【緊急レポート】「ロックダウン(都市封鎖)」寸前?!「緊急事態宣言」に備えた企業の対応とは(2020/4/5時点)
2020.04.06目まぐるしく変化する政府や自治体のコロナウイルス対応。企業の危機管理担当者としても、今後の方針について迷うことが多いだろう。4月5日(18:00)時点の情報をもとに、「緊急事態宣言」「ロックダウン」に向けて企業のやるべき対応と今後の対策について検討してみたい。
参考までに厚生労働省発表資料によって現時点(4月5日18時時点)での患者数を記すと、感染者数3191人で死亡者は70人。東京都に限って言えば2日連続で100人を超え、累計1000人を超えた。ただ、基準になる数字を考えずに「100人」「1000人」と区切りのいい数字だけを見てもあまり意味はない。PCR検査数も、3月24日時点で約2万2000人だった1日の検査数が、5日には1日4万人と倍増していることから、感染者数が増えるのはある意味当然のことともいえる。現在の状況を、どのように見るべきなのか検証してみる。
「オーバーシュート」とは何か。食い止めるべきは「医療崩壊」
小池百合子都知事が先日の記者会見で口にしたことで、一躍メディアに取り上げられて物議をかもした「オーバーシュート」。「爆発的患者急増」と訳すこともあるこの言葉について、4月1日の厚生労働相らの専門家で構成される「新型コロナウイルス感染症対策専門家会議」(以下、専門家会議)による記者会見で次のような定義付けがなされた。
欧米で見られるように、爆発的な患者数の増加のことを指すが、2~3 日で累積患者数が倍増する程度のスピードが継続して認められるものを指す。異常なスピードでの患者数増加が見込まれるため、一定期間の不要不急の外出自粛や移動の制限(いわゆるロックダウンに類する措置)を含む速やかな対策を必要とする。
もう少しわかりやすく言うと、例えば、現在の日本国内における累積患者数は前述したように3191人だが、オーバーシュートではこの数が2~3日で一挙に倍になる状況が続くイメージだ。参考までに、3日前の4月2日時点では累計患者数は2384人。PCR検査数が倍増しているにもかかわらず、患者数は1.5倍弱という状況から、危うい状況ではあるものの、現在はかろうじて「オーバーシュートの段階ではない」として政府では「緊急事態宣言」を回避していると考えられる。
参考までに、以下が各国の累積患者数の状況だ。例えばイタリアでは黄色でハイライトしたように3月13日で3万人ほどだった累積患者数が28日には7万人に増え、次の週には10万人に手が届く勢いとなっている。このような状態が「オーバーシュート」であり、一気に医療体制の崩壊につながった。
(出典:新型コロナウイルス感染症対策専門会議「新型コロナウイルス感染症対策の状況分析・提言」(2020年4月1日)に、筆者が黄色でハイライトを付記)
ただし、専門家会議では「オーバーシュート=医療体制の崩壊ではない」と強調した。これは「オーバーシュートが発生する前に医療体制の崩壊はあり得る」という意味だ。現在、精神科を除いた都内の一般病床は約11万床。このうち、感染症を受け入れることのできるベッドの数はおよそ先週まで500床ほどしか確保できていなかったが、100人以上の感染者が2日続いている状況を受け、小池百合子都知事は5日の会見で来週早々に1000床の増床を発表。最終的には4000床まで引き上げたい考えだ。都内ではすでに累計1000人以上が感染していることから、まさにギリギリの攻防ともいえる。
また、今回の新型コロナウイルスは感染者が長期間にわたってウイルスを保有することが知られており、いったん入院してしまったら2~3週間は退院することができないことも、ベッド数が追いつかないことに拍車をかけていると言っていいだろう。都ではそのような状況も踏まえて、近日中に軽症者や無症状者のホテルなどの滞在施設への移動を計画している。
いずれにせよ、現時点を東京都の状況を評価すると「(オーバーシュート前に発生する)医療崩壊寸前でかろうじて踏みとどまっている状態」と言え、予断を許さない状況であることは間違いない。
今回の新型コロナウイルスの影響で、国が最も恐れているのは「医療崩壊」だ。すでに海外ではイタリアだけでなくパリやニューヨークでも医療崩壊が発生しており、公園内にテントを立てて仮設病院を設営するなど、先進国とは思えないような対処を強いられている。そしてオーバーシュートの前に医療崩壊が来る可能性があるのであれば、医療崩壊と国が認識した時点で「ロックダウン」(都市封鎖)に入る確率が高くなる。
現在では、東京含むそれ以外の都市でも、院内感染(発生した病院からの転院先での発症も含む)や救急搬送時の感染等による医療関係者のクラスターが多発している。これは医療崩壊を早期に招く兆候だ。感染した医師や看護師、放射線技師はもちろん、濃厚接触者も含めて、自宅待機等の処置により、治療の最前線の現場には立てない。感染者が増大する一方で、医療関係者が感染・隔離されてしまえば、治療・対応できる限界を超え、ただでさえ過酷な状況にある医療現場が、一気に崩壊しかねない。現在の院内感染や医療関係者の感染状況をみると、オーバーシュートよりも前に医療崩壊はやってくる公算が高いだろう。
「1日に都内でどのくらいの人数が感染すると医療崩壊につながるのか」という問いに関しては、国として回答を慎重にならざるを得ないだろう。私たちに今できるのは、「3密」を防ぐために専門家会議らの提言に従い、この状況を克服していくしかない。
専門家会議からは、「3つの条件が同時に重なる場」(『換気の悪い密閉空間』『多くの人が密集』『近距離での密接した会話』)を避けるための取組(行動変容)を、より強く徹底する。都内などオーバーシュートの恐れがある場合は、下記のような施策が必要になるとしている。
- 期間を明確にした外出自粛要請
- 地域レベルであっても、10名以上が集まる集会・イベントへの参加を避けること
- 家族以外の多人数での会食などは行わないこと
- 具体的に集団感染(クラスター感染)が生じた事例を踏まえた、注意喚起の徹底
「緊急事態宣言」と「ロックダウン」に備えた企業の対応とは
現時点で、ロックダウンについての厳密な定義はない。メディアでは「都市封鎖」とし、「強制的な外出禁止や生活必需品以外の店舗閉鎖などを行う強硬な措置」などと解説しているが、定まったものではない。
国として憲法の範囲内でどこまで踏み込んで企業の経済行為を制限することができるのか、今の時点で予測することは難しい。ただし、憲法における基本的人権を無視するような「罰則付きの外出禁止」などの厳しい措置をとることはないだろう。緊急事態宣言により都道府県知事等から外出自粛要請が出された場合も、同法には罰則の規定はないため、日本では罰則は課せられることはない。なぜなら、すべての危機管理は法律の上に成り立っていると言っても過言ではないからだ。
あまり知られていないことだが、巨大災害時における災害対策基本法や災害救助法などの法解釈や適用も、時には超法規措置に見えがちだが、すべて緻密な法理論と解釈の上に成り立っている。我々が行っている企業の危機管理も、すべて法律の上でこそ成り立っているものだ。先進国として、法治国家として、緊急事態だからといって国の基本法を無視した施策は、それ自体が重大な危機を招いてしまうことは自明の理だ(但し、現在東京都等で行われている週末の外出自粛要請等については、法令上の根拠はない)。よって企業の危機管理担当者として、法律を超えた部分に関する事態を想定する必要はないと考えられる。
また、医療崩壊と同様、国として自国の経済発展の妨げになることはなるべく避けたいと思うのは当然だろう。全体主義と民主主義の瀬戸際で、どのようにウイルスを克服するかが、少し大げさかもしれないが今後の日本の危機管理の在り方を問うことにつながるだろう。
そのような状況の中、他国の成功事例を手本に国が政策を決めていくことは、至って自然な動きだ。例えばシンガポールや台湾では2003年のSARSの教訓をもとに、早めの対策をうつことでオーバーシュートを防いでいる。ユニークなのはシンガポールの対策だ(ただし、もちろん罰則があるので日本より実効性は高い)。
まず、早い段階から人と人との間を一定距離(1m程度)あける「社会的距離(ソーシャル・ディスタンス)」政策を徹底していることで、外出禁止などの措置を回避している。飲食店やスーパーマーケットでも目安として床に距離が測れる線を引き、「社会的距離」を保っている。先週には、飲食店がテーブル間の距離を1m以上保ち、食事を共にする人数を10人までに制限する規則も加わった。こちらには最大1万シンガポールドル(およそ7000ドル)の罰則がつけられる。
企業に対しては、職場においても同様の距離を開けるのと同時に、職場にいる人員をテレワークなどでおよそ半分以下にすることを求めている。これは民主主義国家としてできる最大限の対策と言ってよいだろう。この程度を要請することは、現在の日本としても十分にありうる。罰則を伴うというよりは、実施した企業に補助金を出す方向で実施するだろう。
ここからは予想となってしまうが、現時点で企業としてロックダウンが行われた場合の事態を想定してみよう。だがその前に、現行の改正新型インフルエンザ等特措法の「緊急事態対応宣言」が可能になる要件と明文化された部分をおさらいしてみる。
まず、緊急事態宣言を出すためには2つの要件がある。1つめは「国民の生命・健康に著しく重大な被害を与える恐れ」、2つめは「全国的かつ急速なまん延により、国民生活・経済に甚大な影響を及ぼす恐れ」だ。これをクリアするとどのようなことができるのか。以下に主なものを条文に沿ってまとめてみた。すべて総理が宣言した後、都道府県知事に権限が発生することも付け加えておく。
①外出自粛の要請
都道府県知事は、「生活の維持に必要な場合を除きみだりに当該者の居宅又はこれに相当する場所から外出しないこと」を期間と区域を決めて住民に要請できる。(第45条)
②学校、社会福祉施設、イベント会場の使用制限
都道府県知事は学校、社会福祉施設、興行場(映画、演劇、音楽、スポーツ、演芸などの施設)の管理者に対し、施設の使用制限もしくは停止を要請できる。また、イベントの主催者にイベント開催の制限もしくは停止を要請できる。施設管理者等が正当な理由がないのに要請に応じないときは、施設管理者等に対し指示することができる。(第45条)
③臨時医療施設のための土地使用
都道府県知事は、臨時の医療施設を開設するため、土地、家屋または物資を使用する必要があると認めるときは、当該土地等の所有者および占有者の同意を得て、当該土地等を使用することができる。また、正当な理由がないのに同意をしないとき、同意を得ないで、土地等を使用することができる。(第49条)
④医薬品や食品など物資の売渡しの要請
都道府県知事は、緊急事態措置の実施に必要な物資(医薬品、食品その他の政令で定める物資に限る)であって生産、集荷、販売、配給、保管または輸送を業とする者が取り扱うものについて、その所有者に対し特定物資の売渡しを要請することができる。正当な理由がないのに要請に応じないときは、特定物資を収用することができる。(第55条)
⑤生活関連物資等の価格の安定
指定行政機関の長らは、国民生活との関連性が高い物資などが価格の高騰や供給不足が生じたり、生じる恐れがあるときは、法令の規定に基づく措置などを講じなければならない。(第59条)
企業の担当者として最も頭を悩ますのは「①外出の制限」がどこまで出社に影響を及ぼすかというところだろう。前述したように、「罰則付きの外出制限」になることは考えにくい。
(可能性の1つとして、ロックダウンの場合は、当該都市への流入もある程度物理的に遮断する必要もあることから、鉄道やバスなどの交通機関は、知事からの要請や事業者の自主的判断により、一定程度運休等になる可能性はある。現在、新型コロナウイルスは政令により二類感染症相当とされているが、エボラ出血熱等の一類感染症と認定されれば、感染症予防法(正式には、「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」)により、72時間以内の期間を定めて、当該感染症の患者がいる場所その他当該感染症の病原体に汚染され、又は汚染された疑いがある場所の交通を制限し、又は遮断することができる(同法第33条))。
まずは、自社の事業が「インフラ事業」に当たるかを考える必要がある。「インフラ事業」とは、電気・ガス・水道・病院・通信といったライフラインにあたる事業だ。スーパーなどの食料・衣料品・医薬品等を販売する業種や、必要な運輸等の物流事業者もこれに当たる。これに関しては、先日の官邸発信でも「①指定公共機関及び指定地方公共機関は、電気、ガス、水道、公共交通、通信等の維持を通じて、国民生活及び国民経済への影響が最小となるよう公益的事業を継続する②政府は、指定公共機関の公益的事業の継続に支障が生じることがないよう、必要な支援を行う」と明示している。自社の事業が「インフラ事業」に当たるかを確認することが必要だ。
そうでない企業はどうするか。現在の官邸発信では「政府は、職場における感染の拡大を防止するため、労働者を使用する事業者に対し、事業場内及び通勤・外勤時の感染防止のための行動(手洗い、咳エチケット等)の徹底、在宅勤務(テレワーク)や時差通勤、自転車通勤の積極的な使用、事業場の喚起などの励行、発熱などの風邪症状がみられる労働者への出勤免除(テレワークの指示を含む)や外出自粛勧奨、出張による移動を減らすためのテレビ会議の利用等を強力に呼び掛ける」とある。
これに対し、「緊急事態宣言」発令後にもう一歩踏み込んだ表現をするとしたら、シンガポールのように数値付きの企業への努力目標を掲げることだ。「事業内の社員の総数の半数以上を在宅勤務(テレワーク)にするよう強く要請する」「事業所内においても、人と人との距離を1m以上開けることが必要」などという形であれば、現行の法律の中でも十分に可能だ(もちろんそれに備えた十分な補償を検討する必要もある)。そして企業としてはその要請にできうる限り従う義務が生じる。改正前の新型インフルエンザ対策特措法でも最悪の想定として「社員の4割以上が出社できなくなる状況」を挙げている。企業としては基本に立ち返り、ロックダウンに向けて「社員の半数が出社できない状態」に備えたBCPを作成する必要がある。
現段階として確実に言えるのは、「緊急事態宣言」は政府としての現在「最後の砦」であることだ。もし「緊急事態宣言」を発令したにもかかわらず終息の兆しが見えなければ、日本の政治と医療は世界的に信用を失墜する。そのため、政府としても緊急事態宣言を発令することは十分に慎重を期す必要がある。同時に、企業担当者は「緊急事態宣言」が国の最後の手段であることを十分に認識し、それに最大限応える社会的な義務があることを肝に銘じてほしい。
従業員のハラスメントやメンタルヘルスに一層の注意が必要
通常、大きな地震が起きると、被災地支援等の名目で、「がんばろう」というスローガンのもと、日本全国から直接・間接の支援が行われる。東日本大震災の時は、「絆」という言葉が至るところで見られた。
しかし、今回の新型コロナウイルス感染症については、逆の事象が発生する。感染者の多い地域の人々は他県から敬遠されてしまうのだ。不要な感染を広げない意味での距離的な壁は重要だが、それが心の壁となり、蔑視するようになってしまっては、感染拡大地域は孤立する。緊急事態宣言が出されても、当該地域への物流や医療機器・食料、日用品の運搬・搬入は不可欠だ。当該地域に行きたくない、入りたくないとなってしまっては完全に都市が崩壊してしまう。
災害対策基本法と異なり、インフルエンザ特措法では、知事による直接的な自衛隊派遣要請の規定はなく、緊急事態宣言が出された地域への物資の搬送・搬入・患者の搬出などを民間事業者等が行わない場合に、どのような状況になるのか、まったく未知数の部分もある。
また、残念なことにSNSでは医療従事者に対して心無い言葉を投げかけたり、罹患者を特定してパッシングしたりするような新型コロナウイルス・ハラスメント(コロハラ)も確認されており、社会として当然容認できることではない。企業内でも同様のことが発生する可能性は十分にある。これらのことは正直に事態を申告する従業員に対する大きな妨げとなる。厳に慎むように、社内でも徹底していただきたい。
一方でこれまでにも本コラムで何度も言及しているように、学校閉鎖や慣れない在宅勤務、先の見えない不透明感などでストレスがたまり、従業員がメンタルを病んでしまう事例も出てきている。企業としてはメンタルヘルスや内部通報窓口を再度周知するなど、従業員を思いやる気遣いも重要だ。
同時に、現在では在宅ワークができる部署とできない部署が分かれてしまい、在宅ができない部署の従業員の不公平感やメンタルストレスが溜まってきているとの事例もある。場合によっては在宅できない部署であってもシフト交代制で休みを取らせる、もしくは在宅ワークができる部署と短期的に仕事を入れ替えるなど、さらに一歩踏み込んだ在宅ワークの在り方を模索する時期に来ているのではないだろうか。
前代未聞の危機を乗り越えるために
今回の新型コロナウイルス禍は、東京オリンピックの延期という前代未聞の事態を引き起こしただけでなく、第2次世界大戦以来の全世界人類に対する試練とも言われている。大切なのは、行動においては、民主主義や憲法上の自由は尊重しつつ、ワンチームで新型コロナウイルスに立ち向かう結束力(全体主義的ではあるが)である。もちろん、これには国民一人一人が外出自粛や感染拡大防止に協力する意識と行動が不可欠だ。危機の時、国民がどこまで結束できるか、それこそまさにその国の国民の「賢」識といえる。
そしてこの事態に人類として立ち向かうためには、国や世界の枠組みを超え、AIやスーパーコンピュータなどを駆使し、人々の英知を結集していくことが不可欠だ。
(了)