1)
▼実録、これが還付金詐欺の手口です。(パート2)
  • 巧妙化する特殊詐欺被害を防ごうと、警察と行政、自治会が連携し、65歳の高齢者がいる世帯を全戸訪問して注意を呼びかけるという防犯作戦が千葉県茂原市内で始まっています。狙いは「たとえ家族からの電話であっても、お金の話が出たら詐欺」という意識の徹底だといいます。報道によれば、警察は「すぐに電話を切ることができれば、手口が変わっても通用する」と効果に期待を寄せているといいます。特殊詐欺の被害が後を絶たない中、茂原署が高齢者世帯の全戸訪問を計画し、茂原市と緑ケ丘自治会に協力を仰ぎ、同署員と市職員、自治会員で手分けし、約1カ月がかりで約700世帯にローラーをかけるといいます。固定電話の有無や家族構成などを聞き取り、「家族からの電話であっても、金の話が出たら詐欺だから気をつけて」と注意を促すもので、作戦初日の15日は、25人が5班に分かれ、対象世帯のインターホンを押して回った。住民たちは突然の訪問に驚きつつも、熱心な説明に耳を傾けていたと報じられています。
  • 富山県内の6つの信用金庫は、高齢者の顧客を対象に、キャッシュカードによるATMでの出金限度額を1日20万円に引き下げるということです。架空請求詐欺や還付金詐欺のほか、キャッシュカードをだまし取り、ATMで不正出金する特殊詐欺が増えているためです。限度額を引き下げるのは、富山、高岡、新湊、氷見伏木、砺波、石動の各信金で、10月20日から限度額を引き下げるもので、過去3年間にATMでキャッシュカードによる引き出しがない70歳以上の個人顧客が対象で、対象の預金は普通預金、貯蓄預金の2つとなります。富山県内では、にいかわ信用金庫(魚津市)が3月に出金限度額を20万円に引き下げており、県内の信金で仕組みを統一した形となります。
  • 兵庫県尼崎市と東洋大、富士通は、共同研究している犯罪心理学とAIを活用した特殊詐欺防止システムで、生理反応の数値から緊張や混乱といった心理状態を推定できることを確認し、試作品を披露しています。共同研究では2022年3月、65歳以上の市民20人の協力を得て、特殊詐欺を模した電話の音声への反応を調べ、年齢や性別といった基本データに加え、生理反応や疑いやすさなど心理的な特性の指標と、緊張や混乱に関する心理状態の関係性を分析、心拍数や呼吸数などの11の要素で心理状態を推定できることを確認したといいます。試作品はコンピューターを内蔵した高周波センサーで生理反応を測定、AIが緊張度合いを判断し、モニターに変化を映し出すもので、緊張・混乱するほど、心拍数や呼吸数が増加し、より高齢の人、疑いやすい人ほど緊張・混乱しやすいことが数値に表れるとのことです。実用化は高齢者宅にセンサーを置き、電話の際に心理状態を映し出すことを想定、東洋大の桐生正幸教授は「だまされそうになっている人が自身の心理を客観視したり、警報で注意を促したりして特殊詐欺防止に役立てば」と話しているといいます。
(3)薬物を巡る動向

本コラムでもその動向を注視しておりましたが、厚生労働省は、大麻について所持罪だけでなく「使用罪」を創設する方針を固めています。また、大麻由来の医薬品(医療用大麻)を初めて解禁し、てんかんの治療薬として使用できるようにもなります。現行の大麻取締法は、大麻の栽培や所持、大麻を原料とする医薬品の製造を禁じています。使用罪がないのは、制定された1948年当時、神事に使う大麻草を栽培している農家が大麻成分を吸い込む「麻酔い」という症状が出て、処罰されかねないことに考慮したものでした。しかし、近年、若年層を中心に大麻事犯が増加傾向にあることや、乱用を止めるには使用に対するペナルティを科す必要があることなどを理由に、使用罪を創設する必要があるとしたものです。一方、とりまとめでは、「薬物を使用した者を刑罰により罰することは、薬物を使用した者が孤立を深め、社会復帰が困難となり、スティグマ(偏見)を助長するおそれがあるとの意見もあるため、大麻について使用罪の対象とした場合でも、薬物乱用者に対する回復支援の対応を推進し薬物依存症の治療等を含めた再乱用防止や社会復帰支援策も併せて充実させるべきである。特に、薬物乱用や薬物依存の背景事情も考慮に入れ、国民への啓発や、薬物依存症からの回復や、社会復帰を目指す者を地域共生社会の一員として社会全体で支えるなどスティグマ(偏見)も考慮に入れつつ、取組みを一層強化する必要がある」と指摘、再犯防止のためには、大麻を使用した人への罰則で社会復帰を困難にするよりも、依存治療を充実させるべきだとしています。また、大麻の成分に注目し、医薬品に使える部分は規制から外すこととし、制定当時にどの成分が有害かわかっておらず、現行法では規制は部位で区別され、花穂や葉、未成熟の茎、根などが規制対象になっているところ、規制対象の部位でも、有害性が低く、医薬品などに活用できうる成分が含まれることになります。例えば、主成分のうち、テトラヒドロカンナビノール(THC)は幻覚など精神への作用があって有害ですが、カンナビジオール(CBD)は、害は少ないとされます。このため大麻由来のCBDを使ったてんかん薬について、有効性と安全性が確認されて薬事承認を得られれば使えるようにするというものです。なお、この薬は、日本を除いてG7の全ての国で使われており、今春には、欧米で既に薬事承認され大麻由来のカンナビジオールを含む難治性てんかん治療薬「エピディオレックス」の治験計画を厚生労働省が認め、現在国内でも臨床試験が進められているところです。若年層への大麻蔓延の背後にあるのは、「大麻は安全」という誤った認識によるところが大きいと思われます。麻薬単一条約において、「乱用のおそれがあり、悪影響を及ぼす物質」、「特に危険で医療用途がない物質」とされていたところ、2020年に後者が外されたこと(いまだに前者に指定されたままです)や、最近、CBD製品が流通している状況などもそういった誤解を助長している可能性があります。「医療用大麻の解禁は社会的に意義のあることである一方で、「大麻は使用してよい」「大麻は安全である」といった誤った認識がさらに助長されるようなことがないよう、その周知徹底に十分注力していく必要があると考えます。

▼厚生労働省 第4回厚生科学審議会医薬品医療機器制度部会大麻規制検討小委員会 資料
▼資料1-1 とりまとめ(案)
  • 大麻由来医薬品に係る取扱い
    • 大麻から製造された医薬品について、重度のてんかん症候群であるレノックス・ガストー症候群及びドラベ症候群の治療薬(エピディオレックス)は、アメリカを始めとするG7諸国において承認されている。
    • また、麻薬単一条約において、これまで大麻の位置付けは「スケジュールⅠ(乱用のおそれがあり、悪影響を及ぼす物質)」及び「スケジュールⅣ(特に危険で医療用途がない物質)」という規制カテゴリーに位置付けられていたが、WHO専門家会合の勧告を踏まえ、令和2(2020)年のCNDの会合において、スケジュールⅣのカテゴリーから外すことが可決された。これにより、依然として、スケジュールⅠとしての規制を課すことは求められつつ、医療上の有用性が認められた。
    • 日本においても、上記のエピディオレックスについて、国内治験が開始されている。一方、現行の大麻取締法においては、大麻から製造された医薬品について、大麻研究者である医師の下、適切な実施計画に基づき治験を行うことは可能ではあるものの、大麻から製造された医薬品の施用・受施用、規制部位から抽出された大麻製品の輸入を禁止していることから、仮に、医薬品医療機器等法に基づく承認がなされたとしても、医療現場において活用することは認められていない。
    • 国際整合性を図り、医療ニーズに対応する観点から、以下の方向性で見直しを図るべきである。
      • 大麻から製造された医薬品であって、有効性・安全性が確認され、医薬品医療機器等法に基づく承認を得た医薬品について、その輸入、製造及び施用を可能とすること。
      • このため、大麻取締法第4条においては、大麻から製造された医薬品の施用・受施用、交付、受施用を禁止していることから、当該第4条等の関係条項を改正すること。
      • 他の麻薬成分の医薬品と同様、大麻及び大麻成分についても、麻向法に基づく麻薬製造・製剤、流通、施用に関する免許制度等の流通管理の仕組みを導入すること
    • その際、「大麻を使用してよい」といった大麻乱用に繋がるような誤った認識が広がらないように留意するとともに、大麻由来の医薬品を麻向法における麻薬の流通管理に移行していくに当たり、当該医薬品が麻薬となる場合に、医薬品の製造・販売業者や医療関係者においても、麻薬として適正に管理されるよう薬剤の管理を徹底していくことや、患者にとって負担にならない円滑な施用や薬剤管理のあり方を検討していく必要がある。なお、現行の大麻取締法において実施している大麻から製造された医薬品に係る治験については、治験参加者に対しても当該医薬品の厳重な管理を求められているが、制度見直し後においては、他の麻薬と同様の水準での管理に留まる点を含め、円滑な施用が可能となるよう、十分な周知・徹底を図るべきである。
  • 大麻乱用に係る対応のあり方
    • 薬物事犯検挙人員を見ると、大麻事犯の検挙人員は8年連続で増加、令和3(2021)年は過去最多の5,783人となっており、平成25(2013)年との比較で見ても、薬物事犯全体の検挙人員の1.1倍に対し、大麻は3.6倍と大幅に増加している状況となっている。
    • また、年齢別で見ても、30歳未満が3分の2近くを占めており、平成25(2013)年との比較で見ても5.5倍、20歳未満では16.4倍と大幅に増加、若年層における大麻乱用が拡大している。
    • G7における違法薬物の生涯経験率で見ると、日本における違法薬物の生涯経験率は諸外国と比較して低い一方、国内における経験率の推移を見ると、大麻に関しては覚醒剤、コカイン、危険ドラッグと比べて最も高くなっている。
    • 大麻のいわゆる使用罪に対する認識を見ると、大麻の所持で検挙された者への調査結果では、使用が禁止されていないことを知っていた割合が7~8割台と、多くは大麻の使用罪がないことを認識した上で使用している。また、そのうち2割程度は使用罪がないことが使用へのハードルを下げていることが明らかとなっており、使用の契機にも繋がっているといえる状況である。
    • また、大麻の使用罪がない現状において、大麻の使用に関する証拠が十分であった場合であっても、その所持に関する証拠が十分ではない場合、所持罪でも使用罪でも検挙することができない状況が生じている。
    • 大麻に含まれるTHCが有害作用をもたらすことが示されており、自動車運転への影響、運動失調と判断力の障害(急性)、精神・身体依存の形成、精神・記憶・認知機能障害(慢性)等、同成分の乱用による重篤な健康被害の発生が懸念される
    • 一方、現行の大麻取締法においては、いわゆる部位規制(成熟した茎、種子及びこれらの製品(樹脂を除く。)については規制の対象外とし、それ以外の部位を規制対象としている。)を課しているが、実態としては、規制部位か否かを判断する際、THCの検出の有無に着目して取締りを行っている。
    • また、麻向法においては、大麻草由来以外の化学合成されたTHCについて麻薬として規制を課している。
    • 一般的に、薬物事犯での薬物使用の立証は、過去の判例等に基づけば、被疑者の尿を採取し、鑑定することにより行っている。このため、大麻の使用を問う場合においても、同様に、大麻使用後の尿中の大麻成分の挙動を把握しておくことが重要である。
    • その際、受動喫煙やTHCが混入しているおそれのあるCBD製品の摂取によるTHC代謝物の尿中排泄への影響についても確認する必要がある
    • これまで、政府においては、「第五次薬物乱用防止五か年戦略」、「再犯防止推進計画」(平成29年12月15日閣議決定)に基づき、薬物乱用は犯罪であるとともに薬物依存症という病気である場合があることを十分に認識し、関係省庁による連携の下、社会復帰や治療のための環境整備など、社会資源を十分に活用した上での再乱用防止施策を推進している。
    • 一方、覚醒剤事犯における再犯者率は、依然高水準で推移しており、検挙人員の7割近くに至っているほか、保護観察が付される事例が多くない、保護観察対象者であっても保健医療機関等による治療・支援を受けた者の割合は十分とはいえない水準にとどまっている、保護観察期間終了後や満期釈放後の治療・支援の継続に対する動機付けが不十分となっている、民間支援団体を含めた関係機関の連携は必ずしも十分でない、といった課題も見られる。
    • 薬物依存症者に対する医療支援に関しては、大麻取締法においては規定がなく、麻向法に基づく麻薬中毒者制度の対象となっている。一方、薬物依存症者については、平成11(1999)年の法改正により、精神保健及び精神障害者福祉に関する法律(昭和25年法律第123号)における精神障害者の定義の対象となることで、同法に基づく措置が可能となっており、実質的に重複した制度の対象となっている。
    • 実態を見ると、平成20(2008)年以降、麻薬中毒者の措置入院は発生しておらず、麻薬中毒者の届出件数についても、平成22(2010)年以降、年間届出件数が一桁台で推移しており、制度として実務上機能していない状況になっている。
    • 大麻取締法の大麻の単純所持罪は、大麻の使用を禁止・規制するために規定されているにもかかわらず、大麻に使用罪が存在しないことのみをもって大麻を使用してもよいというメッセージと受け止められかねない誤った認識を助長し、大麻使用へのハードルを下げている状況がある。これを踏まえ、若年層を中心に大麻事犯が増加している状況の下、薬物の生涯経験率が低い我が国の特徴を維持・改善していく上でも、大麻の使用禁止を法律上明確にする必要がある。
    • また、大麻の乱用による短期的な有害作用、若年期からの乱用によって、より強い精神依存を形成するなど、精神・身体依存形成を引き起こす危険性があることから、乱用防止に向けた効果的な施策が必要となる。大麻に依存を生じるリスクがあることも踏まえ、乱用を早期に止めさせるという観点からも、大麻使用に対するペナルティを明確にする必要がある。
    • そのため、他の薬物法規と同様に成分に着目した規制とし、大麻から製造された医薬品の施用を可能とするに当たり、不正な薬物使用の取締りの観点から、他の薬物の取締法規では所持罪とともに使用罪が設けられていることを踏まえ、大麻の使用に対し罰則を科さない合理的な理由は見いだしがたく、上記に基づく医薬品の施用・受施用等を除き、大麻の使用を禁止(いわゆる「使用罪」)するべきである。
    • 薬物を使用した者を刑罰により罰することは、薬物を使用した者が孤立を深め、社会復帰が困難となり、スティグマ(偏見)を助長するおそれがあるとの意見もあるため、大麻について使用罪の対象とした場合でも、薬物乱用者に対する回復支援の対応を推進し、後段に述べる薬物依存症の治療等を含めた再乱用防止や社会復帰支援策も併せて充実させるべきである。特に、薬物乱用や薬物依存の背景事情も考慮に入れ、国民への啓発や、薬物依存症からの回復や、社会復帰を目指す者を地域共生社会の一員として社会全体で支えるなどスティグマ(偏見)も考慮に入れつつ、取組みを一層強化する必要がある。
    • なお、薬物の所持・使用に刑事罰が設定されても、薬物の所持・使用事犯に対しては、諸般の事情が考慮され、検察官の判断により起訴猶予となることや訴追されて有罪となったとしても司法の判断により全部執行猶予となることもあるところ、平成28(2016)年6月より、刑の一部執行猶予制度が導入され、薬物使用者等の罪を犯した者に対し刑の一部について一定期間執行を猶予するとともに、その猶予中保護観察に付すことが可能となり、地域社会への移行、社会復帰後の生活の立て直しに際して、指導者・支援者等がより緊密に連携し、必要な介入を行えることとなっている。
    • 規制すべきはTHCを始めとする有害な作用をもたらす成分であることから、従来の大麻草の部位による規制に代わり、成分に着目した規制を導入し、これを規制体系の基本とする方向で検討を進めるべきである。
    • その際、麻向法の枠組みを活用することを念頭に、他の麻薬成分と同様、医療上必要な医薬品としての規制を明確化するとともに、麻薬として施用等を禁止する対象となる成分を法令上明確化していくべきである。
    • 参考・麻向法の政令で麻薬として規定されている成分
      • △6a(7)-テトラヒドロカンナビノール(THC)
      • △6a(10a)-テトラヒドロカンナビノール(THC)
      • △7-テトラヒドロカンナビノール(THC)
      • △8-テトラヒドロカンナビノール(THC)(化学合成に限る。)
      • △9-テトラヒドロカンナビノール(THC)(化学合成に限る。)
      • △9(11)-テトラヒドロカンナビノール(THC)
      • △10-テトラヒドロカンナビノール(THC)
      • ※化学合成に限らず、大麻由来の物も対象として規定すべきである
    • また、上記以外の成分であって、有害性が指摘されている成分(THCP、HHC等)についても、その科学的な知見の集積に基づき、麻向法、医薬品医療機器等法の物質規制のプロセスで麻薬、指定薬物として指定し、規制していくべきである。
    • THCは体内に摂取された後、代謝され、THC代謝物(THC-COOH-glu)として尿中に排泄されることが知られており、使用の立証には、THC代謝物を定量することを基本とすべきである。その際、スクリーニング法とGC/MS等の一定の感度をもった精密な確認試験など、実施可能な試験方法の導入を検討すべきである。
    • 大麻の喫煙者に比べて一般に受動喫煙では、尿中に現れるTHC代謝物の濃度は低く、測定時の濃度により、喫煙者と受動喫煙の区別は可能であると考えられることから、尿検査の実務においては、大麻の喫煙と受動喫煙によるTHCの摂取を尿中のTHC代謝物濃度で区別することにより対応していくべきである。また、CBD製品に混入するおそれのあるTHCの尿中への代謝物の影響も考慮すべきである。
    • 現行の麻薬中毒者制度については、実務上も含め機能していないことから、同制度を廃止する方向で麻向法の関係条項を改正すべきである。その際、麻向法では、都道府県に麻薬中毒者等の相談に応ずるための職員(麻薬中毒者相談員)を置くことが可能とされており、麻薬中毒者相談員を置いている都府県も存在する。薬物依存症等に対する相談体制を様々な形で整えるのは重要であることから、法令上の位置付けについて検討しつつ、存続させていくべきである。
    • また、大麻について使用罪の対象とし、薬物乱用に対する取締りを強化しつつも、一方で、大麻を含む薬物依存症者に対する治療や社会復帰の機会を確保することは極めて重要である。そのため、薬物使用犯罪を経験した者が偏見や差別を受けない診療体制や社会復帰の道筋を作るために関係省庁が一体となって支援すべきであり、この機会に取組みを一層強化する必要がある。
    • 具体的には、
      • 薬物依存症者への医療提供体制の強化として、認知行動療法に基づく治療回復プログラムを中心とした専門医療機関の充実・普及、薬物依存症治療にあたる医療従事者の育成
      • 刑事司法関係機関等における社会復帰支援に繋げる指導・支援の推進として、矯正施設・更生保護施設等における効果的な指導・支援の推進、保護観察対象者に対する薬物再乱用防止プログラムの提供など効果的な指導・支援の推進
      • 地域社会における本人・家族等への支援体制の充実として、薬物犯罪から治療等に繋げるための相談・支援窓口の周知と充実、相談・支援に携わる人材の育成、刑事司法関係機関と医療・保健・福祉等が連携した社会復帰支援体制の強化
      • 薬物依存症者に関する正しい理解の促進
      • 薬物乱用の実態や再乱用防止に向けた効果的な治療回復プログラム等の指導・支援方策の効果検証などに関する研究の推進

      など、薬物乱用防止五か年戦略の下での対応を強化すべきである。

  • 大麻の適切な使用の推進に向けて
    • 大麻草には約120種類のカンナビノイド成分が存在しているといわれ、その主な成分として、THC以外に、CBDが知られている。
    • CBDについては、幻覚作用を有さず、抗てんかん作用や抗不安作用を有するとされており、前述のエピディオレックスのように医薬品の主成分としても活用されている。また、それ以外にも、欧米を中心にCBD成分を含む様々な製品群が販売されており、市場規模が急速に拡大しているとされている。また、大麻草から、バイオプラスチックや建材などの製品が生産される海外の実例もあり、伝統的な繊維製品以外にも、様々な活用が進んでいる状況が見られる。
    • 我が国の現行制度においても、主に大麻草の規制部位以外から抽出されたとされるCBD成分を含む製品(CBD製品)が、海外から輸入され、食品やサプリメントの形態で販売されている状況となっている。
    • 一方、国内で販売されているCBD製品から、THCが微量に検出され、市場から回収されている事例があり、安全な製品の適正な流通・確保が課題となっている。
    • また、上記の通り、大麻に係る規制体系を、THCを中心とした成分規制を原則とする場合、現行とは異なり、花穂や葉から抽出したCBD等の成分が利用可能となる。ただし、大麻草のような自然物質を原料とする以上、CBD製品に規制対象成分であるTHCの残留が完全なゼロとすることは可能なのか、といった指摘がある。そのため、CBD製品中に残留する不純物であるTHCの取扱いについて検討する必要がある。
    • 大麻に係る部位規制から成分規制へと原則を変更することに伴い、法令上、大麻由来製品に含まれるTHCの残留限度値を設定、明確化していくべきである。なお、その際、当該限度値への適合性に関しては、医薬品とは異なり、食品やサプリメント等であることを踏まえ、製造販売等を行う事業者の責任の下で担保することを基本として、必要な試験方法も統一的に示すべきである。
    • 一方、残留する成分の特性上、「野放し」となることがないよう、買い上げ調査等を含め、行政による監視指導を行うべきである。なお、THC残留限度値を超える製品は「麻薬」となるため、所持、使用、譲渡等が禁止されることとなる。
    • その際、CBD製品中のTHC残留限度値については、栽培する大麻草に係るTHC含有量とは位置付けが異なることに留意した上で、欧州における規制を参考に、保健衛生上の観点から、THCが精神作用等を発現する量よりも一層の安全性を見込んだ上で、上記における尿検査による大麻使用の立証に混乱を生じさせないことを勘案し、適切に設定すべきである。
    • また、CBDについては、酸及び熱を加えることにより、一部がTHCに変換するという知見もある。このように無免許で麻薬を製造する行為は麻薬製造罪に該当することから、その取締りを徹底するなどの必要な対応を検討していくべきである。
    • 加えて、THCAについては、それ自体ではTHCと同様の精神作用はないものの、電子たばこ器具のような通常使用する様態で、高温で加熱等して吸引する場合など、容易にTHCに変換し、THCとして摂取されることが判明しており、このような麻薬の前駆物質に対し、麻向法において指定する方法を検討し、所持・使用を規制すべきである。同時に、調査・研究を進め、同様に他の麻薬成分の前駆物質に対しても適切な対応が可能な仕組みを検討すべきである。
    • THC、CBD以外のカンナビノイド成分については、未知の部分も多いことから、これらの成分に対する更なる調査・研究を深めていくべきである。

関連して、この10月~11月の2カ月、「麻薬・覚醒剤・大麻乱用防止運動」が展開されています。上記のような動向とあわせ、薬物の危険性・有害性などに関する正しい理解が社会に浸透するような実りある取組みを行っていただきたいと思います。

▼厚生労働省 麻薬・覚醒剤・大麻乱用防止運動の実施について~薬物乱用の根絶に向けた啓発を強化します~
  • 厚生労働省は、都道府県と共催して、10月1日(土)から11月30日(水)までの2か月間、「麻薬・覚醒剤・大麻乱用防止運動」を実施します。
  • 令和3年の我が国の大麻事犯の検挙人員は、8年連続で増加し、過去最多を更新しました。このうち、30歳未満の若年層が約7割を占めており、大麻乱用期であることが確実と言える状況です。
  • 麻薬、覚醒剤、大麻、危険ドラッグ等の薬物の乱用は、乱用者個人の健康上の問題にとどまらず、さまざまな事件や事故の原因になるなど、公共の福祉に計り知れない危害をもたらします。一度でも薬物に手を出さない・出させないことは極めて重要であり、国民一人ひとりの理解と協力が欠かせません。
  • この「麻薬・覚醒剤・大麻乱用防止運動」は、薬物の危険性・有害性をより多くの国民に知っていただき、一人ひとりが薬物乱用に対する意識を高めることにより、薬物乱用の根絶を図ることが目的です。
  • 「麻薬・覚醒剤・大麻乱用防止運動」の概要
    • 実施期間 令和4年10月1日(土)から11月30日(水)までの2か月間
    • 実施機関
      • 主催:厚生労働省、都道府県
      • 後援:内閣府、警察庁、法務省、最高検察庁、財務省税関、文部科学省、海上保安庁、公益財団法人麻薬・覚せい剤乱用防止センター
    • 主な活動 例年実施している麻薬・覚醒剤・大麻乱用防止運動地区大会は、新型コロナウイルスの影響により、地域の実情に配慮した上で下記活動を実施します。
      • 正しい知識を普及するためのポスター、パンフレット等の作成・掲示
      • 薬物乱用防止功労者の表彰

こうした国内の動向に水を差すような重大かつ深刻な動きがありました。バイデン米大統領が、大麻(マリファナ)の単純所持に関する過去の犯罪について全て、恩赦をすると発表したことです。バイデン氏は大統領に当選する前から「大麻使用の非犯罪化」を公約に掲げており、2022年11月の中間選挙を前に、大きな政策変更を打ち出した形となります(なお、リベラル色の強い民主党支持者には大麻を合法にするよう求める声が多い一方、保守的な高齢者や共和党の支持者には拒否感を持つ人が少なくない状況があります)。報道によれば、バイデン氏はビデオメッセージで、「有罪判決を受けた人は、雇用や住宅、教育の機会を奪われる可能性がある」、「大麻の所持だけで刑務所に送られることは、あまりにも多くの人々の人生を狂わせてきた。大麻はすでに多くの州で合法化されている」と述べています。連邦法では現在、大麻はヘロインやLSDと並んで最も危険な物質として分類されていますが、バイデン氏は、この分類も見直しを進めると明らかにしています。恩赦の対象となるのは、過去に大麻所持によって連邦法違反で有罪判決を受けた人で、1991年以降、2021年までに6500人に上るほか、バイデン氏は各州知事に対し、州法違反で所持に問われたケースも同様に恩赦をするよう求めています。大麻所持をめぐっては、白人と黒人では大麻の使用率が変わらないのに、白人に比べ、特に黒人らマイノリティーが不公平に有罪判決を受けてきたとされ、バイデン氏は「今こそ誤りを正す時だ」と指摘、大麻所持による犯罪歴がこれまで、雇用や住宅の確保などに悪影響を与えてきたことを踏まえ、今後は恩赦の証明書の発行などを目指すということです。米国では19州と首都ワシントンで大麻の個人所持や使用が合法化されているほか、初回の少量所持については罰しない「非犯罪化」の実施は26州、医療用大麻の合法化は37州に及んでおり、米連邦捜査局(FBI)によると、2021年に大麻所持の容疑で逮捕された人数は州法違反者などを含め、17万人を超えています。

実際、直近の米調査会社ギャラップの調査によれば、米国の大麻に関する世論は二分しており、大麻が社会にもたらす影響について、50%が「悪い」、49%が「良い」と答えていること、米国人の48%は大麻を使用した経験があること、「現在使用しているか」との質問では、大麻の使用率(16%)がたばこの喫煙率(11%)を上回ったこと、大麻を消費する人の間では、大麻が利用者に良い影響をもたらすと思う人が70%、社会にとって良い影響があると考える人は66%だった一方、大麻を使用したことが一度もない人はその逆で、72%が社会に悪影響をもたらすと答え、62%は利用者に悪影響があると考えていること、米国の成人の68%は大麻を合法化すべきと考えていることなどが判明しました(2022年9月4日付Forbes)。少なくとも、その悪影響を懸念する一定の割合がある中での(医学的・科学的根拠を基にした判断というより)政治的判断であるといえます。本コラムでも大麻解禁を巡る議論を継続的に取り上げてきましたが、確かに、暴力を伴わないのに大麻の単純所持で有罪判決を受け長年収監される黒人の若者が白人に比べて多い実態があり、米司法制度の人種的不均衡が是正される可能性があること、日本と異なり大麻がある程度普及し、限界利用率(5割とする意見があります)に近づくにつれ、これ以上摘発を続けるよりも、(解禁しても治療コスト自体はそれほど上昇することはないため)適切な治療等を維持する方が社会全体のコストとして有用であるとの意見もあること(すなわち、「捜査機関が他の犯罪取り締まりに要員を割ける」、「合法化して課税すれば財源として有望」といった意見も多いこと)、大麻の流通に犯罪組織が関わっていることが多く、合法化することで犯罪組織の資金源に打撃を与えられること、連邦レベルで大麻の分類が緩和されれば主要な米株式取引所で大麻関連企業の上場が認められたり、大手銀行がそうした企業に融資に動きやすくなったり、外国企業による米国での大麻製品販売が解禁されたりする可能性もあることなど、大麻合法化には一定のメリットも考えられます。それでも麻薬単一条約において「乱用のおそれがあり、悪影響を及ぼす物質」と指定され、その危険性・有害性は医学的・科学的に明らかであることをふまえれば、大変危惧される方向転換であり、日本への悪影響が懸念される状況だといえます。

あらためて国内に目を転じてみると、大麻成分が入ったクッキーを大量に手作りしたとされる名古屋市の男が東海北陸厚生局麻薬取締部に逮捕され、大麻取締法違反罪で起訴されるという事件がありました。大麻の加工食品は国内でも広く流通しているとみられますが、摘発例は少ない現状があります。報道によれば、捜査関係者は「たばこのように吸うより罪悪感を抱きにくい。若者が手を出すことで拡大する恐れがある」と警戒を強めていると報じられていますが、正にそのとおりかと思います。なお、報道によれば、「自ら栽培した大麻の葉を6時間ほど温めながらバターと混ぜて「大麻バター」を製造。クッキーの生地には国産の小麦粉を使うなど、味にもこだわった。密売人を介して全国の延べ2500人以上に1枚3500~4000円程度で販売したとみられる。一般に、クッキーなどの加工食品で大麻を摂取すると、胃で消化されるにつれ成分がゆっくりと浸透するため、巻きたばこなどで吸引する場合と比べて長時間、じわじわと作用するとされている。…大麻が合法の国ではクッキーのほか、あめやチョコレート、ラムネなどさまざまな加工食品が流通。「食用」を意味する「エディブル」などと呼ばれている。大麻入りと知らずに国内に持ち帰った人が土産として配り、口にした人が病院に搬送された事例もある。日本での摘発事例は目立って増えてはいないが、SNS上では「麻クッキー」「(大麻に含まれる幻覚成分の)THCクッキー」といった書き込みが徐々に増加。捜査関係者は「確実に違法流通が増している」とみる。」とのことです。若年層による大麻の乱用が問題となる中、繰り返しになりますが、慢性的に大麻を使うと、脳が萎縮し記憶などに障害が出る恐れがあるほか、脳の細胞はひとたび損なわれると、回復は極めて困難であることをもっと徹底的に周知する必要がある状況といえます。

財務省が発表した2022年上半期(1~6月)の税関による関税法違反事件の取り締まり状況によれば、覚せい剤などの不正薬物の摘発件数は航空貨物での密輸が前年同期比2倍の92件、国際郵便物が10%増の390件、合わせて全体の9割以上を占めたということです。コロナ禍を受けた各国の入国制限で、旅客による密輸が減っている一方、貨物の悪用が目立っており、全体の件数は22%増の509件、押収量は13%減の606キロだったといいます。報道によれば、財務省の担当者は、件数が増えて押収量が減ったことについて「小口の郵便物による密輸が散見される」と指摘しています。本コラムでは、毎月犯罪統計の推移を追っていますが、コロナ禍のタイミングで、覚せい剤だけでなく大麻の検挙件数・検挙人員は大きく減少し続けている傾向が見られています。一方で、これらの薬物の常習性の高さを考えれば、大きく減少し続けることは考えにくく、そうなると、(関係者の必死の努力にもかかわらず)摘発網をかいくぐった密輸や巧妙な手法による流通などが拡がっている可能性が高いということかと思います。

若者への大麻などの薬物蔓延を防ごうと、和歌山県は、県内在住のSNSのツイッター利用者を対象に、大麻の隠語などを検索した場合、画面上に「警告」などと表示する取り組みを始めています。大麻摘発者はSNSを通じて大麻の入手先を知るケースが多いため、広告会社と協力して企画したということです。報道によれば、県の担当者は「大麻は心身に影響がある」として、薬物の危険性啓発なども併せて進めていくとしています。大麻の摘発者数は全国で5年連続、過去最多を更新、2021年の摘発者数は5482人で、30歳未満が3817人と全体の69・6%を占めています。和歌山県の取組みは、具体的には、インターネット上の閲覧履歴などをAI(人工知能)が分析し、利用者の好みに応じた広告(リスティング広告)を表示する仕組みを応用、広告会社と協力し、ツイッター利用者が大麻の隠語とされる「クサ」「ハッパ」「野菜」などの言葉を検索すると、画面上に「警告」と表示し、「大麻の所持・栽培は犯罪です。心身に悪影響があります」などと注意喚起するものです。同様の取り組みは山口県でも2021年7月~2022年2月に実施され、2021年上半期の摘発者数10人に対し、2022年上半期は6人に減少する効果があったということです。若年層の大麻蔓延の背景には、「先輩など周囲から誘われた」、「興味本位で」といった軽い気持ちからのものが多いとされ、こうした取り組みはある程度、犯罪を抑止することにつながる可能性があると考えられます。

前述したとおり、犯罪統計資料の推移を見ると、覚せい剤や大麻の検挙件数・検挙人員が大きく減少する中、麻薬等取締法違反の検挙件数・検挙人員は増加していることが分かります。最近では、「RUSH」と呼ばれる、亜硝酸エステル系指定薬物を含む危険ドラッグの小瓶を、個人で国際郵便で密輸するケースが相次いでいる点にも注意が必要です。2022年1~6月の摘発件数は164件で前年同期の約2.5倍に上り、2021年1年間の161件を上回ったと横浜税関が発表、半期での記録を取り始めた2019年以降最悪のペースだということです。海外から届く郵便物の約9割が川崎東郵便局で取り扱われ、横浜税関が検査していますが、ラッシュについては上半期、全国の摘発の約9割を横浜税関が占めたといいます。ラッシュは性的興奮を高める作用があるとされ、ネットなどで流通、厚生労働省は2007年、主成分の亜硝酸イソプロピルなどを医薬品医療機器法(旧薬事法)の「指定薬物」とし、輸入や販売を原則として禁じたほか、2015年には関税法で「輸入してはならない貨物」に追加されています。ただ、国によっては規制されておらず、ネットで1本(10ミリリットル)500円~数千円で注文し、1~2本ずつ個人が小口で密輸する事例が目立つということです。

直近で暴力団が関与した事例としては、木製机に棒状の大麻樹脂約4.8キロを隠してインドから輸入したとして、福岡県警と門司税関、九州厚生局麻薬取締部は、道仁会系組員ら3人を大麻取締法違反(営利目的輸入)の疑いなどで逮捕したというものがありました。報道によれば、机に隠した大麻樹脂は40本で、末端価格は約4800万円と、全国の警察が押収した大麻樹脂は2020年が約3.4キロ、2021年が約2.1キロであるところ、今回の摘発量はそれを大きく上回っています。組員は「大麻が(机の中に)あるのは知らなかった。インドの机は珍しいので売れば金になると思った」と否認していますが、組員以外の容疑者は「組員から受け取りを頼まれた」などと供述しているということです。本事件では、輸入貨物の検査をした門司税関の職員が、机の天板や脚などの中に棒状の大麻樹脂が隠されているのを発見、大麻樹脂を代替物に取り換えて運ばせる「泳がせ捜査(コントロールドデリバリー)」をしたものです。乾燥大麻を濃縮した大麻樹脂は幻覚成分が強く、国内では乾燥大麻よりも高値で売買されているといい、福岡県警などは暴力団の資金源となっていた可能性があるとみて捜査を進めているといいます。

国内の薬物事犯に関する報道から、いくつか紹介します。

  • 神奈川県警津久井署は、千葉市代表監査委員を覚せい剤取締法違反(所持、使用)の疑いで逮捕しています。千葉市内の自宅で覚せい剤を所持したうえ、覚せい剤を使用したというもので、別件の薬物事件を捜査中、容疑者が覚せい剤を所持したなどの疑いが浮上、家宅捜索で覚せい剤が見つかり、任意の尿検査で使用した疑いが判明したということです。千葉市人事課によると、容疑者は花見川区長や総務局長などを歴任し、2021年3月末に定年退職、同年4月からは再任用で総務局参与を務め、22年4月に特別職の市代表監査委員に就任したといいます。
  • 最近の傾向として、大麻栽培の事件が増えていることが挙げられます。密売用の大麻草を山中などで大量に栽培したなどとして、大阪府警薬物対策課などは、大麻取締法違反の疑いで、職業不詳の夫婦ら8人を逮捕しています。共謀し2020年5月~2021年8月ごろ、泉佐野市内の山中や民家で大麻草533本を営利目的で栽培したなどというもので、この夫婦は親族や知人らとともに、民家とアパート、山中の3カ所で大麻草を栽培、夫婦の自宅などからは現金約593万円のほか、大麻草1961本や乾燥大麻約6.7キロ(末端価格約4022万円相当)が押収されたといいます。大阪府警は夫婦らが大麻を密売していたとみて販売ルートなどを調べているということです。2021年6月、府警泉佐野署管内の駐在所に「山中で大麻のようなものが栽培されている」と市民から申告があり、発覚したものです。また、茨城県警は、技能実習生として働いていた畑で雇い主の知らぬ間に大麻草を栽培したとして大麻取締法違反(栽培)の疑いでタイ国籍の農業手伝いの容疑者を再逮捕しています。大麻を共同所持した疑いで8月に逮捕されていましたが、6月ごろから8月18日までの間、鉾田市徳宿の畑で働いており、大麻草を栽培していたというものです。警察は約13平方メートルの範囲にあった大麻草32本を押収、いずれも成長した状態だったといいますが、雇い主は栽培に気付かなかったということです。県警は8月18日、大麻取締法違反(共同所持)の疑いで容疑者と同居していたタイ国籍の技能実習生を現行犯逮捕、同容疑者は共同所持容疑を否認しましたが、9月に覚せい剤取締法違反(使用)の疑いで再逮捕されています。
  • 上記は技能実習生の犯罪ですが、国際郵便で合成麻薬「MDMA」などを密輸入したとして、大阪府警薬物対策課は、麻薬取締法違反(営利目的輸入)容疑で、ベトナム国籍の男女3人を逮捕した事件もありました。3人の逮捕、送検容疑は共謀し、2021年10~11月、2回にわたってドイツから国際郵便を使い、MDMA41錠と合成麻薬「ケタミン」約50グラムを営利目的で輸入したというもので、同課などによると、MDMAは小包に入った菓子箱やヘアクリームのボトルに隠されており、大阪税関が配達前の検査で発見、荷物の送付先は3人とは無関係の大阪府内の集合住宅となっていたといいます。小包からはMDMA計1005錠(末端価格約502万円)が見つかっており、同課が入手経路などを調べているとのことです。
  • ツイッターで覚醒剤の販売を持ちかける投稿をしたとして、京都府警は、住居不定、無職の男(公判中)を麻薬特例法違反(あおり、唆し)容疑で逮捕しています。男は2022年4月19日と5月31日、ツイッターに覚せい剤の隠語として使われる言葉や絵文字を示し「すぐ対応しますので注文お願いします」などと書き込んだ疑いがもたれており、被告から押収したスマートフォンの捜査などから浮上したものです。和歌山県警の取組みを前述しましたが、このような事件があることから、同様の取組みが拡がってほしいと思います。
  • 自宅などで大麻を所持したとして、静岡県警は、大麻取締法違反(共同所持)の疑いで、埼玉県熊谷市を拠点とするラップグループ「舐達麻」メンバーの「G-PLANTS」こと本多容疑者と「BADSAIKUSH」こと会社員、細谷容疑者を含む男女4人を現行犯逮捕しています。逮捕容疑は、本多容疑者が東京都内の交際相手の無職女宅で、乾燥大麻約5グラムを所持し、細谷容疑者は自宅で乾燥大麻若干量を同居する無職女と所持したというものです。

国内の薬物事犯を巡る上記以外の興味深い事件について紹介します。

  • 覚せい剤取締法違反罪に問われた女性被告にさいたま地裁は、覚せい剤の所持や使用を認識していなかった可能性があるとして、無罪の判決を言い渡しています。この女性被告は懲役4年6月を求刑されていましたが、弁護側は、同居男性が被告の飲食物に入れて摂取させたなどと主張していたものです。判決などによると、被告は2020年12月、任意同行された埼玉県警春日部署で覚せい剤約1.7グラムを所持したなどとして逮捕、起訴されていました。判決理由で裁判官は「恋愛感情のもつれなどから、男性が無断で覚せい剤を摂取させたり、バッグに入れたりした可能性がある」と述べ、被告に認識があったとするには合理的疑いが残ると判断したものです。同様の事件として、元交際女性への腹いせに覚せい剤などを女性が住むアパートに置いたとして、福岡県警粕屋署が、小郡市の会社員の男を覚せい剤取締法違反(所持)と麻薬取締法違反(所持)の両容疑で逮捕したものもありました。男は2021年7月、志免町の20代の女性住むアパートの敷地内で、覚せい剤約0.4グラム(末端価格約2万4000円)と合成麻薬「MDMA」約0.07グラム(同約5000円)を所持した疑いがもたれており、「別れたことへの腹いせで置いた」と容疑を認めているということです。110番で駆けつけた署員が覚せい剤やMDMA入りの封筒を見つけたもので、封筒には女性の名前が書かれた書類なども入っており、県警は、女性が薬物を持っていたように装うため、男が封筒を用意し、自ら110番したとみているといいます。
  • 本コラムでも継続的に取り上げていますが、警視庁の警察官が薬物の空袋を捜査対象者の車に仕込んだ疑いが指摘される薬物事件で、覚せい剤取締法違反罪などに問われた男性被告の差し戻し後の控訴審判決が東京高裁であり、判決は、違法捜査を認めて一部無罪とした一審・東京地裁判決を支持し、弁護側、検察側双方の控訴を棄却しています。一審判決などによると、警察官は2018年3月、東京都の路上で被告を職務質問した際、車の運転席ドアの内ポケットに薬物の空袋があったとして、その写真と報告書を元に裁判所に車の捜索令状を請求し、認められたものですが、この日の高裁判決は、警察官がポケットに手を伸ばしている車載カメラの映像などから「車内に空袋がなかった疑いが残る」と指摘、捜査手続きの違法性を認めて関連証拠を採用せず、この事件を無罪(別の薬物事件で有罪)とした一審に誤りはないとしたものです。2020年11月の差し戻し前の高裁判決は、警察官が空袋を仕込んだ疑いは「それほど濃厚ではない」として、地裁に審理を差し戻しましたが、弁護側の上告を受けた最高裁が2021年、空袋が元々車内にあったのか、高裁で再審理するべきだと判断していました。高裁で改めて捜査の違法性を指摘された警視庁は「主張が認められなかったのは残念だが、判決で指摘された点も踏まえ、引き続き適正捜査を推進する」とコメントしています。
  • SNSで知り合った外国人男性に恋愛感情を抱き、頼まれるままにコカインを密輸入したとして、麻薬取締法違反(営利目的輸入)と関税法違反に問われた会社役員の50代の女に対する公判が千葉地裁であり、裁判長は、懲役6年、罰金200万円(求刑・懲役10年、罰金400万円)の実刑判決を言い渡しています。女は密輸入の前、男性に1000万円以上を貢いでいたといいます。判決などによると、女は4月、アラブ首長国連邦(UAE)のドバイからエチオピアを経由して成田空港に到着した際、児童向けの大型本2冊の表紙裏にコカイン約2キロ(末端価格約4000万円)を隠して密輸入したといいます。報道によれば、直接会ったことはなかったものの、男性から銀行口座への振り込みや暗号資産の送金を依頼され、計1000万円以上を送金、2022年3月末にはドバイに渡り、男性に代わって文書に署名する用事を頼まれ、「と会えるかもしれない」と考えドバイへ渡ると、見知らぬ外国人女性から、見た目が不自然な本を手渡されたといいます。女は、違法薬物かと疑念を抱き、男性にメールで問いただしたところ、「手伝えないなら自分に構わないで」と言われ、結局、密輸入に手を染めたというものです。公判では、本の中身が違法薬物かという認識の有無は争われず、営利目的の密輸入かが争われ、判決では、「相手に利益を得させようという動機で犯行に及んだ」と営利目的を認定し、弁護側の主張を退けています。報道によれば、裁判長は「自分本位の動機だ」と非難した上で、「好意を薬物犯罪組織に利用され、密輸に加担させられている経緯は相応に斟酌すべきだ」と減軽した理由を述べています。国際ロマンス詐欺が大きな社会問題となる中、同様の構図が薬物事犯でも発生している形です。
  • 合成麻薬「MDMA」を服用して中毒症状になった女性を放置して死亡させたとして、警視庁国際犯罪対策課は、保護責任者遺棄致死容疑で、ベトナム人のアルバイト=麻薬および向精神薬取締法違反(使用)罪で起訴=ら20代の男女4人を再逮捕しています。2022年5月2日未明、文京区湯島のクラブで、女性を含めた5人でMDMAを服用し、女性が激しく暴れるなどの薬物中毒症状が生じているにも関わらず、店の前の路上に放置して、搬送先の病院で死亡させたというものです。女性の体内からは致死量のMDMAの成分が検出され、死因は急性MDMA中毒と舌根部圧迫による窒息でと、4人は女性を連れて退店後、舌をかまないように女性の口内におしぼりを詰めて約40分後に119番通報し、現場から立ち去ったとされます。なお、4人は、この店内で薬物の売人からMDMAを購入したり、使用したりしたとして、警視庁に麻向法違反で逮捕されていました。
  • 薬物欲しさの犯行も最近多くなっています。堺市内で少年2人が刃物で切られ負傷した事件で、大阪府警捜査1課は、殺人未遂容疑で、20歳の無職の容疑者を逮捕しています。堺市美原区真福寺の路上で、いずれも17歳の少年2人の背中や腹部を刃物のようなもので複数回刺し、肝損傷などの傷害を負わせた疑いがもたれており、容疑者は大麻を密売しており、SNSで少年らと知り合ったといいます。少年らは大麻を奪い取ることを計画し、1人で現れた同容疑者を殴るなどしたが反撃されたとみられています。また、金品を盗む目的で酒店兼住宅に押し入り、鉢合わせた住人をバールで殴って負傷させたとして、警視庁は、50代の無職の容疑者を建造物侵入と強盗致傷の疑いで逮捕しています。「覚せい剤を買う金が欲しかった」とした上で「入ったことは間違いないが、殴ってはいない」と供述しているといいます。

本コラムでもたびたび取り上げていますが、米国で麻薬鎮痛剤「オピオイド」乱用による死者の増加が止まりません。2021年の犠牲者は約10万人に達し、過去の薬物問題をはるかに上回る深刻な事態となっています。当初は処方薬による被害が広がり、処方規制後は致死性の高い違法オピオイドが麻薬としてまん延する悪循環に陥ったもので、「命を守るには医療的支援が欠かせないが、米社会の偏見や価値観が対応を遅らせている」(2022年10月2日付日本経済新聞の記事「オピオイド薬禍、米社会に影 10万人犠牲で損失1兆ドル」より)との指摘があります。同報道からオピオイド中毒問題の構図がよくわかることから、以下、抜粋して引用します。

米疾病対策センター(CDC)は17年、オピオイド中毒による米国の経済損失を年1兆ドル(約140兆円)と推定した。失われた命の価値、医療支出や生活の質の低下、生産性の低下が含まれる。同年の調査では「自身が依存している、または依存・過剰摂取・死亡した直接の知人がいる」との回答が米国人の4人に1人にのぼった。16年4月には歌手のプリンスさんが過剰摂取で死去し、世界中に問題が知れ渡った。17年10月にトランプ大統領(当時)が「公衆衛生上の非常事態」を宣言。それでも死者は17年の4万7000人から21年には10万7622人と2倍に膨らんだ。危機は米社会を覆う影となって広がり続けている。…米当局は16年にガイドラインで処方を厳格化。製薬会社や医薬品流通会社、薬局大手は全米の依存症患者や死者遺族による訴訟に直面し、流通は急速に縮小した。ところが患者の多くは、より安価に生産できる合成オピオイド系の違法薬物に流れた。代表的な「フェンタニル」はモルヒネの50~100倍効き目があり、ごく少量でも過剰摂取のリスクがある。犯罪組織が他のドラッグに水増しでフェンタニルを混入したことも事態を悪化させた。意図せぬオピオイド乱用が広がり、当初は白人中心だった犠牲者は黒人やマイノリティー、若年層に広がった。…ニューヨーク市は21年11月、適切な監督のもとで安全に薬物の摂取ができる「薬物過剰摂取防止センター(OPC)」を米国で初めて開設した。薬物摂取を「容認」してでも救命を重視する取り組みだ。…オピオイド危機の解消に向け、米疾病対策センター(CDC)が主要な障害の一つに挙げるのが、薬物依存を巡る「スティグマ(偏見)」だ。西部ワシントン州に住むヴァネッサ・ランザさん(41)は2015年、1歳年上の姉クリスティーナさんを亡くした。20代で薬物依存に陥り、治療を経て公共住宅で子供と暮らし始めた矢先、薬物使用を再開した。「発覚して住む場所を失うことを恐れ、医療サービスを受けなかった」。死亡時には肺炎や腎臓病を併発していたという。ランザさんは「本人を責めるだけでなく回復の過程として見守る態度があれば、姉はまだ生きていたかもしれない」と悔いる。ハーバード大学公衆衛生大学院のマイケル・バーネット准教授(医療政策・管理学)は自由意思・自助努力を重視する価値観が「依存症からの回復を本人の『意思』の問題とみなす傾向がある」と分析。「治療目的の薬物摂取施設など、効果が実証された支援策が普及しない一因だ」と指摘する。薬物依存の治療が一般的なヘルスケアと切り離されていることも問題を助長している。バーネット准教授はかかりつけ医が薬物依存の診断や専門医紹介の窓口となれば、「必要な治療を依存患者に届ける仕組みが改善するのではないか」と提言する。オピオイド危機は米国が抱える様々な社会問題の裏返しでもある。

関連して、米上下両院の合同経済委員会は、米国の医療用麻薬オピオイド禍について報告書を発表し、コロナ禍の時期にオピオイド中毒・乱用による死者がさらに増えたことで、オピオイド禍関連の経済的損失は2020年だけで1兆4700億ドルに上ったとの推計を示しています。19年の4870億ドルから急増したということです。推計は米疾病対策センター(CDC)の科学者の分析方法に基づき、物価上昇も調整、その上で、このペースに基づくと今後もさらに損失額が膨らむ可能性が高いとしています。CDCのデータによると、2021年の全米の薬物過剰摂取死10万7000人のうち、オピオイドは75%を占めているといいます。報道で、合同経済委のデービッド・トローン下院議員(民主党)はオピオイドの犠牲者の規模について「ボーイング737小型ジェット旅客機が毎日1機ずつ墜落し、全員死亡するのに匹敵する」と指摘、これにより、その分の生産性や雇用が失われ、巨額の医療費負担が発生していると説明しています。バイデン米大統領は、オピオイド過剰摂取の治療や密輸行為への制裁、取締捜査官らのための予算増額に向けて計15億ドル近くを予算に充てる意向を発表しています。

麻薬の密輸や汚職、暗殺、マネー・ローンダリングが横行するパラグアイの状況についての記事「密輸はびこるパラグアイ 有力政治家に米国が制裁」(2022年9月15日付日本経済新聞)も大変興味深いものでしたので、以下、抜粋して引用します。

南米パラグアイは長年、たばこから高級品まであらゆるものの密輸の温床となってきた。暗殺と麻薬が絡んだ暴力が急増する中、同国きっての有力政治家2人に米国が制裁を科したことは、南米における米国の主要な同盟国で権力のトップレベルにまで犯罪組織が入り込んだとの懸念を呼んでいる。…パラグアイが来年4月の大統領選に向けて準備するなか、米政府は先月、汚職の疑いでベラスケス副大統領とカルテス前大統領を制裁対象に指定した。ベラスケス氏は大統領選に与党候補として出馬するとみられており、カルテス氏は今もパラグアイ政財界で大きな影響力を持つ。両氏は疑惑を否定しているが、制裁で米国への入国を禁止される。評論家らによると、米国の制裁はパラグアイの公的機関とエリート層が犯罪組織の影響下に置かれると同国が不安定化するとのワシントンでの懸念の高まりを反映している。パラグアイの野党政治家エドゥアルド・ナカヤマ氏によると、米政府は保守派の与党コロラド党に所属する2人を公然と名指しすることで、2023年の選挙を前に政界から汚職を一掃する必要があるとのメッセージをパラグアイ政府に送っている。「パラグアイは中南米、欧州にとってコカインの主要供給国だ。地域や自治体、司法のレベルでギャングが政界に浸透している」と同氏は話す。…カルテス氏は与党内で大きな影響力を維持し続けている。実業家である同氏は10年以上前から、法執行機関に目をつけられてきた。10年に内部告発サイト「ウィキリークス」によって公表された09年の米国務省公電では、米国はカルテス氏が所有する銀行を資金洗浄センターとして名指ししていた。ブラジルは19年、資金洗浄の捜査に関連してカルテス氏の身柄引き渡しを要求した。要求はその後、取り下げられた。カルテス氏は犯罪行為の疑惑をすべて否定している。
(4)テロリスクを巡る動向

本コラムで発生以来継続して取り上げていますが、元首相銃撃事件はテロではないものの、テロ対策を考えるうえでの重要な社会的背景や問題点を提示しており、詳しく分析しておく必要があるといえます。残念ながら、本件に類似した「無差別攻撃」あるいは「テロ」が発生する土壌がすでに日本にある、つまり、いつ「無差別攻撃」や「テロ」が日本で起きてもおかしくないことを感じさせます。また、「想定外」や社会情勢の変化に対応してこなかった「不作為」がもたらした結果の重大さ、安全大国という幻想の上に胡坐をかいてきたがゆえの今後の課題の大きさも浮き彫りになっています。さらに筆者が強調しておきたいことは、今回の銃撃事件が突き付けたのは、「表現の自由」の名のもとにネット上に放置された有害情報が、むしろ言論の封殺に利用されかねないリスクが顕在化したということであり、「表現の自由」の前に思考停止してしまうことのないよう、腰を据えて取り組む必要があるということです。

今回の事件で手製の銃が使われたことを踏まえ、(当然ではありますが)警察庁はインターネット上の銃器や爆発物の製造情報への対策を強化する方針です。これらを有害情報として取り扱い、サイバーパトロールの調査対象に加えてサイト運営者への削除要請などにつなげるといいます。一方、要請に強制力はなく海外サイトは管理者が分からないケースも多いことなど、実効性をいかに高めていくかが課題となります。柱となるのが、警察庁が既に民間に委託している事業の活用で、児童ポルノや薬物の売買などのネット上の違法・有害情報の通報を受け付ける「インターネット・ホットラインセンター」と、SNSなどで自殺に関する情報を収集する「サイバーパトロールセンター」の2つについて、通報とパトロールの対象を銃や爆発物の製造に関する情報にも拡大する計画だということです。本コラムでも指摘してきたとおり。ネット上にはホームセンターなどで購入可能な材料を使った銃の作り方や、薬局などで売られている薬品を調合して火薬の代用として使う方法を紹介するサイトなどが氾濫しています。警察庁は今後、銃器の製造方法といった情報を発見した場合はプロバイダーに削除要請するなどして対応するということです。また、SNSや動画投稿サイトで公開される場合もあり、サイト管理者にも協力を呼びかけるとしています。一方、銃器の製造方法を公開する行為がただちに罪に問われるわけではなく、要請に応じない場合でも強制力はないうえ、海外サイトであればプロバイダーの所在がわからず連絡できないケースが多く、要請したとしても協力に応じてもらえるかは未知数というのが実態です。報道で、日本大学危機管理学部の福田充教授は、こうした課題がある中ですぐに実効性を高めるのは容易ではないと指摘、そのうえで「悪用の可能性を少しでも減らすとともに、国内外の事業者に取り組みをアピールしたり、市民への積極的な通報を呼びかけたりして社会全体に理解が浸透していく地道な取り組みが必要だ」と話していますが、正にそのとおりかと思います。

さて、懸念していた模倣犯も出ています。直近では、東京都港区の米国大使館前で8月、違法に火薬を所持した大学生が逮捕された事件で、警視庁公安部は、大阪市立大4年の男を火薬取締法違反(無許可製造)の疑いで再逮捕しています。報道によれば、男は7月下旬から8月上旬、硝酸カリウムなどの化学物質をインターネットで購入し、経済産業省の許可を得ず自宅で火薬約160グラムを製造した疑いがもたれており、調合方法もネットで調べたといいます。雑巾で包んだコップに火薬を入れて大使館前を訪れており、公安部は投げ入れようとした可能性があるとみています。男は9月20日に同法違反(所持)容疑で逮捕されていました。実行されなかったとはいえ、いつでもこのような行為が起こり得るということをあらためて感じさせる事件であり、元首相銃撃事件の教訓を風化させることなく、いつ「無差別攻撃」や「テロ」が日本で起きてもおかしくないこと、「想定外」や社会情勢の変化に対応してこなかった「不作為」がもたらした結果の重大さを忘れてはならないこと、安全大国という幻想の上に胡坐をかいてきたものがもたらした結果の重大性も風化させてはならないことをあらためて指摘しておきたいと思います。

20年続いたアフガニスタン(アフガン)戦争から米軍が撤退して1年が経過しましたが、一方でウクライナ情勢はいまだ終わりが見えない状況が続いています。2022年9月13日付毎日新聞の記事「だらだら続く米国の戦争 背景にドローン兵器依存と国民の無関心」は、米国の関与が長期化する要因について分析した内容で、説得力があるとともに大変興味深いものでした。陰謀論ではありませんが、米国民に自国とは遠い世界の出来事との印象を(報道のあり方等を通じて)植え付けることで、戦争を長期化し、軍需産業が結果的に潤う構図も見え隠れしないわけではありません。また、その裏返しとして、自国がやってきたことに正面から向き合う重要性が指摘できると思います。その意味で、最後の「欧米諸国とりわけ米国は、過去に自分たちも、武力不行使に関する国際規範とそれへの信頼を弱めるような軍事行動を展開し、多くの人命の犠牲を生んできた歴史と誠実に向き合うべきです。そうした大国の誠実さに支えられない国際秩序は、もろいものに終わりかねません」との指摘は正にそのとおりかと思います。以下、抜粋して引用します。

朝鮮戦争、ベトナム戦争、湾岸戦争にイラク戦争……。冷戦期から今まで、米国ほど大規模な戦争をしてきた国は少ない。日本では、米国世論は「好戦的」との印象を持つ人もいるかもしれない。米国政治・外交が専門の三牧聖子同志社大准教授は、近年の対テロ戦争を例に、「今の米国世論は戦争に無関心。だからこそ、戦争がなかなか終わらない」という逆説を説きます。「2001年の9・11テロ後、ブッシュ米大統領(当時)はテロと戦う「戦時大統領」として振る舞い、支持率も跳ね上がりました。それから20年超たった今、米国の世論は海外での軍事行動にかなり消極的です。ただし、だからといって「戦争をしない」米国がすぐ誕生するわけではありません。米国は昨今、「テロとの戦い」でますますドローンに依存するようになったことで米兵の死者数が減り、戦争は一般の人には見えにくくなりました。世論は、積極的に戦争反対というよりも、戦争していることを知らない、あるいは無関心といった状況です。この無関心に支えられて、だらだらと戦争が続いてきました。」、「世論が好戦的になるのは、9・11テロのように自分たちの国土が直接攻撃された際です。第二次大戦も真珠湾攻撃の前は非参戦論が主流でした。逆に、戦争反対が高まるのは、戦闘員のみならず、多くの民間人が巻き込まれて犠牲となっていると報道され、戦争の大義に疑問符がついたときです。」、「アフガニスタンでは、この約20年間で市民が約4万6000人も死んでいます。全世界では、同時期に対テロ戦争などで36万から38万人超の民間人が殺害されています。ところが、民間人犠牲者が米メディアや国民の大きな関心事になることはほぼありませんでした。昨年に米軍が撤退したアフガニスタンについては、タリバン政権下で女性の人権がじゅうりんされるのではないかとして一時的に報道は増えましたが、その関心も持続しません。アフガニスタンは今、貧困と飢餓で世界最悪の人道危機ともされる状況です。」、「たしかに、犠牲は少ない方がいい。しかし、「人道的」になるほど、米国民が戦争に疑問を持つ機会はますます失われて、明確なゴールもないまま対テロ戦争がいつまでも続く倒錯が起きる。それと、国民全体を巻き込む「戦争」ではなくテロ容疑者に対する「作戦(オペレーション)」であるとの認識も、大きな反戦運動が起きにくい理由の一つかもしれません。」、「欧米諸国とりわけ米国は、過去に自分たちも、武力不行使に関する国際規範とそれへの信頼を弱めるような軍事行動を展開し、多くの人命の犠牲を生んできた歴史と誠実に向き合うべきです。そうした大国の誠実さに支えられない国際秩序は、もろいものに終わりかねません。

米政府は、アフガニスタンの復興を支援するため、米国内で保有されているアフガン中央銀行の資産35億ドル(約5000億円)を財源に基金を設立すると発表しています。シャーマン国務副長官は声明で「アフガンの人々の苦しみを軽減し、経済的安定をもたらすための重要で具体的な一歩だ」と意義を強調、国務省によると、基金はスイスにある国際決済銀行(BIS)に口座が置かれ、米国とスイスの政府代表や経済専門家で構成される理事会が基金を監督するとしています。2021年8月の駐留米軍撤収に伴い復権したイスラム主義組織タリバンの不正な活動資金とならないように「強固な予防措置」がとられるといいます。本コラムでもたびたび取り上げているとおり、米政府はタリバンの実権掌握後、アフガン中央銀行が米国内に保有する資産計約70億ドルを凍結しました。バイデン大統領は2022年2月、35億ドルを人道支援に活用する大統領令に署名、タリバン暫定政権を介さずに、アフガン国民を直接支援する方法を探っていたものです。アフガンでは経済の混乱や干ばつなどの影響で人道危機が深刻化している状況は本コラムでも繰り返し紹介してきたとおりであり、国土と人心の荒廃がテロ発生のメカニズムであることを考えれば、この取組みが機能し、新たなテロの連鎖が起こらないことを期待したいところです。その他、アフガン情勢に関する報道から、いくつか紹介します。

  • アフガニスタンで権力を握るイスラム原理主義勢力タリバンの暫定政権は、麻薬の密輸容疑で2005年から米国の刑務所などで収容されていたバシル・ヌールザイ幹部が解放されたと発表しています(同氏は、2013年に死亡したタリバン創設者オマル師と非常に近い関係にあったとされます)。2年以上前にアフガニスタンで拘束された元米海軍所属のマーク・フレリックス氏との捕虜交換だったといいます。報道によれば、ヌールザイ幹部は首都カブールに到着後、「この交換がアフガニスタンと米国の平和につながることを望んでいる」と語っています。同幹部は5000万ドル(約72億円)以上に相当するヘロインの密輸容疑で拘束されていたといい、国連は当時、「アフガニスタンで1番の麻薬密売人」と称していました。アフガニスタンは、アヘンやヘロインの原料となるケシの世界最大の生産国として知られることは本コラムでも紹介しています。タリバンは2021年8月に権力を掌握し、今年に入ってから正式にケシの栽培や麻薬使用などを禁じる通達を出しましたが、南部カンダハル州で、アヘンの元になるケシの実の汁を市場で売買している様子が確認されるなど、現在もイランやパキスタンなどの隣国に密輸され、欧州などに渡っているとみられています。到着した同幹部はタリバン暫定政権関係者から盛大に迎えられ、今後暫定政権の要職に就く可能性もあるとされています。同幹部とアヘンを巡る動向に注目が集まりそうです。
  • カブールなど各都市ではタリバンの戦闘員が街中にあふれている状況だといいます。「治安維持」を名目に監視を行い、米軍で勤務した人物らへの弾圧を展開しているといいます。タリバンは2021年8月の首都制圧後、旧タリバン政権(1996~2001年)が実施した公開処刑など恐怖政治を表向きは行っておらず、「穏健路線」をアピールしている形だが、実態は違うようです。報道によれば、音楽家や女性活動家は「監視と弾圧はかつての政権と同じで、本質は変わっていない」と異口同音に語っています。タリバン支配が固定化する一方、急速に拡大する貧困に対してタリバン上層部は有効な解決策を持たず、国内では国際社会の目がウクライナ情勢などに向き、アフガンの注目度が下がっていることに懸念の声が上がっています。報道で、音楽家が「アフガン国民にとって地獄は、むしろこれからだ。世界はアフガンを見捨てないでほしい」と述べた言葉が鋭く刺さります。
  • アフガニスタン東部パクティア州にある女子校の授業再開停止が、多くの国民の関心を集めています。本コラムでも取り上げたとおり、タリバンは2022年3月、高校の授業を再開するという公約を覆しており、女子教育への制限緩和が実現するかどうかが注目されています。報道によれば、保守的とされている地域にある複数の女子向けの中等教育学校は、ここ数週間でひっそりと授業を再開、地方政府の当局者は9月上旬、授業が再開していることを確認したといいます。このニュースは地元の報道機関やソーシャルメディアを通じて素早く広がりましたが、タリバン当局はこれに対し、正式な承認をしていないと表明、3人のタリバン関係者や地元の人々によれば、これらの学校は再度閉鎖されたともいわれています。地元メディアは、パクティア州の女子生徒たちがこれに抗議する様子を放送、1年前にイスラム原理主義の強硬路線をとるタリバンが政権を奪還して以降、公共の場に女性が登場する機会は極度に減少しており、このように公に異議が表明されるのは異例のことだといいます。
  • 関連して、アフガニスタンの首都カブールの教育施設で自爆テロが発生しました。国連アフガニスタン支援団(UNAMA)は、死者が少なくとも43人に達したと明かにしています。犠牲者の多くは少女や女性で、負傷者も83人に上るといいます。報道によれば、事件は国内で少数民族のハザラ人のシーア派住民が多く住む地区で9月30日早朝に発生、当時、大学入試の模試のために数百人の生徒が集まっていたといいます。タリバンは、中高生年代の女子生徒の通学を認めていませんが、大学入学は許可しており、進学を希望する多くの女子生徒が教室で模試を受けていたとされます。事件を受けて、国連はグテーレス事務総長の報道官による声明を発表し、「教育は基本的な権利であり、持続的な平和と発展にとって不可欠なものだ」と批判、タリバン側に「民族や性別に関係なく、全てのアフガニスタン人が安全かつ確実に教育を受けられる権利を保護するよう求める」としています。なお、イスラム教シーア派の信者が多いハザラ人は、タリバンと敵対関係にもあるスンニ派の過激派組織「イスラム国」(IS)から敵視されており、IS現地勢力などによる爆発が散発的に発生しているという事情もあります。さらに、カブール大の女子学生ら数十人が、寮で食事後に体調の異変を訴えて入院したといい、死者が出たとの情報もあります。女子学生らはカブールの教育センターで起きた自爆テロに抗議するデモを計画しており、一部メディアは、デモを阻止するために何者かが食事に毒を盛った可能性があると報じています。同大に通う学生は、多くの女子学生が夕食後に搬送され、翌日に予定していたデモが中止を余儀なくされたと説明、「毒を盛られた」とも語っています。一方、タリバン暫定政権の高等教育省は、学生らが入院したと認めた上で、食中毒によるもので、報道は「事実ではない」と否定しています。
  • アフガニスタンの首都カブール中心部にあるモスク前で9月、爆発があり、タリバン暫定政権の内務省によると、少なくとも7人が死亡し41人がけがをしたということです。テロとみられるが、犯行声明は確認されていません。車に仕掛けられていた爆弾が爆発、金曜礼拝後モスクから出てきた市民らが巻き込まれています。現場周辺は各国の大使館が建ち並ぶ地区で、暫定政権の治安部隊が普段から警備を敷いているといいます。

アフガニスタンで、国土に眠る膨大な地下資源開発の行方が注目を集めているとの報道がありました。2022年9月26日付毎日新聞の記事「アフガンに眠る100兆円の地下資源 ライバル不在の中国の目算」は、あまり見られない視点からのもので大変興味深いものでした。以下、抜粋して引用します。

イスラム主義組織タリバンが暫定政権を握ったアフガニスタンで、国土に眠る膨大な地下資源開発の行方が注目を集めている。電気自動車のバッテリー製造に欠かせない希少金属リチウムなどその総額は100兆円を超えるともされる。人権問題を理由に米欧の経済制裁が続く中、タリバン側と一定の関係を維持する中国が世界有数の銅山開発に向けて動き始めた。「ライバル不在」の状況で影響力拡大を目指す中国の狙いはすんなり実現するのだろうか。…アイナク銅山は首都カブールの南約40キロに位置し、銅鉱の埋蔵量は1000万トン以上と推定される。世界銀行によると、2007年に当時のカルザイ政権が実施した入札の結果、中国の国有企業「中国冶金科工集団(MCC)」が30年契約で採掘権を獲得。しかし、武装勢力によるとみられるロケット砲の攻撃にさらされた上、一帯の古代仏教遺跡の保存を求める声もあり、開発は進んでいなかった。アフガンの国営バフタル通信によると、駐アフガン中国大使は今年8月にデラワール氏と面会し、アイナク銅山の開発が「近い将来」に再開するとの見通しを伝えた。…アフガンは、銅のほかにも豊富な資源を持つ。ガニ政権時代の19年に鉱物石油省がまとめた資料によると、22億トンの鉄鉱石や140万トンの希土類(レアアース)などがあるとされる。米CNNによると、米国防総省は10年、アフガンに約1兆ドル(約143兆円)相当の資源が埋蔵されていると推計した。…昨年8月にタリバンが実権を掌握して以来、中国は暫定政権を承認していないものの、現地の大使館を閉鎖せず、タリバンが派遣した外交官を信任するなど一定の関係を築いてきた。アフガン単独で開発を進めることは技術的にも資金的にも難しく、中国の参入は経済制裁の中で資源活用を求めるタリバン側の思惑とも一致する。…中国は巨大経済圏構想「一帯一路」の一環として友好国パキスタンで進める「中国パキスタン経済回廊」(CPEC)をアフガンに延長することにも意欲を示してきたが、実現するかは不透明だ。銅山開発事業の早期再開についても「楽観的には捉えられない。タリバンを影響力下に置くための交渉ではないか」とみる。中国が進出をためらう主な要因は依然として不安定な治安だ。…「タリバンは少数派や旧政権関係者を抑圧することで内部分裂を招いている。中国はタリバンに米欧のように民主主義を求めないが、(他の政治勢力も含む)包括的な政権樹立は望んでいる。それを実現しない限り、アフガンは経済的にも社会的にも前進できないと分かっているからだ」、「長期的に見れば、中国はアフガンの資源開発の主要な投資国になるだろう」、「国際社会がアフガンと関わろうとしない以上、中国にとってはライバルが不在で時間はいくらでもある。進出を急ぐ理由はない
(5)犯罪インフラを巡る動向

全国の警察と電話会社が連携し、特殊詐欺に悪用された固定電話番号を利用停止にする対策が始まってから、9月で3年が経過、これまでに計1万件超の番号を利用停止にしています。特殊詐欺グループが使う固定電話を利用停止にする対策は、警察庁と総務省、NTT東日本・西日本などの大手電話会社が協力して2019年9月に全国で一斉に始まりました。警察が捜査や市民からの通報で不審な電話番号を把握した場合に、まず警察官が折り返し電話をかけ、詐欺をやめるよう警告、その後、同じ番号が再び詐欺に使われたことが確認された場合に、都道府県警が電話会社に要請し、番号を利用停止にするもので、1回目の把握ですぐに利用停止にしないのは、一般のセールスを詐欺電話と勘違いするケースなどが想定され、誤って利用停止にすれば、利用者が被る不利益は大きいためです。警察庁によると、2019年9~12月は887件、2020年は3378件、2021年は4119件、今年上半期は1862件(暫定値)をそれぞれ利用停止にしています(あわせて10246件に上ります)。全国の特殊詐欺被害は2019年に約315億円だったところ、2021年は約282億円に減っていることから、警察庁は番号停止は被害抑止に一定の効果があるとみている様子です。一方、課題も浮かんでおり、2022年9月12日付読売新聞は、「せっかく不審な番号を把握しても、利用停止にする手順を踏んでいる間に、再び番号が悪用され、詐欺被害が発生するケースがあるのだ。例えば、昨年4月、東京都練馬区の高齢者宅に「医療費の還付を受けられる」と不審電話があったケースでは、警察署の担当者が「還付金詐欺」の疑いが強いと判断し、折り返し電話をかけて「詐欺をやめるように」と警告した。だが、その10日後、都内の複数の高齢者宅に、同じ番号から立て続けに詐欺の電話が入った。通報を受けた警視庁が同日中に番号の利用停止要請を行ったが、この日、江東区の高齢女性ら3人が計約1000万円をだまし取られた。警視庁が今年に入り、都内で昨年把握した不審電話約5400件について調べたところ、こうした再度の番号悪用による詐欺被害が約480件あった。被害額は都内全体(約66億円)の13%にあたる約8億8000万円に上った」と報じています。これに対し警察当局は、再度の番号悪用を少しでも早く察知し、被害を食い止めなければならないとして、対策を強化しています。例えば警視庁はシステム開発会社「トビラシステムズ」と連携、2022年6月以降、詐欺被害が確認された地域の高齢者に、同社が開発した家庭用の「迷惑電話防止装置」約3000台を貸し出しています。この装置を固定電話に取り付けると、遠隔で着信履歴を確認でき、警視庁が同社に不審な電話番号の情報を提供し、同社が着信履歴を確認、該当する番号が見つかった場合に、警察官が住人に連絡し、電話の内容を聞き取り、詐欺電話と判断すれば、即座に利用停止の手続きを取る手法で、2022年8月までの約3か月間に約90件の番号を利用停止にしたといいます。報道で、警視庁幹部は「効果を検証し、装置の増設も検討していく」と述べています。さらに、NTT東日本も、オレオレ詐欺などから地域を守る防御システム構想を掲げ、各県警などと導入へ協議を進めているといいます。電話の会話内容をAIで解析し、詐欺の恐れがあれば周辺住民らへ自動的に電話で知らせて注意を促すというもので、電話のデジタルトランスフォーメーション(DX)により地域ぐるみで早期警戒できる態勢を整えるとしています。NTT東日本が提案するのは、不審な電話を判別するサービスと自動通話による防犯システムで、家庭の電話機に専用機器を取り付け、会話の音声をクラウドに送信してAIで解析、詐欺が疑われる場合は電話やメールで本人や家族に注意を呼び掛けるというもので、実際に詐欺電話を検知し、詐取金を受け取る「受け子」の逮捕につながった実績もあるとのことです。詐欺の検知は本来、月額440円で契約した世帯のためのサービスだが、地域への注意喚起にも使うこともでき、高齢者世帯や交番、金融機関などにAI音声電話やメールで詐欺電話の発生を通知、応答内容は記録され、話を聞かずに途中で切ったり、留守番電話になったりした住民を把握できるほか、不審な電話がなかったかなどの調査も可能だといいます。さらには、架空の内容の電話をかけて反応を検証するなどの防犯訓練にも活用できるといい、同社は警察と連携し、自動通話による住民向けの詐欺電話訓練を近く実施する予定だということです。このように、固定電話の犯罪インフラ化を防ぐ取組み、システムは進化していますが、最終的には「だまされなければ被害は発生しない」のが詐欺であり、人間の行動特性をふまえたものにさらにブラッシュアップしていく必要があり、その意味では、まだまだ一進一退の攻防の途中にあるといえます。

インターネットを利用したIP電話の番号を特殊詐欺グループに譲渡したとして、岐阜県警と警視庁は、番号再販業者「アシストライズ」の実質的経営者と同社代表の両容疑者ら男女9人を電子計算機使用詐欺の幇助の疑いで逮捕しています。報道によれば、同社は2021年秋ごろの時点で、大手通信事業者から仕入れた約2000の番号を詐欺グループに有償で提供、提供した番号の数は最大規模だといいます。また、同社が販売した番号は還付金や架空請求詐欺などに使われ、被害は沖縄をのぞく全国46都道府県で計数十億円にのぼるとみられています。容疑者らは還付金詐欺グループにIP電話の番号を提供した疑いがもたれており、このグループは、この番号で電話をかけ、岐阜県岐南町の60代の女性から介護保険料の返金名目で約49万円をだまし取ったとされます。IP電話はインターネット回線で音声をやり取りするサービスで、詐欺グループは同社の電話交換機を経由することで、どこからかけても相手に「03」の市外局番を表示することができ、官公庁などの多い東京からの発信を装い、高齢者らを信用させる狙いがあったといいます。同社は詐欺グループから前払い金や口止め料としてそれぞれ数百万円を、さらに通常の通話料の数倍を徴収していたほか、摘発を逃れるため、ダミー会社を経由してサービスを続けていたとみられるといいます。IP電話の犯罪インフラ化は深刻化する一方であり、特殊詐欺グループに対しても優位な立場にある状況がうかがえ、今後、その摘発が急務だといえます。

新型コロナウイルスの無料検査事業に、資格のない業者が不正に参入していたことが判明しています。補助金目的とみられ、神奈川、埼玉、福島の3県は不正に気づかずに審査を通していたといいます。矢継ぎ早に行われてきたコロナ事業で、行政のチェックが甘くなっている実情が明らかになった形で、持続化給付金の不正受給問題と同様の構図があるといえます。神奈川県で登録されていた事業者は賃料を支払わないまま音信不通になりました。神奈川県がこの業者から事業の実施計画書の提出を受けたのは2月21日、事業者名は東京都港区の「プライベートクリニック六本木」と記載されており、神奈川県は資格要件の情報も含んだ計画書を審査し、3月4日に事業者として登録したといいます。しかし、同クリニックの元院長から「2021年7月に廃止したクリニックの名義が無断で使われている」との情報提供を受け、業者が資格要件を満たしていないことが判明、5月23日に登録を取り消したといいます。神奈川県は、形式的な書面審査しかしておらず、業者側に医療機関の開設届など証明書類の提出を求めておらず、県は「検査場を増やすためスピードを重視した結果、審査が至らず、甘かった」と述べています。無料検査事業では、事業者は都道府県に検査件数や費用を報告すれば補助金を受けられ、受検者の個人情報などは5年間保管し、自治体から求められた場合に提出すればよい仕組みとなっており、こうした簡略な手続きが不正の温床になっている可能性があります。さらに、内閣官房が8月に都道府県に聞き取り調査をしたところ、複数の自治体から「検査回数の水増し」「検査キットの仕入れ価格を実際より高く申告」などの不正疑い事例の報告があったといい、内閣官房は不正防止のため8月1日、検査回数が多い事業者については1件あたりの補助額を減額する仕組みを導入、同30日には、検査回数の虚偽報告や同じ受検者への1日2回以上の検査などの原則禁止を明確化しています。2022年10月7日付読売新聞で、田中秀明・明治大教授(公共政策)は「全額国費の事業では自治体の審査が甘くなりがちだ。コロナ禍で急ごしらえの仕組みだったとしても、事業者の審査手法すら制度設計の段階で盛り込んでおらず、国の責任は大きい」と指摘していますが、正にそのとおりであり、持続化給付金の不正受給問題と同様、国の審査の脆弱性が犯罪インフラ化した形だといえます。

未納料金の請求をかたった電子マネー詐取事件に関与したとして、警視庁は、広告代理業「ケーズアドイノベーション」(解散)の代表と社員の男2人を詐欺容疑で逮捕しています。報道によれば、同庁は、同社が詐欺グループの中で虚偽のSMSを大量に送信し、被害者を引っかける役割だったとみて調べているといいます。2人は2022年6月、東京都内の70代男性の携帯電話に「至急サポートセンターまでご連絡ください」と電話番号付きのSMSを送信、電話してきた男性に対し「アマゾンプライムの会員が二重登録になっていて支払いが未払いになっている」とうそを言い、男性から約3万円分の電子マネーをだまし取った疑いがもたれていますが、男らはSMSを一度に送ることができる海外のサービスを利用し、2022年3~6月に計約200万件のSMSを送信していたということです。SMSを受け取った人からの問い合わせに対応していたのは別のグループとみられ、同様の詐欺被害は少なくとも10都県で約20件計約1400万円分が確認されているということです。SMSを使った特殊詐欺は、「数打てば当たる」の典型であり、200万件ものSMSを送信する仕組みは正に犯罪インフラの典型だといえます。

警視庁や兵庫県警などは、中国籍でアルバイトの沈容疑者ら男女6人を入管難民法違反(在留カード偽造など)の疑いで再逮捕しています。報道によれば、沈容疑者らの自宅が偽造カードの密造拠点となっており、約120枚を押収しています。容疑者らは2021年8月以降、約2万件の依頼を受け、1億数千万円を売り上げたとみられています。なお、国際捜査課によると、中国内の指示役が注文を取りまとめ、沈容疑者らにSNSで偽造を依頼していたもので、自宅内からは約2万枚分の偽造カードの記録や、偽造前の白色プラスチックカード約3000枚も見つかったといい、国内最大規模の偽造グループとみられています。沈容疑者は「中国のSNSで偽造の仕事を見つけた」などと話し、2021年8月以降、1枚1500円~7000円で販売し、3000万円~1億4000万円を売り上げたとみられています。本件は、正に犯罪インフラ、「道具屋」の典型だといえます。

携帯電話大手の販売代理店で、転売目的でスマートフォンを購入する行為が横行しています。回線の乗り換えに伴う割引などを使って人気の端末を安く入手し、中古スマホ販売店に転売して利ざやを稼ぐもので、本当に使いたい人の購入機会を奪いかねないと、国も対応に乗り出しています。割引端末を仕入れて販売する個人やグループは「転売ヤー」と呼ばれ、1人で数十もの回線契約を結び、乗り換え割引を申し込み、人気の機種を買い占めるケースもあるとされます。機種によりますが、定価に近い価格で買い取ってもらえば1台あたり数万円の利益が出る仕組みだといいます。さらに、円安が進んだ結果、国内の人気機種は割安となっており、海外の転売ヤーも端末を買い求めている状況です。一方、多くの携帯販売代理店の経営は、獲得した回線契約数に応じて携帯大手から受け取る手数料が頼みであり、転売目的とみられる客が現れても、制限しづらいのが実情のようで、報道である代理店経営者は「転売ヤーと持ちつ持たれつの関係の店は多い。互いに組織ぐるみの場合もある」と延べています。こうした背景には、スマホを大幅に値引きしてでも、自社回線に乗り換える利用者数を増やしたい携帯大手の思惑があります(国内の携帯市場が頭打ちとなる中、利用者数の増減が決済サービスなど他事業の収益に影響するためとされます)。こうした仕組みが犯罪組織の資金源となる、あるいは大量に購入された携帯電話が犯罪に悪用されるなどすれば、仕組み自体の犯罪インフラ化といえることになり、今後、注意が必要だといえます。

東京オリンピック・パラリンピックを巡る汚職事件で、大会組織委員会元理事の関係先として東京地検特捜部の家宅捜索を受けた大手広告会社「ADKホールディングス」が、休眠状態のコンサルティング会社に送金した額が約1900万円だったと報じられています。また、このコンサル会社は、大会マスコットのぬいぐるみを販売した玩具会社「サン・アロー」が元理事に約800万円を提供したとの疑惑でも介在したとされています。報道によれば、コンサル会社は元理事と大学が同窓のゴルフ仲間が社長を務め、当時稼働している形跡がなかったとされます。休眠会社の犯罪インフラ化の典型だといえます。

2022年10月7日付毎日新聞が、減少傾向にあった自動車盗難の発生状況に異変が起きていると指摘しています。警察庁によれば、2022年1~8月の自動車盗難件数は前年同期比で約15%増加、車の制御システムに侵入するなどの新たな手口も確認されているといい、同庁や日本損害保険協会などは、日付の語呂合わせ(とう<10>なん<7>)で「盗難防止の日」とされている10月7日からキャンペーンを実施するなどして注意喚起しています。自動車盗難は2003年に過去最多の6万4223件を記録した後、減少傾向にあり、2021年は2003年比で約9割減の5182件となりました。ところが、2022年1~8月は前年同期比15.8%(519件)増の3805件に急増、都道府県別では、愛知565件、埼玉457件、千葉433件、大阪402件、茨城400件の順に多く、警察庁は「増加の原因は分からない」としているものの、(本コラムでもたびたび取り上げていますが)最近は車の制御システムに侵入して解錠する「CANインベーダー」や、スマートキーから出る微弱電波を増幅させて誤作動させる「リレーアタック」など、特殊な機械を使った新たな手口が増えているといいます(これらは正に犯罪インフラの典型だといえます)。一方、発生場所別では、自宅の駐車場1510件、月決め駐車場やコインパーキング1012件、店舗の駐車場など1150件、路上133件で、警察庁の担当者は「自宅の駐車場でも安心せず、センサーライトを設置するなどの防犯対策を強化してほしい」と呼び掛けています。直近でも、千葉県習志野市の月決め駐車場で、レクサスのスポーツタイプ多目的車(SUV)1台(時価約350万円相当)が、「CANインベーダー」を使った盗難にあい、容疑者が逮捕されています・埼玉県内では、2022年1~8月の自動車盗被害が457件(前年同期比180件増)あり、車種別ではランドクルーザー(90件)、レクサスのSUV(70件)など特定の高級車の窃盗被害が目立っています。なお、容疑者は余罪も数十件以上あるとみられています。

企業やその従業員の「ガードの甘さ」から重要な機密情報等が漏えいしてしまう産業スパイの問題は、経済安全保障の観点からも極めて憂慮すべき状況にあります。「ガードの甘さ」が犯罪インフラとなって、企業や取引先、日本にとって大きな経済的損失を被る可能性や軍事転用されて、日本や世界の安全保障上の脅威となる可能性も否定できず、経済安全保障に関する意識面からの対策が急がれます。

▼警視庁 経済安全保障 狙われる日本の技術
  • 技術情報等の流出防止対策の重要性について
    • 日本の企業、研究機関等が保有する高度な技術情報等は諸外国から情報収集活動の対象になっています。そのため、機微な技術情報等を保有していれば、組織の規模にかかわらず、合法・非合法を問わず狙われる可能性があります。社会全体でデジタル化が加速される中、情報の持出しがかつてよりも容易になっています。
    • 技術情報等の流出の影響は、自社の損失だけでなく、取引先をはじめとする関連企業にも及ぶ上、日本の技術的優位性の低下を招くなどして、日本の独立、生存及び繁栄に影響を与えかねません。また、流出した技術情報等が軍事転用され、世界の安全保障環境に懸念を与えるおそれもあります。
  • 経済安全保障に係る警察の取組み
    • 警察では、産学官連携による技術情報等の流出防止対策を推進するとともに、関係機関との連携を緊密にし、流出に対する情報収集・分析及び取締りを強化することで、先端技術を含む技術情報等の流出を効果的に防止しています。
  • 過去の技術情報流出事例から見た不審な動向等の具体例
    • 展示会や商談以外の場で技術情報等の提供依頼を受けた
    • 何度か一緒に食事等をしたら、技術情報等の提供を求められるようになった
    • 会社の話をしたら、商品や商品券、現金等の謝礼を提示された
    • 会社のサーバーに特定の従業員から、大量のアクセスがある又は業務上関係のないデータへのアクセスがある

など、皆さんが不審な動向や情報等を少しでも把握された場合は、遠慮なく警察に対して相談等を行っていただきますようお願いします。

産業スパイの問題は日本だけではありません。直近では、米ツイッターを内部告発した元セキュリティ責任者で著名ハッカーのピーター・ザトコ氏が、米上院司法委員会の公聴会に出席し、その証言で、米連邦捜査局(FBI)がツイッターに対し従業員の中に中国の工作員が少なくとも1人いると通知していたことが初めて明らかになり、ツイッターのセキュリティ問題がはるかに深刻である可能性が示されました。報道によれば、ザトコ氏は公聴会で、中国政府がツイッターのユーザーに関するデータを収集できることについて、一部の従業員が懸念していたと指摘、中国の広告主からの広告収入の機会を最大化したい一部のチームと、地政学的緊張が高まる中での中国での事業展開を懸念する他のチームとの内部衝突を詳述したロイター報道に触れ、「これは社内の大きな問題だった」とし、ツイッターは広告収入で最も急成長している中国に背を向けることを嫌ったとしています。また、ツイッターを解雇される前の週に、FBIがツイッターに対し、中国国家安全部(MSS)の工作員がツイッターの従業員名簿に載っていると通知したことを知ったとも述べています。この中国の工作員がまだツイッターの従業員であるのかは現時点で不明だとしています。また、北朝鮮の秘密警察、国家保衛省(旧国家安全保衛部=保衛部)が金正日総書記時代、6000~7000人に上る諜報員(スパイ)を日本など各国に派遣する一方、組織幹部の粛清により指揮系統が崩壊、要員6割との連絡がとれなくなったことが分かったということです。2022年9月13日付産経新聞によれば、兄が平壌の保衛部中枢の職員だった脱北者が産経新聞に明らかにしたもので、兄は、同部で諜報などを統括する「反探局」と呼ばれる第2局が日本人拉致被害者の管理の一部を担うことにも言及したといいます。また、諜報員網の指揮権限が局長に集中した秘密組織の弊害が露呈し、組織改編が取り沙汰されたとされます。一般的に、拉致を含む対外工作は朝鮮労働党などの工作機関が担うが、兄の説明によると、反探局では特定任務に当たる党や朝鮮人民軍傘下の工作員ではなく、特定地域に潜伏し続ける「固定スパイ」を管理、海外に派遣された6000~7000人は「固定スパイ」が中心とみられるということです。反探局要員は海外での諜報活動に加え、海外で活動する北朝鮮人の監視にも当たってきたとされ、保衛部は国内の思想犯の摘発に当たり、政治犯収容所を管理する一方、2002年の日朝首脳会談では、同部の首脳が日本側との事前交渉を担ったといいます。これらの状況から、日本がいかに産業スパイやスパイに対し脇が甘いかを痛感させられます。この問題は、企業にとってももっと身近なもの(すぐそこある危機)だと認識する必要があります。

経済産業省は、米グーグルと米メタ(旧FB)、ヤフーの3社に対し、ウェブサイトやSNS上の広告の取引条件開示などの対策を義務づけたと発表しています。2021年施行のデジタルプラットフォーム取引透明化法に基づき対象企業を指定したもので、国内売上高を基準に3社が選ばれたものです。強い影響力を持つ巨大IT企業との公正な取引を目指し、アプリストアやオンラインモールに続き、ネット広告を規制対象に追加、ルール変更時の事前通知や、苦情・問い合わせ対応などの体制整備、広告費を不正取得する「アドフラウド」の判定基準の開示といった取り組みが求められることになります。また、対応状況をまとめた報告書を年1回提出することや、独占禁止法違反の恐れがある事案は経産相が公正取引委員会に対処を要請できることにもなります。取引透明化法は、巨大IT企業に取引条件の開示や自主的な体制整備を促すもので、同省は同法の対象業種にネット広告を追加するため、8月までに関連する政省令を改正、10月3日付で広告主やウェブサイト運営事業者向けに相談窓口を設置、巨大IT企業との取引について助言し、弁護士への情報提供などを支援する態勢を整えています。デジタルプラットフォーマーの犯罪インフラ化を阻止する取り組みが日本でも本格化したことを意味しますが、後述するように米では通信品位法230条の見直しの議論が始まっており、その動向が日本における規制のあり方にどのような影響を及ぼすのかも注目されるところです。

▼経済産業省 「特定デジタルプラットフォームの透明性及び公正性の向上に関する法律」の規制対象となる事業者を指定しました~「デジタルプラットフォーム取引相談窓口」(デジタル広告利用事業者向け)も設置します~
  • デジタルプラットフォーム運営事業者とデジタルプラットフォームの利用事業者間の取引の透明性と公正性確保のために必要な措置を講ずる「特定デジタルプラットフォームの透明性及び公正性の向上に関する法律」について、本日、デジタル広告分野における同法の規制対象となる事業者を指定しました。併せて、本日、デジタル広告分野のプラットフォームを利用する事業者の相談に応じ、解決に向けた支援を行うための相談窓口を設置しました。
    1. 背景・趣旨
      • 近年、デジタルプラットフォームが利用者の市場アクセスを飛躍的に向上させ、重要な役割を果たしています。他方、一部の市場では規約の変更や取引拒絶の理由が示されないなど、取引の透明性及び公正性が低いこと等の懸念が指摘されている状況を踏まえ、「特定デジタルプラットフォームの透明性及び公正性の向上に関する法律」(令和2年法律第38号。以下「透明化法」といいます。)が、令和2年5月に成立し、令和3年2月に施行されました。
      • 透明化法においては、特に取引の透明性・公正性を高める必要性の高いデジタルプラットフォームを提供する事業者を「特定デジタルプラットフォーム提供者」として指定し、規律の対象とすることとされています。
      • 令和3年4月には、総合物販オンラインモール運営事業者3社、アプリストアの運営事業者2社を「特定デジタルプラットフォーム提供者」として指定しています。
    2. 規制対象として指定した事業者
      • 本日、デジタル広告分野の「特定デジタルプラットフォーム提供者」として、以下の事業者を指定しました。
      • 「特定デジタルプラットフォーム提供者」として指定された事業者は、透明化法の規定により、取引条件等の情報の開示及び自主的な手続・体制の整備を行い、実施した措置について、毎年度、自己評価を付した報告書を提出することが義務付けられます。
        1. メディア一体型広告デジタルプラットフォームの運営事業者
          ※自社の検索サービスやポータルサイト、SNS等に、主としてオークション方式で決定された広告主の広告を掲載する類型

          • Google LLC:広告主向け広告配信役務である「Google広告」、「Display&Video360」等を通じて「Google検索」又は「Youtube」に広告を表示する事業
          • Meta Platforms,Inc.:広告主向け広告配信役務である「Facebook広告」を通じて「Facebook(Messenger含む)」又は「Instagram」に広告を表示する事業
          • ヤフー株式会社:広告主向け広告配信役務である「Yahoo!広告」を通じて「Yahoo!JAPAN(Yahoo!検索含む)」に広告を表示する事業
        2. 広告仲介型デジタルプラットフォームの運営事業者
          ※広告主とその広告を掲載するウェブサイト等運営者(媒体主)を、主としてオークション方式で仲介する類型

          • Google LLC:広告主向け広告配信役務である「Google広告」、「Display&Video360」等を通じて、「AdMob」、「Adsense」等により、媒体主の広告枠に広告を表示する事業
    3. デジタルプラットフォーム取引相談窓口(デジタル広告利用事業者向け)の設置
      • 「デジタルプラットフォーム取引相談窓口」は、透明化法の実効的な運用を図るための取組の一つとして設置されており、取引上の課題等に関する悩みや相談に専門の相談員が無料で応じ、アドバイスを行っています。
      • 本日新たに、デジタル広告分野のプラットフォームを利用する事業者(広告主や、広告を掲載するウェブサイト等運営者など)向けの窓口を設置しました。
      • 主な支援内容
        • デジタルプラットフォーム提供者への質問・相談方法に関するアドバイス(過去事案も踏まえた対応、デジタルプラットフォーム提供者との相互理解促進等)
        • 弁護士の情報提供・費用補助
        • 利用事業者向け説明会・法律相談会の実施
        • 複数の相談者に共通する課題を抽出し、解決に向けて検討(ヒアリング等による実態把握も実施)等
      • 経済産業省としては、相談窓口を通じて得られた事業者の声をもとに、共通する取引上の課題を抽出し、関係者間で共有することを通じて、取引環境の改善を目指していきます。
        • ※例えば、透明化法に基づき毎年度実施される、特定デジタルプラットフォームの透明性及び公正性を評価するプロセス(モニタリング・レビュー)において、相談窓口に寄せられた情報を有識者を含む関係者間で共有・議論し、評価につなげていきます。特定デジタルプラットフォーム提供者は、評価結果を踏まえて運営改善に努めなければならないとされています。

消費者庁は「飲むだけで痩せる」など根拠のないインターネット上の広告表示の取り締まりを強化する方針を打ち出しています。ネットを検索して疑いのある広告表示がないかをチェックする頻度を上げるほか、広告の出稿主を迅速に把握するシステムも2023年度以降に導入するとしています。ネットビジネスの拡大に伴って消費者被害が増える恐れがあるとみて対策を急ぐものです。同庁は「がんに効く」や「コロナを防ぐ」など根拠が不明なまま、商品の性能が優良であるかのように誤認させる広告表示を見つけた場合、広告の出稿主に対し、景品表示法に基づき、再発防止策などを求める措置命令を発出しているほか、出稿元の企業名なども公表、悪質な場合などは課徴金の納付命令を出しています。2021年度に国内のネット広告の市場規模は約2.4兆円と、3年前に比べ4割増えており、ネット広告は閲覧時期や閲覧者によって表示内容が変わる仕組みになっていることが多く、監視は難しく、広告件数が増えたことですべてを監視しきれなくなっている状態だといえます。国民生活センターによれば、全国各地の消費生活センターなどに寄せられたネット広告に関する相談は表示に関するもの以外も含め、2020年度に約3万7千件と2011年度に比べて3.2倍になった一方、ネット広告に関連した不当表示への措置命令は近年、年間数十件で推移、報道で消費者庁が「潜在的な被害はより多いはずだ。現在の体制では調査件数に限界があり、効率的な体制で積極的な措置命令につなげたい」と述べているとおり、不正な広告により犯罪が助長される犯罪インフラ化が進展しないような対策が急務だといえます。

世界のネット検索市場でシェア9割超を持つグーグルは、日本でもほぼ「1強」状態にあり、そのアルゴリズムは、企業にとって業績が左右されるほどの大きな存在となっています。自社サイトの検索順位が下がれば訪問者が減り、売り上げにも影響を及ぼしかねないためで、企業はSEO担当を置いたり、外部のSEO専門家に依頼したりしてグーグル対策を取っています。グーグルは、データベースに保存している数千億ものウェブページなどから、検索された語句との関連性やソース(情報源)の専門性、利用者の位置情報といった数百の指標などで情報を評価し、順位を付けて表示していますが、検索順位が不正に操作されることなどを防ぐため、アルゴリズムの評価指標や変更点など詳細は公表しておらず、外部からは推測することしかできません。一方で、その影響力の大きさから、株式上場時の資料などにアルゴリズム変更を経営上のリスクとして記載したり、決算発表で業績悪化の要因にアルゴリズム変更をあげたりする企業も少なくありません。ネット広告事業を営む都内のある会社では、グーグルのアルゴリズム変更が引き金となり、経営首脳の責任問題に発展したといいます。2022年10月1日付朝日新聞で、グーグルはアルゴリズムを変更する理由について、「ウェブ上のコンテンツが増加し、変化し続ける中、検索クエリ(検索語句)に対する検索結果の品質を向上させるため」と説明しています。最新技術を用いて、利用者の検索意図をより正確に理解するなどし、関連性や信頼性の高い情報を届けられるように検索サービスの改善に取り組んでいるといいます。このアルゴリズムの問題は、本コラムでも以前取り上げた「食べログ」訴訟でも大きな争点となりました。予約サイトなどの運営企業が独自に設定・運用するアルゴリズムは、最重要の営業秘密であり、中身が見えない「ブラックボックス」となりがちな一方、その設定次第で参加企業の売り上げや利用者の行動が左右されることになり、その公正さや透明性をめぐり、法的手段も駆使しての攻防が、世界中で繰り広げられるようになっています。アルゴリズムの透明性をめぐっては、公正取引委員会も関心を強めており、公取委が2021年3月に公表した、有識者による研究会の提言をまとめた報告書「アルゴリズム/AIと競争政策」では、ランキング順位の恣意的な操作などに厳正に対処するため、公取委などの競争当局が自らアルゴリズムの動作を検証する能力を高めることの重要性が指摘されています。公取委は今年4月、アルゴリズムやAIに詳しい実務経験者4人を非常勤の新設ポスト「デジタルアナリスト」として採用するなど、体制の強化を急いでいます。

前述したとおり、産業スパイに対する備えを強化する必要がある中、サイバー犯罪集団が産業スパイの性格を強めている点が気がかりです。また、国家の関与などその活動が拡がりを見せている点には大きな危惧を覚えます。これらの点について、2022年10月5日付日本経済新聞の2つの記事が大変参考になりましたので、以下、抜粋して引用します。

サイバー集団が産業スパイに 被害37社、「国の依頼」も
4月以降、スイスの製薬大手ノバルティスなど37社に攻撃を仕掛け、盗んだデータを売り出したサイバー犯罪集団が現れた。日本経済新聞の取材に「国からスパイ行為を請け負っている」と告白した集団もいる。フランスのエネルギー管理会社、Idexの社員のものと思われるパスポートの写真が7月、通信アプリ「テレグラム」に大量に公開された。「インダストリアルスパイ」と名乗るサイバー犯罪集団が、5000人超の閲覧者がいる自らのチャンネルに投稿した。Idexと仏政府の契約内容や顧客データなどを盗んだと主張した。パスポート写真は攻撃が成功した根拠だ。Idexはその後、攻撃を受けた事実を公表した。…販売場所はダークウェブ(闇サイト群)の会員制サイトだ。機微なデータは特定の相手に独占販売する。インダストリアルスパイは日経の取材で販売収入は明かさなかったが、「月ごとに増えている」と述べた。これまでのサイバー攻撃では、盗んだ情報の保有者に金銭を求めるランサムウエア(身代金要求型ウイルス)攻撃が主流だった。トレンドマイクロによると、最大規模のランサム集団「ロックビット3.0」など、少なくとも2つの集団が2021年以降、企業機密を当該企業以外にも売り始めた。同社の岡本勝之セキュリティエバンジェリストは「身代金以外の収入源も探している」とみる。…5月から活動が確認されている「アトラス・インテリジェンス・グループ」は、これまで中国電信(チャイナテレコム)や、イスラエルの銃火器企業のものとされるデータを売り出した。ミスター・イーグルと名のるアトラスのリーダーは日経の取材に対し「複数の国家から依頼を受けたことがある」と語った。「依頼者は国家元首の部下を名乗り、顔もインターネットに公開されていて本人と確認ができた」という。経済分断の時代に各国は最先端技術や資源を囲い込む。地経学的な対立が激しくなるほど、サイバー犯罪集団の産業スパイ活動は拡大する可能性がある。
出光や栗田工業、サイバー戦の標的に 闇サイトで売買
イスラエルのセキュリティ企業KELAと日本経済新聞は、サイバー戦の標的になり得る社会インフラ関連企業を対象に、ダークウェブ(闇サイト群)で情報が売買されているかどうかを調べた。2021年以降に出光興産や水処理の栗田工業のシステムへの攻撃方法とされる情報が売りに出されていたことがわかった。出光の情報を販売していたハッカーは日経新聞の取材に対し、「既に情報は600ドル(約8万6000円)で売った。購入者は出光の中枢システムに侵入できる」と主張している。出光は別のセキュリティ企業からの警告を受けて調査したが、「現状攻撃は確認されていない」という。栗田工業によると、別のハッカーは09年に設置された同社の災害時のリモートワーク用システムへの侵入方法を売っていた。簡易なパスワードでログインできてしまう当初の設定のままだったため、ハッカーにつけ込まれた。栗田工業は同システムを利用する社員がほぼいないとし、「具体的な被害は確認されていない」という。企業を狙うサイバー犯罪者の活動はますます活発になっている。KELAが企業のシステムへの侵入方法が闇サイトに販売されるケースを調べたところ、22年4~6月期は前年同期の2.3倍に急増した。サイバー犯罪者の活発な活動の背景には、ロシアや中国などの権威主義国家と、米欧をはじめとした西側諸国との対立の激化が影響しているとの見方がある。…サイバーセキュリティに詳しい日本の当局関係者は「ロシアと中国はサイバー犯罪者を利用するようにスパイ戦略を変えてきている。作戦情報が漏洩する可能性は高まるが、その分より広く仮想敵国に攻撃を仕掛けられる」とみている。国家がサイバー犯罪集団を頼るようになった背景にあるのが犯罪者の攻撃能力の向上だ。マルウエア(悪意のあるプログラム)やターゲットの情報の売買が闇サイト上で活発になり、分業化が進んだことが犯罪者の能力向上を後押ししている。サイバーディフェンス研究所の名和利男専務理事は「特に企業へ侵入するための脆弱性やパスワードの売買が急拡大している」と警鐘を鳴らす。サイバー犯罪に詳しい脅威分析研究所(東京・新宿)の高野聖玄社長は「リモートワークの普及で会社が守るべきIT機器が個人端末まで広がり、企業の防衛が難しくなっている」と指摘する。情報機関や国家が支援する犯罪者に集中的に狙われれば被害を完全に防ぐのは困難だ。「侵入を受けた後に素早く検知して攻撃者を排除するなど多層的な防御が重要だ」と訴える。

警察庁は、2022年8月から9月15日までのインターネットバンキングでの不正送金被害が254件(被害額計約3億8200万円)に急増していると発表しています。金融機関を装った偽の「フィッシングサイト」に誘導するメールが多数確認されており、こうしたサイトに入力したことで盗み取られたIDやパスワードが使われている可能性が高いとみて、心当たりのないメールやSMSのリンクをクリックしないよう呼び掛けています。ネットバンキングでの不正送金は2019年以降、減少傾向にあり「、2022年1~7月の被害は175件(約4億2700万円)だったところ、その後、不正送金が急増し、8月は1カ月だけで70件(約2億1300万円)、9月1~15日は184件(約1億6900万円)の被害が確認されていますが、急増している要因は不明としています。フィッシングサイトに誘導するメールなどには「違法なマネー・ローンダリングの疑い」、「不正ログインを検知」といった不安をあおる文面が書かれていることが多いということです。また、被害が急増した要因は分かっていないが、「フィッシング対策協議会」によると、2021年8月に確認されたフィッシングサイトの数は9024件だったところ、2022年8月は5倍超の4万9221件に上っているといいます。犯罪グループが偽サイトの種類を増やすなど手口を巧妙化している可能性があります。また、被害に気づかず、警察に届けていないケースもあるとみられています。

▼金融庁 インターネットバンキングによる預金の不正送金事案が多発しています。
  • メールやショートメッセージサービス(SMS)、メッセージツール等を用いたフィッシングと推察される手口により、インターネットバンキング利用者のID・パスワード等を盗み、預金を不正に送金する事案が多発しています。
  • 主な手口 SMS等を用いたフィッシング手口
    • 銀行を騙ったSMS等のフィッシングメールを通じて、インターネットバンキング利用者を銀行のフィッシングサイト(偽のログインサイト)へ誘導し、インターネットバンキングのIDやパスワード、ワンタイムパスワード等の情報を窃取して預金の不正送金を行うもの。
  • こうした被害に遭わないために、
    • 心当たりのないSMS等は開かない。(金融機関が、ID・パスワード等をSMS等で問い合わせることはありません。)
    • 金融機関のウェブサイトへのアクセスに際しては、SMS等に記載されたURLからアクセスせず、事前に正しいウェブサイトのURLをブックマーク登録しておき、ブックマークからアクセスする。または、金融機関が提供する公式アプリを利用する。
    • 大量のフィッシングメールが届いている場合は、迷惑メールフィルターの強度を上げて設定する。
    • 金融機関が推奨する多要素認証等の認証方式を利用する。
    • 金融機関の公式サイトでウイルス対策ソフトが無償で提供されている場合は、導入を検討する。
    • パソコンのセキュリティ対策ソフトを最新版にする。
    • インターネットバンキングの利用状況を通知する機能を有効にして、不審な取引(例えば、ログイン、パスワード変更、送金等)に注意する。こまめに口座残高、入出金明細を確認し、身に覚えのない取引を確認した場合は速やかに金融機関に照会する。 など、十分ご注意ください。
▼警察庁 フィッシングによるものとみられるインターネットバンキングに係る不正送金被害の急増について(注意喚起)
  • 令和4年(2022年)8月下旬からインターネットバンキングに係る不正送金事犯による被害が急増しています。
  • インターネットバンキングに係る不正送金被害については令和元年(2019年)以降、発生件数・被害額ともに減少傾向が続いており、令和4年上半期※(1月から6月までの6か月間)における発生件数は145件、被害額は約3億2,100万円でしたが、8月における発生件数は70件、被害額は約2億1,300万円、また、9月1日から15日までにおける発生件数は184件、被害額は約1億6,900万円となっており、急増しています。(数値はいずれも暫定値)
    ※「令和4年上半期におけるサイバー空間をめぐる脅威の情勢等について」(令和4年9月15日警察庁広報資料)では「発生件数144件」及び「被害額約3億1,571万円」と記載しているところ、その後に判明した被害が1件あるため、数値を改めています。
  • 被害の多くはフィッシングによるものとみられます。具体的には、金融機関(銀行)を装ったフィッシングサイト(偽のログインサイト)へ誘導するメールが多数確認されています。このようなメールやSMSに記載されたリンクからアクセスしたサイトにID・パスワード等を入力しないよう御注意ください。
  • また、一般財団法人日本サイバー犯罪対策センター(JC3)が具体的な手口や対策などの関連情報をWebサイトで公開していますので、併せて御参照ください。
▼JC3のWebサイト 「インターネットバンキングの不正送金による被害を防ぐために」

警察庁から「令和4年上半期におけるサイバー空間をめぐる脅威の情勢等について」が公表されています。「公共空間」としての重みを増している「サイバー空間」が犯罪インフラ化しないための対策が急がれます。

▼警察庁 令和4年上半期におけるサイバー空間をめぐる脅威の情勢等について
  • デジタル化の進展等に伴い、サイバー空間が量的に拡大・質的に進化するとともに、実空間との融合が進み、あらゆる国民、企業等にとって、サイバー空間は「公共空間」として、より一層の重みを持つようになっている。また、デジタルトランスフォーメーション(DX)の進展や中小企業を含めたサプライチェーンの拡大等、サイバー空間の「公共空間化」の加速は、国民生活や社会経済活動に様々な恩恵をもたらしている。
  • 一方、国内においてもランサムウエアによる感染被害が多発し、事業活動の停止・遅延等、社会経済活動に多大な影響を及ぼしているほか、サイバー攻撃や不正アクセスによる情報流出の相次ぐ発生、Emotetの新たな感染手口の出現等、サイバー空間をめぐる脅威は、極めて深刻な情勢が続いている。
  • 令和4年上半期中に警察庁に報告されたランサムウエアによる被害件数は114件と、令和2年下半期以降、右肩上がりで増加し、その被害は、企業・団体等の規模やその業種を問わず、広範に及んでいる。サプライチェーンの中でセキュリティのぜい弱な部分が狙われ、サプライチェーン全体が影響を受ける事案がみられ、国内においては、自動車関連企業や半導体関連企業、産業機器関連企業においてランサムウエア感染被害が発生し、生産・販売活動の停止等を余儀なくされた。
  • このほか、医療・福祉、運輸、建設、小売等の様々な企業・団体等がランサムウエアに感染し、個人情報・機密情報の流出、新規患者の受入れ停止、サービス障害、金銭被害等の事態が発生した。また、国内企業の海外子会社においてもランサムウエア感染被害が発生しており、一部企業では内部データの流出が確認されるなど、社会経済活動のみならず、国家安全保障にも大きな影響が生じ得る状況となっている。
  • 国外においても、石油・港湾関連施設や運送会社、航空関連企業等に対するランサムウエア攻撃によって、燃料の供給停止や航空機の運行停止等の事態が生じ、市民生活や社会経済活動に多大な影響を及ぼすなど、ランサムウエアが世界的に猛威を奮っている状況にあるほか、ウクライナ情勢をはじめ、国際情勢が変化する中で、政府機関や重要インフラ分野の関連企業・施設等に対するサイバー攻撃も頻発しており、これらの攻撃には、国家の関与が疑われるものがみられるなど、こうした脅威についても注視していかなければならない。
  • 警察庁では、ランサムウエアによる被害の発生やサイバー攻撃事案のリスクの高まりを受け、内閣官房内閣サイバーセキュリティセンター(NISC)や関係省庁との合同により、複数回にわたって、重要インフラ事業者等をはじめとする企業・団体等に対して注意喚起を行った。
  • そのほか、Emotetの感染被害も相次いでおり、更なる感染被害の拡大も懸念されるところ、警察では、Emotetの解析を継続して実施しており、4月にはショートカットファイルを用いた新たな感染手口について、6月にはウェブブラウザに保存されたクレジットカード番号等の情報を外部に送信する新機能について、それぞれ警察庁ウェブサイトを通じて注意喚起を実施した。
  • インターネットバンキングに係る不正送金事犯については、令和2年以降、発生件数、被害額ともに減少傾向が続いているが、フィッシング対策協議会によれば、令和4年上半期のフィッシング報告件数は前年同期と比較して倍増しており、クレジットカード事業者、通信事業者を装ったものが多くを占めている。
  • また、警察庁が検知したサイバー空間における探索行為等とみられるアクセス件数も継続して高水準で推移している。これらのアクセスの大半は海外を送信元とするものであり、海外からのサイバー攻撃等に係る脅威が引き続き高まっていると認められる。さらに、検知したアクセスの宛先ポートに着目すると、ポート番号1024以上のポートへのアクセスが大部分を占めており、これらのアクセスの多くがぜい弱性を有するIoT機器の探索やIoT機器に対するサイバー攻撃を目的とするためのものであるとみられる。
  • このように、引き続きサイバー空間における脅威が極めて深刻である中、警察では、令和4年4月、警察庁にサイバー警察局を、関東管区警察局にサイバー特別捜査隊を新設し、警察庁と都道府県警察とが一体となった捜査、実態解明等に取り組むとともに、捜査・解析能力の高度化や事業者等と連携した被害防止対策の立案・実施等の取組を推進している。引き続き、これらの取組を強力に推進し、サイバー空間に実空間と変わらぬ安全・安心を確保すべく努めていく。
  • 令和4年上半期における脅威の動向
    • ランサムウエアとは、感染すると端末等に保存されているデータを暗号化して使用できない状態にした上で、そのデータを復号する対価として金銭を要求する不正プログラムである。
    • 従来は、暗号化したデータを復元する対価として企業等に金銭を要求していたが、最近では、データの暗号化のみならず、データを窃取した上で「対価を支払わなければ当該データを公開する」などとして金銭を要求する二重恐喝(ダブルエクストーション)という手口や、VPN機器をはじめとするネットワーク等のインフラのぜい弱性を狙って侵入する手口が多くみられる。
    • 企業・団体等におけるランサムウエア被害として、令和4年上半期に都道府県警察から警察庁に報告のあった件数は114件であり、令和2年下半期以降、右肩上がりで増加している。
    • 二重恐喝(ダブルエクストーション)による被害が多くを占める被害(114件)のうち、警察として手口を確認できたものは81件あり、このうち、二重恐喝の手口によるものは53件で65%を占めている。
    • 暗号資産による金銭の要求が多くを占める。被害(114件)のうち、直接的な金銭の要求を確認できたものは28件あり、このうち、暗号資産による支払いの要求があったものは27件で96%を占めている。
    • 被害(114件)の内訳を企業・団体等の規模別にみると、大企業は36件、中小企業は59件であり、その規模を問わず、被害が発生している。
    • 復旧に要した期間について質問したところ、53件の有効な回答があり、このうち、復旧までに1か月以上を要したものが12件あった。
    • また、ランサムウエア被害に関連して要した調査・復旧費用の総額について質問したところ、49件の有効な回答があり、このうち、1,000万円以上の費用を要したものが27件で55%を占めている。
    • ランサムウエアの感染経路について質問したところ、47件の有効な回答があり、このうち、VPN機器からの侵入が32件で68%、リモートデスクトップからの侵入が7件で15%を占めており、テレワークにも利用される機器等のぜい弱性や強度の弱い認証情報等を利用して侵入したと考えられるものが83%と大半を占めている。
    • 令和4年上半期においても、ランサムウエアによって流出した情報等が掲載されているダークウェブ上のリークサイトに、日本国内の事業者等の情報が掲載されていたことを確認した。掲載された情報には、財務情報や関係者、顧客等の情報が含まれていた。
    • 令和4年上半期におけるインターネットバンキングに係る不正送金事犯による被害は、発生件数144件、被害総額約3億1,571万円で、前年同期と比べて発生件数、被害額ともに減少した。
    • インターネットバンキングに係る不正送金事犯は、令和元年に、SMS等を用いて金融機関を装ったフィッシングサイトへ誘導する手口が急増し、ID・パスワード、ワンタイムパスワード等が窃取され、金融機関のインターネットバンキングから不正送金される被害等が多発し、同年には、発生件数1,872件、被害総額約25億2,100万円に達した。こうした情勢を踏まえ、金融機関、JC3等と緊密に連携の上で被害防止対策について協議した結果、金融機関において、モニタリングの強化、利用者への注意喚起などといった諸対策が推進され、フィッシングを主な手口とするインターネットバンキングに係る不正送金事犯は、令和2年以降、件数、被害額ともに減少している。他方、フィッシング対策協議会によれば、令和4年上半期のフィッシング報告件数は45万82件(前年同期比+22万1,855件)で、銀行を装ったものの割合は少なく、クレジットカード事業者、通信事業者を装ったものが多いとされており、フィッシング報告件数は右肩上がりで増加している。
  • サイバー空間の脅威情勢
    • 警察庁では、インターネット上にセンサーを設置し、当該センサーに対して送られてくる通信パケットを収集している。このセンサーは、外部に対して何らサービスを提供していないので、本来であれば外部から通信パケットが送られてくることはない。送られてくるのは不特定多数のIPアドレスに対して無差別に送信される通信パケットであり、これらの通信パケットを分析することで、インターネットに接続された各種機器のぜい弱性の探索行為等を観測し、ぜい弱性を悪用した攻撃、不正プログラムに感染したコンピューターの動向等、インターネット上で発生している各種事象を把握することができる。令和4年上半期にセンサーにおいて検知したアクセス件数は、1日・1IPアドレス当たり7,800.3件と、継続して高水準で推移している。アクセス件数が継続して高水準にあるのは、IoT機器の普及により攻撃対象が増加していること、技術の進歩により攻撃手法が高度化していることなどが背景にあるものとみられる。
    • 検知したアクセスの送信元の国・地域に着目すると、近年、海外の送信元が高い割合を占めている。令和4年上半期においても、国内を送信元とするアクセスが1日・1IPアドレス当たり44.6件であるのに対して、海外を送信元とするアクセスが7,755.7件と大部分を占めており、海外からの脅威への対処が引き続き重要となっている。
    • 検知したアクセスの宛先ポートに着目すると、ポート番号1024以上のポートへのアクセスが大部分を占めており、全体のアクセス件数が高水準で推移する要因となっている。ポート番号1024以上は、主としてIoT機器が標準設定で使用するポート番号であることから、これらのアクセスの多くがぜい弱性を有するIoT機器の探索やIoT機器に対するサイバー攻撃を目的とするためのものであるとみられる。また、Miraiボットの特徴を有するアクセスを継続して検知していることもあり、国内のIoT機器等に対する脅威は依然として継続している状況である。
    • 単一の送信元からの広範な宛先ポートに対するアクセスは、近年増加傾向にある。令和4年上半期において、1日当たり100個以上の宛先ポートに対してアクセスを行った送信元IPアドレス数は341.8個で、前年同期の242.5個と比較して99.3個(41%)増加した。
    • 1日に100個以上の宛先ポートに対してアクセスを行った送信元IPアドレス数の増加の背景としては、インターネットに接続されている機器やそれらが行っているサービス、さらに、それらのぜい弱性の有無を網羅的かつ短期的に把握しようとする者が増加していることや、ボットネットを利用することで広範な探索が行われていることなどがあると考えられる。把握したぜい弱性等の情報を悪用された場合は、短期間に広範囲の攻撃が行われるなどといった被害の発生が懸念される。そのため、機器のぜい弱性対策として、OS等を最新のものにアップデートする、パスワードを使い回さないなど、一般的なセキュリティ対策を確実に行うことが重要である。
  • 標的型メール攻撃
    • 警察及び先端技術を有するなど情報窃取の標的となるおそれのある全国約8,400の事業者等(令和4年6月末現在)から構成されるサイバーインテリジェンス情報共有ネットワーク(以下「CCIネットワーク」という。)の枠組みを通じて、事業者等から提供される標的型メール攻撃をはじめとする情報窃取を企図したとみられるサイバー攻撃に関する各種情報を集 約するとともに、これらの情報を総合的に分析して、事業者等に対し、分析結果に基づく注意喚起を行っている。また、NISCから提供を受けた政府機関に対する標的型メール攻撃の分析結果についても、当該事業者等に対して情報共有を行っている。
  • 不正アクセス禁止法違反
    • 令和4年上半期における不正アクセス禁止法違反の検挙件数は233件と、前年同期と比べて89件増加した
    • 「利用権者のパスワードの設定・管理の甘さにつけ込んで入手」が最多識別符号窃用型の不正アクセス行為に係る手口では、「利用権者のパスワードの設定・管理の甘さにつけ込んで入手」が100件と最も多く、全体の46.1%を占めており、次いで「他人から入手」が22件で全体の10.1%を占めている。
    • 被疑者が不正に利用したサービスは「オンラインゲーム・コミュニティサイト」が最多。識別符号窃用型の不正アクセス行為に係る被疑者が不正に利用したサービスは、「オンラインゲーム・コミュニティサイト」が113件と最も多く、全体の52.1%を占めており、次いで「社員・会員用等の専用サイト」が51件で全体の23.5%を占めている。
  • コンピューター・電磁的記録対象犯罪
    • 令和4年上半期におけるコンピューター・電磁的記録対象犯罪の検挙件数は330件で、前年同期と比べて11件増加した。
    • 検挙件数のうち、電子計算機使用詐欺が318件と最も多く、全体の96.4%を占めている。

他人名義のクレジットカードで買い物をしたとして、埼玉県警は、群馬県在住のトルコ国籍の男ら3人を詐欺容疑で逮捕しています。カードは実在の人物名義で、本人の知らないうちに発行されていたといいます。3人は発行に関わっていないとみられ、県警は組織的にカード作成が行われたとみています。クレジットカードの不正利用の多くは、発行済みカードの番号やパスワードなどの情報を「フィッシングサイト」などを通じて盗み、その情報を使って買い物をする形で行われますが、今回の事例について県警は、何者かが銀行口座などの個人情報や偽造の身分証を用いて、カードを不正に作成したとみています。これは「虚偽入会」と呼ばれ、事例が少なく、詳しい手口はわかっていないということです。また、一般社団法人日本クレジット協会によれば、「虚偽入会」の被害事例は少なく、件数の統計はないとのことです。なお、協会が把握しているカードの不正利用の被害総額は、2021年は約330億1千万円で、このうち約94%は、正規利用者のカード情報を「フィッシング」などで盗んで買い物をする「盗用」だったといいます。一般的にカードの発行には、氏名や生年月日などの個人情報、免許証などの本人確認書類、利用代金引き落としのための銀行口座などが必要で、カード各社はそれに加えて様々な審査をしており、虚偽入会のハードルは低くないのが現状ですが、被害件数が少なく、手口がはっきりしていないのが実情で、報道で、こうした問題に詳しいITジャーナリストの三上洋氏も虚偽入会について「あまり聞かない被害だ」と指摘、ユーザー側の現時点の対策としては、カード作成に必要な情報の漏洩を防ぐため、パスワードの使い回しをしない、2段階認証サービスを利用する、メールやSMSに記載されたURLに安易にアクセスしない、利用明細の確認の慣習化などを徹底することが重要だといいます。虚偽入会の手口については、本コラムでも今後その動向について注視していきたいと思います。

身代金要求型ウイルス「ランサムウエア」の変異型が猛威を振るっているとのことです。ウイルス対策ソフトをすり抜けてしまうことから防御が難しく、被害が膨らむ要因になっているといいます。また、「報奨金を支払う」と称してウイルスの強化方法を募る攻撃グループも登場しており、迅速な被害情報の共有と対策が急務になっています。2022年9月24日付日本経済新聞によれば、変異型は既存のウイルスの設計図(ソースコード)を書き換えることで生まれ、改造の目的は対策ソフトによる検知のすり抜けだといわれています。一般的に対策ソフトは事前に登録されたウイルスの特徴と合致した場合に排除や注意喚起をするもので、変異型はソースコードが違うため同じ特徴と判定されず、対応できない場合も多いのが現状です。米セキュリティ大手フォーティネットがランサムウエアの変異型を調べたところ、1~6月に1万666種類を確認、調査を始めた2021年7~12月は5400種類で、半年で倍増していたといいます。ランサムウエアによる被害は急増していますが、攻撃グループによる活動内容の変化も被害増加の背景にあるとされます。セキュリティ大手のトレンドマイクロによると、ランサムウエア「ロックビット」を展開するグループは2022年6月ごろ、ウイルスのプログラムに弱点を見つけて知らせたり、強化策を提案したりした場合に報奨金を支払うとアピール、単に攻撃するだけでなく、ウイルスの強化に力を入れる姿勢を強調しているといいます。なお、ランサムウエア攻撃による被害の状況は、前述の警察庁のレポートのとおりですが、日本を含む世界26の国と地域を対象としたトレンドマイクロの調査では、攻撃を受けたと回答したうち、身代金を支払ったのは41.7%で、金銭を支払った割合では、日本よりも世界全体の方が高いという結果となりました。また、日本で攻撃を受けたと回答した70人はアンケート対象全体の34.5%にあたりますが、世界全体だと66.9%に上るといい、報道で、トレンドマイクロ社は「身代金は支払わない方がいい」と注意を促しています。「攻撃者にとってはカネが手に入らなければ、『ただ働き』と同じ。日本企業を攻撃しても利益にはならない、というイメージを攻撃者に示すことが重要だ」と指摘していますが、正にそのとおりかと思います。そして、被害に遭わないためにはVPN機器などを最新版にアップデートしたり、社内ネットワークの異常を検知するシステムを導入したりする対策が有効であり、警察庁も、身代金を支払ってもランサムウエアが解かれる保証はないとして、要求に応じるのは適切ではないとしています。

米メタは、同社のSNS「フェイスブック(FB)」の利用者らのパスワードなどを盗むことを目的とした悪意あるスマートフォン向けアプリ400種類超の一覧を公表しています。写真編集や音楽再生などの機能を持つようにみせかけたマルウエア(悪意のあるプログラム)が多くみられています。スマホ向け基本ソフト(OS)を手がける米グーグルと米アップルに通知し、すでに両社のアプリストアから削除したとしています。400種類超のマルウエアの9割近くはグーグルのOS「アンドロイド」向けで、アップルの「iOS」向けは50種類弱、写真編集アプリなどのほか、ウェブサイトの閲覧速度を高めるとうたうVPN(仮想私設網)アプリや、星座占いアプリなども含まれています。なお、報道によれば、メタはマルウエアをダウンロードした可能性がある約100万人のフェイスブック利用者にパスワードの変更などを促す通知を始めているということです。マルウエアの開発者はアプリのログイン時にフェイスブックに登録されている個人データを共有する機能を悪用し、利用者にユーザー名やパスワードの入力を促し、盗んだ認証情報を使えば、被害者のFBアカウントにアクセスできる状態になっていたといいます。FBの認証情報の入力を求める外部アプリのなかには安全で合法的なものも多く、マルウエアとの見分けがつきにくいとも言われています。メタによるとマルウエアの開発者はアプリストア上に高評価の偽レビューを投稿し、人気アプリを装って消費者にダウンロードを促そうとするケースもあったようです。

水道や電力など日本の社会インフラのうち、少なくとも877カ所でサイバー攻撃の被害に遭うリスクが高いと、2022年10月3日付日本経済新聞が報じています。報道では、「排水ポンプを止めて水害のリスクを上げたり、再生可能エネルギー施設の警報を切ったりできる。基幹インフラの防護は経済安全保障政策の柱の一つ。暮らしやビジネスに思わぬ影響を与えかねない。国内で脆弱な監視システムが多数見つかった今回の調査結果について、高市早苗経済安全保障相が書面で日経新聞の質問に答えた。高市氏は「サプライチェーン(供給網)全体でセキュリティのレベルを上げることは喫緊の課題」と指摘した。「経営者にサイバーセキュリティ対策にかかる費用や時間を『やむを得ないコスト』と考えるのではなく、『市場で高い評価を受けるための投資』と考えてもらう啓発活動が必要だ」とコメントした」、「社会インフラに対するサイバー攻撃の脅威は高まっている。ロシアによるウクライナ侵攻でも停電や通信の一時停止を狙うサイバー攻撃が相次いだ。9月6日に日本政府の関連サイトをサイバー攻撃したハッカー集団「キルネット」は、JCBや東京地下鉄(東京メトロ)などインフラを支える企業を攻撃対象として名指しした。今回調査で判明したインフラの「穴」は氷山の一角だ。監視システム以外にも保守用のインターネット回線やVPN(仮想私設網)の脆弱性など、外部ネットとインフラをつなぐ通信システムにもサイバー攻撃リスクがあり、思わぬ形で被害が広がりかねない」と指摘しています。極めて重要な指摘だと考えます。なお、この点については、2022年10月3日ウd家日本経済新聞の記事「」で具体的な事例で紹介されています。その最前線の無防備さに大変驚かされるとともに、現状を把握するという点で大変参考になりましたので、以下、抜粋して引用します。

日本経済新聞とセキュリティ企業ゼロゼロワンの共同調査で、地方自治体が運営する水道施設の遠隔監視システムにサイバー攻撃のリスクなどが見つかった。最前線では何が起きているのか。現場を歩いた。「サイバーリスクって何ですか?」。上下水道課の市職員は脆弱な監視システムの取材に驚いた様子だった。大分県にあるこの市は観光地として知られる。にぎわう観光客の近くで、水道施設はサイバー攻撃のリスクにさらされていた。この市が運営する水道施設の監視システムは外部のインターネットと直接つながっていた。不正アクセスされる可能性があるほか、偽のログイン画面を利用したフィッシング攻撃を受ける恐れがある。取材後に、このシステムは改修された。こうした事態やリスクを認識していたのか。記者の問いかけに課長は本音を漏らす。「サイバーセキュリティの議論なんて一度もしたことがなかった」。防犯の観点では、不法侵入者などのリアルな対応しか念頭に置いていなかった。日本のインフラは元来、外部ネットから隔絶した状態で運用することでサイバー攻撃を防いでいた。業務の効率化が求められる中、危機感の薄いまま外部からの遠隔監視などを導入してしまう事例が相次いでいる。…脆弱なサイバー防衛体制に陥っていた背景を探ると、日本の安全保障に対する意識の低さが浮かび上がる。低い意識をもたらす要因の一つは人口減少が生むひずみだ。…50年ほど前に整備された水道網はここにきて一気にガタがきた。老朽化する水道管の維持管理費が重くのしかかり「サイバーに詳しい専門人材を採用する余裕もない」(同市職員)。老いるインフラもサイバー防衛の強化を阻む死角となる。総務省と自治体のコミュニケーションも十分にとれていない。…横浜国立大の吉岡克成准教授は「まず事業者からセキュリティを重視する方針にしていく必要がある」と指摘する。IT知識の乏しい自治体が利便性を重視してリスクのあるシステムを提案しても、止めない傾向にあるためだ。地方自治体はデジタルを活用した省力化で現場の負担を減らしたい。半面、自治体・工事事業者ともにサイバー対策への知見が少なく、気づかぬうちに不備が広がる。縮む日本で老いるインフラを非効率な管理体制のままに放置してきたことも、こうした脆弱なサイバー防衛を生み出す状況に拍車をかけている。

行政におけるサイバーセキュリティのあり方と関連して、防衛省のケースが取り上げられていました。

EUはインターネットにつながる機器を対象に、サイバーセキュリティ上の対策を求める方針です。企業に安全性が確保されているかどうか、専門機関などによる評価を受けることを義務付け、規則を守っていない場合は多額の罰金を科すというものです。ネット接続機器は急増しており、サイバー攻撃への備えを手厚くする必要があると判断しています。EUの欧州委員会がサイバー・レジリエンス法案を公表しました。メーカーやソフトウエアの開発事業者は、EUの規則を守れなければ、最大で1500万ユーロか、世界の総売上高の2.5%の高い方を制裁金として科される可能性があるとされます。法案はEU加盟国からなる閣僚理事会と、欧州議会の合意を得て成立、成立から2年後に具体的なルールの適用が始まる見込みで、EUで販売される製品が対象で、経済安全保障を強化する新たな措置という観点もあり、EUで事業活動をする日本企業などにも影響が出る可能性があります。あらゆるモノがネットにつながるIoT時代に入り、従来の通信機器だけでなく、冷蔵庫から電子レンジ、ケトルなどの家電から工場のロボットまでインターネットにつながる機器は増えています。総務省の情報通信白書によると、世界の2020年の接続機器数は253億台で2016年から5割弱増えています。欧州委は製造業者に対して、対象機器にEUの基準に沿ったサイバー対策を施したという第三者などの評価を受けるよう義務付け、。適合が証明されれば、EU安全規格の表示「CEマーク」をつけて販売できるようになるとのことです。消費者やユーザー企業は必ずしもサイバー攻撃のリスクに詳しいわけではないものの、1つの機器がサイバー攻撃を受ければ、被害が他の機器やネットワークに及ぶ可能性があることを踏まえ、欧州委は、製品を市場に送り出す企業に責任を負わせることにしたものです。

政府のオンラインシステム「e―Gov」や企業のホームページで、大量のデータを送りつけられてシステムが麻痺する「DDoS攻撃」が原因とみられる障害が相次ぎ、親ロシアのハッカー集団「キルネット」が関与を主張したことが記憶に新しいところです(なお、その後、キルネットは「新たなスポンサーが見つからない限り攻撃できない。日本人はもう心配しなくてもいい」と産経新聞の報道で述べています。また、「ロシア政府との関係はなく、活動資金はすべて募金で賄っている」と説明、9月下旬に入り、ロシア国内にある複数の金融機関の口座が凍結されたといい、キルネットの創設者は、匿名性の高い通信アプリ「テレグラム」に「予算もサーバーもなく、活動を継続できない」と投稿しています)。ロシアがウクライナ侵略を始めた時期から、同様の攻撃は全世界で5倍に増えたとの調査もあり、専門家は警戒を呼びかけています。「ロシアはウクライナで犯罪を犯していない」、「日本国政府全体に宣戦布告」などキルネットは、通信アプリ「テレグラム」にマスク姿の人物と音声を投稿し、一連のシステム障害について、自分たちの犯行だと主張しました。専門家によれば、キルネットは、サイバー攻撃によって自分たちの政治的主張をアピールする集団「ハクティビスト」の一派とみられています。DDoS攻撃は、サイトが利用不能になるなど被害が見えやすく、ハクティビストに選ばれやすい手段とされています。ウクライナ危機が起きたことで、DDoS攻撃は全世界で増加、米セキュリティ会社「インパーバ」が2022年3月以降、世界約6200社で検知したDDoS攻撃は毎月1万回前後に上り、それまでの月の2~5倍になったといいます。DDoS攻撃は、サイバー攻撃の手段として多用されており、ロシア軍がウクライナ国防省のサイトに大量のデータを送りつけて麻痺させた一方で、ウクライナ政府が募った「IT軍」はロシアの証券取引所のサイトに「反撃」を加えるなどしています。IT会社「インターネットイニシアティブ」によると、家庭や企業のルーターやサーバーなどの機器に脆弱性があった場合、ハッカーに侵入され、DDoS攻撃の起点として悪用される危険があるといい、同社は「システム障害は人ごとではない。家庭でも機器のソフトウエアを更新し、セキュリティ強化に努めてほしい」と呼びかけています

マツダや英家電大手ダイソン、米誌フォーブスなど世界の主要企業数社が相次いで、米ツイッターへの広告出稿を一部停止しています。ツイッター上で各社の広告が、児童ポルノへ誘導する投稿と並んで表示されたためということです。2022年9月29日付ロイターによれば、サイバーセキュリティの向上に取り組むグループ「ゴーストデータ」が児童への性的虐待に関する調査報告をまとめ、そこで特定された、児童ポルノに誘導するリンクが張られた複数のツイッターアカウントを調べたところ、米ウォルト・ディズニー、米NBCユニバーサル、米コカ・コーラから児童病院に至るまで、30を超える広告主の広告が、これらアカウントのプロフィルページに表示されたということです。一例では、米国の靴ブランド、コールハーンの広告ツイートが、児童ポルノのコンテンツ売買に関するとされるツイートの次に表示され、同社は「ぞっとする。ツイッターがこの状況を直すか、われわれがどんな手段を使ってでも是正するかだ。ツイッターから広告枠を買わないことも含まれる」と批判しています。また、マツダの米国法人は「ネット上にこの種のコンテンツの居場所はない」とコメント、ツイッターのプロフィルページへの自社広告表示を禁じています。米ツイッターの広報担当は声明で、同社が「児童の性的搾取を一切許容しない」と強調、広告主などと協力して調査を行い、再発防止策を講じていると説明していますが、人権重視の傾向が世界的に強まる中、ツイッターの犯罪インフラ化の状況を阻止すべく、同社は対策を急ぐ必要があるといえます。関連して、米カリフォルニア州議会で2022年8月末、SNSなど子供がアクセスするサービスにおいて、売り上げよりも子供の安全を優先するようプラットフォーム企業に求める法案が通過しています。直訳すると「年齢相応設計コード法」と呼ばれる法案は18歳未満のユーザーを対象とし、彼らがアクセスするサービス、製品などを設計する際、自社の商業的な利益と子供のプライバシーや安全・健康の保護が相反する場合は、後者を優先させることを課すものです。米国では連邦レベルでユーザーの安全を確保するための規制がいくつかあるものの、ここまで明確に子供の保護を求めた例は初めてとされます(英国にある規制にならったものといいます)。子供の保護への関心の高まりは、メタ元社員が、同社のアルゴリズムは子供に有害などとした内容告発が影響しているといえます。なお、報道によれば、審議がストップしたものの、子供がSNSなどの利用中毒になった場合の責任を、プラットフォーム企業に問うことができるという法案も提出されていたことが明らかになっています。こちらの法案では、ビデオコンテンツの自動再生、プッシュ型のお知らせや広告などユーザーを中毒にさせるサイト設計、自殺や摂取障害につながるようなコンテンツの連続表示などを禁止項目として挙げていますが、利用中毒を果たしてプラットフォーマーに問えるのかどうかなど議論すべき点は多いとはいえ、この動きも注目されるところです。

プラットフォーマーの責任という点では、日本でも、インターネット通販サイト「アマゾン」で偽造品の出品を放置されたとして、指先で血中酸素濃度を測定する「パルスオキシメーター」を製造・販売する医療機器会社2社が、「アマゾンジャパン」に計2億円の損害賠償を求める訴訟を東京地裁に起こしたことが注目されます。2社は新型コロナウイルス禍でパルスオキシメーターの需要が高まる中、アマゾンが対策を取らなかったことで売り上げが激減したと主張しているものです。報道によれば、2020年春以降、パルスオキシメーターは感染者の体調確認で使われ、エクセル社の月間売り上げは2021年8月に約1億1400万円に達したものの、2社の製品に似せた中国製のパルスオキシメーターが10分の1の価格でアマゾンに出品されるようになり、同年10月の売り上げが約61万円まで激減、原告側は中国製の製品を購入し、トライ社の製品を偽造したものと確認したとし、エクセル社はアマゾンに通報したが、販売停止などの対応は取られず、同社の売り上げは回復しなかったものです。

AIによる新技術が次々に登場する中、AIを活用することで人々の権利が侵害されるリスクが顕在化しています。今夏ごろから注目を集めるようになったAIによる画像生成サービスでは、クリエーターからの反発の声で”炎上”する事態も起きています。法整備が追い付かない速度で発達するAI技術に対し、企業倫理をアップデートする必要が生じています。報道によれば、AIを活用したクリエーター向け業務効率化サービスを提供するラディウス・ファイブは8月、AIイラストメーカー「mimic」を公開、AIがマンガやアニメ調のイラストの特徴を学習して似た画風のイラストを自動生成するサービスで、クリエーターのイラスト制作の参考資料などに活用してもらうことを想定したところ、インターネット上で「他人のイラストを学習させて悪用する人が出るのではないか」といった懸念の声が噴出、同社は「不正利用を防ぐ仕組みが不十分だった」として、わずか1日で公開を停止しています(課題を改善した上で正式版を公開するとしています)。また、EUの欧州委員会は、AIを搭載した自動運転車やドローンなどの製品で、けがやプライバシーの侵害などの被害を受けた場合、被害者が補償を受けやすくなる法案を公表しています。AIを使う製品が市場に普及しつつある中、消費者保護のルールを整備する狙いがあります。AIを使った製品やサービスで被害を受けても、損害賠償を求めることができる規則はEUや加盟国では十分に整備されておらず、一般的に、過失を調べて賠償を求める場合には、被害者が誰に請求するかを決め、被害の因果関係を説明する必要があるところ、複雑な技術で構成されるAIが絡む場合は難しいのが現状です。法案では、被害者は製品をつくった企業などにAIに関する情報を提供するよう裁判所に求めることができるようになり、被害者の立証責任を軽減し、厳密な立証よりも緩やかな基準で合理性を示せれば裁判所は被害を引き起こしたと推定できるようになるというものです。新しい技術がもたらず利便性と犯罪インフラ性の両面に配慮しながら、既存の法体系や取引慣行等を柔軟に見直していく必要があることを感じさせます。

(6)誹謗中傷/偽情報等を巡る動向

インターネットに悪質な投稿をした人の身元の開示手続きを簡略化する「改正プロバイダー責任制限法」が10月1日から施行されています。これまでは特定するまでに時間がかかり、迅速化が課題となっていました。かつて誹謗中傷を受けた人からは、被害の救済や抑止効果を期待する声が上がっています。これまでのプロバイダー責任制限法では、被害者はSNSやウェブサイトの運営事業者から発信者のIPアドレス(ネット上の住所)の開示を受け、さらにプロバイダーに対して氏名や住所の請求を行うため、通常、2回の裁判手続きが必要で、特定するまで1年近くかかることもありました。しかし、ネット上での誹謗中傷に関する被害相談の増加や、2020年に女子プロレスラーの木村花さん(当時22歳)が自殺した問題を受け、制度見直しの議論が加速、同法が改正され、10月1日以降、開示請求は1回で済むようになります。あわせて、本コラムでも取り上げてきたとおり、海外IT企業の日本での法人登記も進んでいることから、加害者特定の手続きが国内で完結するケースも増えるとみられています。2022年9月28日付読売新聞で、ネットトラブルの法的問題に詳しい清水陽平弁護士は「特定までの期間が2、3か月早まることが予想される。時間がかかるという理由で手続きをあきらめていた被害者も多く、被害救済につながる」と指摘していますが、正にそのような効果を期待したいところです。一方、インターネット上の誹謗中傷などに関する被害相談は増えており、総務省の「違法・有害情報相談センター」に寄せられた相談は2021年度、6329件で10年前の4倍以上となっています。内訳は「名誉毀損」が最多の2558件、住所や電話番号などをさらす「プライバシー侵害」が2252件と続いています。また法務省によると、2021年のネット上の人権侵害は1736件で、10年前の2.7倍に増え、このうち、誹謗中傷にあたる「プライバシー侵害」と「名誉毀損」は1208件で、約7割を占めていますが、これはプロバイダー事業者に投稿の削除を要請した件数を集計したデータであり、被害全体の一部に過ぎません。さらに、相談者のうち、「発信者の特定方法を知りたい」と希望する人の割合も増えており、2015年度は4%だったが、2021年度は16%になっています。また、誹謗中傷に関する相談を受け付けている一般社団法人「セーファーインターネット協会」では、中傷に該当すると判断した場合、ウェブサイトやSNS事業者に連絡し、削除要請を行っており、同協会が2021年に要請した1414件のうち、74%にあたる1046件が削除されたといいます。協会は、被害者に対し、証拠保全のため、投稿のスクリーンショットの保存や投稿日時、URLを記録するように勧めており、「一人で悩まずに、相談機関や警察、弁護士に相談してほしい」と呼びかけています。なお、誹謗中傷の問題は、とりわけアイドルに関しては深刻です。

ヤフーなどネット企業が参画する一般社団法人セーファーインターネット協会は、誤情報などの真偽を検証する「ファクトチェック」の専門機関を立ち上げると発表しています。

▼SIA、「日本ファクトチェックセンター」を設立~偽情報・誤情報の流通防止や利用者のリテラシー向上、人材育成など、総合的な偽情報・誤情報対策を実施~
一般社団法人セーファーインターネット協会(会長:中山 明 以下、SIA)は、本年10月1日に偽情報・誤情報対策を行うファクトチェック機関「日本ファクトチェックセンター」(英語表記:Japan Fact-check Center 略称:JFC)を設立することをお知らせいたします。近年、国内外においてインターネット上での偽情報・誤情報の流通が深刻化しており、昨今の新型コロナウイルス感染症に関しても偽情報・誤情報が流通し課題として顕在化しました。SIAではこのような状況を受け、2020年6月に偽情報対策の産学官民連携した取り組み「Disinformation対策フォーラム」を設立し有識者による議論を進めた他、2021年7月に「ワクチンデマ対策シンポジウム」を開催するなど、偽情報・誤情報対策に取り組んでまいりました。

この度、SIAでは「Disinformation対策フォーラム」の報告書を受け、「情報空間の健全性向上」、「人材の育成」、「情報リテラシーの向上」を柱とした、偽情報・誤情報対策を総合的に実施いたします。その一環として、Googleの慈善事業部門であるGoogle.orgと、ヤフー株式会社の支援を受け、偽情報・誤情報対策を実施するファクトチェック機関「日本ファクトチェックセンター」を2022年10月1日に設立いたします。本センターでは、主に「情報空間の健全性向上」について取り組み、インターネットに流通する偽情報・誤情報についてファクトチェックを実施しチェック結果や参考情報などの情報を発信します。ファクトチェック情報の発信につきましては、「Yahoo!ニュース」をはじめとした情報プラットフォームへの配信に向け、準備を進めてまいります。なお、本センターは、各国のファクトチェック団体の連合組織「国際ファクトチェックネットワーク(International Fact-Checking Network、「IFCN」)」の認証を目指します。また、「人材の育成」、「情報リテラシーの向上」については、実践を通じたファクトチェッカーの育成や、活動において得た知見を活かした啓発活動を実施する等して、幅広い偽情報・誤情報対策を推進いたします。

この度の発表に関し、グーグル合同会社 河本 雄様、ヤフー株式会社 片岡 裕様よりコメントを頂いております。

  • グーグル合同会社 上級執行役員 河本 雄様のコメント
    • 「偽情報、誤情報問題解決のためには、政府、企業、インターネット ユーザー、そしてテクノロジー企業が一丸となって協力することが重要です。今回、 .orgのSIAへの支援を通じて、JFCの設立に貢献できたことを嬉しく思います。」
  • ヤフー株式会社 常務執行役員 メディアグループ長 片岡 裕様のコメント
    • 「インターネットの発展に伴って情報の流通経路が多様化する中、不確かな情報や意図的に作られた偽情報が広く流通することは、私たちの生活に大きな影響を及ぼす身近な課題となっています。こうした偽情報・誤情報への対策は急務であり、ユーザーの健全な情報摂取環境を維持・向上させるためには、情報の検証や発信が欠かせません。日本ファクトチェックセンターの活動が、私たちが日常的に触れている情報の信頼性を向上させ、偽情報・誤情報の流布への抑止力となるよう、ヤフーは活動を支援し、ファクトチェック情報の発信において強く連携してまいります。」

SIAは、言論・表現の自由に十分に配慮しつつ、関係者と柔軟に連携しながら引き続き質の高い言論空間の発展に貢献してまいります。

本コラムでもたびたび取り上げてきましたが、ネット上の偽情報・誤情報では、2016年の米大統領選を巡るフェイクニュースが注目され、国内でも2020年以降に新型コロナウイルスを巡る誤情報がSNSを中心に広がったほか、ロシアのウクライナ侵攻を巡っては、両国を中心に国際的な情報戦が活発となっています。正しい情報を発信しても誤情報の方が拡散しやすい点や、画像や動画の自動合成技術が悪用される点などが問題視されています。SIAは具体的に、ネット上でフェイクニュースなどの拡散が社会問題化しており、個別の言説の真偽を判定して公表、識者も参画する形で継続して偽情報対策に取り組むもので、ネット上で拡散している不確かな言説のうち、社会混乱や人権侵害など深刻な影響になりうる情報を中心に真偽をチェックし、根拠を示しながら「正確」「根拠不明」「誤り」など5段階で判定するといいます。結果はSNSなどを通じて発信するほか、ヤフーニュースなどのニュースサイトでの配信も予定しているといいます(新聞記者出身者らでつくる編集部が、SNSで流れている真偽不明な情報などを確認する記事をネット上で毎月10本以上配信する方針といいます)。新組織の運営方針を決める運営委員長には、京都大学の曽我部真裕教授が就任、ガバナンスをチェックする監査委員会も設け、東京大学の宍戸常寿教授が委員長に就き、検証実績を重ねた上で、世界100団体以上が加盟する国際組織「国際ファクトチェックネットワーク」から国内初となる認証取得をめざすとしています。

国内の偽情報を巡る最近の報道の中から、いくつか紹介します。

  • 台風15号の大雨被害を巡って、架空の出来事(デマ)をでっち上げた画像をSNS上に拡散させ、人々を混乱させる問題が実際に起こっています。今やAI(人工知能)の無料ツールを使えば、知識のない人でもリアルな偽物を作ることができるといいます。デマを発信した人物の証言に基づく報道によれば、「使ったのは英国に拠点を置くAI開発企業の無料ツール。AIに約20億枚の画像を学習させたもので、利用者がキーワードを入力するだけで画像を作ることができる。今年8月の公開以降、精度の高さが話題になっていた。投稿者は当初、食べ物の画像を作って遊んでいたが、台風15号のニュースを見て災害の画像でも試してみようと思ったという。26日、英語で「洪水被害」「静岡」と入力すると、1分程度で4枚の画像ができた。明らかに不自然だった1枚を除いた3枚を投稿。理由は「『見た人がだまされたら面白いな』という軽い気持ちだった」と言う。その上で「画像を拡大してよく見れば偽物だと分かると思った。こんなに多くの人が信じるとは思わなかった」と振り返った。台風15号では静岡市で大規模な断水が起き、多くの人が被害を受けた。投稿者は「ウソは良くないとは分かっていたが、自制する力がなかった。『いいね』やリツイートされてうれしい気持ちもあった。被災者や信じた人に申し訳ない」と述べた」と報じられています。デマで混乱を起こせば、偽計業務妨害罪に問われる可能性があり、実際、2016年の熊本地震では、無関係の画像を使って「動物園からライオンが逃げ出した」という虚偽の投稿をした男が、偽計業務妨害容疑で逮捕されています。この投稿者も「責任を問われても仕方がない。ちょっとした出来心でやっても、大きな問題になる。私の失敗から、多くの人に怖さを分かってほしい」と話しています。AIでは架空の人間の顔画像も生成でき(ディープフェイク)、海外では悪用が相次いでいます。ロシアによるウクライナ侵略でも、SNSでウクライナ人になりすまし、「西側諸国はウクライナを裏切っている」などと投稿していたアカウントに使われています。報道で、偽情報を研究する桜美林大の平和博教授(メディア論)は「誰でもAI画像を作ることができ、いたずらや悪意で発信することも容易になった。真偽が分からないものが増えれば、災害時などに本物の画像が逆に『フェイクでは』と疑われ、悪影響が出る恐れもある。発信者の過去の投稿から信頼性を調べたり、公的機関や専門家の見解を確認したりするなどの基本的な対策が重要だ」と指摘していますが、正にそのとおりかと思います。
  • 新型コロナウイルスのワクチン接種を巡り、「接種により重症になる確率は、感染して入院する確率の3倍」だとWHOが認定したとして、鳩山由紀夫元首相が誤った情報を再びツイッターで発信し、疑問の声が相次いでいます。専門家らの指摘を待つまでもなく、ワクチンの有効性は明らかであるところ、鳩山氏のこの投稿に注意が必要な状況です。投稿には「WHOの研究は、ワクチン接種で重症となるリスクが新型コロナで入院するリスクよりも339%高いと結論づけている」などと英語で記された資料のような画像も添付されていますが、この投稿に対し、「信じるならその論文なりソース(情報源)くらい読まれたらどうですか」、「元総理大臣がデマを広げたらダメでしょう」などと疑問視するリツイートが次々と寄せられています。2022年9月22日付毎日新聞によれば、今回の投稿内容の真偽について、WHOは毎日新聞の取材に対し「安全なワクチンは、新型コロナに起因した重症化や入院、死亡に強い予防効果を発揮している」などとメールで回答し、事実上否定した一方、鳩山氏の事務所は取材に対し「ツイートにあるように全て白澤卓二先生からの情報ですので、ご質問は同氏にお問い合わせください」とメールで回答、白澤抗加齢医学研究所の担当者は「取材は受けられません」と電話で話したと報じられています。さらに、ワクチンの有効性について、感染症に詳しい専門家は、「今回に限らずデマは発信源が僅かでも、拡散される過程で著名人が加わると信ぴょう性が増して広がっていきます」と指摘、鳩山氏については「総理経験者が十分に情報源を確認しないまま誤った情報を安易に発信するとは通常は思いもよらないため、影響は大きい。世の中に与える影響力が大きい人であれば、もう少し責任を持って行動していただきたいと思います」としていますが、正にそのとおりかと思います。
  • 安倍晋三元首相の国葬に関し「反対のSNS発信の8割が隣の大陸からだった」とツイッターに投稿した三重県の小林貴虎県議が「投稿の内容は誤りであり撤回する。関係者の方に迷惑をかけ、深く反省している」と述べています。自身のアカウントを非公開にし、県議会などで「悪質なデマ」と批判された発言の経緯や投稿の意図を明確にしないまま、幕引きを図った形となりました。小林氏は、騒動の発端となった投稿に加え、根拠を問われて「高市早苗先生が、政府の調査結果としてお伝えいただいた内容」と書き込んだツイートも、すでに削除したとしています。小林氏は、保守系団体「日本会議」の会合が名古屋市内であり、高市経済安全保障担当相が安全保障問題について講演した際に「政府の調査結果」として話した内容を基に投稿したと報道陣に説明、これに対して高市氏は、小林氏が言及した「政府調査」について否定していたものです。小林氏は、講演の内容を書き取ったメモを基に投稿したが「講演を聴いた複数の方から、事実と異なる部分があると指摘された」と述べ、高市氏の秘書に、電話で謝罪したということです。一方、あらためて高市氏は、発言がなかったことを含めてなぜ明らかにできないのか問われ、「自民党の地方議員のための勉強会で、来年選挙も控えられているなかで、私自身どなたからどこで何を聞いたということを思い出せない場合もある。こちらからは一切反論等しないほうがいいと判断した。一方でそこにいた多くの議員はそういった発言はなかったと話していることも聞いた。こちらから何らかのコメントをしないほうがいいだろうと判断した」と説明、しかし、会見終盤で改めて再度発言の有無について問われると、「発言はなかったです。ないです。そもそも大陸という言葉を私は使わない」と否定しています。
  • インターネット通販で買った子供用スニーカーからマイクロチップが見つかったとして「私たちは管理されている」と訴えるツイートが拡散し、臆測を呼んでいます。「私たちは管理されており命の選別段階にあることをご承知おきください。時間がありません、来年ワクチン法案があげられています」、「命の選別の対象にならないように多数、イヤ! 国民全員に知らせていきましょう」などと拡散を呼び掛けているものです。これに対しアシックス広報部は、マイクロチップについて「RFID(Radio Frequency Identifier)」と呼ばれるタグだと説明、電波を用いて情報を読み取ったり、書き込んだりできるICチップが内蔵されており、商品管理に使用しているもので、倉庫などで商品がある場所を探す際に素早く見つけることができる、シリアル番号を基に商品の在庫数をカウントし、在庫の位置や数、移動履歴を正確に管理できるといったメリットがあるとしています。そのうえで、今回の騒動について、「2018年7月以降に生産された商品にはタグが付いていて、そのまま流通することはあります。ただし、日本では2020年以降は取り付けていないため、(ツイッターで取り上げられた靴は)2020年より前に生産された商品なのではないでしょうか」と話しています。さらに、個人情報を巡る懸念については「RFIDタグには個人情報は一切含まれていません。シリアル番号と個人情報のひも付けはしていないため、個人情報が特定されたり、追跡されたりする心配はありません」と強調しています。正しい情報を十分に収集することなく、正しい理解をしないまま、思い込みだけで偽の情報を拡散する行為は、このように傍から見ればかなり滑稽に見えるほどです。そして、こうした構図がいわゆる陰謀論を形づくっていることも実感させられます。

2022年9月15日付日本経済新聞によれば、中国発の動画投稿アプリ「TikTok」上で流れる動画の約20%が虚偽や誤情報を含んでいる可能性があることが、米国のメディア格付け機関「ニュースガード」が報告書にまとめられています。TikTokは米国でも若者に人気となっていますが、差別や格差を助長しかねない意見が広がっており、米社会全体への悪影響が懸念されています。TikTokが検索機能で上位に表示する動画の真偽について、ロシアのウクライナ侵攻、新型コロナウイルス、中絶問題といった話題性の高い27のキーワードを選び、それぞれ上位20位までの動画内容を正確な情報と照らし合わせたところ、合計540本のうち、2割にあたる105本が視聴者に誤解を与える内容を含んでいたということです。たとえば新型コロナワクチンについてTikTokで検索をかけると「接種者に深刻な健康被害を及ぼす」といった誤情報を上位に表示するほか、検索機能自体にも問題があり、多数の民間人遺体が見つかったウクライナの「ブチャ」を調べると、TikTokが最初の候補として「ブチャ フェイク」と提案してきたとしています。多くの米国市民が使う検索エンジンのグーグルとも比較したところ、グーグルは「比較的質が高く、中立的」な検索結果が多いとする一方、TikTokは極端な例や偏った候補を提案してくる傾向が強いと結論づけています。

まもなく、米中間選挙が始まります。今やSNSと選挙、偽情報の流布はセットとなっており、終わりなき戦いが繰り広げられています。米国の報道のあり方は法規制やテクノロジー、社会情勢によって揺れ動いており、情報源となるメディアが新聞・テレビからインターネットやSNSに分散するなか、米国民の幅広い合意形成が難しくなっている状況にあります。メディア報道が大きく変わるきっかけになったのが1987年の「フェアネス・ドクトリン(公平原則)」撤廃だと言われています。同原則は放送局に、公に注目される問題を巡っては立場の異なる見解を平等に紹介することを義務付ける内容でしたが、廃止によって報道内容の偏りが大きくなったとの指摘は多く、視聴者が自らの意見に近いテレビだけをみる傾向が強まっていくことになりました。2021年の世論調査によると米国人の半数はSNSからニュースを得ており、自らの考えと似た意見に同調する「エコーチェンバー現象」はかねて指摘されていたところ、SNSを通じた偽情報や誤情報の拡散をどう防ぐかが喫緊の課題となっています。1996年成立の通信品位法230条で、SNSの運営企業はユーザーの発言や交流が犯罪行為につながっても責任を負わないとされ、運営企業を免責することで言論の自由を守りイノベーションを促すと支持されている半面、健全な議論を妨げて民主主義の危機をもたらすとの声も多く、米連邦最高裁は9月、SNSの運営企業が掲載動画への責任を負うかどうかを審理すると決めています。判決次第では同法230条の扱いにつながる可能性があり注目されます。また、選挙とSNSの関係について、その歴史を紐解くと、米国ではオバマ元大統領が2008年の大統領選でフェイスブック(FB)を駆使して支持を広げ、SNSは草の根の民主主義の立役者ともてはやされました。トランプ前大統領はツイッターで8000万人近いフォロワーを確保し、自らの支持者に直接語りかける道具として活用しました。政治家によるメディア利用の歴史は、悪用をもくろむ勢力との攻防史と表裏一体といえ、2016年の大統領選では外国勢力がFBを利用して選挙介入を試み、2020年はツイッターを通じた偽情報の拡散が焦点となりました。2021年1月に連邦議会議事堂の占拠事件が起きると、ツイッターはトランプ氏が暴力をあおったとしてアカウントを永久凍結、本人が立ち上げたトゥルース・ソーシャルには「陰の国家が世界を支配する」といった陰謀論を信奉するQアノンも集うといった状況となっています(専門家らは、「トランプ氏はここ数カ月、Qアノンの投稿を拡散し続けており、主張が本当だと信じ込ませ過激化させている」と分析しています)。ツイッターなどでは広告によって政治的なメッセージの拡散を強める手法が問題になり、禁止や制限に動いたほか、ティックトックも2019年に政治広告を禁止しています。一方、インフルエンサーと呼ぶ多くのフォロワーを抱える利用者に対価を払って動画の投稿を依頼する手法が広がり、抜け穴になる懸念が高まっています。関連して、バイデン米大統領は、憎悪犯罪(ヘイトクライム)への対策を話し合う専門会議で演説し、人種差別や過激主義に立ち向かうよう国民に求めたほか、SNS運営企業に憎悪拡散に対して責任を課す必要性を訴えています。報道によれば、「白人至上主義者に決定権は持たせない」と強調、米国では長い間少数派に対して憎悪行為が横行し、ここ数年で政治家やメディアがさらに助長したと指摘しています。専門会議では特定の社会集団を狙った銃乱射などの憎悪犯罪の事例が取り上げられましたが、バイデン氏は議会に対し、SNS企業の免責規定を廃止して「憎悪拡散の責任」を課し、透明性に関する要件も大幅に強化するよう呼びかけました。また、バイデン氏は「過激な思想が拡散しやすいSNSのアルゴリズムの透明性を上げるための法整備が必要だ」とも述べています。バイデン政権はSNSの投稿内容について運営企業の法的責任を免除した「通信品位法230条」を廃止するよう議会に繰り返し求めており、IT企業に対する反トラスト法や透明性関連の取り締まり強化も支持しています。一方、動画投稿サイトのユーチューブは暴力的な過激思想への対策を強化すると表明、暴力的な過激主義に関する指針を拡大し、動画の作成者がテロ組織と関係がなくても、暴力行為を賛美するコンテンツを削除するほか、偽情報を広めるために使用される改ざんを見抜く方法を若いユーザーに教えるメディアリテラシーキャンペーンを開始するとしています。Microsoftも暴力コンテンツの検知・防止を支援するため、基礎的で手頃なAIと機械学習ツールを学校や小規模な組織で利用できるようにすると発表しています。また、メタは、ミドルベリー国際大学院テロ・過激主義・テロ対策センターの研究者と提携すると発表しています。

前述のとおり、米連邦最高裁はSNSを運営するネット企業が掲載動画への責任を負うか否か審理することになりました。テロに関連した動画によって被害があったとする訴訟をとりあげるとし、企業に責任があると判断し規制が必要となればネットのあり方に大きな影響がでることになります。最高裁は、SNSの動画が過激派組織を手助けしたとする2件の訴訟を扱うと同意、プラットフォーマーと呼ばれる米グーグルの「ユーチューブ」や米ツイッターなどが訴えの対象になっています。一つが2015年にパリで起きた過激派組織「イスラム国」(IS)によるテロに関する訴訟で、死亡した被害者の遺族はユーチューブが、テロ集団の動画を、アルゴリズムを通じて利用者に推奨したことでテロを助けたと主張しているものです。最高裁の判決次第では、ネットサービスの利用者間のやりとりにSNS企業は責任を負わないとする通信品位法230条の扱いにつながることになります。米ネット企業は同法をもとにビジネスモデルを構築してきたことから、法律が変われば、自由な表現が認められてきたネット上の空間が変わりうる大きなインパクトを秘めたものとなります。一方、プラットフォーマーへの規制は米国内で政治テーマとしても浮上しています。党派を超え規制を求める声が増える一方、趣旨には違いがみられます。前述のとおり、バイデン米大統領は9月、ヘイトクライム撲滅を訴え、暴力行為や嫌がらせを助長するSNS企業に責任を課す必要性を唱えています。一方、共和党内にはネット企業が「保守的な投稿を検閲している」として規制を求める声があります(実際、トランプ前大統領はツイッターのアカウントを止められています)。また、米最高裁は2022年6月に中絶を憲法が保障する権利と認めた1973年の判決を覆す判断を下していますが、リベラル派を中心に反発が広がり、国内に分断が生じています。ネット規制は中絶問題に続き、米国民の関心を呼ぶ可能性があります。

ヘイトクライム問題について、2022年10月5日付毎日新聞において、ネオナチ団体に所属していた男性が、「ネットに情報が氾濫し、憎悪の対象を探すことも、陰謀論に触れることも容易になった。憎しみを人知れず増幅させやすくなっており、以前よりも危険度は増している」と警鐘を鳴らしていますが、正にそのとおりかと思います。米国では近年、人種、宗教、性的指向などを理由としたヘイトクライムが増加傾向にあり、連邦捜査局(FBI)の集計によると、2020年には全米で8263件の事件が発生、前年から900件以上増えたといいます。人種や民族を理由とした事件が全体の6割超を占めていますが、ヘイトクライムとの関連で特に注目されているのが「大交代理論」と呼ばれる陰謀論だといいます。意図的な移民の流入で白人を少数派に転落させようとする試みがあると主張するもので、影響を受けたとみられる白人至上主義者による銃乱射事件が度々起きています。報道で、白人至上主義に詳しい米ノースウエスタン大のキャサリン・ブリュー准教授は「非白人移民の流入や異人種間の結婚、中絶、働く女性の支援などを白人の出生率を低下させる『攻撃』と捉え、これらを通して白人を意図的に滅ぼそうとする邪悪な集団がいるという考え方が古くからある」と解説、その上で「かつては一部の過激な差別主義者の思想だったものが、主流の政治的な考え方になりつつある」と指摘しています。トランプ前大統領(共和党)が移民を「侵略者」と呼んで排除する政策を進めたことや、保守系のFOXニュースの人気キャスター、タッカー・カールソン氏が大交代理論の内容を取り上げ「民主党が移民を使って米国の人口構成を変えようとしている」などと繰り返し主張した影響が大きいと指摘しています。同氏は「陰謀論を、はばかることなく口にしてよいという雰囲気が醸成されてしまう恐れがある」と強調し、「大交代理論はヘイトクラムだけでなく、中間選挙でも意に沿わない結果をひっくり返す試みなどに作用しかねない」と警告しています。米社会の分断は、至るところに見られますが、SNSや報道のあり方、情報に対するリテラシーなどが、このような深刻な状況を招いていることを見るにつけ、日本も対岸の火事ではないと痛感させられます。

2022年9月12日付毎日新聞の記事「フェイクニュースに弱い日本人 憲法改正の機運醸成に利用も」では、ウクライナではロシアによる直接的な軍事作戦と同時並行でフェイクニュースによる攻撃が続いており、サイバーセキュリティ問題に詳しい湯浅墾道・明治大教授は「フェイクニュースが戦争の一環としてこれほど大規模に使われたのは歴史上初」と指摘しています。大変興味深いものでしたので、以下、抜粋して引用します。

フェイクニュースや特定の意図を持って流布する「ディスインフォメーション」のレベルと目的が非常に多種多様になっているのが今のロシアの特色です。国際社会に向けてロシアへの支持を集めようとするもの、ロシア国民向けに軍事侵攻を正当化しようというもの、さらにゼレンスキー政権に対するウクライナ国民の信頼を失墜させようとするもの―とさまざまです。こうしたすべてが最終的に武力行使につながる形で展開されている。フェイクニュースがこれほど大規模に戦争の一環として使われたのは史上初と言えるでしょう。」、「かつてはマス(大衆)を対象にしたプロパガンダしかできませんでした。しかし、今はSNSによって、ターゲットをかなり特定できます。トランプ氏が当選した16年の米大統領選や、EUからの離脱を問う英国の国民投票ではターゲットを明確に絞り込み、効果的な情報が流されました。その結果、有権者の意思決定に大きな影響を与え、結果を左右したと言われています。」、「日本ではフェイクニュースの問題がいまだに対岸の火事だと思われる傾向が強い。最近、岸信夫前防衛相がウクライナを非難したように装う偽の画像が拡散されました。これでようやく政府も少し慌てたのではないでしょうか。米大統領選が直面したような大規模な問題が日本で起きるとしたら、私は憲法改正の国民投票に絡んでのことだと思います。改正に向けた機運が偏った形で作られる恐れがある。例えば今、中国による台湾侵攻の可能性が指摘されています。もし、中国の台湾侵攻は日本に攻め込む足がかりであり、中国軍が今にも九州に上陸しそうな勢いだ、などの偽情報が流れたらどうなるでしょう。憲法を改正して軍隊を持つべきだ、という議論にすぐつながるはずです。偽情報が怖いのは、人々の不安をあおり、冷静な議論を失わせるからです。」、「戦争を防ぐには、政府による外交的努力や、時には妥協も必要です。でも、国民がフェイクニュースにあおられ、妥協など一切許さない世論が生まれれば、戦争に突き進むしかなくなる。それは戦前の日本が経験したことです。」

偽情報と安全保障の問題については、2022年9月15日付読売新聞の「米中対立の現場」の2本の記事では、「認知戦」「智能化戦争」「制脳権」など、今後のキーワードと思われる新たなフレームワークも登場し、大変興味深いものでした。以下、抜粋して引用します。

[米中対立の現場]認知戦 米は「見せる防御」…台湾関与 行動で示す
ナンシー・ペロシ米下院議長の台湾訪問を巡る中国の認知戦は、台湾だけを対象にしていたわけではない。メディアを利用して中国の主張の浸透を図る「世論戦」が米国でも展開された。「思慮に欠けた挑発的な行動だ。この状況を作り出したのは米国であり、米国が責任を負うべきだ」ペロシ氏の台湾到着直後、中国の秦剛駐米大使は米CNNに出演し、中国の言い分をまくし立てた。秦氏は8月4日のワシントン・ポスト紙の寄稿でも「台湾を巡る現状を一方的に変更する試みだ」と主張。同16日には主要メディアを呼んで記者会見し、その内容をSNSで拡散した。米政府高官は、米国の「一つの中国」政策に変更はなく、緊張を高めているのは中国であるとの立場を繰り返し表明した。中国が「台湾周辺の現状を変更し、新常態を作り上げようとしている」とも主張した。米国は、中国の情報操作に屈せず、台湾への支持や地域への関与を継続する姿勢を見える形でも示している。8月28日には米ミサイル巡洋艦2隻が台湾海峡を通過し、9月2日には対艦ミサイルなどの武器を台湾に売却することも決めた。演習後も米議員らが続々と台湾を訪問している、…認知戦は、テレビやインターネットなど各種メディアを通じて偽情報を流すことで相手の思考を混乱させ、情勢分析や意思決定を誤らせて自国に有利な状況を作り出す。ミサイル攻撃などの従来型の戦法や、サイバー攻撃などとも組み合わせた「ハイブリッド戦」の一翼を担う。…近年ではAIやビッグデータ解析などが急速に発展し、今後の戦争は最先端情報技術を駆使した現代型の戦争「智能化戦争」になるとして、認知戦、情報戦への取り組みを加速させている。脳科学の発達とともに、敵の知覚、思考を弱体化、無力化させるために、人間の脳に直接働きかける技術も中国は模索しているとされる。脳を制する「制脳権」の議論が中国の軍事関係者の間で活発化しており、認知戦の形態も多様化していくとみられる。…「認知戦に対抗していくには、先入観を排して多種多様な情報源にあたり、等身大の中国を正確に分析して正確に恐れることだ。中国軍を過大評価してもならないし、中国軍の実態は大したことはないと過小評価するのも危険だ。」
[米中対立の現場]偽情報 台湾に揺さぶり
中国は8月、ナンシー・ペロシ米下院議長の台湾訪問に反発し、軍史上最大規模の「重要軍事演習」を実施した。その中で米中対立の最前線・台湾を舞台に、偽情報で住民の心理を操作・かく乱して自軍に有利な状況を作り出す「見えない」演習も着々と進めていた。中国軍機関紙・解放軍報などは演習2日目の8月5日、1枚の写真をSNSに流した。中国軍艦艇が台湾の陸地に近い海域で台湾軍艦艇を監視している場面で、各国メディアも演習の緊迫した様子として転載した。中国艦艇の航行を全て監視していた台湾国防部(国防省)は、陸地からの距離が近すぎるなど構図に不自然な点が多いため「偽写真だ」と断定した。下院議長が台湾に到着した同2日夜、新華社通信などが「Su(スホイ)35戦闘機が台湾海峡を越えた」と速報したのも、同部は否定した。さらに中国軍は、台湾東部沖に弾道ミサイルを撃ち込み、西太平洋に展開していた米空母の「目の前で精密射撃を行い、数百キロ・メートル後退させた」とも主張。複数の日米関係筋によると、米空母は別の任務で移動していたにすぎなかった。「米軍が台湾防衛で手を出せないと台湾や同盟国に思わせることが狙いの認知戦だった」。同筋はこう分析する。台湾に恐怖感を植え付けるために偽情報を駆使した中国は、それを「認知戦」と呼ぶ。ロシアが2014年にウクライナ南部クリミアを併合した際、SNSの情報戦で優勢に立った経験を模倣したとされる。…中国は近年、外交官らが積極的に米欧のSNSを活用する。何者かがアカウントを登録し、中国独自の主張も展開している。19年に香港で起きた大規模抗議運動を巡っては参加者の中傷が行われ、中国の新型コロナウイルス対策を称賛する情報も発信された。米企業側は中国の世論操作が疑われる場合、アカウント閉鎖で対応している。昨年12月にはツイッター社が、ウイグル問題で中国の主張を後押しするアカウント2000以上の閉鎖を発表した。だが、アカウントは閉鎖しても、また新たに作られる。世論誘導を図る中国の強い意図が透ける

最後に、ニューヨークの国連本部で、新型コロナウイルス流行や紛争で危機的状況にある教育環境の改善を話し合う「教育変革サミット」の高官級会合が開かれ、国連のグテーレス事務総長は「誤情報がまん延する時代に陰謀から事実を見分ける教育が必要になっている」と訴えています。国連児童基金(ユニセフ)などの推計によると、貧困国では10歳児のうち7割が単純な文章を理解できないとされます。グテーレス氏は「教育が子どもに力を与えるのではなく、格差を生む原因になっている」と指摘しています。また、パキスタン出身のノーベル平和賞受賞者マララ・ユスフザイさんも出席し「子どものために安全で持続可能な未来をつくりたいのなら、教育に真剣に取り組んでほしい」と各国政府に呼びかけました。偽情報への対応の本質を垣間見えた気がします。

(7)その他のトピックス
①中央銀行デジタル通貨(CBDC)/暗号資産(仮想通貨)を巡る動向

暗号資産の取引に伴う課税逃れを防ぐため、日本や米国、欧州などの主要国を中心に各国が取引情報を交換する枠組みをつくると報じられています。2022年9月14日付日本経済新聞によれば、ドルや円などの通貨は各国が税務調査の必要に応じて、口座残高といった情報をやりとりしているところ、暗号資産でも各国が情報を共有し、適正な課税に向けた環境整備を進めるとしています。暗号資産の売却などで得た利益は、日本では原則として所得税の確定申告が必要ですが、現在は、日本に住む人が外国の交換業者を使う取引を日本の税務当局が把握する仕組みはありません。新たな枠組みでは交換業者に世界共通の報告義務を課し、各国の当局間で情報を共有することになります。例えば米国の交換業者が日本に住む個人の取引を扱った場合、米税務当局に報告、この情報が日本の税務当局に伝わり、申告していない利益が見つかれば課税するというものです。さらに、ビットコインやイーサリアムといった暗号資産ごとに年間取引額を把握することが可能になるといいます。経済協力開発機構(OECD)租税委員会の作業部会が非加盟の新興国や途上国を巻き込み、110カ国ほどで議論しているといい、近く合意すれば、10月に米ワシントンで開くG20財務相・中央銀行総裁会議に報告する見通しということです。なお、すでに金融口座情報については、CRS(共通報告基準)が運用されています。国税庁のHPによれば、「外国の金融機関等を利用した国際的な脱税及び租税回避に対処するため、OECDにおいて、非居住者に係る金融口座情報を税務当局間で自動的に交換するための国際基準である「共通報告基準(CRS:Common Reporting Standard)」が公表され、日本を含む各国がその実施を約束しました。この基準に基づき、各国の税務当局は、自国に所在する金融機関等から非居住者が保有する金融口座情報の報告を受け、租税条約等の情報交換規定に基づき、その非居住者の居住地国の税務当局に対しその情報を提供します。平成27年度税制改正により、平成29年1月1日以後、新たに金融機関等に口座開設等を行う者等は、金融機関等へ居住地国名等を記載した届出書の提出が必要となります。国内に所在する金融機関等は、平成30年以後、毎年4月30日までに特定の非居住者の金融口座情報を所轄税務署長に報告し、報告された金融口座情報は、租税条約等の情報交換規定に基づき、各国税務当局と自動的に交換されることとなります。」と紹介されています。そもそも国境をもたない暗号資産の動きがグローバルレベルで捕捉される可能性が高まり、犯罪収益移転の手法として悪用されてきた暗号資産による「抜け穴」を塞ぐという意味でも、その制度と精度に期待したいと思います

米政府は、暗号資産(仮想通貨)などデジタル資産の開発に向けた包括的な枠組みを公表しています。先行する中国の「デジタル人民元」を念頭に、基軸通貨ドルの地位を守り抜く狙いがあると考えられます。「デジタルドル」と呼ばれる中央銀行デジタル通貨(CBDC)を巡って定期会合を設けるほか、主に安全保障の面での影響を精査し、米連邦準備理事会(FRB)が進めている研究を後押しするとしています。公表された枠組みでは、暗号資産に関してはマネー・ローンダリングを防ぐ行動計画を作成するほか、民間の暗号資産の相場が急落した際の投資家保護や、企業の保護に向けては、規制当局が必要と判断した場合に、市場の不正行為への調査を強化する不正資金対策、技術革新の推進などについてなど幅広く提言が盛り込まれています。バイデン大統領は2022年3月、デジタル資産の技術革新を促す大統領令に署名して研究を指示しています。CBDCの定期会合はFRBのほか米国家経済会議(NEC)、米国家安全保障会議(NSC)、財務省の代表者が参画し、決済の技術革新についての最新情報を共有し、リスクを議論するものとなります。NECのブライアン・ディーズ委員長らは「FRBがCBDCの研究と実験を継続することを奨励する」と表明しました。関連して、FRBのパウエル議長は、CBDCを導入するかどうかの決定について「少なくとも数年かかる」と述べています。本コラムでも紹介したとおり、FRBは2022年1月にCBDCの利点や課題を整理した報告書をまとめて検討を始めており、今後も慎重に議論を進める考えを示したものです。CBDCについて「潜在的なコストと利点を慎重に検討する必要がある」と述べ、公平な競争環境を確保し消費者を保護するために適切な規制が必要との見解を示し、米議会や専門知識を持つ米財務省などの行政府と協力し、導入の際には承認を得る必要があると指摘しています。また、「分散的な金融エコシステムには透明性の欠如という非常に重大な構造的問題が存在する」と指摘して、暗号通貨のような分散型金融の拡大に伴い「適切な規制が必要となる」とも述べています。さらには、法定通貨などに価値が連動する暗号資産ステーブルコインには、さらなる規制が必要だと強調しています。十分な裏付け資産や流動性を確保できていないリスクや、経済制裁の回避やマネー・ローンダリング悪用されるリスクがあると訴えています。また、暗号資産取引所やNFT(非代替性トークン)のプラットフォームを含むデジタル資産サービス業者にも適用できるよう銀行秘密保護法(BSA)の改正を議会に要請することを検討するとしたほか、各省庁からの提言を踏まえて、ノンバンクの決済業者を監督する連邦政府の枠組みを作る方針を示しています。さらに、米国の下院金融サービス委員会が規制に向けて超党派の法案を検討していることを歓迎しています。直近では、米財務省やFRBなどの金融当局は、暗号資産市場の混乱が金融システムの安定を脅かすとして、新たな規制対応を連邦議会に求める報告書を発表しています。ドルと価値が連動するよう設計された「ステーブルコイン」の暴落や不正利用の多発を受け、早急に対策を講じるよう提言しています。米金融規制当局トップで構成する金融安定監視評議会(FSOC)が会合を開き、報告書をまとめたもので、暗号資産の包括的な規制を行う権限を米当局に認める新法の制定や、既存規制の執行徹底による消費者保護を求めています。

国際決済銀行(BIS)は、クロスボーダー(越境)取引に焦点を当てたCBDC試験が完了したと発表しています。政府がデジタル人民元の国際化を目指す中国では複数の国有銀行が参加、発表文によると、4つの中銀通貨と実額取引が関与した最初の試験では、総額2200万ドル以上となる160件以上のクロスボーダー支払いと外国為替取引が行われたということです。BISが開発した「複数中央銀行デジタル通貨(mCBDC)ブリッジ」テストは中国、香港、タイ、アラブ首長国連邦(UAE)が参加し、リアルタイムかつより安価で安全なクロスボーダー支払い・決済を実現するために計画されたといい、中国交通銀行は、他の中国4行と共に法人顧客向け支払い決済のためのmCBDCブリッジテストを完了したと発表、国営メディアは、中国工商銀行と中国農業銀行が参加商業銀行20行に含まれたと報じました。

前回の本コラム(暴排トピックス2022年9月号)でも取り上げましたが、暗号資産と有価証券との線引き論争が続いています。2022年9月27日付日本経済新聞の記事「仮想通貨、再燃する有価証券との「線引き」論争」から、最近の論争のポイントを紹介します。

米証券取引委員会(SEC)のゲーリー・ゲンスラー委員長が15日の米上院公聴会で、ブロックチェーン(分散型台帳)の重要機能の1つであるプルーフ・オブ・ステーク(PoS)プロトコルを採用する仮想通貨は証券である可能性が高いとの認識を示したためだ。PoSとはブロックチェーンの整合性を維持するための方法であるコンセンサスアルゴリズムのひとつだ。コンセンサスを直訳すれば「合意」。ブロックチェーンに正しく取引記録を書き込むルールのことで、仮想通貨の二重支払いなどを防ぐ役割がある。ビットコインが採用するコンセンサスアルゴリズムであるPoW(プルーフ・オブ・ワーク)に比べて演算に伴う消費電力が少ないのを特徴とする。…仕組みをよくみると、銀行口座に法定通貨を貯金し、一定期間後に利子を受け取る仕組みに似ている。ゲンスラー氏は「融資に非常によく似ている」とかねて問題視している。ゲンスラー氏の冒頭の発言が飛び出したのは時価総額2位のイーサリアムが9月にPoSへの移行を完了したタイミングで、仮想通貨投資家は身構えた。仮想通貨と有価証券との線引きを巡る論争はクレイトン前SEC委員長時代から続いている。SECは2020年、米リップル社が取り扱う仮想通貨「XRP」を有価証券とみなし、投資家保護に違反したとして提訴した。SECとリップル社は22年9月13日、略式申し立てをおこなったが、係争はいまだ続いている。19日にはSECは仮想通貨インフルエンサーであるイアン・バリーナ氏を無登録のICO(イニシャル・コイン・オファリング=仮想通貨を使った資金調達)を宣伝したとして提訴した。根拠になった法律は証券法だ。SECは仮想通貨規制に本腰を入れ始めた。仮にSECがイーサリアムを有価証券と見なせば、イーサリアムを基盤としてつくられるNFT(非代替性トークン)やDeFi(分散型金融)市場への影響は計り知れない。米CFTC(商品先物取引委員会)や米OCC(通貨監督庁)などSECの権限拡大を嫌う勢力の反対も予想されるが、22年前半に急落した仮想通貨価格が安定するには、まだ時間がかかりそうだ。

イングランド銀行(英中央銀行、BOE)のカンリフ副総裁は、暗号資産を支えるブロックチェーン技術を使い、全ての金融市場で即時の取引と決済を行うことは、課題を考えると望ましくないとの見解を示しました。同氏は、取引と決済に対する新しい方法は、規制当局が既存のシステムに期待するのと同水準の弾力性を保証する必要があると指摘、即時決済は取引が成立した時点で現金と証券がそろっている必要があり、ブロックチェーンに基づく基盤と既存技術がどのように連携するか不透明だと述べています。また、同氏は、「実行前にエラーを特定したり、修正したりする時間がない。要するに全ての市場で取引と決済が完全に瞬時に実行するのは望ましくない可能性がある」と語っています。株式や債券の取引は現在、取引の2営業日後に決済されおり、リスクの高いエクスポージャーが生じ、その間に市場が大きく動く可能性があり、銀行は保証金や資本金でカバーする必要があります。米国は2024年3月を期限に、決済を取引の1営業日後に短縮する予定で、欧州にも同調するように圧力をかけているところです。コストとリスクを削減するため、分散型台帳技術やブロックチェーンを使って取引と決済を瞬時にする実験計画は既に実施されているものです。

英ケンブリッジ大学が発表した「ケンブリッジ・ビットコイン電力消費指数」(CBECI)によると、電力を大量に消費することで知られる暗号資産ビットコインの「採掘」(マイニング)や取引処理のエネルギー源構成は2022年1月時点で化石燃料が約62%を占め、前年同月の65%からわずかにしか減っていなかったこと、石炭は47%から37%に低下したが、ガスが16%から25%に増えたこと、原発や水力、風力、太陽光といったいわゆる持続可能なエネルギーは、合わせて35%から約38%にしか伸びていなかったこと、水力だけに限ると約20%から15%に低下したことなどを指摘しています。業界団体のビットコイン採掘評議会(拠点米国)は2022年7月、ビットコインのエネルギー構成で再生可能エネルギーを約60%と推計していましたが、同大の報告書は「大きく食い違う結果になった」と指摘、「ビットコインのエネルギー源構成は排出量に強い影響がある」と警告しています。ビットコイン採掘はほとんど当局の規制外で、実態も不透明です。関連データをまとめる中央集中的な組織も少ないため、同大は世界中の採掘の地理的な広がりについてのデータと、各国のエネルギー構成のデータを合わせて調査したということです。

暗号資産交換業大手バイナンスは、約5億7000万ドル(約830億円)相当のトークンが流出するハッキング被害を受けたと発表しています。影響を受けたブロックチェーン(分散型台帳)の運用を一時的に停止し、その後に再開したということです。バイナンスが運営するBNBと呼ばれるトークンが200万相当流出したもので、同社のブロックチェーンとつながり、トークンを移送するためのツール「ブリッジ」が攻撃の標的となった模様です。バイナンスはハッキングを受けた当初、約1億ドルの被害額を想定し、影響を受けたブロックチェーンの運用を一時停止しましたが、その後、トークンのBNBが大規模に流出したことが分かり、被害額も増えた形となります。チャオ・チャンコンCEOは停止後に、自身のツイッターで「(ブロックチェーンの運用や検証を担当する)バリデーターのすべてに一時停止を求めた。問題は解決しており、資金は安全だ」と述べています。暗号資産を不正に引き出すハッキングは相次いで発生しており、6月にはイーサリアムなどのブロックチェーンをつなぐブリッジを開発している米新興企業ハーモニーがハッカー攻撃を受け、約1億ドル相当のトークンが流出、米調査会社チェーンアナリシスは、ブリッジへの侵入によるトークンの流出は2022年7月末までに計20億ドル近くにのぼる可能性があると分析しています。また、暗号資産取引大手のウィンターミュートがハッキングに遭い、約1億6000万ドル相当のデジタル資産が盗まれたことも判明しています。英ロンドンに拠点を置く同社の分散型金融オペレーションが標的となったものですが、ハッキングを受けた後も支払能力を維持しているといいます。ゲボイCEOは、今後数日間は同社のサービスに混乱が生じる可能性があるとし、約90の資産がハッキングされたと明らかにしました。同社によれば、同社は数億ドル相当の暗号資産を管理し、1日の取引額は50億ドル相当以上に上るといいます。

調査会社チェーンアナリシスは、暗号資産の普及が2022年6月までの1年間で最も速かった地域は中東・北アフリカだったとするリポートを公表しています。中東・北アフリカは暗号資産市場の規模が最小の部類に入りますが、2021年7月から2022年6月までの暗号資産の受取額は5660億ドル相当で前年同期比48%増加しています。また、伸びが2番目に大きかったのは中南米の40%で、以下北米(36%)、中央・南アジア・オセアニア(35%)の順となっています。チェーンアナリシスの「2022年世界暗号資産普及指数」ではトルコが12位、エジプトが14位、モロッコが24位となり、上位30位以内に中東・北アフリカ諸国が3カ国ランクインしています。チェーンアナリシスは、トルコとエジプトでは法定通貨が大幅に下落し、貯蓄の保存手段として暗号資産の魅力が高まっていると指摘、トルコは6月末までの暗号資産の受取額が1920億ドル相当と国別でトップだったものの、前年比の伸びは10.5%にとどまっています。また、エジプトは外国からの本国送金が国内総生産(GDP)の約8%を占めており、中央銀行がエジプトとアラブ首長国連邦(UAE)の間で暗号資産を使った送金手段を構築するプロジェクトを始めているといいます(エジプトは国民の多くがUAEへ出稼ぎに出ています)。また、国連貿易開発会議(UNCTAD)によると、2021年の時点で南アは全人口の7.1%がデジタル通貨を保有しており、保有比率は英国やブラジルを上回って世界第8位であるほか、アフリカ諸国ではケニアやナイジェリアも保有比率が高いといいます。さらに金融情報会社ファインダー・ドット・コムが10月に公表した調査では、南アの保有比率は10%に達し、特に18~34歳が保有者全体の43%を占めているといいます。18歳未満の保有についてのデータは存在しないものの、当局や専門家が詐欺の被害を受けたり、大損したり、あるいは精神的なダメージを受けると警鐘を鳴らしているにもかかわらず、一獲千金を夢見て暗号資産取引の世界に入ってくる少年少女は増加の一途をたどっているということです。本コラムでも取り上げているとおり、暗号資産は、世界の危険地帯や経済的に不安定な地域に金融取引サービスを提供するという「金融包摂」というメリットを持つ半面、匿名性が比較的高いため、犯罪者や過激主義者、制裁を受けている国家などに利用されやすい問題があります。また最近は価格が急落し、多くの利用者に打撃を与えている負の側面も目立ちます。また、大きな不安要素の1つに詐欺行為が挙げられ、2021年、南アの暗号資産交換所アフリクリプトの創業者が、顧客に口座がハッキングされたと言い残したまま失踪し、約36億ドルの顧客資金が消失、この種の事件としては消失金額が世界最大級になりました。さらに、2022年6月には、米規制当局が南アのある男性とこの人物が経営する企業に民事処分を科しています。数千人から詐欺的な勧誘手法でビットコイン17億ドル余りを集めたためとされます。このような状況にもかかわらず、専門家らは若者は特にだまされやすいと強調、「彼らは技術面の複雑さやこの分野に(適切な)規制が存在しない事実、口座がハッキングされ、お金が盗まれるという問題を完全には分かっていない」とし、すぐにもうかるからと夢中になるのだろうが、同時に自分たちが利用され投資金額を全て失う恐れがあり、メンタルヘルスを損なう可能性もあると訴えています。ただ、背景には「南アの貧しい若者にとって、国内の失業者がずっと高水準で推移する経済状況では高給を得られる仕事は手が届かない世界の話に見えてしまう、という厳しい現実がある」(2022年10月1日付ロイター)のも事実であり、暗号資産の正と負の両側面に配慮した普及が求められています。

米証券取引委員会(SEC)は、米有名タレントリ(アリティー番組のスターでインフルエンサー)のキム・カーダシアン氏が暗号資産を違法に宣伝していたとして、同氏が126万ドル(約1億8300万円)を支払うことで和解したと発表しています。SECはかねて、セレブの関与する金融商品の投資が過熱する状況に警告を発しており、同氏は自身の写真共有アプリ「インスタグラム」のアカウントで、暗号資産関連企業のイーサリアムマックスが提供するイーマックストークンに関する投稿をした際、25万ドルの報酬を受け取ったことを開示していなかったものです。同氏はイーサリアムマックスのウェブサイトのリンクを添付し「あなたたちは暗号資産に夢中?」と発信していました。証券法では宣伝時に受け取った報酬を開示する義務があり、同氏は100万ドルの罰金に加え、受け取った報酬と利息を含む26万ドルを支払うことでSECと和解、進行中の調査に協力し、今後3年間いかなる暗号資産の宣伝もしないと同意したということです。なお、2022年初めには、同氏と元プロボクサーのフロイド・メイウェザー氏がイーマックストークンを宣伝し、人為的に価格をつり上げたとして投資家らが提訴、2020年には俳優のスティーブン・セガール氏が、報酬を開示しないまま「B2G」と呼ばれるトークンの宣伝をしていたとして、SECに罰金を支払って和解、2021年にはJリーグのヴィッセル神戸に所属するアンドレス・イニエスタ選手がSNSで暗号資産の取引会社を宣伝するような投稿をし、スペイン当局が注意を促すなど、同様の問題が相次いで発生しています。

最後に、日本国内での暗号資産等を巡る最近の動向について、紹介します。

金融庁は、次世代型インターネットであるWeb3で使われるデジタル資産が安全に取引できる環境整備の議論をスタートしています。非代替性トークン(NFT)などブロックチェーン(分散型台帳)技術で生まれた新たな市場が経済成長につながる期待と裏腹に金融システムへの影響を無視できない分散型金融(DeFi)も台頭していることから、年度内にも初の取引指針を策定し、金融規制のあり方を探るとしています。

▼金融庁 「デジタル・分散型金融への対応のあり方等に関する研究会」(第7回)議事次第
▼資料1 事務局資料
  • 社会経済全体のデジタル化が進む中、ブロックチェーン技術の活用を含め、金融のデジタル化が加速。こうした中、民間のイノベーションを促進しつつ、あわせて、利用者保護などを適切に確保する観点から、送金手段や証券商品などのデジタル化への対応のあり方等を検討する。
  • 経済財政運営と改革の基本方針2022 新しい資本主義へ ~課題解決を成長のエンジンに変え、持続可能な経済を実現~ 〔令和4年6月7日閣議決定〕(抄) 2.社会課題の解決に向けた取組(3)多極化・地域活性化の推進(多極化された仮想空間へ)
    • より分散化され、信頼性を確保したインターネットの推進や、ブロックチェーン(注1)上でのデジタル資産の普及・拡大など、ユーザーが自らデータの管理や活用を行うことで、新しい価値を創出する動きが広がっており、こうした分散型のデジタル社会の実現に向けて、必要な環境整備を図る。
    • そのため、トラステッド・ウェブ(Trusted Web)(注2)の実現に向けた機能の詳細化や国際標準化への取組を進める。また、ブロックチェーン技術を基盤とするNFT(注3)やDAO(注4)の利用等のWeb3.0(注5)の推進に向けた環境整備の検討を進める。さらに、メタバース(注6)も含めたコンテンツの利用拡大に向け、2023年通常国会での関連法案の提出を図る。Fintechの推進のため、セキュリティトークン(デジタル証券)での資金調達に関する制度整備、暗号資産について利用者保護に配慮した審査基準の緩和、決済手段としての経済機能に関する解釈指針の作成などを行う(注7)。
    • (注1)分散型台帳とも呼ばれ、特定の帳簿管理者を置かずに、参加者が同じ帳簿を共有しながら資産や権利の移転などを記録していく情報技術。
    • (注2)特定のサービスに依存せずに、個人・法人によるデータのコントロールを強化する仕組み。やり取りするデータや相手方を検証できる仕組み等の新たな信頼の枠組みをインターネット上に付加するもの。
    • (注3)Non-Fungible Token(非代替性トークン)の略称。「偽造・改ざん不能のデジタルデータ」であり、ブロックチェーン上で、デジタルデータに唯一の性質を付与して真贋性を担保する機能や、取引履歴を追跡できる機能をもつもの。
    • (注4)Decentralized Autonomous Organization(分散型自律組織)の略称。 中央集権的な存在に支配されることなく、誰でも参加可能な組織であり、取引が自動的にブロックチェーン上に記録されるため、透明性と公平性に富んでいるとされる。
    • (注5)次世代インターネットとして注目される概念。巨大なプラットフォーマーの支配を脱し、分散化されて個と個がつながった世界。電子メールとウェブサイトを中心としたWeb1.0、スマートフォンとSNSに特徴付けられるWeb2.0に続くもの。
    • (注6)コンピューターやコンピュータネットワークの中に構築された、現実世界とは異なる3次元の仮想空間やそのサービス。
    • (注7)ステーブルコインに関する制度整備等の安定的かつ効率的な資金決済制度の構築を含む。
  • 新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画~人・技術・スタートアップへの投資の実現~〔令和4年6月7日閣議決定〕(抄)Ⅴ.経済社会の多極集中化 2.一極集中管理の仮想空間から多極化された仮想空間へ
    • 様々な社会活動のデジタル化が進む一方、特定のプラットフォームによるデータの囲い込みや勝者総取りによる富の偏在、データの取扱いに対する不安など、結果としてデジタル空間が中央集権型となっていることに伴う問題が顕在化してきている。
    • こうした中、より分散化され、信頼性を確保したインターネットの推進や、ブロックチェーン上でのデジタル資産の普及・拡大等、ユーザーが自らデータの管理や活用を行うことで、新しい価値を創出する動きが広がっており、こうした分散型のデジタル社会の実現に向けて、必要な環境整備を図る。
      1. (略)
      2. ブロックチェーン技術を基盤とするNFT(非代替性トークン)の利用等のWeb3.0の推進に向けた環境整備
        • ブロックチェーン技術を基盤とするNFT(非代替性トークン)やDAO(分散型自律組織)等のイノベーションが到来している。ブロックチェーン技術は、自立したユーザーが直接相互につながるなど仮想空間上の多極化を通じ、従来のインターネットの在り方を変え、さらに社会変革につながる可能性を秘めている。Web3.0の推進に向けた環境整備について、検討を進める。
      3. メタバースも含めたコンテンツの利用拡大
        • デジタル化、ネットワーク化を成長の機会とすべく、メタバースも含めたコンテンツの利用に関して、膨大で多種多様な著作物の利用許諾について、簡素で一元的な権利処理を可能とする措置を検討し、来年の通常国会に関連法案の提出を図る。
        • コンテンツ産業等の高度化を図る。
      4. Fintechの推進
        • 事業者のセキュリティトークン(トークンという形でデジタル化された証券・デジタル証券)での資金調達機会を拡大させ、個人投資家を含めた幅広い投資家層に投資機会を提供し資産形成を促す。現在、セキュリティトークンのセカンダリー取引は、証券会社との店頭取引に限られているが、私設取引システムにおいてもセキュリティトークンを取り扱うことができるよう、速やかに制度整備を行う。
        • 暗号資産交換業者が取り扱う暗号資産を新たに追加する際、認定自主規制団体の事前審査に長期間を要している。利用者保護に配慮しつつ、審査基準の緩和を行う。
        • ブロックチェーン上で発行されるデジタルなアイテムやコンテンツ等のうち、同種のものが複数存在する場合、それが暗号資産に該当するかが不明確である。決済手段としての経済機能を有するか否か等を念頭に、解釈指針を示す。
  • フォローアップ〔令和4年6月7日閣議決定〕(抄)Ⅳ.個別分野の取組 4.金融市場の整備 (金融DXの推進)
    • 利用者保護やマネー・ロンダリング・テロ資金供与・拡散金融対策(マネロン等対策)を図りつつ、金融イノベーションを促進するため、早期にステーブルコインに関する制度整備を行うとともに、ブロックチェーン技術に関する国際連携や共同研究などを行う。
  • 2022事務年度 金融行政方針〔令和4年8月31日公表〕(抄) Ⅱ.社会課題解決による新たな成長が国民に還元される金融システムを構築する 3.デジタル社会の実現
    • スマートフォンやAPI、人工知能(AI)等の新たな技術を活用した金融サービスは、決済分野をはじめ、国民生活のインフラとして重要な役割を果たしつつあり、社会のデジタル化とともにさらなる発展が期待される。こうした動きを一層推進すべく、金融庁内でイノベーション推進の司令塔機能を担う部署とフィンテック事業者のモニタリングを担う部署の連携を強化するため両者を一体的に運用する体制に改組した。この体制の下、新たなサービスが利用者の保護やシステムの安全性を確保しつつ特色ある機能を発揮し、経済成長に資する形で持続的に発展するよう、事業者等の支援を一層強化していく。
    • また、様々なベンチャー企業や金融機関、事業会社、業界団体と密に意見交換を行い、新たな金融サービスが利用者の保護やシステムの安全性を確保しつつ発展していくために、金融庁として取り組むべき課題の特定とその解決に努めていく。
      1. Web3.0等の推進に向けたデジタルマネーや暗号資産等に係る取組み
        • 昨今、Web3.0やメタバースなどの、インターネットのさらなる発展に向けた動きが世界で進展している。我が国においてもこうした動きを推進すべく、金融庁として金融面から次のような取組みを行う。まずは、2022年6月の改正資金決済法の成立を受け、いわゆるステーブルコインに関する制度を着実に施行・運用する。また、暗号資産交換業者が取り扱う暗号資産の自主規制団体による事前審査の合理化や、ブロックチェーン上で発行されるアイテムやコンテンツ等の暗号資産該当性に関する解釈の明確化を進める。くわえて、暗号資産(いわゆるガバナンストークンを含む)のうち発行体保有分の課税に関する課題への対応や、信託銀行による暗号資産の信託の受託(カストディ業務)を可能とする制度整備を行う。さらに、証券トークンのPTSにおける取引に関する環境整備や、分散型金融等に関する継続的な検討、最新の技術動向等の把握、世界に向けた対外発信の強化にも取り組む。
        • また、世界的に暗号資産市場における混乱が広がっていることを踏まえ、世界に先駆けて暗号資産等に係る制度整備・モニタリング等に取り組んできた経験を活かし、金融庁として暗号資産等に係る国際的な政策対応に貢献していく。
        • 中央銀行デジタル通貨(CBDC)については、日本銀行は、2022年3月に基本機能に関する概念実証を完了し、同年4月から周辺機能に関する概念実証のフェーズに移行しているが、これらの進捗を踏まえつつ、金融庁としても財務省とも連携し、金融機関に与える影響等の観点から、この検討に貢献していく。
  • 新たな金融サービスの育成・普及に向けた金融庁の取組み
    • 新たな技術を活用した金融サービスは、送金・決済等の分野において国民的インフラとして利活用が進展
    • 安全でより使いやすく付加価値の高いサービスの提供、世界も視野に入れた産業としての成長を、一層積極的に支援
    • このため、イノベーション推進部署をモニタリング部署と統合して一体運用する組織改編を実施。制度部局と連携し、環境整備、事業者支援、調査・研究と多角的な取組を通じ、Web3.0等における最先端のイノベーションの実現を目指す
      1. 事業者支援(スタートアップ、金融機関、事業会社等)
        • FinTechサポートデスク
        • FinTech実証実験ハブ
        • 法令照会対応(グレーゾーン解消制度等)
        • 日系フィンテック事業者と海外VC等との連携強化支援(海外展開支援)
        • 内外フィンテック事業者と国内金融機関等との連携強化支援
        • 金融機関システム・フロントランナー・サポートデスク
      2. 調査・研究(技術動向、リスク分析、Regtech/Suptech等)
        • デジタル・分散型金融への対応のあり方等に関する研究会
        • 調査研究プロジェクト(ブロックチェーン国際共同研究プロジェクト等)
        • 海外ネットワークの構築・活用
        • 関係省庁・自治体等との連携(デジタル庁、経産省等)
        • 国際機関等との連携・協力(FSB,FATF,OECD等)
      3. 環境整備(法令・ガイドライン・税制等)
        • サービス利用者の安全性・適切なAML/CFT・金融システムの安定の確保
        • Web3.0等のイノベーションを金融面から支援
          • ステーブルコイン・証券トークン
          • 暗号資産の事前審査の合理化
          • トークンの暗号資産該当性に関する解釈の明確化
          • 暗号資産のうち発行体保有分の課税に関する課題への対応
          • 信託銀行による暗号資産カストディのための制度整備
        • 埋込型金融等の発展に向けた検討
          • 金融サービス仲介法制の活用も促進
        • 決済インフラの高度化(資金移動業者の全銀システムへの参加資格拡大、多頻度小口決済等)
        • 公平な規制環境の実現に向けた国際的な働きかけ
      4. ステークホルダーとの対話(ビジネス、エンジニア、アカデミア等)
  • Web3.0に関する発言
    • Web3.0については、ユーザーが自分のデータやアイデンティティを管理できる、価値が1つの企業に独占されないといったメリットがあるとの指摘がある一方で、実際は中央集権的であるとの指摘や投機的金融要素と切り離せないといった指摘もある。
      1. Gavin Wood(イーサリアム共同創設者、Polkadot創設者、Web3造語、Web3Foundation創設者)
        • Web3.0又はポストスノーデンwebと呼ばれる可能性があるものは、既存のものとは関係者相互の関係が根本的に異なる。…要するに、政府や組織は合理的に信頼できないため、事前の過程を数学的に強制するようにシステムを設計する。…Web3.0において、全ての取引は、匿名で安全に行われ、多くのサービスはトラストレスに行われうる。
      2. Web3 Foundation(Gavin Woodが創設)
        • 我々の使命は、分散型のウェブソフトウェアプロトコルのための最先端のアプリケーションを育成すること。我々のパッションは、ユーザーが自分のデータ、アイデンティティをコントロールできる分散型で公正なインターネットであるWeb3.0を提供すること。
      3. Chris Dixon(ベンチャーキャピタルの暗号資産ファンドAndreessen Horowitz(a16z)のゼネラルパートナー)
        • Web2の価値のほとんどは、Google、Apple、Amazon、Facebook等の一握りの企業にもたらされた。…Web3では、所有とコントロールは分散している。ユーザーと制作者は、トークンを所有することで、インターネットサービスの一部分を所有することができる。トークンは、ネットワークの成長とトークンの価値向上という共通の目標に向かって、参加者が互いに協力するよう促す。これにより、価値が1つの企業によって蓄積され、その企業が自社のユーザー等と戦うこととなる中央集権型のネットワークの問題が解決される。
      4. Vitalik Buterin(イーサリアム共同創設者)
        • 現在、Web3のエコシステムで起きていることは、多くがDeFiなど金融に関することであり、匿名な口座が存在するだけで、人間のアイデンティティを表現できないため、結局のところは中央集権的な構造に根本的に依存している。完全な分散型社会を実現するためには、Soulbound Tokenと呼ばれる、譲渡不可能なWeb3固有のアイデンティティを新たに作る必要がある。
      5. Elon Musk(テスラ共同創業者)
        • 誰かWeb3.0を見たことがあるか。私は見つけられない。(←Jack Dorsey氏のリプライaとzの間のどこか。)
      6. Jack Dorsey(Twitter共同創業者、決済企業Block(旧スクエア)CEO)
        • 「Web3.0」を所有しているのはあなたではない。ベンチャーキャピタルやLPだ。そのインセンティブから逃れることはできない。結局のところ、Web3は、異なるレッテルが貼られた中央集権的な組織に過ぎない。何に首を突っ込んでいるのか知っていた方がいい。
      7. Molly White(ソフトウェアエンジニア、暗号資産関係の不正行為をまとめたウェブサイト「Web3 Is Going Just Great」の運営者)
        • Web3はマーケティング用語。単にブロックチェーンと呼んでいるものの新しいブランド名。…通常、仮想通貨とweb3の文脈で分散化を議論する人は、技術的な分散化に言及しているが、それは権力を分散化することと同じではない。多くの場合、実際には非常に集中化されており、VCや巨大なテクノロジー企業の多くが、このweb3でも権力を保持しようとしている。また、web3の技術を投機的な金融要素から切り離すことは困難。
      8. Jemima Kelly(Financial timesコラムニスト)
        • 多くの誇大宣伝された概念と同様に、非常に漠然とした用語であり、Web3について議論することさえ困難。…Web3の最も不誠実で有害な側面は、それが本当に分散化されるという嘘。Web3はインターネットを公平にしたり利益の独占を受けにくくしたりすることではなく、実際には正反対。ウェブ上に金融の新たなレイヤーを作るもの。

金融庁が4日に開いた「デジタル・分散型金融への対応のあり方等に関する研究会」はWeb3が開く世界を対象に初めて報告書をまとめる議論のキックオフと位置付けられ、Web3の定義や社会への影響、ブロックチェーン技術を活用した金融的手法・サービスについて意見交換しています。一方、有識者からは懐疑的な声が相次ぎ、「影響を及ぼす領域は極めて少ない。当面は既存の金融ビジネスの亜流」、「まだ定義がはっきり定まっていない」など慎重意見が大半だったものの、ジョージタウン大学研究教授の松尾真一郎氏が「留意すべきはガラパゴスにならないことが重要だ」と注意喚起したといいます。金融庁は2022事務年度(2022年7月~2023年6月)の金融行政方針に暗号資産とデジタル資産の違いを定義するガイドラインを作成する方針を盛り込んでおり、ブロックチェーン上で発行されるNFTなどのデジタルアイテムが暗号資産に該当するかどうか判断する指針となります。暗号資産の技術を用いて活用方法が多様になっており、どこまでが金融取引かを線引きする必要が出てきたためです。また、利用者が作成したデータを企業が管理する中央集権的なWeb2に対し、Web3ではデータの所有権は利用者にあり、分散型のシステムと呼ばれ、利用者は複数のプラットフォームをまたいでデータやデジタル資産を持ち歩けるようになるほか、個人間で売買もできるようになります。こうした新しい世界は新たな経済社会も形成し始めており、例えば、NFTでは、改ざんや複製が難しいため、芸術作品など所有者情報を利用できるようになるほか、ファンクラブの会員権やコンサートのチケットなどでの活用が期待され、権利の売買市場が生まれれば金融市場と機能は同じといえます。

そもそも次世代インターネットであるWeb3そのものを規制する法律は存在しません。世界各国はWeb3の基盤であるブロックチェーンで動く暗号資産やNFT、法定通貨を裏付けに安定した値動きをするステーブルコインなどのデジタル資産を対象にした規制導入を急いでいるところです。EUはデジタル資産とステーブルコインを規制する暗号資産規制法案で、デジタル資産企業がすべての暗号資産取引を公開するよう義務付けています。マネーの流れを見える化する狙いがあり、オーストラリアは8月、国内保有のデジタル資産の種類と用途を目録化するトークンマッピングを実施すると発表しています。米政府は前述のとおり、デジタル資産に関する新しいフレームワークを発表、この中でSECとCFTCに対し、違法行為に対する調査を強化するよう奨励したほか、マネー・ローンダリングの観点から銀行機密法の対象に暗号資産やNFTの業者を含めることを検討しています。「イノベーションは活力ある金融システムと経済の特徴の一つだが、適切な規制のないイノベーションは、金融システムと個人に混乱と損害をもたらす可能性がある」とジャネット・イエレン米財務長官はデジタル資産規制の必要性を強調しています。

一方、デジタルの世界に国境はなく、規制導入が先行しすぎれば自国のイノベーションをつぶす可能性があります。2022年6月に成立したステーブルコインを規制する法律は海外で流通するコインの参入障壁となり、「資金が日本を素通りするガラパゴス法」(民間事業者)との批判が出ており、Web3を巡っても、日本で発行したトークンへの含み益課税を避けるため、多くのスタートアップ企業がドバイやシンガポールへ逃げるなど、イノベーションと規制を両立する最適解を出さないと他国を利するという現実が横たわっています。さらに、2022年10月4日付日本経済新聞は、「ブロックチェーン技術は中央集権型のシステム自体を揺さぶり始めている。金融を仲介する金融機関だけでなく、市場で資金調達する株式会社の存在意義も否定しかねない技術革新をはらんでいる。個人が直接、資金調達する行為に規制を掛けることができるのか。取引で得た利益に税金を課すことができるのか。マネーロンダリング(資金洗浄)のような不正の温床になるのを予防できるのか―。世界も日本も利用者保護の仕組み作りはこれからだ。日本はガイドラインを作成し、環境を整備する手法でスタートすることにしたが、慎重意見も根強く存在し、金融庁は悩ましいかじ取りを迫られそうだ」と指摘していますが、正に今後の金融、社会のあり方に大きな影響を与えるものになりそうです。

  • ソニー生命保険の海外子会社から約168億円相当の資金が流出し、暗号資産に交換された事件で、東京地裁の公判で浮き彫りになったのは、ビットコインへの「投資欲」に目がくらんだ一社員の暴走ぶりでした。報道によれば、東京地裁での被告人質問で、元社員の被告人は、「自分のタイミングでビットコインを購入すれば、必ずもうかるという確証があった。十分な利益を生んだ段階で会社と交渉し、あわよくば利益の一部をもらえないかと考えていた」と述べたといいます。被告は2021年5月、正規の業務を装って米国の銀行に送金を指示、ソニー生命子会社「エスエー・リインシュアランス」(英領バミューダ諸島)の口座から、別の米国銀行口座に約1億5493万米ドル(約168億円相当)を送らせた上、全額をビットコインに交換して隠したとして、詐欺罪と組織犯罪処罰法違反(犯罪収益隠匿)で起訴されました。被告が保管していたビットコインは米当局が2021年12月に押収、米ドルに交換され、2022年8月、エスエー社に返還されています。その際の額はビットコインの値上がりや円安・ドル高の影響で約221億円に膨らみ、結果的に損失は生じませんでした(一方、約53億円の利益が生じたことになりますが、同社は、犯罪防止や犯罪被害者救済のために寄付することを検討しているということです)。しかし、ソニー生命では2021年、シンガポールの子会社でも別の元社員による約4000万円の不正出金が発覚、相次ぐ不祥事を受け、萩本友男社長ら役員7人が報酬の一部を3か月間、返上しており、2022年7月に公表された報告書では、エスエー社の業務は習熟度や語学力が重視され、長期にわたって人事異動がなく、業務の属人化を許したと分析、社員情報の管理が不十分で、倫理教育も不足していたと指摘しています
  • 保有していた暗号資産を自己破産前に隠して債権者の債権回収を妨害しようとしたとして、警視庁は、自営業の男を破産法違反(詐欺破産)の疑いで逮捕しています。暗号資産の隠蔽行為に同法違反容疑を適用するのは珍しいといいます。報道によれば2015年3月ごろまで勤務していたコンピューターグラフィックスの会社に無断で顧客から個人的に業務を請け負い、損害賠償請求訴訟を起こされ、約3000万円を支払う判決が確定、2021年2月に破産申請し、3月に自己破産したところ、破産管財人の調査で暗号資産を隠していることが分かったものです。男は2021年1月、国内の暗号資産取引所の口座に所有していたビットコインなど9種類の暗号資産(計約600万円相当)を15回にわたってアイルランドの取引所に送信して隠した疑いがもたれており、その2カ月後の2021年3月、財産が現金数万円とパソコンなどしかないとして自己破産の開始決定を受けたというものです。暗号資産は男の破産管財人によって2022年4月までに回収され、その価値は約1600万円まで値上がりしていたということです。
②IRカジノ/依存症を巡る動向

域内総生産の6割をカジノ関連収入が占めるといわれるマカオがコロナ禍から回復傾向を見せています。2022年9月26日付ロイターによれば、マカオ政府トップが、約3年ぶりに中国本土からの団体観光客受け入れ再開を表明したことを受け、香港株式市場に上場するマカオのカジノ株が急伸しています。マカオは2020年以来、新型コロナウイルス関連で入境を含め厳しい規制を実施、カジノ産業に大きな影響が生じていました。中国本土の賭博愛好家はカジノ総収入の約9割を占め、中国本土からの団体観光客は、カジノ部門の主要な利用者であり、再開は2023年初めと予想されていたため、今回の発表は予想より早まる形となったといいいます。報道によれば、サンズ・チャイナは13%以上上昇し、ウィン・マカオは7%上昇、ギャラクシー・エンターテイメントは10%上昇し、SJMとMGMチャイナはそれぞれ8%上昇したといいます。一方、そのマカオでは、コロナ禍の打撃に加え、習近平政権が進める「反腐敗」が足かせとなり、カジノ産業の隆盛を取り戻すことは困難との見方が強まっており、カジノ依存体質からの脱却が喫緊の課題となっているといいます。本コラムでも以前取り上げましたが、マネー・ローンダリングの撲滅を図る当局の締め付けで、カジノの大きな収入源だった富裕層が大金をつぎ込むVIPルームが軒並み閉鎖されたためです。2022年9月29日付読売新聞によれば、コロナ禍の影響で2022年1~6月にマカオに入境した旅客数は346万人で、コロナ前の2019年同期比83%減、2021年のカジノ収入は、868億パタカ(約1兆5400億円)と、2019年の水準の3割にとどまっておあり、2022年4~6月の失業率は2006年以来最高の3.7%となりました。さらにコロナ禍に追い打ちをかけるのが、富裕層に貸し付けなどを行う仲介業者の取り締まりで、2021年11月、仲介業最大手・太陽城(サンシティ)創業者の周氏が越境賭博などの容疑で逮捕されて廃業し、その他の業者も営業停止しています。9月に始まった公判で、周氏は否認していますが、検察側は周氏らが215億香港ドル(約3962億円)の不当な利益を得たと主張しています。VIP客には、汚職で蓄財した中国本土の地方官僚も含まれているとされ、仲介業者を巡ってはかねてより、カジノが禁止されている中国本土から富裕層を誘客し、不正資金の洗浄(マネー・ローンダリング)を手助けしているとの見方があり、当局の取り締まり強化で一掃された形になります。

2022年9月27日付西日本新聞では、ラオスの違法カジノと中国マフィア、マネー・ローンダリングに関する報道がありました。このような実態を見るにつけ、カジノと犯罪組織、マネー・ローンダリングが相互に深くつながっていることを痛感させられます。以下、抜粋して引用します。

犯罪の巣窟といわれるカジノが、タイ、ラオス、ミャンマーの国境地帯「ゴールデントライアングル」にある。キングス・ロマン・カジノ。中国人が押しかける伏魔殿はラオスの経済特区にあり、人身売買や麻薬取引、クマやトラなど希少生物の売買といった数々の違法行為の舞台になっていると米財務省は指摘する。・7月には、カジノで働けると若い男女を誘い、実際は詐欺行為「スキャム」をさせているとして、ラオス当局が雇用停止をカジノ側に命じた。SNSで個人情報を仕入れ、うその投資話などを持ちかけるよう強制され、ノルマを達成できないと、虐待や性風俗店へ人身売買されるという。タイ人11人が2月に救出されるなど、ラオスメディアによると、この1年で助け出されたのは500人以上。うち200人は人身売買された女性だった。このような状況でもカジノは運営を続けている。…国連薬物犯罪事務所(UNODC、本部ウィーン)によると、多いのはカンボジアで101カ所。ミャンマーも100カ所超あり、ベトナム41カ所、ラオス7カ所と続く。カジノに詳しい関係者は「ほとんどが中国人により運営されている」と説明する。…関係者によると、中国人富裕層には大金を賭ける「ハイローラー」「VIP」が多く、カンボジアの首都プノンペンにある巨大カジノ「ナガワールド」では、2017年のVIPの賭け金が211億ドル(約3兆円)と、前年の国の国内総生産(GDP)200億2千万ドルを上回ったこともある。カジノで有名な中国マカオは、中国政府が14年以降「チェーンブレーク」と呼ばれる資金規制を行い、15年にはマカオや香港などで賭博に関する違法行為で1万9千人以上が摘発された。このような状況もあってギャンブル好きの中国人が東南アジアに流れたと言われる。…取り締まり強化を受け、中国マフィアが移転先として目を付けたのが主にミャンマーだった。日本人の非政府組織(NGO)関係者は、タイとの国境付近のミャンマーに多くの中国人労働者が入り、現在もカジノが次々と建設されているのを確認している。「軍事クーデター後、ミャンマーは経済制裁などで財政状況が厳しく、少数民族のカレン族の国境警備隊が違法性に目をつぶり、資金を獲得しようとしている可能性がある」と日本人のNGO関係者は見る。「カジノはマネー・ローンダリングの温床。新型コロナウイルスの流行に伴ってオンラインカジノも広がり、広範にマネロンが行われるようになった」とUNODC東南アジア大洋州地域事務所のジェレミー・ダグラス代表は危機感を募らせる。薬物や武器の取引、木材の違法伐採、鉱物の違法採取などで手にした不正な金を、カジノで1度賭けることで資金洗浄し、まっとうな金にする-。主に中国マフィアによるマネロンは広がり、きれいな金は新たなカジノ建設などオープンな経済活動に回されているという。「経済特区は基本的に規制が緩く、取り締まりが難しい。特に内戦状態のミャンマーは近寄れない」とダグラス代表は言う。ミャンマーでのカジノを中心としたマネロンは世界的な問題となっており、国際組織「金融活動作業部会(FATF)」が近く、ミャンマーのブラックリスト入りを協議するとの情報がある。リスト入りすればミャンマーの金融機関の信用は大きく低下。経済混乱はさらに深まり、国民全体が苦しむことになる。

関連して、日本でも同様の構図を想起させる報道がありました。長野市内で違法なオンラインカジノ店を運営したとして長野県内で初摘発された事件で、常習賭博の罪に問われた男の初公判が長野地裁で開かれ、被告は経営ノウハウを得た先などについては黙秘しています。2022年9月14日付信濃毎日新聞によれば、「ネットカジノ運営店のバックには必ず暴力団がいる」と同市内にあった複数のネットカジノ店の利用者で内情にも詳しい県内の男性の発言が紹介されています。男性によれば、店側は暴力団関係者から安い交換比率でポイントを仕入れ、より高い交換比率で客と交換して差額で稼ぎ、一部を上納金として暴力団関係者に納めているといい、客が勝ち続けるのは難しく、不満げに退店する客もいたといいます。店舗型のネットカジノは「足が付きやすく」、摘発が相次ぎ都内では減少傾向である一方、スマートフォンで直接オンラインカジノにアクセスしやすくなったことも影響しているとみられています。なお、取り締まりが徹底されていない地方を狙って、業者が数カ月で場所を変えながら運営しているケースもあるということです。さらに男性によれば、「オンラインカジノはとてももうかる。年内にも新しい店ができるのではないか」ということであり、店舗を持たずにパソコンだけ貸し出して賭博させる業者も出てきていることから、捜査関係者も、売り上げが暴力団の資金源になっているとみて警戒を強めているということです。

大阪府・大阪市が誘致している日本のIR(カジノを含む統合型リゾート)ですが、日本でカジノが上手くいくかは海外の関係者からも疑問の声が上がっているようです。一方、この大阪IRを手掛けているカジノ大手MGMリゾーツ・インターナショナルの日本法人で最高経営責任者(CEO)を務めるエドワード・バウワーズ氏は、「中国は日本に近い大事な市場ですが、私たちは中国にばかり焦点を当てているわけではありません。東南アジアを含めた広いアジア地域、さらには米国や欧州など、世界中から顧客を集めようとしています」、「私たちの基本的な考えは、IR運営のためには地元客が必要で、それが事業の中心となるべきだということです。もちろん私たちは、世界中からお客さまを集めようと考えています。ですが、中核はあくまでも地元のみなさまということです」、「一般論として、世界のどこの市場であっても、人口の一定の割合のひとびとはゲーム(ギャンブル)を楽しんでいます。日本でも同じだと思います。1億人を超える日本の人口規模、2千万人を超える大阪都市圏の人口規模、さらに世界3位という日本の経済規模を考えれば、日本にも顧客はいると考えています」などと反論しています。大阪府・大阪市は2029年の開業を目指しているとはいえ、審査に時間がかかる、認定されない可能性もある、認定されても、計画の詰めの作業の中で十分な利益が見込めないと分かれば、事業者が撤退する可能性もある中で、IRが本当に日本に誕生し、定着していくのか、まだまだ不透明さが拭えない状況にあるといえます。

関連して、2029年の開業に向け、カジノで働く人材を育成する動きが加速しているとの報道もありました(2022年9月27日付産経新聞)。以下、抜粋して引用します。

大阪府と大阪市が誘致を目指すカジノを含む統合型リゾート施設(IR)をめぐり、目標とする令和11年の開業に向け、カジノで働く人材を育成する動きが加速している。専門学校はカジノディーラーやカジノフロアの責任者を目指す学生の受け入れ態勢を強化。米企業は関西の大学と連携しリーダー層を養成する。「大阪のIRは約2千人のディーラーが必要になるといわれるが、まだまだ人材が足りていない」。大阪と東京で教室を開く「日本カジノスクール」の広報・高橋玲奈氏は説明する。スクールは日本初のディーラー専門養成機関として平成16年に開校し、昨年3月までに約900人が卒業した。このうち約2割が海外のカジノで働くが、換金できない合法のアミューズメントカジノで腕を磨きながら、国内のIR開業に備える人も多いという。…大阪・夢洲(大阪市此花区)での施設運営を担う「大阪IR株式会社」の中核株主、米カジノ大手MGMリゾーツ・インターナショナル日本法人は大学生向けの研修プログラムについて、5年から、本場の米ラスベガスに学生を招いて運営の仕組みなどを学ばせる現地研修を再開する方針だ。…今年3月には、関西学院大や近畿大などの学生約50人に対し、オンライン研修会を実施。エドワード・バウワーズ社長は「IRは人々に感動と驚きを与える、やりがいのあるビジネスだ」と訴えた。

横浜市の山中市長が撤回したIRの誘致について、横浜市は、山中市長の指示で誘致の経緯などを検証した調査の最終報告書を公表しています。

▼横浜市 「横浜IRの誘致に係る取組の振り返り」(最終報告)(令和4年9月)

横浜市は報告書の中で、IRの経済効果が「期待通りにならない事業リスクがあった」とし、市民の理解が得られなかった理由については、市側からの情報の発信や共有の不十分さがあったとして不備を認めています。報告書では、経済効果について、外部有識者が「カジノへの入場料収入などを試算した結果、(増収効果が)市が示した年間820億~1200億円から大幅に下振れする可能性があった」と指摘、市はこれらの指摘を踏まえたうえで、新型コロナウイルス流行の影響に加え、ギャンブル依存の対策費が膨大になり得ることなどの不確定要素による「事業リスク」があったことを認め、「疑問にしっかりと早い段階で向き合う必要があった」としています。また、ギャンブル依存症や治安悪化などの市民の懸念について、市は「具体的な対策は明らかになっておらず、不安を払拭し、理解を得られるまでには至っていなかった」と振り返っています。さらに、約19万筆を集めて住民投票を求めた市民の直接請求への対応にも言及し、「市や市が進めるIRへの反発を招いた」と結論づけました(この点については、有識者による考察で、藤原静雄・中央大法科大学院教授が「市の行政過程の手続きに特段の瑕疵がないことは明らか」とした一方で、「19万筆を超える署名があったことは事実で、従来以上に丁寧な対応が必要だったのではないか」との見解を示しています)。一方、IR誘致を断念した横浜市は「ポストIR」の経済振興策の決め手に欠く状態が続いています。本コラムでもタイムリーの動向を追っていましたが、山中市長は就任直後、IRの誘致撤回を宣言、IRに代わる市の経済活性化策として、脱炭素と観光MICE(国際会議など)の推進を掲げました。しかしながら、いずれも緒に就いたばかりで「ポストIR」の決め手となっていないのが現状です。税収のおよそ5割を個人市民税に頼る横浜市では、人口減少の危機が迫っており、その打開策としてのIR誘致構想だったことから、「IRに匹敵する経済活性化策はない」、「100年に一度のチャンスを逃した」といった声も聞かれるようです。横浜市の厳しい財政の健全化には、経済振興が避けて通れない課題となっています。2022年1月1日時点の推計人口は、戦後初めて前年比で減少に転じ、市税収入が個人市民税に偏る同市財政に人口減が与える影響は大きいとされます。長期化するコロナ禍に加え、原油高、物価高で企業の経営環境は厳しく、IRに代わる具体的な経済振興と税収増、財政健全化の道筋を描けるか、2年目からの山中市長の手腕に注目が集まっています。

大阪府議会の大阪維新の会府議団は、9月定例会(28日開会)にギャンブル依存症対策を推進する条例案を提出しています。財源を確保するための基金の新設と、有識者や支援者が参加する「推進会議」の新設も提案しています。ギャンブル依存症対策をめぐっては、2022年5月定例会に第3会派の自民党府議団が条例案を提出、オンラインカジノによる依存症の予防・啓発など複数の政策を盛り込みましたが、維新側は「他の事業とのバランスの精査や財源の裏付けが必要」などとして反対していました。今回の提案が対案にあたるもので、大阪府は現在、国の「ギャンブル等依存症対策基本法」に基づく推進計画を策定していますが、維新の条例案では、この計画を更新する際、現場の声や専門的な知見を取り入れるため推進会議の意見を聞かなければならないとし、自民案のような具体的な政策は盛り込まなかったものの、知事を本部長とする推進本部を設けて対策を進めるとしています。また、大阪府の基金条例を改正し、「ギャンブル等依存症対策基金」を作るほか、企業版ふるさと納税制度の活用も想定しています。さらに、計画は少なくとも3年ごとに点検し、条例の施行時期は府の準備期間を考慮して公布から1年以内としています。一方、自民党は5月定例会で維新から「財源の裏付けがないなど多くの懸念事項がある」と反対し否決されましたが、自民党はこの案を再度提出するとのことです。

③犯罪統計資料

例月同様、令和4年8月の犯罪統計資料(警察庁)について紹介します。

▼警察庁 犯罪統計資料(令和4年1~8月分)

令和4年(2022年)1~8月の刑法犯総数について、認知件数は379,967件(前年同期373,257件、前年同期比+1.8%)、検挙件数は159,684件(171,561件、▲6.9%)、検挙率は42.0%(46.0%、▲4.0P)と、認知件数・検挙件数ともに2020年~2021年において減少傾向が継続していた流れを受けて減少傾向が継続していたところ、ついに認知件数が前年を上回る結果となりました。その理由として、刑法犯全体の7割を占める窃盗犯の認知件数が増加していることが挙げられ、窃盗犯の認知件数は257,089件(250,0779件、+2.5%)、検挙件数は95,132件(105,096件、▲9.5%)、検挙率は37.0%(41.9%、▲4.9P)となりました。とりわけ件数の多い万引きについても、認知件数は55,464件(58,213件、▲4.7%)、検挙件数は38,414件(42,135件、▲8.8%)、検挙率は69.3%(72.4%、▲3.1P)となっています。コロナで在宅者が増え、窃盗犯が民家に侵入しづらくなり、外出も減ったため突発的な自転車盗も減った可能性が指摘されるなど窃盗犯全体の減少傾向が刑法犯の全体の傾向に大きな影響を与えていますが、3月のまん延防止等重点措置の解除から一転して最近の感染者数の激増といった状況などもあり、今後の状況を注視する必要があると指摘していたところ、やはり増加に転じた点が注目されます。また、凶悪犯の認知件数は2,855件(2,784件、+2.6%)、検挙件数は2,456件(2,586件、▲5.0%)、検挙率は86.0%(92.9%、▲6.9P)、粗暴犯の認知件数34,134件(32,952件、+3.6%)、検挙件数は27,989件(28,549件、▲2.0%)、検挙率は82.0%(86.6%、▲4.6P)、知能犯の認知件数は24,542件(22,996件、+6.7%)、検挙件数は11,660件(11,853件、▲1.6%)、検挙率は47.5%(51.5%、▲4.0P)、とりわけ詐欺の認知件数は22,419件(20,931件、+7.1%)、検挙件数は9,900件(10,213件、▲3.1%)、検挙率は44.2%(43.8%、▲4.6P)などとなっており、本コラムでも指摘しているとおり、コロナ禍において詐欺が大きく増加しています。とりわけ以前の本コラム(暴排トピックス2022年7月号)でも紹介したとおり、コロナ禍で「対面型」「接触型」の犯罪がやりにくくなったことを受けて、「非対面型」の還付金詐欺が大きく増加傾向にあることが影響しているものと考えられます。刑法犯全体の認知件数が増加傾向を見せ、検挙件数が減少傾向の中、とりわけ知能犯、詐欺については増加傾向にあり、引き続き注意が必要な状況です(そして、検挙率がやや低下傾向にある点も気がかりです)。

また、特別法犯総数については、検挙件数は43,334件(45,195件、▲4.1%)、検挙人員は35,555人(37,146人、▲4.3%)と2021年同様、検挙件数・検挙人員ともに減少している点が特徴的です。犯罪類型別では、入管法違反の検挙件数は2,655件(3,247件、▲18.2%)、検挙人員は1,969人(2,351人、▲16.2%)、軽犯罪法違反の検挙件数は5,056件(5,431件、▲6.9%)、検挙人員は5,028人(5,464人、▲8.0%)、迷惑防止条例違反の検挙件数は6,032件(5,385件、+12.0%)、検挙人員は4,596人(4,156人、+10.6%)、不正アクセス禁止法違反の検挙件数は312件(187件、+66.8%)、検挙人員は111人(76人、+46.1%)、不正競争防止法違反の検挙件数は36件(50件、▲28.0%)、検挙人員は42人(46人、▲8.7%)、銃刀法違反の検挙件数は3,276件(3,280件、▲0.1%)、検挙人員は2,895人(2,811人、+3.0%)などとなっています。減少傾向にある犯罪類型が多い中、迷惑防止条例違反や不正アクセス禁止法違反が増加している点が注目されます。また、薬物関係では、麻薬等取締法違反の検挙件数は640件(519件、+23.3%)、検挙人員は376人(298人、+26.2%)、大麻取締法違反の検挙件数は4,034件(4,222件、▲4.5%)、検挙人員は3,187人(3,320人、▲4.0%)、覚せい剤取締法違反の検挙件数は5,712件(7,184件、▲20.5%)、検挙人員は3,917人(4,822人、▲18.8%)などとなっており、ここ数年大麻事犯の検挙件数が大きく増加傾向を示していたところ、減少に転じている点はよい傾向だといえ、覚せい剤取締法違反の検挙件数・検挙人員ともに大きく減少傾向にある点とともに特筆されます。一方で、それ以外の麻薬等取締法違反の検挙件数・検挙人員が大きく増えている点に注意が必要です。なお、同法の対象となるのは、「麻薬」と「向精神薬」であり、「麻薬」とは、モルヒネ、コカインなど麻薬に関する単一条約にて規制されるもののうち大麻を除いたものをいいます。また、「向精神薬」とは、中枢神経系に作用し、生物の精神活動に何らかの影響を与える薬物の総称で、主として精神医学や精神薬理学の分野で、脳に対する作用の研究が行われている薬物であり、また精神科で用いられる精神科の薬、また薬物乱用と使用による害に懸念のあるタバコやアルコール、また法律上の定義である麻薬のような娯楽的な薬物が含まれますが、同法では、タバコ、アルコール、カフェインが除かれています。具体的には、コカイン、MDMA、LSDなどがあります。また、来日外国人による重要犯罪・重要窃盗犯国籍別検挙人員については、、総数353人(399人、▲11.5%)、ベトナム102人(149人、▲31.5%)、中国60人(65人、▲7.7%)、ブラジル28人(20人、+40.0%)、スリランカ27人(8人、+237.5%)、韓国・朝鮮13人(12人、+8.3%)、フィリピン12人(24人、▲50.0%)、パキスタン11人(3人、266.7%)などとなっています。

一方、暴力団犯罪(刑法犯)罪種別検挙件数・人員対前年比較の刑法犯総数については、刑法犯全体の検挙件数は6,503件(7,703件、▲15.6%)、検挙人員は3,740人(4,346人、▲13.9%)と検挙件数・検挙人員ともに2021年に引き続き減少傾向にある点が特徴です。以前の本コラム(暴排トピックス2021年3月号)では、「基礎疾患を抱え高齢化が顕著に進行している暴力団員のコロナ禍の行動様式として、検挙されない(検挙されにくい)活動実態にあったといえます」と指摘しましたが、一時活動が活発化している可能性を示したものの再度減少に転じている点は、緊急事態宣言等やまん延防止等重点措置の解除やオミクロン株の変異型の再度の流行などコロナの蔓延状況の流動化とともに今後の動向に注意する必要があります。犯罪類型別では、暴行の検挙件数は391件(474件、▲17.5%)、検挙人員は379人(443人、▲14.4%)、傷害の検挙件数は650件(758件、▲14.2%)、検挙人員は723人(905人、▲20.1%)、脅迫の検挙件数は232件(240件、▲3.3%)、226人(226人、±0%)、恐喝の検挙件数は220件(261件、▲15.7%)、検挙人員は268人(306人、▲12.4%)、窃盗の検挙件数は2,993件(3,705件、▲19.2%)、検挙人員は492人(635人、▲22.5%)、詐欺の検挙件数は1,081件(1,101件、▲1.8%)、検挙人員は842人(886人、▲5.0%)、賭博の検挙件数は40件(46件、▲13.0%)、検挙人員は94人(86人、+9.3%)などとなっています。とりわけ、詐欺については、3月まで検挙人員が増加傾向を示していたところ減少傾向に転じています(検挙人員は増加しています)。とはいえ、全体的には高止まり傾向にあり、資金獲得活動の中でも重点的に行われていると推測されることから、引き続き注意が必要です。さらに、暴力団犯罪(特別法犯)主要法令別検挙件数・人員対前年比較の特別法犯について、特別法犯全体の検挙件数は3,564件(4,663件、▲23.6%)、検挙人員は2,416人(3,168人、▲23.7%)とこちらも2020年~2021年同様、減少傾向が続いていることが分かります。犯罪類型別では、軽犯罪法違反の検挙件数は42件(64件、▲34.4%)、検挙人員は39人(57人、▲31.6%)、迷惑防止条例違反の検挙件数は62件(74件、▲16.2%)、検挙人員は57人(68人、▲16.2%)、暴力団排除条例違反の検挙件数は18件(22件、▲18.2%)、検挙人員は36人(57人、▲16.2%)、銃刀法違反の検挙件数は63件(78件、▲19.2%)、検挙人員は39人(61人、▲36.1%)、麻薬等取締法違反の検挙件数は122件(89件、+37.1%)、検挙人員は48人(24人、+100.0%)、大麻取締法違反の検挙件数は629件(788件、▲20.2%)、検挙人員は364人(500人、▲27.2%)、覚せい剤取締法違反の検挙件数は2,123件(3,005件、▲29.4%)、検挙人員は1,405人(1,965人、▲28.5%)、麻薬等特例法違反の検挙件数は94件(86件、+9.3%)、検挙人員は56人(54人、+3.7%)などとなっており、やはり最近増加傾向にあった大麻事犯の検挙件数・検挙人員ともに減少に転じ、その傾向が定着していること、覚せい剤事犯の検挙件数・検挙人員がともに全体の傾向以上に大きく減少傾向を示していること、麻薬等取締法違反・麻薬等特例法違反が大きく増えていることなどが特徴的だといえます。なお、参考までに、「麻薬等特例法違反」とは、正式には、「国際的な協力の下に規制薬物に係る不正行為を助長する行為等の防止を図るための麻薬及び向精神薬取締法等の特例等に関する法律」といい、覚せい剤・大麻などの違法薬物の栽培・製造・輸出入・譲受・譲渡などを繰り返す薬物ビジネスをした場合は、この麻薬特例法違反になります。法定刑は、無期または5年以上の懲役及び1,000万円以下の罰金で、裁判員裁判になります。

(8)北朝鮮リスクを巡る動向

北朝鮮が2022年10月9日早朝、東部・江原道文川付近から日本海に短距離弾道ミサイル2発を発射しています。井野防衛副大臣は、東岸付近の海上から発射された潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)の可能性を含め分析していると説明していますが、韓国軍はSLBMとはみていません(本稿執筆の2022年10月10日時点の情報です)。北朝鮮は異例の頻度で弾道ミサイル発射を繰り返しており、9月25日以降、今回で7回目となり、9月下旬に始まった米原子力空母「ロナルド・レーガン」の2度にわたる日本海展開に神経をとがらせており、直近では10月6日に短距離弾2発を発射したばかりであり、今年に入ってからの発射は、巡航ミサイルを含め過去最高の25回目となります。北朝鮮は最近7回で計12発の弾道ミサイルを発射しており、6日には迎撃を難しくする変則軌道の「KN23」と、北朝鮮が「超大型ロケット砲」と呼ぶ「KN25」の2種類を発射したと推定され、実戦を意識した動きを見せているといえます。防衛省によると、9日の2発はいずれも最高高度約100キロで、350キロ程度を飛び、日本の排他的経済水域(EEZ)外に落下したとみられ、航空機や船舶などへの被害は確認されていません。潜水艦から発射されるSLBMは、発射の兆候を探知されにくいとされます。井野防衛副大臣は国連安全保障理事会の決議に違反しており、「断じて容認できない」と批判、米国務省当局者も、国際社会や周辺国への脅威で決議違反だと非難、日韓に対する防衛義務は揺るぎないと強調する一方、核・ミサイル問題の解決に向け対話に応じるよう北朝鮮に求めています。日米韓は7回目の核実験をはじめ、さらなる挑発に警戒を強めている状況です。

弾道ミサイル発射後の報道がここのところなかった北朝鮮ですが、朝鮮中央通信は、北朝鮮が9月下旬から10月9日まで7回にわたり発射した弾道ミサイルについて戦術核運用部隊の発射訓練だったと報じています。金正恩朝鮮労働党総書記が現地で指導したとも報じています。10月10日の党創立77年を迎え、内部の結束を図る狙いがあるとみられています。敵の軍事拠点などの攻撃を想定した戦術核兵器を前線に配備する方針を事実上公表したもので、日米韓を威嚇した形といえます。また、10月4日に日本列島上空を通過した弾道ミサイルは「新型の地対地中長距離弾道ミサイル」で「日本列島を横切り4500キロ先の太平洋上の目標水域に打撃を与えた」としています。なお、2022年10月10日付読売新聞の記事「北朝鮮、4日の発射は「新型の地対地中長距離弾道ミサイル」…「より強力で明白な警告」」において、一連の狙いが明らかになっていますので、以下、抜粋して引用します。

北朝鮮国営の朝鮮中央通信は10日、朝鮮人民軍の戦術核運用部隊が9月25日から10月9日に弾道ミサイル発射訓練を計7回実施し、金正恩朝鮮労働党総書記が現地で指導したと報じた。同党は10日で創建77年となる。ミサイル発射の公表には国威発揚の狙いがあるとみられる。同通信は記事で、同時期に米原子力空母ロナルド・レーガンも参加した米韓の合同訓練や、日米韓の合同訓練が行われたことに触れ、北朝鮮の軍事訓練を「戦争抑止力と核反撃能力を検証し、敵に厳重な警告を送るため」だったと説明した。各回のミサイル発射訓練の内容も詳報し、4日の発射については、「新型の地対地中長距離弾道ミサイルで日本列島を横切って4500キロ・メートル先の太平洋上に設定された目標水域を打撃した」と報じた。「より強力で明白な警告を送るため」だったと主張した。9日未明の発射については、敵の主要港への打撃を想定した「超大型ロケット砲」だったと伝えた。計7回の訓練を通じて「目的の時間に目的の場所で目的の対象を打撃できる核兵器の実戦能力が発揮された」とも評した。8日には、北朝鮮空軍による「史上初めて150機あまりの各種戦闘機を同時出撃させた」という大規模な訓練が行われたという。正恩氏は一連の軍事訓練を視察した際、「軍事的脅威を与えながら、依然として対話と交渉を言っている」と米国側を批判し、「我々は対話する内容も必要性も感じない」と述べた。米韓は米国の核戦力を含む軍事力を前面に出して対北抑止力を高めながら非核化を求めており、反発する北朝鮮との間で軍事的緊張が高まっている。

一連の弾道ミサイル発射については、米空母「ロナルド・レーガン」の動きに連動しているとの分析があり、「戦術核運用部隊の発射訓練」という視点から見て大変説得力があります。2022年10月7日付日本経済新聞の記事「北朝鮮で相次ぐミサイル発射、米空母の動きに連動」、同日付の読売新聞の記事「北、「軍を壊滅的状況に追い込む」米空母に恐れ…近海展開時には全軍が警戒態勢」が、そのあたりを報じていますので、以下、抜粋して引用します。

北朝鮮で相次ぐミサイル発射、米空母の動きに連動
北朝鮮が異例の高頻度で弾道ミサイルの発射を続けている。6日の2発を含め、9月下旬以降に発射した計10発の飛距離などを分析すると米軍の原子力空母の動きに連動するように弾種を使い分けたことがわかる。実戦での反撃を想定しミサイルの運用を確かめる狙いがうかがえる。…韓国統一研究院の洪珉北朝鮮研究室長は北朝鮮の連射の意図について「量産・配備された兵器の運用能力を見せつけることにある」と指摘する。新型兵器の技術開発ではなく、量産段階のミサイルの運用に焦点が当てられているとの分析だ。…9月23日に米空母「ロナルド・レーガン」が韓国・釜山に入港すると一連の発射が始まった。25日にKN23とみられるミサイルを日本海に向けて650キロメートル飛ばした。首都平壌から釜山までの距離は約530キロメートル。空母が入港した釜山を攻撃する想定で運用を確かめた可能性がある。その後、空母は日本海の朝鮮半島に近い公海上に入り、26~29日に米韓、30日に日米韓の共同訓練に参加した。北朝鮮はこの前後で日本海に向けて飛距離300~400キロメートルのミサイルを計6発撃った。訓練を終え空母が日本海の公海上を離れると、北朝鮮は中距離弾を4600キロメートル飛ばし太平洋に落下させた。朝鮮半島有事の際に核を含む戦力の出動拠点となる米領グアムを打撃する能力を示した。日本上空を通過させ、米韓の訓練に加わった日本にも圧力をかけた。6日に発射した2発は空母が朝鮮半島周辺に戻ったタイミングと重なった。350キロメートル飛んだ1発は、米韓が5日にミサイルを対抗発射した韓国東海岸への打撃力を示したとの見方がある。800キロメートル飛んだもう1発は空母が再展開した日本海の広範囲への攻撃能力を表した。北朝鮮はこの間、潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)と大陸間弾道ミサイル(ICBM)をまだ発射していないとみられる。今年前半には変則軌道の新型SLBMやICBM「火星17」を試験発射した事例がある。日米韓との緊張がさらに高まれば改めて発射に踏み切る恐れがある。日米韓は国連の機能不全も踏まえ、3カ国の安保協力を一層深める。6日には日本海で3カ国がミサイル防衛に関する共同訓練を実施した。北朝鮮のミサイルに関する探知情報の円滑な共有が念頭にある。3カ国の情報交換がスムーズに進めば、ミサイルの迎撃や発射拠点への反撃に迅速に着手できる。3カ国が北朝鮮による発射の当日に共同訓練を実施したのは初めて。
北、「軍を壊滅的状況に追い込む」米空母に恐れ…近海展開時には全軍が警戒態勢
北朝鮮が米空母の動きに神経をとがらせている。米海軍の空母打撃群には北朝鮮軍を壊滅的な状況に追い込む攻撃力があるとされ、金正恩政権が恐れる米軍戦力の象徴と言える。北朝鮮外務省は6日未明に発表した談話で、米国が日本海に原子力空母ロナルド・レーガンを再び展開し、「朝鮮半島の情勢安定に重大な脅威を与えている」と主張した。同艦は9月下旬に日本海で韓国海軍や海上自衛隊と合同訓練を実施。いったん海域を離れたが、北朝鮮の挑発行為がエスカレートしたため、5日に日本海に戻っていた。北朝鮮はこの談話発表から間を置かず、6日早朝に短距離弾道ミサイル2発を日本海に向けて発射した。今後も同艦の動きなどを口実に、ミサイル発射などの挑発行為を一方的に繰り返す可能性がある。…同艦が備える蒸気式カタパルトでは、60機以上の艦載機を短い間隔で発艦させることが可能だ。精密誘導弾を搭載する戦闘攻撃機「FAI18スーパーホーネット」は、韓国の基地から発射される地対地ミサイルと共に、北朝鮮のミサイル発射拠点を先制打撃することが想定される。北朝鮮情勢に詳しい峨山政策研究院の車斗鉉首席研究委員は、電子戦機「EA18Gグラウラー」が北朝鮮のレーダーや通信機器を妨害し、「短時間で北朝鮮軍の防空網をほぼ無力化する」と解説する。金正恩朝鮮労働党総書記は、有事が起きれば首都平壌の地下に建設した指揮所に滞在し、その深さは100メートル以上との見方もある。米韓両軍の事情に詳しい関係筋によれば、ロナルド・レーガンの一部の艦載機には、地下指揮所を破壊する「バンカーバスター」と呼ばれる地中貫通型爆弾を搭載できるという。正恩氏は、米空母が体制の存続を脅かすと恐れている可能性がある。この関係筋によると、北朝鮮では米空母が近海に展開するたびに、全軍が警戒態勢に入り、軍内部の通信が頻繁になる。「兵士らは毎回、かなり疲弊する」のだという。
一方の北朝鮮は、国防省報道官が、朝鮮中央通信記者に答える形で、米空母が朝鮮半島近海に再展開したことを「地域情勢への否定的な影響が非常に大きい」と批判し、「朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の武力は、きわめて憂慮される現在の事態の発展について厳しく注視している」と警告、さらなる軍事挑発の布石である可能性も考えられるところです。米韓は7~8日、9月末に続き、日本海の公海上で米原子力空母「ロナルド・レーガン」が参加した合同演習を実施しましたが、これに先立ち、国家航空総局の報道官も談話を出し、最近の弾道ミサイル発射について「米国の直接的な軍事的脅威から国の安全と地域の平和を守るための正常で計画的な自衛的措置だ」と正当化、「民間航空の安全はもちろん、周辺国と地域の安全にいかなる脅威や危害も与えていない」と主張しています。

2022年10月6日付日本経済新聞の記事「米朝衝突リスク「ウクライナ超え」も偶発交戦の懸念」は、偶発衝突リスクについて解説しており、参考になります。以下、抜粋して引用します。

長引く経済不振などにあえぐ北朝鮮に対し、膨らむウクライナ支援の負担で米軍も余力はそう大きくない。対立する当事者がともに余裕がないときほど偶発衝突リスクは高まる。ウクライナで劣勢のロシア軍が核兵器を使用するリスクへの懸念が増大しているが、いま日本海で起きている米朝対立も過小評価は禁物となってきた。…北朝鮮と米国は「潜在的な核戦争リスク」を踏まえつつ対峙しているわけだが、目下の状況を危惧せざるをえないのは、双方とも「余裕がない」ということだ。北朝鮮側は、経済不振の長期化、相次ぐ自然災害、新型コロナウイルス禍のトリプルパンチで「実際のところミサイルを連射している場合ではない」。一方、米側は巨額の対ウクライナ軍事支援を続けてきたことで、精密誘導式の小型対戦車ミサイルやロケット砲の在庫が急減しているとされている。仮に日本海での米朝偶発衝突が地上戦を含む「第2次朝鮮戦争」に拡大し、ウクライナ戦争に続く「第2戦線」が北東アジアで開かれてしまった場合、米軍がそれに楽々と向き合える状況にないことも確かだ。米朝双方とも、それぞれ弱みを抱えつつも、それを相手に気取られないよう「いつでも戦うことができる」と無理をしている状態といえる。ただ、こういう状態になるほどかえって偶発衝突リスクは増大しかねない。ロシアのプーチン大統領は仮にウクライナ戦争が「ロシア対北大西洋条約機構(NATO)軍の全面衝突」に拡大しても、ウラル山中にあるとされる首脳用の秘密地下壕に隠れて延命しやすいのに対し、国土の狭い北朝鮮にいる金正恩総書記は、逃げ場は限られ、それだけ切迫感は大きい。…「単なる軍事力の誇示」から「実戦突入を覚悟」への分岐点を意味する「2隻目の空母の展開」といった動きに米軍が踏み切れば、偶発衝突リスクは「ウクライナ超え」することになる。

また、専門家らの見解をいくつか紹介します。

ミサイル防衛、能力向上欠かせず 神保謙・慶応大教授(2022年10月4日付日本経済新聞)
北朝鮮からグアムまでの距離は3500キロほどある。今回の弾道ミサイルの飛距離は4600キロで明らかにグアムに対する攻撃能力を示すものだ。北朝鮮の核・ミサイル開発の狙いは米軍への抑止力を形成し、米軍が北朝鮮に対して軍事介入を思いとどまらせることだ。在韓米軍、在日米軍を狙う短距離・準中距離ミサイルとともに、米軍の前方展開の拠点であるグアムを場合によっては核兵器でたたける能力を保有していると示した。日本のとるべき対応はミサイル防衛能力を高め、日米の抑止力を向上させることだ。日本は現在、海上のイージス艦と地上の地対空誘導弾パトリオットミサイル(PAC3)の二段構えの迎撃態勢をとっている。ノドンやスカッドERなど北朝鮮の日本向けのミサイルは通常軌道であれば現在の態勢でも対応できるだろう。変速軌道や極超音速の技術などを向上させれば迎撃は難しくなってくる。敵に見つかりにくい潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)の発射実験などの可能性もある。反撃能力の保有は選択肢だが、北朝鮮は移動式発射台が多くミサイルの発射を事前に探知して撃破するのは困難だ。やはりミサイル防衛能力の向上を基本にすべきで、多種多様な飛翔特性を持ったミサイルに対応できるよう絶えずアップグレードする必要がある。
北、ICBM完成近づく? 過去5年でミサイル多様化(2022年10月4日付け産経新聞)
北朝鮮は4日、約5年ぶりに、中距離弾道ミサイルを高角度の「ロフテッド軌道」ではなく通常角度で発射する実験に踏み切った。専門家は2017年当時に不十分だった技術改良が進み、米国を射程とする大陸間弾道ミサイル(ICBM)の完成にも一歩近づいたとの見方を示す。北朝鮮は今年3月に「通常の軌道なら1万5千キロ以上飛行する」(防衛省)新型ICBMを発射した際にも、ロフテッド軌道により飛距離を千キロ程度に抑制。これまで通常角度でのICBM発射を行っていない。「周辺国の安全を考慮した」などと主張しつつ米国を過度に刺激しない政治的な思惑もうかがわれる一方、ロフテッドと通常軌道では弾頭部が大気圏に再突入する際の時間や衝撃に違いが生じることから、必要な技術が確立していない可能性も指摘されている。
安保理と北朝鮮 専制大国の擁護を許すな(2022年10月7日付産経新聞)
日本はもっと危機意識を高め、自らのこととして防衛力強化を考える必要がある。国連などの場を通じ、北朝鮮と対峙する厳しさを世界に訴えることも重要だ。核兵器の運搬手段である弾道ミサイル発射は核開発と一体だ。北朝鮮は「核使用法令」を採択し、核を放棄しないと宣言した。7回目の核実験実施の観測も強まっている。警戒感を強めるべきは言うまでもない。安保理の会合で、米国のトーマスグリーンフィールド国連大使は「北朝鮮は安保理の2つの国から全面的な保護を得て、増長している」と述べ、後ろ盾の中国とロシアを非難した。中露はともに、安保理常任理事国の一角を占め、強大な権限を有する。北朝鮮にとって頼りがいのある後ろ盾だ。今年5月には、両国が拒否権を行使し、制裁強化決議案から北朝鮮を守った。もはや、安保理の機能不全では済まない。中露は北朝鮮を自らと同じ、強権国家、専制主義国家の一員とみなし、自国やこうしたグループの利益のため、常任理事国の特権を使っている。日本は来年から、任期2年の安保理非常任理事国を務める。北朝鮮の核・ミサイルは地域の問題でもある。主導権を取り、困難な状況の中でも中露と渡り合ってもらいたい。

上記産経新聞の社説でも触れられているとおり、一連の動きに対し、相変わらず国連安全保障理事会の機能不全が続いています。緊急会合では、米国主導の非難声明案に中露が反対し、合意できませんでした。4日の発射を非難する安保理の報道機関向けのプレス声明をめぐっては、本来ならば弾道ミサイル発射を禁じた決議違反として対北追加制裁の議論も想定されたところ、米国が安保理としての一致した意思表示を優先してハードルを下げた側面が強いにもかかわらず、中露が反対したことで安保理の機能不全が一層浮き彫りになっています。中国の耿爽国連次席大使は「北朝鮮のミサイル発射は(朝鮮半島周辺での)米国などの合同軍事演習の前後に起きている」と語り、米国をけん制、ロシアも同調しています。会合後、米欧とブラジル、インド、アラブ首長国連邦(UAE)の安保理理事国9か国と日韓の計11か国は4日の発射を「強く非難する」との共同声明を発表、米国は、安保理として声明を発表するため協議を続ける方針だが、中露が同意する可能性は低いままです。また、このところ北朝鮮の中ロへの接近は顕著で、金正恩朝鮮労働党総書記は中国の建国記念日である10月1日、習近平国家主席への祝電で、台湾問題などを念頭に「統一を実現するための中国の闘いを支援する」と強調、4日には北朝鮮外務省が、ロシアによるウクライナ東・南部併合への支持を表明しています。中ロの反対で国連安保理の追加制裁決議が実現しないことを見越し、ミサイル発射を続けているのは明らかだといえます。一方で、習主席は北朝鮮の核実験に厳しい考えを持っていると言われ、正恩氏と習主席が初めて会談した2018年以降、北朝鮮は核実験を控えています。中国は経済的にも北朝鮮に不可欠の存在であり、「米国と中ロが激しく対立する状況は北朝鮮にとり心地よいはずだ。現在の環境を壊しかねない核実験を今やるべきか慎重に考えているのではないか」という見方もあり、筆者も同様の考えです。

北朝鮮が4日に発射した弾道ミサイルは5年ぶりに日本上空を通過しました。北朝鮮が中・長距離ミサイルを発射する場合、より垂直に近い角度で発射する「ロフテッド軌道」と呼ばれる方法で打ち上げ、日本海に落下させることが多くなります。日本上空を通過すると反発が大きいため、意図的に高角度で打ち上げることで、飛距離を短くする一方、ロケットエンジンの能力などを検証することが目的です。北朝鮮は2022年1月、今回と同型とみられる中距離弾道ミサイル「火星12」を発射した際は、ロフテッド軌道で日本海に落下させています。この際、朝鮮中央通信は「周辺国家の安全を考慮して朝鮮東海(日本海)上にロフテッド軌道で発射された」と伝えていました。ロフテッド軌道で発射すれば、通常軌道よりも弾頭の落下速度が増すため、より迎撃が難しいとの指摘もあります。一方、4日の中距離弾道ミサイルは通常軌道で発射、ミサイルは放物線を描きながら日本上空を通過し、太平洋上に落下したとみられています。通常軌道で発射したのは、より実戦に近い軌道で発射し、ミサイルの性能データを収集する狙いがあると考えられます。太平洋上に撃ち込み、結束を強める日米韓などへの反発を示す狙いもあったとみられます。今回の飛行距離は過去最長の4600キロメートルで米領グアムが射程に入ります。米国がウクライナ侵攻でロシアと、台湾問題で中国と対立する国際社会の足並みの乱れをついた挑発行為で軍事的緊張が高まっており、大陸間弾道ミサイル(ICBM)発射や核実験などに踏み切る可能性も考えられるところです。軍事的脅威も上がっており、複数の弾頭を搭載する多弾頭型の開発をめざす中、中長距離ミサイルの改良を加速させ、完成すれば迎撃は一段と難しくなることになります。これまで実験したことがない通常軌道によるICBM発射をするとの見方も否定できません。韓国の国家情報院は北朝鮮が早ければ10月中にも核実験をするとの見通しを示しています。中国共産党大会が開かれる10月16日から米中間選挙前日の11月7日までの期間と予測しています。2017年のミサイル発射の後は米朝首脳会談に持ち込んだ経緯がありますが、当時のトランプ大統領と異なり、バイデン大統領は直接交渉に乗ってくる気配がなく、この状態が続くなら2年後の米大統領選で政権が代わるまでは核・ミサイルの増強を急ぐ期間に充てる恐れがあります。北朝鮮はウクライナ情勢を踏まえ核・ミサイル技術の向上が急務とみており、2017年の国際情勢と比べて米中ロの関係は一段と緊張を増しています。今回の挑発行為により米国が直接交渉を受け入れたとしても北朝鮮にとっては成果になることから、軍事挑発は当面続く公算が大きいといえます。日本は住民に避難を呼びかける全国瞬時警報システム(Jアラート)や避難施設の拡充など国民保護の体制整備を急ぐ必要があるといえます。

日米韓3カ国の北朝鮮担当高官は7日の電話協議で、北朝鮮の核・ミサイル開発の資金源を絶つ方策を話し合い、北朝鮮がサイバー攻撃で暗号資産を盗み取っているとみて、不法な資金調達を阻止すべく努力を加速することで一致しています。国連安全保障理事会の専門家パネルは2021年に公表した報告書で、北朝鮮が金融機関や仮想通貨の交換業者にサイバー攻撃をかけていると指摘、盗み出した金額は2019~2020年の合計で3億1640万ドル(450億円)に上ると分析、米連邦捜査局(FBI)は2022年3月に発生したオンラインゲーム会社からの6億2000万ドル相当の窃取も北朝鮮によるものとみています。また、韓国国防省の「国防白書」によると北朝鮮はおよそ6800人のサイバー部隊を運用しており、韓国の政府系シンクタンクは北朝鮮が2022年1~6月に実施した33発のミサイル発射で最大6億5000万ドルを費やしたと推計しています。暗号資産の窃取で得た資金を使っている可能性があるとみています。なお、日米韓は暗号資産の窃取対策に加え、海上で積み荷を違法に移し替える「瀬取り」の監視などで国際社会との協力を強化する方針も改めて確認しています。

米財務省は7日、北朝鮮に石油精製品を違法に輸出したとして、シンガポール人ら2個人と3企業を制裁対象に指定したと発表しています。日本上空を通過する弾道ミサイルの発射などに対抗する措置で、北朝鮮への石油精製品の輸出を制限する国連安保理決議を履行する姿勢を強調しています。米国内資産の凍結措置などが適用されることになります。国連による北朝鮮への制裁を回避する船舶間輸送の責任を課すのが狙いで、ブリンケン国務長官は声明を出し、「北朝鮮の兵器開発を直接支援する行動だ」と非難しています。制裁対象はシンガポール人と台湾人1人ずつのほか、太平洋の島国・マーシャル諸島を拠点とする海運会社「ニュー・イースタン・シッピング」など3企業です。

北朝鮮は、主要メディアの報道を通じて弾道ミサイル発射の翌日の発表を慣例にしてきましたが、今年5月以降は事後の反応を控えています。北朝鮮は従来、ほとんどのミサイル発射について、翌日の報道で名称や性能などの詳細を伝えており、金正恩朝鮮労働党総書記が発射の「成功」を喜ぶ写真を配信することもありました。沈黙の理由については様々な説があります。核実験などに合わせ、核・ミサイル開発の成果をまとめて発表するとの見方もあるほか、新型コロナウイルスの感染や食料不足で苦しむ住民を刺激しないよう、費用がかさむミサイル発射の公表を控えているとの指摘もあります。さらには、ミサイル発射が特別な「挑発行為」ではなく、国防力強化の一環であると印象づける狙いもありそうだとの見方も出ています。北朝鮮は2022年5月、国内で新型コロナの感染が初めて確認されたと公表、8月に金正恩朝鮮労働党総書記が「撲滅」を宣言するまで、感染が疑われる発熱者が人口の2割近くにあたる477万人以上に達しましたが、国営メディアがミサイル発射の報道をしなくなった時期と、北朝鮮国内で新型コロナが流行した時期が重なっており、「非常事態」のため報道を自制しているとの見方も出ていたところ、9月以降の弾道ミサイル発射についても、北朝鮮の国営メディアは報道を一切しないままとなっています。

韓国国防省傘下の韓国国防研究院は、北朝鮮が1970年代から今年までの間、核開発に総額11億~16億ドル(約1590億~2300億円)を投入したと試算していることがわかりました。北朝鮮が実施準備を終えたとされる7回目の核実験の推定費用は、最大で1.6億ドル(約230億円)に上るとみられるといいます。韓国国防研究院が国会国防委員会に所属する申議員に関連資料を提出した内容によれば、同研究院は過去の核開発費用の内訳を、北西部・寧辺などの核施設建設に6億~7億ドル、核兵器の設計や製造に1.5億~2.2億ドル、ウラン濃縮に2億~4億ドルなどとしています。また同研究院は、北朝鮮が戦術核兵器のほか、複数の弾頭で別々の目標を攻撃する「多弾頭化」の技術などを獲得するため、今後3~4回の核実験を行う可能性があるとみているとのことです。なお、北朝鮮の金正恩朝鮮労働党総書記は、核兵器について国の根幹を意味する「国体」だと主張し、弾道ミサイルの集中発射で核兵器の実戦配備に向けた軍備増強が着々と進む状況を誇示しています。これに対し、韓国の尹大統領も日米との安全保障協力の強化を目に見える形で示し、一歩も引かない姿勢を堅持しています。尹氏は1日、北朝鮮のミサイル発射直後に韓国中部で開いた韓国軍に関連した記念日の式典で演説し、「北朝鮮が核兵器の使用を試みるなら、韓米同盟とわが軍の圧倒的かつ決然とした対応に直面する」と述べて、米韓による対北抑止力の強化を訴えました。会場には、戦術地対地ミサイルなど、北朝鮮のミサイル発射の兆候を探知し、先制攻撃するための主力兵器も並べられたということです。

北朝鮮ミサイル 「ウクライナのように原発攻撃されたら…」不安の声(2022年10月5日付毎日新聞)
北朝鮮が日本列島越しに弾道ミサイルを発射した4日、原子力発電所を抱える自治体周辺では不安の声が広がった。全国で唯一、県庁所在地に原発がある島根県。市民団体「島根原発・エネルギー問題県民連絡会」の保母事務局長は「ロシアのウクライナ侵攻では原発が攻撃の標的になっており、人ごとではない。現状で国は原発を守ることができるのか」と疑問を呈した。島根原発1、2号機の運転差し止め訴訟で原告団長を務める元同市議の芦原康江さんは「住民の安全を考えるなら、そもそも攻撃対象になり得る原発を置くべきではない」と話した。松江市原子力安全対策課の成瀬和久課長は「どこの原発もミサイルの直撃には耐えられない構造なので、外交防衛上の政策をお願いしたい。最近は頻繁にミサイルが発射されている」と語った。また、国内最多15基の原発(廃炉決定済みの原発を含む)が集中立地する福井県の市民団体「原発問題住民運動福井県連絡会」の林事務局長は「原発にはテロ対策施設はあっても、ミサイルによる攻撃には備えておらず無防備だ」と指摘。「稼働していなくても使用済み核燃料などが保管されている場合もあって、ミサイルが誤って敷地内に落ちても危険だ」と訴えた。全国原子力発電所所在市町村協議会の会長を務める渕上隆信・福井県敦賀市長は「断じて容認できるものではなく、強い憤りを覚える」と北朝鮮を非難した上で、国に対し「ミサイル攻撃、武力攻撃に対する原発の防護対策について、外交上、国防上の視点から万全の措置を講じていただきたい」と求めた。
有事の国民保護に遅れ Jアラート、ミサイル通過と同時 東京に誤発信、6市町村で不具合(2022年10月5日付日本経済新聞)
政府は4日、北朝鮮の弾道ミサイル発射を受けて全国瞬時警報システム(Jアラート)を発令した。防災行政無線や携帯電話を通じた避難の呼びかけは上空通過とほぼ同時刻で身を守る時間は乏しかった。台湾有事も含め危機の際に国民を保護する体制整備は現状でも遅れが目立つ。…午前7時22分の弾道ミサイル発射後、政府は同27分に東京都の島しょ部と北海道、同29分に東京都の島しょ部と青森県にJアラートを発令した。ミサイルが青森県上空を通過したのは28~29分でほぼ同時刻だった。住民が「建物のなか、または地下に避難してください」とのメッセージを受け取っても、逃げ込む時間的な余裕はなかった。ミサイルの落下地点から離れていた東京都島しょ部は警報が不要だったことも判明した。松野官房長官は東京への発令に関し「注意が必要な地域でもなかった。関係省庁で原因を確認中だ」と述べた。総務省消防庁によると北海道と青森県の6市町では防災行政無線の放送が流れないなどの不具合があった。携帯電話への送信は楽天モバイルの回線利用者に届かなかった。消防庁によると保守管理を請け負うNTTコミュニケーションズが設定を誤っていた。現在は正常に配信できるという。5年前の北朝鮮のミサイル発射時、機器の設定ミスなどで一部地域で配信ができなかった教訓はいかされていない。…避難する場所がなければ国民の安全にはつながらない。国民保護法は都道府県や政令指定都市にテロなどを想定した避難施設を指定するよう定める。学校や公園などが多く、21年4月時点で全国で9万4125カ所ある。このうちシェルターのように安全性が高い地下施設は全体の1%の1278カ所にとどまる。今回Jアラートが発令された北海道は16、青森県は8、東京都は188カ所で、台湾有事で影響を受ける懸念がある沖縄県は6カ所しかない。北朝鮮が19年以降に発射した弾道弾は迎撃が難しい変則軌道が少なくとも4割弱に達した。年末に向けて政府・与党で反撃能力の設計を詰めなければミサイルの脅威を抑止するのは難しい。
「不正確で遅い」Jアラート検証へ 通過と同時発表、対象地域誤発信(2022年10月5日付産経新聞)
Jアラートについて、通過地域への発令遅れなどの不備が政府・与党内で問題化している。自民党が5日、党本部で開いた「北朝鮮核実験・ミサイル問題対策本部」では「不正確で遅い」などの指摘が相次いだ。政府は会合で検証作業を行う方針を示したという。北朝鮮は4日午前7時22分に弾道ミサイル1発を発射。政府は同27分に北海道と東京都の島嶼部にJアラートを出した。同29分、対象地域を青森県と東京都島嶼部に修正したが、ミサイルはほぼ同時刻の同28~29分に青森県上空を通過した。同42分、政府は改めて北海道と青森県に変更した。このうち東京都の島嶼部へは誤発信だった。…一方、ミサイルが上空を通過した青森県への発令がほぼ同時刻だったことについては、政府は見解を明らかにしていない。5日の自民会合では「通過してから知らされたのでは避難しようがない。政府への信頼性を著しく失っている」など厳しい声が上がった。青森県への発令が遅れた理由について、防衛相経験議員は「かつては広く出してから狭めたが、なるべく狭くしようとして遅くなったようだ」との見方を示した。会合では、発令は住民生活に大きな影響が及ぶことから、早さより正確さを求める声もあった。また、一部市町村で防災行政無線が流れず、また一部携帯会社で情報が配信されないなどのミスも相次いだ。Jアラートが発表されたのは平成29年9月以来。自民議員からは「屋外にいる人にこそ避難を求めるべきだ。5年前からどんな訓練や改善をしてきたのか」とのあきれ声も出ている。
東京島嶼部に誤発信・システム起動せず手動配信…Jアラート、各地で混乱広がる(2022年10月5日付読売新聞)
住民に避難を呼びかける全国瞬時警報システム「Jアラート」が鳴り響き、各地は緊迫感に包まれた。東京都の島嶼部で誤って発射情報が流れるなど混乱も広がった。…内閣官房によると、弾道ミサイル発射に伴うJアラートは、ミサイルが上空を飛行したり、落下したりすることが予測される地域に出される。ミサイルは発射から10分もしないうちに到達する可能性があり、内閣官房はJアラートを受信した場合、建物や地下に逃げ込むなどの避難行動を取るよう呼びかけている。…総務省消防庁によると、Jアラートの緊急速報メールが楽天モバイルのユーザーに配信されなかった。Jアラートの保守管理を請け負っているNTTコミュニケーションズが楽天モバイルへの配信設定を誤っていたのが原因。その後、正規の設定に修正し、正常に配信できるようにしたという。
Jアラート誤発信でも課題浮き彫り東京都の9町村 緊急避難施設活用ゼロ(2022年10月5日付産経新聞)
北朝鮮による4日の弾道ミサイル発射を受けたJアラートの発令後、東京都島嶼部の2町7村のうち、着弾に備えた緊急一時避難施設を活用した自治体はゼロだった。9町村へのJアラートは誤りだったことが結果的に判明したが、緊急対応が求められた発令直後に「判断に迷った」として施設を使わなかった自治体もあるなど、危機管理上の課題が浮かび上がった。…自治体側の説明からは、緊急一時避難施設の整備を進めてきた政府の意図が浸透していない面もうかがえる。他国からのミサイル発射後、政府はJアラートなどを通じて自治体に警戒と対応を求めるが、緊急一時避難施設を含めて具体的な避難場所を指示することはない。内閣官房の担当者は「地域によって事情が異なり、国が一律に『施設に避難してください』とは言えない」と話す。また、緊急一時避難施設はミサイルの直撃から身を守るためのものではない。直接の着弾を懸念して避難施設の活用を見送ったとすれば、施設整備の意味も失われかねない。内閣官房の担当者は、政府と自治体側の認識に齟齬があることに対し「政府内の取り組みを通じて自治体側の誤解を取り除く必要がある」と話し、対応を急ぐ考えを示した。
今そこにあるミサイル危機 「避難施設」案内表示の是非(2022年9月12日付産経新聞)
敵国による弾道ミサイル攻撃から国民の身を守ることを想定し、繁華街や駅の地下などが指定対象となる「緊急一時避難施設」をめぐり、周知が課題となっている。着弾まで早ければわずか数分。津波や洪水といった災害同様、避難に一刻の猶予もないにもかかわらず、ミサイル攻撃には避難先を示す統一表示が存在しない。緊迫の度合いを高める日本周辺の安全保障環境を踏まえ、国はデザイン化を進めるが、表示が「不安をあおる」と捉えて反発する自治体もあり、一筋縄ではいかないようだ。「指定はしたが、市民にどう周知すべきか…」今年3月に地下鉄の大阪メトロ駅舎99カ所を緊急一時避難施設に指定した大阪市の担当者は、どこが避難先かを知らない人が多いとの認識だ。緊急一時避難施設とは、着弾したミサイルの爆風や熱線から身を守るため、一時的に身を隠すことを想定した施設。平成16年施行の国民保護法で、都道府県知事や政令市長に指定を義務付けた。内閣官房によると、国内で指定を受けるのは令和3年4月1日時点で5万1994カ所。小学校や公民館などが大半で、人的被害の抑制に最も有効な地下施設は、1278カ所と全体の約2.4%にとどまる。国は7年度までの5カ年を集中取組期間とし、地下施設の指定拡充などを自治体に要望。東京や大阪、京都などの大都市では今年3月以降、地下鉄駅舎や地下街などで指定が進み、8月末までに数百カ所が新たに指定を受けている。

その他、北朝鮮を巡る最近の報道から、いくつか紹介します。

  • 前述したとおり、ロシアによるウクライナ侵攻後、北朝鮮がロシアに急接近しています。北朝鮮は米国をけん制する「外交カード」に利用するだけでなく、ロシアが実効支配するウクライナの一部地域に労働力を派遣し、外貨を獲得しようという思惑もうかがえます。本コラムでたびたび取り上げてきたとおり、北朝鮮は核・ミサイル開発を進めた代償として、厳しい国連安保理の制裁を科されています。新型コロナウイルスの流行に伴う国境封鎖で貿易も激減し、八方塞がりの状態だったところに、ロシアによるウクライナ侵攻が起きました。北朝鮮は国連安保理の制裁決議に基づき、2020年から出稼ぎ労働が禁止され、外貨収入が減少していますが、労働者派遣が実現すれば、物資不足が深刻な北朝鮮にとって貴重な外貨収入源になるのは間違いないところです。ドンバス地域の二つの「共和国」は国連に加盟していないため、制裁を科されないのも北朝鮮にとって利点となります。韓国統一研究院の趙漢凡専任研究委員は「ドンバス地域に10万人を派遣すれば、1年間で10億~20億ドルの外貨収入を得られ、一息つける」と分析しています。一方、ロシアも侵攻の長期化で人手不足に陥っており、双方の利害が一致しています。ロシアはすでに、ドンバス地域の再建のため、北朝鮮の建設労働者を受け入れる方針を明らかにしています。また、北朝鮮がロシアに武器を提供しているという情報もあります。米国防総省や国務省は9月、露国防省がウクライナ侵攻に使うため、数百万のロケットや砲弾を購入しようとしている兆候があると指摘、英国防省もロシアが在来兵器の在庫不足で北朝鮮などから武器を調達しているのはほぼ確実だとの分析を公表しています。米国や英国などは北朝鮮とロシアのつながりを示す情報をあえて公表することで、関係強化にくぎを刺すねらいがあると考えられます。これに対し、北朝鮮国防省は、副総局長名の談話を出し、ロシアに対する武器や弾薬の提供を否定しています。一方で「他国との輸出入活動は主権国家の固有で合法的な権利だ」と主張、「不法、非道」な国連安保理の制裁には従わない方針も示しています。安保理の常任理事国であるロシアに恩を売ることで、核実験を強行する局面になった時の「後ろ盾」を期待している側面も考えられ、ロシアと北朝鮮がそれぞれ国際的な孤立を深める中、両国の接近を阻む有力な手はないのが実情だといえます。
  • 中国と北朝鮮を結ぶ貨物列車が9月26日、運行を再開しています。中国外務省が会見で「両国の協議で決めた。安定した運行を保障する」と発表したものです。中国で新型コロナウイルスの感染が広がった結果、2022年4月下旬に中断しており、約5カ月ぶりの運行とみられます。丹東にある貿易商社の幹部は、当面は「食糧や薬品など北朝鮮当局が必要とする物資(の輸送)が中心だろう」と述べており、カツラや時計など北朝鮮製品の輸出や、人員の往来といった本格的な貿易再開にはなお時間がかかりそうな状況です。北朝鮮は中国でのコロナ禍を受け、2020年1月下旬に中国との境界を封鎖し、丹東―新義州間の列車の運行も止まりました。2022年1月に再開したが、4月下旬に再び中断、北朝鮮が中国からのコロナの流入を警戒したとみられています。北朝鮮は貿易の9割以上を中国に依存しており、このうち丹東―新義州間の交易は以前は中朝貿易全体の約7割を占めていたとされ、鉄道はその重要な輸送手段だといいます。中国税関総署によると、中朝間の輸出入額は2022年1~8月が5億300万ドル(約720億円)と、2019年同期比で71%減っています。中国側の有識者は「北朝鮮で最も不足しているのは原油と食糧、外貨だ」と指摘しています。
  • 中国税関総署が発表した8月の貿易統計の速報値によると、北朝鮮から中国への輸出が前月比約44%増の約1878万ドル(約26億8000万円)となり、前年同月の3倍、北朝鮮が2020年1月に新型コロナウイルス対策で国境を封鎖し貿易を抑制する前の2019年8月と比べても約11%上回る結果となりました。国境封鎖後、同じ月の輸出額の比較で2019年を上回ったのは初めてだといいます。北朝鮮は海上輸送を強化し、中国からの物資搬入とともに輸出も増やし外貨確保を急いでいるようです。2022年8月の中朝間の貿易額は前月比24%増の約9032万ドル、中国からの輸入額は同19%増の7154万ドルで、いずれも前年同月比では3倍強となったが、2019年同月と比べると3割台の規模で、輸出の回復ぶりが目立つ形となっています。同国は最近、港湾の荷役施設を増強し海運能力の強化を図っているといい、北朝鮮から中国への輸出品は製鉄の際に脱酸素材として使われる合金鉄や電力、計測器などが多いということです。
  • 北朝鮮で8月末から新型コロナウイルスのワクチン接種が始まったことが分かったと報じられています(2022年10月1日付読売新聞)。北朝鮮はこれまで米国製ワクチンしか信用せず、2021年はワクチンを共同購入・分配する国際的枠組み「COVAX」から割り当てられた中国製ワクチンの受け取りを拒否していましたが、2022年春以降の感染拡大を受けて方針を転換したものです。新型コロナの再流行や貿易正常化、人的往来の再開に備える狙いがあると考えられています。接種は、平壌や、中国との間の陸上貿易拠点である新義州を始めとした国境地帯、国際貨物の受け入れ港がある南浦で始まっているといい、ワクチンは中国製とロシア製で、2023年1月末までに全住民への接種を終える計画ということです。8月に船舶で中国製ワクチンが北朝鮮に運ばれたのに続き、9月26日に5か月ぶりに再開した中朝間の鉄道貨物輸送でも、大量のPCR検査キットと中国製ワクチンが運ばれたということです。韓国の情報機関・国家情報院は9月28日の国会報告で、北朝鮮が中国との国境地域で「大規模なワクチン接種を行っている」と明かしています。なお、金正恩朝鮮労働党総書記は8月10日、コロナとの戦いに勝利したと宣言しましたが、国家情報院は「信じ難い」と報告しています。北朝鮮は、ワクチンを低温で輸送・管理する「コールドチェーン」が整備されていないことから、2~8度の通常の冷蔵庫でも保管可能な中露製ワクチンの輸入に踏み切ったとみられます。ある中朝関係筋は「中国の新型コロナ対策がある程度成功していることも後押しした」と説明しています。

3.暴排条例等の状況

(1)暴力団排除条例基づく指導事例(大阪府)

暴力団に会合場所を提供したとして、大阪府公安委員会は、大阪府暴排条例に基づき、大阪府内の大手和食レストランチェーンの30代男性店長を指導しています。会合を開いた大阪府内の六代目山口組2次団体の50代男性組長にも指導しています。報道によれば、2022年5~6月、2回にわたり飲食店に組員十数人を集めて定例会を開き、1回につき約3万円を支払っていたといいます。暴力団であることを店側に明かしてはいなかったものの、会合が終了すると店外の駐車場に組員が一列に並び、組長を送り出すなどしていたようです。同組の事務所は、暴力団対策法で指定された警戒区域(大阪市、同府豊中市)内に所在しており、定例会の開催に使用できないことなどから、区域外の飲食店を選んだとされます。指導に対し、店長は「暴力団の会合は今後、断ります」と述べ、組長は「事務所が使えず、求心力を高めるために顔を突き合わせる必要があった」、「条例違反となり恥ずかしい。内容は守ります」と話したということです。

▼大阪府暴力団排除条例

同条例の第14条(利益の供与の禁止)において、第3項「事業者は、前二項に定めるもののほか、その事業に関し、暴力団員等又は暴力団員等が指定した者に対し、暴力団の活動を助長し、又は暴力団の運営に資することとなる利益の供与をしてはならない。ただし、正当な理由があるときは、この限りでない」と規定されており、本件はこの規定に抵触したものと考えられます。また、暴力団員については、第16条(暴力団員等が利益の供与を受けることの禁止)において、第2項「暴力団員等は、事業者から当該事業者が第十四条第三項の規定に違反することとなる利益の供与を受け、又は事業者に当該事業者が同項の規定に違反することとなる当該暴力団員等が指定した者に対する利益の供与をさせてはならない」と規定されており、これに抵触したものと考えられます。そして、同条例の第23条(勧告等)において、「公安委員会は、第十四条第三項又は第十六条第二項の規定の違反があった場合において、当該違反が暴力団の排除に支障を及ぼし、又は及ぼすおそれがあると認めるときは、公安委員会規則で定めるところにより、当該違反をした者に対し、必要な指導をすることができる」と規定されており、それぞれ両者に指導がなされたものと考えられます。

(2)暴力団排除条例に基づく逮捕事例(東京都)

中学校の近くに、暴力団事務所を構えた疑いで、関東関根組系の組長ら7人が逮捕されています。報道によれば、2021年3月、東京・足立区保木間の中学校から、およそ160メートルにあるアパートに、組事務所を開設した疑いが持たれているといいます。学校から200メートル以内に事務所を構えるのは、東京都暴排条例で禁じられていますが、組長は、「出入りはしていたが、事務所ではありません」と、容疑を否認しているということです。

▼東京都暴力団排除条例

同条例の第22条(暴力団事務所の開設及び運営の禁止)において、「暴力団事務所は、次に掲げる施設の敷地(これらの用に供せられるものと決定した土地を含む。)の周囲200メートルの区域内において、これを開設し、又は運営してはならない」として、「学校教育法(昭和22年法律第26号)第1条に規定する学校(大学を除く。)又は同法第124条に規定する専修学校(高等課程を置くものに限る。)」が規定されています。本件は当該条項に抵触したものと思われ、第33条(罰則)において、次の各号のいずれかに該当する者は、1年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する」として、「一 第22条第1項の規定に違反して暴力団事務所を開設し、又は運営した者」が規定されています。

(3)暴力団対策法に基づく再発防止命令発出事例(北海道)

北海道滝川市で、飲食店30件に「みかじめ料」として現金を支払わせていた六代目山口組三代目弘道会「福島連合」組員と会社役員の男に、警察が再発防止命令を出しています。報道によれば、2人は滝川市で飲食店30件に「みかじめ料」として現金を支払わせており、すでに暴力団対策法に基づく中止命令を受けていましたが、今回、2人が中止命令の出ていない別の店に対しても「みかじめ料」を要求する可能性が高いとして、新たに再発防止命令を出したものです。再発防止命令に違反した場合、暴力団員の場合は、3年以下の懲役または300万円の罰金、一般人でも、3年以下の懲役または250万円の罰金が科されることになります。なお、2人がこれまでに受け取ったものは、月に数千円から1万円で、中には10数年前から支払っていた人もおり、総額は、数百万円に上るとみられています。

▼暴力団対策法(暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律)

暴力団対策法第9条(暴力的要求行為の禁止)において、「指定暴力団等の暴力団員(以下「指定暴力団員」という。)は、その者の所属する指定暴力団等又はその系列上位指定暴力団等(当該指定暴力団等と上方連結(指定暴力団等が他の指定暴力団等の構成団体となり、又は指定暴力団等の代表者等が他の指定暴力団等の暴力団員となっている関係をいう。)をすることにより順次関連している各指定暴力団等をいう。以下同じ。)の威力を示して次に掲げる行為をしてはならない。」として、「二人に対し、寄附金、賛助金その他名目のいかんを問わず、みだりに金品等の贈与を要求すること。」が規定されており、さらに、第11条(暴力的要求行為等に対する措置)第2項において、「公安委員会は、指定暴力団員が暴力的要求行為をした場合において、当該指定暴力団員が更に反復して当該暴力的要求行為と類似の暴力的要求行為をするおそれがあると認めるときは、当該指定暴力団員に対し、一年を超えない範囲内で期間を定めて、暴力的要求行為が行われることを防止するために必要な事項を命ずることができる。」と規定されています。また、一般人についても、第10条(暴力的要求行為の要求等の禁止)第2項において、「何人も、指定暴力団員が暴力的要求行為をしている現場に立ち会い、当該暴力的要求行為をすることを助けてはならない」と規定されており、さらに第12条第2項において、「公安委員会は、第十条第二項の規定に違反する行為が行われており、当該違反する行為に係る暴力的要求行為の相手方の生活の平穏又は業務の遂行の平穏が害されていると認める場合には、当該違反する行為をしている者に対し、当該違反する行為を中止することを命じ、又は当該違反する行為が中止されることを確保するために必要な事項を命ずることができる。」と規定されています。

(4)暴力団対策法に基づく再発防止命令発出事例(埼玉県)

不当な金などの贈与要求を繰り返したとして、埼玉県公安委員会は、稲川会傘下組織組員に暴力団対策法に基づく再発防止命令を出しています。報道によれば、同組員は2022年5月、深谷市内居住の自動車修理工場を経営する30代男性に対して、車両の修理料金を巡るトラブルから1,000万円の支払いを要求し、6月に深谷署長から中止命令を受けました。また、5月初旬には同市居住でアルバイト店員の20代男性に対して勤務先をあっせんしたが断られたことに対する迷惑料と称して200万円を要求し6月に同署長が中止命令を発出しています。埼玉県公安委員会は今後も反復して同様の違反行為を行う恐れがあるとして、再発防止命令を出したものです。

(5)暴力団関係事業者に対する指名停止措置等事例(茨城県)
▼茨城県 指名停止情報 暴力団等

公表された業者の「役員が暴力団等と密接な関係を有していると認められるとして、茨城県警察本部刑事部長から県土木部長あて「茨城県建設工事等からの暴力団等の排除に関する協定書」に基づく排除要請があった」として、「茨城県が発注する建設工事」につき、「令和4年9月13日~令和5年3月12日(6か月)」の間、指名停止措置が講じられています。なお、指名停止理由として、「上記の業者の役員が暴力団等と密接な関係を有していることは、茨城県建設工事等請負業者指名停止等措置要領(平成6年7月14日付け監第692号。以下「指名停止等措置要領」という。)別表第2第13号に該当する」とされます。当該措置要領によれば、「13有資格業者である個人、有資格業者の役員又は有資格業者の経営に事実上参加している者が、暴力団等と密接な関係若しくは社会的に非難されるべき関係を有していると認められるとき」が明記され、その期間としては、「当該認定をした日から6ヶ月以上」と明記されています。茨城県の公表事例は大変珍しいものですが、本コラムで頻繁にとりあげている福岡県・福岡市・北九州市の公表事例では、適用期間は「18カ月」(かつ、「暴力団又は暴力団関係者との関係がないことが明らかな状態になるまで」(北九州市))とされることが多く、それと比較すると、茨城県の「6カ月」はやや短い(軽い)措置との印象を受けます。

(6)暴力団関係事業者に対する指名停止措置等事例(福岡県)

直近1カ月の間に、福岡県、福岡市、北九州市において、1社について「排除措置」が講じられ、公表されています。

▼福岡県 暴力団関係事業者に対する指名停止措置等一覧表
▼福岡市 競争入札参加資格停止措置及び排除措置
▼北九州市 福岡県警察からの暴力団との関係を有する事業者の通報について

福岡県における「排除措置」とは、福岡県建設工事競争入札参加資格者名簿に登載されていない業者に対し、一定の期間、県発注工事に参加させない措置で、この期間は、県発注工事の、(1)下請業者となること、(2)随意契約の相手方となること、ができないことになります。今回、「役員等が、暴力的組織の構成員となっている」(福岡県)、「暴力団との関係による」(福岡市)、「該当業者の役員等が、暴力団構成員であることを確認し、、「暴力団員が事業主又は役員に就任していること」に該当することを認めたため」(北九州市)」として公表されています。なお、暴力団構成員が役員に就任していたことから、3自治体ともに「36カ月」の排除期間となっており、「令和4年6月29日から令和5年12月28日まで(18ヵ月間)」(福岡県)、「令和4年9月2日から令和7年9月1日まで」(福岡市)、「令和4年9月8日から36月を経過し、かつ、暴力団又は暴力団関係者との関係がないことが明らかな状態になるまで」(北九州市)と示されています(排除期間の開始日が自治体によって異なる点も注目されます)。これまでも指摘しているとおり、3つの自治体で、公表のあり方、措置内容等がそれぞれ明確となってはいるものの、公表のタイミングや措置内容等が異なっており、大変興味深いといえます。

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