クレーム・カスハラ 関連コラム

「カスハラ」という言葉のトレンドに引きずられるな~企業におけるクレーム対応の目的と理由をもう一度、確かめよう~

2022.11.15

総合研究部 上席研究員 宮本 知久

コールセンターのイメージ

今回から「クレーム対応・カスタマーハラスメント対策 トピックス」を連載で掲載し、皆様にお役立ち情報を発信します。

コラムでは、年間 約8,000件のクレーム等のトラブル対応のアドバイスを手掛け、クレーム発生現場での対応実務支援、お客様相談室設置コンサルティング、マニュアル作成、経営体制診断、実態調査アンケートなど、クレーム等の発生から収束、社内体制構築まで一貫で提供する当社の対応、対策のノウハウをご紹介していきます。

ぜひ皆さまの会社でのクレーム対応、カスハラ対策にお役立てください。

1.はじめに

カスタマーハラスメント、略して「カスハラ」という言葉がトレンドになっています。

元々、個人顧客との接客対応や法人取引先営業に伴う職場でカスハラが問題視されていることや、厚生労働省が2022年2月に「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」を公開し、企業にカスハラ対策を推奨していることなどがきっかけです。

ただ、いつくかの会社では流行に乗ってクレームが起きたらすぐに「カスハラ」という言葉を使って話し合っている危険な状況がみられます。冗談で使っている場面もたくさんあるのでしょうが、クレームをすべてカスハラと捉えるのは好ましくなく、クレームとカスハラの違いを正しく捉えて、また普段から正しい言葉で話し合うことが大切です。

今回は、そもそも企業がクレーム対応を行う目的と理由を確認してみたいと思います。

2.企業がクレーム対応を行う目的 ~3つの理由~

企業がクレーム対応の目的、つまり、会社などが「なぜクレーム対応を行わなければならないのか」を考えます。

第1の理由 ~責任と義務を果たす必要性~

会社は、自社で作った商品を販売したり、サービスを提供したあと、お客様からの不満の申し出や要望を聞くことが求められます。

お客様に対し、自社が気付かずに傷のついた商品を販売してしまっていたり、約束したことと違うサービスを提供していたりしたときのように、お客様から指摘されなければ気づかない自社側の不注意が起こりえるからです。

会社は不注意の大きさによって責任を伴い、謝罪や責任を果たす義務を負っています。例えば「加湿器を購入して使用している顧客の自宅で自然発火事故を起こし加湿器が使えなくなった」や「顧客に10個の商品を配達しなければならない契約をしていて、企業の不注意で1個を配達し忘れていた」というように、製品の品質問題や提供したサービスに不足があったとき、加湿器の交換・返金や再配達などの義務を負っています。

責任を果たすために、クレーム対応は絶対に必要なのです。

もしクレームが起こっても何も対応しない会社があったとするなら、それは責任を果たそうとしていないことを表すわけであり、その会社は信頼を失くすことになります。

第2の理由 ~プロとして解決案を提示することで信頼を回復する必要性~

自社の製品やサービスを利用したお客様に、その製品やサービスを提供している専門会社として、悩みの解決案を提示することが求められているからです。

クレームの中には、お客様の話を聞いたり、よく調べた結果、自社に責任がない申し出もありますが、責任がないことが分かったあとは対応をおろそかにしていいかというと、そうではありません。

責任がなくお客様の求めに応じる必要がなくとも、そのお客様の悩みにより添い、解決に向けた提案を行う必要があります。

製造やサービス提供のプロとして、解決案を提示することが世の中から求められているわけです。「よく調べたらうちの会社に責任がないから、あとは知らないよ」このような態度の会社が、世の中から選ばれることは決してないのです。

第3の理由 ~従業員をカスハラから守る必要性~

会社が従業員を守るために、組織的にクレーム対応を行うことが求められているためです。また、企業の従業員に対する安全配慮義務を履行する法律的な側面からも求められます。

クレームの中には、お客様が怒鳴ったりしつこかったり、暴力を振るったりする類のものがあり、それらの対応にあたった従業員がひどく落ち込んだり、体調を崩したりする事例も世の中で起こっています。

このような類の申し出を不当要求、カスタマーハラスメント(カスハラ)と呼び、会社は従業員たちをカスハラから守るための具体策を講じることが求められています。

「せっかく新規採用して活躍していた人が、カスハラによって働くのが怖くなり退職してしまった…」このような不幸が起きないように、会社が従業員たちをフォロー、ケアすることが求められているのです。

これら3つの理由をしっかりとらえて、経営と顧客対応を推進することが大切です。

3.なんでもかんでも「カスハラ」と呼ぶことの問題

顧客等から申し出があったとして、よく考えずに「カスハラ」という言葉を使って対応方針を話し合うことによって、次のような問題が起こる可能性を秘めています。

  • 責任と義務を果たさなければならない申し出をないがしろにしてしまう
    (企業が責任と義務を果たさない事案が起こる)
  • 責任がなくても、プロとして丁寧に解決案を提示すべきなのにこれをしない
    (顧客離れが起こる)

いずれも顧客等を大切にしていないので信頼を失くすばかりか、そのクレームをよりいっそうこじらせてしまったり、責任を果たさないことからは法律問題に発展するリスクもあります。

このような問題を起こさないためにも、普段から企業がクレーム対応を行う目的と理由を認識し、流行に惑わされることなく、普段から正しい言葉を使って議論すべきです。

4.基本方針の策定と浸透活動

企業内において、顧客対応の目的の実行を重視し前掲のような問題を防ぐためにも、自社の顧客対応基本方針、カスハラ対応基本方針を作り、従業員に周知浸透する活動が効果的です。

具体的には次の手順で社内体制強化を進める方法があり効果的です。ぜひ、取り入れてみてください。

  1. 自社の社内体制のウィークポイントの洗い出し
  2. 顧客対応やカスハラ実態調査アンケートでの実態把握
  3. 顧客対応基本方針・カスハラ対策基本方針の策定
  4. 対応組織体制やエスカレーションルールの策定
  5. 個々のクレーム、不当要求、カスハラへの対応手順の作成
  6. マニュアルやポケットブックの配布による社内周知
  7. 説明会・研修会での対応力向上と意識啓発
  8. 顧客対応状況の監査・従業員ヒアリングとフィードバック
  9. 実態調査アンケートでの周知度の調査と改善レベルの確認

5.最後に

今回は、企業におけるクレーム対応の目的と理由を確かめてみました。カスハラに関心を寄せ、対策強化を考えることはとても素晴らしいことです。一方で、カスハラだけの対策を進めることによって本文に書いたような問題が起きることに注意を払ってください。

クレーム対応・カスハラ対策トピックスでは、次回以降、カスハラの見極め方や個々のクレーム・不当要求・カスハラの対応のポイントなど、皆さんのお役に立てる情報を発信していきたいと思います。次回にご期待ください。

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