カスタマーハラスメント実態調査(2021年)
2021.04.15当社が2021年にインターネット上で行った、昨今急増する「カスタマーハラスメント」についての実態調査の結果レポートを公開いたします。
顧客や取引先による悪質なクレームや不当要求を、販売員や従業員に突きつける「カスハラ」は、近年増え続けています。国による対策も動き始め、消費者庁は2021年2月に、「消費生活相談における相談対応困難者(いわゆるクレーマー)への対応マニュアル」を作成しました。さらに、厚生労働省では今後カスハラに類する「悪質なクレーム」について、企業がとるべき対策を指針で明示する予定です。
今回の調査により、新型コロナ禍に関係なくカスハラが増加している中で、企業の対応が進んでいないという問題が明らかになりました。今後企業のカスハラ対応には、研修の実施のほか対応方針の明確化など、企業としての方針を示すことで従業員を守る、組織的な対応が求められています。
主な調査結果・ポイント
- 新型コロナ禍に関係なくカスハラは増加傾向。「新型コロナ禍の影響でカスハラが増えている」と感じているのは約2割。
- 直近2年間で、サービス業(学校・教育産業)で働く人は平均してカスハラが約8割増加していると感じており、最大で500%増加していると感じている人も。
- 新型コロナに関連するカスハラの中で「従業員の対応」についてカスハラを受けたことがある人は約4割。
- 顧客対応全般に関するマニュアルを作成していると回答している人はわずか3割。
- カスハラ対応を行う上での課題は「対応者個人の対応力のスキルアップ」(36.4%)、「対応できる人材の育成」(32.9%)、「具体的な対応マニュアルの整備」(24.7%)。
- カスハラ対応方針を明確に打ち出していると回答した人はわずか11%。
- カスハラ顧客への対応によって、「ストレス増加」の影響があると感じる人は88.5%。
調査概要
- 調査期間:2021年2月26日~27日
- 調査対象:全国の20代から60代の男女
- 調査対象職種:営業・販売、一般事務、専門職、総務・人事、カスタマーサポート、顧客管理・品質管理、技術・設計、情報処理システム、生産・製造等
- 対象条件:企業でクレーム対応を行った経験のある会社員1,030人
- 調査方法:インターネット
- 調査協力会社:マクロミル
当社の「カスタマーハラスメント」の定義
職場において行われる、又は業務に関して行われる(1)優越的な関係を背景とした顧客(法人等の取引先を含む)の言動で、(2)業務上又は社会通念上相当の範囲を超えて行われ、(3)担当者の就業環境や業務推進を阻害し、又は担当者の尊厳を傷つける行為
例:
- 顧客として優遇を求めることを目的とする言動(優越的地位の濫用)
- 「俺は客だ」、「お客様は神様だろう」、「お金を払っているんだから、やって当然」、「対応次第では、今後の取引を考える」等の発言、難癖付けて値引きを要求、「客の言うことを信用できないのか」と質問を遮断する行為 等
調査結果
(1)新型コロナ禍に関係なくカスハラは増加傾向。「新型コロナの影響でカスハラが増えている」と感じているのは約2割。
カスハラが減ったという人はわずか5.7%で、過半数は「変わらない」との回答でした。一方で、「増えている」と感じている人も4割弱で、増加傾向が認められました。新型コロナ禍で増加しているとの回答は2割強という結果となりました。
■カスハラ増加の要因はストレスや消費者の意識の変化、在宅時間の増加が考えられる。
新型コロナに関係のない社会変化をはじめ、在宅時間の増加や新型コロナ禍におけるストレスも、カスハラの要因だと多くの人が感じていることがわかります。
【自由記述より一部抜粋】
- 過度な報道によりカスタマーサービスへの要求度が上がり権利主張がおかしな人が多くなっている。
- 新型コロナの影響も少なからずあるとは思うが、それ以外にも高齢者のクレームがかなり増えている様に思われる。
- 主に量販店向け食品製造業界だが在宅の時間が増え、商品の使用頻度が増えた一方で、その分クレーム件数も増えているのではないかと感じる。
- 機械化が進み、操作がわからずにイライラしてしまうお客様が店員にあたることが増えたり、コロナ禍で人出が減り待つことに抵抗を覚えてしまったことにあると思います。
- ストレスのはけ口として購入元や取引先に対して執拗なクレームを言ってくる人が増えた
■直近2年間でカスハラが増加傾向にあると感じているのは31.7%。
新型コロナの流行前後の比較として、「新型コロナ禍以前から増加しており、直近2年間で更に増加した」とする回答は17.7%でした。一方で、「新型コロナ禍以前はそれほど増加していなかったが、直近2年間で増加した」とする回答は、14.0%でした。カスハラの増加に関しては、新型コロナの影響は限定的であったと考えられます。
例)20%増加した場合は「20%」とご回答ください。(n=1030)
(2)直近2年間で、サービス業(学校・教育産業)で働く人はカスハラが平均して約8割増加していると感じており、最大で500%増加していると感じている人も。
サービス業(学校・教育産業)では、感覚値で「最大500%になった」と回答した人も。平均値ではサービス業(学校・教育産業)79.50%、サービス業(旅館・宿泊所・娯楽業)51.25%、サービス業(医療・介護・薬事)44.72%とサービス業において高い傾向がみられました。
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(3)新型コロナに関連するカスハラの中で「従業員の対応」についてカスハラを受けたことがある人は約4割。
新型コロナに関するカスハラとしては、「従業員の対応」に関するものが最も多く、約4割を占めています。従業員の対応等に難癖を付けて、カスハラに発展している傾向が顕著といえます。その他では、「商品」に関するものが、約3割と続いています。
(4)顧客対応全般に関するマニュアルを作成していると回答している人はわずか3割。
顧客対応全般に関するマニュアルを作成していると回答している人は31.7%で、第1回目の調査時と変わらず、企業において顧客対応マニュアルの作成は進んでいない(第1回、第2回調査ともに過半数が未整備である)ことが明らかになりました。カスハラの増加や新型コロナの流行に伴うビジネススキームの変更等で顧客対応の在り方にも変化が求められる中、改めて顧客対応マニュアルの整備が課題となっているといえます。
■勤務している企業ではマニュアルを策定していると回答した人のうち、内容が十分なカスハラに対応したマニュアルを作成しているのはわずか3割。
顧客対応マニュアルを整備していると回答した人の中ではカスハラ対応についても盛り込まれていると回答した人が8割を超えていますが、カスハラへの対応について詳細かつ十分な内容が書かれていると回答した人は、3割強でした。企業としての対応方針や対応マニュアルの整備がまだまだ不十分であることが明らかになりました。
(5)カスハラ対応を行う上での課題は「対応者個人の対応力のスキルアップ」(36.4%)、「対応できる人材の育成」(32.9%)、「具体的な対応マニュアルの整備」(24.7%)。
第1回目の調査から上3項目は変わらず、企業の対応が依然として個人のスキルに頼っている実態と、対応力のある人材の育成に多くの企業が課題を感じていることが明らかになりました。また、2021年の第2回調査では、「具体的な対応マニュアルの整備」が第3位にランクインしており、2019年の第1回調査以降、カスハラ対策を行った企業も、具体的な内容の整理・策定の点で課題を抱えていることが分かりました。
■カスハラ顧客対応に困ったときに「社内にいる顧問やベテラン社員」に相談する人が約4割と最多。
2021年の調査結果では、「社内にいる顧問やベテラン社員」に相談するという人が4割を超えており、現場でカスハラに直面する中で、企業内でのカスハラ対応に関する相談体制は実務的には整備されつつあるものの、依然として社内の知見に頼っている実態が浮き彫りになりました。
(6)カスハラ対応方針を明確に打ち出していると回答した人はわずか11%。
「カスタマーハラスメント」に関しては明確な定義や行為類型はなく、企業や論者によりまちまちの状況です。企業においても、自社でいうカスハラはどのようなものをいうのか、どのような姿勢で臨むのか等、カスハラ対応方針を明確に打ち出している企業に属していると回答した人は、わずか11%でした。実際の現場ではまだまだ従業員がカスハラ被害に遭っている可能性が高いことが示唆されています。
定義の作成について検討・着手しておらずコンセンサスも取れていないと回答した人は72.2%にも上っており、多くの企業では、カスハラ指針の策定の取り組みが進んでいないことが明らかになりました。カスハラの「定義も類型も明文化されている」と回答した人はわずか4.9%であり、顧客対応マニュアルにおいて、カスハラの対応要領を盛り込んでいるとする企業も、その定義や行為類型が曖昧な状況では、現場で何がカスハラなのか判断できないことから、その実効性は疑わしい状況にあるといえます。
■カスハラ対応に関する研修を直近1年間で行ったことがあると回答した人はわずか7.6%。
「そもそも研修やOJTのような教育制度がない」という回答が最も多く、カスハラ対応に関する研修を1度も行ったことがないと回答している人は、42.8%にも上っています。仮に顧客対応マニュアルにカスハラ対応方針が定められていても、研修を行っていなければ、現場での実際の対応は難しく、まだまだ企業としてのカスハラ対応の体制が不十分であることが浮き彫りになりました。
(7)カスハラ顧客の対応によって、「ストレス増加」の影響があると感じる人は88.5%。
ストレス増加の影響があると感じる人が合計88.5%、「業務遅延」の影響があると感じる人は合計79.4%、「退職リスク」の影響があると感じる人も合計53.5%に上りました。
■対応策として、現場からは窓口の充実化やマニュアル策定の充実化を求める声があがった。
【自由記述より一部抜粋】
- 相談できる先を明示し具体的な対応を相談できる体制を作ってほしい。
- 市町村、警察などでの相談窓口の設置。
- カスタマーハラスメント事例の共有、会社としてどう対応するのが正解なのか方針を示してほしい
- 反社ではない(と思われる)一般契約者の精神論ではない、実践的なカスタマーハラスメント対応方法
- カスタマーハラスメントという認識が無い人が多い。クレームする人も、受ける人も分からずに堂々めぐりになっており同じ事を繰り返している。いつまでも顧客に寄り添った奉仕の精神では無理だし、新しいスタッフも育って行かないので、まずはこのハラスメントをみんなに知って欲しいです。
調査を踏まえてのカスハラに対する当社の見解
コロナ禍でのカスハラの増加については限定的であったものの、カスハラは増加傾向にある。そのような状況の中で、カスハラの定義や行為類型の整備、カスハラ対応ポリシーの公表、顧客対応マニュアルの整備やマニュアルにおけるカスハラへの具体的な対応要領の明記、カスハラや不当要求対応に関する研修の実施等、企業のカスハラ対応体制の整備には大きな課題が依然として存在していることが明らかになった。
カスハラの業務への影響は、2019年調査、2021年調査ともに上位3位は同じであり、ストレスの増加や仕事意欲の低下等、従業員のメンタル面に大きな影響を及ぼすことはもはや周知の事項といえる。理不尽なカスハラから従業員を守り、働きやすい職場環境を整備していく上でも、カスハラ対策は必須であり、対策の不備は安全配慮義務違反等の問題にもなりかねないリスクがある。
経営者はカスハラから従業員を守るという強い決意を持ち、具体的かつ抜本的なカスハラ対策を推進していく必要がある。自社の知見のみならず、専門家の知見も積極的に吸収し、従業員にそのノウハウを共有し、組織一丸となって、カスハラに対応していくべきである。カスハラや不当要求に対する研修がコストを理由になされなかったり、内製化されたりするケースが少なくないが、カスハラ対策はコストではなく、従業員を守るための不可欠な投資である。今や「お客様は神様」だけではない。働き方改革等で、働きやすい職場の推進が重視される中、従業員を守るために、経営者としての強い決意として、カスハラ対策を推進していかなければならない。
なお、現状においては、実際のカスハラ対応に当たって、いざ警察対応すべき段階に至っても、特に業務妨害・強要等での事件化は容易ではない。警察対応・事件化は、企業等、カスハラ対応に晒される現場としては、「最後の砦」である。もはや、カスハラが従業員のメンタルへの影響を及ぼし、業務遅延を招くことは明白であり、継続的になされるカスハラは、企業等に必要以上の負担を強いて、正当な業務を妨害しているに等しい。警察・検察当局には、消極的な事件処理により、カスハラを助長しないよう、社会的使命と正義感を踏まえた、適切な事件化、取扱いを強く望む次第である。
(参考)当社が考えるカスハラに当たりうる行為類型例
- 顧客として優遇を求めることを目的とする言動(優越的地位の濫用)
- 「俺は客だ」、「お客様は神様だろう」、「お金を払っているんだから、やって当然」、「対応次第では、今後の取引を考える」等の発言
- 「不買運動を起こす」、「ネットで炎上させる」、難癖付けて値引きを要求、「客の言うことを信用できないのか」と質問を遮断する行為
- 不当・過剰・法外な要求、社会通念上相当の範囲を超える対応の強要、コンプライアンス違反の強要
- 対価的に相当な範囲を超えた要求、特別の利益や便宜の供与を求める要求、法令違反(違法行為)の内容への対応要求。
- 暴行・傷害、強要・恐喝・脅迫、不退去、器物損壊、威力・偽計業務妨害、名誉棄損等の刑法犯、一方的主張の繰り返し
- 職務妨害行為(就業環境又は業務推進阻害行為)
- 長時間に渡る担当者の拘束、その場で解決できない事象への即時対応要求、正当性のない担当者の交代要求、虚偽の申し立て
- 就業時間後の拘束、他業務実施の妨害、義務なき文書の提出要求、大声を出す、暴れる等の施設の平穏を害する言動
- 同一・類似案件への執拗な対応(回答)要求・電話、業務上必要な機器等を壊したり奪ったりする行為、従業員の警告を無視
- 担当者の尊厳を傷つける行為(人格否定・意思決定権の侵害)
- 暴言、誹謗中傷、個人的な責任追及(賠償・補償要求)、個人情報の晒し等をちらつかせること、無許可での撮影・録音。
- 土下座や人格・尊厳を傷つける行為の強要(セクハラ、性的自由の侵害を含む)、SNS等による連絡・返信要求・強要。
- 職場や通勤経路、自宅での待ち伏せ等恐怖を与える行為、必要以上の連絡先・個人情報等開示の要求、その他の嫌がらせ行為。
※修正のお詫び……「調査概要」欄の調査期間に誤りがありました。
謹んでお詫びするとともに、訂正いたします。(2021年6月29日)
調査期間:2021年3月25日~26日
↓
調査期間:2021年2月26日~27日