首席研究員 芳賀 恒人
1.肝心なものは目に見えない~「ルフィ」の摘発は氷山の一角だ
2.最近のトピックス
(1)各種統計資料から
・警察庁 令和4年の犯罪情勢について【暫定値】
・警察庁 特殊詐欺認知・検挙状況等(令和4年・暫定値)について
(2)AML/CFTを巡る動向
(3)特殊詐欺を巡る動向
(4)薬物を巡る動向
(5)テロリスクを巡る動向
(6)犯罪インフラを巡る動向
(7)誹謗中傷/偽情報等を巡る動向
(8)その他のトピックス
・中央銀行デジタル通貨(CBDC)/暗号資産(仮想通貨)を巡る動向
・IRカジノ/依存症を巡る動向
(9)北朝鮮リスクを巡る動向
3.暴排条例等の状況
(1)暴力団排除条例に基づく公表事例(愛知県)
(2)暴力団排除条例に基づく勧告事例(北海道)
(3)暴力団排除条例に基づく勧告事例(大阪府)
(4)暴力団排除条例に基づく勧告事例(高知県)
(5)暴力団排除条例に基づく勧告事例(愛媛県)
(6)暴力団排除条例に基づく逮捕事例(埼玉県)
(7)暴力団排除条例に基づく逮捕事例(静岡県)
(8)暴力団対策法に基づく中止命令発出事例(長野県)
(9)暴力団対策法に基づく中止命令発出事例(静岡県)
(10)暴力団対策に基づく中止命令発出事例(岡山県)
(11)暴力団対策法に基づく中止命令発出状況(鹿児島県)
1.肝心なものは目に見えない~「ルフィ」の摘発は氷山の一角だ
世間の注目を浴びている一連の広域強盗事件に絡み、「ルフィ」を名乗る指示役を含むとみられる4人全員が逮捕されました。事件は特殊詐欺グループが強盗へと手口を凶悪化している実態を浮き彫りにしましたが、いわゆる「ルフィ」グループの摘発は氷山の一角に過ぎません。国内外で同様の特殊詐欺グループや犯罪組織は、これまで同様、あるいはより慎重かつ狡猾、巧妙に、そして無慈悲に姿かたちを変えながら、市井の人々の生命・身体・財産を脅かす存在として治安上の新たな脅威となる恐れがあり、社会全体の治安情勢の悪化につながらないような新たな対策が求められていると言えます。そもそも特殊詐欺という犯罪については、本コラムでも継続的にその動向を追っており、「SNS」、「闇バイト」、「テレグラム」、「高齢者・資産家名簿」、「空き家」、「電話転送サービス」さらにはフィリピンや中国、タイといった「海外拠点」など多様な「犯罪インフラ」を駆使しながら、若者や生活苦の者などを摘発されるリスクの高い「実行者」に仕立て上げ、巧妙な手口で高齢者らをだますものであり、その背後には暴力団や半グレをはじめとする反社会的勢力の関与がうかがわれるものが多いものです。筆者は、ここ数年、「アポ電強盗」など、特殊詐欺対策の深化により、騙すより成功確率が高いとされる手荒な「強盗」という犯罪に移行し始めている点を危惧していましたが、抵抗できない高齢者を中心に生命・身体・財産に(お金のためなら手段を選ばず)安易に危害を加える最悪の犯罪が続く状況に怒りを禁じえません。当局の危機感も強いところ、特殊詐欺グループとしての「ルフィ」グループのフィリピンでの摘発(2019年)から、ついに死者が出るまでのここ数年の動きについては(日本の捜査権が及ばす、身柄確保や証拠収集が容易ではない、犯罪人引渡し条約が締結されていないなど、さまざまな事情があることは理解できるにせよ)厳しく批判されても仕方がないと指摘しておきたいと思います。本件について、数多くの報道がなされているところ、本コラムとしては、「暴力団等反社会的勢力の関与」、「犯罪インフラ」に絞って、整理してみたいと思います。
上述したとおり、一連の強盗事件には、いくつかの特徴があります。「SNS」を使い、「闇バイト」として実行犯を集める、一定時間でメッセージが消去される通信アプリ「テレグレム」などで匿名化を図る、首謀者や指示役は自らに捜査が及ばないよう、実行役と直接接触しない、ターゲットとなる高齢者や資産家の名簿を活用する、日本の捜査権が及ばない海外に拠点を設けるといった点です。社会情勢の変化やITの進展を利用した、まさに「いま」を象徴するタイプの犯罪といってよいと思いますが、事件の最大の焦点は、「真の首謀者は誰か」です。そもそも「ルフィ」グループはあくまで実行部隊の位置づけであり、首魁(真の首謀者)ではありません。そこに対して指示をする、犯罪の元手やツールを用意する、他の犯罪グループと「話」をつけたりする後ろ盾のような存在が必要であり、暴力団や半グレなど反社会的勢力の関与を疑うのは自然な流れといえます。本コラムでもたびたび取り上げているとおり、かつて大がかりな犯罪の背後には必ずといってよいほど暴力団の存在がありましたが、それが警察の取り締まりや社会からの排除機運の高まりを受けて、暴力団自体は潜在化の度合いを深めています。一方で、暴力団の資金調達のルートは、暴力団の構成員が直接関わらない形や、従来型の「組の威力」を利用した違法行為ではない手法に移っていると指摘されているところであり、最近では暴力団には属さない「半グレ」と呼ばれる不良集団も暗躍している状況にあります。今回の広域強盗事件の首謀者が暴力団や半グレ勢力と関係があるのかについては、捜査の進展を待つしかありませんが、特殊詐欺に限らず、ヤミ金、金塊の密輸や強奪、違法な風俗営業、新型コロナウイルス関連の給付金の詐取など、その時々の社会情勢に合わせ、うまみのある犯罪を見いだし、仕掛けてくる反社会的な勢力が存在することは間違いないところです。社会の変化や反社会的勢力自身の存在の不透明化・手口の巧妙化によって警察から「見えない」、「見えにくい」、あるいは「真剣に見ていない」領域が広がり、その後、大きな問題として顕在化する例は過去にもあります。宗教団体への過度の配慮からカルト的な集団への対応が遅れ、オウム真理教の一連の事件につながったことや、直近の旧統一教会の問題などはその典型例だといえます。
「真の首謀者」は誰なのかについては、現時点では推測でしか語れませんが、検討に値するいくつかの記事を(ほとんどが週刊時情報ですが)紹介します。
全国で相次ぐ強盗事件、特殊詐欺の手口と酷似 背景に組織関与か(2023年1月23日付毎日新聞)
「ルフィ」による被害総額は60億円以上…闇に消えたカネの行方と、気になる暴力団との接点(2023年2月7日付日刊ゲンダイ)
「ルフィ」はただの捨て駒! “黒幕”が絶対に知られたくない「暴力団員」襲撃リスト(2023年2月8日付東スポWeb)
連続強盗事件「ルフィ」と暴力団との関係 60億円の行方で注目される「北海道コネクション」(2023年2月9日付デイリー新潮)
フィリピンの裏社会を牛耳る日本の闇 元指定暴力団のビッグネームも? 元山口組系会長が指摘(2023年2月6日付ABEMA TIMES)
「ルフィ」連続強盗団 そのルーツは山口組傘下の“極北極悪”グループだった(2023年2月10日付NEWSポストセブン)
ルフィ強盗の「本当の黒幕」の正体…高齢者を狙った「凶悪強盗」はまだまだ続く(2023年2月12日付現代ビジネス)
これらの情報を整理すると、「ルフィ」グループは六代目山口組と何らかの接点があること、とりわけ北海道の「福島連合」との関係が強そうであること、フィリピンで特殊詐欺を行うにあたって犯行ツール等を手配できる日本人グループがあること、「ルフィ」グループはあくまで手先の一つであり、他にも同様のグループの存在がうかがわれることなどが疑われるところです。当局も暴力団との接点を手掛かりに捜査をしているところであり、今後の真相解明を期待したいところです。
次に、今回の一連の事件を実行するにあたってさまざまな「犯罪インフラ」が活用されたことが分かっています。どのようなものが、どのような形で悪用されたのか、さまざまな記事から、整理してみたいと思います。まず、読売新聞の「闇バイト強盗」という連載記事がコンパクトにまとまっていることから、以下、抜粋して引用します。
[闇バイト強盗]<上>マニラ五つ星ホテル 潜伏(2023年2月8日付読売新聞)
[闇バイト強盗]<中>「粛清される」恐怖で支配…特殊詐欺グループから移行か(2023年2月10日付読売新聞)
[闇バイト強盗]<下>消えるメッセージ使用 「ルフィ」「キム」特定に壁(2023年2月10日付読売新聞)
上記以外でも驚きの手口や状況が紹介されている記事もありますので、以下、抜粋して引用します。
犯罪組織で”使い捨て”される実行犯「ほとんどが普通の人」人材派遣の実態は(2023年2月5日付テレ朝news)
〈ルフィ一味は奪った金品をどう換金したか〉暴力団幹部が語る特殊詐欺・アングラマネーの換金の“ナガレ”「プリペイドカードの換金率は83%」「地下銀行だと5分」「宝飾品は買取屋、ブランド時計は…」(2023年2月2日付集英社オンライン)
特殊詐欺の拠点、中国や東南アに 「ルフィ」事件など(2023年2月8日付日本経済新聞))
逃亡先に選ばれるフィリピン 背景に当局の腐敗 2容疑者強制送還(2023年2月7日付毎日新聞)
資産状況探る「アポ電」年12万件 広域強盗でも利用か(2023年2月6日付日本経済新聞)
こうした情報を精査すると、多種多様な「犯罪インフラ」が犯罪に絡み、その成功率を高めてしまっていること、「犯罪インフラ」1つ1つに組織犯罪ならではの膨大なノウハウが詰まっていることがよくわかります。そうであるがゆえに、今回摘発された「ルフィ」グループが単独でフィリピンにわたり、特殊詐欺や広域強盗を組織的に実行できるとは到底思えません。その上位組織(暴力団や反社会的勢力など)が確実に存在するのであって、さらにその上位に「真の首謀者(首魁)」が存在することは間違いないと思われます。そして、そうだとするならば、「ルフィ」グループは多くの実行部隊の1つに過ぎないことになり、日本国内外に同様の組織が多数存在していることが合理的に疑われることになります。したがって、同様の犯罪は、今後も姿形を変えながら、より巧妙に、より狡猾に、より無慈悲に続いていくものと考えられます。こうした状況をふまえ、当局は、1つ1つの「犯罪インフラ」を構成する関係者をまずは洗い出し、国際的な連携を深めながら摘発を進め、犯罪の敢行をやりにくいものとしていくことがまずは重要であり、一方で、犯罪組織の全容解明に向けて、やはり関係者を摘発していくことによって「真の首謀者」に近づいていくことが求められています。今後の進展に期待したいと思います。
さて、旧統一教会の問題から宗教法人の「反社会性」にも焦点が当てられてきましたが、(宗教法人のもつ税制優遇などを狙って)暴力団等の反社会的勢力が正に宗教法人や休眠宗教法人を支配する、乗っ取るといった事案は以前から発生しています。旧統一教会の問題でも争点となった当局・自治体等によるモニタリングの甘さ、「行為の組織性、悪質性、継続性などが認められ、法令に反して著しく公共の福祉を害すると認められる行為などがある場合には、個別事案に応じて判断すべきだ」(岸田首相答弁)としても、解散命令を発出してこなかった不作為により、反社会的勢力を助長しかねない状況にあります。前述した特殊詐欺や広域強盗、旧統一教会の問題など枚挙に暇がないのですが、被害が発生してからでは遅いのです。行政当局はもっと危機感をもって取り組んでほしいものだと思います。なお、産経新聞が、この問題に切り込んでいますので、以下、抜粋して引用します。
宗教法人法を問う 暴力団排除規定追加に国応じず 福岡など9県要望も(2023年2月5日付産経新聞)
宗教法人法を問う 暴力団の介入防げぬ「法の穴」 反社支配懸念も脆弱な調査権限(2023年2月5日付産経新聞)
義務書類の未提出、罰則適用に「地域差」 複数自治体が人手不足で放置(2023年2月1日付産経新聞)
暴力団も触手…休眠状態の売買野放し、「闇市場」に法人流出(2023年1月30日付産経新聞)
宗教法人1.5万超が「義務書類」提出せず、休眠状態増加浮き彫り 「脱法」売買の標的恐れ(2023年1月30日付産経新聞)
反社支配なら解散命令も 衆院予算委、宗教法人悪用で文科相(2023年2月8日付産経新聞)
前回の本コラム(暴排トピックス2023年1月号)でも取り上げたとおり、警視庁が準暴力団(半グレ)対策の特命班を、福岡県警が「準暴力団等集中取締本部」を新設しています。このうち福岡県警の半グレ対策を専門にした取締本部の設置は全国で初めてで、取締本部は県警本部長をトップとし、暴力団や知能犯の捜査に携わる捜査員約230人態勢で、複数の特別捜査班が、半グレの実態把握や捜査にあたるとしています。発足に際し、岡部本部長が「準暴力団は暴力団と密接な関係を有し、治安対策上の脅威となっている。あらゆる手法を用いて捜査活動が展開されることを期待する」と訓示、統括役を担う組織犯罪対策課の佐藤課長が「暴力団の壊滅に向け、資金獲得活動を活発化させている準暴力団の対策を推進し、県民の安全安心を確保する」と決意表明しています。その背景事情について報じた以下3つの記事を抜粋して引用します。
暗躍する「半グレ」の背後に暴力団の存在 資金源活動に利用か(2023年1月24日付毎日新聞)
全国で暗躍「半グレ」の実態 なぜ対策強化 福岡は「工藤会」の重し弱まり…”暴力団と変わらない”(2023年1月18日付FNNプライムオンライン)
一方、暴力団の側も、暴力団対策法の規制対象外の存在をうまく活用していこうとする動きがあります。絆會が「セカンドバッジ」制を導入したというのも、その一つと考えられています。「セカンドバッジ」制については、以下の2つの記事に言及がある程度であり、以下、参考までに抜粋して引用します(なお、以下の文中に「秘密組員は組員と認定できないから、暴対法も暴排条例も適用されない」とありますが、暴力団構成員と密接な関係を有している場合は、暴排条例等において規制の対象となりうることを付言しておきます)。
織田絆誠会長の絆会が導入する「セカンドバッジ」制 暴力団組員ではない組員がついに登場(2023年2月6日付日刊ゲンダイ)
山口組「分裂抗争」の驚くべき結末【七代目は誰に…「リアル・アウトレイジ」】(2023年1月31日付現代ビジネス)
暴力団対策法が規定する再発防止命令が平等原則を保障する憲法14条に反するかどうかが争点となった刑事裁判の上告審判決で、最高裁第1小法廷は、合憲とする初判断を示しています。裁判長は「規定による規制は市民生活の安全と平穏の確保を図る目的を達成するために必要かつ合理的。理由のない差別とは言えない」と述べています。なお、裁判官5人全員一致の意見だといいます。今回の刑事裁判の被告は、稲川会系組員の男性で、再発防止命令を受けていたにもかかわらず、2020年10月に派遣型風俗店の経営者にみかじめ料を要求したとして、暴力団対策法違反と恐喝未遂罪で起訴されたものです。1審・東京地裁判決(2021年12月)、2審・東京高裁判決(2022年5月)はともにいずれの罪も有罪とし、被告を懲役2年10月の実刑としています。被告側は「再発防止命令は暴力団員であることを理由とした不合理な差別」などと主張しましたが、小法廷は2023年1月23日の判決で被告側の上告を棄却、1、2審の実刑判決が確定しています。
六代目山口組系組員らによる特殊詐欺の被害に遭った70~80代の女性6人が、暴力団対策法の使用者責任に基づき篠田建市(通称・司忍)組長(81)ら幹部2人に計約1350万円の損害賠償を求めた訴訟は、東京地裁で和解が成立しています。報道によれば、和解は1月30日付で、解決金が支払われたといいます。6人は2018年8~12月、特殊詐欺でそれぞれ約100万~350万円をだまし取られるなどしました。グループを統括していた六代目山口組傘下の弘道会系組員2人を含む計8人が詐欺罪などに問われ、有罪判決が確定していますが、原告側は統括役の組員2人に加え、篠田組長と弘道会の竹内会長(62)を提訴、組員2人については2022年に請求通りの賠償を認める判決が出ましたが、篠田組長と竹内会長を相手取った訴訟は審理が続き、1月14日に判決が言い渡される予定のところでした。
六代目山口組の分裂抗争は、2023年ですでに8年になります。暴力団の抗争としては史上最長となっており、今もって終結の見通しは明確ではありません。終結させるためには、大別すれば、敵と和解するか、敵の組長を殺傷するか、敵の組長に敗北を認めさせ、謝らせるかのいずれかしかないと考えられています。しかしながら、話し合いによる終結はまず望めない状況にあり、敵対する両組の間に立つ調停者が見当たらないためで、とはいえ、相手を力で圧伏するのも難しいと言えます。神戸山口組の井上組長(74)は「自分一人になっても引退、解散しない」と言い切っており、井上組長はめったに外出・移動せず、兵庫県警が周りを厳重に固めている状況にあり、それを押して殺傷行為を強行すれば、六代目山口組は福岡県の工藤會と同様、「特定危険指定暴力団」にさえ指定されかねない状況と言えます。さらには、神戸山口組への攻撃、池田組若頭襲撃事件などが六代目山口組の司組長や高山若頭の命令、指示に発すると推認されれば、死刑や無期懲役が科される可能性もありうるところです。こうして決着しないことには司組長からの「代目譲り」はあり得ないし、紛争が未解決のまま、組長や若頭の交代はできない状況にあり、六代目山口組とはいえ、なかなか難しい状況に陥っているとの見方もできるところです。8年を経過して、この分裂騒動がどのように決着するのか、状況を注視していきたいと思います。
市民を襲撃するなどした6事件に関与したとして、組織犯罪処罰法違反(組織的な殺人未遂)などに問われた特定危険指定暴力団工藤会ナンバー3で理事長の菊地敬吾被告(50)の判決が2023年1月26日、福岡地裁であり、裁判長は求刑通り無期懲役を言い渡しています。報道によれば、菊地被告は同会トップで総裁の野村悟被告(76)(1審死刑、控訴中)らの指揮命令で、2012年から2014年にかけ、(1)北九州市での元福岡県警警部銃撃(2)福岡市での看護師刺傷(3)北九州市での歯科医師刺傷の各事件を指示、さらに首謀者として配下組員に指示し、いずれも2012年に北九州市で(4)暴力団組員の入店を禁じる標章を掲げた店が入るビル2棟に放火(5)標章を掲げた飲食店の経営者ら2人を刺傷(6)標章を掲げたクラブの経営会社役員を刺傷、の各事件を起こしたとしています。一連の公判では、犯行に直接手を下していない暴力団幹部に対して、実行犯との「共謀」を認定し、刑事責任を問えるのかが焦点となりました。カギとなったのは、暴力団特有の強固な組織性です。暴力団犯罪はこれまで、上層部からの指示や命令が立証できず、実行犯のみの検挙にとどまることが多いと言われてきましたが、県警幹部は「『親分のために』と末端の組員が罪をかぶる、という『ヤクザ』のやり方は今後通用しなくなる」と受け止めています。報道で、園田寿・甲南大名誉教授(刑法)は一連の判決の特徴について、「共謀を直接示す証拠がない中で、上意下達の強固な組織である暴力団が持つ背景を考え、共謀共同正犯の成立を認めた」、「いずれの事件も、トップの野村被告もしくは組織全体を利する犯行で、実行犯が単独で犯行に及ぶメリットはなく、(上層部の)有罪には納得する」と指摘しています。ただ、ある捜査関係者は「野村被告に死刑判決が出た後も組員が接見に訪れており、影響力は衰えていない」と話し、組織の壊滅には至っていないとみています。野村、田上両被告は一審判決に対し、「証拠の判断や推論に事実誤認がある」などとして控訴中で、弁護団を解任し、新たな弁護団で二審に臨むとみられています。一方、2023年1月31日付西日本新聞において、今回、工藤会トップで総裁の野村悟被告、ナンバー2で会長の田上不美夫被告に続き、組織の「要」である菊地被告にも重いかせをはめる判断が下された意味について、検察関係者は「まだ若い菊地被告に仮に軽い判決が出れば、出所後に『ネオ工藤会』となって同じような事件を起こす可能性は十分あった。長期間、社会から隔離できる量刑が必要だった」と解説しています。さらに、「捜査当局サイドは付け入る隙があるとみていた。菊地被告の指示が疑われた事件では、関与する配下の組員数が多い傾向があり、被害者の事前の行動確認、バイク調達、襲撃など役割が細分化されていた。「人数が多いので、犯行の秘密をしゃべる人間が必ず出てくると、壊滅作戦の以前から考えていた」(福岡県警幹部)という。そして、その通りになった。看護師の女性を刃物で刺して殺害しようとした事件(13年)で摘発された組関係者の一人が、取り調べで自供。それが伝わっていき、他の容疑者も犯行で自ら担った役割や「上からの指示があった」ことを認めた。こうした捜査段階の供述や裁判における証言が、工藤会の「鉄の結束」を突き崩し、首脳3人の有罪判決に道を開いた。…壊滅作戦の過程では工藤会が、暴力団に属さない反社会的勢力「半グレ」と手を結び、特殊詐欺などで得た犯罪収益の一部を上納させていた実態も明らかになった。捜査幹部は「今後、工藤会は実態がつかみにくい半グレとの関係を強めていくだろう。SNSで実行役を募るなど犯罪の潜在化が進む恐れがあり、強い警戒が必要だ」と話す」と報じています。西日本新聞の核心に迫る記事からは、福岡県警の並々ならぬ覚悟や本気度が感じられます。また、2023年1月26日付毎日新聞では、「福岡県警の捜査関係者は「菊地被告が無罪を主張していた以上、組員は言うことを信じないといけない。今回の判決を『ケジメ』として組員の離脱も進むだろう」と見立てる。…当時配下だった元組員は公判で、菊地被告が2000万円など多額の現金を運ぶこともあり「建設会社からのみかじめ(用心棒代)だと思った」と証言。法廷と別室で音声をつなぐ「ビデオリンク」方式だったが、元組員は「証言することで家族に何かあるのではと思い、怖い。被害者には正直に話したいと思った」とすすり泣いた。福岡県警によると、22年末の県内の工藤会構成員は180人で、うち逮捕・勾留や懲役刑などで6割の約100人が活動していないという。一方、有力2次団体が関東地方で「半グレ」の若者を引き入れ、ヤミ金融など違法な資金獲得活動を繰り返しているとの見方もある。ある捜査関係者は「あくまで通過点。弱体化したとはいえ、工藤会は依然残っている。引き続き警戒しながら、壊滅を目指す」と強調した」と報じています。
上述したとおり、福岡高裁は、工藤会が関わったとされる一般市民襲撃4事件で、殺人と組織犯罪処罰法違反(組織的な殺人未遂)などの罪に問われ、一審福岡地裁で死刑判決を言い渡された同会トップの総裁野村悟被告の控訴審初公判を、9月13日に開くと決めています。無期懲役の判決を受けたナンバー2の会長田上不美夫被告も共に審理予定としています。第2回公判は9月27日に指定されました。4事件は1998年の元漁協組合長射殺(殺人)、2012年の元福岡県警警部銃撃、2013年の看護師襲撃、2014年の歯科医襲撃(いずれも組織犯罪処罰法違反)で、2021年8月の福岡地裁判決は両被告の無罪主張を退け、4事件全てで関与を認定しています。
国家公安委員会は、暴力団対策法に基づき侠道会(広島県尾道市)、太州会(福岡県田川市)、浪川会(福岡県大牟田市)の3団体を指定暴力団に再指定することを確認しています。侠道会と太州会が11回目、浪川会が6回目の指定となります。期間は浪川会が2月28日から、太州会と侠道会が3月4日からそれぞれ3年間で、今後、広島、福岡両県の公安委員会が官報に公示することになります。各団体の構成員は2021年12月末時点で、侠道会が約70人、太州会が約70人、浪川会が約180人となっています。
2022年6月、茨城県ひたちなか市で起きた暴力団幹部ら2人が死亡した発砲事件で、市は、その後、裁判所に申し立てた暴力団事務所の使用禁止を求める仮処分が認められたと発表しています。ひたちなか市北神敷台にある極東会系暴力団の事務所で暴力団幹部ら2人が死亡する発砲事件があり、事件を受けて、ひたちなか市は近隣住民などの安全を守るためとして、水戸地方裁判所にこの暴力団事務所の使用禁止を求める仮処分を申し立てていたものです。裁判所の決定を受けて、ひたちなか市の大谷明市長は「引き続き市民の不安を払拭するため、適切に対応してまいります」とコメントしています。
暴力団離脱者支援・再犯支援に関する記事を紹介します。社長が元暴力団員である福岡県の中溝観光開発の取り組み(以前、本コラムでも動画を紹介しています)が文春オンラインで紹介されていますが、大変考えさせられる内容でもあります。以下、抜粋して引用します。
社長は「殺人と性犯罪以外はだいたいやった」、社員は元暴力団に不良少女… 元受刑者が”更生”する福岡・中洲の風俗ビル管理会社の秘密(2023年1月29日付文春オンライン)
「社長の見た目はブラックだけど会社はホワイト」実の父親に虐待され、母に対しては暴行…女性(18)がたどり着いた”異端”のソープランドのビル管理会社とは(2023年1月29日付文春オンライン)
社長が元暴力団、社員の半数が”訳アリ”、殺人犯も内定…異例の採用を続ける福岡・中洲の会社で”一般社員”が思うこと「同僚に対して怖い感情がなかったと言えば嘘になります。でも…」(2023年1月29日付文春オンライン)
最後にイタリアン・マフィアの記事からいくつか紹介します。
- イタリア警察は、マフィアの最大勢力の一つ「コーザ・ノストラ」のボスで、30年間逃亡していたマッテオ・メッシーナ・デナーロ被告の身柄を拘束しています。検事を含む数々の殺人罪で、欠席裁判によって死刑宣告を受け、指名手配されていたものです。被告は、南部シチリア島を拠点とするコーザ・ノストラを率いて報復爆弾テロなど凶悪事件を首謀し、逃亡中も影響力を維持していたといいます。がんの治療で同島パレルモの医療施設を訪れたところを拘束されたといい、警察は密告ではなく、盗聴などによる地道な捜査の積み重ねで居場所を割り出したとしています。コーザ・ノストラは南部本土拠点のマフィア「ヌドランゲタ」に押され、1990年代以降、衰退の一途にありますが、マフィアが組織入りする際に交わす「血のおきて」は守られ、デナーロ被告は同島で協力者に守られながら、逃亡生活を送っていたといいます。イタリアでは近年、マフィアの摘発が相次ぐ一方、マフィアは新型コロナウイルス禍で生活困窮者に金銭をばらまくなどして、北部にも勢力を拡大しているといいます。
- イタリアでは、陸軍や海軍、空軍と並び、軍の一つとして警察組織(警察軍)が置かれ、「カラビニエリ」と呼ばれていますが、そのカラビニエリがデナーロ容疑者に関連して有していた手がかりは、モンタージュと、短い声の録音だけだったといいます。デナーロ容疑者と関連のある人物や団体の取り締まりを強化し、これまでにデナーロ容疑者の親族を含む100人以上を逮捕、また、1億5千万ユーロ(約208億円)相当の企業を差し押さえの対象にしたといいます。それでも、本人にはたどりつかなかったところ、国外にいた形跡や目撃証言があったものの最後に捕まった場所は地元のシチリア島でした。
- メッシナデナロ容疑者の姿が確認されたのは1993年が最後で、警察はこのイタリア最大のお尋ね者を捜しあぐねていたところ、同容疑者は街中で公然と生活していたといい、地元のスーパーで自ら買い物をしていたといいます。検察は、同容疑者の追跡がいっそう困難になったのは、シチリア島西部における彼の「ファミリー」が同容疑者に対し並外れた強い忠誠心を抱いていたからだと話しています。容疑者の逮捕に至ったきっかけは、親族の電話を盗聴することで、同容疑者ががんを患っていることが分かったことだったといいます。また、逮捕後、同容疑者は「私には行動規範がある」と告げたといいます。過去30年間でかなり廃れてきてはいるが、組織について外部の人間に話さないという、シシリアン・マフィアのおきてのことを指しています。
- イタリア警察は2日、殺人罪で指名手配され、16年間逃亡していた最大勢力のマフィア「ヌドランゲタ」の構成員の身柄を拘束したと発表しています。逃亡先のフランスでピザ職人として第二の人生を送っていたといいます。グレコ被告は、マフィアの抗争が激しかった1991年に起きた2件の殺人罪などで2006年に指名手配されていたものです。同被告は欠席裁判の末、終身刑が確定しています。
- マフィアの土地がオーガニックの畑に イタリアの島で起きた運動(2023年2月11日付毎日新聞)
2.最近のトピックス
(1)各種統計資料から
①警察庁 令和4年の犯罪情勢について【暫定値】
本コラムでも、毎月、犯罪統計資料を確認していますが、全国の警察が2022年に認知した刑法犯が60万1389件(暫定値)で、戦後最少だった前年から5.9%増えて20年ぶりに増加する結果となりました。新型コロナウイルスの感染拡大による外出自粛の意識が薄れ、人流が増えて街頭犯罪が増加したのが一因とみられますが、感染拡大が始まった2020年の61万4231件よりは減少していることから、まだまだ今後の動向を注視する必要があります。刑法犯は、戦後のピークだった2002年の約285万件から2021年まで減少が続いていましたが、2022年は街頭犯罪が20万1619件で、前年から14.4%増加、罪種別の増加率は、ひったくり(31.8%)や自転車盗(20.9%)、傷害(15%)などが高い結果となりました。また、以下の警察庁の報告書によれば、「人流が増えると街頭犯罪が増加する相関関係が確認」されています。また、屋内を含めた性犯罪も増え、増加率は強制性交等(19.3%)や強制わいせつ(9.9%)が高水準となった点も気になるところです。一方、強盗は前年比0.8%増の1148件、殺人は同2.4%減の853件で、ほぼ横ばいとなっています。さらに、国民の治安に対する感覚に変化が見えるデータも紹介されており、「日本の治安はよい(安全で安心して暮らせる)と思うか」の問いに、「そう思う」「まあそう思う」と答えた人は68.6%と、2021年11月の前回調査の75.9%から減少する結果となっています。この10年の日本の治安の変化についての質問では今回、「よくなっている」「どちらかといえばよくなった」が合わせて14.9%で、前回調査より5.9ポイント下がり、「悪くなった」「どちらかといえば悪くなった」が合わせて67.1%で、3.0ポイント上がっており、今回、「悪くなった」と答えた人に、どのような犯罪を思い浮かべたかを、選択肢から複数回答で選んでもらったところ、「無差別殺傷事件」63.5%、「オレオレ詐欺など」62.4%、「児童虐待」55.5%、「サイバー犯罪」54.1%、「暴行・傷害」44.4%の順に多く、前回調査と同じ順番となりました。2022年7月に起きた安倍晋三元首相銃撃事件も影響したと考えられますが、今回の調査は、SNS上の「闇バイト」を通じて実行役を集めたとされる連続強盗事件の発覚前に行われており、国民の体感治安はさらに悪化している可能性が否定できません。
▼警察庁 令和4年の犯罪情勢について【暫定値】
- 刑法犯
- 刑法犯認知件数の総数については、平成15年以降一貫して減少してきたところ、令和4年は60万1,389件3と、戦後最少となった令和3年を上回っており(前年比5.9%増加)、今後の動向について注視すべき状況にある。
- 認知件数の内訳を見ると、総数に占める割合が大きい街頭犯罪が20万1,619件と、前年比で14.4%増加しており、その中でも、罪種別で増加件数が多い自転車盗、傷害及び暴行については、新型コロナウイルス感染症の感染状況の変化等による人流の増加が一定程度影響したとみられる。
- また、国民の体感治安に影響するとみられる重要犯罪の認知件数について、令和4年は9,536件と、前年比で8.1%増加した。その内訳を見ると、殺人及び強盗は前年からほぼ横ばいである一方、強制性交等及び強制わいせつがいずれも2年連続の増加となった。
- なお、強制性交等は、平成29年の刑法の一部改正以降で最多となった。
- 特殊詐欺
- 特殊詐欺については、事件の背後にいる暴力団、準暴力団等の犯罪者グループ等が、その組織力を背景に、資金の供給、実行犯の周旋、犯行ツールの提供等を行い、犯行の分業化と匿名化を図った上で、組織的に敢行している実態にあり、令和4年の認知件数は1万7,520件と2年連続で増加し、被害総額は約361億円と8年ぶりに前年比増加となり、深刻な情勢が続いている(それぞれ前年比で20.8%、28.2%増加)。認知件数を犯行手口別に見ると、令和3年に急増した還付金詐欺が全体の26.7%を占める一方で、オレオレ詐欺や架空料金請求詐欺の占める割合に増加がみられる。被害者は高齢女性が多くを占め、被害の大半は犯人からの電話を受けることに端を発している。
- また、特殊詐欺事件の背後においては、犯罪者グループ等や特殊詐欺の実行犯に対して、預貯金口座、携帯電話、電話転送サービス等の提供を行ったり、電子マネー利用番号等の転売、買取等を行ったりしている悪質な事業者の存在が依然として認められる。
- サイバー事案
- 近年、サイバー空間が社会経済活動を営む重要かつ公共性の高い場へと変貌を遂げつつある中、国内外で様々なサイバー事案が発生していることなどを踏まえると、サイバー空間における脅威は極めて深刻な情勢が続いている。特にランサムウエアと呼ばれる不正プログラムによる被害の深刻化や手口の悪質化が世界的に問題となっている。令和4年中に警察庁に報告されたランサムウエアによる被害件数は230件と、前年比で57.5%増加し、VPN機器やリモートデスクトップ等のテレワークにも利用される機器等のぜい弱性を狙われたケースが大半を占めている。その被害は企業・団体等の規模やその業種を問わず広範に及んでおり、一時的に業務停止に陥る事態も発生している。
- また、インターネットバンキングに係る不正送金事犯について、令和4年は発生件数が1,131件、被害総額は約15億円と、いずれも3年ぶりに前年比増加となった(それぞれ前年比で93.7%、86.0%増加)。その被害の多くがフィッシングによるものとみられており、金融機関を装ったフィッシングサイト(偽のログインサイト)へ誘導する電子メールが多数確認されている。
- さらに、サイバー攻撃については、北朝鮮当局の下部組織とされるサイバー攻撃グループによる暗号資産関連事業者等を標的としたものや、学術関係者、シンクタンク研究員等を標的としたものが確認された。令和4年中に警察庁が検知したサイバー空間における探索行為等とみられるアクセスの件数は、1日・1IPアドレス当たり7707.9件と過去最多に上っており、その多くがIoT機器に対するサイバー攻撃やぜい弱性を有するIoT機器の探索行為であるとみられる。
- 人身安全関連事案
- 人身安全関連事案のうち、ストーカー事案の相談等件数は平成30年以降減少傾向にあるものの、依然として高い水準で推移している一方で、配偶者からの暴力事案等の相談等件数は増加傾向にあり、令和4年は8万4,493件と、配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律(平成13年法律第31号)の施行以降で最多となった。
- また、児童虐待については、児童虐待又はその疑いがあるとして警察から児童相談所に通告した児童数は年々増加しており、令和4年は11万5,730人と、過去最多となった。その態様別では、心理的虐待が8万4,951人と全体の73.4%を占めている。
- これらを踏まえると、人身安全関連事案については、引き続き注視すべき情勢にある。
- 体感治安
- 前項までに述べたような指標からは捉えられない国民の治安に関する認識を把握するため、令和4年10月、警察庁において「治安に関するアンケート調査」を実施したところ、日本の治安について「よいと思う」旨回答した方は、全体の68.6%を占めた。
- その一方で、ここ10年間での日本の治安に関し、「悪くなったと思う」旨回答した方は全体の67.1%を占め、その要因として想起する犯罪については、「無差別殺傷事件」、「オレオレ詐欺等の詐欺」、「児童虐待」及び「サイバー犯罪」が多く挙げられており、先に述べたような犯罪の情勢が、国民の体感治安に相当程度の影響を及ぼしているものとみられる。
- 犯罪情勢の総括
- 平成14年をピークに減少を続けてきた刑法犯認知件数が20年ぶりに前年比増加となり、その内訳を見ると、街頭犯罪及び重要犯罪が共に増加しており、今後の動向について注視すべき状況にある。
- 特殊詐欺については、認知件数、被害額が共に前年より増加するなど、深刻な情勢が続いており、サイバー事案については、ランサムウエアによる被害が広範に及んでいるほか、国家を背景に持つ集団によるサイバー攻撃も確認されているなど、極めて深刻な情勢が続いている。
- 人身安全関連事案については、児童虐待又はその疑いがあるとして警察から児童相談所に通告した児童数が過去最多に上るなど、注視すべき状況にある。
- 加えて、令和4年7月には、街頭演説中の安倍晋三元内閣総理大臣が銃撃を受け殺害されるという、国民に不安を与えるような重大事件が発生した。また、一般住宅等において多額の現金や貴金属等が強取される強盗等事件が連続して発生し、現在捜査中のところ、検挙された実行犯はSNS上の「闇バイト」に応募して犯行に加担したものとみられる。
- このような情勢の中、前記アンケート調査から、「日本の治安が近年悪化した」旨の声が国民の間に相当数存在していることが分かった。
- 以上を踏まえれば、我が国の犯罪情勢は厳しい状況にあると認められる。
- 今後の取組
- 国民の安全・安心を確保するため、警察としては、上記において述べた犯罪情勢を的確に踏まえ、効果的な対策を推進する。
- すなわち、街頭犯罪をはじめとする国民に不安を与える身近な犯罪の抑止に向け、地域社会や関係機関・団体等との連携の下、被害の未然防止や犯罪の発生時の的確な対応を支えるインフラとしての防犯カメラの活用や、地域社会の安全・安心を支える防犯ボランティア活動の活性化等を図るための取組を推進するとともに、性犯罪に関しては、被害申告・相談しやすい環境の整備や、被害者の心情に配意した適切な捜査を推進する。
- 特殊詐欺については、自動通話録音、警告音声、迷惑電話番号からの着信拒否等の機能を有する機器の高齢者宅への設置促進を行うなど、犯人からの電話を直接受けないための対策を強力に推進する。また、犯罪者グループ等の弱体化・壊滅に向けて、部門の垣根を越えた関連情報の収集・分析により、その実態解明をより一層強化するとともに、あらゆる法令を駆使した首魁等の検挙、資金の遮断・剥奪等により、その人的・資金的基盤に実質的な打撃を与える取締りを一層推進するほか、電話転送サービスに係る悪質な電気通信事業者等、犯行ツールに係る悪質な事業者について、情報収集を強化し、あらゆる法令を駆使してその取締りを推進する。
- サイバー事案については、令和4年4月に新設した警察庁サイバー警察局及び関東管区警察局サイバー特別捜査隊が中心となり、被害が深刻化するランサムウエア等の脅威に対して、警察庁と都道府県警察とが一体となった捜査、実態解明等に取り組み、外国捜査機関等と連携した対処等を推進するとともに、脅威の深刻化に対応するための捜査・解析能力の高度化や事業者等と連携した被害防止対策を強力に推進する。
- 人身安全関連事案については、被害が潜在化しやすく、事態が急展開するおそれが大きいという特徴を踏まえ、関係機関と緊密に連携しつつ、被害者等の安全の確保を最優先に、関係法令を駆使した加害者の検挙等による加害行為の防止や被害者等の保護措置等の取組を推進する。
- これらの犯罪への対応を含め、今後、日本社会が大きく変容する中でも、警察が様々な課題に的確に対処できるよう、所属・部門を超えた連携の在り方や資源配分の見直しを進めるなど柔軟な組織運営を図るとともに、警察活動の効率化・高度化を図り、警察機能を最大限に発揮できる組織を確立し、国民の期待と信頼に応えていく。
- トピックス
- 令和4年における刑法犯認知件数は60万1,389件で、戦後最少であった令和3年(56万8,104件)を上回っており、今後の動向を注視すべき状況にある。
- 令和4年における人口千人当たりの刑法犯の認知件数は4.8件となり、令和3年(年間4.5件)を上回った。
- 令和4年における街頭犯罪の認知件数は20万1,619件となり、前年比で14.4%増加した。一方、侵入犯罪の認知件数は4万6,416件となり、前年比で1.9%減少した。
- 令和4年の街頭犯罪の認知件数を罪種別に見ると、特に増加件数が多いのは、自転車盗、傷害及び暴行であった。
- 令和4年における重要犯罪の認知件数は9,536件と、前年比で8.1%増加した。罪種別では、強制性交等及び強制わいせつがいずれも2年連続で前年比増加となった(それぞれ前年比19.3%、9.9%増加)。なお、強制性交等については、平成29年の刑法の一部改正以降で最多となっている。
- 令和4年における刑法犯検挙件数は25万381件、検挙人員は16万9,464人で、共に前年(26万4,485件、17万5,041人)を下回った(それぞれ前年比で5.3%、3.2%減少)。少年の検挙人員は1万4,903人で、検挙人員全体の8.8%となった。
- 令和4年における刑法犯の検挙率は、前年(46.6%)より5.0ポイント下落し、41.6%となった。
- 令和4年における特殊詐欺の認知件数は17,520件であり、2年連続で前年比増加となった(前年比20.8%増)。また、特殊詐欺の被害額は361.4億円であり、8年ぶりに前年比増加となった(前年比28.2%増)。
- 特殊詐欺の認知件数の手口別の構成比を見ると、令和3年に急増した還付金詐欺が全体の26.7%を占める一方で、オレオレ詐欺や架空料金請求詐欺の占める割合に増加がみられる。
- 令和4年における特殊詐欺の検挙件数は6,629件、検挙人員は2,469人で、共に前年(6,600件、2,374人)を上回った(それぞれ前年比で0.4%、4.0%増加)。
- 企業・団体等におけるランサムウエア被害として、令和4年に都道府県警察から警察庁に報告のあった件数は230件と、前年比で57.5%増加しており、企業・団体等の規模を問わず、被害が発生している。
- 令和4年におけるインターネットバンキングに係る不正送金事犯の発生件数は1,131件、被害額は15億2,500万円であり、いずれも3年ぶりの前年比増加となった(それぞれ前年比で93.7%、86.0%増加)。これら被害の多くは、インターネットバンキングの利用に係るパスワード等がフィッシングにより窃取されたことによるものとみられる。
- 令和4年に警察庁が検知したサイバー空間における探索行為等とみられるアクセス件数は、1日・1IPアドレス当たり7,707.9件と、過去最多となっている。
- 検知したアクセスの宛先ポートに着目すると、ポート番号1024以上(注)のポートへのアクセスが大部分を占めており、これらのアクセスの多くが、IoT機器に対するサイバー攻撃やぜい弱性を有するIoT機器の探索行為であるとみられる。(注)ポート番号1024番以上は、主としてIoT機器が標準設定で使用するもの。
- 警察法の一部を改正する法律(令和4年法律第6号)施行後の令和4年4月から同年12月までのサイバー事案の検挙件数は、1,735件であった。
- 令和4年における不正アクセス禁止法違反及びコンピューター・電磁的記録対象犯罪の検挙件数は、それぞれ522件、913件であり、いずれも前年より増加した(それぞれ前年比21.7%、25.2%増加)。
- 令和4年におけるSNSに起因して犯罪被害に遭った児童の数は1,733人と、前年比で4.4%減少したものの、依然として高い水準で推移している。
- 令和4年におけるストーカー事案の相談等件数は1万9,129件と、前年比で3.0%減少したものの、依然として高い水準で推移している。
- 令和4年におけるストーカー事案の検挙件数について、ストーカー規制法違反検挙、刑法犯等検挙はそれぞれ1,025件、1,639件であり(それぞれ前年比9.4%、3.7%増加)、依然として高い水準で推移している。
- 配偶者からの暴力事案等の相談等件数は、一貫して増加し続けており、令和4年は8万4,493件と、前年比で1.7%増加し、配偶者暴力防止法の施行以降で最多となった。
- 令和4年における配偶者からの暴力事案等の検挙件数は8,582件と、前年比で1.4%減少したものの、依然として高い水準で推移している。
- 児童虐待又はその疑いがあるとして警察から児童相談所に通告した児童数は年々増加しており、令和4年は11万5,730人と、前年比で7.1%増加し、過去最多となった。態様別では、心理的虐待が8万4,951人と全体の73.4%を占めている。
- 令和4年における児童虐待事件の検挙件数は2,171件と、前年からほぼ横ばいであり、依然として高い水準で推移している。態様別では、身体的虐待が1,716件と全体の79.0%を占めている。
- 日本の治安がよいと思うかとの問いに対して、「そう思う」又は「まあそう思う」との回答は、全体の68.6%を占めた。一方で、ここ10年間で日本の治安がよくなったか否かとの問いに対して、「悪くなったと思う」又は「どちらかといえば悪くなったと思う」との回答が全体の67.1%を占めており、その要因として想起した犯罪は、「無差別殺傷事件」(63.5%)が最も多く、次いで、「オレオレ詐欺などの詐欺」(62.4%)、「児童虐待」(55.5%)及び「サイバー犯罪」(54.1%)が5割を超えている。
②警察庁 特殊詐欺認知・検挙状況等(令和4年・暫定値)について
本コラムでも、毎月、特殊詐欺の状況について確認していますが、2022年に全国で発生した特殊詐欺の被害額は前年比28.2%増の361.4億円(暫定値)で、8年ぶりに増加する結果となりました。認知件数は同20.8%増の1万7520件で、2年連続の増加となりました。本コラムでたびたび指摘してきたとおり、コロナ禍で減っていた人流が回復し、被害者宅などを訪れる詐欺グループ側が人目につかずに行動しやすくなった可能性があります。一方、全体の検挙件数は前年比0.4%増の6629件で、検挙者は同4%増の2469人で、検挙者のうち、首謀者やグループリーダーは前年比5人増の48人となりました。「オレオレ詐欺」と「還付金詐欺」の増加が著しい中、還付金詐欺については、被害件数が4679件、被害額が約53億円で、いずれも過去最悪となりました。特徴は、65歳未満の被害者が15%おり、98%が65歳以上のオレオレ詐欺などと比べ、被害者の年齢層が低いことにあります。金融機関の多くが65歳以上のATMでの送金を制限する対策を講じている影響があるとみられています。なお、特殊詐欺の被害がなくならない要因の一つに、指示役を逮捕するハードルの高さがあげられます。2022年の特殊詐欺事件の検挙件数は6629件(前年比29件増)で、容疑者数は2469人(同95人増)に上りましたが、75%はSNSの「闇バイト」で募集されるなどした現金受け取り役(受け子)や現金引き出し役(出し子)で、主犯格は2%にとどまっています。摘発逃れのため、海外に拠点を置く詐欺グループも増えている点は冒頭でも紹介したとおりです。
▼警察庁 特殊詐欺認知・検挙状況等(令和4年・暫定値)について(広報資料)
- 特殊詐欺の認知状況
- 令和4年の特殊詐欺の認知件数(以下「総認知件数」という。)は17,520件(+3,022件、+20.8%)、被害額は361.4億円(+79.4億円、+28.2%)と、前年に比べて総認知件数及び被害額はともに増加。被害額は8年ぶりに増加に転じた。
- 被害は大都市圏に集中しており、東京の認知件数は3,217件(▲102件)、神奈川2,089件(+628件)、大阪2,059件(+521件)、千葉1,457件(+354件)、埼玉1,386件(+304件)、兵庫1,074件(+215件)及び愛知977件(+103件)で、総認知件数に占めるこれら7都府県の合計認知件数の割合は70.0%(-0.6ポイント)。
- 1日当たりの被害額は約9,901万円(+約2,176万円)。
- 既遂1件当たりの被害額は213.7万円(+11.7万円、+5.8%)。
- オレオレ詐欺、預貯金詐欺及びキャッシュカード詐欺盗(以下3類型を合わせて「オレオレ型特殊詐欺」と総称する。)の認知件数は9,691件(+1,573件、+19.4%)、被害額は197.9億円(+37.2億円、+23.2%)で、総認知件数に占める割合は55.3%(▲0.7ポイント)。
- オレオレ詐欺は、認知件数4,278件(+1,193件、+38.7%)、被害額127.1億円(+36.5億円、+40.3%)と、いずれも増加し、総認知件数に占める割合は24.4%(+3.1ポイント)。
- 預貯金詐欺は、認知件数2,362件(▲69件、▲2.8%)、被害額27.5億円(▲3.1億円、▲10.2%)と、いずれも減少し、総認知件数に占める割合は13.5%(▲3.3ポイント)。
- キャッシュカード詐欺盗は、認知件数3,051件(+449件、+17.3%)、被害額43.3億円(+3.8億円、+9.7%)と、いずれも増加し、総認知件数に占める割合は17.4%(▲0.5ポイント)。
- 架空料金請求詐欺は、認知件数2,893件(+776件、+36.7%)、被害額100.5億円(+32.4億円、+47.6%)と、いずれも増加し、総認知件数に占める割合は16.5%(+1.9ポイント)。
- 還付金詐欺は、認知件数4,679件(+675件、+16.9%)、被害額53.7億円(+8.5億円、+18.9%)と、いずれも増加し、総認知件数に占める割合は26.7%(▲0.9ポイント)。
- 現金手交型の認知件数は3,978件(+1,185件、+42.4%)、被害額は128.4億円(+34.0億円、+36.0%)と、いずれも増加。
- キャッシュカード手交型の認知件数は2,650件(▲48件、▲1.8%)、被害額は36.7億円(▲3.1億円、▲7.8%)と、いずれも減少。キャッシュカード窃取型の認知件数は3,051件(+449件、+17.3%)、被害額は43.3億円(+3.8億円、+9.7%)と、いずれも増加。両交付形態を合わせた認知件数の総認知件数に占める割合は32.5%。
- 被害者と直接対面して犯行に及ぶ現金手交型、キャッシュカード手交型及びキャッシュカード窃取型を合わせた認知件数の総認知件数に占める割合は55.2%(▲0.6ポイント)。
- 振込型の認知件数は6,065件(+970件、+19.0%)、被害額は105.5億円(+26.4億円、+33.4%)と、いずれも増加し、総認知件数に占める割合は34.6%(▲0.5ポイント)。
- 現金送付型の認知件数は315件(+126件、+66.7%)、被害額は38.0億円(+17.6億円、+86.0%)と、いずれも増加。
- 電子マネー型の認知件数は1,397件(+301件、+27.5%)、被害額は8.9億円(+0.5億円、+5.5%)と、いずれも増加。
- 高齢者(65歳以上)被害の認知件数は15,065件(+2,341件、+18.4%)で、法人被害を除いた総認知件数に占める割合は86.6%(▲1.6ポイント)。
- 65歳以上の高齢女性の被害認知件数は11,517件で、法人被害を除いた総認知件数に占める割合は66.2%(▲2.5ポイント)。
- 被害者を欺罔する手段として犯行の最初に用いられたツールは、電話が87.3%、電子メールが7.9%、はがき・封書等は0.03%と、電話による欺罔が9割近くを占めている。
- 主な手口別では、オレオレ型特殊詐欺及び還付金詐欺は、約99%が電話。架空料金請求詐欺は、電子メールが約46%、電話が約30%。
- 警察が把握した、特殊詐欺の被疑者が電話の相手方に対し、住所や氏名、資産、利用金融機関等を探るなど特殊詐欺が疑われる電話(予兆電話)の件数は120,701件(+20,186件、+20.1%)で、月平均は10,058件(+1,682件、+20.1%)と増加。都道府県別では、東京が35,192件と最も多く、次いで埼玉12,175件、千葉11,128件、大阪10,249件、神奈川8,526件、愛知7,220件、兵庫3,718件の順となっており、予兆電話の総件数に占めるこれら7都府県の合計件数の割合は73.1%。
- 特殊詐欺の検挙状況
- 令和4年の特殊詐欺の検挙件数は6,629件(+29件、+0.4%)、検挙人員(以下「総検挙人員」という。)は2,469人(+95人、+4.0%)と増加。
- 手口別では、オレオレ詐欺の検挙件数は1,771件(+311件、+21.3%)、検挙人員は974人(+192人、+24.6%)と、いずれも増加。還付金詐欺の検挙件数は1,070件(+323件、+43.2%)、検挙人員は191人(+80人、+72.1%)といずれも増加。
- 検挙人員のうち、中枢被疑者※は48人(+5人)で、総検挙人員の1.9%。※犯行グループの中枢にいる主犯被疑者(グループリーダー及び首謀者等)をいう。
- 被害者方付近に現れた受け子や出し子、それらの見張り役は1,926人(+54人、+2.9%)で、総検挙人員の78.0%。
- このほか、預貯金口座や携帯電話の不正な売買等の特殊詐欺を助長する犯罪を、3,764件(+371件)、2,774人(+244人)検挙。
- 暴力団構成員等※の検挙人員は380人(+57人、+17.6%)で、総検挙人員に占める割合は15.4%。※暴力団構成員及び準構成員その他の周辺者の総称。
- 暴力団構成員等の検挙人員のうち、中枢被疑者は16人(▲1人、▲5.9%)であり、出し子・受け子等の指示役は12人(▲9人、▲42.9%)、リクルーターは66人(+4人、+6.5%)であるなど、依然として暴力団構成員等が主導的な立場で特殊詐欺に深く関与している実態がうかがわれる。
- このほか、現金回収・運搬役としては39人(+6人、+18.2%)、道具調達役としては9人(+1人、+12.5%)を検挙。
- 少年の検挙人員は477人(+44人)で、総検挙人員に占める割合は19.3%。少年の検挙人員の73.2%が受け子(349人)で、受け子の総検挙人員(1,621人)に占める割合は21.5%と、受け子の5人に1人が少年。
- 外国人の検挙人員は144人(+27人)で、総検挙人員に占める割合は5.8%。外国人の検挙人員の57.6%が受け子で、20.1%が出し子。国籍別では、中国76人(52.8%)、ベトナム21人(14.6%)、フィリピン15人(10.4%)、韓国14人(9.7%)、ブラジル6人(4.2%)、北朝鮮3人(2.1%)。
- 東京都をはじめ大都市圏に設けられた架け場等(犯行グループが欺罔電話をかけたり、出し子・受け子らグループのメンバーに指示を出したりする場所等)20箇所を摘発(▲3箇所)。
- 主な検挙事件
- 令和4年6月までに、移動する車両の中からオレオレ詐欺の欺罔の電話を架けていた特殊詐欺グループを特定、犯行中の車両を急襲して架け子2名を詐欺罪で逮捕するとともに、その後の捜査で共犯被疑者3名を同じく詐欺罪で逮捕した(埼玉)。
- 令和4年6月までに、警察官をかたって被害者からキャッシュカードを詐取したり隙を見て盗んだりする預貯金詐欺及びキャッシュカード詐欺盗の電話を、それぞれの自宅等から架けていた架け子被疑者や、これら被疑者の面接や犯行の報酬の振り込みを担っていた被疑者等16名を詐欺罪で逮捕した(警視庁)。
- 令和4年8月までに、預貯金詐欺の受け子被疑者を順次割り出し逮捕するとともに、架け場等を摘発するなどの突き上げ捜査を徹底し、特殊詐欺グループの中枢被疑者を含む16名を詐欺罪で逮捕した(岡山、福井)。
- 令和4年10月までに、架空料金請求詐欺で被害者からだまし取った電子マネーの利用権を電子マネーの売買等を仲介するサイトを通じて販売させ、販売代金を振込入金させた事業者の代表等4名を、組織的犯罪処罰法違反(犯罪収益等隠匿)で逮捕した(警視庁、熊本)。
- 令和4年10月までに、オレオレ詐欺で逮捕した受け子への捜査から被疑者を順次割り出し逮捕するなどの突き上げ捜査を徹底し、受け子の管理役である道仁会傘下組織組員等9名を詐欺罪で逮捕した(熊本、群馬、新潟、北海道、長野)。
- 特殊詐欺予防に向けた取組
- 金融機関等と連携した声掛けの取組を推進した結果、金融機関職員等の声掛けにより、18,730件(+3,724件)、約80.1億円(+22.7億円)の被害を阻止(阻止率(※)52.6%)。金融機関の窓口において高齢者が高額の払戻しを認知した際には警察に通報するよう促すなど、金融機関との連携を強化。※阻止件数を認知件数(既遂)と阻止件数の和で除した割合
- 還付金詐欺への対策として、金融機関に対し、例えば、一定年数以上ATMでの振り込みのない高齢者口座にかかるATM振込限度額をゼロ円(又は少額)とし、窓口に誘導して声掛け等を行うようにするなどの働き掛けを推進(令和4年12月末現在、47都道府県、409金融機関)。また、金融機関と連携しつつ、還付金詐欺の手口に注目した「ストップ!ATMでの携帯電話」運動を全国で実施。
- キャッシュカード手交型とキャッシュカード窃取型への対策として、警察官や金融機関職員等を名のりキャッシュカードを預かる又はすり替えるなど具体的な手口の積極的な広報を推進。また、金融機関に預貯金口座のモニタリングの強化や、高齢者口座のATM引出限度額を少額とするよう働き掛ける取組を推進(令和4年12月末現在、41都道府県、248金融機関)。
- 電子マネー型への対策として、コンビニエンスストア、電子マネー発行会社等と連携し、高額の電子マネーを購入しようとする客への声掛け、購入した電子マネーのカード等を入れる封筒への注意を促す文言の記載、発行や申込みを行う端末機の画面での注意喚起等を推進。
- 現金送付型への対策として、宅配事業者に対し、過去に犯行に使用された被害金送付先のリストを提供し、これを活用した不審な宅配の発見や警察への通報等を要請する取組のほか、コンビニエンスストアに対し、高齢者からの宅配便の荷受け時の声掛け・確認等の推進を要請。
- SNSを利用した受け子等の募集の有害情報への対策として、特殊詐欺に加担しないよう呼び掛ける注意喚起の投稿や、受け子等を募集していると認められる投稿に対して、返信機能(リプライ)を活用した警告等を実施(令和4年12月末現在、16都道府県)。
- 犯行ツール対策
- 主要な電気通信事業者に対し、犯行に利用された固定電話番号等の利用停止及び新たな固定電話番号の提供拒否を要請する取組を推進。令和4年中は固定電話番号3,376件、050IP電話番号2,075件が利用停止され、新たな固定電話番号等の提供拒否要請を3件実施。
- 犯行に利用された固定電話番号を提供した電話転送サービス事業者に対する犯罪収益移転防止法に基づく報告徴収を4件、総務省に対する意見陳述を4件実施。この意見陳述を受けて、令和4年中、総務大臣から電話転送サービス事業者に対して是正命令を3件発出。
- 犯行に利用された携帯電話(仮想移動体通信事業者(MVNO※)が提供する携帯電話を含む。)について、携帯電話事業者に対して役務提供拒否に係る情報提供を推進(6,083件の情報提供を実施)。※ Mobile Virtual Network Operatorの略。自ら無線局を開設・運用せずに移動通信サービスを提供する電気通信事業者。
- 犯行に利用された電話番号に対して、繰り返し電話して警告メッセージを流すことで、その番号の電話を事実上使用できなくする「警告電話事業」を推進。
- 悪質な電話転送サービス事業者の取締り
- 特殊詐欺事件の背後には、特殊詐欺の犯行に利用されることを認識しながら、その実行犯に対して電話転送サービスを提供する悪質な事業者の存在が依然として認められている。
- こうした事業者は、複数の事業者に再販売を繰り返して、最終的に犯行グループに提供することで、自らは犯行に関与していないよう偽装するなど、非常に巧妙な手口で犯行に加担している。
- 警察では、令和4年12月までに、犯行グループに対して多数の電話の転送サービスを提供していた電話転送サービス事業の経営者ら13名を詐欺幇助で逮捕(岐阜・警視庁)するなど、悪質な電話転送サービス事業者の取締りを進めている。
(2)AML/CFTを巡る動向
2021年8月のFATFによる第4次対日相互審査結果を受けた、令和4年資金決済法等改正及びFATF勧告対応法に係る犯罪収益移転防止法関連の政令・施行規則案等を公表しています。
▼金融庁 犯罪による収益の移転防止に関する法律施行令の一部を改正する政令案等の公表について
- 金融庁では、令和4年資金決済法等改正及びFATF勧告対応法に係る犯罪収益移転防止法関連の政令・施行規則案等を以下のとおり取りまとめましたので、公表します。
- 改正の概要
- 以下の2つの改正法における犯罪による収益の移転防止に関する法律(平成19年法律第22号。以下「犯罪収益移転防止法」という。)の改正について、関連する政令・施行規則等の規定の整備を行うものです。
- 「安定的かつ効率的な資金決済制度の構築を図るための資金決済に関する法律等の一部を改正する法律」(令和4年6月10日法律第61号。公布の日から起算して1年を超えない範囲内において政令で定める日から施行。以下「改正資金決済法」という。)
- 「国際的な不正資金等の移動等に対処するための国際連合安全保障理事会決議第千二百六十七号等を踏まえ我が国が実施する国際テロリストの財産の凍結等に関する特別措置法等の一部を改正する法律」(令和4年12月9日法律第97号。公布の日から起算して9月を超えない範囲内において政令で定める日から施行。以下「FATF勧告対応法」という。)
- 以下の2つの改正法における犯罪による収益の移転防止に関する法律(平成19年法律第22号。以下「犯罪収益移転防止法」という。)の改正について、関連する政令・施行規則等の規定の整備を行うものです。
- 主な改正等の内容は以下のとおりです。
- 改正資金決済法の施行に伴う犯罪による収益の移転防止に関する法律施行令の一部改正
- 高額電子移転可能型前払式支払手段発行者、電子決済手段等取引業者等が犯罪収益移転防止法上の特定事業者に追加されたことに伴い、これらの特定事業者の業務のうち、取引記録等の作成・保存義務等の対象となる業務(特定業務)及び取引時確認義務等の対象となる取引(特定取引)の要件を定める。
- 電子決済手段の移転に係る通知義務(トラベルルール)の対象から除外する国又は地域の要件を定める。
- その他、所要の規定の整備を行う。
- FATF勧告対応法の施行に伴う犯罪による収益の移転防止に関する法律施行令の一部改正
- 暗号資産の移転に係る通知義務(トラベルルール)の対象から除外する国又は地域の要件を定める。
- その他、所要の規定の整備を行う。
- 改正資金決済法及びFATF勧告対応法の施行等に伴う犯罪による収益の移転防止に関する法律施行規則の一部改正
- 高額電子移転可能型前払式支払手段発行者、電子決済手段等取引業者等が犯罪収益移転防止法上の特定事業者に追加されたことに伴い、これらの特定事業者による取引時確認の方法や電子決済手段の換算基準を定める等の規定の整備を行う。
- 外国為替取引に係る通知義務に基づく通知事項に、支払の相手方に係る事項を追加したことに伴う規定の整備を行う。
- 電子決済手段及び暗号資産の移転に係る通知義務(トラベルルール)に基づく通知事項を定める。
- 電子決済手段等取引業者及び暗号資産交換業者がアンホステッド・ウォレット等と取引を行う際の取引時確認等を的確に行うために講ずるべき措置について定める。
- 電子決済手段等取引業者及び暗号資産交換業者が移転に係る提携契約を締結する際の確認義務に基づく契約相手のマネロン対策状況の確認方法・基準について定める。
- その他、FATF第4次対日相互審査報告書を踏まえた所要の規定の整備等を行う。
- 犯罪による収益の移転防止に関する法律施行令第十七条の二及び第十七条の三の規定に基づき国又は地域を指定する件の制定
- 上記(1)2.及び(2)1.について、犯罪収益移転防止法第10条の3及び第10条の5の規定に相当する外国の法令の規定による通知の義務が定められていない国又は地域を指定する。
- 事務ガイドライン(第三分冊:金融会社関係)の一部改正等
- 高額電子移転可能型前払式支払手段発行者、電子決済手段等取引業者が犯罪収益移転防止法上の特定事業者に追加されたことに伴い、これらの特定事業者による取引時確認等の措置を含む所要の規定の整備等を行う。
- トラベルルール、アンホステッド・ウォレット等との取引のリスクに応じた態勢整備義務等に関する所要の規定の整備等を行う。
- 犯罪収益移転防止法に関する留意事項の一部改正
- 金融庁所管の金融機関等が、取引時確認において「取引を行う目的」を確認する際の参考とすべき「類型」に「信託の受託者としての取引」を追加する。
- 改正資金決済法の施行に伴う犯罪による収益の移転防止に関する法律施行令の一部改正
また、AML/CFTの中核実務といえる「取引モニタリング」「取引フィルタリング」の高度化・実効性を確保するために、複数の金融機関で利用可能なAI等の技術を活用したシステム(共同システム)を構築する事業を推進していくための公募がなされています。
▼金融庁 「マネー・ローンダリング等対策高度化推進事業」の公募について
▼実施要領
- 金融のデジタル化の進展やマネー・ローンダリング・テロ資金供与・拡散金融の手口の巧妙化等を踏まえ、国際的にも金融活動作業部会(FATF)において、より高い水準での対応が求められており、金融機関におけるマネー・ローンダリング・テロ資金供与・拡散金融対策(以下「マネロン対策等」という。)の実効性向上は、喫緊の課題となっている。
- こうした中、金融機関のマネロン対策等の中核業務である「取引モニタリング」「取引フィルタリング」については、各金融機関においてシステムを導入し対応しているものの、誤検知が多く、中小規模の金融機関を中心に対応に苦慮している。
- この点については、2020年に国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の「規制の精緻化に向けたデジタル技術の開発事業」として、AIモデルを活用した取引モニタリング・取引フィルタリングの共同システムの開発に係る実証実験が行われ、一定の有効性が示された。
- また、2022年の通常国会で資金決済に関する法律等の一部を改正する法律案が可決・成立し、複数の金融機関等からの委託を受け、為替取引に関し、取引のモニタリング等を行う「為替取引分析業」について許可制を導入し、監督当局の直接の検査・監督等を通じ、業務運営の質を確保することとされたところ。
- こうした背景を踏まえ、補助事業により、為替取引分析業の許可を取得予定で補助金の交付を受けようとする事業者(以下「補助事業者」という。)における、複数の金融機関で利用可能なAI等の技術を活用したシステム(以下「共同システム」という。)の開発・実装を支援することにより、我が国金融業界全体のマネロン対策等の高度化・実効性の向上を適切かつ迅速に推進させることを目的とするものである。
- 補助対象経費(共同システムの構築経費)
- 金融機関等のマネロン対策等において中核業務である「取引モニタリング」・「取引フィルタリング」について、複数の金融機関が共同利用することが可能で、かつ、AI等の技術を活用した高度な分析を行う共同システムに係る構築経費は、以下の通り。
- AI等の技術を活用した取引モニタリング機能
- 十分な金融機関のデータを用いて生成し、複数の金融機関にて利用可能なAI等の技術を用いた取引モニタリング機能の開発経費
- AI等の技術を活用した取引フィルタリング機能
- 十分な金融機関のデータを用いて生成し、複数の金融機関にて利用可能なAI等の技術を用いた取引フィルタリング機能の開発経費
- AI等監視機能(AI等の技術に特有のリスクを監視する機能)
- AI等の特有のリスクやAI等が正しく機能していることを評価するための監視機能の開発経費
- 共同システム基盤(共同システムを効果的に運用するための基盤)
- 複数の金融機関が、取引モニタリング機能及び取引フィルタリング機能を共同利用するためのシステム基盤の構築経費
- AI等の技術を活用した取引モニタリング機能
- 金融機関等のマネロン対策等において中核業務である「取引モニタリング」・「取引フィルタリング」について、複数の金融機関が共同利用することが可能で、かつ、AI等の技術を活用した高度な分析を行う共同システムに係る構築経費は、以下の通り。
2022年12月に業界団体との意見交換会において金融庁から提起された主な論点が公表されています。今回は主要行等と日本損害保険協会との会合から、AML/CFTと北朝鮮リスクを中心に、本コラムで取り上げている分野に関する部分を紹介します。
▼金融庁 業界団体との意見交換会において金融庁が提起した主な論点
▼主要行等
- マネロン対策等に係る令和4年度一般会計補正予算及びマネロンシステムの共同化について
- 2022年10月28日に総合経済対策が閣議決定され、臨時国会で令和4年度補正予算が成立した。
- マネロン対策については、金融機関におけるマネロン対策等の更なる高度化・効率化等に関する施策として、
- 「AIを活用したマネー・ローンダリング対策高度化推進事業」
- 「継続的顧客管理に係る利用者の理解向上に必要な経費」
に係る予算を確保しており、業界からの意見を踏まえながら、国として有効的に執行していきたい。
- 特に、「AIを活用したマネー・ローンダリング対策高度化推進事業」は、我が国金融機関の取引モニタリングや取引フィルタリング等の高度化を後押しするため、為替取引分析業者が共同システムを構築するにあたり、国庫補助を行うもの。
- FATF第4次審査では取引モニタリング等の高度化・効率化が必要と指摘されており、第5次審査に向けてこれを確実に実現することは我が国金融業界にとって極めて重要である。現在、協会において、マネロンシステムの共同化に向けた株式会社の設立準備を行っていると承知。
- 金融庁としては本取組みに高く期待しているところ、各行においては、持続可能な対策を講じるという中長期的な視野に立って、自行のマネロン管理態勢をどう高度化していくのか、その中で共同システムをどう活用できるのか、しっかりと検討を進めていただきたい。
- マネロン対策等に係る広報について
- 金融庁では、継続的顧客管理の完全実施のため、一般利用者のご理解とご協力を得るべく、マネロン対策等に係る広報を積極的に行っている。
- 2022年12月4日には、政府広報の一環として、東京FM等で、マネロン対策をテーマにしたトーク番組を全国配信した。
- 放送内容は政府広報オンラインの公式ウェブサイト等で1年間視聴可能であるため、是非ご覧いただきたい。
- テロ資金供与対策等に係る説明会について
- FATF第4次対日相互審査では、有効性審査において、「警察庁警備局及びJAFICの専門知識を活用した、テロ資金供与対策に係るアウトリーチを金融機関に対して実施すること」が指摘事項(RecommendedActions)の1つとして勧告されているところ。
- この指摘を踏まえ、2022年12月上旬、警察庁と合同で、テロ資金供与対策等に係る説明会をオンラインで複数回開催し、合計約2,000名に参加いただいた。
- 各金融機関においては、説明会で説明した資料等も使いつつ、テロ資金供与等リスクに係る理解を深めていただき、マネロン・テロ資金供与リスクの管理態勢向上に努めていただきたい。
▼日本損害保険協会
- 国連安保理決議の着実な履行について(北朝鮮関連)
- 10月7日、国連安全保障理事会の北朝鮮制裁委員会の専門家パネルが、2022年1月から7月にかけての国連加盟国による北朝鮮制裁の履行状況等の調査結果と国連加盟国への勧告を含む中間報告書を公表した。
- 同報告書では、
- 北朝鮮が暗号資産関連企業及び取引所等へのサイバー攻撃を継続し暗号資産を窃取していること
- 北朝鮮による石油精製品の不正輸入および石炭の不正輸出が継続していること
等の事案概要や、必ずしも制裁対象ではないが、こうした事案に関与している疑義がある会社名や個人名、船舶の名前について記載。
- 同報告書を踏まえ、各金融機関におかれては、サイバーセキュリティ対策を徹底していただくとともに、安保理決議の実効性を確保していく観点から、報告書に記載のある企業や個人、船舶については、
- 融資や付保などの取引が存在するかどうかに関する確認
- 取引がある場合には、同報告書で指摘されている事案に係る当該企業・個人等への調査・ヒアリング
などをしっかりと行った上で、適切に対応いただきたい。
暗号資産(仮想通貨)のミキシングサービスがマネー・ローンダリングを助長しているとして、本コラムでもたびたび紹介しているとおり、規制当局による制裁が相次いでいます。そのあたりの状況について、2023年2月11日付日本経済新聞の記事「仮想通貨の匿名化サービス、資金洗浄悪用で制裁相次ぐ」に詳しいので、以下、抜粋して引用します。
その他、海外のマネー・ローンダリング等に関する報道から、いくつか紹介します。
- 米司法省は、犯罪収益など7億ドル(約900億円)以上の違法送金に関わったとして、暗号資産交換所「ビッツラート」を創設したロシア人の男を訴追しています。財務省も、マネー・ローンダリングの懸念があるとしてビッツラートが関わる金融取引を禁止したと明らかにしています。報道によれば、創設者のロシア人は中国在住で、米南部フロリダ州マイアミで逮捕されました。ビッツラートは香港を拠点とし、不正な送金額には身代金要求型コンピューターウイルス「ランサムウエア」を使って得た犯罪収益も含まれるといいます。摘発にはフランスも参加、ビッツラートのホームページには「国際的な法執行によって差し押さえられた」と表示されています。
- 英大手銀行バークレイズのコンプライアンスとマネー・ローンダリング対策を巡り、金融規制当局が調査していると英紙フィナンシャル・タイムズが報じています。報道によれば、英金融行動監視機構(FCA)は2022年、複数のマネー・ローンダリング防止策の不備を指摘し、同行のシステムについて独立調査を要求、バークレイズの法人部門と個人・富裕層部門の責任者に書簡を送り、「スキルド・パーソン」(独立した監視者)による調査を求めたといいます。
(3)特殊詐欺を巡る動向
(特殊詐欺ではありませんが)企業が従業員に支払った休業手当を国が補助する雇用調整助成金(雇調金)をめぐり発覚したコロナ下での不正受給が、2022年12月末時点で1221件、総額187億8千万円に達したといいます。2022年9月末時点の集計に比べて301件、51億9千万円増えています。不正の発覚が急増している背景には、全国の労働局が調査を強化していることがあります。雇調金はコロナ禍を受けて助成額などを拡充したことで企業の申請が殺到、労働局は対応に追われましたが、感染状況が落ち着き、申請も減ったことで、不正の調査により多くの人手を振り向けているといいます。本コラムでもたびたび取り上げましたが、コロナ禍においては、中小企業や個人事業主向けの「持続化給付金」の不正受給も大きな問題となりましたが、判明した総額は17億円余りで、雇調金の不正額はその10倍以上の規模となります。厚生労働省はコロナ対応で拡充した雇調金の上限額や助成率などの特例措置を2023年1月末で終え、本来の条件に戻しています。
最近の特殊詐欺を巡る動向から、気になる傾向等について取り上げます。
- 相模原市南区で2月6日以降、高齢者を狙った特殊詐欺が計7件相次いでいます。報道によれば、神奈川県警相模原南署は「これまでにないほどの頻度で起きている」として、警戒を呼びかけているといいます。相模原南署によると、親族を装った「オレオレ詐欺」が6~8日に3件立て続けに発生、70~80代女性3人が孫や息子を名乗った男性らに現金などをだまし取られたといいます。また、「返金がある」などとうそを言ってキャッシュカードなどをだまし取る「預貯金詐欺」も7日だけで3件発生、いずれも80代女性が、金融機関職員を装った男性にキャッシュカードと通帳を渡したといいます。さらに医療費の払い戻しなどを名目にATMを操作させる「還付金詐欺」も1件発生、市役所職員やコールセンター職員を装った男性らから電話で指示を受けた60代男性が、ATMから98万円を送金したといいます。相模原南署は「詐欺グループは一つだけではない。警戒を緩めないでほしい」と注意喚起していますが、正にそのとおりであり、これだけ集中的に発生している点も大変気がかりです。
- 札幌市中央区宮の森地区で、「これから帰る」「今から行く」といった不審電話が40件以上相次いでいるとの報道もありました。北海道警札幌西署は、窃盗や強盗に入る前に在宅を確認するためだった可能性があるとして、注意を呼びかけているといいます。2月3日から9日まで同区や西区など同署の管内で不審な電話が少なくとも45件確認されており、このうち42件が宮の森地区だったといい、男の声で、身元を尋ねると電話を切られるケースが多く、9日は新たに16件の電話を確認したといいます。特殊詐欺の兆候として「アポ電」があることが知られており、高度な警戒が必要な状況だと言えます。
特殊詐欺に関与したとして逮捕された事件に関する最近の報道から、いくつか紹介します。
- 債権回収業者に成り済まして、現金をだまし取ろうとしたとして、県警捜査2課と越谷署は、詐欺未遂の疑いで、職業不詳の男を逮捕しています。県警はこれまでに、かけ子の男4人を逮捕していましたが、男を共犯者と特定、男は「斡旋役」とみられています。なお、女性がうそを見破り、被害はなかったといいます。2022年3月に越谷市内の特殊詐欺の犯行拠点を摘発、その後の捜査で受け子の男4人を逮捕、4人の供述などから、かけ子などの仕事を仲介していた男が浮上、県警は関係先として男が出入りしていた東京都板橋区の住吉会傘下組織事務所を家宅捜索しています。
- 高齢女性の長男を装い、金をだまし取ったとして、警視庁捜査2課は、詐欺の疑いで、職業不詳の男を逮捕しています。容疑者は詐欺グループの「指示役」で、警視庁はこれまでに詐欺容疑で4人を逮捕しています。共謀して、2021年12月中旬ごろ、埼玉県の70代の女性の自宅に、女性の長男を装い、「トイレにかばんを忘れた。会社の契約のお金を振り込まないといけないので用立ててほしい」と電話をかけ、現金200万円をだまし取ったとしています。
- 警察官をかたって高齢女性のキャッシュカードから現金310万円を引き出したとして、大阪府警特殊詐欺捜査課は、詐欺と窃盗の疑いで、職業不詳の男ら2人を逮捕しています。容疑者は特殊詐欺グループの「金庫番」で、だまし取った金を回収し、管理していたとみられています。大阪府警はこれまでに、このグループの受け子や現金の回収役ら20人以上を摘発、被害額は、全国で5億円以上に上るとみられています。
- 特殊詐欺でだまし取った金を受け取ったとして、大阪府警特殊詐欺捜査課は、組織犯罪処罰法違反の疑いで、飲食店経営の男を逮捕しています。容疑者は特殊詐欺グループのメンバーで、だまし取った金を運ぶ「運搬役」と見られ、グループの上位者からSNSを通じて指示を受け、「回収役」の男から金を手渡しで受け取っていたとみられています。同課はこれまでにグループのメンバー10人以上を逮捕、うち1人の自宅からは、特殊詐欺でだまし取ったとみられる現金約6800万円が押収されたといいます。
- 外国人を装い、恋愛感情を利用する「国際ロマンス詐欺」の手口で、女性3人から現金計約2300万円をだまし取ったとして、大阪府警は、詐欺の疑いで、住居不定、無職の男と卸売業の男を逮捕しています。容疑者は、ガーナを拠点とする国際犯罪グループに所属しており、同様の手口で全国の男女69人から総額4億9千万円を詐取したとみられています。大阪府警は2022年8月、グループのメンバーらと共謀し、国連の医師や米国人ライターになりすまし、男性2人から約150万円をだまし取ったとして詐欺容疑で無職の容疑者を逮捕しています。
- 大阪府警四條畷署は、千葉県市原市の中学3年女子生徒(15)を窃盗の疑いで逮捕しています。2022年6月、氏名不詳者と共謀し、大阪府大東市内の70代女性から預金保護名目で入手した3枚のキャッシュカードを使って、東大阪市と吹田市のコンビニ店にあるATMら計142万5000円を引き出した疑いがもたれています。「SNSで見つけた闇バイトに応募して参加した」と話し、容疑を認めているといい、女子生徒を特殊詐欺の「出し子」とみて捜査しています。
- 高齢女性から不正に入手したキャッシュカードで現金150万円を引き出したとして、大阪府警東淀川署は、大相撲の元力士で風俗店員の男を窃盗の疑いで逮捕しています。特殊詐欺グループの一員で、ATMから現金を引き出す「出し子」とみられています。グループのメンバーとみられる男が被害者宅を訪問し、女性からカードをだまし取っており、容疑者はこのカードを使ってコンビニ店で現金を引き出したとされます。
- 高齢女性からキャッシュカードを詐取したとして、警視庁は、住居不定、職業不詳の男を詐欺容疑で逮捕しています。男は容疑を認め「ツイッターで『高額報酬アルバイト』と検索して仕事を見つけた。闇バイトとわかっていたが生活に困っていた」などと供述しているといいます。女性のカードからは同日中に100万円が引き出されており、翌日に出金を不審に思った信用金庫の職員が女性宅に連絡を取って被害が発覚したものです。区内の商業施設にあるATMで男が金を引き出す様子が防犯カメラに映っており、署は男が「出し子」の役割も担っていたとみて調べています。男は調べに対し、「『新宿勝太郎』を名乗る人物に指示を受けていた」と供述、成功報酬は1件あたり2万~3万円で、数件の同様の事件に関与したと同署はみているとのことです。
- 高齢者から現金をだまし取ろうとしたとして、大分県警大分南署は、海上自衛隊第5航空群2等海尉を詐欺未遂容疑で現行犯逮捕したと発表しています。何者かと共謀して同県由布市の80代の女性に「100万円を至急必要としている。息子の代わりに取りに行く同僚に渡してほしい」などと虚偽の電話をかけて、現金をだまし取ろうと計画、しかし、女性の110番を受けた県警による「だまされたふり作戦」で、女性方で待ち構えた同署員に逮捕されたものです。
- 高齢女性から現金230万円をだまし取ったとして、大阪府警交野署、宇都宮市の無職の容疑者(84)を詐欺の疑いで逮捕しています。特殊詐欺事件で府警が検挙した容疑者の中では、記録が残る2015年以降で最高齢だといいます。容疑者は「大阪で詐欺の受け子をしたのは間違いない。ギャンブルで借金があった」と容疑を認めているといます。逮捕容疑は何者かと共謀し、2022年5月、大阪府枚方市の80代女性宅に息子などを装って電話、「上司にお金を借りた。払わないといけない」とうそをつき、現金230万円を詐取したというものです。容疑者は事件当日に新幹線で栃木県から来阪し、上司の弟を名乗ってスーツ姿で女性宅を訪問したといいます。また、別の高齢女性からも同日、ほぼ同じ手口で現金150万円をだまし取った疑いもあり、現金計380万円を大阪市内の駅のコインロッカーに隠したとされます。
- 神奈川県警藤沢署は、80代の女性から現金500万円をだまし取ったとして、詐欺容疑で中央大学の学生を逮捕しています。署は、特殊詐欺グループで被害者から現金を受け取る「受け子」とみて調べています。女性宅に「借金を至急清算しないといけない。会社の事務員に現金を渡して」と嘘の電話をかけ、容疑者が女性から500万円を受け取った疑いがもたれています。
次に、特殊詐欺の被害に関する最近の報道から、いくつか紹介します。
- 徳島県警は、県内の50代女性が、LINEで勝手に投資グループのチャットに追加され、誘いに応じて1千万円以上をだまし取られたと発表しています。特殊詐欺事件として捜査しています。女性は2022年10月上旬、LINEの「株式投資サークル」を名乗るグループに突如追加され、外国為替証拠金取引(FX)投資でもうかっているとのやりとりを読んだところ、その後、メンバーらが「お金が増える」などと女性を勧誘、「運用するのはドルで、指定した口座に振り込めば交換する」と誘い、女性は12月上旬までに十数回、計1千万円以上を振り込んだというものです。メンバー側は、実在するFX投資サイトで女性のためにアカウントを用意、サイトのデモ機能を使って、数千万円の利益を上げているように見せかけた可能性があるといいます。
- 千葉県警千葉西署は、1人暮らしをする高齢女性が電話を使った特殊詐欺の被害に遭い、同じ日に現金3200万円とキャッシュカード3枚をだまし取られたと発表しています。自宅の固定電話に、息子を騙る人物から「会社の書類を間違ったところに送って損害を出した」、「5000万円が必要」などとの電話があり、その後も郵便局員から「書類が見つかったので住所と携帯電話番号を教えてほしい」などと連絡があった際、女性は伝えてしまったといいます。女性は、特殊詐欺のことは知っていたが自分がだまされるとは思っていなかったものの、電話で息子の名前を言われたため、信じてしまったといいます。息子が女性の家を訪ねた際、詐欺被害に気付き、110番通報したものです。
- 神奈川県警茅ヶ崎署は、寒川町の70代女性が約1000万円をだまし取られたと発表しています。息子を装う男から「女性を妊娠させた。示談金900万円が必要」と電話があり、呼び出された座間市内で、仲介する弁護士の息子を装った男に900万円を手渡したといい、別の日にも借金返済などの名目で川崎市内で132万円を渡したといいます。普段は「僕」と話す息子が、電話では「俺」と名乗ったことを不審に思った女性が息子に確認して被害がわかったといいます。
- 大阪府警特殊詐欺捜査課は、府内の80代女性が名義貸しのトラブル解決費用名目で現金約6500万円をだまし取られたと発表しています。2022年11月、女性宅に不動産会社の社員や金融庁の職員を名乗る男から「老人ホームに入居する人が困っている。名義を貸してほしい」、「名義貸しは犯罪だ。お金を差し押さえる」と電話があり、その後、弁護士を名乗る男から電話で「差し押さえられる前に安全な場所で保管する」、「金融庁の職員とは東大の同級生で私が話を付ける」などと持ち掛けられ、女性は指定された東京都内のマンション3カ所に、計約6500万円を宅配便で送ったといいます。女性が別居する娘に話し、被害が発覚したものです。同様の手口では、和歌山県警が、和歌山市内に住む一人暮らしの80代の女性が計約7400万円をだまし取られる特殊詐欺被害に遭ったと発表しています。女性は2022年12月、自宅で電話を受け、防犯協会を名乗る男らから「あなたの名前が会社の名簿に載っている」、「名前を削除するための番号を教える」などと言われ、翌日に「名簿の変更手続きを行っている」という別の男にその番号を伝えたところ、「監督官庁のアイザワ」と名乗る男らから「番号を教えたのは犯罪」、「民事訴訟で解決するためには保証金が必要」などと矢継ぎ早に電話がかかってきたといい、男らは「窓口出金だと怪しまれるからATMの引き出し限度額を引き上げ、毎日少しずつ引き出せ」などと女性に指示し、まとまった額になると女性宅の近くに行き、金を受け取ることを繰り返していたといいます。不自然な引き出しに気づいた金融機関が、2023年1月、同署に通報して判明したものです。さらに、広島県警広島中央署は、広島市中区の1人暮らしの80代の女性が、介護施設の入居権をかたる特殊詐欺で約8800万円をだまし取られる被害に遭ったと発表しています。入居しないと伝えると「すでにあなたの名義で1000万円振り込まれている」、「名義貸しは犯罪」と言われ、解決金を要求され、その後、介護施設の顧問弁護士を名乗る男から「金融庁が動いている」、「このままでは資産を差し押さえられる。いったん私に預けて」と電話があり、2023年1月9日までに宅配便で5回、県外の個人宛てに現金を送ったということです。
- 群馬県警桐生署は、桐生市の80代の女性が現金1123万円をだまし取られる特殊詐欺被害に遭ったと発表しています。警察官を名乗る男から女性宅に「近くで偽札が出回っている」、「警察官が確認に行くので家のお金を出してほしい」などと電話があり、電話の最中に、警察官を装った別の男が自宅に現れ、女性はこの男に現金1123万円が入った封筒を渡したというものです。女性は敷地内の別棟に住む息子に相談し、被害を届け出た。女性は「家族をかたる詐欺事件があるのは知っていたものの、警察官を装う手口があるとは知らなかった」と話しているといいます。
- 神奈川県警大船署は、同県鎌倉市に住む60代の女性が、韓国人男性を名乗る人物から暗号資産投資を持ちかけられ、計5000万円をだまし取られる被害に遭ったと明らかにしています。女性は「短期で利益を上げられる方法がある」などと勧誘され、2022年12月~2023年1月、暗号資産の購入代金として、9回にわたり計5000万円を指定の口座に送金したといいます。インスタグラムを通じ「日本のことを教えてください」と女性にメッセージが送られ、やりとりを始めるようになったということです。
- 警視庁玉川署は、世田谷区の80代の女性が、暗号資産9700万円分をだまし取られる被害に遭ったと発表しています。女性宅に2022年11月、区役所の職員を装った男らから「口座が犯罪に使われている可能性がある。資産を逃がしましょう」などと電話があり、これを信じた女性は、指定されたパスワードで暗号資産取引所に口座を開設し、9700万円分の暗号資産を購入したが、その後、全額が引き出されたということです。取引が多額なことを不審に思った暗号資産取引所からの電話で女性が被害に気づき、同署に相談したものです。
- 実在しない「国立支援機構」をかたる電話を信じ、大阪府内に住む80代の女性が現金計約1980万円をだまし取られたと大阪府警が発表しています。女性は、口座残高が底をつくまで計31回にわたって現金を引き出し、自宅近くの路上で待ち合わせたスーツ姿の男に、繰り返し現金を手渡していたといいます。特殊詐欺捜査課によると、2022年9月下旬ごろ、女性宅に架空の「国立支援機構」を名乗る男の声で、「NPO法人の男があなたの名義で1980万円の買い物をしたので、585万円を支払ってほしい」と電話があり、その後、この「買い物をした男」が犯罪に関与したとして、金融庁をかたる人物らから「保釈金が1千万円に決まったので払ってほしい」、「罰金500万円に決まった」などと言われ、女性は何度も口座から出金、電話は11月まで続いたということです。
- 茨城県警組織犯罪対策課は、水戸市に住む自営業の70代の男性が現金7000万円をだまし取られる特殊詐欺の被害に遭ったと発表しています。県警は、詐欺グループの受け子が被害者から直接受け取る「現金手交型」のオレオレ詐欺の手口としては、県内で過去最高の被害額とみて捜査しています。
本コラムでは、特殊詐欺被害を防止したコンビニエンスストア(コンビニ)や金融機関などの事例や取組みを積極的に紹介しています(最近では、これまで以上にそのような事例の報道が目立つようになってきました。また、被害防止に協力した主体もタクシー会社やその場に居合わせた一般人など多様となっており、被害防止に向けて社会全体の意識の底上げが図られつつあることを感じます)。必ずしもすべての事例に共通するわけではありませんが、特殊詐欺被害を未然に防止するために事業者や従業員にできることとしては、(1)事業者による組織的な教育の実施、(2)「怪しい」「おかしい」「違和感がある」といった個人のリスクセンスの底上げ・発揮、(3)店長と店員(上司と部下)の良好なコミュニケーション、(4)警察との密な連携、そして何より(5)「被害を防ぐ」という強い使命感に基づく「お節介」なまでの「声をかける」勇気を持つことなどがポイントとなると考えます。また、最近では、一般人が詐欺被害を防止した事例が多数報道されており、大変感心させられます。
- 特殊詐欺被害を未然に防いだとして、大阪府警河内署は、東大阪市の介護施設運営会社社長の男性に感謝状を贈呈しています。男性社長は2022年11月、東大阪市内の銀行で、携帯電話のスピーカー機能で通話しながらATMを操作していた80代の男性に声をかけ、警察に通報するなどして被害を防いだといいます。「いつも押している4桁の暗証番号を押してください」といった通話内容が聞こえ、声質に違和感があったため特殊詐欺を疑ったということです。
- タクシーの乗客がうそ電話詐欺の被害に遭うのを防いだとして、山口県警周南署は、周南近鉄タクシーの運転手に感謝状を贈っています。2023年1月、常連客の80代女性を乗せたところ、インターネットの未納料金が約20万円あり、郵便局で振り込むよう指示されたといい、「電話を切るとつながらなくなると言われ、今も相手とつながっている」と聞いて、スマホを代わって電話を切ったあと、周南西幹部交番に連れて行ったといいます。女性のスマホに「ご利用料金についてお話ししたいことがあります」とショートメールがあり、電話番号が表示されていたといいます。女性はふだん夜に外出しないので不審に思いながら迎えに行くと、女性はスマホを握りしめて慌てた様子だったといい、「日頃と違う行動なのですごく違和感を覚えた。利用者の4、5割は高齢の方。声を掛けるのは大事だなと思います」と話しています。
次にコンビニの事例を紹介します。全国で相次ぐ特殊詐欺の被害防止は今や、コンビニの協力なしには成り立たないといえます。店員が利用客に声をかけ、「水際対策」に尽力しているためで、店頭で被害防止に貢献した店舗は5年間で3.6倍に増えたとの調査結果もあるといいます。客が気分を害することも念頭に、店員は勇気を振り絞って声かけを行っており、警察は店側の協力に感謝するとともに声かけへの理解を呼びかけています。
- 特殊詐欺被害を防いだとして、神奈川県警はコンビニエンスストア「ローソン横須賀鷹取店」と「ローソン・スリーエフ大磯国府店」の関係者に感謝状を贈っています。両店が2022年に特殊詐欺を未然に防止したのは、それぞれ5件目で県内最多だといいます。このうち「ローソン横須賀鷹取店」のアルバイト店員で、産業能率大1年生の学生(19)には田浦署で感謝状が手渡されています。2022年12月、80代男性が店を訪れ、レジにいた学生に電子マネーを「9万円分購入したい」と申し出たといいます。学生が尋ねると、自宅パソコンに「ウイルス感染」が表示され、サポート先に電話すると、電子マネーの支払いを要求されたといい、2022年9月にも、店で被害を未然に防いだ同様の手口を伝えるなど約10分間説得し「警察に相談を」とアドバイス、男性は一旦自宅に戻り、家族から署に通報し、被害は免れたということです。学生は「男性に対し、不快感を与えないように心がけた。アルバイトでも責任感を持ち対応したい」と話しており、田浦署は「犯罪防止に対する店側の意識が高い」と評価しています。
- アルバイト先のコンビニエンスストアで特殊詐欺被害を未然に防いだとして、愛知県警豊橋署は桜丘高2年生の岩月さん(17)と岡本さん(16)に感謝状を贈っています。署が各コンビニに配った「声かけチェックシート」が鍵になったといいます。報道によれば、岩月さんは70代の女性からプリペイドカード10万円分を購入したいと言われ、レジにあるチェックシートに目を通したところ、1万円以上の電子マネーの購入、買い方や使い方を知らない、依頼主が高齢といった項目に当てはまり、「詐欺かも」と疑い、話を聞くと、パソコンがウイルスに感染し、画面に表示された電話番号に連絡すると、プリペイドカードを買うように指示されたといい、女性はメモを持って急いでいる様子だったため、すぐに110番通報したといいます。警察官が到着するまで2人で女性をなだめ続け、「詐欺ですよ」とは言わず、遠回しに「警察から言われた項目に当てはまっているので」と、待つように伝えたといいます。
- 客を特殊詐欺の被害から守ったとして、兵庫県警三田署はコンビニエンスストア「ローソン」に感謝状を贈っています。2022年12月、60代の男性客が1人で来店し、電子マネーカードを5万円分買おうとしたため、パートの女性が使途を聞くと、「パソコンのウイルス除去に必要だと言われた」と説明、詐欺だと直感した女性は購入しないよう説得し、署に連絡したものです。男性は、ウイルス感染を告げる警告がパソコン画面に現れ、指定の連絡先に電話をし、電子マネーカード購入を指示されていたといいます。レジに来た際はメモを携えており、「変だなと感じた」と女性、署から頻繁に特殊詐欺への注意喚起を受けていたため、「何かあったら積極的に声を掛けようと思っていた」ということです。
金融機関の事例をいくつか紹介します。
- 詐欺被害を未然に防いだとして、福岡県警西署は、西日本シティ銀行野方支店の行員、平山さんに感謝状を贈っています。投資話で100万円を振り込もうとした70代の男性を約2時間かけて思いとどまらせたといい、平山さんは「お客様の資産を守ることができてよかった」と話しています。2023年1月、同店のATMで100万円を振り込もうとする男性がいたため、窓口の担当者が目的を尋ねたところ「ビットコインを買うため振り込みたい」と話したため、行員から報告を受けた平山さんは、振込先の口座が個人名義だったため不審に思い「やめませんか」と促したものの、男性は「どうしても振り込む」「だまされてもいい」とかたくなだったため、平山さんはやむを得ず警察に通報、駆けつけた警察官と約2時間にわたり説得を続け、ようやく思いとどまった男性は「もう振り込まんけん」と話したといいます。男性はSNSで知り合った外国人を名乗る人物に投資話を持ちかけられていたとのことです。
- 1200万円の特殊詐欺被害を未然に防いだとして、和歌山県警橋本署は、紀陽銀行橋本支店営業課の女性行員らに感謝状を贈っています。2022年12月、70代女性が投資信託を全額解約したいと来店、対応した行員が理由を尋ねたところ、「絶対教えられない」と焦った様子だったことから上司に相談、上司が橋本署に通報したものです。その後、女性が犯人から1200万円の入金を要求されていたことが判明したといいます。
- 振り込め詐欺を防いだとして、茨城県警下妻署は、常陽銀行下妻支店と、副支店長、行員の女性に感謝状を贈っています。女性行員は2022年12月、支店を訪れた下妻市内の70代の男性から「トルコの銀行に口座を開設するために手数料(35万5000円)が必要だが、インターネットで振り込みができない」と相談され、詐欺と直感、女性行員から報告を受けた副支店長が説得したものの、男性は聞く耳を持たず、支店から連絡を受けて駆けつけた下妻署員が詐欺の実例を示し、ようやく納得したということです。男性はSNSで知り合った人物から「夫の遺産を受け取ってほしい」と頼まれ、仲介役として紹介された男に口座開設を指示されたといい、開設手数料は国内金融機関に振り込むことになっていたといいます。
- 特殊詐欺を未然に防いだとして、岩手県警一関署は、岩手銀行一関支店と女性行員と男性行員に感謝状を贈っています。2022年12月、口座の開設手続きのために同支店を訪ねた80代男性に女性行員が対応、男性が持参した封書の「1億数千万円が当選した」との書面を不審に思い、上司の男性行員に相談、男性行員は警察へ通報し、手数料などをだまし取られる被害を未然に防いだということです。男性は前日にも同支店を訪れ、印鑑を忘れたため営業時間外に再度来店、女性行員がATM前で20分ほど男性から話を聞き取り、詐欺の可能性に気付いたというものです。
- 特殊詐欺の被害を未然に防いだとして、浦和東署は、管内の浦和原山郵便局に感謝状を贈っています。2022年12月、来局した80代女性が「身内がトラブルに巻き込まれて、急きょお金が必要になった」などと話していたものの、対応した窓口の社員は女性の慌てた様子や言動を不審に思い、別の社員が110番したものです。女性は来局前に弟をかたる電話で「不動産の手付金が必要」などと説明され、郵便局で50万円を下ろそうとしていたといい、幼い頃のあだ名で呼ばれ、弟本人だと信じ込んでしまったということです。
最後に、AIを活用した特殊詐欺防止対策について紹介します。特殊詐欺の深刻な被害の要因の一つが還付金詐欺の増加です。「医療費が戻る」などとうその電話をかけて高齢者らをATMへ誘導し、ATMを操作させて現金を振り込ませる手口ですが、その対策として、警視庁はAIを使ったシステムを採り入れ始めています。報道によれば、ATMの前で携帯電話を使うとAIを備えたカメラが検知し、音やランプ点灯で周囲に知らせるというもので、気づいた人が被害者に声をかけたり警察に通報したりしてもらうことで被害を防ぐ効果が期待されるとしています。警視庁の実証実験として2022年11月から都内の一部のコンビニエンスストアに導入されています。また、特殊詐欺のほとんどは、犯人がかけてくる電話から始まるため、電話に出ないのが一番で、警察は留守番電話機能や自動通話録音機の活用を呼びかけています。親族を装うオレオレ詐欺で「携帯電話をなくした」「電話番号が変わった」といった内容の電話を受けた時は電話を切り、その親族らの実際の番号にかけて確認する対応も心がけてほしいとしています。
(4)薬物を巡る動向
前回の本コラム(暴排トピックス2023年1月号)でも取り上げましたが、タイが2022年6月、麻薬として一般の使用や流通を禁止するリストから大麻を除外してから半年以上経過しましたが、世界でもほぼ前例のない事実上の全面解禁であることもあって、混乱が目立っています。導入前から懸念されていたことですが、吸引は医療目的に限定しているものの、実際には娯楽での使用が後を絶たない現状があり、その結果、大麻の中毒者は解禁前の4倍近くに増え、政権内でも批判が噴出しているようです。直近の状況について、2023年2月6日付日本経済新聞の記事「タイ、大麻解禁を軌道修正 本人確認や無許可販売摘発」で詳しく報じられています。
また、ミャンマーにおける薬物の状況も深刻です。麻薬が簡単に手に入ることへの反発とみられる動きも起きており、報道によれば、第2の都市マンダレーのバーで2022年12月、爆発が起き、その後、国軍に反発する市民グループが、「バーで麻薬が売られていたことへの警告だ」とする犯行声明を出したといいます。国連薬物犯罪事務所(UNODC)はミャンマー北東部に位置するカチン州やシャン州に麻薬の生産拠点があると指摘していますが、シャン州は麻薬の原料となるケシ栽培で有名な「ゴールデン・トライアングル」(ミャンマー、タイ、ラオスの国境地帯の麻薬の密造地帯)の一角を占める地域で、少数民族武装勢力が支配、国軍の統制は及びにくい状況にあるといいます。UNODCは2023年1月、2022年のミャンマーでのアヘンの栽培面積は33%増の4万100ヘクタール、潜在収量は88%増の790トンとなったと発表、「クーデター以降、北部シャン州や国境の紛争の多い地域の農民は、アヘン栽培に回帰する以外、選択肢はほとんどなくなった」と報じられています。さらにUNODCの2022年の報告書によると、覚せい剤は特にシャン州からの供給が多いといい、2021年には東アジアと東南アジアで覚せい剤メタンフェタミンの押収量が過去最高の171.5トンに達したといいます。かつての軍政時代から、国軍は麻薬を取り締まる姿勢を見せており、ヤンゴンでは毎年、押収した大量の麻薬を燃やす様子を報道陣に公開しています。現地の報道によれば、2022年1年間で押収したケタミンは2千キロ超に上ったといい、国軍統制下の情報省によると、2023年に入ってからも押収は続き、1月14~16日の3日間だけで約64トンの禁止薬物をヤンゴンなどで押収したということです。また、タイ陸軍は2022年1~10月に純度が低い錠剤型の覚せい剤「ヤーバー」を2億3000万錠、覚せい剤の結晶約3.5トンをそれぞれ押収、押収量は2018年の5倍に達したとされ、こうした違法薬物の一部は、タイなどを経由して日本やオーストラリアなどの先進国にも密輸されているといいます。ただ、2022年3月まで地方の麻薬対策部門に所属し、クーデターに反発して職場を放棄した元警官は、「若者が政治に無関心になるように、国軍は意図的に麻薬を流している。これは長年、国軍が使ってきた戦略だ。流通の過程で、国軍や警察も利益を得ている」と述べており、問題の根深さを示しています。
国内における薬物事犯に関する最近の報道から、いくつか紹介します。
- 大麻を販売目的で所持したとして、警視庁少年事件課が、東京都葛飾区の高校3年の男子生徒(18)ら17~19歳の少年計6人を大麻取締法違反(営利目的共同所持)の疑いで逮捕しています。報道によれば、男子生徒を含む3人は「金を稼ぐために持っていた」と容疑を認めています。6人は2022年10月、さいたま市南区のアパートで、乾燥大麻約58グラムを所持していた疑いが持たれており、1グラムあたり3000円で仕入れてSNSで客を募り、2022年6月ごろから1グラム6500円程度で販売していたとみられています。
- 警視庁は、TBSテレビ広報部社員を覚せい剤取締法違反(使用)容疑で逮捕しています。報道によれば、容疑者は、東京都内やその周辺で覚せい剤を使用した疑いがあり、TBSテレビは取材に対し、「当社の社員が逮捕されたことは誠に遺憾。事実関係を調べ、厳正に対処する」とコメントしています。
- 自宅で大麻を所持していたとして、愛知県警は、ラッパーの容疑者を大麻取締法違反(所持)の疑いで逮捕しています。報道によれば、容疑者は、自宅のマンションで、乾燥大麻約0.888グラムを所持した疑いがあり、大麻はキッチンの周辺で見つかったといいます。容疑者は「\ellow Bucks」の名前で、ラッパーとして活動、インターネットのオーディション番組で優勝したり、お菓子のCMに出演したりするなど、若者を中心に人気を博しています。
- 覚せい剤取締法違反(使用、所持)などの罪に問われ、1審名古屋地裁で懲役1年8月、執行猶予3年の判決を受けたアイドルグループの元メンバーの控訴審初公判が名古屋高裁であり、弁護側は量刑不当を訴え、検察側は控訴棄却を求め即日結審しています。2022年6月の1審判決は、覚せい剤を使い仕事に集中したいとの動機から犯行に及んだと指摘、「違法行為にさほど抵抗があったとは思えない」と非難した一方、犯行を認め後悔しているなどとして執行猶予を付けています。検察側は論告で、田中被告が名古屋地裁での執行猶予付きの判決の後、数日で覚せい剤の使用を再開したことや、2021年頃から月に5~6回ほど覚せい剤を常用していたことなどを指摘。「再犯の恐れは大きく、刑事責任は重大。徹底した矯正教育が不可欠だ」と述べています。弁護側は、薬物依存から脱却する意志は固く、「再犯の可能性は低い」として、執行猶予付きの判決を求めています。なお、被告は「親や周りの大切な人を泣かせないように、二度と再犯しない」などと話しています。被告人質問で「将来、芸能活動をするか」という弁護人の質問に対し、「今は正直考えていません」と答え、弁護人紹介の不動産会社に就職する予定だと話しています。
- 覚せい剤約1.6キロ(末端価格約9440万円)を所持したとして、神奈川県警などは、容疑者2人を覚せい剤取締法違反(営利目的共同所持)の疑いで逮捕しています。東京都江東区のビジネスホテル内で、44袋のビニール袋に小分けされた覚せい剤計約1.6キロを営利目的で所持したとされます。2021年春ごろ、神奈川県警のサイバーパトロールでSNSを介して覚せい剤の密売が行われている疑いが浮上し、捜査を進めていたといいます。
- 兵庫県警大麻事犯総合対策推進本部などは、大麻を所持、栽培したとして、神戸市や高砂市など兵庫県内計6市の20~50代の男女12人を大麻取締法違反容疑で逮捕、送検しています。一連の摘発で大麻草338株(末端価格約1億5210万円)、乾燥大麻約670グラム以上(同約402万円以上)を押収しています。同本部は2022年11月ごろから、近畿厚生局麻薬取締部神戸分室と合同で内偵捜査を進め、大麻栽培場所計6カ所の一斉取り締まりを実施、12人は兄弟や夫婦、知人でつくる5グループなどで、それぞれ自宅や借りた家屋で栽培、所持していたといい、12人のうち、神戸市東灘区の会社員と兄の運送業の男の両容疑者は、共謀の上、1月30日夜、神戸市内の家屋で大麻草189株を所持したとされます。
- 福岡県警小倉北署は、ともに大麻取締法違反(所持)の疑いで、飲食店経営会社の役員を再逮捕し、同容疑者の知人で内装業の容疑者を逮捕しています。報道によれば、別の事件で逮捕されて勾留中だった会社役員が留置場で同室だった人物を通じて、自宅に置いていた大麻を運び出すよう、知人に依頼していた可能性があるとみて調べています。
- また、営利目的で大麻を自宅で所持していたとして、警視庁は、自営業の男と、男の交際相手で世田谷区立小学校職員の女を大麻取締法違反(営利目的所持)容疑で逮捕しています。2人は、同居するマンション一室で、乾燥大麻2.126グラム(約1万3千円相当)を販売する目的で所持した疑いがもたれています。男が大麻を所持しているのではないかとの情報提供を受けた署がこの部屋を家宅捜索したところ、容疑となった大麻以外にも、大麻とみられる乾燥植物約29.5グラム、MDMAやLSDとみられるカプセル錠や紙片も見つかり、女は「週3~4回、大麻を男と吸っている」と説明、吸い始めた時期について女は「22歳から」、男は「中学生のころから」と話しているということです。
- 奈良県警と近畿厚生局麻薬取締部は、SNSを利用して覚せい剤や大麻などを密売したとして、覚せい剤取締法違反(営利目的所持))などの疑いで無職の容疑者ら5人を逮捕しています。客とされる男女3人も、大麻取締法違反(所持)などの疑いで逮捕や書類送検しています。2021年8月から2022年11月までの間、SNSで覚せい剤の購入を呼びかけ、密売したといい、「営利目的で持っていたわけではない」と容疑を一部否認しているといいます。報道によれば、8人からは合計で覚せい剤9グラム、大麻156グラム、合成麻薬のLSDを19個押収しています。
- 埼玉県警は、中国籍で専門学校生の男を覚せい剤取締法違反(営利目的共同所持)と邸宅侵入の両容疑で逮捕しています。覚せい剤約1キロ(末端価格約6000万円相当)が絵画の裏に隠してあったといいます。また、何者かと共謀し、空室になっていた集合住宅の一室に侵入、覚せい剤約1キロの入った段ボールを配達員から受け取り、所持した疑いがもたれています。覚せい剤が入ったビニール袋は絵画(縦64センチ、横43センチ)2枚の裏にプラスチック製の板で覆って隠してあったといいます。現場の集合住宅は別の事件の関係先で、捜索中だった捜査員が空室に入る男を目撃し尾行していたところ、男は近くの駐車場に段ボールを置いて立ち去ったが、中身を調べたところ、覚せい剤が見つかったということです。また、覚せい剤約1.9キロを密輸したとして、オーストラリア国籍でアボリジニ支援団体職員が、覚せい剤取締法違反(営利目的輸入)と関税法違反の罪で起訴されています。報道によれば、氏名不詳の複数人と共謀して、覚せい剤計約1.9キログラムをスーツケースに隠し、ラオスの空港からベトナムの空港を経由し、成田空港に営利目的で輸入したというもので、到着後の荷物検査で、東京税関成田税関支署の職員が発見しています。
- 合成麻薬MDMAをコーヒー豆の袋に入れ密輸入したとして、大阪府警薬物対策課は、麻薬取締法違反(営利目的共同輸入)などの疑いで、いずれも職業不詳のベトナム国籍の容疑者2人を逮捕、送検しています。2人の逮捕、送検容疑は何者かと共謀し、2022年10月、MDMA約2千錠(末端価格約1千万円相当)をコーヒー豆の袋に隠し、フランスから国際郵便で輸入したなどというもので、大阪税関の輸入物検査で発覚し、荷物の宛先となっていた大阪市内の集合住宅に出入りしていた2人が浮上、2人は2018~2020年に技能実習生として来日した幼馴染だったといいます。
- コカイン約1.9キログラム(末端価格3700万円相当)を2人で飲み込み、フランスから成田空港に密輸したとして、千葉県警は、麻薬及び向精神薬取締法違反(営利目的輸入)などの疑いで、ギリシャ国籍の2人の容疑者を逮捕、送検しています。薬物銃器対策課によると、重さ9グラムのコカインを固めたものを1人は107塊、もう1人は100塊を飲み込んでいたといいます。空港の検査場でコカインを身体に隠していることを申告せず通過しようとしたといい、「京都に行く」と言いながら成田空港を利用している点や、荷物の少なさに、税関職員が不審に思い、レントゲンで検査したところ、体内から麻薬が見つかったものです。薬物使用者が1回に使用する量の6万回分にあたるといい、県警がコカインの流通経路を調べています。
- 大阪府警堺署地域課の男性巡査(26)が、マイカー内に微量の大麻を隠し持っていたことが判明、大阪府警が懲戒免職処分としています。和歌山県警は、大麻取締法違反(共同所持)容疑で和歌山地検に書類送検しています。報道によれば、2022年11月、友人の男とともに、巡査のマイカー内で微量の大麻を所持したといい、巡査は府警の聞き取りに、2020年夏ごろから友人とともにマイカー内で吸っていたと説明、「勧められて場の雰囲気に流されてしまった。これまでに10回ぐらい吸った」と話しているといいます。
海外の薬物事犯に関する最近の報道から、いくつか紹介します。
- タイ警察は、総量1.1トンを超える覚せい剤を複数の地点で押収し、運搬に関与していた計10人を逮捕しています。報道によれば、警察は8~9割がタイ南部から国外へ密輸され、残りが国内で密売される予定だったとみているということです。同国南部のパッタルン県や北部チェンライ県で覚せい剤をピックアップトラックなどで運んでいたグループを摘発し、計1175キロを押収、バッタルン県での押収量は731キロにのぼり、トラックの荷台で大量のキャベツの下に隠していたとされ、チェンライ県で押収されたものはティーバッグを入れる袋に詰められていたといいます。タイ警察は、これらの覚せい剤は新型コロナ禍で外国との往来が制限されている間にストックされた可能性があるとみているといいます。タイ国内では1キロあたり7万~10万バーツ(約27万7千~39万6千円相当)で販売されており、海外に密輸されると価格はさらに跳ね上がるといい、日本の財務省の資料によると、2022年上半期に全国の税関が押収した覚せい剤は約156キロで、末端価格は92億円だったとしています。
- ジャマイカの首都キングストンの港で、貨物船の積み荷の中に隠されていた1.5トンのコカインが当局に押収され、末端価格で8000万ドル(約103億円)相当にのぼるといいます。報道によれば、コカインは世界最大のコカイン密輸国コロンビアから到着した船のコンテナに分散して隠されていたといい、コロンビアから最大の麻薬市場である米国に向かっていた可能性があるとされます。
- 米財務省は、麻薬鎮痛剤「オピオイド」の輸入に関わったとしてメキシコの密売組織のリーダーらに制裁を科したと発表しています。本コラムでもたびたび取り上げているとおり、米国では薬物による過剰摂取で年間10万人が死亡し、オピオイドはその主因とみられています。米当局はメキシコと中国の組織が製造・流通に関わっているとみて、摘発を急いでいるところです。対象となった密売組織はオピオイドのなかでも特に致死性の高い「フェンタニル」などを製造していたといい、製造に必要な物質は中国から輸入しているとみられ、すでに中国の化学会社「上海ファースト・ファイン・ケミカルズ」なども制裁対象にしています。テロや金融犯罪を担当するネルソン財務次官は声明のなかで「違法なフェンタニルはかつてない規模で過剰摂取による死亡を引き起こしている」と指摘、メキシコ政府と連携して取引の撲滅を狙うと強調しています。さらに、米政府は、米国の危機的状況が、近く欧州やアジアに波及する恐れがあるとも警告、ホワイトハウスで麻薬問題を担当する国家薬物管理政策局のラフル・グプタ局長は、中国とメキシコの犯罪集団がフェンタニルの取引を拡大するのは時間の問題だと語っています。フェンタニルはヘロインよりも50倍強力で、犯罪集団の貴重な収入源となっており、同氏は、フェンタニルやメタンフェタミンといった安価で容易に輸送できる合成麻薬の違法製造は麻薬市場を一変させ、世界の安全保障にリスクをもたらしていると指摘、犯罪集団を取り締まるには、合成麻薬の前駆体(原料となる化学物質)の主要供給国である中国を巻き込んだ国際的な協調行動が不可欠だとの考えを示しています。また、米政府は中国に対し、民間企業が仲介者を通じて原料を麻薬カルテルに横流しすることのないよう、「最終顧客の確認(know your end customer)」を義務付ける規制の施行を求めています。グプタ氏によると、そのためには、化学物質を積んだ貨物を追跡するための適切なラベリングや、海上でこれらが不正な用途に転用されるのを防ぐための輸送監視が必要となるとしています。
- 米南部ミシシッピ州で、チョコレートやクッキーなど大麻成分の入った菓子類を食べてしまい、中毒で救急病院に運ばれる子どもが急増しているといいます。報道によれば、ミシシッピ大学医療センター内にある毒物管理センターによると、子どもが誤って食べたとの内容の通報は2019年には2件しかなかったものの、2022年は36件に増加、うち14件は0~12歳の子どもだったといいます。ミシシッピ州では医療用の大麻は認められていますが、娯楽用は禁止されています。大麻成分入りの菓子類の販売はミシシッピ州内では違法で、こういった菓子類が州外で買って持ち込まれたか、違法に作られた可能性が指摘されています。
本コラムでもたびたび紹介していますが、精神的苦痛から逃れようと、市販薬を大量摂取する「オーバードーズ(OD)」が問題となっています。2023年1月19日付日本経済新聞の記事「若者むしばむ市販薬 大量摂取、依存症や命の危険も」が参考になりましたので、以下、抜粋して引用します。
(5)テロリスクを巡る動向
厳密に言えばテロではありませんが、米国では無差別攻撃・大量殺人事件が後を絶ちません。2023年1月26日付日本経済新聞は、米大統領警護隊(シークレットサービス)の国家脅威判定センター(NTAC)は、米国で発生した無差別攻撃・大量殺人事件を分析した報告書を公表、事件を起こした加害者のうち96%は男性で、半数近くは過去に女性蔑視思想に基づいた問題行動を起こしたり、家庭内暴力の疑いをかけられたりしていたと報じています。さらに、加害者の93%は犯行に及ぶ5年前以内に深刻なストレス要因を経験しており、72%が失業や破産などの経済的なストレス要因を抱えていたほか、離婚や親族の死などといった家庭内の問題や、学校や職場での人間関係に何かしらの不満を感じていたケースが多かったこと、加害者の49%は事件に至る1カ月以内にストレス要因に直面していたことなども報告されています。NTACは大量殺人事件を防ぐため、女性蔑視に基づく行為や家庭内暴力の調査を強化することを勧告したほか、銃乱射事件を起こした加害者の約3割は法律により銃火器の所持を禁止されていたにもかかわらず、何らかの方法で銃を入手していたことから、NTACは政府機関に違法な銃火器の所持を防ぐための取り締まりを強化するよう求めています。
日本においては、前述した「令和4年における犯罪情勢」の中で、「日本の治安がよいと思うかとの問いに対して、「そう思う」又は「まあそう思う」との回答は、全体の68.6%を占めた。一方で、ここ10年間で日本の治安がよくなったか否かとの問いに対して、「悪くなったと思う」又は「どちらかといえば悪くなったと思う」との回答が全体の67.1%を占めており、その要因として想起した犯罪は、「無差別殺傷事件」(63.5%)が最も多く、次いで、「オレオレ詐欺などの詐欺」(62.4%)、「児童虐待」(55.5%)及び「サイバー犯罪」(54.1%)が5割を超えている。」とのアンケート調査結果が紹介されています。元首相銃撃事件の発生のインパクトが大きい一方、日本でも(テロというよりは)拡大自殺といった形で周囲を巻き込む「無差別殺傷事件」は過去から発生しており、「治安上の脅威」と認識されているといえます。なお、警視庁がテロ対策のページを公開していますので、参考までに紹介します。とりわけ、「いつもと違うな」、「何かおかしいな」と感じたら、迷わず警察への通報をお願いしますとの呼びかけは極めて有用と思われます。
▼警視庁 警視庁のテロ対策
- 警視庁の取組
- テロは、その発生を許せば多くの犠牲を生みます。
- そのため、テロ対策は、未然防止が重要になります。
- 警視庁では、テロを未然に防止するため、情報収集・分析、水際対策、警戒警備、違法行為の取締りと事態対処、官民連携といったテロ対策を強力に推進しています。
- また、テロが発生した場合に迅速・的確に対処するための部隊を設置するとともに、関係機関と共同で、日々訓練を実施するなど、対処体制の強化を図っています。
- 官民一体のテロ対策
- 近年、我が国でも薬局、ホームセンター等の店舗やインターネットで購入が可能な化学物質から爆発物を製造する事案が発生しています。
- 警視庁では、これを受け、爆発物の原料となり得る化学物質を販売する事業者に対して、継続的な戸別訪問による協力依頼のほか、不審な購入者の来店等を想定した体験型の訓練(ロールプレイング型訓練)を実施するなどして、販売時における本人確認の徹底、保管管理の強化、不審情報の通報等を要請しています。
- このほか、ホテル等の宿泊施設、インターネットカフェ、レンタカー等の事業者との連携を図り、テロ等違法行為の未然防止に努めています。
- 首都東京でテロを引き起こさせないためには、警察による取組だけでは十分ではなく、皆様と緊密に連携して推進することが必要です。
- 「いつもと違うな」、「何かおかしいな」と感じたら、迷わず警察への通報をお願いします。
そのような中、岸田首相が、伊勢神宮を参拝する40分前に外宮の入り口付近で爆竹が破裂した事案から1か月以上経過しましたが、犯行予告などはなく、誰が何のために行ったのかは明らかになっていません。三重県警は、爆竹の販売ルートやドライブレコーダーの映像などを分析するなど捜査を続けていますが、犯人像に辿りつけていません。本件については、三重県警は「爆竹が鳴るのはよくある。いたずらだろう」と判断して、事案の発表は見送り、翌日の県警本部の仕事始め式で、佐野本部長(当時)が首相参拝にも触れて、「組織一丸となって警備し、完遂した」と胸を張っていたところ、爆竹の破裂について現場に居合わせた人らのツイッターなどで拡散した経緯があります。事実を知った警察庁幹部は、「遠隔でやられたようだ。爆竹でよかったが、爆弾だったら怖い。脅威だ」と危機感を強め、佐野本部長は、警察庁に2度足を運んで事案について報告、警察庁は「三重県警の失態」との見方を示し、必ず検挙するよう発破をかけたと報じられています。報道によれば、三重県警は遠隔操作できる海外製の着火装置は特定し、同じ装置を入手、県警科学捜査研究所などで実験し、性能を調べており、「遮蔽物がなければ、100メートル離れていても反応するとみられる」のだといいます。また、この装置は国内でもネットなどで安く買うことができ、県警は複数の店から購入者リストを取り寄せたい意向だが、個人情報の壁もあって難航しており、リストが入手できても、購入者が転売したり、知人に譲り渡したりする可能性も残り、課題も多い状況だといいます。三重県警の奮起を期待したいところですが、そもそも警察庁が危機感を抱いたとおり、遠隔で爆弾が操作されていれば極めて危険な状況であったことは間違いなく、そうしたものが簡単に入手できる状況というのは、元首相銃撃事件を経験してもなお、解決していない問題となっています。関連して、殺傷能力のある空気銃を製造したなどとして、警視庁多摩中央署は、札幌市の無職の20代の男を武器等製造法違反容疑などで東京地検立川支部に書類送検しています。報道によれば、男は2017年2月、自宅でエアガンを改造して殺傷能力がある空気銃を製造するなどした疑いがもたれており、「威力のある銃が欲しくなり、インターネットで改造方法を調べた」と供述しているといいます。男は2022年10月、黒色火薬を所持したとして北海道警に火薬取締法違反容疑で逮捕され、2023年月1月には手製銃を製造した武器等製造法違反容疑などで追送検されています。2022年7月に奈良市で起きた安倍晋三元首相の銃撃事件を受け、多摩中央署がサイバーパトロールを強化していたところ、男がオークションサイトで銃のようなものを出品していることを確認し、同10月に男の自宅を捜索、室内から黒色火薬などが見つかり、道警に情報提供していたものです。ゴーストガンが容易に製造できる状況が継続している状況は問題ですが、サイバーパトロールにより危険を未然に認知し、摘発に繋げることができたことは極めて意義のあることと評価したいと思います。
過激派やテロ等への対応の最前線にいる公安警察について、最近の変化に関する報道がありました。2023年1月19日付産経新聞の記事「新手法で情報流出阻止へ 進化する公安警察」から、抜粋して引用します。
テロリスクに関する海外の最近の報道から、いくつか紹介します。
- 厳密に言えばテロではありませんが、南米ブラジルの首都ブラジリアで右派のボルソナロ前大統領の支持者らが連邦議会などを襲撃した事件を受けて、左派のルラ大統領は2023年1月末までに軍幹部や兵士ら100人以上を解任しています。ボルソナロ氏を支持する軍人の一部が襲撃を共謀したと疑っているためとされます。ルラ氏は軍の「脱ボルソナロ化」と「非政治化」を目指していますが、実現は容易ではないとの見方もあります。報道によれば、軍を巡っては、ボルソナロ氏の支持者らが2022年11月以降、ルラ氏が勝利した同年10月の大統領選の結果を覆すため軍施設前に居座り、軍事介入を求めるデモをしたことを黙認した可能性が指摘されているほか、ボルソナロ政権下で大統領府に勤務していた少なくとも8人の軍人がデモに参加したことも判明しており、元陸軍大尉のボルソナロ氏が閣僚や政府機関に登用した軍人が多いことと関係していると考えられます。なお、事件では、治安当局の一部が暴徒化した支持者らと「共謀」した疑いがあり、襲撃者からも「入り口の扉は全て開いていた。警察の助けもあった。だから侵入ではない」といった証言も出ています。ブラジルでは、伝統的な家族観を守るため、人工妊娠中絶や同性愛を嫌悪するなどしたボルソナロ氏を熱狂的に支持する人は今も少なくなく、ボルソナロ氏が拘束されれば、一部が再びブラジルを揺るがす事態を起こす恐れがあるとも指摘されています。なお、事件に関連し、ブラジル最高裁は、命令に従わずアカウントを停止しなかったとして、通信アプリ「テレグラム」に対し、120万レアル(約3000万円)の罰金の支払いを命じています。襲撃事件では、参加を呼びかける投稿がテレグラムなどのSNSで共有されました。最高裁は襲撃事件から3日後の2023年1月11日、テレグラムに対し、ヘイトスピーチ(憎悪表現)や襲撃を促す投稿を共有した五つのアカウントを停止するよう命じたものの、テレグラムは命令に従わず、ブラジルの下院議員のアカウントを停止しなかったといいます。最高裁は「プロバイダーの命令の不順守は犯罪活動の継続に同意し、不正な方法で間接的に協力していることを意味する」と指摘しています。
- EUのフォンデアライエン欧州委員長は、イラン最高指導者に直属するイスラム革命防衛隊(IRGC)が国内で「イラン政府の反応は残虐で、基本的人権を踏みにじっている」として、テロ組織リストに加えることを支持すると述べています。イラン核交渉再開の取り組みが停滞する中、同国とEU諸国との関係はここ数カ月に悪化、イラン政府が複数の欧州市民を拘束する一方、EUはイランによる反政府抗議活動の弾圧継続に批判を強めているほか、イランがロシアにウクライナ侵攻で使用する軍事用ドローン(無人機)を提供していることも事態に拍車をかけています。他国の軍隊をテロ組織に指定するのは極めて異例であり、それだけ事態が深刻化しているといえます。さらに、英国も、テロ組織指定の当否について、すでに独自の検討に入っています。一方、米国は2019年にトランプ前政権がIRGCをテロ組織に指定しています。
- スウェーデンの警察は、イスラム教の聖典コーランを燃やす行為を含む抗議活動の禁止を決めています。抗議活動は、集会の自由で認められた権利と見なされており、スウェーデン警察による禁止決定は異例のことといえます。極右活動家が2023年1月、スウェーデンのトルコ大使館前でコーランを燃やしたことにトルコが猛反発し、スウェーデンの北大西洋条約機構(NATO)加盟手続きに遅れが生じる事態となっていることが背景としてあります。スウェーデン警察は禁止決定の文書で、1月のデモについて「スウェーデン社会だけでなく、海外の権益、海外在留者に対しても脅威を増大させた」とし、テロ攻撃の懸念が高まっていると指摘、スウェーデンの情報機関も、テロ攻撃の脅威が増したと警告しています。一方、トルコのエルドアン大統領は、同国議会が北欧スウェーデンとフィンランドのNATO加盟を批准する前に、両国が最大130人の「テロリスト」をトルコに送還もしくは引き渡す必要があるという認識を示しています。両国の加盟に当初難色を示していたトルコは、同国がテロ組織と見なすクルド人勢力の身柄引き渡しなどを条件に承認する考えを示していました。エルドアン大統領は、「テロリストをわれわれに引き渡さければ、議会を通過できないと明確にしている」とし、「議会通過にはまず100人以上、130人程度のテロリストを引き渡す必要がある」と語っています。
- 米ニューヨークの連邦地裁の陪審は、2017年にニューヨークで8人が死亡した車両突入テロで、殺人やイスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」(IS)を支援した罪などに問われたウズベキスタン出身の被告に対し、全ての罪で有罪評決を下しています。量刑は今後決まるものの、死刑となる可能性もあります。被告は2017年10月、ピックアップトラックで自転車道に突っ込み通行人らをはねて、8人が死亡、10人以上が負傷、犯行車両の近くから、ISは「永久に続く」と書かれたメモが見つかっていますが、被告は無罪を主張しています。
- 西アフリカのブルキナファソ北部で、イスラム過激派とみられる集団が野外で果実を採取するなどしていた女性約50人を拉致しました。報道によれば、2023年1月12日に北部アリビンダの南東で約40人が連れ去られ、翌13日にアリビンダ北方でも約20人が誘拐されたといい、何人かは徒歩で逃げ延びたといいます。ブルキナファソでは近年、国際テロ組織アルカイダやISに忠誠を誓う勢力が台頭し、政情が不安定な状態が続いており、テロを抑え込む能力がないとして政権への批判が高まり、2022年は1月と9月に軍が蜂起、2度にわたり当時の政権を転覆しています。
- コンゴ(旧ザイール)東部の北キブ州カシンディで、日曜礼拝中の教会で爆発があり少なくとも10人が死亡、ISが関与を主張しています。コンゴ軍はISと連携する地元の反政府勢力「民主同盟軍」(ADF)が実行したとみているといいます。コンゴ東部では携帯電話に使われるタンタルなどの鉱物を目当てに武装勢力が乱立し、紛争が続いているといい、ADFの攻撃による市民の犠牲者は2022年4月以降、少なくとも370人に上っています。一方、2022年は別の反政府勢力「3月23日運動(M23)」も活動域を拡大、M23を巡っては隣国ルワンダが支援しているとの疑惑があり、東アフリカ地域全体の外交問題に発展しています。
- パキスタン北西部ペシャワールのモスク(礼拝所)で2023年1月30日に起きた自爆テロで、地元警察は、事件に関与したとして容疑者23人を拘束しています。また、死者数は102人に達し、けが人は225人、30人以上が病院で手当てを受けているといいます。死者のほとんどが警察官だといいます。爆発が起きた際、モスクには最大400人がいたといい、モスクは警察や地元警察の本部やテロ対策部門などがある、厳重に警備された「レッドゾーン」内に位置していますが、実行犯はそうした警備をすり抜けて侵入しており、地元警察は、「自爆犯が警官の制服姿だったため、入場時の検査を行わなかった」と当時の警備体制について釈明しています。一方、当初、警察への攻撃を繰り返してきたイスラム武装勢力「パキスタン・タリバン運動(TTP)」が犯行声明を出しましたが、ISも声明を出し、TTPは声明を取り下げています。TTPとISはテロを繰り返しており、当局は警戒を強めています。
- トルコ南部を震源とする大地震で被災したシリアの刑務所から、収容中のIS戦闘員ら少なくとも20人が脱走したと報じられています。脱走が起きたのは、トルコ国境に近いシリア北西部の町ラジョの刑務所で、関係者は「地震後に受刑者が反抗を始めて刑務所の一部を掌握した。IS戦闘員とみられる約20人の受刑者が逃げた」と語っています。また、米中央軍は、2023年1月にイラクとシリアでISに対して米主導の作戦を43回実施し、11人を殺害、227人を拘束したと発表しています。イラク治安部隊と共に同国で33回の作戦を通じて9人を殺害し、29人を拘束、シリアでの作戦は少数民族クルド人主体の民兵組織「シリア民主軍」と共に10回実施、2人を殺害し、198人を拘束したとしています。なお、米軍単独の作戦はなかったといいます。
- 米政府は、東アフリカのソマリアでISの資金調達を担っていた幹部ら約10人を殺害したと発表しています。米国は「ソマリア政府の統治が及ばない地域が、過激派が自由に活動する拠点になっている」(米高官)とみて、ISや国際テロ組織「アルカイダ」系のアルシャバブなど過激派の掃討を続けていますが、過激派は分散して活動する傾向が強まっており、対応は難しくなっているといいます。殺害された幹部は元々、アルシャバブで資金調達や外国人戦闘員の訓練計画に携わっており、2012年に米財務省が制裁対象に指定、幹部はその後、ISに移っていたといいます。米国はソマリア政府と協力し、アルシャバブなど過激派の掃討や空爆を続けており、2023年1月20日にもソマリア政府の要請を受けて空爆を実施し、アルシャバブの戦闘員約30人を殺害しています。
(6)犯罪インフラを巡る動向
警察庁は、インターネット上の有害情報について、サイト管理者などに削除要請を行う対象を、これまで児童ポルノや違法薬物取引といった明らかに違法な情報と、「一緒に死のう」などと自殺を勧誘する書き込みに限られていたところ、2023年3月から大幅に拡充すると発表しています。手製銃(ゴーストガン)が使用された2022年7月の安倍晋三・元首相銃撃事件を受けた対策の一環で、銃器の製造や殺人・強盗の誘いなど7類型を対象に加えることとしています。有害情報が要人テロや、各地で頻発している「闇バイト」による強盗などを助長する犯罪インフラとなっており、こうした犯罪を防ぐ狙いがあります。ネット上では、各地の警察と、警察庁から委託を受けた民間事業者がそれぞれサイバーパトロールを実施しており、このうち民間事業者が集めた情報は、警察庁が2006年から別途運営を民間委託する「インターネット・ホットラインセンター」(IHC)に集約され、IHCがサイト管理者やSNS運営事業者などに対して削除要請を行っています(なおサイバーパトロールについては、警察庁の委託事業者が2023年秋以降、AI(人工知能)を活用して強化していくとのことです)。2023年3月以降、「拳銃などの譲渡」、「爆発物や銃器の製造」、「殺人、強盗、放火、強制性交等、誘拐など」、「臓器売買」、「人身売買」、「硫化水素ガスの製造」、「ストーカー行為」など7類型の有害情報を削除要請の対象に追加するほか、SNSの「闇バイト」で強盗の実行役を募る書き込みも削除要請の対象となります。例えば、「タタキ(強盗)募集」といった投稿のほか、単に「高額報酬」などをうたう文言でも、前後の文脈などで強盗の勧誘と判断できれば削除要請を行うとしています。課題は海外サイトへの対応や、削除要請が任意の依頼にとどまることで、海外サイトの管理者は削除要請に応じないケースが多く、国内でもサイト管理者と連絡がつかなかったり、要請に応じなかったりするケースがあるといいます。
SNS上の有害情報等については、グテレス国連事務総長も、SNSやその広告主らについて、反ユダヤ主義や人種差別主義、反イスラム主義などの過激な思想を助長するのに「加担している」と批判しています。ホロコースト(ユダヤ人大虐殺)の犠牲者を世界中で追悼する国際ホロコースト追悼記念日に際した演説で、「こうした存在は利益誘導により過激主義を亜流から主流に引き出す触媒となっている。利用者を画面に釘付けにするため憎悪を増幅させるアルゴリズムを使用することで、SNSのプラットフォームは加担者となっている。このビジネスモデルに資金を拠出している広告主らも同様だ」と述べています。グテレス氏は長らくSNSの力に懸念を表明し、規制当局に責任の明確化と透明性の改善を求めています。
警察庁の取り組みとは別に、SNSで特殊詐欺の「闇バイト」を募集する投稿について、兵庫県警は2023年度から、AIで自動的に検出するシステムを全国で初めて導入するということです。特殊詐欺グループの投稿を早期に割り出して警告文を送ることで、被害を減らしたい考えだといいます。特殊詐欺グループは、ツイッターなどで現金受け取り役の「受け子」や、現金引き出し役の「出し子」を募集することが多く、兵庫県警は約2年前から、ツイッターで「荷物を受け取り運ぶだけ」、「不正なカードを回収する仕事」といった不審な投稿を探し、「闇バイトは犯罪!!」、「捕まっても誰も助けてくれない」と警告文を送ってきました。新システムでは、AIが「闇バイト」、「高収入」、「副業」などの言葉を含む書き込みを抽出し、捜査員が特殊詐欺グループの投稿の疑いがあると判断した場合に警告文を送るとしています。また、SNSで大麻を販売譲渡する内容を書き込んだとして、京都府警組織犯罪対策3課などが、麻薬特例法違反(あおり、唆し)容疑で、会社員を逮捕していますが、これは京都府警が企業と共同開発したSNS上の薬物に関連する書き込みを自動検知するシステムを活用した初の摘発だということです。京都府警は、捜査効率の向上や捜査員の負担軽減のため、SNS上に書き込まれた薬物に関連する言葉を24時間監視するシステムを企業と共同開発、2022年4月から運用を始めています。一方、子供たちが裸の画像などを送らされる「自画撮り」による性被害の防止に向け、東京都内の企業が愛知県警などと連携し、スマートフォン用無料アプリ「コドマモ」の開発を進めているとの報道もありました。スマホでわいせつな姿を撮影するとAIが検知して削除を促す仕組みで、すでに試作版が完成し、2023年4月にも配信が始まるということです。報道によれば、コドマモをスマホに入れると、カメラで撮影された画像について、AIが肌の露出度などを基に性的画像かどうかを判定、わいせつな画像の疑いがあれば削除を促すメッセージが表示されるほか、保護者に通知が届くといいます。また、動画や加工機能のあるカメラアプリにも対応しており、外部から受信した性的画像を保存した時にも作動するといいます。児童ポルノ被害は増加傾向にあり、とりわけ自分の裸の画像や動画を大人に送るなどした「自画撮り」の被害が最多となっています。目立つのは、SNSで知り合った相手に画像の交換や買い取りを持ちかけられたり、交際相手から求められたりして画像を送ってしまうケースで、最近では、相談に乗るふりなどをしながら子供に近づき、手なずけようとする「グルーミング」も問題になっています。
在日ウイグル人でつくる日本ウイグル協会と人権NGO「ヒューマンライツ・ナウ」は、中国製監視カメラを分解調査した結果、日系企業7社の部品が使われていたと発表しています。国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ)は2019年、中国当局が新疆ウイグル自治区でウイグル族住民を大規模に監視し、施設に収容している実態を示す内部文書を入手したとして公開、ICIJは2022年5月、収容施設内部の写真とされる資料も報道しています。米国の調査会社がこの画像を分析したところ、中国の監視カメラ大手「ハイクビジョン」製カメラが使われたと判明したといいます。日本ウイグル協会からの依頼を受けた調査会社がハイクビジョン社の同種監視カメラを分解調査した結果、日系企業7社が製造したセンサーやフラッシュメモリーなどの部品が使われていたということです。両団体は会見で「中国当局の監視システムに使われているカメラへの部品の供給は、人権弾圧を助長するものだ」と批判、日系企業に説明責任を果たすよう求め、人権侵害が否定できない限りはハイクビジョン社との取引関係を断つべきだと提言しています。本コラムでは、ウクライナを攻撃したイラン製ドローンに日本製の部品が使われていたことも紹介していますが、企業は自らの製品やサービスが「犯罪インフラ」となっていないか、もっと能動的に取り組む必要がある(社会から強く求められている)と認識する必要があります。
偽の通信販売サイトで購入した商品が届かず、返金されないトラブルが相次いでいい、偽サイトの犯罪インフラ化が問題となっています。年末年始のセールなどで買い物の機会が増える12月と1月に被害が急増するとのことです。偽サイトは月1万件以上が新たに確認されており、実在しない会社名などが記されている場合が目立ち、専門家は「初めて利用する場合はひと手間かけて会社が実在するかなど確認してほしい」と呼びかけています。国民生活センターによると、偽の通販サイトを巡る相談件数は統計を取り始めた2021年度は1年間で約1万2千件、2022年度は4~12月末までで約1万1千件に上り、前年度同期の約6千件から2倍程度増えているといいます。デザインや掲載する商品写真だけでなく、URLが正規サイトとほぼ同じになっている偽サイトもあり、ひと目では判別が難しく、「カード情報を自ら入力しているため、不正に悪用された場合と違って返金されないケースが多い」とのことです。また、2021年度は11月までの多い月でも900件超だったが、12月は1260件、2022年1月は2603件と急増しています。消費者庁は、生活用品大手など知名度の高いメーカーの偽サイトを確認しており、「偽通販サイトは次々につくられ、サーバー所在地を示す国別IPアドレスが外国にあると取り締まりが難しい」と指摘しています。
▼国民生活センター その通販サイト本物ですか!?“偽サイト”に警戒を!!-最近の“偽サイト”の見分け方を知って、危険を回避しましょう!-
- インターネット通販で「注文した商品が届かない」「商品は届いたが偽物だった」「販売業者に連絡したいが連絡先がわからない」「通販サイトに注文後、偽サイトだったことに気が付いた」などの“偽サイト(実在の企業のサイトと誤解させるように作成された偽物のサイトなど)”に関する相談が全国の消費生活センター等に寄せられています。
- 偽サイトの手口では、大幅な値引きをうたうSNSやインターネット上の広告などから偽サイトに誘導され、クレジットカード情報を詐取されたり、銀行等への前払いや代金引換サービスなどで金銭を詐取されたりします。販売価格だけに目を奪われず、偽サイトの特徴を知って、“少しでも怪しいと感じたら注文しない”など、冷静に対応することが必要です。また、偽サイトのトラブルに遭ったと気が付いたら、素早い対処が重要です。
- 年度別相談件数:2021年度は12,648件、2022年度は12月末までで11,019件です。
- 2021年度の月別相談件数:4月は583件、5月は601件、6月は498件、7月は514件、8月は639件、9月は862件、10月は989件、11月は931件、12月は1,260件、1月は2,603件、2月は1,611件、3月は1,557件です。
- 相談事例
- 【事例1】検索サイトで検索して、通常の販売価格より大幅に値引きされている通販サイトにクレジットカード決済で注文したが、商品が届かない。
- 【事例2】通販サイトでクレジットカード決済したが商品は届かず、クレジットカードを不正利用された。
- 【事例3】通販サイトから指定された銀行口座に代金を振り込んだのに商品が届かない。
- 【事例4】SNS上の広告からアクセスした通販サイトに代金引換サービスで注文したが、偽サイトだった。
- 相談事例からみる問題点
- 販売価格が大幅に値引きされた広告や通販サイトには要注意
- 通販サイトのURLの表記がおかしい、通販サイトに販売業者の情報が適切に記載されていない、通販サイトの日本語の表記、文章表現がおかしい、リンクが適切に機能しないなどの通販サイトには要注意
- 支払い方法が、クレジットカードのみ、銀行口座等への前払いのみ、代金引換サービスのみなど、限定されている通販サイトには要注意
- 消費者へのアドバイス
- 通販サイトで商品を注文する前に、偽サイトの特徴を知って、少しでも怪しいと感じたら取引しない
- 公式通販サイトやその運営事業者の公式ホームページ等に、偽サイトに関する注意喚起情報がないか確認しましょう。
- もし偽サイトに注文したことに気が付いたら、支払い方法に応じて素早く対処しましょう
- 偽サイトへの対処は支払い方法によって異なります。早く対処した方が、返金される可能性や被害の拡大防止の可能性が高まります。
- クレジットカードの場合
- すぐにクレジットカード会社に連絡しましょう。
- 日ごろからクレジットカードの利用明細は定期的に確認し、不正利用の被害を早期に把握しましょう。
- 万が一不正利用の被害に遭った場合の被害額を最小限にとどめるための対策として、自分が利用しているクレジットカードの利用限度額を見直すことも一法です。
- 銀行口座等への前払いの場合
- すぐに振込先金融機関の窓口に連絡し、振り込め詐欺救済法(※)による救済を求める旨を申し出ましょう。併せて、最寄りの警察に被害を届け出るようにしましょう。(※)振り込め詐欺救済法(犯罪利用預金口座等に係る資金による被害回復分配金の支払等に関する法律)の詳細は「振り込め詐欺救済法Q&A(金融庁)をご確認ください。
- 代金引換サービスの場合
- 注文直後に偽サイトであると気が付いた場合、電子メール等でキャンセルの連絡をしましょう。連絡をすることにより商品が届かずに済んだケースがあります。
- 代金引換サービスで荷物が届いた場合でも、宅配業者等に代金を支払う前に、送り状に記載されている「依頼人」の情報を確認し、・注文した販売業者とは違う場合または注文した覚えがない場合は、代金を支払わず、受け取りを拒否しましょう。
- 代金を支払って荷物を受け取り、中身を確認して「偽物」が届いたとわかったという場合であれば、販売業者や送り状の「依頼人」(発送代行業者などの場合もあります)に連絡し、返品、返金を求めることになります。
- クレジットカードの場合
- 偽サイトへの対処は支払い方法によって異なります。早く対処した方が、返金される可能性や被害の拡大防止の可能性が高まります。
- 不安に思った場合や、トラブルが生じた場合は、すぐに最寄りの消費生活センター等へ相談しましょう
- 消費者ホットライン「188(いやや!)」番 最寄りの市町村や都道府県の消費生活センター等をご案内する全国共通の3桁の電話番号です。
- 通販サイトで商品を注文する前に、偽サイトの特徴を知って、少しでも怪しいと感じたら取引しない
- 「偽サイト」かどうかのチェックポイント
- サイトのURLの表記が、ブランドの正式な英語表記と少しだけ異なる。
- 日本語の字体、文章表現がおかしい。
- 販売価格が大幅に割引されている。
- 事業者の住所の記載がない。住所が記載されていても、調べてみると虚偽だったり、無関係の住所である。
- 事業者への連絡方法が、問い合わせフォームやフリーメールだけである。
- 支払い方法が、クレジットカード決済のみ、銀行口座等への前払いのみ、代金引換サービスのみなど、支払い方法が限定されている。
- 通販サイト内のリンクが適切に機能しない。
- ※上記のいずれかの項目に該当する通販サイトであっても、偽サイトではない場合があります。また、いずれの項目にも該当しない通販サイトであっても、偽サイトの場合があります。
偽サイト関連としては、インターネットの「検索連動型広告」を悪用した詐欺が頻発しているといいます。格安の商品で買い物客を誘い、クレジットカード情報などをだまし取る偽の通販(EC)サイトの広告がフェイスブック(FB)やインスタグラムなどのSNSに掲載され、消費者被害につながっているというものです。例えば、2022年10月以降、JR東日本のサービス「えきねっと」をグーグルで検索すると、本物そっくりの偽サイトが画面最上部の広告枠に表示される問題が繰り返し起きました。偽サイトが広告表示される問題は、米IT大手のグーグルだけでなく他の検索サービスでも過去に見つかっており、「グーグルの審査の緩さ」が犯罪インフラ化している状況といえ、広告審査の強化が求められます。グーグル広告は誰でも使えるスピード感が強みで、報道によれば、例えば寒い日に『カシミヤマフラー』という検索語で広告を設定すれば、早ければ数十分で表示が始まる」といいます。一方でデメリットもあり、「これまでの経験では、ヤフーなどは広告掲載前に広告主のサイトや詳細な本人確認に時間をかけるが、グーグルは掲載後になるケースがある。機械(システム)による審査では、不正サイトを排除しきれていない」、「検索結果の最上部に、公式サイトよりも優先して偽サイトを表示するケースがあり非常に危険だ」、「この問題を放置すると、広告収入を得るために詐欺を黙認しているともみられかねず、広告表示を排除する機能を使うユーザーの増加や、インターネット広告全体の信頼低下につながりかねない」などの指摘がなされています。報道で、デジタル市場の問題に詳しい板倉陽一郎弁護士が、「広告の審査を直接規制する法令がなく、対応は簡単ではない。しかし、違法なサイトを掲載しつづけることは、違法行為の幇助ともいえる。消費者庁や経済産業省には、行政指導や刑事告発なども含め、より積極的に動いてもらいたい」と指摘していますが、正に正鵠を射るものと言えます。
ガソリンスタンド(GS)で、銀行口座から即時決済する「デビットカード」を使って、外国人グループがタイヤなどの高額商品をだまし取る不正取引が多発しているといいます。2023年1月15日付産経新聞によれば、少なくとも計約9千万円分の被害が判明しているといい、給油の決済で行われる「1円オーソリ」という特殊な承認手続きを悪用する新手の不正で、被害が広がっている恐れがあるとのことです。報道によれば、外国人グループが利用したカードはスリランカの銀行が発行、取引に不可解な点が多く、銀行内の人間が不正に加担した可能性もあり、マネー・ローンダリング対策の観点からも、警察など当局による不正取引の実態の解明が急務です。実際に被害のあった茨城県のGSを運営する会社によると、同店には2020年春から8人程度の外国人グループがメンバーを変えながら繰り返し来店、デビットカードでタイヤの購入を繰り返していましたが、半年後に突然、スリランカの銀行が日本側に数千万円分の返金請求を行い、問題が発覚したというものです。また、同店で販売したタイヤの転売も確認されているといいます。GSでは給油量に応じて決済金額が決まるため、一定の金額を下回る安価なカード決済では、いったん1円でカードの有効性を確認する「1円オーソリ」という手続きがシステム上で行われ、その後に実際の購入額で決済される仕組みとなっているといいます。ただ、VISAなど大手決済カードの国際ブランドは、GSの店舗内で行われるタイヤなどの物品販売では1円オーソリを認めておらず、銀行などの決済事業者による返金請求を認めています。外国人グループはこうしたルールを悪用し、1円オーソリのシステムを店内販売にも導入している店を探し、国際決済が適正に行われたようにみせかけて不正取引を繰り返していたとみられています。外国人グループは1円オーソリが適用されるように少額による分割での決済処理を求めており、カード会社はこうした決済に容易に応じないよう店側に周知徹底することも求められるほか、同じ額が繰り返し決済されたにもかかわらず、不自然な分割決済を検知できなかったシステムの問題もあり、ニコスが事前に不正取引を疑い、スリランカ側の返金に応じない対応がとれなかったのかの検証も求められています。本来、こうした取引(閾値を超えないよう分割された取引)は、AML/CFTの観点から銀行などにおいては「疑わしい取引」として慎重な対応が求められていますが、犯罪収益移転防止法上の特定事業者であるクレジットカード事業者におけるAML/CFTの取り組みレベルの底上げを図る必要がありそうです。クレジットカード関連では、架空の人物名義のクレジットカードで食品をだまし取ったとして、埼玉県警はトルコ国籍の男を詐欺容疑で逮捕しています。カードは、氏名と生年月日が一致する口座があれば作れるインターネット上の手続きで発行されていたといいます。埼玉県警は、背後に簡易な審査を悪用する詐欺グループがいるとみて調べているといいます。報道によれば、3枚のカードは別々の名義で、氏名と生年月日は引き落とし口座と同じだったものの、登録された住所や連絡先は一致していなかったといい、うち1枚では、住所が札幌市なのに、口座では浜松市在住と食い違っていたものの、カードが発行されていたといいます。ネット手続きによるカード発行は利便性が高い一方、本人確認の甘さが指摘されています。不正に作られたカードは詐欺グループの資金源になっていること、また、前述同様、AML/CFTの取組みレベルとして極めて杜撰としか言いようがなく、AML/CFTの観点からも対策が急務だと言えます。
決済アプリ「メルペイ」で他人のアカウントを使って電子たばこを買ったとして、神奈川、岩手、福岡など8県警の合同捜査本部は、日本語学校生を不正アクセス禁止法違反と詐欺の疑いで逮捕しています。中国人詐欺グループが全国でメルペイを悪用し、たばこを購入したとして2022年6月以降、男女13人を逮捕、容疑者は電子決済のQRコードを作製したとみられ、グループ上層部の技術者とみて調べているといい、「バーコード生成役」と呼ばれる人物の逮捕は全国で初めてだといいます。報道によれば、事件は、中国で他人のメルペイのアカウントを乗っ取りQRコードを作製、SNSで日本在住の中国人に送信し、東京都江戸川区のコンビニで、このアカウントを店員に提示し、加熱式たばこ12カートンなど計約7万円分をだまし取ったというものです。中国では日本たばこの人気が高まっており、都内などにある数カ所の集荷場所に集められた後、中国系貿易会社に転売され中国に輸出されており、同本部は集荷場所から約2千カートンのたばこを押収、流通ルートの解明も進めているといいます。なお、グループでは捜査が届かないように役割が細分化され、同本部は今回逮捕した男のほかに、フィッシングサイト作成者やたばこの受け取りを担ったメンバーがいるとみていますが、商品を購入する「買い子」や運転手はSNSや口コミで募集し、1回2万円程度の報酬が払われていたといいます。
インターネット通販サイトなどで、新たな決済手段として若者を中心に利用が増加している後払い決済の「BNPL」が、銀行などの金融機関で資金を借りられない人の新たな現金調達手段として使われ始めているといいます。BNPLで購入した商品を売却して現金化するというものですが、インターネット上ではこうした手続きを代行する「現金化サイト」も複数存在、新たな多重債務問題に発展する可能性もあり、正に、「BNPLの犯罪インフラ化」の状況と言え、金融庁や消費者庁なども注意を呼びかけているといいます。BNPLは「Buy Now Pay Later」の頭文字を取った決済サービスで、日本語では後払い決済などとも言われています。事後に決済される金融サービスではクレジットカードが有名ですが、BNPLは新しいサービスで、クレカ事業者を規制する割賦販売法の対象外となる場合もあり、明確な法規制は整備されていないうえ、利用開始にあたっては本人確認や返済能力の調査なども義務付けられておらず、クレカが作れない人でも使えるのが最大の特徴となっていますが、正にそうした「利便性」が「脆弱性」ともなり、「犯罪インフラ化」に直結しているといえます。
住宅やマンションの空き部屋などに有料で旅行者を泊める「民泊」について、国土交通省は管理業者の登録要件を緩和する方針を固めたと報じられています。不動産分野での資格や実務経験がなくても、新たに設ける講習を受ければ登録できるようにし、参入のハードルを下げることで、地方にも民泊を普及させる狙いがあるとされます。一方で、民泊は薬物や特殊詐欺における現金の受取場所や「架け子」の拠点とされるなど、犯罪インフラ化が指摘されています。安易な管理で犯罪を助長してしまわないよう一定の歯止めが必要ではないかと考えます。
生活保護受給者の70代男性が自宅で死亡したように装った虚偽の死体検案書を保険会社に提出し、遺品整理や清掃の費用を補償する保険金100万円をだまし取ったとして、大阪府警は、保険代理店の実質経営者ら3人を詐欺などの疑いで逮捕しています。報道によれば、実際には、男性は路上で亡くなっていたといいます。容疑者らは2018年以降にこの男性を含め計17人に関する同様の保険請求で総額1000万円を受け取っており、うち16人は生活保護の受給者だったことも判明、大阪府警は生活困窮者らを囲い込む「貧困ビジネス」を展開していた疑いもあるとみて、実態解明を進める方針だといいます。男性は2013年5月に集合住宅に入居後、同社の仲介で保険会社とこの保険契約を締結、入居と同じ月から生活保護を受けるようになっており、大阪府警は容疑者らが保護費から保険料を徴収した疑いもあるとみているといいます。2022年7月、不正請求を疑った保険会社の刑事告訴を受理、捜査したところ、男性は2020年2月、大阪市内の路上で亡くなっていたことを確認、死因に犯罪性はなかったとされ、監察医が作成した正規の死体検案書は死亡届とともに役所に出されていたといいます。こうした「貧困ビジネス」が暴力団等の犯罪組織の資金源となっていることは知られており、新たな手口として警戒が必要だと言えます。
災害復旧事業の補助額を決定する国の査定で、現地に行かない「机上査定」の対象が2022年度から拡大、自然災害が多発しており、自治体からは迅速な復旧や負担軽減につながると歓迎の声が上がる一方、不適切な申請を見逃す可能性も指摘されています。報道によれば、机上査定で済ますことができる対象の基準は2021年4月から、主に国土交通省関連は事業費300万円未満から1000万円未満へ、農林水産省関連では200万円未満から500万円未満に拡大、激甚災害の場合はさらに範囲が広がり、査定見込み件数の約9~7割を机上査定の対象にできることになります。一方、不適切な申請が机上査定で見過ごされる可能性については、「リモートによる現地の確認が技術的に可能になっている。復旧の迅速化と補助金の適正化は両立可能だ」と説明していますが、ある査定官は「机上査定の場合、申請者側の資料を見て判断するので限界がある。災害前に正常に機能していたかどうかまで確認するのは難しい」と指摘、農水省は「災害が頻発する中、自治体の技術系職員の数が減少している。適切な審査を確保しつつ、デジタル技術の活用などで災害査定事務の効率化を図ることが重要だ」としています。これまでのさまざまな公的給付制度を見る限り、審査基準や手続きが緩くなれば、それを悪用する者が増加すること(犯罪インフラ化すること)は自明であり、(公的な資金を投入するものである以上)厳格な不正防止対策を講じることは当然の務めだと言えます。関連して、2023年1月31日で特例措置が終了した雇用調整助成金(雇調金)については、不正受給額が187億円にも上りました。公表された手口をひもとくと、社会保険労務士が暗躍する姿も浮かび上がってくる(社会保険労務士の専門家リスクの犯罪インフラ化)と報じられています(2023年1月31日付毎日新聞)。報道によれば、自分のためというよりも顧問先のためにやった事例も多いようですが、企業が知らないうちに社労士が勝手に休業日数を水増しする悪質なケースもあったようです。企業に入った助成金の何割かを報酬として受け取る契約をする場合もあり、自分の収入増につながれば不正を働く社会保険労務士も出てくるのは十分考えられるところです。さらに、社会保険労務士以外にもコンサルタントという名目で不正を指南するケースもあるといいます。本件のように不正受給が多発した背景には、企業を助けるための厚生労働省の「迅速支給」という方針が逆に犯罪を助長したともいえ、迅速支給に向け、申請書類を大幅に簡素化したことが不正の温床になったと言えます。なお、報道によれば、厚生労働省関係者が「リーマン時でも不正案件の調査は10年かかった。今回もそれぐらいの期間がかかるのではないだろうか」と指摘している点は極めて残念です。専門家リスクとしては、元会計士が本来認められていない社会福祉法人の売買を通じて、同法人から資金を流出させた事件もありました。また、虚偽の内容を記した申告書を税務署に提出し、所得税の還付を不正に受ける事案が横行しているとして問題となっています。「Z世代」の若者らが指南役の業者とSNSでやりとりして安易に申告するケースが目立つといいます。国税庁によると、追徴課税した不正還付は2022年6月までの1年間で、全国で約200件に上り、国税当局は不正に関与した人物を告訴するなど警察と連携を強化しているといいます。報道によれば、女性は、友人から聞いた指南役となる代行業者に連絡し、電子申告・納税システム「e―Tax」での申請に必要なIDやパスワード、振込口座などの情報を提供、実在する企業から報酬を受け取り、源泉徴収されたと装った女性名義の還付申告書を業者が作成し、税務署に提出したといい、女性は調査に対し、「お小遣いほしさにやった」などと説明していたといいます。女性は代行業者と会うことなく、やりとりは無料通話アプリで行っており、業者への手数料は還付金の2~3割の約束だったが、税務署が申告内容の不審な点に気付き、還付されなかったということです。
子どものアダルトサイト閲覧を制限するため、年齢認証を義務付ける新法が米国や欧州大陸、英国で次々と施行されていますが、抜け穴の存在や個人情報保護上のリスクなど、さまざまな問題点も浮上、年齢認証自体が犯罪を助長する側面もあるとの指摘もあります。2023年1月21日付ロイターの報道で、データ専門家が、年齢認証その他の身分証明は、情報の収集、蓄積、漏えいの恐れを通じて、全年齢のネットユーザーの個人情報保護を脅かすとの指摘をしているというものです。「ソーシャルメディアのサイトは、既に極めて個人的なデータを膨大に収集している。デジタル身分証明を通じて、これ以上の収集を奨励、あるいは強制されるべきではない」としています。例えばメタは、ユーザーの投稿内容や他アカウントとのやり取り、特定のコンテンツを元にAIが年齢を推測する方法も取り入れていますが、この方法こそIT企業がいかに大量のデータを収集しているかを示す証左だと指摘しています。さらにメタは、自撮り動画をスキャンして顔認証を行い、ユーザーの年齢を分析するYotiという技術も採用、認証が済み次第、データは消去すると説明していますが。フランス国立情報・自由委員会(CNIL)は2022年、顔写真等のスキャンは、特にアダルトサイトに要求された場合には脅迫に利用される恐れがあるとし、現在使用されている全ての年齢認証方式に欠陥があるとの考えを示しています。
全国の大学や高校、中学に3日連続で爆破や殺害を予告するファクスが次々に届く事件があり、一部の学校は休校や早退などの対応を取り、影響は子どもたちにも広がりました。この直前、ネットの闇の掲示板に関与をほのめかす投稿があったことがわかり、各地の警察が威力業務妨害容疑で捜査を始めています。脅迫文への関与をほのめかす投稿があった闇の掲示板は、所在を知っている不特定多数が匿名で出入りしており、ネットの誹謗中傷問題に取り組む弁護士を攻撃する書き込みをしたり、企業や官公庁などに爆破や殺害予告を送ったりする人物が情報交換をする場として使われているといいます。2012年ごろにつくられ、「恒心教」と呼ばれていますが、宗教とはなんの関係もなく、近年、この掲示板に集う人たちの行動がさらにエスカレートしている状況にあります。中傷や脅迫にとどまらず、企業のサーバーをハッキングして盗み出したとする個人情報を投稿する行為も目立っており、2022年、企業が公表した不正アクセスによる情報の流出被害の多くが、この掲示板での動きに関係しているのではないか、という専門家の指摘もなされているほどです。ここまでくれば、もはや愉快犯ではなく、不正アクセスを仕掛けるサイバー犯罪者だと言ってよく、闇の掲示板が「犯罪インフラ化」していると言えます。
伝染病予防で肉製品の持ち込みが禁止されている中国から鶏肉を国際郵便で密輸したとして、大阪府警は、中国籍の会社員の女を家畜伝染病予防法違反(輸入禁止)の疑いで逮捕しています。報道によれば、女は遅くとも2018年頃から中国から鶏肉や豚肉など複数の肉製品を持ち込んでおり、大阪府警は高値で販売していたとみて流通先を調べているといいます。中国の肉製品を巡っては、感染力が強い伝染病が現地で度々発生し、日本では輸入を禁止する措置が取られてきましたが、近年は国際郵便を悪用して密輸するケースが目立っており、農林水産省によると、国際郵便で海外から密輸された肉製品などの摘発件数は2019年の約1万件から2021年は約5万件まで増え、このうち約8割は中国からのものだったということです。また、報道によれば、関西国際空港の動物検疫所では2018年4月~2022年10月、容疑者や店宛ての国際郵便で34回にわたり輸入禁止の加工食品が見つかり、容疑者は何度も警告を受けていたといい、国際郵便の持つ犯罪インフラ性に止まらず、輸入禁止とされるモノが繰り返し国際郵便を通じて届いてしまうという怖さを実感します。
愛知県蟹江町で乗用車を盗んだとして六代目山口組の系列組織の幹部らが逮捕され、警察は自動車盗が暴力団の資金源になっているとみて詳しく調べていると報じられています。盗んだ車は中古車の販売をしている知人とその妻に転売されていて、この夫婦も盗まれたものと知りながら車を購入したとして逮捕されています。
インターネットでの中古品買い取りで業者が先に現金を振り込む「先払い買い取り」を装い、違法に貸金業を営んだとして、茨城県警が東京在住の自称会社役員の男ら11人を貸金業法違反(無登録営業)と出資法違反(超高金利)容疑で逮捕しています。この手口を巡る摘発は全国初だといい、違約金名目の利子の返済が困難になるケースが相次いでおり、警察庁や金融庁が注意を呼び掛けています。報道によれば、男らは中古品買い取り業を装っていましが、実態はなく、古物売買に不要な年収などの情報を客に求めていたといいます。茨城県警は、先払い金を貸付金、違約金を利子とみなし、古物売買を装った実質的なヤミ金と判断、ほとんどの客が物品の売買ではなく、借金目的で契約を結んでいたとみています。
経済産業省は、クレジットカードの不正利用防止に向けた対策をまとめています。カードの不正利用被害額は2021年通年で約330億円と過去最悪となっており、特に番号盗用による被害が9割で、メールなどで偽サイトに誘導しカード番号などを抜き取る「フィッシング」が急増、2021年の報告件数は2020年比2.3倍の52.6万件にも上り、経済産業省はカード各社にフィッシング対策強化も要請しているところです。今回策定された対策は、カード発行会社や電子商取引(EC)サイト事業者に、カード利用者の本人確認のための「ワンタイムパスワード」や生体認証などの導入を義務づけることが柱で、2024年度末を期限としています。具体的には、(1)カード情報の漏洩防止(2)不正利用防止(3)犯罪抑止・広報周知を柱として対策強化に取り組むとし、ECサイトなどのログイン時に一定時間のみ有効な数字列を発行する「ワンタイムパスワード」や、指紋や顔を事前登録して照合する生体認証を通じてカードの利用者が本人であることを確かめる仕組みの導入を義務化すると明記(例えば、決済時に利用履歴がない場所や異常を検知すると、生体認証などセキュリティの高い方法での確認も求めるとしています)、すべてのEC加盟店でVISAやマスターといった国際ブランド6社でつくる団体が提供する「EMV-3Dセキュア」と呼ぶ本人認証のサービス規格を導入してもらうとしています。さらに、セキュリティ対策のガイドラインを改定し、新たな規定を盛り込むこととしています(ガイドラインは割賦販売法に基づき法的拘束力をもっています)。また、カード番号の漏洩対策では加盟店を対象に、ECサイトのウイルス対策を必須とするほか、カード情報の漏洩時の被害拡大防止に向け、利用者への通知も迅速にするなどとしています。さらに、カード会社には飲食や小売店など加盟する店舗や企業を管理する義務があり、これまで偽ブランド品を販売するような悪質な加盟店の排除を求めてきたところ、サイバー犯罪の増加に伴い、カードの不正利用被害も広がっていることから、EC加盟店も監督対象にするとしています。EC加盟店を監督対象にするのは初めてとなります。
▼経済産業省 クレジットカード会社等に対するフィッシング対策の強化を要請しました
- 経済産業省、警察庁及び総務省は、クレジットカード番号等の不正利用の原因となるフィッシング被害が増加していることに鑑み、クレジットカード会社等に対し、送信ドメイン認証技術(DMARC*)の導入をはじめとするフィッシング対策の強化を要請しました。
- 昨今、悪意のある第三者が、クレジットカード会社等を騙った電子メール等を利用者に送信し、利用者を当該電子メール等のリンクから偽サイトに誘導したうえで、利用者のクレジットカード番号等を詐取する攻撃(いわゆるフィッシング)が多発しています。
- フィッシングによるクレジットカード番号等の詐取は、クレジットカード番号等の不正利用の一因となっており、利用者保護の観点から、クレジットカード会社等において適切な対応が取られることが求められます。とりわけ、フィッシングメールがドメイン名をなりすまして送信されることが多い点に鑑みると、送信ドメイン認証技術のうち、フィッシングメール対策に特に有効とされているDMARCを導入し、ドメイン名のなりすましを検出するとともに、自社を騙るフィッシングメールが利用者に届かなくなるよう利用者の受信を制限することが重要です。
- 経済産業省、警察庁及び総務省は、こうした状況を踏まえ、クレジットカード会社等に対してフィッシング対策の強化を要請しました。概要は以下のとおりです。
- DMARCの導入によるなりすましメール対策
- 利用者向けに公開する全てのドメイン名(メールの送信を行わないドメイン名を含む)について、DMARCを導入すること。
- DMARC導入にあたっては受信者側でなりすましメールの受信拒否を行うポリシーでの運用を行うこと。
▼経済産業省 「クレジットカード決済システムのセキュリティ対策強化検討会」の報告書を取りまとめました
▼クレジットカード決済システムの更なるセキュリティ対策強化に向けた主な取組のポイント
- 漏えい防止(クレジットカード番号等の適切管理の強化)
- EC加盟店・アクワイアラー等
- EC加盟店
- 従前の非保持化等の対策に加え、クレジットカード番号等の適切管理義務の水準を引き上げるべく、ECサイト自体の脆弱性対策を必須化(システム上の設定不備改善、脆弱性診断、ウイルス対策等)【セキュリティ対策GL改定】
- アクワイアラー等からの調査に基づき、ECサイトの脆弱性対策の実施状況を申告
- 「ECサイト構築・運用セキュリティガイドライン」(IPA:今年度末策定)等を踏まえた自主的取組の充実
- アクワイアラー等
- 加盟店管理(セキュリティチェック)におけるEC加盟店調査事項の対象拡大【セキュリティ対策GL】
- 継続的検討事項(更なる制度的措置の必要性)
- 加盟店管理の実効性担保に向けた国の監督の関与の在り方
- EC加盟店
- 決済代行業者等
- 継続的検討事項(更なる制度的措置の必要性)
- PSPの実態整理を踏まえた監督の在り方、EC決済システム提供者の範囲の明確化
- 継続的検討事項(更なる制度的措置の必要性)
- クレジットカード番号等取扱業者
- イシュアー等
- 最新の国際セキュリティ基準「PCI DSS v4.0」準拠への移行(~2024年3月末)
- 継続的検討事項(更なる制度的措置の必要性)
- EC加盟店を含む、クレジットカード番号等取扱業者でのセキュリティ対策の表示等
- イシュアー等
- 漏えい時のインシデント対応の強化
- EC加盟店・決済代行業者等
- 漏えい時の利用者への連絡・公表の早期化等【業界マニュアル改定】
- 日本クレジット協会(認定割賦販売協会)
- クレジットカード業界のセキュリティ対策に関する体制強化(セキュリティ問題の原因・分析等)
- 継続的検討事項(更なる制度的措置の必要性)
- 漏えい時の国への報告、被害拡大防止・利用者保護に向けたクレジットカード決済サービスの即時停止・再開の判断の明確化
- EC加盟店・決済代行業者等
- EC加盟店・アクワイアラー等
- 不正利用防止
- 利用者本人の適切な確認の強化
- イシュアー・EC加盟店
- 不正利用防止措置として、利用者本人しか知り得ない・持ち得ない情報(ワンタイムパスワード・生体認証等)による利用者の適切な確認(本人認証)の仕組みを順次導入(~2024年度末)【セキュリティ対策GL改定】
- 原則全てのEC加盟店で、国際的な本人認証手法「EMV 3DS」の導入【セキュリティ対策GL改定】
- 利用者の適切な確認の実効性を担保するため、イシュアーのリスクベース認証の精度の向上(利用者の行動分析、AI等を活用した利用者の行動分析等)
- 継続的検討事項(更なる制度的措置の必要性)
- 不正利用防止措置の主体の整理、利用者本人の適切な確認の実効性担保に向けたモニタリング等
- イシュアー・EC加盟店
- 不正利用情報の共有化と活用
- 業界横断的な取組
- イシュアー間の不正利用情報の共有に向けた枠組みの検討・連携の促進
- 業界横断的な取組
- 利用者本人の適切な確認の強化
- 犯罪抑止・広報周知
- フィッシング対策
- イシュアー
- サイトのテイクダウンや送信メールのドメイン管理(DMARC)等によるフィッシング詐欺への自衛・推奨
- イシュアー
- 警察等との連携による犯罪抑止
- 国・イシュアー・EC加盟店
- 警察庁サイバー警察局や都道府県警等の連携強化による犯罪抑止【業界マニュアルへの反映等】
- 国・イシュアー・EC加盟店
- 利用者への広報周知
- 日本クレジット協会・イシュアー・国
- クレジットの安全・安心な利用に関する利用者への被害防止のための措置の広報・周知(利用明細の確認、EMV3DSのワンタイムパスワード設定等)
- 日本クレジット協会・イシュアー・国
- フィッシング対策
関連して、三菱UFJニコスは2023年2月中にも、クレジットカードの不正利用を検知するシステムにAIを導入するということです。不正利用の手口をAIに学習させ、不正を検知すると取引を停止するものです。新型コロナウイルス下でネット通販など非対面の取引が拡大し、なりすまし利用が増えていることから、AIを導入して巧妙化した手口にも対応し、不正検知の精度を高める狙いがあるといいます。AI開発のPKSHA TechnologyとITサービスのSCSKと連携、これまでは人の目で不正利用を判断することが多く、確認に時間がかかったところ、三菱UFJニコスは利用者がカード決済をするたび、その取引が不正利用である確率を自動的に点数化、一定の点数以上になると不正利用の確率が高いと判断し、取引を保留したり止めたりするほか、不正利用が起きた場合は、AIがその手口を1日ほどで学習し、類似の被害を防ぐとしています。
2023年1月25日付日本経済新聞の記事「安全保障の脅威からスマホ守れ 北村滋氏」は、スマホの犯罪インフラ性について、安全保障の観点からの指摘は新鮮です。大変参考になりましたので、以下、抜粋して引用します。
ランサムウエア攻撃に関する最近の報道から、いくつか紹介します。
- 身代金要求型のコンピューターウイルス「ランサムウエア」に感染したとして、全国の警察に寄せられた被害相談が2022年に230件あったといいます。2021年(146件)から57.5%増加しており、同庁は「極めて深刻な情勢が続いている」としています。2022年は、攻撃を受けた病院が新規の患者受け入れを休止したり、取引先が感染して工場が稼働停止に追い込まれて企業のサプライチェーン全体に影響したりする被害が出ましたが、警察庁によると、半期ごとの被害相談は、2020年下半期(7~12月)21件▽2021年上半期(1~6月)61件▽2021年下半期85件▽2022年上半期114件▽2022年下半期116件と右肩上がりで増えている状況です。なお、社外から社内ネットワークに接続するVPN機器や、職場のパソコンを遠隔で操作するリモートデスクトップから侵入されるケースが引き続き目立っており、警察庁は、パソコンのOSやVPN機器を最新なものに更新するなど、システムの脆弱性を埋める対策をとるよう呼びかけています。一方、警察庁の観測で把握される、システムの欠陥を探る不審なアクセスの数も増加し続けており、2022年は、センサー1カ所あたり1日7707.9件で過去最多を更新、5年前の4倍に増えています。
- ランサムウエア攻撃の被害の拡大に加え、盗んだデータを誰もが閲覧できるウェブサイトで暴露するなど手口の悪質化も進んでいます。積極的に拡散を図って関係者を揺さぶる「劇場型」といえ、各国が国際捜査で連携し、被害抑止を急ぐ必要がある状況です。また、ハッカーが被害企業の取引先に直接連絡を取るなど、拡散の手口も多様化しています。一方、特に米国で減少するなど、企業のサイバー対策の進展や、支払いの法規制を強める米政府の動きが影響した可能性があります。ただ、EUなどではウクライナ危機の地政学的リスクも加わり増加傾向にあるほか、日本もこれまで少なかったことから増えていく可能性は高いと考えられます。なお、米司法省は2023年1月、1億ドル超の身代金を稼いだとされる大手集団「Hive」のネットワークを逆にハッキングし、サーバーを押収してサイトを停止、犯行を未然に防いだと発表しています。奏功しなければ計1億3000万ドル(約170億円)の被害が出た恐れがあったとしています。捜査には英国やフランス、カナダなど10カ国超の機関が参加したといい、国際連携の重要性が増しています。その点、日本も取り組みの一環として、被害が広がるウイルスの一種について、暗号を強制解除する技術を確立、これまでに少なくとも国内企業3社でデータの回復に成功し、欧州の複数の捜査機関に技術を提供しています。今後は暗号解除可能なウイルスの対象を広げるなど技術を進化させるとともに、海外の捜査当局と連携して攻撃グループを摘発するなどして、抑止効果を高める必要があるといえます。
- 米チェイナリシスはランサムウエア攻撃により支払われた身代金が2022年、前年から40%減ったとする調査結果を発表しています。追跡しきれていない支払いがある可能性はあるものの、身代金の支払いを拒否する企業が増えていると同社は見ています。ただし、攻撃自体が激減したという兆候はなく、米情報分析会社のレコーデッド・フューチャーによると、攻撃グループが2022年に闇サイト上で公開した被害事案は2566件で、前年比の減少は10.4%にとどまっています。また、ランサムウエア攻撃からの復旧支援を手掛ける米セキュリティ企業のコーブウエアによると、身代金を支払った被害企業の割合は2022年に41%で前年の50%から大きく減少しています。チェイナリシスは支払い拒否の増加は、米財務省外国資産管理局(OFAC)が制裁対象に指定したサイバー犯罪組織に金銭を支払う企業に対し法的責任を課す可能性があると勧告していることが理由の一つとみています。また、攻撃の対応費用をカバーするサイバー保険の提供企業が、身代金を支払わずに復旧できる対策を加入者に求めていることも背景にあるといいます。
- 2021年に徳島の病院にサイバー攻撃を仕掛けた、ハッカー犯罪集団「ロックビット3・0」が2022年末、カナダの病院への攻撃を謝罪し、コンピューターウイルスによって暗号化したデータの復元プログラムを公開していたことが判明したと報じられています。ハッカー集団が攻撃の誤りを認めるのは異例のことです。世論の反発が強い病院への攻撃を避け、捜査当局の追及をかわすのが狙いとみられています。2022年末にロックビットがダークウェブに謝罪文と復元プログラムを公開し、誰もが手に入る状態にしましたが、シックキッズは独力でシステムの8割以上を復旧させ、通常診療を再開させたといいます。ロックビットはランサムウエア開発を指揮する幹部と、実際に攻撃を仕掛ける実動部隊との分業態勢を敷いており、ロックビットの幹部は取材に「病院への攻撃を禁じているが、(実動部隊が)間違って攻撃することはあり得る」と語っています。なお、ロックビットは2021年10月に徳島県つるぎ町立半田病院をランサムウエアで攻撃し、新規の患者受け入れ停止に追い込いましたが、幹部は攻撃を知らなかったと釈明しています。
- 2023年1月21日付日本経済新聞の記事「敵を知って臨め!ランサムウエア被害からの復旧手順」は、具体的な対応の流れや注意点等が紹介されており、参考になります。以下、抜粋して引用します。
企業を狙うランサムウエア攻撃の脅威を受け、ハッカーとの交渉を担う「交渉人」が登場してきたといいます。この点について、2023年1月15日付日本経済新聞の記事「サイバー脅迫に「交渉人」 身代金減額、委任リスクも」で詳しく報じられていますので、以下、抜粋して引用します。
日本におけるサイバー攻撃への対応について、各種報道がありましたので、いくつか紹介します。
サイバー攻撃で電源オフはNG 時代遅れの日本の教育(2023年1月28日付日本経済新聞)
なりすましメール対策、日本は世界最低水準 米社調べ(2023年1月27日付日本経済新聞)
USB一時紛失の尼崎市、今度は職員が飲酒後に公用スマホ紛失…職場に隠し虚偽説明も(2023年1月27日付読売新聞)
サイバー攻撃、日本に矛先 3年で攻撃数倍増(2023年1月22日付日本経済新聞)
社員PCへの攻撃どう守る セキュリティ企業幹部に聞く(2023年2月10日付日本経済新聞)
病院に対するサイバー攻撃への対応について、毎日新聞が連載をしており、具体的な状況がよくわかり大変参考になりました。以下、抜粋して引用します。
サイバーセキュリティ 病院スタッフは常に基礎知識と危機意識を(2023年2月8日付毎日新聞)
サイバー攻撃への対策強化 病院経営に反映される仕組みを(2023年2月9日付毎日新聞)
サイバー攻撃、手口巧妙化 国境超えた捜査連携、さらに(2023年2月10日付毎日新聞)
サイバー防衛についても、各種報道がありましたので、以下、抜粋して引用します。
サイバー空間 露と攻防…ウクライナ側ハッカー 進軍妨害 政府サイト改ざん(2023年1月30日付読売新聞)
衛星のサイバー防衛、強化急げ ガイドライン策定進む(2023年2月2日付日本経済新聞)
サイバー攻撃対策、重要インフラ企業に報告義務(2023年2月3日付日本経済新聞)
最後にAIの関する最近の報道から、いくつか紹介します。
米・EU、AI技術巡る包括協定で合意 他の国も参加呼びかけへ(2023年1月28日付ロイター)
判決にAI利用で波紋 「チャットGPT」に疑問の声も―コロンビア(2023年2月5日付時事通信)
(7)誹謗中傷/偽情報等を巡る動向
2020年の総務省令改正で、インターネット投稿の発信者情報の開示対象に電話番号が新たに加わったことを巡り、省令改正前の投稿も電話番号を開示対象とできるかが争われた2件の訴訟の上告審判決で、最高裁第2小法廷は、「開示対象に含まれる」との初判断を示しています。高裁段階では判断が分かれていましたが、今回の最高裁判決で司法判断が統一されています。裁判官4人全員一致の意見で、情報通信を取り巻く技術や社会環境が変化する中で、法律よりも改正に必要な手続きが緩やかな省令で開示対象を定めるのは、機動的な対応を可能にするためだと指摘、こうした省令の趣旨に鑑みれば、省令改正前の投稿も電話番号を開示対象に含めるべきだと判断したものです。プロバイダーやSNS事業者は今後、省令改正前の投稿に関する発信者情報の開示請求に対して電話番号を開示する必要性が生じることになります。
誹謗中傷対策として、自治体が条例を制定するなどの動きが活発化しています。佐賀県は、インターネット上に誹謗中傷や差別を助長する投稿があった時、必要に応じてプロバイダーなどに削除を求めることを盛り込んだ条例案を2月定例県議会に提出しています。同県人権・同和対策課によれば、ネット上の人権侵害への対応を明文化した条例は、全国の都道府県で群馬県や大阪府にありますが、九州7県では初めてだといいます。。佐賀県が対応するのは、県民個人や県民全体への誹謗中傷や差別で、相談体制を整備し、被害者が個人の場合、まず本人が対応する前提で、助言や情報提供などを行い、本人が対応できない場合、県が投稿の削除要請などをするとしています。また、表現の自由を侵害しないよう、法務省が示す基準や、弁護士などによる委員会の意見などを踏まえて判断するとしています。また、人権侵害をしたとされる側には問題点を指摘したり説明を求めたりするほか、正当な理由なく従わない場合は必要な措置をとるよう勧告し、個人が特定される情報を除き概要を公表するとしています。なお、罰則は設けないとのことです。また、神奈川県相模原市の人権施策審議会は、ヘイトスピーチ規制を含む人権条例の答申案を大筋でまとめています。悪質な行為に対しては過料を科すという案と、過料または刑事罰を科すとする案を併記しています。川崎市が2019年に全国で初めて刑事罰付きのヘイトスピーチ禁止条例を制定していますが、相模原市によると、過料を盛り込んだ同様の条例は例がないとみられるとのことです。審議会がまとめた答申案では、人種、性的指向、障害などを理由に不当な差別的取り扱いをしてはならないとし、公共の場で拡声器を使ったりプラカードを掲示したりするなどの手段による不当な差別的な言動を禁止すると規定しています。また、前文では、2016年に市内の津久井やまゆり園で45人が殺傷された事件に触れ、「障害者に対する不当な差別的思考に基づくヘイトクライム」と明記、また被害者の救済機関「人権委員会」を設けることも記載しています。
本コラムで取り上げていますが、グーグルやツイッターなどのプラットフォーム(PF)上の誹謗中傷対策について、日本新聞協会は、深刻な被害への早急な改善が必要だとした上で、総務省のワーキンググループで論点になっている「削除請求権」に関し、「安易な削除を認める風潮を助長しかねず、表現の自由に悪影響を及ぼす懸念がある」とする意見書を同省に提出しています。削除請求権とは、被害者がPFに対し、人格権を侵害する投稿の削除を求める権利で、総務省はこの権利を明文化することで、権利侵害情報の削除を促進できるか意見を求めています。同協会は明文化によって、「削除請求が乱発されるほか、PFが内容の真偽を自ら判断することはできないため、安易に削除に応じる事態が強く懸念される」と意見、「根拠がはっきりしない個人の投稿と、時間と労力をかけて裏付け取材がなされた報道とは明確に区別すべきだ」としています。
その他、最近の誹謗中傷を巡る報道から、いくつか紹介します。
- 女子プロレスラー木村花さん(2020年5月死去)の母・響子さんをインターネットで中傷したとして、警視庁杉並署は、愛知県に住む40代の男を名誉毀損容疑で東京地検に書類送検しています。報道によれば、男は2020年9月、ネット掲示板に響子さんを中傷する書き込みをし、名誉を傷つけた疑いがもたれています。なお、警視庁が響子さんへの中傷事件で立件するのは4件目となるとのことです。
- 愛媛県を拠点に活動していた農業アイドル「愛の葉Girls」元メンバーで2018年に自殺した大本さん=当時(16)=の叔母をツイッターで中傷したとして、京都府宇治市の50代の女性会社員が名誉毀損罪で略式起訴され、宇治簡裁から罰金20万円の略式命令を受けています。叔母はツイッターで、大本さんの自殺に関する情報を発信していました。報道によれば、叔母は、SNSで中傷を受けた後に自殺したプロレスラー、木村花さんの母、響子さんの「夢を持った若い人たちが不当な契約で泣くことがなくなりますように」とする投稿をリツイート(転載、RT)、女性会社員は2021年9月、このリツイートの画像に対するコメントとして、「めいは親族のせいで自死してしまった。夢とかじゃなく普通に過ごせる人生奪っといてよくRTできるね」と書き込み、名誉を損なったとされます。
- 元妻を中傷する内容をツイッターに投稿したとして、滋賀県警大津署は、将棋の元棋士の容疑者を名誉毀損の疑いで再逮捕しています。容疑者は「投稿したことは覚えているが、その日に投稿した覚えはない」と容疑を一部否認しているといいます。報道によれば、容疑者は2022年11月、元妻の実名を記し、ツイッターに「僕の全てを潰した殺人鬼」、「僕を地獄の底に落とした」などと投稿し、名誉を傷つけた疑いがもたれています。容疑者は2021年8月にも、「プロ棋士の仕事を盗まれた」、「子どもを奪われた」などとツイッターに書き込み、元妻を中傷、元妻からの刑事告訴を受け、2022年12月、同容疑で逮捕されていたとのことです。子どもの親権を巡って対立していたといいます。
- 相次ぐ差別発言が問題となり、2022年末に総務政務官を事実上更迭された、自民党の杉田水脈衆院議員が2016年、フェイスブックに「チマ・チョゴリやアイヌの民族衣装のコスプレおばさん」と写真付きで投稿したことを巡り、この時に民族衣装を着ていて写真を撮られた大阪府に住む在日コリアンの女性3人が、人権侵害だとして大阪法務局に申告書を提出しています。投稿内容の差別認定と、杉田氏からの謝罪を求めているといいます。報道によれば、3人は2016年、スイスで開かれた国連女性差別撤廃委員会にチマ・チョゴリを着て出席、この会合に訪れた杉田氏が後日、「大量の左翼軍団」、「品格に問題がある」などと問題の投稿をしたものです。3人は「在日コリアン女性をおとしめる内容」と批判し、ヘイトスピーチ解消法に抵触する差別投稿だと強調しています。法務局は、2023年3月上旬に相談に応じると返答、女性の1人は「差別を許さない風潮がようやく広がり、勇気を持って提出できた」と話しています。
- 月刊誌「選択」の記事で名誉を傷つけられたとして、日本経済新聞社が同誌を発行する選択出版に3300万円の損害賠償などを求めた訴訟の判決で、東京地裁は、同社に220万円の支払いを命じています。問題となったのは、同誌2021年5月号に掲載された日経の脱炭素報道に関する記事で、判決理由で裁判長は、日本経済新聞の特報を「誤報だった」などとした同誌記事について「被告は裏付け取材を行ったり、行おうとしたりしたとは認められない」などと指摘、記事中の6カ所の記述と見出しは「いずれも日経の社会的地位を低下させており、不法行為が成立する」と述べ、名誉毀損に当たると認定しています。
- 在日コリアンに関する自らの言動を「悪意に満ちたデマ」などと報じた神奈川新聞記事や執筆した記者の発言で名誉を傷つけられたとして、川崎市の佐久間氏が計約280万円の損害賠償を求めた訴訟の判決で横浜地裁川崎支部は、演説中だった佐久間氏への一部発言が名誉毀損に当たるとし、記者に15万円の支払いを命じています。裁判長は佐久間氏の言動を批判、論評した複数の記事に関し、佐久間氏が2019年の川崎市議選に立候補していたことなどから公益性を認定、「許容される限度を超えた侮辱行為とはいえない」とした一方で、記者による街頭演説中の「でたらめ」などとの発言は違法性を認めています。記者は2019年2月の記事で佐久間氏の発言を「悪意に満ちたデマによる敵視と誹謗中傷」と記載するなど、複数の記事を執筆しています。
- 2015年に東京都江戸川区で女子高生が殺害された事件を巡り、岡口・仙台高裁判事(職務停止中)にインターネット上の投稿で侮辱されたとして、女子高生の両親が岡口氏に計165万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が東京地裁であり、裁判長は、一部の投稿について「遺族の名誉を傷つけ、人格を否定する侮辱的表現だ」と述べ、計44万円の支払いを命じています(ただし、他2件の投稿については「表現の自由がある」などとして不法行為だとは認めませんでした)。現職裁判官への賠償命令は異例となります。両親は東京高裁に抗議し、岡口氏の責任を問うために声をあげると、SNSには〈クレーマー〉といった中傷があふれ、「憎いのは娘を殺した犯人だけだったのに、なぜこんなに苦しまなくてはいけないのか」とやるせない思いにさいなまれたといい、会見で「娘の名誉のためにも最後までやりきりたい」、「ネット上の誹謗中傷に苦しんでいる方は多い。その指針になるような判決が出てほしい」と語っています。なお、本判決については、岡口氏側は、「判決を受け入れ、遺族らに対しては改めておわびの意を表する」として控訴権を放棄すると明らかにしていました(一方で、「弾劾手続きの正当性、妥当性とは何ら関係性はない。引き続き罷免相当ではないことを訴える」としています)が、両親側は「納得のいかない部分があり、高裁の判断を仰ぎたい」と判決を不服として控訴しています。
インターネットの功罪について暗号資産イーサリアムの共同創設者が語った内容(2023年1月24日付日本経済新聞の記事「ネットの「信頼」再構築をギャビン・ウッド氏 イーサリアム共同創設者」)が、誹謗中傷や偽情報の問題を抱えるインターネットの特性を理解するうえで大変示唆に富むものでした。以下、抜粋して引用します。
偽情報(フェイクニュース)対策は、単にインターネット上の問題にとどまらず、安全保障の観点からも重要なテーマと認識されています。松野官房長官は「偽情報の拡散は普遍的価値に対する脅威であるのみならず、安全保障上も悪影響をもたらし得る」と強調、「偽情報に関する情報の集約・分析、対外発信の強化、政府外の機関との連携の強化のための新たな体制を政府内に整備する予定だ」と述べています。国家安全保障戦略でも「偽情報の拡散を含め、認知領域における情報戦への対応能力を強化する」と明記されています。偽情報をめぐっては、2022年8月、岸信夫・首相補佐官のツイッターの体裁を複製したアカウントから、ウクライナを非難する偽の内容が発信され、国際的に拡散したことがありました。ロシアのウクライナ侵攻では、他にも多数の偽情報が発信されており、政府の対外発信は現在、内閣広報室や外務省などがそれぞれ担っており、また、サイバー攻撃に対応する内閣サイバーセキュリティセンター(NISC)もあるものの、「SNSの中身までは見ていない」といい、新組織は、内閣情報調査室や内閣広報室、防衛省、外務省などと連携する方向で調整、偽情報が発信された際に、正しい情報を迅速に発信することが期待されています。
最近の偽情報や情報拡散、ツイッターデモ等に関する分析結果について、いくつか紹介します。専門家の「ネット世論が民意を正確に代弁していないことを理解していないと、強い意見に過剰に引っ張られ、判断を誤る危険がある」との指摘が腹落ちする内容となっています。
- 東京大学や国立情報学研究所などは、「ワクチン」という言葉を含む1億件以上の日本語のツイッター投稿を分析した結果を公表、2021年6月に新型コロナウイルスワクチンの職域接種が始まったのを境に、接種の体験談など個人的な話題が急増、当初出遅れた日本の接種率向上の一助になった可能性があるといい、公衆衛生の政策決定などにSNSを活用できる可能性を示す成果だとしています。ワクチン接種率が大きく高まった時期は、今回の分析対象期間とほぼ重なり、研究ではツイートの傾向の変化と接種率の直接的な関係には触れていないものの、「ツイッターによる個人的な体験の共有がワクチン接種に対する安心感の醸成に寄与した可能性が示された」(研究グループ)としています。コロナワクチンをめぐっては、感染予防とは別の隠された目的があるとする「陰謀論」がSNS上で広く拡散されているとの見方もありますが、分析の結果、そうした投稿は100万件中の7%程度だったといいます。研究を手掛けた東大の小林亮太准教授は「想定よりも少なく、SNSが陰謀論の温床になっているとの印象はない」と指摘しています。
- 新型コロナウイルスの感染「第8波」が続く中、感染者らをインターネット上で誹謗中傷する投稿が減少傾向にあることが、人工知能(AI)を活用した福井県の調査でわかったといいます。報道によれば、県内の累計感染者は18万人を超え、延べ人数では県民の4人に1人に相当、感染者への過度な攻撃の傾向が和らいでいるとみられています。2020年春の「第1波」では、ネット上で感染者や施設などへの誹謗中傷が相次ぎ、福井県は同年、専門業者に委託する形で、自治体で初めてAIを用いた投稿の監視に乗り出しました。SNSなどの投稿を対象に、地名や施設名など県関連の文言や表現を抽出、中傷や差別にあたるかAIが判断しています。最近の減少傾向の背景について、県の担当者は、コロナ禍の初期と比べて現在は重症化率が低く、全国旅行支援が2022年秋に始まったことなどを指摘、「新型コロナに対する過度な恐怖心や行動制限による心理的負担が和らいでいるのではないか」と分析しています。
- 政治や社会問題に関する主張を一斉に投稿する「ツイッターデモ」について、読売新聞が2022年の注目度順に上位10件を抽出し、分析したところ、参加したアカウントの平均1割弱による投稿が、全投稿の半数を占めていたことがわかったと報じられています(2023年1月24日付読売新聞)。報道によれば、コロナ禍以降、ツイッターデモは急拡大しているものの、一部のアカウントによる主張が増幅されている実態が浮かんだとしています。最多の14回トレンド入りしたのは安倍晋三・元首相の国葬反対を訴えるデモで、累計64万6296回投稿されましたが、詳しく調べると、参加した9万687件のアカウントのうち、わずか3.7%(3340件)による投稿が全体の半数を占めていたといい、中には4219回投稿したアカウントもあり、1000回以上のケースも10件あったということです。国際大の山口真一・准教授(計量経済学)は、「ネットでは思いが強い人ほど大量の発信をする傾向があり、ツイッターデモも同様だ。ネット世論が民意を正確に代弁していないことを理解していないと、強い意見に過剰に引っ張られ、判断を誤る危険がある」と指摘しています。
国内外のメディアなど11法人が技術研究組合を設立し、インターネットの利用者が信頼できる情報の発信者を見つけやすくする技術「オリジネーター・プロファイル(OP)」の実用化を目指すとしています。その背景には、ネット空間の健全性を高める狙いがあります。報道によれば、OP技術は、メディアや記事などを掲載するサイトの運営者、広告主などの情報を第三者による確認を受けたうえで電子署名を付与し、ブラウザー(閲覧ソフト)に認証アイコン付きで表示する仕組みといいます。2023年1月17日付読売新聞において、村井純・慶応大教授は、「情報技術(IT)の進歩で、インターネットなどは社会に大きな利益をもたらす一方、フェイクニュースなど有害な虚偽情報の拡散を許し、ニュースの信頼性が損なわれるなど社会問題となっている。デジタル広告の分野でも、耳目を集めることを目的としたいわゆる『アテンション・エコノミー』の横行で市場の健全性がゆがめられている。OP技術は、デジタル化した符号でコンテンツ発信者の情報を開示する仕組みで、メディア、広告などで利用が進めば、ネット空間の健全性が保たれ、公益性を高めることにもつながる」と指摘しています。
読売新聞が「情報偏食」をキーワードに、偽情報等に関する特集連載を行っており、大変示唆に富む内容となっています。以下、抜粋して引用します。
SNS投稿妄信し議会襲撃・「スマホあれば世界がわかる」…[情報偏食]第1部<上>(2023年2月1日付読売新聞)
ドイツのクーデター計画に判事も関与、浸透する陰謀論…[情報偏食]第1部<中>(2023年2月2日付読売新聞)
「認知」侵されるデジタル社会のリスク、日本も危険水域…[情報偏食]第1部<特別編>(2023年2月4日付読売新聞)
「情報的健康」へデジタル・ダイエット宣言…[情報偏食]第1部<特別編>(2023年2月4日付読売新聞)
「健全な言論プラットフォームに向けて―デジタル・ダイエット宣言」(第1版)要旨(2023年2月4日付読売新聞)
その他、情報統制等に関する最近の報道からいくつか紹介します。
- 南ドイツ新聞と独立系のロシア語メディア「バージニエ・イストーリー」は、ロシア当局によるインターネット検閲の実態について報じています。それによれば、プーチン大統領への批判やウクライナでの民間人殺害情報などを組織的に遮断、政権の描くプロパガンダの浸透に重要な役割を果たしているとされます。ベラルーシに拠点があるとされるハッカー集団が2022年11月、ポルノや暴力描写といった違法コンテンツを取り締まるロシア通信監督当局に関連するメールや報告書など200万点以上の内部文書を漏えいさせています。この内容について、南ドイツ新聞などが調べたところ、同当局が、「民間人の殺害」「ロシア経済の危機」といったテーマに関する通信アプリ「テレグラム」やユーチューブへの書き込み・投稿を収集していたことが判明、当局は、運営会社に削除を要請したり、投稿へのアクセスを遮断したりしていたといいます。こうした活動はウクライナ侵攻以降、活発になっているとも指摘しています。
- AFP通信によると、マグニチュード7.8の地震があったトルコで、ツイッターの閲覧が遮断されました。ツイッター上には政府の震災対応の不備を指摘する投稿が出回っており、エルドアン政権による情報統制との見方がでています。トルコでは、エルドアン大統領に批判的な記者が拘束されるなど、表現の自由が著しく制約されており、2023年は大統領選が控えていることもあり、政権への風当たりが強まることを警戒し、ツイッターが遮断された可能性が指摘されています。ただし、ツイッターは、災害時の情報発信手段として有効なため、野党は、「被災者のニーズを伝えるのに必要」などと反発しています。
総務省の「プラットフォームサービスに関する研究会」において、偽情報等への対策として、PF各社やファクトチェック団体の取り組み状況が発表されています。以下、配布資料から一部を抜粋して引用します。
▼総務省 プラットフォームサービスに関する研究会(第41回)配布資料
▼資料1 ヤフー株式会社 提出資料
- 偽情報等の打ち消し・注意喚起記事をヤフートピックスで積極的に掲載
- ウクライナ侵攻関連
- 安易な拡散注意 8年前の映像も
- 露軍の侵攻巡る偽動画拡散 注意を
- 虐殺はデマとロシア主張 矛盾次々
- コロナ関連
- バナナ食べると感染 デマ注意
- 新型肺炎巡る世界のデマ 検証
- 新型コロナ お湯で予防はデマ
- 広がる「善意のデマ」注意点
- 新型コロナ デマ広げぬために
- 感染者巡り飛び交うデマ 注意
- その他
- 安倍氏銃撃巡りデマも 拡散注意を
- デマ拡散 コスモ石油爆発の教訓
- 加害者デマ後絶たず 法的責任も
- 東名あおりデマ 2審で賠償増額
- トヨタ社長を巡るデマ SNSで拡散
- 静岡の水害?AI生成の偽写真が拡散
- GANTZ作者 デマ投稿に法的措置
- 4月1日 今年もSNSで「うそ」続々
- ウクライナ侵攻関連
- 専門家の記事・コメントによる情報の解説やフォローアップ
- ファクトチェック関連団体への資金提供、コンテンツ連携
- 検索結果上部に、信頼できる情報を掲載
- ユーザーが求める情報を推測し、信頼できる情報(公的機関の発信情報や専門家監修の情報等)のモジュールを、検索結果の上部に表示させることで、正確な情報をユーザーに届ける。
- 大学と連携し、中高大の教育現場でリテラシー講座提供
- 2021年6月から実施
- これまで中学2校、高校3校 延べ15クラス、短大・大学11校、社会人講座3回 およそ2000人が受講
- 学生から得られた知見をコンテンツに活かす。
- 特集や特設サイトを構築し、独自コンテンツを制作
- 専門家の監修を元に画像や動画を独自に制作分かりやすさ、伝わりやすさを重視し、ヤフーニュースでの活用のほか、前項の授業実践のなかでも活用
- ネット利用全般のリテラシー向上企画を実施
- SNS利用、偽情報等への対策、インターネットショッピング、セキュリティ対策などの幅広いジャンルから、インターネットを利用するうえで身につけておきたい基礎知識やよくあるインターネットトラブルへの対応を学べる問題を全15問出題
- 偽情報等に特化した情報摂取習慣を測る企画を実施
- インターネットやSNSの普及などによって手軽に多様な情報を得られる環境においては、偽情報などを誰でも目にする可能性があり、情報を正しく読み解くことや、確証のない情報を安易に拡散しないことなど、ユーザー個人の情報判断力を向上する必要性が高まっていると考え、自らの情報摂取における健康診断コンテンツを提供。
- UGC系機能のガイドラインに偽情報に関する項目を追加
- 厚労省のQ&Aや気象庁が公表している情報など信頼できる情報に明らかに反する投稿のみ削除することから取り組みを開始。まずは医療情報など限られた範囲で削除を行っている。
- 今後、AIを活用した調査やJFCのファクトチェック結果の活用を含め、状況に応じて削除対象を広げることも検討していく。
- Yahoo!知恵袋の投稿ページ上部に、注意喚起文言を掲載
- Yahoo!知恵袋に新型コロナウイルスに関連する投稿がなされた際、当該投稿のページ上部に、厚生労働省や首相官邸等の公的機関のウェブサイトを案内する取り組みを行っている。
▼資料2 LINE株式会社 提出資料
- LINEの偽情報・フェイクニュース対策に向けた取組み全般
- LINEにおいては、偽情報・フェイクニュース対策に関する様々な取組みを実施し、インターネットの安全安心な利用環境の整備に取り組んでいます
- 自主的なルール(規約、ガイドライン等)の設定
- ユーザーへの周知・注意喚起
- 通報機能の充実
- 24時間365日モニタリング、違反投稿の削除
- サービスにおける機能上の工夫
- メディアプラットフォームとしての信頼性の確保(信頼度の高い情報の発信)
- リテラシー向上のための情報モラル教育(学校等での出前授業、教材開発)
- グループ連携(ZHD/YJ)
- 他のステークホルダーとの連携(SMAJ等)
- LINEにおいては、偽情報・フェイクニュース対策に関する様々な取組みを実施し、インターネットの安全安心な利用環境の整備に取り組んでいます
- LINE オープンチャットにおける取組み
- オープンチャットにおける注意事項
- オープンチャットでは、真偽不明の情報を拡散する行為を禁止しています。
- 健康に深刻な被害をもたらす誤情報や社会的混乱が生じる恐れのある投稿やトークルーム
- 政府が公式に否定する情報の投稿、およびそのような主張を展開することを目的とする投稿やトークルーム
- 上記につきましては、ガイドライン違反として削除の対象となりますのでご注意ください。
- 詐欺の可能性のあるオープンチャットの特徴について
- 無関係な他のオープンチャットに招待リンク(URLなど)を拡散している
- 検索サービスにも出ない無名な取引所へ誘導している
- LINEアカウントなどへ個別に誘導している
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- 不自然な日本語による投稿が確認される
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- ロシアの軍事侵攻が始まって以降、インターネットやSNS上には現地の緊迫した映像などが流れ、真偽の見極めやプロパガンダの懸念が指摘されています。
- ウクライナ関連のファクトチェック結果(ファクトチェック・ナビ)
- フェイク動画にだまされないために(NHK)
- ファクトチェックがあばく”嘘”(NHK)
- メディア提携
▼資料6 認定NPO法人ファクトチェック・イニシアティブ
- ファクトチェック・ガイドライン【認知・信頼向上のための取組み】
-
- IFCN(国際ファクトチェックネットワーク)綱領の5原則を踏まえ、信頼されるファクトチェック記事の作成・発表に必要な事項をまとめたガイドラインを公開。メディアのファクトチェック活動開始のハードルを下げる効果を発揮。
- 目的・定義
- 「ファクトチェック」とは、公開された言説のうち、客観的に検証可能な事実について言及した事項に限定して真実性・正確性を検証し、その結果を発表する営みを指すものとする
- 「ファクトチェック」は、特定の主義主張や党派・集団等に対する擁護や批判を目的とせず、公正な基準と証拠に基づいて、事実に関する真実性・正確性の検証に徹するものとする
- ファクトチェック記事の3要素
- 対象言説の特定
- 対象言説の真実性・正確性の判定
- 判定の理由や根拠情報
- 組織に関する情報公開
- 部門の責任者や担当者の名前
- 財源や使途
- 所在地や連絡先
- レーティング
- 正確
- ほぼ正確
- ミスリード
- 不正確
- 根拠不明
- 誤り
- 虚偽
- 判定留保
- 検証対象外
-
- 日本におけるファクトチェックの課題
- 海外のファクトチェック団体と比べると、絶対量が少ない
- 実施体制や資金面の課題
- 非営利型メディア
- 資金調達で苦闘
- フルタイムメンバーがほぼいない(本業はそれぞれ別)
- 人材育成の余裕がなく、学生メンバー活用するも質の確保などに課題
- 伝統メディア、ネットメディア
- リソースに余裕がなく、専任記者、専門部署が置かれていない
- 伝統的なニュース報道との違いから不慣れや戸惑いも
- 厳しい読者の視線などリスクへの警戒感
- ファクトチェック推進団体(FIJ)
- 資金調達で苦闘、人材育成やメディア支援の余裕がない
- 非営利型メディア
- 認知度向上や信頼性の課題
- 非営利メディア
- 認知度が低く、ファクトチェック記事が広がりにくい
- ファクトチェックの量、スピードともに課題あり
- IFCNに認証された団体がない(申請済だが、審査が長期化の傾向)
- 伝統メディア
- 専任体制が整っておらず、恒常的に行われているとは言い難い
- 読者が各メディアに対する抱く党派的先入観の払拭が困難
- ファクトチェック推進団体(FIJ)
- FactCheck Naviの認知度はまだ低い
- ファクトチェック実施団体ではないため、IFCNの認証を得られない
- 非営利メディア
- 国際的連携に向けた課題
- 非営利メディア
- IFCNの審査が進まない(日英バイリンガルの審査員が不足か)
- 海外のファクトチェック団体と連携する余裕がない
- 伝統メディア
- 国際的連携のハードルが高く、IFCN認証の申請を行う見込みのメディアがない
- ファクトチェック推進団体(FIJ)
- 台湾などの専門団体と連携関係にあり調査協力を行った実績はあるが、FIJのリソース不足のため、継続的な調査協力が困難
- 非営利メディア
(8)その他のトピックス
①中央銀行デジタル通貨(CBDC)/暗号資産(仮想通貨)を巡る動向
英イングランド銀行(中央銀行)と財務省は、2020年代後半にも中央銀行デジタル通貨(CBDC)の「デジタルポンド」を発行する可能性があると発表しています。決済インフラの設計や実験を進めて慎重に検討するとしていますが、社会のデジタル化が進む中で、決済手段の安定性や利便性の改善に向けて準備を進める考えを示したものです。報道によれば、2023~25年をめどに、デジタルポンドのインフラ設計や実証実験を進めるとし、試作品を検証したうえで、早ければ2020年代後半に発行の是非を決める方針としています。また、イングランド銀行のシステムに基づいて、民間企業が「デジタルウォレット(電子財布)」でデジタルポンドを提供し、利用者がスマートフォンなどを使って利用できる仕組みとし、イングランド銀行はプライバシーに配慮し、個人情報にアクセスできないようにするといいます。個人や企業が日常的な支払いに使うことを想定し、同額の現金と交換ができるほか、残高に利息がつかないようにするほか、銀行預金からデジタルポンドへの急速な資金流出を防ぐために、保有できる金額には当初制限をかける方針だといいます(イングランド銀行(英中央銀行、BOE)のカンリフ副総裁は、デジタルポンドを導入した場合、「リスクの管理とデジタルポンドの幅広い利用の支援という2つの側面で適切なバランスを取るため」、個人の保有に最大2万ポンド(2万4000ドル)の上限を設ける方針を示しています。上限が1万ポンドなら国民の4分の3が給与をデジタルポンドで受け取ることが可能になり、上限が2万ポンドならほぼ全ての国民が日常的にデジタルポンドを利用できる見込みで、上限を超えた分は顧客の銀行口座に移されるといいます)。イングランド銀行のベイリー総裁は「(デジタル通貨の発行は)多くの影響が考えられるため、慎重に検討する必要がある」とコメント、英ハント財務相も「金融安定性を守ることを常に確認しながら、どのような導入が可能かをまず調査したい」としています。なお、この発表の1カ月前には、イングランド銀行のベイリー総裁は、デジタルポンドの必要性に疑問を呈していました。現在のところデジタルポンドが必要か否かはわからないとの見解を表明、決済などに使われる小口取引向けデジタルポンドについても慎重姿勢を示し、現金を廃止する計画はないとしていました。
先行する「デジタル人民元」については、その課題も提示されています。2023年2月4日付産経新聞の記事「中国政府が推進する「デジタル人民元」によって、監視強化の懸念が高まっている」に詳しいため、以下、抜粋して引用します。
上記の記事でもインドやブラジルの動向が触れられていますが、アジア各国でCBDCの発行を準備する動きが広がっています。本コラムでもたびたび取り上げていますが、ラオス中央銀行が、ブロックチェーン(分散型台帳)開発をてがけるソラミツ(東京)とCBDC実証実験を始める契約に調印することになっており、すでにCBDCを発行済みのカンボジアと越境決済も検証するとしています。背景にあるのは、経済で密接につながる中国の通貨である人民元の存在感が増しており、通貨のデジタル化で自国通貨の利用価値を高める狙いがあります。ラオスがCBDCを導入するのは銀行口座を持たない国民にデジタルを通じて金融サービスを提供する金融包摂の狙いがあるとされます。ラオスの銀行口座保有率は約3割で、CBDCなら銀行口座が無くても、スマートフォンのアプリを使ってQRコードで店舗への支払いや個人間・企業間の送金ができるため、出稼ぎ先からの送金コストを削減できる利点があります。また、ラオスのCBDCの特徴のひとつが実験当初から越境決済に踏み込む点で、世界ではバコンやナイジェリアのeナイラなどのデジタル通貨が発行されていますが、デジタル通貨同士での決済は普及していません。ラオスとカンボジアは両国間の越境送金システムを共同開発することで、デジタル通貨の利用価値を高めることを狙いますが、両国には中国などに依存しないCBDCによる経済安全保障を確立したいとの思惑もあるとされます。2021年の国際決済銀行(BIS)のリポートによれば、各国がCBDCを検討する理由として強調したのが越境決済の効率化であり、国際銀行間通信協会(SWIFT)も18の中銀・民間金融機関と異なるデジタル通貨同士を接続する実験に成功しています。決済サービスには利用者が多いほど価値が高まる「ネットワーク外部性」があり、デジタル通貨はつながる先を目指して組む相手を選ぶ時代に入ったと言えます。
一方、暗号資産については、規制を強化する方向にあります。最近の動向については、2023年2月2日付日本経済新聞の記事「世界の仮想通貨規制、投資家保護に傾斜 EUは預金で保全」に詳しいので、以下、抜粋して引用します。
上記でも触れられていますが、英財務省は、暗号資産を扱う交換所への規制強化策を発表しています。交換所を巡っては、2022年11月に大手のFTXトレーディングが経営破綻し、再発防止や消費者保護を求める声が高まっており、伝統的な金融サービス規制を念頭に詳細な情報開示を求める方向で、顧客の暗号資産を安全に管理する仕組みづくりを促す狙いがあります。ロンドンは国際的な金融サービスの中心地として知られ、財務省は2022年4月に英国を暗号資産技術の拠点に成長させる計画を掲げています。明確な規制ルールを導入することで、消費者保護だけでなく産業育成にもつなげていく考えで、財務省は「強固で透明性があり、公正な基準を確保しなければならない」と説明しています。また、英国の金融行動監視機構(FCA)は、年内に導入する暗号資産関連の広告に関する新規制について、国内で販促活動を行う国内外の暗号資産企業全てが順守する必要があり、違反すれば役員などに最長2年の禁錮刑が科される可能性があると警告しています。英財務省が、行政委任立法によって規制を年内に施行する方針を発表したことを受け、暗号資産企業はFCAのAML/CFT規制に準拠すれば販促活動を行うことが可能になるといい、正式な暗号資産規制が2024年にも導入されるまでの暫定措置となります。FCAは、AML/CFTに準拠する暗号資産事業者の販促活動について、監督・法執行権限を付与される見通しで、ウェブサイトを閉鎖するよう命じることなどが可能になります。FCAは、暗号資産が依然として高リスクだとし、消費者が暗号資産を購入する場合は全額を失う覚悟が必要だとしています。
FTXトレーディングが経営破綻して2023年2月11日で3カ月を迎えました。いったん逃げた個人投資家の戻りは鈍く、薄商いの中で短期の機関投資家の買いが相場を押し上げる構図が浮かびあがっています。ビットコインやイーサリアムなど時価総額の大きな暗号資産に資金が集中する一方、暗号資産の融資や預け入れサービスは縮小が続くことが予想されます。コインデスクによれば、2月10日のビットコイン価格は2万2000ドル弱とFTXが日本の民事再生法にあたる連邦破産法11条(チャプター11)の適用を申請した2022年11月11日比で2割強上回っており、FTX破綻に伴うドミノ倒産が落ち着いたことで、投資マネーが戻りつつあるといえます。ただし、戻ったのは個人ではなく機関投資家であり、戻った資金も選別色を強めており、2月5日時点の暗号資産市場全体に占めるビットコインとイーサリアムの占める比率は60.4%と、FTX破綻直前の2022年11月6日比で約3%上昇しています。また、暗号資産融資については、個人や機関投資家から集めた暗号資産を暗号資産関連企業に貸し付けたり、分散型金融(DeFi)で運用したりして収益を出すビジネスモデルですが、相場が右肩上がりに上昇することを前提にしており、米ジェネシスや米ブロックファイが破綻したほか、スイス拠点のネクソは米国から数カ月をかけて段階的に撤退することから、縮小していくことが予想されています。さらに、暗号資産の預け入れでブロックチェーン(分散型台帳)取引の承認に貢献し、対価として報酬を得るステーキングというビジネスも縮小が予想されています。一方、FTXは顧客資金の返済に向けた資産回収の作業を淡々と進めており、2023年1月時点で約50億ドルの現金や暗号資産を確保、子会社の売却先選定も進めています。日本法人であるFTXジャパンについては予備入札が3月8日、最終入札は4月26日に締め切りの予定で、複数の事業会社や金融機関が買収に関心を示しているといいます。なお、FTXジャパンは2月中旬にも、顧客の法定通貨と暗号資産の返還を始める予定です。
国際決済銀行(BIS)高官は暗号資産市場が2022年の混乱で消滅したわけではない一方、CBDCの新しい波は地政学的な限界に直面するとの見方を示しています。世界の中央銀行でつくるBISは長い間、暗号資産に批判的で、BISの「イノベーション・ハブ」の新たな責任者となったセシリア・スキングスレー氏は、「業界は(これまでの)失敗から学び、新しいことを考え出すと思う」と語っています。スウェーデン中央銀行の副総裁を務めたスキングスレー氏は、これまでの問題は一連のCBDC発行に向けた今後何年かの中央銀行の計画に影響を及ぼしていないように見えるとも指摘、CBDCは既に11カ国が立ち上げ、世界の国内総生産(GDP)の95%超を占める100カ国以上が検討中であり、同氏はCBDCが他国への送金をより簡単かつ安価にするはずだと指摘しつつ、「地殻プレート」が生まれることでCBDCは地政学的に合った国の間でしか完全に相互運用できないだろうとの見方を示しています。
米連邦準備理事会(FRB)は、暗号資産に特化した特別目的預金機関であるカストディア銀行の連邦準備制度(FRS)加盟申請を却下しています。同行の掲げるビジネスモデルとデジタル資産への注力路線が安全性と健全性に重大なリスクをもたらすと指摘しています。報道によれば、FRBは同行について、暗号資産に関連する高リスクに対処するための十分なリスク管理の枠組みを欠いており、暗号資産がマネー・ローンダリングやテロ資金活動に使われる可能性もあると説明しています。一方、カストディア銀行のケイトリン・ロングCEOは発表文で、FRBの決定に「驚き、失望した」と表明、自行について「伝統的な銀行に適用される全ての要件を上回っている」と主張しています。また、FRBのウォラー理事は、暗号資産の購入者は投資した全額を失う可能性があると警告しています。さらに、金融機関は犯罪や金融システムに対するリスクに備える必要があるとしています。ウォラー理事はこれまでのところ、暗号資産によるより広い金融システムへの副次的影響は「最小限」だとした上で、規制当局が暗号資産業界の問題に関連する金融安定リスク軽減に確実を期すことが非常に重要だと指摘、また、暗号資産の取り扱いを検討している銀行は、顧客情報の把握およびマネー・ローンダリング防止要件を満たす必要があり、暗号資産が破綻した場合に備えて顧客のビジネスモデルやリスクマネジメントシステムを確実に監視する必要があるとしています。また、暗号通貨を扱うトレーダーに対しては、さらに厳しく警告、「暗号資産は本質的な価値を持たない資産であり、リスクが高い。ある時点で価格がゼロになったとしても、驚かないように。公的資金で補償されると思わないように」としています。CBDCの創設については、賛成しないとの考えを繰り返したものの、議会から指示があった場合に備え、技術的な研究は進めているとしています。
著名投資家ウォーレン・バフェット氏の盟友で、同氏率いる投資会社バークシャー・ハザウェイの副会長を務めるチャーリー・マンガー氏は、米紙ウォール・ストリート・ジャーナルに寄稿し、米政府は暗号資産を全面的に禁止すべきだと訴えています。適切な規制がないことで一般の投資家が搾取されていると問題視しています。同氏は「暗号資産がほとんど無償で(暗号資産を宣伝する有名人など)プロモーターに売却された後、一般の投資家がはるかに高い価格で購入することがしばしばある」と説明、暗号資産は「胴元がもうけのほぼ全てを持っていく賭博契約だ」とも指摘しています。投資家保護の枠組みが不十分なのは「通貨でも商品でも有価証券でもない」暗号資産について、連邦政府レベルで金融当局の監督がないためとみており、中国政府が暗号資産を全面禁止したことなどを挙げ「先例が我々を健全な行動に導いてくれるかもしれない」と記しています。
米連邦捜査局(FBI)は、北朝鮮に関連する「APT38」として知られるハッカー集団「ラザルス・グループ」が、2022年6月に米暗号資産会社ハーモニーのホライゾン・ブリッジから1億ドルを盗んだ事件に関与したと断定したことを明らかにしています。ホライゾン・ブリッジは異なるブロックチェーン間の暗号資産移転サービスで、FBIによると、同集団は2023年1月13日、「Railgun」と呼ばれるプライバシープロトコルを使い、2022年6月に盗まれた6000万ドル相当以上のイーサリアムを洗浄(ローンダリング)したとしています。盗まれたイーサリアムの一部はその後、複数の暗号資産プロバイダーに送られ、ビットコインに変換されたといいます。北朝鮮は暗号資産の窃盗とローンダリングで弾道ミサイルと大量破壊兵器プログラムを支援しているとされます。
暗号資産交換業者や関連事業者等に関する最近の報道から、いくつか紹介します。
- 暗号資産交換業大手のバイナンスは、2023年2月8日から米ドルの銀行送金を停止すると発表しています。既存の送金サービスの委託先が利用者の要件を狭めたことが背景にあるとみられています。報道によれば、送金を停止するのはグローバルにサービスを展開するバイナンス本体で、米国の規制下にあるバイナンスUSなど、各国の規制を受ける交換所は影響を受けないといいます。世界で事業を展開する暗号資産交換業者は、暗号資産を売却した顧客の口座などに法定通貨を送金する場合、国際銀行間通信協会(SWIFT)に参加する金融機関に委託する必要がありますが、バイナンスが送金を委託していた米シグネチャー・バンクは2023年1月、送金サービスは銀行口座に10万ドル(約1300万円)以上預けている利用者に限るとの方針を表明、これを受けバイナンスは、新しいパートナーを探す方針を明らかにしていたものです。こうしたドル送金の要件の厳格化は、暗号資産交換業への規制の一環ととらえる向きもあり、法定通貨の送金がしにくくなることを受けた、暗号資産から資金を退避させる動きとみられています。一方で、バイナンスへの規制強化を市場は織り込んでおり、暗号資産の値動きは限定的だったとの声も聞かれています。
- 暗号資産融資サービスの米ジェネシス・グローバル・キャピタルが、日本の民事再生法に相当する連邦破産法11条(チャプター11)の適用をニューヨーク連邦地方裁判所に申請しています。暗号資産交換業大手FTXトレーディングが2022年11月に経営破綻し、その影響による連鎖破綻が続いています。報道によれば、ジェネシスグループは個人や機関投資家から高利回りで集めた暗号資産を、暗号資産関連の企業やファンドに高利で貸し付けて収益を稼いできましたが、2022年夏のヘッジファンドのスリー・アローズ・キャピタル破綻で融資資金回収が困難となったのに続いてFTX破綻で資金が焦げ付いていたものです。なお、資産と負債はいずれも10億~100億ドルの範囲で、債権者は10万人以上と指摘されています。直近では、親会社のデジタル・カレンシー・グループ(DCG)や暗号資産交換業ジェミニなどの主要債権者と再建計画について基本合意に達したといい、ジェネシスの身売りあるいは債権者への株式譲渡のどちらかの結果を伴う再建合意を最終決定しつつあると説明しています。ジェミニがジェネシスと協力して提供した「アーン」と呼ばれるサービスは34万人の利用者から9億ドルの預金を集めましたが、ジェネシスは2022年11月に出金を停止、これについてジェミニの共同創業者であるウィンクルボス兄弟とDCGの間で意見の対立が生じていましたが、新たな合意の下、ジェミニは資産が凍結された「アーン」利用者への補償金に最大1億ドルを拠出するとしています。なお、FTXの経営破綻以降に市場下落や取引低迷の影響を受けて、これまで暗号資産融資のブロックファイ、暗号資産マイニング(採掘)のコア・サイエンティフィックが経営破綻しています。
- 富豪のウィンクルボス兄弟が創業した暗号資産交換業ジェミニは従業員を10%減らす人員削減を進めています。人員削減はこの8カ月で少なくとも3回目となります。ジェミニは、暗号資産融資(レンディング)を手掛けるジェネシスと共同で投資家に未登録で暗号資産を提供したことが証券法違反に当たるとして米証券取引委員会(SEC)が提訴、ここ数カ月は経営が圧迫されています。
- 米国の暗号資産交換業大手コインベースは、日本での取引を停止し、顧客から預かっている資産の返還手続きに入ると発表しています。顧客の現金や暗号資産はコインベースの資産と分けて管理されており、2023年2月16日までは顧客の資産引き出しに応じるとし、期限後は、資産を法務局に供託するとしています。市況悪化を受け、コインベースは約950人の人員を削減して業績を立て直すと発表していました。一方、オランダ中央銀行は、コインベースがサービス提供前にオランダで適切な登録を行わなかったとして330万ユーロ(360万ドル)の罰金を科しています。同業のバイナンスも2022年7月に同様の罰金を科されています。報道によれば、コインベースは、オランダ中銀の決定に同意できないと表明、「当社の実際のサービスへの批判は含まれていない」として、上訴を検討していることを明らかにしています。オランダで事業を展開する暗号資産会社は、2020年5月以降、AML/CFT規制の下で、送金業者としての登録を義務付けられています。
- 暗号資産交換業の米クラーケンは、「ステーキング」事業を取りやめ、この問題で調査を受けていた米証券取引委員会(SEC)に3000万ドルの制裁金を支払って和解することに合意しています。ステーキングは、暗号資産保有者が預け入れを通じてブロックチェーン取引の承認手続きに貢献し、その対価として報酬を得る仕組みで、SECは未登録の証券販売に当たると問題視していたものです。SECがステーキングの取り締まりに乗り出したのはこの件が初めてとなりますが、この事業は、コインベースやバイナンスなど米国のほとんどの主要な暗号資産交換業者が扱っており、今後影響が広がることが予想されます。SECのゲンスラー委員長はツイッターに投稿した動画メッセージで、大半のステーキング事業者は、彼らが預かった資産をどのように守るかといった情報を顧客に対して適切に開示していないと指摘、企業もしくはプラットフォームが、名前が「レンディング」であろうと「ステーキング」であろうと、リターンをうたった商品を提供するのであれば、連邦証券法に沿ったものでなければならないと強調しています。
経営破綻した暗号資産交換業者FTXは、債権者への報告で、サイバー攻撃によりこれまでに約4億1500万ドルの暗号資産が流出したと明らかにしています。ジョン・レイCEOも声明で、2022年11月11日の破産申請以降、FTXの海外交換所から約3億2300万ドル、米交換所から9000万ドルの暗号資産がハッキングされたと述べています。FTXは破産裁判所で行われた審理で、50億ドル超の現金や流動的な暗号資産、証券を回収したと明らかにしていますが、さらに詳しい情報を公表し、回収したのは現金17億ドル、流動的な暗号資産35億ドル、流動的な証券約3億ドルとの内訳を示しています。また、ジョン・レイCEOは、事業再建の可能性を模索しており、暗号資産交換所FTX.comの再開を検討するタスクフォースを立ち上げたと明らかにしています。FTX.com再開によって、資産の清算や売却で得られる以上の価値を顧客のために回復することが可能かどうかも検討するとしています。さらに、複数の米メディアは、米連邦検察当局が創業者のサム・バンクマン・フリード被告から資産約7億ドル(約907億円)を押収したと報じています。報道によれば、資産の大半は株取引アプリ運営の米ロビンフッド・マーケッツの株式で、2023年1月20日の終値で換算すると約5億2500万ドル相当で、検察当局は、被告が顧客からだまし取った資金でロビンフッド株を購入したとみているといいます。一方、FTXの債権者リストに米国や日本、スイスの金融監督機関や政府機関のほか、米民泊サイト運営大手エアビーアンドビー、FTXのライバルだった暗号資産交換大手バイナンスなどの企業も含まれていることが、米裁判所に提出された116ページに及ぶ文書から判明したと報じられています。米財務省の金融犯罪取締ネットワーク(FinCEN)と内国歳入庁(IRS)、スイス連邦金融市場監督機構(FINMA)、日本の金融庁がFTXの債権者としてリストに含まれているとのことですが、債権金額や性質の詳細は記載されていないといいます。FTXは2022年、上位債権者50人に対して31億ドル近い債務を抱えていると説明していました。直近では、日本法人「FTXジャパン」と欧州法人「FTXヨーロッパ」の売却先選定プロセスを延期したということです。予備入札の締め切りは2023年3月8日、最終入札は4月26日と従来予定からそれぞれ1カ月あまり遅らせるとしています。期限を延ばすことで、より多くの買い手候補を集める狙いがあると考えられます。FTXは日本法人、欧州法人を含めて4つの子会社を売却する方針を提示しています。1社ごとに売却先選定を進めるとしていますが、裁判所に提出した別の書類では合計で100を超える団体が買収に関心を寄せていると開示していました。
最後に、国内の暗号資産関連事件を紹介します。暗号資産を獲得する手段「マイニング(採掘)」事業への出資を無登録で勧誘したとして、大阪府警生活経済課は、金融商品取引法違反(無登録営業)の疑いで、データサーバー販売会社「日本IPFS」(大阪市)の役員や社員ら男女7人を逮捕しています。2020年6月から2021年12月までに、44都道府県の約4千人から約14億円を違法に集めたとみられています。マイニングについては、出資トラブルが相次いでおり、金融庁などが注意を呼びかけています。本事件については、2022年2月、出資者10人が「配当金が振り込まれず、返金にも応じない」と大阪府警南署に相談し、発覚したものです。
②IRカジノ/依存症を巡る動向
カジノを中心とする統合型リゾート施設(IR)の開設に向け大阪府・市と長崎県が提出した計画についての認可は現時点でも公表されていません(2023年2月12日時点)。両地域は、2022年4月、施設構成や事業の収支見通しなどの「区域整備計画」を提出、経済、観光などの専門家でつくる有識者委員会が国の評価基準などを基に審査を進めており、最終的には国交相が認定可否を決定する流れとなっており、認定に期限はないものの、両地域は2022年内にも結論が出ると想定していたところ、開業スケジュールに影響が出かねない状況といえます。そのような中、大阪府・市のIRの誘致を巡り、市が依頼した建設予定地の鑑定評価は不当だとして、市民85人が、事業者と予定されている定期借地契約の締結差し止めを求めて住民監査請求をしています。報道によれば、市は予定地の賃料を1平方メートルあたり月額428円と設定していますが、2019年に市が依頼した業者4社の不動産鑑定結果に基づいて算出されたものです。ところが、うち3社の評価額が一致していると指摘、「業界の常識ではあり得ず、市側の誘導や業者間での談合があったとしか考えられない」、「市は再鑑定すべきだった」と訴えているものです。さらに鑑定では市側の指示でIRが考慮外にされているとして、不当に安く設定された賃料で地方自治法に違反するとしています。また、2023年2月1日付朝日新聞の記事では、不動産鑑定士らが「偶然だとしたら奇跡的だ」、「2社が価格で一致したとしても、賃料まで一致することは珍しい。3社が価格と賃料で一致するなんて聞いたことがない」、「2年間評価額が変わらないのも理解できない」などと指摘しています。なお、これらの指摘に対し、代表監査委員は「請求に基づいて今後も監査を進めていく」と語っているといいます。
また、国内では、常習的に賭博をしたとして、警視庁は、東京・歌舞伎町のインターネットカジノ店「SEXY」を2023年1月に摘発し、店長、責任者と従業員6人の計8人を常習賭博容疑で現行犯逮捕しています。2005年以降、約489億円を違法に売り上げ、約120億円の利益を得たとみられています。報道によれば、8人は、店内に設置したパソコンから海外のオンラインカジノサイトに接続し、客と賭博をした疑いがもたれており、捜査員が店に踏み込み、取り押さえたといいます。警視庁は約9000人の顧客名簿を押収、24時間営業で1日70~80人の客が出入りしており、国内最大規模のネットカジノ店だったとみられ、売上の一部が暴力団の活動資金源になっていた可能性があるということです。
海外のカジノ関連では、マカオの最近の動向が伝えられています。マカオ政府は、2023年1月のカジノ収入が前年比82.5%増の116億パタカ(14億ドル)になったと発表、1週間の春節休暇で50万人近い観光客が訪れたということです。報道によれば、観光客は過去3年余りで最大となったものの、1月のカジノ収入は依然、新型コロナウイルス流行前の2019年の春節期間の半分以下にとどまっているといいます。ただ、投資家はカジノ収入の増加を歓迎、マカオのカジノ株は3~5%値上がりしており、アナリストも順調な回復に向けた心強い兆しが見られると指摘しています。マカオ政府は中国本土、香港、台湾からの訪問者に対する新型コロナ検査義務を全廃しており、1月8日以降は本土からの観光客が急増している状況にあります。一方、そのマカオのカジノでは、本コラムでも以前紹介したとおり、アジア賭博業界の顔役として知られるアルビン・チャウ氏に有罪判決が出たことなどから、富裕層が離れているとの報道もありました(2023年2月1日付日本経済新聞)。抜粋して引用すると、「同氏は、マカオのカジノに設置した豪華なVIPルームで富裕層の仲介人として暗躍し、米国の同業大手と渡り合うとともに中国国営宝くじ事業の2倍の売り上げを誇るオンライン賭博を展開した。中国本土では賭博が違法なため、大金を賭けたい富裕層は長年、かつてポルトガル領として貿易で栄えた広さ32平方キロメートルほどのマカオに足を運んできた。マカオに40カ所以上あるカジノの総収入は、新型コロナウイルスのパンデミック前には米ラスベガスの約6倍に上った。米カジノ大手ラスベガス・サンズがお膝元のラスベガス事業を手放してアジアに経営資源を集中させたのも、マカオでの収益性の高さからだ。周氏は1月、違法賭博経営や詐欺、組織犯罪への関与などで禁錮18年の実刑判決を受けた。その裁判を通じて中国本土に広がるオンライン賭博の巨大ネットワークの存在が明らかになった。マカオ政府関係者や周氏の元同僚によると、周氏はこの20年間で中国最大の賭博資金の貸し手に上り詰めた。…周氏が失脚した背景には、マカオ経由での資金流出に歯止めをかけるという中国政府の強い決意があり、同地の賭博ビジネスも変容しそうだ。…オーストラリアでは、サンシティーにVIPルームを貸して富裕層を相手に商売させていたカジノが営業ライセンスの停止処分を受けた。周氏の嫌疑をまとめた豪政府の報告書には「メルボルン・カジノにあるサンシティーのVIPルームでマネー・ローンダリングが行われていた」と記されている」というものです。
国民生活センターは、Web版「国民生活」を毎月公表しています。消費生活問題に関心のある方や相談現場で働く方に、消費者問題に関する最新情報や基礎知識を分かりやすく伝え、知識の向上や学習に役立つ情報をお届けするものとされ、直近では、「ネット依存・ゲーム依存」に関する専門家(国立病院機構久里浜医療センター精神科医長の松崎氏)が寄稿されていました。大変参考になる内容ですので、以下、抜粋して引用します。
▼国民生活センター 国民生活
▼2023年1月号【No.125】(2023年1月16日発行)「コロナ禍で広がるネット依存、ゲーム依存」
- コロナ禍におけるインターネットやゲームの使用現状
- インターネットやスマートフォン(スマホ)は、「いつでも」「どこでも」「誰とでも」つながることのできる便利なツールであり、今や我々の生活に欠かせないものとなりました。日本では、スマホの世帯保有率は右肩上がりで上昇を続け、2017年にパソコンを初めて上回り、2021年は88.6%でした。同年の個人のインターネット利用率は82.9%で、13~59歳の層で9割を超えていました。一方、内閣府の「青少年のインターネット利用環境実態調査」では、2021年の青少年のスマホの1日平均使用時間は、小学生100.8分、中学生161.6分、高校生225.6分で、特に高校生では3時間以上使用する割合が62.4%でした。青少年が利用するスマホコンテンツは、動画、ゲーム、SNSなどのコミュニケーション、情報検索、音楽などが上位にあり、学校種別が上がるごとに、各コンテンツの利用割合も高くなっています。
- 2020年、新型コロナウイルスCOVID-19が世界的に大流行しましたが、同時期から、ソーシャルディスタンスを取るためのオンライン化が社会で急速に進行しました。「令和3年版消費者白書」によると、2020年コロナ禍において、インターネットの利用が「増えた」と答えた消費者が38.4%に及びました。一方、2019年まで減少傾向にあった自殺死亡率(人口10万人当たりの自殺者数)が、10歳代で1.1ポイント、20歳代で3.0ポイントも2020年に上昇しました。同年自殺した学生・生徒等は1,039人に上り、前年比151人増と大きく増加し、2021年も1,031人と高止まりしていました。COVID-19はインターネット利用の増加という我々の生活様式だけでなく、若年層の自殺率増加など公衆衛生にも多大な影響を与えました。
- ネット依存、ゲーム依存とは何か
- インターネットが我々の生活に身近になるにつれ、過度に使用し、日常生活に支障を来すケースが世界各地でみられるようになりました。1996年、心理学者のK.Young博士がインターネットに過度に依存する症例報告を行って以降、臨床医や研究者の間で、インターネットやゲームの過剰使用、あるいは依存に関する病態を精神疾患の1つとして認定するかについて、賛否を含めて多くの議論が交わされるようになりました。2013年、アメリカ精神医学会が発表したDSM-5(「精神疾患の診断と統計の手引き(第5版)」)では、「嗜癖(=依存と同義)」が精神疾患の1つとして定義されました。嗜癖は、アルコール等の物質使用障害(substance use disorder)と、ギャンブル等の行動嗜癖(behavioral addiction)に分けられます。インターネット依存は、このうちの行動嗜癖に当てはまりますが、DSM-5の発表時には、ギャンブル依存や物質使用障害と行動上の類似点等についてエビデンスが積み重ねられていたインターネットのコンテンツのうち、インターネットゲームのみを「インターネットゲーム障害:Internet Gaming Disorder」として、診断項目(今後の研究のための病態)に追加しました。しかし、その他のオンラインコンテンツについてはエビデンスが不足しているとして、診断項目には含まれませんでした。さらに、世界保健機関(WHO)の診断基準である国際疾病分類(International Classification of Diseases : ICD)の改訂に合わせ、インターネット依存を診断基準に含めるかどうかについての専門家会議が2014年以降毎年開催され、「ゲーム障害(依存):Gaming Disorder」を含むICD-11が、2019年5月WHO総会で承認されました。ゲームに依存するようになると、継続的、かつ反復的にゲームに参加します。ゲーム内ではプレーヤーが集団間で競い合いますが、同時に多様な参加者が集まるため、時間に縛られず長時間のプレイに及びがちです。このようにゲームをやり過ぎてしまい、さまざまな問題が出現しますが、それにもかかわらず、やりたいという衝動や誘惑を抑えることができない、いわゆるゲームのコントロール障害が特徴です。
- ICD-11における「ゲーム障害」の診断ガイドラインは、ゲームによる機能不全のパターンとして定義されています。ゲーム障害は、ICD-11の診断基準にあるように、さまざまな影響が出現します。臨床的には、
- 体力低下、運動不足、骨密度低下などの身体的問題
- 睡眠障害、ひきこもり、意欲低下などの精神的問題
- 遅刻、欠席、成績低下などの学業上の問題
- 浪費や借金などの経済的問題
- 家庭内の暴言・暴力などの家族問題
などが報告されています。日本でも、昼夜逆転朝の起床困難、不規則な食事などの生活習慣の著しい乱れにより、学校の成績低下や学校の欠席など、日常生活に支障を来す臨床像がみられています。
- ゲームは、青少年にとってたくさんある娯楽の中の1つです。そして、面白いゲームは、ユーザーを飽きさせないように設計されています。ゲームの世界では、同じ興味・関心でつながるので、人間関係がより強化されます。また、ゲーム内での競争やランキングは、現実世界では得にくい達成感や自己肯定感を満たしてくれるでしょう。チームで参加するような場合は、責任感からゲームへの動機づけにつながることがあります。ゲームに依存しているプレーヤーは、現実世界での活動に興味を失い、ゲーム内での報酬や活動、自己のキャラクターや武器などのアイテムを過剰に評価する傾向があると報告されています。
- 横断研究において、ゲーム障害に関連する因子は「ゲームをプレイする時間」「ゲームをプレイする年数」と指摘されています。オフラインよりもオンラインゲーム、また、MMORPG、FPS、格闘ゲーム、RTSなど特定の種類のゲームが好まれています。ゲーム障害と関連する合併精神障害(例えば、注意欠陥多動性障害、うつ病、不安、睡眠障害、早期の薬物使用など)が多数報告されています。また、長時間プレイすることによる身体的な痛みも報告されています。
- 相談対応として専門機関につなぐことの重要性
- ゲームに依存している人は、もともとゲームが好きで、自ら進んでプレイしているので、時間を減らす、やめる動機づけに乏しいことが多いようです。そのため、治療で最も重要なことは、患者がいかにして「ゲーム時間を減らす」「ゲームをやめる」という動機づけを持てるかという点です。動機づけが難しい場合でも、「ゲーム以外の時間を増やす」という目標を立て、ほかの活動に少しでも興味・関心を移していくと、依存からの回復につながることが期待できます。
- ゲーム障害は新しい疾病概念なので、まだ標準的な治療法が確立しているとはいえませんが、世界でさまざまな治療法が試みられています。限界はありますが、認知行動療法(CBT)や家族療法などの心理社会的治療の有効性が認められています。しかし、一般的に、依存症はいったん重症化すると治療に苦慮することも多いため、何より重要なのは、発症を予防することです。そのために、子どもがインターネットやスマホを使い始めるタイミングで、家庭内でのインターネットやスマホ、ゲーム使用のルール決めを早い段階で行うこと、また、気になる点があれば、相談機関・医療機関などの専門機関に早めに相談するとよいでしょう。
(9)北朝鮮リスクを巡る動向
国連安全保障理事会(安保理)の北朝鮮制裁委員会の下で制裁違反を調べる専門家パネルは、2023年2月、制裁委員会に年次報告書案を提出しています。報告書案は理事国の議論や修正を経て公表されます。法的拘束力はないものの、報告を受けて安保理や加盟国などが違反する団体や個人に新たな制裁を科すことがあります。報道によれば、北朝鮮傘下のハッカー集団が2022年にサイバー攻撃で盗んだ暗号資産は年間で過去最高額だったということです。報告書は窃取額が為替によって変動するため、韓国政府は6億3千万ドル(約835億円)、サイバーセキュリティ企業は10億ドルと推定していますが、いずれにしても過去最高だったと指摘しています。北朝鮮は「一段と高度なサイバー技術を駆使してサイバー金融関連のデジタルネットワークにアクセスしたほか、兵器開発などに潜在的価値がある情報を盗んだ」といい、外国の航空・防衛企業のネットワークも標的になったとしたということです。ハッカー集団はインターネットの偽サイトに個人情報を入力させる「フィッシング」の手口で、ビジネス向けのSNS「リンクトイン」で個人に接触、一定の信頼を得た後に通信アプリ「ワッツアップ」でマルウエア(悪意のあるソフト)を送り付けていたといいます。また、北朝鮮による軍事通信機器の輸出に関する調査についても触れられており、ウクライナに侵攻を続けるロシアに対し、北朝鮮が砲弾を輸出しているとの報告について、専門家パネルが調査を始めたということです。北朝鮮が核・弾道ミサイルの開発を続けている実態も明らかになり、「核施設で核分裂性物質の生産を継続している」と非難しています。また、北朝鮮が2022年に「少なくとも73発のミサイルを発射し、大陸間弾道ミサイル(ICBM)も8回発射した」と指摘、制裁を回避するため、海上で積み荷を移し替える「瀬取り」の手口も悪用され続けていると警鐘を鳴らしています。「北朝鮮の領海内で不正な貨物の輸入が続き、輸出が禁じられている北朝鮮産石炭の瀬取りも継続している」と言明されています。
また、2023年2月3日付読売新聞の記事「北朝鮮ハッカー暗号資産800億円窃盗、巧妙な手口で捜査かく乱…6800人エリート部隊」では、セキュリティ企業「チェイナリシス」の分析結果などを中心に北朝鮮の暗号資産窃取に関してまとめており、大変参考になりました。以下、抜粋して引用します。
なお、関連して、北朝鮮のハッカー集団が2022年3月、オンラインゲームのネットワークをハッキングして6億2000万ドル(約800億円)相当の暗号資産を窃取した事件があり、韓国政府は、被害額が昨年上半期に発射した弾道ミサイル31発に要した費用に相当すると分析しています。北朝鮮が安保理の厳しい制裁や新型コロナウイルスによる中朝貿易低迷のもと、異例の頻度で発射を繰り返すことができたのは「暗号資産窃取」のためだとの見方を示しています。さらに、米連邦捜査局(FBI)は、北朝鮮のハッカー集団「ラザルス」が2022年6月に米国の暗号資産関連企業のシステムにサイバー攻撃を仕掛け、1億ドル(約130億円)相当の暗号資産を盗んだと発表しています。報道によれば、2022年6月にサイバー攻撃を受けたのは、暗号資産を別の暗号資産に交換するシステムで、ラザルスが窃取した暗号資産のうち6000万ドル分について、北朝鮮の関係者が2023年1月13日にマネー・ローンダリングをしようとしたといいます。米政府は一部の資産を凍結したものの、具体額は明らかにしていません。米財務省は2019年9月にラザルスを独自の制裁対象に指定、2022年5月にはラザルスのサイバー攻撃を支援したとして、暗号資産の匿名性を高める「ミキシング」を実施している業者も制裁対象とするなど、締め付けを強めています。
国連安保理の専門家パネルの報告書案でも言及されていた「瀬取り」に関連して、韓国の海洋警察は、北朝鮮側に軽油を違法に輸出したとして、南北交流協力法違反の容疑で韓国籍の男性を逮捕しています。輸出に関わったとみられる韓国の精油供給会社と、同社の社員2人も同容疑で捜査しているといいます。報道によれば、男性らは2021年10月~2022年1月、韓国統一省の許可をとらずに計35回にわたって軽油1万8千トンを北朝鮮側に輸出した疑いがもたれており、軽油は180億ウォン(約19億円)相当になるといいます。男性らは韓国国内の港で、精油供給会社が所有するロシア籍のタンカーに軽油を積載、南シナ海上で中国籍の船に積み替え、さらに海上で北朝鮮籍の船に積み替える「瀬取り」の手法で密輸していたということです。
前回の本コラム(暴排トピックス2023年1月号)でも取り上げましたが、2022年12月26日午前10時25分、北朝鮮のドローン(小型無人機)5機が南北の軍事境界線を越えて韓国の領空を侵犯しました。様々な手段を用いた北朝鮮の攻撃に、韓国は虚を突かれる格好となり、無人機のうち4機は韓国西岸の江華島に向かって飛行、残る1機が首都ソウルの上空に侵入しています。韓国軍は攻撃ヘリや戦闘機を投入したものの、撃墜できなかったということです。報道によれば、作戦を見守った大統領府の高官は「砲弾でハエを捕らえようとするようなものだった」と述べています。韓国政府は1機が大統領府と合同参謀本部を取り巻く特別飛行禁止区域に侵入していたことを後になって認めましたが、事件は政治問題に発展し、無人機が国防体制の中枢に接近していたことを当初認めなかった政府や、撃墜に失敗した韓国軍に対する非難が巻き起こりました。また、北朝鮮が韓国に対して仕掛ける「心理作戦」の一端も明らかになっています。強大な攻撃兵器を誇示する一方で、韓国国民を常時監視下に置いているという現実を突き付けて挑発する戦術です。2023年1月25日付日本経済新聞で、専門家が「ドローン自体は軍事的な脅威にはならず、むしろ心理作戦だった。韓国の人々に不信や不安を植え付ける認知戦を仕掛け、『我々はいつでも韓国を侵攻できるが、韓国政府は適切に対応できないだろう』と警告したのだ」と指摘しています。さらに、北朝鮮の金正恩総書記は新型コロナウイルスの感染拡大を受け実施した国境封鎖に3年間耐え抜いたことで自信をつけ、米国と中国・ロシアとの緊張関係が高まる中で北朝鮮への外交圧力が弱まったために大胆になっているとし、その結果、韓国の人々の不安をあおり弄ぶことをいとわないようになっているとも指摘しています。最近の北朝鮮の大胆とも言える行動を理解するうえで、大変参考になるものと言えます。
北朝鮮の金正恩朝鮮労働党総書記は、朝鮮人民軍創建75年を記念する軍事パレードに参加した軍人らと記念撮影を行い、その際、兵力の一層の強化を求めています。金総書記は2023年2月7日に演説した際も対米関係や核開発には具体的に触れず、パレードでは演説しませんでしたが、パレードでは新型大陸間弾道ミサイル(ICBM)を含む戦略兵器が登場し核戦力を誇示しています。金総書記は、世界は「勝利によってのみ自らの偉業と正当性を証明できる」と指摘し、帝国主義の暴政を力で制圧するため、軍には「過去とは比較にならない速さで強くなる」ことが求められていると述べています。なお、軍事パレードに先立ち、朝鮮労働党中央軍事委員会拡大会議が平壌で開かれ、金総書記が出席、朝鮮人民軍の訓練を拡大・強化して戦争準備態勢を完備することなどが議論され、関連決定が採択されたといいます。米韓両国は北朝鮮による核・ミサイル開発に対応するため、米国が核と通常戦力、ミサイル防衛などで韓国を防衛する「拡大抑止」を強化していく方針を打ち出し、米韓両軍の合同軍事演習の規模拡大も表明したことに対し、北朝鮮も軍の訓練強化で対抗していく意思を示したと言えます。また、金総書記は(軍事パレード前に)人民軍将官の宿舎を訪問し、記念宴会で演説、「自国の発展のすべての行程で党と祖国、人民と生死を共にし、前途洋々たる未来を守る軍隊は朝鮮人民軍しかいない。多くの苦痛を耐え忍んで、とうとう偉大で絶対的な力を培った」などと強調、核・ミサイル開発が進んでいる状況を誇示したとみられています。一方、開催された軍事パレードについて、米カーネギー国際平和財団のアンキット・パンダ氏は、ICBMランチャーの数はこれまでのパレードと比べて最も多いとツイッターに投稿、これだけのICBMに複数の核弾頭を搭載すれば、米国のミサイル防衛システムを飽和させるのに十分と分析しています。さらに、韓国梨花大学のレイフエリック・イーズリー教授は、固形燃料式ミサイルと小型核爆弾の実験という形で、北朝鮮は国際社会に抑止と威圧能力を示そうとする公算が大きいとの見方を示しています。また、一部のアナリストは、火星17の後に続いたのはキャニスターに収納された固形燃料式ICBMの試作品か模型の可能性があると指摘しています。なお、北朝鮮の大型弾道ミサイルのほとんどは液体燃料を使用しており、発射場で推進剤を装填する必要があるため作業に時間がかかる一方、固体燃料式ミサイルは、燃料を積んだまま隠しておき迅速に発射することができることから、米本土に届くミサイルを機動的に撃つ「奇襲攻撃」が可能になるほか、発見して破壊することが難しいとされます。北朝鮮にとって同方式のICBM開発は重要な目標となっていますが、新型ミサイルがどの程度発射実験に近づいているかは不明です(北朝鮮は2022年12月に高出力の固体燃料エンジンの燃焼試験に成功したと発表し、ICBMについても固体燃料型の開発を本格化しているとみられています)。また、軍事パレードでは、戦術ミサイルや長距離巡航ミサイルに続いて、戦術核運用部隊が登場、「強力な戦争抑止力、反撃能力を誇示した」としています。さらにICBMが続いて「変革された国防力の発展ぶりと我が国の最大の核攻撃能力を誇示した」としています。北朝鮮は2022年10月、戦術核運用部隊の存在を初めて明らかにしています。戦術核運用部隊は、日本上空を通過した中距離弾道ミサイルを含め、2022年9~10月に集中的に発射された中・短距離弾道ミサイルの訓練を担った部隊で、戦術核弾頭の搭載や韓国の飛行場への攻撃などを想定しており、金総書記も現地で自ら同部隊の訓練を指導しています。また、2022年末には戦術核兵器を大量生産していく方針も示しており、今回の軍事パレードで戦術核運用部隊の存在を前面に出すことで、対北朝鮮の安全保障協力を深める日米韓を強くけん制したとみられています。戦術核運用部隊やICBMは、軍事パレードの最終盤に登場。核・ミサイル開発が着実に進んでいることを印象づける狙いもあったとの指摘もあります。
関連して、米議会調査局が、北朝鮮は核兵器の運搬手段となるミサイルを多様化させ、核弾頭の小型化にも注力して核戦略を進展させているとの報告書を出しています。報道によれば、短距離弾道ミサイル「KN23」は核弾頭の搭載が可能だと指摘し、これまで一部の専門家が示していた見方に同調しています。報告書はKN23が「通常弾頭か核弾頭を搭載して朝鮮半島のあらゆる場所を攻撃できる」とし、変則軌道で飛ぶため既存のミサイル防衛では迎撃が困難とされ、核弾頭を搭載することでさらに脅威が増すことになるとしています。さらに、中距離弾道ミサイル「KN15」(北朝鮮名「北極星2」)について「核弾頭で日本を攻撃する能力を備えている」と改めて強調、車両から発射できるため、事前探知は困難だとしています。また、米本土を狙えるICBMについても、新型の「火星17」は複数の核弾頭を搭載できる仕様とみられるとの国防総省傘下の国防情報局(DIA)の分析が紹介されています。
以前の本コラムでも以前紹介したとおり、金正恩総書記は2022年末の朝鮮労働党中央委員会総会で、韓国の尹政権を「明白な敵」と糾弾し、核兵器の大量生産を基本方針とする2023年度の国防戦略を示しています。こうした北朝鮮の動向に対して、日米韓の連携を強化する動きが本格化しています。米国のオースティン国防長官は、韓国を訪れ、李鐘燮国防相と会談し、北朝鮮が核・ミサイル開発を続けるなか、核兵器を含む米国の戦力で同盟国の韓国への攻撃を思いとどまらせる「拡大抑止」をより強めていくことを確認しています。尹政権は、北朝鮮の核・ミサイル開発が相当な水準に達したと分析し、米側に拡大抑止の強化を求めてきました。米本土を射程に収めるICBMは依然として開発段階にあるものの、韓国を標的とする、核弾頭を搭載できる短距離弾道ミサイルはすでに実戦配備されたとみています(ただ、具体的にどう抑止力を高めていくかについては温度差もあり、尹政権は、戦略爆撃機や原子力潜水艦といった米核戦力の配備・運用について、情報共有を求めていますが、米国は慎重な姿勢とみられます)。さらに、ブリンケン米国務長官は、米首都ワシントンの国務省で韓国の朴振外相と会談し、核・ミサイル開発を進める北朝鮮に対して米国が核と通常戦力、ミサイル防衛などで韓国を防衛する「拡大抑止」の強化を進めることで一致しています。ブリンケン氏は北朝鮮のミサイル発射に対処するため「日本を含めた3カ国の安全保障協力を強化する」と決意を表明、朴氏は北朝鮮の核開発を巡り、「違法な収入源を遮断するために韓米日が協力して取り組む」と強調、「北朝鮮が核開発をあきらめ、対話の道しか選択肢がないようにする」と述べました。また、米韓両空軍は、朝鮮半島西側の黄海上空で戦略爆撃機やステルス戦闘機による朝鮮半島有事を想定した合同訓練を行っています。訓練実施には対北朝鮮での連携強化をアピールする狙いがあるとみられ、2023年2月内には北朝鮮の核兵器使用を想定した図上演習も行う予定としています。北朝鮮は米韓の訓練拡充に猛反発、同国外務省報道官は談話で「全面対決の導火線に火をつけようとしている」と批判し、「核には核、正面対決には正面対決の原則に従い超強力に対応する」と米軍のさらなる戦力展開にも強力に対応すると主張しています。2022年に過去最多となる約70発の弾道ミサイルを撃った北朝鮮は、2023年1月1日に短距離弾道ミサイル1発を発射して以来、軍事的に目立った動きを見せていませんが、米韓の連合訓練を理由に挑発行動に出る可能性も考えられるところです。
北朝鮮では今も、新型コロナウイルスの感染拡大を徹底的に封じ込める「ゼロコロナ」政策を続けていますが、2023年1月下旬から再び感染拡大の波が押し寄せていたと推測されています。中国との間の国境封鎖が長期化して経済的に疲弊する中で、ゼロコロナ政策にこだわる北朝鮮指導部と、封鎖解除を望む住民の思いには隔たりも出始めています。感染者が爆発的に増えている中国との国境を開けば、北朝鮮でも感染者が急増することは避けられず、金正恩政権のコロナ政策は正念場を迎えつつあります。本コラムでも以前紹介したとおり、2022年8月に金正恩総書記は、「コロナを撲滅し、勝利した」と宣言、船舶や鉄道での物資の国際輸送は再開したものの、国家が必要とする「重要物資」のみの輸入にとどめ、国外からの人的流入もほぼ認めない厳格な措置を続けている状況にあります。こうした措置は北朝鮮国内の物資不足と庶民層の生活苦を引き起こし、治安も悪化しているといいます。北朝鮮当局が国境封鎖や貿易活動の制限を継続する狙いには、コロナ対策だけでなく、輸入に頼らない経済体制の構築も含んでいるといい、国境を開いて中朝間などの人的交流を再開するのか、北朝鮮指導部は、感染の状況や住民の不満の蓄積次第では、大きな決断を迫られることになりそうです。なお、北朝鮮の住民たちの窮状に関連して、朝鮮労働党政治局会議において、農業問題を討議するための党中央委員会拡大総会を「2月下旬」に招集するとの決定書が採択されています。政府と党の政策を決める重要会議である中央委拡大総会は2022年末に行われたばかりで、約2カ月ぶりの開催になりますが、これほど短い間隔で開かれるのは異例で、食料増産を目指し農業に一層のてこ入れを図るとみられています。決定書は、農業で正しい発展戦略を樹立し当面必要な対策を講じることが「極めて重要で切迫した課題」になっていると指摘、「かんがいシステムの完備」を挙げ、土台の強化が必要だと強調、土木工事に注力するとみられています。その背景には、新型コロナウイルス感染対策に伴う交易制限や自然災害を受け、都市部でも餓死者が続出する事態に陥っていると伝えられており、深刻な食糧難の打開に向けた金正恩政権の焦りがうかがえます。2023年2月6日付産経新聞によれば、韓国の聯合ニュースは、韓国側に近い北朝鮮南西部の大都市・開城で1日当たり数十人の餓死者が発生し、金正恩総書記が1月に2度にわたって高官を現地に派遣するなど、混乱の収拾に当たってきたと報じています。開城は穀倉地帯の黄海道地域に隣接し、北朝鮮内でも裕福な都市とみなされてきましたが、生活苦からの自殺も相次いでいるといいます。北朝鮮は限定的な交易の中で中国からコメや肥料を輸入してきましたが、韓国政府関係者は2023年には80万トン程度、穀物が不足するとみています。農民らに穀物の提供を求める「愛国米献納運動」も繰り返し報じられているものの、抜本的な食糧難の解決には程遠いと見られています。このような食糧難が深まる中でも、金正恩政権は日米韓への対決姿勢を一層強め、核・ミサイル開発など、軍備増強を優先する路線を放棄する気配は読み取れず、指導部と人心の乖離が表面化しつつあります。
国連安保理は、非公開会合で北朝鮮情勢を協議、2023年1月の議長国である日本の石兼国連大使は会合後、記者団に議論の内容を明らかにせず「現状とその評価について有意義な意見交換ができた」と語っています。通常、ICBMの発射などを受けて公開で会合を開く場合が多いところ、北朝鮮は2023年1月1日の短距離弾道ミサイル発射を最後に明白な挑発行為を控えており、石兼氏は協議した理由について「重要な問題だということだ」と述べています。米国は2022年12月中旬、北朝鮮を非難する安保理議長声明案を各理事国に配布したが、採択できておらず、採択は全会一致が原則で、外交筋によると、北朝鮮を擁護する中国の賛成を得られていない状況にあります。
韓国に拠点を置く北朝鮮専門サイト「デーリーNK」は、ロシアが侵攻・占領したウクライナ東部の「復興支援」のため、北朝鮮が建設作業員として軍人や警察官を派遣する計画を進めていると報じています(公式確認はされていません)。事実であれば、実効支配の強化を急ぎたいプーチン政権が要請したとみられ、国際的に孤立する北朝鮮とロシアの「蜜月」の象徴とも言えそうです。報道によれば、初回の派遣は2023年2月中旬以降の見通しで、300~500人規模とされ、北朝鮮はこれまでもロシアに労働者を送り込んでいますが、戦地であるウクライナ東部の賃金は3倍という情報もあり、デーリーNKは「北朝鮮の新たな外貨獲得手段」と指摘しています。一方、ロシアの民間軍事会社「ワグネル」の戦闘員として雇われる可能性は低そうだとしています。そのウクライナ情勢に関しては、北朝鮮は、米政府がウクライナへの主力戦車「エイブラムス」供与を決めたことを2日連続で非難、不安定な国際情勢を永続させることを目的とした「非倫理的な犯罪」だと指摘しています。北朝鮮は米国に対抗してロシアと「同じ塹壕に立つ」とし、米国が代理戦争によって覇権を獲得するため「レッドライン(越えてはならない一線)をさらに越えようとしている」(金与正氏)、北朝鮮がロシアに武器を提供しているという米国の主張は自らのウクライナ軍事支援を正当化するための「根拠のないうわさ」と一蹴、「米国は国際社会の正当な懸念と批判を無視して、いかなる犠牲を払ってでもウクライナに(主力戦車のような)攻撃兵器を供給しようと尽力している」とし、「これは不安定な国際情勢の維持を目的とした非倫理的な犯罪だ」と非難しています。さらに、北朝鮮とロシアの武器取引に関する根拠のない主張は「決して容認できない重大な挑発」で、この主張を続けることは「本当に望ましくない結果」をもたらすことになると警告しています。一方、米国家安全保障会議(NSC)のカービー戦略広報調整官は、北朝鮮がロシアの民間軍事会社「ワグネル」に兵器を供給した証拠とする衛星画像を公開しています。ワグネルは囚人らを雇い兵として組織してロシアのウクライナ侵攻に参加、前線に部隊を派遣し影響力を強めていますが、カービー氏は、米財務省がワグネルを「国際犯罪組織」に指定するなどし、制裁を強化することも明らかにしています。米政府は北朝鮮がワグネルに歩兵用ロケットやミサイルを提供したと断定しており、北朝鮮やワグネルは否定しています。
総務省消防庁は、令和4年版の消防白書を公表しています。2022年10月と11月に北朝鮮のミサイル発射情報が約5年ぶりに発出されたことから、全国瞬時警報システム(Jアラート)の課題と対応策を特集、計7市町村でトラブルが起きており、日常的な機器の点検と動作確認の徹底を自治体に求めています。白書では、「Jアラートによる情報伝達の支障事案には、受信機の動作ルールの設定等のミスや防災行政無線の故障など、人為的要因と機械的要因によるものが主となっており、全国的な共通性や類似性が見受けられる。また、その背景や対応についても共通性がみられ、他部門との連携強化、委託先事業者への機器点検や設定確認の要請、機器の基本的な操作方法の習熟が求められる」と指摘しています。消防庁は、運用に慣れるため自治体向けの伝達訓練を年に4回程度実施していますが、結果、国からの情報は受信できても、防災行政無線などで住民に伝える際にトラブルが起きていると分析、主な原因を電源・配線の不良や起動設定ミスなど5パターンに分類しています。特に関連システムの改修や機材の更新、人事異動があった後はトラブルが起きやすいと指摘、ミスを防ぐには、防災部局だけではなくシステム担当や委託業者との連携強化が重要だとしています。
▼総務省消防庁 令和4年版 消防白書
▼令和4年版 消防白書概要
- 令和4年10月4日及び11月3日の北朝鮮による弾道ミサイル発射に伴う対応
- 令和4年1月以降、北朝鮮は、弾道ミサイルの発射を高い頻度で繰り返している。消防庁では、Jアラートによる迅速な情報伝達に加え、コンクリート造り等の堅ろうな建築物や地下施設の避難施設(緊急一時避難施設)の指定を促進しているほか、平成30年6月以降見合わせてきた国と地方公共団体が共同で実施する弾道ミサイルを想定した住民避難訓練を令和4年度より再開している。
- 10月4日及び11月3日に発射された弾道ミサイルについては、日本の領土・領海を通過し、又は通過する可能性があった。消防庁は直ちに長官を長とする消防庁緊急事態調整本部を設置し、Jアラートによる情報伝達を行うとともに、Jアラート対象地域に対して適切な対応及び被害報告について要請し、全ての地方公共団体から、被害なしとの報告を受けている。
- 今回のJアラートによる情報伝達の際には、Jアラートの送信時間を一層早めることなどについて様々な意見があったことを踏まえ、関係省庁が連携して改善策を検討することとしている。また、消防庁においては、住民への情報伝達に支障があった市町村に対し、早急な復旧や代替手段の活用による情報伝達体制の確保等を求めたほか、全国の市町村に対し、Jアラート機器の緊急点検及び正常な動作確認を要請した。
3.暴排条例等の状況
(1)暴力団排除条例に基づく公表事例(愛知県)
暴力団排除条例に基づく「勧告」を受けたにもかかわらずそれに従わず指定暴力団・山口組の幹部に「みかじめ料」を支払ったとして、愛知県公安委員会は愛知県内にある露天商の組合の名前を公表しています。報道によれば、愛知県豊橋市の露天商の組合は、六代目山口組の系列組織の組員に組事務所の賃料などとして400万円あまりを支払っていたことが発覚し、愛知県暴排条例で禁止されている「暴力団への利益供与」にあたるとして、2020年に愛知県公安委員会から勧告を受けています。しかし、露天商の組合は2021年にも六代目山口組の幹部で豊橋市に本部がある平井一家の組長にみかじめ料500万円を支払っていたことがわかったものです。愛知県警の聴取に対し組合は「自分たちの後ろ盾となっている平井一家を助けるためみかじめ料を支払った」などと説明したということです。勧告を受けたにもかかわらずそれに従わなかったことから、愛知県公安委員会は、愛知県暴排条例に基づき、露天商の組合の名前をホームページで公表しました。愛知県暴排条例は2011年に施行されましたが同条例に基づき一般の企業や団体の名前を公表するのは初めてとなります。露天商からのみかじめ料は愛知県内にある六代目山口組系暴力団の重要な資金源となっているとみられ愛知県警は暴力団の資金源を監視し、取り締まりを徹底していくということです。なお、2013年には、同じく露天商の組合である「兵庫県神農商標協同組合」が、みかじめ料を支払い続けていたとして兵庫県公安委員会により全国ではじめて団体名が公表され、その後、解散に至っています。
▼愛知県暴力団排除条例(平成22年愛知県条例第34号)第25条の規定により勧告
- 勧告に従わなかった法人の名称及び住所並びに代表者の氏名
- 愛知県東部街商協同組合
- 愛知県豊橋市三ツ相町123番地の2
- 理事長 川合 誠
- 行為の内容
- 愛知県東部街商協同組合は、平成27年9月頃から令和元年10月頃までの間、暴力団の威力を利用することの対償として指定暴力団六代目山口組傘下組織組員が管理する暴力団事務所の賃料等計405万6,000円の利益の供与をしたことにより、令和2年3月19日に愛知県暴力団排除条例第25条の規定による勧告を受けた法人であるが、当該勧告に従わず、令和3年4月30日、同組合が行う事業に関し、暴力団の威力を利用することの対償として指定暴力団六代目山口組傘下組織組員に対して現金500万円の利益の供与をしたものである。
▼愛知県暴力団排除条例
同条例では、第14条(利益の供与等の禁止)において、「事業者は、第二十二条第二項に定めるもののほか、その行う事業に関し、暴力団員等又は暴力団員等が指定した者に対し、次に掲げる行為をしてはならない。」として、「一 暴力団の威力を利用すること又は利用したことの対償として金品その他の財産上の利益の供与(以下「利益の供与」という。)をすること。」が禁止されています。同条に抵触した場合、第24条(調査)において、「公安委員会は、第十四条、第十六条第一項、第十七条第一項、第十九条、第二十二条第三項又は前条第三項の規定に違反する行為をした疑いがあると認められる者その他の関係者に対し、公安委員会規則で定めるところにより、その違反の事実を明らかにするために必要な限度において、説明又は資料の提出を求めることができる。」とされ、さらに、第25条(勧告)において、「公安委員会は、第十四条、第十六条第一項、第十七条第一項、第二十二条第三項又は第二十三条第三項の規定に違反する行為があった場合において、当該行為が暴力団の排除に支障を及ぼし、又は及ぼすおそれがあると認めるときは、公安委員会規則で定めるところにより、当該行為をした者に対し、必要な勧告をすることができる。」とされています。今回は、勧告されてもなお、みかじめ料を支払い続けていますので、第26条(公表)「公安委員会は、第二十四条の規定により説明若しくは資料の提出を求められた者が正当な理由がなく当該説明若しくは資料の提出を拒み、若しくは虚偽の説明若しくは資料の提出をしたとき、又は前条の規定により勧告を受けた者が正当な理由がなく当該勧告に従わないときは、公安委員会規則で定めるところにより、その者の氏名又は名称及び住所(法人にあっては、その代表者(法人でない団体で代表者又は管理人の定めのあるものにあっては、その代表者又は管理人)の氏名を含む。)並びにその行為の内容を公表することができる。」とされています。
(2)暴力団排除条例に基づく勧告事例(北海道)
北海道函館市で暴力団事務所の工事を、実際の経費より安い金額で請負ったとして、住宅リフォーム業者などに、北海道警が勧告を行っています。「北海道暴力団の排除の推進に関する条例」に違反した疑いで、道警から勧告を受けたのは、函館市内の住宅リフォーム業者と土木建築業者です。報道によれば、住宅リフォーム会社は、2021年5月ごろから8月ごろまでの間、暴力団員から依頼を受けて事務所の机の設置や壁を改装する内装工事を行い、暴力団員に財産上の利益を供与した疑いが持たれており、土木建築業者も2021年7月ごろ、暴力団員からの依頼を受けて事務所のカーポート新設工事を行い、暴力団員に利益を供与した疑いがもたれているといいます。リフォーム業者が請け負った内装工事の金額は約70万円で、実際の工事の経費の半額以下、土木建築業者が請け負ったカーポート新設工事は約250万円で、実際の工事の経費の1割程度だったということです。2022年10月、六代目山口組系福島連合の構成員3人が、暴力団事務所として利用することを隠すため、うその登記申請をした疑いで逮捕され、北海道警は2022年11月、函館にあるこの事務所を家宅捜索した際に今回の事実が発覚したということです。警察の勧告を受けた2つの業者は、暴力団とはもう取り引きしないと話しているということです。
▼北海道暴力団の排除の推進に関する条例
同条例第15条(利益供与の禁止)において、「事業者は、その行う事業に関し、暴力団員等又は暴力団員等が指定した者に対し、次に掲げる行為をしてはならない。」として、「(3)暴力団の活動又は運営に協力する目的で、相当の対償を受けることなく財産上の利益の供与をすること。」が禁止されており、この規定に抵触したものと思われます。そのうえで、第22条(勧告)において、「北海道公安委員会は、第14条、第15条第1項又は第17条第2項の規定に違反する行為があった場合において、当該行為が暴力団の排除に支障を及ぼし、又は及ぼすおそれがあると認めるときは、当該行為をした者に対し、必要な措置を講ずべきことを勧告することができる。」とされています。
(3)暴力団排除条例に基づく勧告事例(大阪府)
暴力団に格安の家賃で賃貸物件を提供したとして、大阪府公安委員会は、大阪市内の不動産管理会社の50代の男性社長と、六代目山口組3次団体の40代の組長の男に大阪府暴排条例に基づく勧告を出しています。報道によれば、2人は30年来の知人といい、社長は組長に2021年3月~2022年9月、実際は月額20万円する大阪市内の空き店舗の家賃を同5万円で貸していたほか、2022年4~9月は無償で駐車場を提供していたといいます。同組の事務所は暴力団対策法で指定された警戒区域内にあり、2020年1月から使用できなくなったことから、空き店舗を借りて組員の待機場所としていたといい、社長は「トラブルに巻き込まれた際に助けてもらえると思った」と説明しています。
▼大阪府暴力団排除条例
同条例では、まず第14条(利益の供与の禁止)において、「事業者は、その事業に関し、暴力団の威力を利用する目的で、又は暴力団の威力を利用したことに関し、暴力団員等又は暴力団員等が指定した者に対し、金品その他の財産上の利益又は役務の供与(以下「利益の供与」という。)をしてはならない。」とされています。さらに、第20条(不動産の譲渡等の代理又は媒介をする者の措置等)において、「2 不動産の譲渡等の代理又は媒介をする者は、当該代理又は媒介に係る不動産が暴力団事務所の用に供されることとなることを知って、当該不動産の譲渡等に係る契約の代理又は媒介をしてはならない。」とされており、この2つの規定に抵触したものと考えられます。そのうえで、第23条(勧告等)においては、第2項で「知事は、第二十条の規定の違反があった場合において、当該違反が暴力団の排除に支障を及ぼし、又は及ぼすおそれがあると認めるときは、規則で定めるところにより、当該違反をした者に対し、必要な勧告をすることができる。」とされ、第3項では「公安委員会は、第十四条第一項若しくは第二項又は第十六条第一項の規定の違反があった場合において、当該違反が暴力団の排除に支障を及ぼし、又は及ぼすおそれがあると認めるときは、公安委員会規則で定めるところにより、当該違反をした者に対し、必要な勧告をすることができる。」とされています。
(4)暴力団排除条例に基づく勧告事例(高知県)
六代目山口組系の暴力団組員にみかじめ料を渡したとして、飲食店などを経営する男性と、暴力団組員が、高知県公安委員会から暴排条例に基づく勧告を受けています。報道によれば、暴排条例の適用は2016年以来、7年ぶりだということです。勧告を受けたのは、高知市内4店舗で飲食店などを経営する男性と六代目山口組系の暴力団組員で、経営者の男性は数年前に店でトラブルが起きた際の対応先を探していたところ、暴力団組員と知り合い、2022年8月から10月にかけて3回に渡りみかじめ料として、現金15万円を渡したということです。「店が暴力団と関わりがある」との情報をきっかけに、高知県警が男性に事情を聞いたところ、みかじめ料を渡していたことが発覚したというものです。なお、今回の勧告は、2016年12月以来9件目となるといいます。
▼高知県暴力団排除条例
同条例第19条(利益の供与等の禁止)において、「事業者は、その行う事業に関し、暴力団員等又は暴力団員等が指定した者に対し、次に掲げる行為をしてはならない。」として、「(1)暴力団の威力を利用する目的で、金品その他の財産上の利益の供与(以下「利益の供与」という。)をすること。」が禁止されています。そのうえで、第25条(調査、勧告等)において、「公安委員会は、第19条第1項、第21条第1項、第22条第2項、第23条第2項又は前条第2項の規定に違反する行為をした疑いがあると認められる者その他関係者に対し、公安委員会規則で定めるところにより、その違反の事実を明らかにするために必要な限度において、説明又は資料の提出を求めることができる。」、さらに第2項で「公安委員会は、第19条第1項、第21条第1項、第22条第2項、第23条第2項又は前条第2項の規定に違反する行為があった場合は、公安委員会規則で定めるところにより、当該行為をした者に対し、必要な勧告をすることができる。」とされています。
(5)暴力団排除条例に基づく勧告事例(愛媛県)
暴力団員であることを隠し他人名義でゴルフ場施設を利用したとして、愛媛県公安委員会は、愛媛県暴排条例に基づいて松山市に住む六代目山口組系傘下組織幹部の50代の男に他人名義の利用をやめるよう勧告を出しています。報道によれば、男は2022年6月、利用約款などで暴力団員などの利用が禁止されている愛媛県内のゴルフ場に知人の氏名や住所を使って申込みを行い、施設を利用したというものです。愛媛県暴排条例には、2021年1月「他人名義の利用」を禁止する規定が追加されていて、愛媛県公安委員会がこの規定に基づいて勧告を行うのは初めてだということです。また、2010年8月に条例が施行されて以降、勧告はこれで14件目となるといいます。
▼愛媛県暴力団排除条例
同条例では、第21条(他人の名義を利用することの禁止)において、「暴力団員は、自らが暴力団員である事実を隠蔽する目的で、他人の名義を利用してはならない。」と規定されており、第26条(調査及び立入検査等)において、「公安委員会は、第13条第1項若しくは第2項、第15条第3項、第17条第1項若しくは第2項、第19条、第20条第1項、第21条、第22条第2項、第23条第2項、第24条第1項又は前条第1項の規定に違反する行為をした疑いがあると認められる者その他の関係者に対し、公安委員会規則で定めるところにより、その違反の事実を明らかにするために必要な限度において、文書若しくは口頭による説明又は資料の提出を求めることができる。」とされ、さらに第27条(勧告)において、「公安委員会は、第17条第1項若しくは第2項、第19条、第20条第1項、第21条、第22条第2項、第23条第2項、第24条第1項又は第25条第1項の規定に違反する行為があった場合において、当該行為が暴力団の排除に支障を及ぼし、又は及ぼすおそれがあると認めるときは、公安委員会規則で定めるところにより、当該行為をした者に対し、必要な勧告をすることができる。」とされています。
(6)暴力団排除条例に基づく逮捕事例(埼玉県)
大宮駅周辺の暴力団排除特別強化地域で営業する飲食店が暴力団員に用心棒をしてもらったとして、埼玉県警捜査4課と大宮署などは、埼玉県暴排条例違反の疑いで、住吉会傘下組織組員で無職の男と、飲食店経営者の男、同店従業員の男2人の計4人を逮捕しています。報道によれば、2022年10月、さいたま市内の路上で男が経営する朝キャバクラ店の営業に関して、組員が酔余者に関する紛争を解決し、用心棒の役務を提供、店側は紛争を解決してもらい、用心棒の役務の提供を受けた疑いがもたれています。埼玉県暴排条例は2018年4月に改正され、特別強化地域に指定された大宮駅周辺で暴力団員に用心棒をしてもらうことや、用心棒料やみかじめ料を支払うなどの不当行為が行われると、要求した暴力団員だけでなく、要求に従った事業者側も罰則の対象となっており、改正条例が適用されるのは2例目だということです。なお、トラブルを収めた組員が、駆け付けた警察官に対し、「トラブルになって呼ばれてきた。ここは俺の店だから、困ったことがあれば仲裁するのが俺の役目だ」と話したといいます。
▼埼玉県暴力団排除条例
店側については、同条例の 第22条の3(特別強化地域における禁止行為)において、「2 特定営業者は、特別強化地域における特定営業の営業に関し、暴力団員から、用心棒の役務(営業を営む者の営業に係る業務を円滑に行うことができるようにするため顧客、従業者その他の関係者との紛争の解決又は鎮圧を行う役務をいう。次項及び次条第2号において同じ。)の提供を受けてはならない。」と規定されており、暴力団側も、第22条の4において、「暴力団員は、特別強化地域における特定営業の営業に関し、次に掲げる行為をしてはならない。」として、「(2)特定営業者に対し、用心棒の役務を提供すること。」が明記されています。そのうえで、第32条(罰則)において、「次の各号のいずれかに該当する者は、1年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。」として、「(2)相手方が暴力団員であることの情を知って、第22条の3の規定に違反した者」、「(3)第22条の4の規定に違反した者」が規定されています。
(7)暴力団排除条例に基づく逮捕事例(静岡県)
社交飲食店などから「盆暮れの付き合い」として、オリジナルラベルの酒を売りつけ、その購入代金を受け取った疑いで稲川会系四代目森田一家の幹部ら6人が、静岡県暴排条例違反で静岡県警に逮捕されています。報道によれば、2022年12月中旬、暴排条例で指定されている暴力団排除特別強化地域の静岡市葵区両替町のガールズバーの経営者に「盆暮れの付き合い」として、酒を売りつけ、その購入代金4万円を受け取った疑いが持たれています。酒は、静岡県外の酒蔵などから1本1,000円程度で仕入れ、オリジナルのラベルを作成して貼り替え、4合瓶(720ml)を2本1セットにして、2万円で販売していたもので、この酒の販売は、10年以上続けており、2022年12月も100セット以上を販売していたとみられているといいます。なお、仕入れや販売は幹部の男以外の5人で行っており、非組員らが作業することで暴排条例違反が発覚するリスクを抑えていたとみられていますが、警察は、若頭らが100セット以上酒を購入していることを確認していて、相当分の余罪があるとみて、捜査を進めています。静岡県では、2019年8月施行の改正静岡県暴排条例において、静岡市や浜松市など5市6カ所の繁華街を「暴力団排除特別強化地域」に指定し、飲食店や風俗業を営む事業者と暴力団の間でみかじめ料や用心棒料の授受を禁止しています。
▼静岡県暴力団排除条例
同条例では、第18条の4(暴力団員の禁止行為)において、「2暴力団員は、特定営業の営業に関し、特定営業者から、用心棒の役務を提供する対償として、又はその営業を営むことを容認する対償として利益の供与を受け、又はその指定した者に利益の供与を受けさせてはならない。」と規定されています。そのうえで、第28条(罰則)において、「次の各号のいずれかに該当する者は、1年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。」として、「(3)第18条の4の規定に違反した者」が規定されています。
(8)暴力団対策法に基づく中止命令発出事例(長野県)
長野中央警察署は、六代目山口組傘下組織幹部が30代男性に対して、不当に金銭を要求したとして、中止命令を発出しています。報道によれば、男は2023年2月上旬に知人関係にある30代男性に対して、指定暴力団の威力を示して、不当に金銭を要求したということです。
▼暴力団対策法(暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律)
同法第9条(暴力的要求行為の禁止)において、「指定暴力団等の暴力団員(以下「指定暴力団員」という。)は、その者の所属する指定暴力団等又はその系列上位指定暴力団等(当該指定暴力団等と上方連結(指定暴力団等が他の指定暴力団等の構成団体となり、又は指定暴力団等の代表者等が他の指定暴力団等の暴力団員となっている関係をいう。)をすることにより順次関連している各指定暴力団等をいう。以下同じ。)の威力を示して次に掲げる行為をしてはならない。」として、「二 人に対し、寄附金、賛助金その他名目のいかんを問わず、みだりに金品等の贈与を要求すること。」が禁止されています。そのうえで、(暴力的要求行為等に対する措置)で、「公安委員会は、指定暴力団員が暴力的要求行為をしており、その相手方の生活の平穏又は業務の遂行の平穏が害されていると認める場合には、当該指定暴力団員に対し、当該暴力的要求行為を中止することを命じ、又は当該暴力的要求行為が中止されることを確保するために必要な事項を命ずることができる。」とされています。
(9)暴力団対策法に基づく中止命令発出事例(静岡県)
静岡県警御殿場署と県警捜査4課は、暴力団対策法に基づき、六代目山口組弘道会系の幹部の男に中止命令を出しています。報道によれば、幹部の男は2022年7月中旬、静岡県東部の40代女性に対し、暴力団の威力を示して利益を要求したということです(なお、暴力団対策法における規定については、上述のとおりです)。
(10)暴力団対策に基づく中止命令発出事例(岡山県)
指定暴力団の事務所の外壁に「代紋」などを設置したとして、岡山県警笠岡署は五代目浅野組の総裁に対して、代紋等を外すよう中止命令を出しています。報道によれば、この暴力団事務所では、「暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律第29条第1号」の「事務所等における禁止行為」に違反して、付近の住民や通行人が見える場所に浅野組の代紋や事務所の名称を記したものを設置し、住民や通行人に不安を覚えさせていたということです。岡山県内で、事務所等における禁止行為による中止命令の発出は、初めてだということです。なお、中止命令発出後、一定の猶予期間を経て代紋等が撤去されない場合は、3年以下の懲役または250万円以下の罰金、もしくはその両方が科されるということです。
暴力団対策法第29条(事務所等における禁止行為)については、「指定暴力団員は、次に掲げる行為をしてはならない。」として、「一 指定暴力団等の事務所(以下この条及び第三十三条第一項において単に「事務所」という。)の外周に、又は外部から見通すことができる状態にしてその内部に、付近の住民又は通行人に不安を覚えさせるおそれがある表示又は物品として国家公安委員会規則で定めるものを掲示し、又は設置すること。」が明記されています。そのうえで、第30条(事務所等における禁止行為に対する措置)において、「公安委員会は、指定暴力団員が前条の規定に違反する行為をしており、付近の住民若しくは通行人又は当該行為の相手方の生活の平穏又は業務の遂行の平穏が害されていると認める場合には、当該指定暴力団員に対し、当該行為を中止することを命じ、又は当該行為が中止されることを確保するために必要な事項を命ずることができる。」と規定されています。さらに、第47条(罰則)において、「次の各号のいずれかに該当する者は、三年以下の懲役若しくは二百五十万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。」として、「十二 第三十条の規定による命令に違反した者」が規定されています。
(11)暴力団対策法に基づく中止命令発出状況(鹿児島県)
鹿児島県警組織犯罪対策課と鹿児島南署は、暴力団対策法に基づき、四代目小桜一家傘下組織組長に中止命令(事務所等における禁止行為)を出しています。報道によれば、県内の企業の男性従業員に「取りに来てもらえないか。甲突町の方に」と電話し、代金支払場所として指定暴力団の事務所を用いることを強要したというものです。なお、小桜一家関係者への中止命令は2022年2月以来となります。
暴力団対策法第29条(事務所等における禁止行為)については、「指定暴力団員は、次に掲げる行為をしてはならない。」として、「三 人に対し、債務の履行その他の国家公安委員会規則で定める用務を行う場所として、事務所を用いることを強要すること。」が規定されています。