三匹(?)が語る!HRリスクマネジメント相談室(11)「同僚を脅すアルバイトにどう対応する?」
2019.09.25職場におけるトラブルは複合的。社内の様々な関係者の協力を得て、複数の視点で捉えなければ、解決が難しい問題も多々あります。でもやっぱり最後は「人」!HRリスクマネジメントが重要です。
職場における様々なトラブルを解決すべく、今、エス・ピー・ネットワークに生息する動物たちが立ち上がりました!初動対応や法的な責任、再発防止など、三匹それぞれの観点から熱く語ります。
【今月の三匹・プロフィール】
かわうそさん:
京都出身のはんなり系。秋になると紅葉をみながら俳句を詠んでおりました。東京に出稼ぎに来てまだ10ヵ月ですが、いっちょまえにHRリスクマネジメントについて考えていきます。
みみずくさん:
SPNの森のお目付け役。愛らしいフォルムと裏腹に、猛禽類らしい鋭い目線で最新のリスクをチェック!さらに森の仲間たちの文章もチェック!夜行性?いえいえ、暗いうちから活動を始める早起きさんです。
ネコさん:
当相談室の留守番ネコ。猫なで声と鋭い爪をあわせ持ち、企業内での人事実務経験が豊富。社会保険労務士で、産業カウンセラー、実はキャリアコンサルタントでもある。夏休みのはずが、秋休みニャー!
今月のご相談は、こちら。
多店舗展開の小売業で、人事を担当しています。今日、ある店舗の店長さんから、こんな問い合わせが来ました。
アルバイトのAさんなのですが、とんでもない人を採用してしまったかもしれません。
Aさんは50代後半の男性で、2年前に会社を辞めてから無職、とのことでした。ちょっと不愛想で、接客にはどうかな、とは思いましたが、シフトの自由度が高かったので、人手不足を解消するには仕方ない、と採用したのです。
今日からの勤務で、さっそく、ベテランアルバイトのBさんと一緒にレジに入ってもらったのですが、10分もしないうちにレジから大きな怒鳴り声が聞こえてきまして。
「テメェ、俺に指図する気か?!俺は反社に知り合いもいるんだぞ!!」、と。
Bさんは、大学1年生で入店して、今は就活を終えた4年生。「反社と知り合い」と聞いて、自分の就職にまで影響が出るのではないかと心配し、辞めたいとまで言ってきました。Bさんには、なんとか卒業まではいてもらわないと、店が回りません!人事さん、どうにかしてください!
「どうにかしてください!」と泣きつかれたって、人事だって困ります。こんなケースは初めてで、いったい何をどうすればいいのかわからず、途方に暮れるばかりです。私、いったいどうしたらいいんでしょう?
【かわうそさん】
今回は「反社に知り合いもいるんだぞ」と怒鳴る新人Aさん(以下、「A」という)に関する相談です。
いやー、怒鳴りながらこんなん言われたら私がBさん(以下、「B」という)の立場ならたまったもんやありません。かんにんですわ。
ま、とりあえず、相談内容を確認していきましょう。なお、相談内容からは明らかにされてませんが、Bは大学4年で就活を終えていることからある企業より内定が出ていることを前提として考えていきます。
店長さんは「Bさんには、なんとか卒業まではいてもらわないと、店が回りません!」と言ってはります。このことからBが卒業までバイトを続けてもらうためにはどのようにしたらいいでしょうか?という相談ということになりそうです。そもそもBが「バイトを辞めたい」と言う理由は、BがAを指導した際にAから「反社に知り合いもいるんだぞ」と怒鳴られたため、Bが就職にまで影響するのではないかと不安を抱いたためです。このことからBは「反社の知り合いのAと関係性を持つことが内定の取消しに繋がるのではないか」と考えているのではないでしょうか。この点について、まず、回答しようと思います。
また、Aのように反社との関係をほのめかし同僚アルバイトを脅す人がいては、職場環境の悪化が懸念されます。そこで、職場環境の悪化を防ぐために、現時点で何ができるか?についても考えていきたいと思います。
〈反社の知り合いの知り合いだと内定取消?>
説明の便宜のためBの内定先を甲社、Aの知り合いの反社をCとします。また、採用時に暴力団排除条項(以下、「暴排条項」という)を含む誓約書の提出を求める企業があります。そして甲社も同様にBに誓約書の提出を求めていた場合、今回の相談内容において、暴排条項に抵触するのかを検討していきます。そして、誓約書には以下のような暴排条項があったものと考えられます。
私は、貴社に従業員として入社のうえは、下記事項を誓約いたします。
また、私は、下記事項のいずれかに反した場合、内定取消し、解雇その他一切の処分を受けても異議を述べません。
暴力団、暴力団関係者・・・と関係を持っておらず、将来においても一切持たないこと。
この誓約書の暴排条項によると①Aが暴力団関係者にあたり、②BとAの間に関係があることが認められると内定の取消しが認められることとなります。
(1)Aは暴力団関係者か
暴排条項における暴力団関係者とはどのような意味でしょうか。
この点、東京都暴力団排除条例Q&AのQ6によると、暴力団関係者とは「暴力団員又は暴力団若しくは暴力団員と密接な関係を有する者」とされています。
▼東京都暴力団排除条例QA
今回の相談についてみてみますと、Cは反社ではありますが暴力団員か否かは明らかではありません。また、仮にCが暴力団員であるとしてもAが単なる知り合いにとどまるのであれば、Aが暴力団員Cと密接な関係を有する者とはいえなくなります。そうすると、Aは暴力団関係者とはいえないため甲社は内定取消し処分を行い得ないこととなります。
(2)AがBの知り合いでも内定を取消さなければならないか
暴排の趣旨は関係性を有することにより暴力団の活動を促進することを防止することです。今回の相談についてみてみますと、BはAのアルバイトの先輩ではあり、指導に携わった程度の関係しかありません。そうするとAを介して反社Cの活動が促進されるとはいえません。よって、BA間に社内暴排を図る必要性が認められる程度の関係があったといえず内定取消しの要件をみたさないこととなります。
〈職場環境の悪化を防ぐには?〉
相談内容を聞いて「反社をほのめかし初出勤10分で怒鳴る人はおったらどうせすぐめんどう起こしよる。その前に解雇やがな。」と思われた方もいてるんちゃうんか思います。しかしながら、現時点で解雇等の措置を行い社内より排除することは難しいと思います。上記のようにAは暴力団員でもなく、また、Aに反社Cとの間で密接な関係性が認められないため暴力団関係者とはいえません。そのため仮に解雇事由として「暴力団員等と関係を持っていること」を定めていても、解雇を行うことはできないということになります。
そのため、解雇以外の対応を考えなくてはなりません。Aのような反社との関係をほのめかしつつBの指示に対して指図するなと怒鳴る人がいては職場環境が悪化してしまいます。この点、暴排トピックス「社内暴排」への対応(2016.10)によると、使用者は暴力団員等を雇用したことによる職場環境の悪化には厳しく対応していくことが求められます。
▼暴排トピックス「社内暴排」への対応(2016.10)
そのため、今回の相談についても人事部さん、店長さんは職場環境の悪化を防止するために対応をすることが求められます。ただ、上記のようにA自身が暴力団員なのか、反社CとAに密接な関係性があり、Aが暴力団関係者なのか明らかではありません。このような状態ではいかなる対応を取るべきかを決めることができません。そのため、Aについて確認する必要性があります。他方で、現時点でAが暴力団員と密接な関係を有しているかを確認するために、Aの交友関係を確認して関係者に暴力団員がいるかを確認するところまで求められないと考えられます。これは、確認する内容がAの交友関係となり、把握すること自体が難しいこと、また、仮に交友関係を把握できたとしても確認する相手が個人であり、同人に関する情報は、企業と異なり商業登記等により公に開示され誰でもアクセスできる状態にあるわけではないことを理由とします。
以上のことから、今回の相談の場合ですとAのみを対象とした確認を行うこととなります。なお、確認を行うとしてもプライバシー侵害や名誉毀損とならないように注意を要し、インターネットやSNSの状況、場合によっては本人にヒアリング等を行うといった方法に限られるものと考えられます。
【みみずくさん】
満を持して、初登場のみみずくです。
ホーホー、かわうそは「暴排トピックス」を読んで勉強したようですね。
では私からは改めて、「社内暴排」の基本をレクチャーしておきましょう。
〈「社内暴排」の必要性〉
本件は、脅しの一手段として使われただけで、実際には反社会的勢力との関係がないのかもしれませんが、万が一、従業員が(単なる幼馴染や先輩・後輩の関係といったレベルを超えて)反社会的勢力と密接な関係を持っている場合、会社にとって重大なリスクともなりえます。なお、不当要求目的でこのように吹聴している者を反社会的勢力と認定する金融機関等もありますので、本当に反社会的勢力と関係があるかどうかは別として、そもそも吹聴する行為と反社会的勢力の行為要件との組み合わせで深刻な事態を招きかねないことは、社内で十分に認識させる必要があるともいえます。
また、とりわけ許認可事業においては、(簡単に言えば)管理職以上の従業員や役員が反社会的勢力と関係をもてば、許認可自体が取り消されることが業法上定められています。実際、2018年7月には、和歌山県の建設会社について、「元和歌山営業所長は、暴力団員又は同号に規定する暴力団員でなくなった日から5年を経過しない者に該当していることが判明した。このことが、建設業法第29条第1項第2号に該当すると認められる」として、建設業許可が取消されるという事案が発生しています。このように、反社会的勢力と役員・従業員との関係は、「企業の存続」さえ揺るがしかねない大きなリスクだということは認識しておくべきだといえます。したがって、企業としては、「常識で判断しなさい」「あくまで自己責任」ではなく、反社リスクのもつ重大性に鑑み、会社のリスクとして捉え、積極的に「役員・従業員が反社会的勢力と関係を持たないよう研修等を実施する」だけでは十分ではなく、「関係を持っていないこと」を、反社チェックを行う、誓約書を徴求するなどして確認することが求められているといえます。このような取り組みを「社内暴排」といいます。
とはいえ、この「社内暴排」に明確な定義があるわけではなく、狭義の意味では、「役員・従業員から反社会的勢力を排除すること」といえると思いますが、より広範に捉えるならば、「役員・従業員が反社会的勢力と一切の関係を持たないこと」「役員・従業員を介して反社会的勢力が企業内に侵入してくることを防止する(義務がある)こと」、さらには、「企業の反社会的勢力排除に向けた取り組みを推進すること」までを含めてよいものと考えます。そもそも、雇用契約も暴力団排除条例(暴排条例)で定めるところの「事業にかかる契約」であり、正に取引先と同様の反社リスク対策を講じる必要性があるといえます。なお、犯罪収益移転防止法改正における金融庁のパブコメへの回答でも、「属性としてリスクが高いとされる反社会的勢力を採用しないこと」が例示されていることは、社内暴排を考えるうえでも、その必要性を補強するものといえます。
〈使用者のリスクとその対策〉
一方、使用者には、職場環境の安全配慮義務(労働契約法第5条)があり、(離脱者以外の)暴力団員等を雇用することによる職場環境の悪化に対しては厳しく対応していくことが求められるます。本件相談においても、真実であるか否かにかかわらず職場環境の悪化が懸念されるとことであり、そもそもこのような発言は慎むよう厳しく指導することが必要でしょう。また、暴力団員や密接関係者等が社内に在籍している情報が外部に流れれば、強い社会的非難を浴び、社会的信用を棄損することにもなりかねません。さらには、当該役員・従業員に起因して企業が反社会的勢力と関係を持つことにより、暴排条例に抵触する「利益供与」とみなされる可能性や、銀行取引停止や公共事業からの排除、上場廃止や経営破たん等の事態さえ招くことも考えられます。したがって、これら役員・従業員の排除については、「入口」対策としてだけでなく、業務上あるいは私的な場面で接点をもってしまうことなどを防止・監視・把握する「中間管理」対策や、万が一関係をもったことが判明した、会社の信用を棄損する事態をもたらす結果を生じさせたなど、解雇・懲戒処分という「出口」対策も求められることになります。
企業が行うべき「社内暴排」の具体的な取り組みとしては、取引先と全く同様の考え方に基づき、役職員に対しても反社チェックを行うことや、入社時や入社後にも定期的に「反社会的勢力と関係がないことの確認書(誓約書)」を提出させること、就業規則への暴排条項の導入や反社会的勢力対応規程等の制定、反社会的勢力に関する社内ルールの周知徹底や研修の実施、およびそれを通して、日常業務をはじめ反社会的勢力の端緒を得たときの会社への報告義務を課すといった、「入口」「中間管理」「出口」における様々な施策が考えられるところです。以下、本件の相談に関連して、「採用」と「既存社員」への対応について、簡単にその考え方のポイントについて紹介しておきます。
〈「採用」における対応のポイント〉
まず、採用時に応募者本人に対して、「現在、反社会的勢力でないかどうか」「過去、反社会的勢力であったかどうか」質問してもよいかという点については、原則として、現時点の状況については許されるものの、過去については、一定期間の加入歴等の質問にとどめるべきではないかと思われます。企業内に反社会的勢力が侵入することの危険性や企業内秩序の維持の観点などから、「反社会的勢力でないこと」や「密接交際者でないこと」は本人の「適性」に関する事項であって、違法なプライバシー侵害にはならないと考えられます。また、暴排条例の主旨(関係者が暴力団関係者でないことを確認するよう努めるものとする、などの努力義務)からも、労働契約の締結に先立ってこれらの確認をすることが求められていると解釈できると思います。一方で、過去については、(離脱者支援の問題が顕在化している中)そもそも更生を妨げるおそれや、関係を断ってから相当の期間が経過しているような場合にまで、本人の「適性」として質問することは認められ難いものと考えます。したがって、質問の範囲も限定したものにとどめるべきということになります。
また、採用段階で本人が反社会的勢力である親族と「同居」している、「同一生計」であることを考慮するのは許容されるかという点については、「社会的に非難されるべき関係」が認められ、従業員として「適性」を欠くと認められる場合には許容されるのではないかと考えます。そもそも、厚生労働省による公正な採用選考の考え方として、「生活環境・家庭環境など」については、「本人に責任のない事項」として把握しないよう配慮を求めています。
▼厚生労働省 公正な採用選考の基本
ただし、反社会的勢力との同居が「本人に責任のない事項」かと言われれば、同居をやめて関係を解消することは可能であることから、あえて関係を継続することをもって採用を拒否することは決して不合理ではないのではないかと考えます。また、同一生計については、同居よりもさらに強い関係を推認させるものであり、公共事業からの暴排等の場面では同一生計からの暴排が規定されている(例えば、暴力団対策法第32条第1項の2では、「次に掲げる者をその行う売買等の契約に係る入札に参加させないようにするための措置を講ずるものとする」として、「指定暴力団員と生計を一にする配偶者(婚姻の届出をしていないが事実上婚姻関係と同様の事情にある者を含む。)」が指定されているほか、福岡県暴排条例第6条でも、「暴力団関係者(暴力団員又は暴力団若しくは暴力団員と密接な関係を有する者をいう。略)を県が実施する入札に参加させない等の必要な措置を講ずるものとする」と規定されており、同一生計からの暴排が想定されています)ことから、採用を拒否することには合理性があるものと思われます。
さらに、採用内定者から誓約書を取り付ける効果については、反社会的勢力の企業への侵入を抑止する効果だけでなく、本人に対する意識付け(企業姿勢の明確な伝達や暴排の徹底に向けた社内ルールの実効性確保など、社風の定着に寄与することが期待されます)、万が一の際の法的防御の強化といった様々な側面があります。また、暴排条項と同様に、現時点の属性に対する表明保証違反を問うことが可能になるほか、将来暴力団員等にならないことや、将来暴力団員等と一切の関係をもたないことを誓約させることから、就業規則等への暴排条項の導入とあわせれば、万が一の際の「出口」対策の有効性を補強するものとなりえます。
採用内定者が反社会的勢力ではないかとの「疑い」が判明した場合に、それを理由に採用内定を取り消せるかどうかについては、「疑い」だけで内定を取り消すことは難しく、詳しい調査を行う、モニタリングを継続するなどして真実であると認めるに足る証拠を(戦える段階にまで)積み上げることや、反社会的勢力との関係以外の関係解消事由(内定取消事由)を探して、それを理由とした対応を検討する、といったことが考えられます。実際に、参考となる裁判例として、「オプトエレクトロニクス事件(東京地判平成16年6月)」がありますが、同社が内定取消に用いた情報は、「あくまで伝聞に過ぎず、噂の域をでないもの」ばかりであると指摘されており、「当該噂が真実であると認めるに足りる証拠は存在しない」として、内定取消を無効としています。取引先における「出口」対策同様、相手の反社属性の立証には十分な注意を払う必要があり、企業として手を尽くしたうえで合理的な判断を導く(すなわち、経営判断の原則を充足する)ことが求められます。
〈「既存社員」に対する対応のポイント〉
就業規則に暴排条項を導入することについては、会社の姿勢を明示して暴排に向けた職員の意識の統一を図ること、明文化することで外部からの侵入に対する予防・抑止的効果が期待できること、万が一の際の裁判規範として、雇用契約の解消(普通解雇・懲戒解雇等)をより円滑に進められる効果も期待できるといったメリットがあります。また、実際に導入すべき内容としては、服務規律として、「反社会的勢力に属さないこと」「密接な関係を持たないこと」はもちろん、「一切の関係を持たないこと」まで記載することも考えられます。さらに、「関係を知った場合の会社への報告義務」「反社チェック等の会社の定めたルールに従って業務を適正に実施すること」等についても十分に考えられるところであり、どこまで記載するかは企業のリスク判断事項となります。また、これらをふまえて解雇事由や懲戒事由についても検討する必要があります(例えば、一切の関係遮断をうたいながら、密接な関係とまではいえない私的な交際をも懲戒の対象とすべきかどうかは議論の余地があると言えます)。
既存の社員から誓約書を取り付けるべきかどうかについては、取引先管理と同一のスタンスをとり、全員から取り付けるべきだといえます。この点については、社内に暴力団関係者がいることによる企業内秩序に与える悪影響なども考えれば、合理性が認められるものといえると思いますし、誓約書の提出を業務命令として発することについても、相当の理由があるものとして認められ、社員は命令に従う義務が生じるともいえます(その文脈で、本件相談のように、「知り合いに反社がいる」と吹聴する行為自体も咎められるべきものとすべての役員・従業員に周知することが重要だといえます)。一方で、業務命令に違反した不提出を理由として懲戒処分にすることについては、程度の問題はあるものの、企業秩序を乱すものとして制裁を課すことも可能ではないかと考えられます(なお、実際に、過去、反社会的勢力と知って取引を行っていた複数の部長クラスが誓約書の提出を拒んだケースがありました。本ケースでは、企業側の判断で、過去の行為を遡って処罰はしないが、今後について誓約して欲しいと説得し、取り付けることができましたが、誓約書の重みをあらためて感じさせるケースとなりました)。ただし、その合理性・相当性を担保するために、就業規則等への暴排条項の導入だけでなく、誓約書の提出義務をあらかじめ明示しておくことなどは取り組んでおく必要がると思われます。
「社内暴排」のベースとなる考え方は、雇用契約もまた事業にかかる契約の一つであって、取引先からの暴排と基本的には同様のスタンスを持つべきということです。さらには、「社内暴排」は、現在および将来にわたって、反社会的勢力が役員・従業員として/役員・従業員を介して企業に侵入することを防止するほか、企業の暴排の取り組みに実効性を持たせるために必要な「意識」付けにとって重要な取り組みの一つであると認識し、これによって、反社リスク対策全般の底上げを図っていただきたいと思います。
【ネコさん】
社内暴排のことは専門家のみみずくさんと、かわうそさんが書いてくれましたので、
ネコはちょっと別の視点から。
Aさんはどうして怒鳴ったりしたのかニャー?
〈「Aさん、どうしたの?」〉
困ってしまった店長さんには、まずはこんな言葉から、Aさんと話していただきたいと思います。
Aさんは50代後半、2年前に会社を辞めて、それからは無職とのことでした。何があったのかわかりませんが、50代後半で会社を辞めるって、生活のこととか、これからのこととか、いろいろ考えたら、かなり大変なことですよね。その後の2年間も、どうされていたのでしょう。思うように転職活動が進まなかったり、慣れないアルバイトでつらい思いをしたり…いろいろ想像してしまいます。不愛想で、あまり接客に向いていると思えないようなAさんにとって、このお店でのアルバイトは「不本意」なのかもしれません。それでもAさんは、このお店のアルバイトに応募し、今、初出勤を迎えているわけです。今のAさんは、どんな気持ちでしょう。
きっと、「不安」で仕方ないのではないでしょうか。50代後半になって、若い学生から仕事を習うのは、ちょっと恥ずかしいと思っているかもしれません。慣れない環境、慣れない仕事ですから、間違えたり、なかなか覚えられなかったりもすると思います。そんなときに、自分の子供くらいの若者から、例えば、「早く覚えるためには、ほら、しっかりメモを取ってくださいよ。私がポイントを教えますから」なんて言われたら?
Aさんは年長者です。2年前、前の会社を辞めるまでは、きっと「ベテラン」の領域にいた方でしょう。AさんはBさんよりも人生の先輩であり、社会人としても先輩です。自分より「下」だと思っているBさんが、「上から目線」で指示をしてきたら、つい「カッとなって怒鳴ってしまう」気持ちも、わからなくはないでしょう。
Aさんの知り合いに、本当に「反社」がいるわけではないかもしれません。つい自分を大きく見せようとして、「反社と知り合い」などと口走ってしまっただけかもしれません。興奮して怒鳴っている時であれば、その怒鳴っている「言葉の意味」よりも、怒鳴ってしまう「背景となる気持ち」の方に、真実があることも十分に考えられます。
ですので人事さん、まずは店長さんを落ち着かせて、Aさんの話をしっかり聴いてもらってください。話を聴いて、やっぱり本当に「とんでもない人」だったときは、「社内暴排」の流れで対処しましょう。
〈「Bさん、落ち着いて」〉
もう一人、Bさんの対応も必要です。Bさんにも、少し落ち着いてもらいましょう。かわうそさんが言うように、「これで内定取り消し」になるとは思えません。まずは安心させて、落ち着いて話をしてみましょう。
Bさんは、この店舗のアルバイトの中では、なかなかの「ベテラン」です。今までの「仕事の教え方」で、自分より若い後輩アルバイトさんには、「良い先生」「面倒見のいい兄貴的な存在」と思ってもらえたかもしれません。
しかしAさんは、Bさんよりも「人生の先輩」です。同じ「教え方」では、うまくいかない可能性は高いと思うのです。
いったん、「教える」という発想をなくしてみてはいかがでしょうか?新しいアルバイトさんに加わってもらい、戦力となってもらうことで、自分も休みがとりやすくなったり、忙しさが分散できたりと、たくさんメリットがあるはずです。自分にもメリットがあるのですから、「教える」ではなく、「お願いする」スタンスになっても良くないですか?
もし店長さんもお若いならば、Aさんの話を聴こうにも、Aさんはさらに「馬鹿にするな!」と怒鳴りだしてしまうかもしれません。Bさんと共に、どう接したらAさんが落ち着いて仕事をできるようになるか、考えましょう。
一般的に、「教えてあげる」「聴いてあげる」というつもりで接すると、どうしても教える側、聴く側が「上」である印象を強調しがちです。どちらが「上」か「下」かにこだわる人にとっては、火種になり得ます。「教えてあげる」のではなく「これをやって欲しいとお願いする」、「話を聴いてあげる」のではなく「話を聴かせていただく」というつもりになるだけで、言葉遣いや態度は変わるものです。
Bさんも店長さんも、「・・・してあげる」という言葉が心に浮かんだら、要注意です!
〈暴排意識の浸透〉
人気タレントの謝罪会見など、いろいろ世間を騒がせるニュースがありました。学生であるBさんにとっても、「暴排」は「当然」であり、日常に潜むリスクの一つとして認知されてきているのならば、とてもよい傾向だと思います。
まだまだ反社会的勢力を「美化」するような映画やドラマはあるわけで、そこにイケメン俳優やアイドルが出演しているのを見てしまうと、「暴排」の意識がかすんでしまいそうで、ネコとしては少し心配になるのです。
ネコも映画やドラマは大好きです。でも、それはあくまでも「フィクション」の世界。このBさんのように、「反社と付き合ったらダメ!」という「常識」が、深く浸透するといいな、と思っています。
「HRリスク」とは、職場における、「人」に関連するリスク全般のこと。組織の健全な運営や成長を阻害する全ての要因をさします。
職場トラブル解決とHRリスクの低減に向けて、エス・ピー・ネットワークの動物たちは今日も行く!
※このコーナーで扱って欲しい「お悩み」を、随時募集しております。